特許第6352933号(P6352933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352933
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】自動注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20180625BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20180625BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   A61M5/20 510
   A61M5/20 550
   A61M5/315 550E
   A61M5/32 502
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-537186(P2015-537186)
(86)(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公表番号】特表2015-532157(P2015-532157A)
(43)【公表日】2015年11月9日
(86)【国際出願番号】EP2013070584
(87)【国際公開番号】WO2014060216
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年9月23日
(31)【優先権主張番号】12189092.5
(32)【優先日】2012年10月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】チャーリー・ヘンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・クロス
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス・イヴァン・ジェニングス
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・アントニー・マッギンリー
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−516895(JP,A)
【文献】 特開2005−261855(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/085028(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/123024(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/142598(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/072568(WO,A1)
【文献】 特表2012−501705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20− 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を投与するための自動注射器(1)であって、
注射針(11)を含むパッケージ化シリンジ(3)を受けるように配置され、後ケース(5)に回転可能に連結された前ケース(4)を含むケース(4、5)と、
プランジャ(16)をパッケージ化シリンジ(3)に対して前進させるように配置された駆動ばね(15)と、
一方の回転方向での前ケース(4)に対する後ケース(5)の回転をプランジャ(16)の並進運動に変換し、プランジャ(16)を後退させ、そして駆動ばね(15)を圧縮させるように配置された、駆動ばね(15)のリセット機構とを含む、前記自動注射器(1)。
【請求項2】
プランジャ(16)はねじ付伸長部(16.5)を含み、スクリュナット(23)がねじ付伸長部(16.5)に解放可能に係合するように後ケース(5)に配置されて、後ケース(5)を前ケース(4)に対して回転させることにより、プランジャ(16)が後退可能であるようになっている、請求項1に記載の自動注射器(1)。
【請求項3】
スクリュナット(23)は、後ケース(5)内の少なくとも1つのラチェット駆動機能(5.1)に連結されたラチェットホイール(23)として配置され、これにより、一方の回転方向ではラチェットホイール(23)を後ケース(5)に連結し、反対の回転方向では後ケース(5)に対するラチェットホイール(23)の回転を可能にする、請求項2に記載の自動注射器(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの解放クリップ(24)はスクリュナット(23)内に配置され、付勢されてねじ付伸長部(16.1)に係合する、請求項2または3に記載の自動注射器(1)。
【請求項5】
解放クリップ(24)は、トリガスリーブ(8)がケース(4、5)に対して近位方向(P)に並進運動するときにねじ付伸長部(16.5)を解放するように配置される、請求項4に記載の自動注射器(1)。
【請求項6】
後ケース(5)および前ケース(4)は、駆動ばね(15)をリセットするための回転方向を示す方向記号(4.4、5.3)を有するそれぞれのサムレスト(4.3、5.2)を含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載の自動注射器(1)。
