特許第6352947号(P6352947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352947
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】硬化性骨代替物の硬化改善
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20180625BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C01B25/32 W
   A61L27/00
   A61K45/00
   A61P19/08
【請求項の数】22
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-557483(P2015-557483)
(86)(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公表番号】特表2016-513064(P2016-513064A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014053330
(87)【国際公開番号】WO2014128217
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年2月15日
(31)【優先権主張番号】13155895.9
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/766,820
(32)【優先日】2013年2月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515226146
【氏名又は名称】ボーナ スーポート アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】エレンボルグ,クリスティーナ カロリナ ビクトリア
(72)【発明者】
【氏名】サンデル,ベロニカ レーベッカ
(72)【発明者】
【氏名】リデン,エヴァ クリスティーナ
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−265214(JP,A)
【文献】 特開平07−178158(JP,A)
【文献】 特表2005−537821(JP,A)
【文献】 特表2004−503332(JP,A)
【文献】 特表2006−519082(JP,A)
【文献】 特開平07−008549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B25/00−25/46
A61L27/00−27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト粉末(pHA)の調製方法であって、
a)化学式(Ca10(PO(OH))を有する900℃を上回る温度で焼結された焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(「未処理HA」)の粉末(粒径200μm未満(D(v、0.99)))を用意するステップと、
b)未処理HA粉末を300℃から900℃の間の温度で1時間から10時間の間加熱して、不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト粉末(pHA)を得るステップとを含む方法。
【請求項2】
焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(未処理HA)粉末を300℃から600℃の間の温度で1時間から4時間加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(未処理HA)粉末を、
1)ハイドロキシアパタイトを900℃を上回る温度で焼結すること、および
2)焼結ハイドロキシアパタイト(HA)を微粒子化して、粒径が200μm未満(D(v、0.99))で比表面積が20m/g未満(BET)である前記未処理HA粉末を得ること
によって生成する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
硬化成分としての硫酸カルシウム粉末、および結晶性ハイドロキシアパタイト粉末を含む、即使用可能な硬化性骨代替物粉末の調製方法であって、
a)請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法で得られた不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(pHA)粉末を用意するステップ、
b)硫酸カルシウム粉末を用意するステップ、および
)2つの粉末を混合するステップを含む方法。
【請求項5】
硫酸カルシウム粉末が硫酸カルシウム半水和物粉末である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
即使用可能な硬化性骨代替物粉末が、硫酸カルシウム二水和物および塩化物塩または硫酸塩から選ばれる硫酸カルシウムを硬化させるための促進剤をさらに含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
硬化成分として硫酸カルシウム粉末、および不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト粉末(pHA)を含む、即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【請求項8】
粉末成分の全重量の、35〜45重量%の不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(pHA)粉末、55〜65重量%の硫酸カルシウム半水和物粉末、および5重量%までの硫酸カルシウムを硬化させるための促進剤を含む、請求項7に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【請求項9】
a)35〜45重量%の不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(pHA)粉末、
b)55〜65重量%の硫酸カルシウム半水和物粉末、
c)0〜5重量%の硫酸カルシウム二水和物粉末、および
d)0〜10重量%のその他の成分
から構成される請求項7または8に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【請求項10】
抗真菌薬を含む抗生物質、化学療法薬、ビタミン、ホルモン、細胞分裂阻害剤、ビスホスホネート、成長因子、骨治癒プロモーター、タンパク質、ペプチド、骨髄吸引液、多血小板血漿および鉱質除去した骨からなる群から選択される1種または複数種の生理活性剤を含み、抗生剤が、アミノグリコシド抗生物質の群、ペニシリンの群、セファロスポリンの群、抗真菌薬の群、リファンピシンまたはクリンダマイシンに属する、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【請求項11】
抗生剤が、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、リファンピシン、クリンダマイシンからなる群から選択され、抗真菌剤が、ニスタチン、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ケトコナゾールおよびミコナゾールからなる群から選択される、請求項10に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【請求項12】
水性液体と混合した請求項7乃至11のいずれか1項に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末を含む、硬化性骨代替物ペースト。
【請求項13】
水性液体が、水または塩化物塩もしくは硫酸塩および/または水溶性非イオン性X線造影剤を含む水である、請求項12に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項14】
水溶性非イオン性X線造影剤が、イオヘキソール、イオジキサノール、イオベルソール、イオパミド−ル、イオトロラン、メトリザミド、イオデシモール、イオグルコール、イオグルカミド、イオグルニド、イオグルアミド、イオメプロール、イオペントール、イオプロミド、イオサルコール、イオシミド、イオツサル、イオキシラン、イオフロタールおよびイオデコールから選択される、請求項13に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項15】
液体粉末比(L/P)が0.2から0.6ml/gの範囲である、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項16】
ペーストが注射可能である、請求項12乃至15のいずれか1項に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項17】
欠損した骨組織の再生および/または骨感染の治療によるヒトまたは非ヒト対象における支持組織の障害の治療において使用するための、請求項12乃至15のいずれか1項に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項18】
障害が、骨量減少、骨折、骨外傷および骨髄炎の症状から選択される、請求項17に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【請求項19】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末を含む、注射可能な請求項12乃至18のいずれか1項に記載の硬化性骨代替物ペーストを調製するためのキット。
【請求項20】
1つまたは複数の別々の容器に入れた、抗生物質、抗真菌薬、化学療法薬、ビタミン、ホルモン、細胞分裂阻害剤、ビスホスホネート、成長因子、骨治癒プロモーター、タンパク質、ペプチド、骨髄吸引液、多血小板血漿および/または鉱質除去した骨などの1種または複数種の生理活性剤をさらに含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
別の容器に入れた水性液体をさらに含み、液体が非イオン性X線造影剤を含むまたは含まない、請求項19または20に記載のキット。