【請求項7】
シリンジ(3)を保持するためのシリンジキャリア(9、14)と、針挿入のために該シリンジキャリア(9、14)をケース(4、5)に対して前進させるように配置された制御ばね(17)とをさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動注射器(1)。
【請求項8】
プランジャ(16)は、後退されたときにシリンジキャリア(14、9)に連結され、シリンジキャリア(14、9)がケース(4、5)に対して所定の位置まで前進されたときにシリンジキャリア(14、9)から解放される、請求項7に記載の自動注射器(1)。
【請求項9】
制御ばね(17)は、少なくともケース(4、5)に対するトリガスリーブ(8)の位置に応じて、シリンジキャリア(9、14)またはトリガスリーブ(8)に動作可能に連結された制御カラー(18)に対して遠位に支承する、請求項7または8に記載の自動注射器(1)。
【請求項10】
解放時に可聴および/または触覚フィードバックをユーザに対して発生することのできる解放可能なノイズロッド(21)が設けられ、該ノイズロッド(21)は、ストッパ(13)がシリンジ(10)の遠位端付近にあるシリンジ(10)に対する位置にプランジャ(16)が到達したときに解放されるように配置される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の自動注射器(1)。
【請求項11】
パッケージ化シリンジ(3)はシリンジケース(6)を含み、保護キャップ(19)は該シリンジケース(6)上に配置可能であり、キャップ(19)は、針(11)を保護するためにトリガスリーブ(8)内および保護ニードルブーツ(12)上に配置可能な内部スリーブ(19.1)を有し、ジョイント軸方向並進運動のため、保護ニードルブーツ(12)に係合可能な内部スリーブ(19.1)にバーブ(20)が取り付けられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の自動注射器(1)。
【請求項12】
タイムスタンプされたユーザ動作を記憶し、外部データベースとデータを交換するために、制御ユニット(26)が配置される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の自動注射器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を投与するための自動注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
注射の投与は、ユーザおよび医療従事者にとって、精神的にも身体的にもいくつかの危険および課題をもたらすプロセスである。注射デバイスは、一般的に、手動デバイスおよび自動注射器の2つのカテゴリーに分類される。従来の手動デバイスでは、ユーザが力を与えて薬剤を針に通さなければならない。これは、一般的に、ある形のボタン/プランジャによって行われ、注射の間、このボタン/プランジャを押し続けなければならない。この手法には、ユーザにとって多くの欠点がある。たとえば、ユーザがボタン/プランジャを押すのを止めると、注射が止まり、意図した用量が患者に送達されないおそれがある。さらに、ボタン/プランジャを押すのに必要な力が、ユーザ(例えば、ユーザが高齢の場合)にとって大きすぎるおそれがある。そして、注射デバイスの位置合わせ、注射の投与、および注射の間の注射デバイスの維持には器用さが必要とされ得るが、このような器用さを持たない患者もいる(たとえば、高齢患者、小児患者、関節炎の患者等)。
【0003】
自動注射デバイスは、患者がより容易に自己注射を行えるようにすることを目的とする。従来の自動注射器は、注射を投与するための力をばねによって加えることができ、トリガボタンまたは他の機構を使用して注射を起動することができる。自動注射器は、単回使用デバイスまたは再利用可能デバイスであってよい。
【0004】
電気機械再利用可能自動注射器は、シリンジまたはカートリッジをユーザにより装填可能な電気機械再利用可能デバイスを含むことができる。電気機械再利用可能デバイスを使用して複数の非経口薬物の送達を行うことができるが、シリンジまたはカートリッジは使い捨てである。シリンジまたはカートリッジは、追加の機能をもたらすための追加の部材と共にパッケージ化され得る。
【0005】
改良された自動注射器が依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改良された自動注射器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例示的な実施形態において、本発明による自動注射器は、注射針を含むパッケージ化シリンジを受けるように配置されたケースを含む。ケースは、後ケースに回転可能に連結された前ケースを含む。自動注射器は、プランジャをシリンジに対して前進させるように配置された駆動ばねと、後ケースが前ケースに対して回転されたときに、プランジャを後退させ、駆動ばねを圧縮させるように配置された、駆動ばねのリセット機構とをさらに含む。
【0008】
例示的な実施形態において、プランジャはねじ付伸長部を含み、スクリュナットがねじ付伸長部に解放可能に係合するように後ケース内に配置されて、後ケースを前ケースに対して回転させることにより、プランジャが後退可能であるようになっている。
【0009】
例示的な実施形態において、スクリュナットは、後ケース内の少なくとも1つのラチェット駆動機能に連結されたラチェットホイールとして配置され、これにより、一方の回転方向ではラチェットホイールを後ケースに連結し、反対の回転方向では後ケース内におけるラチェットホイールの回転を可能にする。
【0010】
例示的な実施形態において、少なくとも1つの解放クリップはスクリュナット内に配置され、付勢されてねじ付伸長部に係合する。
【0011】
例示的な実施形態において、解放クリップは、トリガスリーブがケースに対して近位方向に並進運動するときにねじ付伸長部を解放するように配置される。
【0012】
例示的な実施形態において、後ケースおよび前ケースは、駆動ばねをリセットするための回転方向を示す方向記号を有するそれぞれのサムレスト(thumb rests)を含む。
【0013】
例示的な実施形態において、バッテリにより電力供給される電動モータが、プランジャを後退させるために配置される。
【0014】
例示的な実施形態において、ギア列が、電動モータの回転をプランジャの直線運動に変換するように配置され、ギア列はラック(16.6)およびピニオンギアを含む。
【0015】
例示的な実施形態において、ギア列は、プランジャを近位方向に後退させるためにモータをプランジャに連結させ、かつプランジャが遠位方向に動かされるときにプランジャをモータからデカップリングさせるクラッチを含む。
【0016】
例示的な実施形態において、自動注射器は、シリンジを保持するためのシリンジキャリアと、針挿入のためにシリンジキャリアを前進させるように配置された制御ばねとをさらに含む。
【0017】
例示的な実施形態において、プランジャは、少なくともほぼ完全に後退されたときにシリンジキャリアに連結され、シリンジキャリアがケースに対して所定の位置まで前進されたときにシリンジキャリアから解放される。
【0018】
例示的な実施形態において、制御ばねは、少なくともケースに対するトリガスリーブの位置に応じて、シリンジキャリアまたはトリガスリーブに動作可能に連結された制御カラーに対して遠位に支承する。
【0019】
例示的な実施形態において、解放時に可聴および/または触覚フィードバックをユーザに対して発生することのできる解放可能なノイズロッドが設けられ、ノイズロッドは、ストッパがシリンジの遠位端付近にあるシリンジに対する位置にプランジャが到達したときに解放されるように配置される。
【0020】
例示的な実施形態において、パッケージ化シリンジはシリンジケースを含み、保護キャップがシリンジケース上に配置可能であり、キャップは、針を保護するためにトリガスリーブ内および保護ニードルブーツ上に配置可能な内部スリーブを有し、ジョイント軸方向並進運動のため、保護ニードルブーツに係合可能な内部スリーブにバーブ(barb)が取り付けられる。
【0021】
例示的な実施形態において、タイムスタンプされたユーザ動作を記憶し、外部データベースとデータを交換するために、制御ユニットが配置される。
【0022】
自動注射器は、技術的な訓練または器用さを最小限しか必要とせず、したがって訓練された臨床医の存在を必要としない、患者が自分で薬物を注射するための手段を提供する。
【0023】
自動注射器は、一般的に、充填済みシリンジまたはカートリッジを取換え可能に受けるように配置され得る。そして、以前は臨床医によって行われていた作業が、患者と自動注射器とに分担される。一般的に、患者は自動注射器を皮膚に位置させて注射プロセスを開始する。その後、自動注射器は、針を患者の皮膚に挿入し、プランジャを押し下げて薬物を投薬した後、針を取り出し、結果として得られるアセンブリが針安全(needle safe)となるようにする。
【0024】
機械または電気機械リセットを伴う再利用可能機械自動注射器は、充填済みシリンジまたはカートリッジが、ユーザ、ばね作動針挿入、および薬物投薬により装填され得る機械再利用可能デバイスと、ばねをリセットする機械または電気機械、たとえばモータ駆動機構とを含むことができる。
【0025】
本発明による自動注射器は、特に簡単で小型である。使い捨てパッケージ化シリンジを有する再利用可能デバイスは、廃棄物の量を減らすことができ、したがって環境への影響が少ない。
【0026】
以下に述べる詳細な説明から、本発明の適用性のさらなる範囲が明らかになろう。しかしながら、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、例としてのみ挙げられたものであることを理解されたい。本発明の精神および範囲内における種々の変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明らかになるからである。
【0027】
本発明は、例示の目的のみで挙げられ、したがって本発明を限定するものではない、以下の詳細な説明および添付図面からより完全に明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】使用前の自動注射器の斜視断面図である。
図2】保護キャップの取外し後の自動注射器の斜視断面図である。