【請求項22】
混合および/または注射装置および/または指示書をさらに含む、請求項19乃至21のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化が改善された硬化性セラミック骨代替物組成物、このような組成物のための粉末ならびにそれらの製造方法および医学的処置における使用に関する。より具体的には、本発明は、硫酸カルシウムおよび熱処理ハイドロキシアパタイト(不活性化HA)を含む硬化特性が改善された硬化性骨代替物粉末および硬化性骨代替物ペーストに関し、この骨代替物は骨量減少、骨折、骨外傷および骨髄炎などの支持組織の障害の治療に適する。
【背景技術】
【0002】
骨は血液に次いで二番目に多く移植される組織である。骨の欠損を修復するために最も確実な方法は、自分の骨、すなわち体の別の部位から採取した骨を使用することである。しかし、移植片を採取する第二の手術部位で問題が生じることがある。このような余分な外傷を避けるために、同種移植、すなわち同種の個体間の骨移植を使用することができる。同種移植は自家移植より骨形成能力が低く、新しい骨を形成する速度が遅い場合がある。また、吸収速度は速く、免疫原性応答は大きく、受容者の血行再建は不十分である。同種移植では、例えばHIVおよび肝炎を伝染させる可能性があるのでウイルスも制御しなければならない。同種移植片の使用は現在、骨移植および骨欠損の修復のための最も一般的な方法である。供給の問題、予測不可能な強度および感染の危険性を解決するため、合成骨代替物が現実的な選択肢になってきた。したがって、合成骨代替物の需要および使用はますます増加している。
【0003】
セラミックをベースにした合成骨代替物は、主に2つの種類に分けることができる。1つは、硬化成分としてリン酸カルシウムをベースにしており、これらはリン酸カルシウムセメントと呼ばれる。もう1つの種類は、硬化成分として硫酸カルシウムをベースにしている。硫酸カルシウムの最も重要な利点は、すぐれた生体適合性である。純粋な硫酸カルシウム骨代替物の欠点は、吸収が速く、強度が弱いことで、より大きなまたは髄核が脱出した欠損、および骨折の治癒が4〜6週間を超える場合、有用性が低くなる。
【0004】
Bone Support ABは、約40重量%の焼結ハイドロキシアパタイト(HA)(Ca10(PO(OH))および約60重量%の硫酸カルシウム半水和物、CSH、(CaSO−1/2 HO)を含む粉末相を有する硬化性および注射可能な硫酸カルシウムをベースにした骨代替物を開発した。2つの成分のうち、CSHのみが硬化工程中に硬化する。HA粉末は、溶解しないまま残存する。注射可能なペーストの液相は、生成物によっては材料の放射線不透過性を増強するためにイオヘキソール分子を含有する水性溶液から構成される(国際公開第2003/053488号パンフレット)。骨代替物中に存在するのが硫酸カルシウムのみの場合、約4〜6週以内に材料は完全に吸収されてしまう。しかし、HAも試料中に存在するので、HAが硫酸カルシウムの吸収を遅らせる。さらに、試料中のHAは、結晶性が高く、溶解性が低いため、移植部位に長時間残存することとなる。
【0005】
ペーストからの硬化した骨代替物の硬化時間は、骨代替物としての適応性を決定する重要なパラメータである。ギルモア針(ASTM C266)は、セメントの初期硬化時間(IST)および最終硬化時間(FST)を測定するために使用されることが多い。臨床状況では、ISTに達する前にセメントを移植するべきであり、FST後すぐに創傷を閉じられるものというようにISTおよびFSTは解釈することができる。約5〜25分のIST時間は一般的に、セメントを注射または成形するのに十分な時間で、約10〜40分のFST時間は通常臨床使用に許容できる。IST時間は約5〜15分で、例えば10分未満であることが好ましい。異なる生成物は異なる適用に使用されるので、異なる特性を備えている。硬化性骨代替物の適用性を測定するその他の方法は、当業界では公知である。
【0006】
様々な適用のために、硫酸カルシウムが硬化成分である骨代替物と様々な添加物とを混合できることが望ましい。例えば、抗生物質などの添加物を含む骨代替物は、様々な障害、例えば、骨髄炎(骨感染症)を治療または予防を可能にするために有することが望ましい。しかし、抗生物質などのいくつかの生理活性剤の添加は、硬化時間が臨床に許容できる値を超えてしまうように骨代替物の硬化を遅らせることが見いだされた。添加物だけでなく、HAなどの骨代替物の基本的な成分も硬化特性に悪い影響を有し得ることも見いだされた。驚くべきことに、HAを含有する硫酸カルシウムをベースにした骨代替物中における硫酸カルシウムの硬化に必要なCSHの水和率は、HAの特性に強く依存することがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/053488号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/098438号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/05388号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/081169号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/122971号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N.B.SinghおよびB.Middendorf、「Calcium sulfate hemihydrate hydration leading to gypsum crystallization」Progress in Crystal Growth and Characterization of Materials 53(2007)57〜77
【発明の概要】
【0009】
本発明は、前述の従来技術に関連して認められた問題に鑑みて行われたもので、本発明の目的は、問題の1つの解決法を提供することであり、その解決とは、単独でまたは抗生物質などの様々な添加物と一緒に、硫酸カルシウム(CSH)およびハイドロキシアパタイト(HA)をベースにした硬化性骨代替物の臨床的に不十分および/または許容不可ではない硬化時間をもたらすHAを提供することである。
【0010】
CSHを水と混合すると、以下の反応式(1)に従って硫酸カルシウム二水和物(CSD)に水和する:
CaSO・0.5HO+1.5HO=>CaSO・2HO+熱(1)
【0011】
CSHの水和反応は、3つの段階にまとめて示すことができる(N.B.SinghおよびB.Middendorf、「Calcium sulfate hemihydrate hydration leading to gypsum crystallization」Progress in Crystal Growth and Characterization of Materials 53(2007)57〜77):
【0012】
1)誘導期は、CSH粉末を水と混合した直後に開始する。CSHが溶解すると、溶液はカルシウムおよび硫酸イオンに関して過飽和になる。これは、溶解性の低い硫酸カルシウム二水和物(CSD)の沈殿を導く。水和反応が進行できるように、最初に形成されたCSD核は、(それぞれ特定の系で測定して)「臨界半径」よりも大きい半径を有する必要がある。誘導期は、水和反応に不可欠で、この段階においてCSHの溶解性またはCSD結晶の成長を妨害すると、この工程の後の段階で同じ妨害が起きた場合よりも高くさらなる水和反応を遅らせる。
【0013】
2)十分な数のCSD結晶が核形成する幼核として作用するために不可欠なサイズに達すると、加速または増殖期が開始する。次に、形成したCSD核は成長し、大きな結晶を形成する。結晶は最終的に、互いに連動するために十分な大きさになり、結晶間の摩擦は形成した凝固材料の強度に寄与する。
【0014】
3)第3の段階は、比較的ゆっくりで、水和した硫酸カルシウムの割合を時間の関数として示した概略図の形式で図1に例示したように、CSH水和の完了である。
【0015】
本発明の発明者等は、驚いたことに、ほとんどが臨床的に許容できない硬化時間を導くことが多いCSHおよびHAを含む硬化性骨代替物(実施例1)の予測できない硬化特性は、硬化性骨代替物で通常使用される焼結微粒子化HA粉末(「未処理HA粉末」)を温度および時間が反比例する熱処理、例えば、500℃に2時間に曝露して「不活性化HA粉末」(pHA)を得ることで、HAをCSH水和反応に実質的に不活性にすることによって克服することができることを発見した。硬化性骨代替物における硫酸カルシウムの硬化に対する未処理HAの悪影響は、焼結微粒子化未処理HA(「未処理HA粉末」)、例えば、市販のハイドロキシアパタイトを使用前に熱処理すると著しく軽減することができる。硬化時間の遅れの短縮は、HA粉末(未処理または不活性化)をCSHのみと混合したときに見られるが、特に、抗生物質などの添加物の形態の他の成分と組み合わせてCSHと混合したときに見られる。焼結微粒子化未処理HAを実質的に不活性にするこの熱処理は、この文書を通じて「不活性化」と表し、熱処理を受けた焼結微粒子化HAを「不活性化HA」(pHA)と記載する。
【0016】
HAを不活性化する別の利点は、硬化性骨代替物の硬化をより確実にし、促進剤などの他の化学物質をさらに添加することによって骨代替物の組成を変化させることなく制御できることである。本発明では、例えば、抗生物質などの添加物を硬化性骨代替物に添加する場合、特別な手順を適用する必要はない。これによって、抗生物質などのその他の添加物をペースト状の骨代替物に添加する前に、CSHの水和反応を開始させて望ましくない硬化時間の延長を防ぐBone Support ABによって行われた以前の試み(国際公開第2011/098438号パンフレット)を上回る改善を認めることができた。
【0017】
不活性化HAはまた、長時間の保存ならびに貯蔵した硬化性骨代替物生成物の周囲の温度および相対湿度の変化により耐性を示す(実施例12参照)。さらに、様々なロットの不活性化HAを含有するが、CSH/HA比が同じ硬化性骨代替物の硬化時間は、不活性化していない未処理HAを使用したときよりもずっと均一になり、したがってより予測可能になる。硬化時間のばらつきを最小限に抑えることはまた驚くべきことに、不活性化前に同じ未処理HAロットによって誘導される遅延の程度には左右されない。
【0018】
ハイドロキシアパタイト
未処理HAは、いくつかの方法によって生成することができる。HAを合成する最も一般的な方法は、原料としてオルトリン酸および水酸化カルシウムを使用し、その後乾燥して加熱する湿潤沈殿法である。
10Ca(OH)+6HPO→Ca10(PO(OH)+18H
【0019】
沈殿した粒子の形態およびサイズは、工程の各段階で変化することがわかった。乾燥後、ナノ粒子は小さな凝集体を形成する傾向がある。
【0020】
HAはまた、Ca2+およびPO3−を混合乾燥して、次に高温で加熱する固相反応で生成することができる。Ca2+およびPO3−を混合するために、いくつかの塩の組み合わせを混合することができる。様々な塩の組み合わせを使用することによって、多くの異なる沈殿/固相反応を実施することができる。
【0021】
HAの生成方法に関わらず、Ca2+はPO3−と1.67の比で混合する。HAを沈殿させる場合、Ca2+およびPO3−を水溶液に添加し、HAが沈殿する間pHおよび温度を制御する。
【0022】
沈殿反応を使用する場合、液体を除去し、沈殿を濾過してから乾燥し、最終的に、高温、例えば900℃超、好ましくは900℃から1350℃の間で焼結する。次に、焼結ハイドロキシアパタイトを破砕し、粉砕/磨砕することが必要で、未処理HA粉末の適切な粒径分布を実現するために篩にかけてもよい。図4は、未処理HAを生成する一方法の様々な段階を例示している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】水和したCSHの割合を時間の関数として示した図である。N.B.SinghおよびB.Middendorf、Calcium sulfate hemihydrate hydration leading to gypsum crystallization,Progress in Crystal Growth and Characterization of Materials 53(2007)57〜77から引用。
図2】HAの不活性化後の緩衝能の変化を示した図である。点線(および白抜きの印)は不活性化前(未処理HA)のHAロットのpH/緩衝結果を表す。実線(および黒塗りの印)は不活性化後の同HAロットの結果を表す。
図3】バンコマイシン存在下での緩衝能を示した図である。HA Aは、不活性化前(未処理HA)で、HA Bは不活性化後である。上向きの矢印はHAを添加した時を示し、下向きの矢印はHClの添加を開始した時を示す。
図4】湿潤沈殿法によるハイドロキシアパタイトの製造手順の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態の記載において、明瞭にするために特定の用語を使用した。しかし、本発明は、このように選択した特定の用語に限定されるものではなく、それぞれの特定の用語は、類似の目的を実現するために類似の方法で操作する技術的な同等物全てを含むものと理解されたい。
【0025】
本発明者等は、硫酸カルシウム半水和物(CSH)と同じように再結晶化を受けず、したがって硫酸カルシウムの硬化工程において不活性であることが当然予測される非硬化成分ハイドロキシアパタイト(HA)が、本明細書および以下の実施例で記載したように、ある程度まで硬化時間に明らかに影響を及ぼすことを発見した。
【0026】
CSHおよびHA粉末をベースにした硬化性骨代替物を従来技術で開示されたように生成する場合、未処理(焼結)HA成分を異なるバッチ/ロットから得ることだけが異なる同一の組成物は、未処理HAの粒径分布および比表面積が類似であっても硬化時間は完全に異なる可能性がある。この観察例を実施例1に示す。CSHをHAと混合すると硬化時間の結果がばらつくので、本発明に先だって、適切な硬化特性を備えた特定のロットを選択し、大量に購入する前に、供給業者から得た有望なHAロット全ての予備実験を実施しなければならなかった。
【0027】
実際に、これは、実施例1に記載したように、同じまたは異なる製造者の多数の利用可能なHAロットを少量ずつCSH/HA骨代替物組成物中におけるそれらの硬化特性について試験しなければならず、性能の必要条件(許容できる硬化時間)を満たすロットのみを信頼できる骨代替物生成物で使用するために大量に購入したことを意味する。これはまた、未処理HAの試験ロット10個のうち約3〜4個のみが、添加物を用いない骨代替物組成物中において許容できるがやはり変動する硬化時間で使用することができたことを意味する。
【0028】
その他の物質をCSH/HA組成物に添加したとき、例えば、抗生物質を添加したとき、差はさらに明白である。添加物を導入することによって、添加物なしでほぼ同じ硬化時間だった2つの組成物は添加物を導入した後では非常に異なる速度で硬化し、1つの系は臨床的に適切な硬化時間を維持するが、他方は臨床的に許容するには遅すぎる硬化時間を示すかまたはそれどころかCSHの完全な水和が不可能である。抗生物質、バンコマイシン塩酸塩を含む系における硬化時間の変動に対するHAロットの依存関係の一例を実施例2に示す。このような添加物、例えば、抗生物質を骨代替物にさらに混合すると、試験したHAロットのうち少数のみ、すなわち、試験した10ロットのうち1つ以下が、満足のいく硬化結果で使用することができた。抗生物質などの添加物は硫酸カルシウムのみを含有する系においてCSH水和に対して遅延効果を有さず、水性液体はHAが存在すると同系において臨床的に許容できない長い硬化時間であることも発見された。このことを実施例3に例示する。硫酸カルシウムを含有する骨代替物の硬化時間に対するHAの重要な役割は、HAではなくて硫酸カルシウムが硬化成分であるので、驚くべきことである。今までHAは「不活性」であると考えられてきたので、前述のCSH水和反応のいかなるステップにも関与しなかった。
【0029】
硬化成分としてCSHをベースにした硬化性骨代替物とそれぞれ非硬化成分として不活性化HAおよび不活性化されていない未処理HAとを比較した場合、不活性化HAを未処理HAの代わりに使用するとこのような硬化性骨代替物の硬化時間は著しく低下することが認められた(実施例4)。
【0030】
使用前にHAを不活性化することで硬化時間が短縮することは、抗生物質などの添加物がCSH/HA組成物中に存在するとさらに明白である。このことを実施例9〜11に示す。
【0031】
したがって、本発明は、2つの主要な成分として不活性化結晶性HAおよびCSHを含み、骨代替物が結晶性HAの不活性後により速い硬化時間を示す硬化性骨代替物に関する。
【0032】
ハイドロキシアパタイトの不活性化
本発明の粉末中に存在するHAは体内で遅い吸収速度を示すことが望ましい。HAの吸収を遅くするために、HAの溶解性はできるかぎり低くするべきである。溶解性は主に、化学量論および結晶のサイズによって決定される。CSHをベースにした硬化性骨代替物で使用するためのHAを調製する場合、天然に生じた、または合成によって生成されたハイドロキシアパタイト粉末を900℃を上回る温度、例えば、900℃から1350℃の間の温度で焼結する。この焼結工程中、HAの結晶サイズは増大し、溶解性は低下することになる。焼結工程後、適切な性能を有するペースト中で使用するために適正な粒径分布を有するHA粉末を得るために、HA材料の機械的処理(任意の適切な種類の微粒子化など)が必要であることが多い。焼結HA粉末は、結晶性HAを>90%、好ましくは95%以上、例えば99%含有するべきである。したがって、本発明の文脈で使用する場合、用語「結晶性ハイドロキシアパタイト」は、焼結HAが結晶性HA>90%、好ましくは95%以上、例えば、結晶性HA99%から構成されることを意味する。
【0033】
適正な粒径分布を有する粉末化未処理HAを得るための焼結HAの機械的処理が、CSHをベースにした骨代替物ペーストの硬化工程に遅延効果を生じることが発見されたことは驚くべきことで、その際、CSHは硬化中水和反応を受ける硬化成分であり、粉末化未処理HAは硬化中水和反応を受けない固形の非硬化成分として使用される。このことを実施例5に示す。
【0034】
本発明者等はここで驚くべきことに、選択した温度に応じて一定の時間加熱して焼結し機械的処理した結晶性HA(未処理HA)を「不活性化」することによって、例えば、実施例5に示したように、機械的処理の効果が取り消されることを発見した。
【0035】
したがって、本発明の一態様では、不活性化焼結結晶性ハイドロキシアパタイト(pHA)粉末の調製方法およびこのような方法によって得ることができる生成物を提供し、この方法は、第1の焼結結晶性未処理HA粉末(例えば、市販のHA粉末)を用意し、前記粉末を約900℃までの温度で少なくとも5分間加熱して前記不活性化HA粉末を得ることを含む。好ましくは、温度は100℃から900℃で10分から2週間の間、300℃から900℃で10分から10時間の間、300℃と600℃で1時間から4時間の間である。特定の実施形態では、熱処理は450℃から550℃で1時間半から2時間半の間、例えば、500℃で2時間である。
【0036】
未処理または不活性化したHA粉末の900℃を超える温度、例えば、900℃から1350℃の間で行った焼結工程後の結晶含量は、>90%、好ましくは>95%、例えば>99%である。微粒子化後、粉末の粒径は、D(v、0.99)<1000μm、例えば<200μm、好ましくは<100μm、より好ましくは<50μm、例えば35μm未満である。粉末の比表面積は、公知の重量の粉末試料の表面上に吸収されたガス(通常N)の体積を測定することによって試料の重量当たりの面積の単位(m/g)で表した粉末の全表面積を測定するための方法であるBET(Brunauer、EmmettおよびTeller)法によって測定して、好ましくは20m/g未満、より好ましくは10m/g未満であるべきである。表面積のその他の測定方法を代替として適用してもよい。
【0037】
不活性化に必要な加熱ステップの温度および時間は、限定はしないが、従来の焼結条件、機械処理の強さの程度、微粒子化の種類および手段、不活性化加熱中に使用したるつぼ、不活性化する粉末の量ならびにオーブンが不活性化温度および冷却に達する速さを含むいくつかのパラメータによって影響を受けることがある。例えば、任意選択では時間および/または温度は、機械処理が強くなければ低下させることができる。
【0038】
本発明によって機械処理したHA粉末を不活性化するために十分であるように、所定の実験によって加熱ステップの温度および時間を決定することができる。CSH/HA骨代替物で使用したときに臨床的に不適切な硬化時間であるHAに適用することができるこのような所定の実験の一案は以下の通りである:低温および/または短い熱処理時間で開始し、このHAの画分を高温および/または長い処理時間までの様々な温度および様々な時間で熱処理する。各熱処理後の硬化時間を測定することによって、高温および/または長時間の処理が硬化時間のさらなる短縮をもたらさなくなったとき、またはHAが適用に適した硬化時間をもたらすために十分に不活性化されたときが容易に判断される。