図3】トリガスリーブが押し下げられた自動注射器の斜視断面図である。
図4】注射針が延びた自動注射器の斜視断面図である。
図5】プランジャが前進されて薬物を投薬する、自動注射器の斜視断面図である。
図6】薬物送達終了時の自動注射器の斜視断面図である。
図7】注射部位から取り外した後の自動注射器の斜視断面図である。
図8】パッケージ化シリンジの取外し後の、自動注射器の再利用可能デバイスの斜視断面図である。
図9】自動注射器の代替実施形態の斜視断面図である。
図10】自動注射器の例示的な実施形態の斜視図である。
図11】ラチェット機構の実施形態の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
すべての図において、対応する部材を同一の参照符号で示す。
【0030】
図1は、自動注射器1の例示的な実施形態の斜視断面図である。自動注射器1は、再利用可能デバイス2と使い捨てパッケージ化シリンジ3とを含む。再利用可能デバイス2は、基本的に円筒形の前ケース4と基本的に円筒形の後ケース5とを含む。
【0031】
パッケージ化シリンジ3は、基本的に円筒形のシリンジケース6を含む。シリンジケース6および前ケース4は、ばね連結7により連結されるように適用される。代替実施形態では、シリンジケース6および前ケース4が異なる方法で、たとえばバヨネットフィット、スナップフィット等により同様に連結され得る。
【0032】
パッケージ化シリンジ3は、シリンジケース6内に嵌め込み式にされたトリガスリーブ8を含む。基本的に管状の前シリンジキャリア9が、トリガスリーブ8内に嵌め込み式にされる。中空注射針11を有するシリンジ10、たとえば標準の1mlシリンジまたはHypakシリンジが、シリンジキャリア9内に配置される。シリンジ10は、シリンジキャリア9に対して軸方向にロックされる。このために、シリンジキャリア9は、シリンジ10をその遠位端で支持するためのカラー9.1を組み込む。パッケージ化シリンジ3が組み立てられると、保護ニードルブーツ12が針11に取り付けられる。シリンジ10を近位に密閉し、かつ針11を通して液体薬剤Mを変位させるために、ストッパ13が配置される。
【0033】
例示的な実施形態において、トリガスリーブ8に加えて電子皮膚接触センサを配置してもよい。皮膚接触センサは、さらなる機能をもたらし、自動注射器1の制御ユニット26と連通して正確な皮膚接触を表示することができる。
【0034】
前シリンジキャリア9は、シリンジケース6内の止め具に当接する弾性梁9.2によって、シリンジケース6にロックされる。
【0035】
図1に示すように送達された状態で、保護キャップ19がシリンジケース6の遠位端に取り付けられ、保護ニードルブーツ12は、針11およびニードルハブ上の定位置にある。キャップ19の内部スリーブ19.1が、トリガスリーブ8内および保護ニードルブーツ12上に配置される。内部スリーブ19.1内に、バーブ20が取り付けられる。バーブ20は、ジョイント軸方向並進運動のために保護ニードルブーツ12に係合される。キャップ19は、トリガスリーブ8の開口に埃が入らないように保護し、トリガスリーブ8を覆って、意図しない起動および針刺し損傷に対してユーザを保護する。保護ニードルブーツ12は、剛性ニードルシールドまたはゴム製ニードルシールドとして配置されていてもよい。
【0036】
パッケージ化シリンジ3の機械機能により、パッケージ化シリンジ3を標準シリンジと区別することができ、再利用可能デバイス2が誤った種類のシリンジと共に使用されることを防止して、意図した薬物が自動注射器1と共に確実に使用されるようにする。
【0037】
後シリンジキャリア14は、再利用可能デバイス2の前ケース4内に嵌め込み式にされる。圧縮ばねの形の駆動ばね15が、後シリンジキャリア14内に配置される。プランジャ16は、駆動ばね15からストッパ13へ力を送るように機能する。プランジャ16は、相対回転を防止するが相対軸方向並進運動を可能にするように、前ケース4にキー止めされる。
【0038】
駆動ばね15は、後シリンジキャリア14の近位端カラー14.1と、プランジャ16に配置されたスラスト面16.1との間に装填される。
【0039】
前ケース4は近位端面4.1を含み、プランジャ案内ケースワーク(casework)4.2が近位端面4.1から遠位方向Dに延びる。プランジャ16の内部ピストンロッド16.2は、プランジャ案内ケースワーク4.2内に嵌め込み式にされる。いくつかの弾性プランジャアーム16.3がプランジャ案内ケースワーク4.2の外方へ延びる。スラスト面16.1はプランジャアーム16.3上に配置される。各プランジャアーム16.3上の近位クリップ16.4が、後シリンジキャリア14の近位端カラー14.1の近位後方に最初に配置される。近位クリップ16.4および近位端カラー14.1は傾斜係合されて、駆動ばね15の力により係合解除され得るようになっている。しかしながら、図1に示す最初の状態では、プランジャアーム16.3は、プランジャ案内ケースワーク4.2によって互いに向かって内方へ曲がらないようになっている。近位端カラー14.1後方のプランジャアーム16.3の係合により、後シリンジキャリア14に対するプランジャ16の軸方向並進運動を防止する。
【0040】