【0039】
不活性化における加熱ステップの最小限の時間は実験的に測定することができ、不活性化中の温度、焼結中の加熱温度および機械処理の程度などの多くの要素に左右される。いくつかの実施形態では、不活性化熱処理の時間は少なくとも5分、例えば少なくとも10分、好ましくは少なくとも1時間である。好ましくは、加熱時間は1時間から4時間の間である。
【0040】
不活性化は、温度が高ければ高いほど速く生じる。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、不活性化時間を短縮するために、熱処理ステップを100℃超、例えば、200℃超、300℃超、400℃超、または500℃超で実施する。
【0041】
未処理HAを約900〜1000℃以上で長時間熱処理すると、HAの特性の所望しない変化、例えば、熱処理前には認められなかった水性環境における不活性化HAのpHの上昇が引き起こされ、および/またはアルカリ緩衝効果が生じ得ることが見いだされた。さらに、このような高温は、新たな微粒子化および不活性化ステップが必要となる結晶の凝集を導くことがある。したがって、HAの不可欠な特性、例えば、不活性化後の水性溶液におけるpHを維持するために、不活性化熱処理は好ましくは900℃未満、例えば、800℃未満または700℃未満である。不活性化HAの望ましくないいかなる特性も回避するために、加熱時間を望ましくない長さにすることなく、実際的に適用可能な低い温度を使用することが有利であり得る。実施例8は、不活性化における加熱温度の効果および高すぎる温度のpH/緩衝特性に対する危険性を示す。好ましくは、不活性化温度は300℃から600℃の間である。
【0042】
HA粉末は不活性化前よりも不活性化後に緩衝性が低いことも見いだされた。添加物を含めた場合および含めなかった場合においてこのことを示した2つの例を実施例6に示す。この効果は、熱処理の不活性化効果をモニターするために使用することができる。
【0043】
加熱時間および温度に関する範囲の全組み合わせは、本発明の記載をベースにして、ならびに加熱ステップを1回または複数回反復することによって、例えば、加熱ステップを1、2、3または4回またはそれ以上反復することによって想定することができる。
【0044】
加熱ステップの具体例を実施例4、7および8に記載する。本発明のいくつかの実施形態では、加熱ステップは、例えば、100℃から900℃で10分から2週間の間、例えば、200℃から800℃で10分から1週間の間、例えば、300℃から700℃で10分から1週間の間、例えば、400℃から600℃で10分から1週間の間、例えば、450℃から550℃で10分から1週間の間である。
【0045】
いくつかの実施形態では、加熱ステップは、例えば、100℃から900℃で10分から1週間の間、例えば、1時間から24時間の間である。いくつかの実施形態では、加熱ステップは、例えば、300℃から600℃で1時間から4時間の間、例えば、400℃から600℃で1時間から4時間の間、例えば、450℃から550℃で1時間半から2時間半の間、例えば、500℃±10℃で2時間±15分である。
【0046】
特定の実施形態では、不活性化HAはさらに、1M HCl 100μlを懸濁液に10秒毎に添加したときのHA/水溶液のpH変化を調査することによってpH/緩衝能を調べる方法によって特徴づける。
【0047】
前に説明したように、緩衝能を有するアルカリpHは溶血および/または変性タンパク質を引き起こすことがあるため臨床適用には望ましくないことが示されたので、約900〜1000℃以上での長時間処理はいくつかの適用において望ましくないアルカリ緩衝効果を引き起こし得ることが見いだされた。実施例8参照。
【0048】
前述したように、焼結および微粒子化焼結未処理HAの様々なロットは、未処理HAの含量、由来および処理に応じて様々な特性を有し、したがって、不活性化手順において温度/時間処理の様々な必要条件を有する。しかし、実際的な理由で、標準的な最小限の処理を導入することができた。不活性化処理が望ましい硬化の改善、すなわち、硬化時間の短縮を導いたかどうかを決定する一方法は、2つの硬化性骨代替物、すなわち、少なくともCSH、HAおよび水相を含む2つの硬化性骨代替物ペーストの硬化時間を比較することで、唯一異なるのはHAで、一方の硬化性骨代替物ではHAは第1の未処理HAであり、他方の硬化性骨代替物では同じ未処理HAを不活性化処理後、例えば、500℃で2時間後である。この比較は、同一条件下で実施すべきである。不活性化していない未処理HAと比較して不活性化HAを使用することによって、少なくとも3分の硬化時間の短縮が得られることは好ましい。硬化時間を測定する一方法では、初期硬化時間(IST)および最終硬化時間(FST)の両方を測定するギルモア針を使用することができる。3分未満の硬化時間の短縮は、未処理HAロットの不適切な不活性化処理の結果であるか、または焼結および微粒子化工程中にいかなる硬化遅延特性を誘導しなくても未処理HAロットが実際的に不活性なままであるためである。未処理HAロットの硬化遅延特性の強さおよび大きさに応じて、ロットの不活性化は、不活性化していない未処理HAロットを使用する場合と比較して、硬化時間を3分超、例えば、5分以上または10分以上短縮することができる。
【0049】
したがって、本発明の一実施形態では、前記第1の(未処理)HA粉末の不活性化は、前記不活性化ハイドロキシアパタイト(pHA)粉末、硫酸カルシウム粉末および水性液体からなる硬化性骨代替物ペーストの硬化時間(例えば、ギルモア針で測定した初期硬化時間(IST)および最終硬化時間(FST)の両方)を、同一条件下で、同じペーストであるが前記不活性化HA粉末の代わりに前記第1の未処理HA粉末を含むペーストの硬化時間と比較して、少なくとも3分、例えば5分以上、例えば10分以上短縮させる原因となる。
【0050】
硬化性骨代替物の粉末
不活性化HA(pHA)は硬化性骨代替物用の粉末において使用することができ、結果として、硬化性骨代替物においてすぐに使用でき、2つの主要な成分として本明細書で記載したような不活性化結晶性HA(pHA)およびCSHを含む粉末を提供することは本発明の一態様である。「即使用可能な」という表現は、臨床治療において、例えば、通常は手術が必要な支持組織における疾患の治療において使用する前に、水性液体、例えば、水のみを添加することが必要であるように、粉末が不活性化HA(未処理非不活性化HAとは対照的であるため、許容できる硬化時間を導く可能性が高い状態で使用されるように調製されている)を含むことを意味する。
【0051】
即使用可能な粉末は、水相を含まない乾燥粉末である。CSHは、アルファ−CSHおよびベータ−CSH形態で存在することができる。いくつかの実施形態では、CSHはアルファ−CSHで、この結晶形態は水相と混合したときより強い超構造を形成することが多いためである。好ましい実施形態では、CSHは粉末において唯一存在する、水和によって硬化する成分である。
【0052】
CSHおよび不活性化結晶性HA(pHA)が即使用可能な粉末中の主要な成分として存在することは、これらの成分が、重量パーセント(wt%)で測定したとき2つの最大の成分であることを意味している。したがって、一実施形態では、不活性化結晶性HA(pHA)は粉末成分の全重量の20〜80重量%の範囲で存在し、CSHは粉末成分の全重量の80〜20重量%の範囲で存在する。
【0053】
本発明の別の実施形態では、1種または複数種の促進剤は、即使用可能な粉末中に、例えば、粉末成分の全重量の10重量%までの量で存在し、この促進剤は存在することによってCSHの硬化反応を加速し、したがって硬化時間を短縮する。このような一促進剤は、硫酸カルシウム二水和物(CSD)である。その他の例は適切な塩、例えば、塩化物塩および硫酸塩などの無機塩、例えば、塩化ナトリウムである。好ましくは、硫酸カルシウム二水和物は、粉末成分の全重量の10wt%まで、例えば、5wt%まで、2wt%または1wt%までを占めていてもよい。特定の実施形態では、粉末成分は、59.6重量%のアルファ−CSH、40.0重量%の不活性化結晶性HAおよび0.4重量%の硫酸カルシウム二水和物から構成される。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態では、即使用可能な粉末は、粉末成分の全重量の35〜45重量%の範囲の不活性化HA、粉末成分の全重量の55〜65重量%の範囲のCSH、および粉末成分の全重量の0〜5重量%、好ましくは0〜2重量%の範囲の硫酸カルシウム二水和物、任意選択の10重量%までのその他の成分/添加物から構成される。このようなその他の成分/添加物には、限定はしないが、生理活性剤、有機および無機粘度調整
剤、例えば、デンプン、アルギン酸塩、セルロース誘導体など、および/または硫酸カルシウムの硬化を加速/遅延させるための添加物が含まれていてもよい。
【0055】
硬化性骨代替物
本発明の別の態様では、本発明による不活性化結晶性HAを使用して硬化性骨代替物を調製するための方法および硬化性骨代替物の調製における本発明による不活性化結晶性HAの使用を提供する。
【0056】
本発明による不活性化結晶性HAおよび不活性化HAを含む本発明の粉末は、例えば、ビーズまたは支持組織の障害の治療に使用するための特注の形態を製造するため、またはヒトもしくは非ヒト患者の支持組織の障害の治療箇所に適用、例えば、注射するための注射可能な硬化性骨代替物ペーストとしての使用において、硬化性骨代替物ペーストにおいて使用することができる。
したがって、本発明の別の態様は、硬化性骨代替物ペースト、例えば、水性液体と混合した本発明による即使用可能な粉末を含む硬化性骨代替物ペーストに関する。
【0057】
本発明によるペーストは、最も簡単な形態が水である水性液体を、ペーストを調製するために即使用可能な粉末と一緒に混合することによって作製する。一実施形態では、最終ペーストは、例えば、粉末と混合する前に添加物を液体に溶解するなど、様々な段階で1種もしくは複数種の添加物を添加することによって、および/または本明細書に参考として組み込んだ国際公開第2011/098438号パンフレットに記載されたように後から混合することによって作製する。
【0058】
粉末および水相の混合比は、液体粉末比(L/P)と呼ばれる。本発明のいくつかの実施形態では、L/Pは、0.2〜0.6ml/gの範囲、例えば、0.3から0.5ml/gの間である。特定の実施形態では、L/P比は0.43ml/gまたは0.5ml/gである。0.2から0.4ml/gの間などの低L/P比は、ISTおよびFSTをさらに短縮するために使用することができるが、低L/P比はまた、ペーストの注射可能性も低下させることがあり、いくつかの臨床適用には不利益である。
【0059】
本発明の一実施形態では、水性液体は水で、その他の実施形態では、水相は、1種または複数種の塩化物塩もしくは硫酸塩などの適切な塩、例えば塩化ナトリウム、水溶性非イオン性X線造影剤、および/または1種もしくは複数種の生理活性剤を含む。
【0060】
水相への塩化ナトリウムの添加、例えば、0.9mg塩化ナトリウム/ml液体は、硫酸カルシウム水和の促進剤として作用し、それによってIST/FSTの短縮に寄与する。
【0061】
1種または複数種の水溶性非イオン性X線造影剤を添加することは、外科手術中および直後にX線でペーストをモニターすることが可能となるので有利である。適切なX線造影剤の例は、国際公開第03/05388号パンフレットに記載されたようなイオヘキソール化合物である。さらに適した水溶性非イオン性X線造影剤ならびにそれらの濃度は、本明細書に参考として組み込んだ国際公開第03/05388号パンフレットに記載されている。X線造影剤は、純水に、単独で、または例えば緩衝剤および/もしくはキレート剤の形態の適切な添加物と一緒に、溶解する。一例では、液体は、イオヘキソールなどのX線造影剤に加えてトリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HClおよびカルシウムEDTAを含む。その他の類似のX線造影剤添加物は当業界では公知である。本発明による硬化性骨代替物ペーストを形成するためのキットは、即使用可能な粉末に加えて、別の容器に入った液体溶液、例えば、X線造影剤および適切な添加物を含む水を含んでいてもよく、または薬剤および任意選択の添加物は使用前に液体で溶解するための容器に入れてもよい。
【0062】
適切な水溶性非イオン性X線造影剤は、イオヘキソール、イオジキサノール、イオベルソール、イオパミド−ル、イオトロラン、メトリザミド、イオデシモール、イオグルコール、イオグルカミド、イオグルニド、イオグルアミド、イオメプロール、イオペントール、イオプロミド、イオサルコール、イオシミド、イオツサル、イオキシラン、イオフロタールおよびイオデコールから選択することができる。
【0063】
水溶性非イオン性X線造影剤の代わりとして、国際公開第2009/081169号パンフレットに開示されたような生体適合性および生分解性X線造影剤を含む生分解性粒子は、本発明の骨代替物に放射線不透過性をもたらすために使用することができる。これらの粒子は、液体を添加する前にセラミック粉末に添加する。
【0064】
生分解性X線造影剤粒子は、生理学的に耐性のある有機ヨウ素X線造影剤の切断可能な、好ましくは酵素切断可能な誘導体であってもよく、または生分解性X線粒子は、生体適合性、有機ヨウ素X線化合物を含む生分解性ポリマーから調製してもよい。生分解性X線造影剤は、切断によって(例えば、体内のエステラーゼによって)生理学的に耐性のある有機ヨウ素化合物が放出されるという意味で、対応する有機ヨウ素化合物の水不溶性誘導体であると考えることができる。
【0065】
生体適合性および生分解性X線造影剤を含む生分解性粒子を使用する一態様は、このような有機ヨウ素化合物の粒状性および限られた水溶性である。骨代替物材料の硬化後初めのうちは新たな生分解性X線造影剤がセメントマトリクス中に完全な粒子として残存する。その後、造影剤粒子の水溶性生体適合性有機ヨウ素化合物への分解が、骨代替物材料の有益な骨伝達性、骨誘導性および吸収性多孔性構造に寄与する。
【0066】
本発明によって使用するために生理学的に耐性のある有機ヨウ素化合物の特に好ましい誘導体には、可溶のカルボキシ基がアルコールでエステル化され、ヒドロキシ基がアシル化(例えば、アセチル化)されるか、または2,4−ジオキサシクロペンタン−1−イル基を形成している公知のイオン性、非イオン性、単量体または二量体有機ヨウ素X線造影剤の類似体が含まれる。
【0067】
生分解性X線粒子は、ジアトリゾ酸、イオベングアン、イオベンザミン酸、イオビトリオール、イオカルミン酸、イオセタム酸、ヨーダミド、ヨージパミド、イオジキサノール、ヨウ素化油、ヨードアルフィオン酸、p−ヨードアニリン、o−ヨード安息香酸、ヨードクロルヒドロキシキン、o−ヨード馬尿酸ナトリウム、o−ヨードフェノール、p−ヨードフェノール、ヨードフタレインナトリウム、ヨードプシン、ヨードピラセット、ヨードピロール、ヨードキノール、イオグリカム酸、イオヘキソール、イオメグラム酸、イオメプロール、イオパミド−ル、イオパノ酸、イオペントール、イオフェンジラート、イオフェノキシ酸、イオプロミド、イオプロン酸、イオピドール、イオピドン、イオタラム酸、イオトロラン、イオベルソール、イオキシグリム酸、イオキサリック酸、イオキシランおよびイポデートの切断可能な誘導体を含む群から選択することができる。
【0068】
X線造影剤に含めるための適切な生分解性ポリマーの例は、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(グリコリド−コ−炭酸トリメチレン)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリジン)、ポリ(ヒドロキシブタレート)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(セバシン酸−コ−ヘキサデカン二酸無水物)、ポリ(炭酸トリメチレン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カプロラクタム)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(テレフタレート)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリ(ウレタン)、多糖類様セルロースポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、天然高分子様アルギン酸、キトサン、ゼラチンなどである。ポリマーブレンド、合金、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーおよびグラフトコポリマーも適していることがある。
【0069】
添加物としての生理活性剤
粉末または水相に生理活性剤を添加すると、硬化性骨代替物にさらに有益な特性を与えることができる。本発明の一実施形態では、1種または複数種の生理活性剤を水相に添加し、いくつかの実施形態では、これらの生理活性剤は、抗生物質(抗真菌薬を含む)、化学療法薬、ビタミン、ホルモン、細胞分裂阻害剤、ビスホスホネート、成長因子、タンパク質、ペプチド、骨髄吸引液、多血小板血漿および鉱質除去した骨からなる群から選択される。骨治癒を促進するために、シリカ、ジルコニウム、ストロンチウムなどを添加してもよい。硬化性骨代替物に生理活性剤を添加することによって、生理活性が徐々に放出する局在型徐放性製剤が生じる。本発明の別の実施形態では、1種または複数種の生理活性剤は、液体と混合する前または混合時に即使用可能な粉末に添加する。様々な薬剤はまた、様々な相および/または様々な時点で適用することができる。本発明による硬化性骨代替物ペーストを形成するキットは、即使用可能な粉末に加えて、使用前に液体溶液に、または使用中にペーストに添加する生理活性剤を含有する1個または複数の容器を含んでいてもよい。
【0070】
生理活性剤が抗生物質の場合、硬化性骨代替物は骨髄炎の予防または治療に有効であり得る。治療患者における骨感染を予防するために、抗生物質を骨代替物に添加することに大いに興味が持たれている。しかし、前述したように、実験室における以前の試験では、抗生物質を添加すると、主に硬化時間を延長することによってペーストの特性に重大な影響を与えることが示された。これらのペーストの硬化時間を短縮するために、本発明による不活性化結晶性HAを使用することが効果的であることが分かった。
【0071】
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、以下の群、アミノグリコシド抗生物質からなる群、ペニシリンからなる群、セファロスポリン、リファンピシン、クリンダマイシンからなる群および抗真菌薬からなる群に属する抗生剤は、本発明による硬化性骨代替物に加えると有利であり得る。好ましくは、抗生剤は、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、リファンピシン、クリンダマイシン、ニスタチン、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ケトコナゾールおよびミコナゾールからなる群から選択される。本発明による硬化性骨代替物ペーストに抗生物質を組み込む利点の1つは、抗生物質の局所濃度が同抗生物質による全身治療によって可能な濃度よりもずっと高い局在型徐放製薬が形成されることである。
【0072】
本発明の特定の実施形態では、水相は抗生剤の硫酸ゲンタマイシン、塩酸バンコマイシンおよび/またはセファゾリンを含む。これらの抗生剤のために、本発明による硬化性骨代替物(すなわち、不活性化HAを含む)は、本発明による不活性化HAを含まない硬化性骨代替物にこれらの抗生剤を適用した場合と比較してISTおよびFSTの短縮をもたらすことを示した(実施例9、10および11参照)。
【0073】
本発明のさらなる態様では、本発明による不活性化HAは、損失した骨組織を再生するか、および/または骨感染を治療することによってヒトもしくは非ヒト対象の支持組織の障害を治療するために、液体と混合した後に粉末が臨床治療において、例えば、外科的治療の一部としてすぐに使用できる本発明による即使用可能な硬化性骨代替物粉末に含まれる。このような障害は、骨量減少、骨折、骨外傷および/または骨髄炎であってもよい。
【0074】
硬化性骨代替物を調製するためのキット
本発明による即使用可能な骨代替物粉末ならびに骨代替物ペーストの調製において使用するための1種または複数種の水性液体はキットとして有利に提供することができ、このキットはすぐに使用することができ、注射可能なペーストの形態の硬化性骨代替物を患者に適用するために最適な時間および粘度範囲を得るため、および周囲からの細菌の移入を最小限に抑えるために、様々な成分の硬化を最小限にすることが必要である。