別の圧縮ばねの形の制御ばね17が、後シリンジキャリア14上に配置され、前ケース4内の止め具と遠位制御カラー18との間に最初に作用する。図示した実施形態では、前ケース4内の止め具は、クリップ4.6により設けられる。矢じり18.1の形の弾性部材が、制御カラー18上に遠位に配置される。矢じり18.1を有する制御カラー18は、圧縮された制御ばね17の負荷により遠位方向Dに押されている。矢じり18.1の外向きの斜面がトリガスリーブ8に当接して矢じり18.1を内方へ傾斜させ、これは、矢じり18.1が前シリンジキャリア9に内向きに当接することによって防止される。したがって、制御カラー18は近位方向Dに並進運動することができない。代わりに、制御カラー18は制御ばね17をトリガスリーブ8に連結することにより、図1に示すように、トリガスリーブ8を遠位方向Dに伸長位置へ向けて付勢する。
【0041】
ノイズロッド21が、ピストンロッド16.2の中空部分内に嵌め込み式にされる。ノイズばね22は、ノイズロッド21をピストンロッド16.2に対して近位方向Pに付勢するように配置される。
【0042】
後ケース5は、前ケース4に対して回転可能に配置される。ピストンロッド16.2のねじ付伸長部16.5は、近位端面4.1を通って後ケース5内に延びる。ラチェットホイール23が、後ケース5内でねじ付伸長部16.5の周りに配置される。ラチェットホイール23は、ラチェットホイール23をねじ付伸長部16.5に解放可能に係合させるための2つのばね懸架式解放クリップ24を含み、図1に示すように、それぞれのクリップばね25が解放クリップ24を係合位置に付勢する。ラチェットホイール23は、後ケース5内のいくつかのラチェット駆動機能5.1に係合された周方向歯部23.1(図11参照)を呈する。後ケース5が前ケース4に対して時計方向の回転方向Cに回転されると、ラチェット駆動機能5.1がラチェットホイール23の歯部23.1に係合して、ラチェットホイール23が後ケース5と共に回転するようになっている。ピストンロッド16.2のねじ付伸長部16.5に係合された解放クリップ24は、ピストンロッド16.2およびプランジャ16全体を近位方向Pに引くことにより、駆動ばね15をリセットする。ラチェット駆動機能5.1により、プランジャ16が遠位方向Dに戻ることなく、ユーザは回転方向を変えることができる。反時計方向の回転時に、ラチェット駆動機能5.1がラチェット歯部23.1により外方へ偏向され、歯に係合せずに歯を跳び越えるからである。したがって、ユーザは、より不便ないくつかの全回転の代わりに、比較的小さい角度周りの一連の逆転によって、駆動ばね15をリセットすることができる。それにもかかわらず、代替実施形態では、後ケース5を、ラチェット機構なしでねじ付伸長部16.5に解放可能に係合するように配置して、後ケース5が駆動ばね15をリセットするために完全に回転する必要があるようにしてもよい。
【0043】
さらに、プリント回路基板上の制御ユニット26およびバッテリ27が後ケース5内に配置される。たとえばタイムスタンプされたユーザ動作を記憶することによって、制御ユニット26を服薬遵守監視に使用することができる。自動注射器1は、不適切な時間に注射を開始しようとしてユーザの認証に失敗した場合には、自動的に動作が防止されて、患者の遵守をもたらすことができる。同様に、制御ユニット26は、皮膚接触、シリンジの存在および/または自動注射器1の正確な組立てを検出するためのセンサと通信することができる。制御ユニット26は、皮膚に接触していないときに自動注射器1の動作を防止するように適用され得る。制御ユニット26と外部データベースとの通信は、有線でも無線でもよい。
【0044】
シリンジ10およびその内容物の検査を可能にするために、観察窓30がシリンジケース6内に配置される。
【0045】
自動注射器1の例示的な一連の動作は以下の通りである:
【0046】
ユーザは、充填済みパッケージ化シリンジ3を冷蔵庫から取り出して、再利用可能デバイス2に係合させることができる。
【0047】
図1は、使用前の自動注射器1の斜視断面図である。パッケージ化シリンジ3は、再利用可能デバイス2の前ケース4内に螺着される。駆動ばね15がリセットされる。パッケージ化シリンジ3および再利用可能デバイス2を組み立てると、前シリンジキャリア9および後シリンジキャリア14が、例えばねじ連結、スナップフィット、バヨネットフィット、締まりフィット、または他の適切な手段によって共に連結される。ユーザは、保護キャップ19をシリンジケース6の遠位端から引くことができる。バーブ20は保護ニードルブーツ12をキャップ19に接合する。したがって、キャップ19を取り外したときに、保護ニードルブーツ12も取り外される。前シリンジキャリア9の梁9.2がシリンジケース6に当接するので、ブーツの取外し中に前シリンジキャリア9、シリンジ10、および針11は定位置にとどまり、針11が露出されないようになっている。図2は、キャップ19およびニードルブーツ12が取り外された自動注射器1を示す。
【0048】
ユーザは好ましい注射部位を見つけ、消毒スワブを当てて注射部位を消毒することができる。
【0049】