【0075】
したがって、本発明は、本発明の別の態様で、混合注射一体型装置に入れた本発明による即使用可能な粉末を含む、硬化性骨代替物を調製するためのキットを提供する。このような混合注射一体型装置(CMI装置)は従来技術において、例えば、国際公開第2005/122971号パンフレットから公知である。一実施形態では、キットは、さらに1つまたは複数の別の容器に、任意選択で1種もしくは複数種の促進物質および/または1種もしくは複数種の生理活性剤および/または1種もしくは複数種の非イオン性X線造影剤を含む1種または複数種の水性溶液、任意選択で前記混合注射装置を使用するための指示書を含む。促進物質、生理活性剤および/または非イオン性X線造影剤もしくは生分解性X線粒子は、別の容器に入れてキットに含めることができる。キットはまた、混合注射一体型装置を含んでいてもよい。
【0076】
本発明の様々な態様および実施形態について記載する場合、これらの実施形態の可能な組み合わせおよび順列の全てが明示的に記載されているわけではない。それでも、ある種の手段が相互に異なる独立した特許請求の範囲において引用されるか、または様々な実施形態において記載されるという事実のみによって、これらの手段のその他のいかなる組み合わせも本発明に含まれないことを意味するものではない。本発明は、記載した実施形態の可能な組み合わせおよび順列全てを想定している。
【0077】
実施例
材料および方法
標準的な原料の詳細
粉末
実施例で使用したHA試料は全て、沈殿反応によって生成し、規格ASTMF1185「外科的移植用のハイドロキシアパタイトの組成物の標準的規格」およびISO13779−1「手術用の移植物−ハイドロキシアパタイト−第1部:セラミックハイドロキシアパタイト」を満たした。
【0078】
実施例で使用したCSHおよびCSDの純度は、モノグラフ「硫酸カルシウム二水和物」0982、欧州薬局方および「硫酸カルシウムの公式モノグラフ」米国薬局方/国民医薬品集の両方に記載された試験必要条件を満たした。
【0079】
液相
実施例において、イオヘキソール溶液(様々な濃度)または生理食塩水のいずれかを液相として使用した。
【0080】
使用したイオヘキソール溶液は、注射用水(WFI)、イオヘキソール、緩衝剤トロメタモール(トリス:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、キレート剤エデト酸カルシウム二ナトリウム(カルシウムEDTA)および塩酸(HCl)から構成される。このイオヘキソール溶液は、米国薬局方においてイオヘキソール注射のために記載された必要条件を満たす。さらに、イオヘキソール、トロメタモールおよびエデト酸カルシウムナトリウムの含量は、基準によるそれぞれの特定の必要条件を満たす。
【0081】
生理食塩水溶液は、注射用水(WFI)に溶かした0.9重量%のNaClから構成される。この単位は、Ph EP 0193塩化ナトリウムにおいて記載された必要条件を満たす。
【0082】
液相としてイオヘキソールまたは類似のX線造影剤を含む溶液を用いる理由は、骨代替物材料の放射線不透過性を増加させるためである(国際公開第03/053488号パンフレット参照)。
【0083】
硬化性骨代替物用の参考粉末
本発明の実施例で使用した硬化性骨代替物用の粉末は、59.6重量%のα−CSH、0.4重量%のCSDおよび40.0重量%のHAから構成されるが、試料を混合するために使用した液体のL/P比および種類は変化させた。
【0084】
初期および最終硬化時間の測定
硬化時間はASTM C266に基づいた方法によってギルモア針を用いて測定した。硬化性骨代替物用のペーストを調製した後、そのうちのいくつかを3つの円形型(φ=10mm、h=5mm)に移し、表面を平らにした。ギルモア針の2針はそれぞれ0.3および5MPaの圧力を与え、跡が残らなくなるまで0.3MPa針を定期的に(1分に約1回)試料に押し当てた。0.3MPa針が型の中の材料の表面上に跡を残さなくなった時点を初期硬化時間、ISTと称する。その後、同じ手順を5MPa針で繰り返し、この針でも跡を残さなくなった時点を最終硬化時間、FSTと称する。
【0085】
pH測定および緩衝能試験
HA粉末の緩衝能を調べるために使用した方法は、水32gにHA粉末3.2gを溶かしたスラリーを調製したことに基づいている。HAを水と混合した後、継続的に撹拌しながら、1M HCl 100μlを10秒毎に添加した。pHを測定し、全手順の間記録し、HCl添加を開始する直前のpH値をHAのpHとして表した。HClを純水に添加した場合、pHの迅速な低下を予測することができたが、HA粉末が存在すると様々な範囲で低下が遅延する。
【実施例1】
【0086】
HAロット毎の変動に応じたCSH/HA骨代替物の硬化作用の差
この検討では、同じHA製造者の7つの異なるHAロットを評価した。ロットは全て、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化することによって生成した。粒径分布および比表面積は、7つのHAロットで同様であった(平均粒径:約5μmおよびSSA:約1.5〜2m2/g)。HAのこれらの異なるロットを使用して、CSH/HA骨代替物材料を調製した。
【0087】
59.6重量%の合成によって生成されたCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%の未処理HA(同じ製造者の異なるロット、前記参照)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)の混合物を、イオヘキソール(180mg l/mL)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物30gをイオヘキソール溶液15mlと混合した(すなわち、液体粉末比0.5mL/g)。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針(ASTM C266)を使用して評価した。
【0088】
以下の表の結果は、通常の化学的/物理的分析によってロット間に差を認めることができなくても、CSH/HA骨代替物の硬化性能が使用したHAロットに応じて大きく変化し得ることを示している。示したように、骨代替物の硬化時間は、特定のHAロットを使用することによって著しく遅延し、使用したHAロットに応じて初期硬化時間(IST)は9分から最高56分であった。
【0089】
【表1】
【実施例2】
【0090】
抗生物質が存在する場合のCSH/HA骨代替物の硬化作用の大きな変化
この検討では、得られたCSH/HA骨代替物が許容できる硬化結果をもたらしたので、実施例1で記載したような最初の予備試験後に同じ製造者から3つの異なる未処理HAロット(A〜C)を選択した。ロットは全て、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化することによって生成した。粒径サイズ分布および比表面積は3つのHAロットで同様であった(平均粒径:約5μmおよびSSA:約1.5〜2m/g)。
【0091】
この検討の目的は、抗生物質バンコマイシンを系に添加した場合、異なるHAロットを含有するCSH/HA骨代替物の硬化時間に対する効果を評価することであった。セラミック粉末と混合する前にバンコマイシン(バンコマイシン塩酸塩として)500mgを液相に溶解した。
【0092】
59.6重量%の合成によって生成したCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%の未処理HA(同じ製造者の異なるロット、前記参照)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)の混合物を、イオヘキソール(180mg l/mL)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物18.5gを液体(純粋なイオヘキソール溶液またはバンコマイシンと予め混合したイオヘキソール溶液、前記参照)8mlと混合し、液体粉末比0.43mL/gが得られた)。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針 ASTM C266を使用して評価した。
【0093】
以下の表は、3つのCSH/HA組成物にバンコマイシン塩酸塩を添加した、または添加していない状態での硬化時間を示す。
【0094】
【表2】
【0095】
示したように、バンコマイシン塩酸塩は使用した未処理HAのロットに応じて添加したので、CSH/HA骨代替物の硬化時間に大きな差があった。抗生物質を添加しないと、3つの異なる系(異なる未処理HAロットを含む)は、同様の硬化性能をもたらすことが示された。未処理HAの3つのロットは、実施例1に記載したような最初の予備試験後に選択し、抗生物質を添加しないと、未処理HAの3つのロットは全て許容できる結果であった。抗生物質が存在すると、3つの未処理HAロットのうち1つのみが許容できる硬化性能をもたらした。系の2つでは、硬化は非常に遅れ、初期硬化時間は1時間以内には到達しなかった。
【実施例3】
【0096】
抗生物質を含有する系におけるHAのCSH水和に対する効果
CSHの硬化性能に対する焼結結晶性未処理HAの効果を評価するために、2つの異なる種類の骨代替物を準備した;1つは未処理HAが存在し、1つはHAを含まなかった。試験は、抗生物質(バンコマイシンまたは硫酸ゲンタマイシン)を2種類の骨代替物に添加してまたは添加しないで実施した。HAロットは実施例1に記載したような最初の予備試験後に選択し、抗生物質を添加しないとHAロットはCSH/HA骨代替物として許容できる硬化結果をもたらした。
【0097】
セラミック粉末18.5gをイオヘキソール溶液8mlと混合すると(すなわち、液体粉末比0.43mL/g)、ヨウ素濃度は180mg l/mLであった。第1の種類のセラミック骨代替物は、99.3重量%の合成によって生成されたCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約7μm)および0.67重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)の混合物のみから構成された。第2の種類の骨代替物では、未処理HAも存在した(59.6重量%のCSH、40重量%のHAおよび0.4重量%のCSD)。未処理HA粉末は市販されており、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化した。粒径分布は0.1〜40μmで、平均粒径は約7μmであった。
【0098】
液相は、イオヘキソール溶液のみか、または溶解した抗生物質(バンコマイシンまたは硫酸ゲンタマイシンのいずれか)1gを含むイオヘキソール溶液を含有した。
【0099】
セラミック粉末(HAを含有するか、または含有しない)とイオヘキソール溶液(抗生物質を含有するか、または含有しない)の混合は、特別に設計した混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0100】
以下の表では、異なる種類の抗生物質を含むか、または含まない2つの骨代替物の硬化時間を示す。示したように、臨床的に不適切な硬化時間は、HAを含有する組成物に抗生物質を添加した場合にのみ実現した。したがって、試験した添加物は、単独だけでなく未処理HA粉末と組み合わせてもCSHの硬化時間を遅らせる。結果は、抗生物質を系に添加したときに得られた硬化遅延が結晶性ハイドロキシアパタイトの存在に関係することを示している。
【0101】
【表3】
【実施例4】
【0102】
HAを含有するCSH/HAペーストの不活性化前後の硬化時間の差
この検討では、同じ製造者の3つの異なるHAロット(D〜F)を使用した。ロットは全て、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化することによって生成した。粒径サイズ分布および比表面積は3つのHAロットで同様であった(平均粒径:約5μmおよびSSA:約1.5〜2m/g)。抗生物質を添加しなくてもCSH/HA骨代替物の許容できない硬化結果がもたらされるので、HAの3つのロットは、実施例1で記載したように最初の予備試験後に選択した。
【0103】
HA粉末が未処理HAまたは500℃で2時間さらに熱処理した未処理HA(pHA)のいずれかである試験を実施した。
【0104】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成されたCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のHA(未処理または不活性化)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末は、イオヘキソール(180mg l/mL)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物18.5gをイオヘキソール溶液8mLと混合した(すなわち、液体粉末比0.43mL/g)。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0105】
以下の表において、不活性化前後の様々なHAロットを含有する骨代替物の硬化時間を表す。示したように、HAの3つのロットを含有するCSH/HAペーストの硬化時間は、HA粉末を不活性化しなかった場合27〜39分の範囲の初期硬化時間で、したがって臨床的に適切な値を超えた。HAを500℃で2時間不活性化した後、初期硬化時間は約10分、すなわち、初期値の約1/3に短縮した。HAの3つのロットは全て、不活性化後では骨代替物ペーストの性能は同じ(臨床的に適切)であった。
【0106】
【表4】
【実施例5】
【0107】
CSH硬化に対するHAの遅延効果に対する微粒子化の効果
硫酸カルシウム半水和物の硬化に対してハイドロキシアパタイトが有する遅延効果の原因をさらに理解するために、焼結していない市販のハイドロキシアパタイト粉末(Riedel−de−Haen、Germany)を使用して検討を実施した。HA粉末は、BONESUPPORTで1250℃で3時間焼結した。HA粉末の焼結後、粉末を様々な方法で処理した:
・注意深く破砕(数ミリメートルの粒径)
・ボールミル(粒径<200μm?)
・ボールミルの後360℃で10時間熱処理(粒径<200μm)
・360℃で10時間熱処理および最後にボールミル(粒径<200m)
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したCSH(粒径分布:0.1から80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%の未処理HA(前述の種類のいずれか)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。このセラミック粉末をイオヘキソール(300mg l/mL)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物3.0gをイオヘキソール溶液1.5mLと混合した(すなわち、液体粉末比0.5mL/g)。これらの少量の試料の混合は、ビーカー内でスプーンを使用して60秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針ASTM C266を使用して評価した。
【0108】
以下の表からわかるように、焼結後ならびに焼結および熱処理ステップ後に粉砕したHAは、粉砕していないHAおよびボールミル後に熱処理したHAよりもずっと硫酸カルシウム硬化を遅延させた。結果は、HAのボールミルステップがCSH/HA骨代替物に対する遅延効果の原因であることを示している。
【0109】
これによって、粉砕中にHAに加えられた機械力が、硫酸カルシウムの遅延に関与するという理論が裏付けられる。
【0110】
【表5】
【実施例6】
【0111】
HAの不活性化後の緩衝能の変化
不活性化ステップ中に未処理HA粉末のどの特性が影響を及ぼしたかを確認するために、いくつかの異なる分析方法で調べた。不活性化前後の同じHAロットでpHおよび緩衝能を測定した。「pHおよび緩衝能試験」法は、熱処理前後のHA粉末を調べたときの差を示す。
【0112】
この検討では、不活性化(すなわち、500℃で2時間の熱処理)前後に、市販の焼結し(1275℃で4時間)微粒子化した未処理HA粉末(粒径分布:0.1〜40μm、平均粒径約7μm)のpH/緩衝能を分析した。
【0113】
図2からわかるように、不活性化前のHAを含む試料は、不活性化HAを含む試料よりもHCl添加時のpHの変化に強い耐性を有する。
【0114】
不活性化前に未処理HA粉末がCSHの硬化に対して有する遅延効果は、ある種の添加物、例えば、抗生物質が存在するとより著しくなることが示された。したがって、緩衝能試験をバンコマイシン塩酸塩(13.5mg/ml)の存在下で繰り返した。結果を図3に示すが、HCl添加によって引き起こされたpH変化に対する耐性の差は不活性化後(HA B)よりも不活性化前(HA A)の未処理HA粉末の方が高いことを示している。
【0115】
同じHAロットを提示した両測定で使用したが、1番目はHA粉末を500℃で1時間不活性化し、2番目は500℃で2時間不活性化した。
【実施例7】
【0116】
不活性化の温度の効果
CSHをベースにしたペーストの硬化に対する効果を評価するために、市販の焼結(1275℃で4時間)および微粒子化した未処理HA粉末(粒径分布:0.1〜20μm、平均粒径約3μm)を様々な温度(400〜600℃)および時間(1〜3時間)で熱処理し、その後セラミック粉末混合物中で混合した。
【0117】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のHA(前述のように加熱によって不活性化)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末混合物18.5gをイオヘキソール溶液8mLと混合した(180mg l/mL)、すなわち、液体粉末比0.43mL/g。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0118】
以下の表の結果は、硫酸カルシウムをベースにした骨代替物の硬化時間が、同じロットであるが異なる熱処理をしたHAを使用した場合どのように変化するかを示している。HA粉末のCSH硬化時間に対する遅延効果は、熱処理の温度および時間を増加させると短縮する。
【0119】
【表6】
【実施例8】
【0120】
不活性化中に使用した温度はpH/緩衝特性に対して効果を有し得る。
市販の焼結(1275℃で4時間)および微粒子化した未処理HA粉末(粒径分布:0.1〜20μm、平均粒径約5μm)を様々な温度(120〜900℃で10時間)で熱処理した。実施例1による試験において、長すぎる硬化時間特性を有するロットを同定した。
【0121】
熱処理後、様々なpHA試料をpH/緩衝試験で評価した。様々なHAロットはまた、硫酸カルシウム半水和物の硬化に対する効果を評価するために、セラミック粉末混合物に混合した。
【0122】
pH/緩衝試験によって、360℃までの熱処理はこの試験したロットのpH/緩衝能に影響を及ぼさないが、温度を900℃(10時間)まで上昇させると、粉末に影響を及ぼすことが示された。900℃で10時間熱処理したHA粉末はpHが上昇し、緩衝能も高まった(添加する酸が多ければ多いほどpHは低下した)。
【0123】
59.6重量%の合成によって生成したSCH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のHA(前記のように調製した)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)の混合物を、イオヘキソール(300mg l/mL)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物3.0gをイオヘキソール溶液1.5mlと混合した(すなわち、液体粉末比0.5mL/g)。これらの少量の試料の混合は、ビーカー内でスプーンを使用して60秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0124】
以下の表は、pHおよび緩衝能が同じHAロットの120から900℃の熱処理によってどのように影響を受けるかを示している。さらに、様々な温度で処理したHAロットを含むCSH/HA骨代替物の硬化時間の変動も表に示されている。結果によって、未処理HA粉末が硫酸カルシウム硬化時間に対して有する遅延効果は、未処理HAの熱処理に使用した温度が上昇すると低下することが示された。しかし、高すぎる温度(および長すぎる時間)は、pH/緩衝特性に関してHAの望ましくない特性を引き起こし得る。
【0125】
【表7】
【実施例9】