ユーザは自動注射器1をつかんで、遠位端Dでシリンジケース6から突出するトリガスリーブ8を注射部位、たとえば患者の皮膚に当てる。自動注射器1が注射部位に対して押し付けられると、トリガスリーブ8は、図3に示すように、シリンジケース6に対して近位方向Pに後退位置へ並進運動する。制御カラー18はトリガスリーブ8に連結されることにより、同様に近位方向Pに動いて、制御ばね17をわずかに圧縮する。トリガスリーブ8が押し下げられると、たとえば図示した部分から周方向に少し離れて配置されたスリーブ8の斜面(図示せず)によって梁9.2が偏向され、梁9.2の端部の突起がシリンジケース6を係合解除して、トリガスリーブ8のスロットに入り、前シリンジキャリア9の遠位方向Dへの動きが防止されなくなる。
【0050】
ユーザが、図3に示す位置に到達する前に、自動注射器1を注射部位から離そうとすると、制御ばね17が拡張して、図2に示すように、自動注射器1をキャップ19の取外し後の最初の状態に戻す。
【0051】
トリガスリーブ8および制御カラー18が図3に示す位置に到達すると、制御カラー18の矢じり18.1は、前シリンジキャリア9によって内方へ支持されなくなる。矢じり18.1は、今度は、制御ばね17の負荷により内方へ偏向されて、制御カラー18をトリガスリーブ8からデカップリングする。代わりに、矢じり18.1が制御カラー18を前シリンジキャリアに連結する。したがって、制御ばね17は前シリンジキャリア9を遠位方向Dに動かす。
【0052】
前シリンジキャリア9を含む内部アセンブリ全体、後シリンジキャリア14、シリンジ10、針11、およびプランジャ16がジョイント軸方向並進運動のために連結されると、これらは全体として、制御ばね17により、シリンジケース6、前ケース4、および後ケースに対して動かされ、図4に示すように、針11が遠位端から突出して、注射部位に挿入される。針挿入深さは、トリガスリーブ8に当接する前シリンジキャリア9の梁9.2と、制御ばね17の近位端に当接する後シリンジキャリア14の近位端カラー14.1とによって画成される。プランジャ16が前進すると、ラチェット機構の解放クリップ24がねじ付伸長部16.5のねじ山を跳び越える。これは、ラチェット機構まで延びるトリガスリーブ8の部分によって有効となり得、トリガスリーブ8が延びると解放クリップ24の動きを阻止し、かつ/またはトリガスリーブ8が押し下げられると解放クリップ24を解放する。あるいは、ラチェット機構は、図11に示す機構を使用して解放クリップ24に対する前負荷の量を変化させるように適用されていてもよい。この修正されたラチェット機構では、内部ホイール32がラチェットホイール23内に回転可能に配置される。クリップばね25が内部ホイール32を通って延びて、ラチェットホイール23の内面23.2を解放クリップ24に係合させる。内面23.2は、内部ホイール32の外径に対応する略円形の横断面を有する2つの円形部分23.4を含む。内面23.2の2つの間隙23.3が、ラチェットホイール23の内径を局所的に増加させる。間隙23.3は、内面23.2の円形部分23.4に一回転方向に滑らかに移ることにより、ラチェットホイール23内での内部ホイール32の相対回転を可能にする。図11に示すようにクリップばね25が間隙23.3内に延びると、解放クリップ24への前負荷が比較的少なくなる。ユーザが後ケース5をねじると、ラチェットホイール23が内部ホイール32に対して回転して、クリップばね25が円形部分23.4内に入り、さらに圧縮されて、前負荷が増加する。リセットされると、後ケース5を部分的に反対に回転させることにより、前負荷が除去されるか、低減される。後ケース5のラチェット駆動機能5.1は、この負荷を分解するように十分に堅く配置され得る。
【0053】
プランジャ16が前進すると、近位クリップ16.4を有するプランジャアーム16.3は、クリップ16.4がプランジャ案内ケースワーク4.2によって内方に支持されなくなるまで動く。代わりに、プランジャ案内ケースワーク4.2のそれぞれの凹部4.3により、近位端カラー14.1に対する近位クリップ16.4の傾斜係合および駆動ばね15からの負荷による近位クリップ16.4の内方への偏向が可能になる。したがって、プランジャ16は後シリンジキャリア14から解放され、駆動ばね15により遠位方向Dに駆動されて、ストッパ13を押し、薬剤Mを注射する準備ができる。シリンジ10およびストッパ13を動かすために別個のばね15、17を使用することにより、自動注射器1は、針挿入中に薬物が針11から漏出する、いわゆるウェット注射(wet injection)を本質的に避ける。
【0054】
プランジャ16がストッパ13を動かす間、制御ばね17が制御カラー18を押すことによって、キャリア9、14の遠位方向Dへの動きが完了する。
【0055】
図5に示すように、ストッパ13がシリンジ10内で略最低位置に達した状態である、注射終了の直前に、ノイズロッド21が解放される。したがって、ノイズロッド21は近位方向Pに加速され、プランジャ16のねじ付伸長部16.5の近位端内の止め具に影響を与えて、注射が略終了したことを示す可聴および触覚フィードバックをユーザに対して発生させる。公差の積み上げ(stack up of tolerance)、中でもシリンジ10による公差の積み上げは、ノイズロッド21が注射終了前に常に解放されていなければならないことを要求する。そうでないと、部材のある組合せによって、ノイズロッド21が必ずしも解放しなくなる。ノイズロッド21の解放は、ピストンロッド16.2が、後シリンジキャリア14のプランジャ案内ケースワーク4.2の穴の中の機能と相互作用することによって引き起こされ得る。
【0056】
図6は、ストッパ13がシリンジ10内で完全に最低位置に達した状態の自動注射器1を示す。
【0057】
ユーザは、注射を終了したい場合、いつでもトリガスリーブ8を遠位方向Dに動かすことができなければならない。図7は、トリガスリーブ8がシリンジケース6の遠位端から突出するように遠位方向Dに動いた状態で、注射部位から持ち上げられた自動注射器1を示す。これにより、シリンジケース6により外方への偏向が予め防止されたトリガスリーブ8のクリップ8.1を凹部6.1の隣へ動かすことによって、矢じり18.1が外方へ傾斜され、前シリンジキャリア9を係合解除させ、トリガスリーブ8を再び係合させる。制御ばね17の遠位端は、今度はトリガスリーブ8に基礎が置かれ、トリガスリーブ8が図7のシリンジケース6に対してその最大伸長に達すると、制御ばね17の遠位端は、トリガスリーブ8の別のクリップ8.2を通して、シリンジケース6内に基礎が置かれる。このクリップ8.2は、矢じり18.1によって半径方向外方へ偏向されてシリンジケース6の別の凹部6.2に入る。これにより、自動注射器1は、シリンジケース6に係合された伸長トリガスリーブ8により針安全となる。
【0058】
図8は、パッケージ化シリンジ3の取外し後の、自動注射器1の再利用可能デバイス2の斜視図である。後ケース5は前ケース4に対して時計方向の回転方向Cに回転されることにより、プランジャ16を後退させ、駆動ばね15をリセットする。この位置で、対応するプランジャアーム16.3が後シリンジキャリア14の近位端カラー14.1の周りで偏向し、プランジャ16を後シリンジキャリア14に再び掛止する。後シリンジキャリア14は、この状態で、たとえば前ケース4への掛止または摩擦連結(図示せず)により近位方向Pへの動きが拘束される。プランジャ16が後シリンジキャリア14に再び掛止されると、図1図3に示すように、後シリンジキャリア14およびプランジャ16が前ケース4の近位端面4.1に戻るまで、リセット手順が継続する。パッケージ化シリンジ3が前ケース4から抜かれ、安全に廃棄され得る。針11がトリガスリーブ8内で後退されると、パッケージ化シリンジ3は鋭利器容器(sharps container)として機能する。再利用可能デバイス2は、新しいパッケージ化シリンジ3に連結される準備ができる。
【0059】
図9は、自動注射器1の代替実施形態の斜視断面図である。本実施形態では、駆動ばねが、後ケース5を前ケース4に対して手動で回転させるかまたはねじることによってリセットされるのではなく、ギア列29を駆動しピストンロッド16.2をラックピニオン式に後退させるモータ28を起動させることによってリセットされる。ピストンロッド16.2は、ギア29.1によって駆動されるラック16.6を含む。モータ28は、自動注射器1を皮膚から取り外した後にユーザによって始動される。モータの回転が、ラックピニオン装置(rack and pinion arrangement)により直線運動に変換されて、プランジャ16を引き戻し、駆動ばね15をリセットする。注射を開始するために自動注射器1が始動されると、ラック16.6が遠位方向Dに動いて、ギア列29のクラッチ(図示せず)を摺動させる。本実施形態では、第2のバッテリ27を配置してもよい。プランジャ16が完全に後退したか否かを評価してモータ28を停止させることができるようにするために、エンコーダ31がプランジャ16の位置を判定するように配置される。エンコーダ31は、スロット付ホイールおよび光電子カプラを含んでもよい。
【0060】
図10は、後ケース5を前ケース4に対してねじるかまたは回転させることによる手動リセットを伴う、自動注射器1の例示的な実施形態の斜視図である。後ケース5および前ケース4は、駆動ばね15をリセットするための回転方向を示す方向記号4.4、5.3を有するそれぞれのサムレスト4.3、5.2を含む。前ケース4は、前ケース4および後ケース5の正確な組立てを示すための目盛付きスケール4.5を含む。
【0061】
自動注射器1は、以下の理由から、常に針安全である:新しいパッケージ化シリンジ3が再利用可能デバイス2に連結されると、針11はニードルブーツ12および保護キャップ19により保護される。ニードルブーツ12は保護キャップ19と共に取り外されるが、針先端は注射までシリンジケース6内に完全に後退されたままである。自動注射器1が皮膚に接触している間のみ、針11が皮膚に貫入する。自動注射器1が皮膚に接触しなくなると、または注射プロセスの終了時に、トリガスリーブ8が自動的に前進して、針11を覆ってロックする。使用済みパッケージ化シリンジ3が抜かれて再利用可能デバイス2から取り外されると、トリガスリーブ8が伸長位置にロックして再び押し下げられ得ないため、パッケージ化シリンジ3を再び開けること、または展開することができない。この機能により、自動注射器1の使用時にユーザが損傷を受ける可能性を低下させることかできる。
【0062】
自動注射器1は、前に使用済みの、空の、または部分的に空のパッケージ化シリンジ3を用いて自動注射器1を動作させようとすることを検出するように配置されてもよい。これは、ユーザの損傷を防止するのに役立ち得る。
【0063】
自動注射器1は、医療提供者、家庭監視デバイス、または関係者(stakeholder)との連絡のための中央家庭ハブ(central home hub)からのデータベース等の外部データ処理デバイスと無線および/または有線通信するように配置されてもよい。この接続性(connectivity)により、注射が行われる毎に時間、日付、薬物、および患者を記録することによって、家庭での服薬遵守を向上させることができる。
【0064】
医療提供者との通信は、たとえば次の治療の自動再注文を可能にするサプライチェーンとの連絡、ユーザの認証、医療提供者からユーザへの商品回収の提案、都度払いの注文、たとえば家庭内診断に基づいて患者の症状を遠隔検討するため、ならびに/または治療スケジュール、用量、および薬物を遠隔調節するための臨床医用インターフェースを含むことができる。
【0065】
さらに、接続性によって以下が可能になり得る:
− 診断により検出される緊急の症状の通知
− 追加の用量または薬物の遠隔承認
− ユーザの家族用インターフェース
− 患者の症状の遠隔検討
− 服薬遵守監視/患者が薬剤を摂取していることの再確認
− 患者用インターフェース
− 治療スケジュールおよび診断の要約の遠隔検討
− 患者の感じ方をフィードバックするフォーラム
【0066】
上記実施形態で述べたすべての回転方向は、例としてのみ選択されたものであることは言うまでもない。たとえば右利きおよび左利きのユーザに対して異なる型を提供するために、回転方向は記載したものと反対であってもよい。
【0067】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0068】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0069】
インスリン誘導体は、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0070】
エキセンジン−4は、たとえば、H−His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−NH2配列のペプチドであるエキセンジン−4(1−39)を意味する。
【0071】
エキセンジン−4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H−(Lys)4−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)5−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
(ここで、基−Lys6−NH2が、エキセンジン−4誘導体のC−末端に結合していてもよい);
【0072】
または、以下の配列のエキセンジン−4誘導体:
desPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010)、
H−(Lys)6−desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Lys6−desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(S1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン−4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物
から選択される。
【0073】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0074】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0075】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0076】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0077】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0078】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C)と可変領域(V)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0079】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0080】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0081】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0082】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0083】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0084】
本発明の全範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載の装置、方法および/またはシステム、および実施形態の種々の部材の修正(追加および/または除去)を行うことができ、本発明の全範囲および精神にこのような修正およびすべての等価物が包含されることを当業者は理解するだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11