【0126】
不活性化前後のHA粉末を含有するCSH/HAをベースにした骨代替物への抗生物質セファゾリンの添加
CSH/HA骨代謝物の硬化性能に対する未処理HAの効果を評価するために、2つの異なる種類の骨代替物を調製した。いずれも同じ種類の市販の焼結(1275℃で4時間)および微粒子化した未処理HA粉末(粒径分布:0.1〜40μm、平均粒径約7μm)を含有した。得られたCSH/HA骨代替物は許容できる硬化結果をもたらしたので、HAロットは、実施例1で記載したような最初の予備試験後に選択した。HA粉末は未処理(未処理HA)で、および500℃で2時間熱処理した後(すなわち、不活性化で)使用した。この検討の目的は、セファゾリンと混合する前に未処理HAを不活性化した場合、抗生物質セファゾリンのCSH/HA材料に対する遅延効果が低下するかどうかを調べることである。
【0127】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したSCH(粒径分布:0.1から80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のHA(未処理または前記のように不活性化)および0.4重量%の促進剤硫酸カルシウム二水和物(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末は、イオヘキソール(180mg l/mL)およびセファゾリン1g(セラミック粉末相の5.4重量%に対応する)を含有する液相と混合した。セラミック粉末混合物18.5gをイオヘキソール/セファゾリン溶液8mLと混合した(すなわち、液体粉末比0.43mL/g)。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0128】
以下の表は、HAが不活性化されたか、またはされなかったかに応じた抗生物質セファゾリンの同じ骨代替物系に対する効果を示している。結果によって、未処理HAの不活性化は、抗生物質セファゾリンが存在する場合、硬化性能に大きな影響を及ぼすことが示される。不活性化しなかった場合、初期硬化時間は1時間近くであるが、未処理HA粉末を500℃で2時間不活性化した場合、<10分に短縮した。
【0129】
【表8】
【実施例10】
【0130】
抗生物質ゲンタマイシンをCSH/HA骨代替物に添加した場合、未処理HAの不活性化は硬化作用に大きな影響を及ぼす。
この検討では、同じ製造者の9つの異なる未処理HAロット(A〜I)を評価した。ロットは全て、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化することによって生成した。粒径サイズ分布および比表面積は9つの未処理HAロットで同様であった(平均粒径:約5μmおよびSSA:約1.5〜2m/g)。HA粉末は未処理HAとして、または500℃で2時間熱処理した後(すなわち、不活性化)のいずれかで使用した。この検討の目的は、ゲンタマイシンと混合する前にHAを不活性化した場合、抗生物質ゲンタマイシンのCSH/HA材料に対する遅延効果が低下するかどうかを調べることであった。
【0131】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したSCH(粒径分布:0.1〜40μmおよび平均粒径約5μm)、40.0重量%のハイドロキシアパタイト(未処理または前述の通りに不活性化)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末は、生理食塩水に溶解した硫酸ゲンタマイシンからなる液相と混合した。セラミック粉末混合物6.3gを生理食塩水/ゲンタマイシン溶液2.7mLと混合した(すなわち、液体粉末比0.43mL/g)。硫酸ゲンタマイシン128mg(ペーストをベースにして1.4重量%およびセラミック粉末をベースにして2.0重量%)を各試料に存在させた。
【0132】
少量の試料の混合は、ビーカー内でスプーンを使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0133】
以下の表は、硫酸カルシウム、液体および硫酸ゲンタマイシンの同じロットおよび割合を含有するがHAロットが異なる組成物の500℃で2時間の不活性化の前後の硬化時間を示している。ほとんど全ての組成物は、不活性化していないHAを使用した場合臨床的に不適切な硬化時間であったが、不活性化後に硬化時間は適切な値に短縮し、HAのどのロットを使用しても結果における差は少しだけであった。実施例によって、不活性化しないと9ロットのHAのうち1つだけがゲンタマイシンを添加した場合この特定の系の許容できる硬化特性をもたらし(初期硬化の許容できる基準≦15分)、一方、不活性化後は9つのHA試料全てが使用できた。結果によって、不活性化HAを使用しないと、ゲンタマイシンを含有するCSH/HA試料間の硬化性能のばらつきは大きいが、代わりに不活性化HAを使用した場合、結果はほとんど同じで、いずれも臨床的に適切であった。
【0134】
【表9】
【実施例11】
【0135】
抗生物質バンコマイシンをCSH/HA骨代替物に添加した場合、HAの不活性化は硬化作用に大きな影響を及ぼす。
【0136】
この検討では、HAの同じ製造者の3つの異なる未処理HAロット(A〜C)を評価した。ロットは全て、1275±50℃で4時間焼結し、その後微粒子化することによって生成した。粒径分布および比表面積は3つの未処理HAロットで同様であったが(平均粒径:約5μmおよびSSA:約1.5〜2m/g)、バンコマイシンおよびイオヘキソール溶液を使用する場合、硬化時間が極めて長いため(>1時間)どの未処理HAロットもCSH/HA骨代替物で使用することができなかった。この検討では、3つの異なる未処理HAロットの500℃で2時間の熱処理(すなわち、不活性化)が、バンコマイシンが存在する場合のセラミック骨代替物の硬化工程を促進することができるかどうかを調べた。
【0137】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のハイドロキシアパタイト(未処理または前述の通りに不活性化)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径分布:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末は、予め溶解した抗生物質バンコマイシン(粉末重量の2.7重量%に対応するバンコマイシン500mg)を含むイオヘキソール溶液(180mg l/mL)からなる液相と混合した。
【0138】
セラミック粉末混合物18.5gをイオヘキソール溶液/バンコマイシン溶液8mLと混合した(すなわち、液体粉末比0.43mL/g)。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0139】
以下の表は、CSH、CSD、液体およびバンコマイシン塩酸塩の同じロットおよび割合を含有するが、HAロットは異なる組成物の500℃で2時間の不活性化の前後の硬化時間を示している。組成物は全て、未処理HAを不活性化前に使用した場合臨床的に不適切な硬化時間であったが、不活性化後では硬化時間は適切な値に短縮した。結果は、HAを熱処理せずに使用した場合(未処理HA)、硬化は非常に遅延し、一方、未処理HA粉末を熱処理すると、CSH/HAペーストの硬化は著しく短くなることを示している。
【0140】
【表10】
【実施例12】
【0141】
「未処理」および不活性化HAの異なる貯蔵安定性
市販の焼結(1275℃で4時間)および微粒子化した未処理HA粉末(粒径分布:0.1〜40μm、平均粒径約7μm)を検討において調べた。粉末は未処理HAまたは500℃で2時間さらに熱処理した後(すなわち、不活性化)のいずれかで使用した。得られたCSH/HA骨代替物は許容できる硬化結果をもたらしたので、未処理HAロットは、実施例1で記載したような初期予備試験後に選択した。湿気に対する安定性を調べるために2種類のHA粉末を室温で多湿な環境(95〜100%RH)に2週間置いた。その後、CSH/HA骨代替物で使用し、様々なペーストの硬化性能を評価した。
【0142】
セラミック粉末混合物は、59.6重量%の合成によって生成したCSH(粒径分布:0.1〜80μmおよび平均粒径約9μm)、40.0重量%のハイドロキシアパタイト(未処理または前述の通りに不活性化)および0.4重量%の促進剤CSD(合成:粒径:0.1〜55μm)から構成された。セラミック粉末は、イオヘキソール溶液からなる液相と混合した。セラミック粉末混合物11.6gをイオヘキソール溶液(180mg l/mL)5mLと混合した、すなわち、液体粉末比0.43mL/g。混合は、特別に設計された混合注射装置(国際公開第2005/122971号パンフレット)を使用して30秒間実施した。得られたペーストの硬化作用は、ギルモア針を使用して評価した。
【0143】
以下の表は、HAを多湿な環境で貯蔵した前後の硬化性骨代替物で実現した硬化時間を示している。示したように、多湿な環境において未処理HAを貯蔵すると、不活性化HAを貯蔵して使用したときと比較して硬化性CSH/HA骨代替物で使用した場合の硬化時間の延長が引き起こされた。HAを不活性化しなかった場合、CS/HAペーストの硬化は遅延する。これらの結果は、不活性化HAが貯蔵に対してより耐性であることを示唆している。
【0144】
【表11】
【0145】
本発明による実施形態
1 不活性化結晶性ハイドロキシアパタイト粉末の調製方法であって、
a)第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)を用意するステップ、
b)前記第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)を約900℃までの温度で少なくとも5分間加熱して不活性化ハイドロキシアパタイト粉末(「不活性化HA」)を得るステップを含む方法。
【0146】
2 ステップb)の温度が100℃から900℃で10分から2週間の間、300℃から900℃で10分から10時間の間、300℃から600℃で1時間から4時間の間、好ましくは450℃から550℃で1時間半から2時間半の間である、実施形態1に記載の方法。
【0147】
3 ハイドロキシアパタイト(HA)が化学式(Ca10(PO(OH))であり、水の存在下で水和せず、前記第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)が、
1)ハイドロキシアパタイトを900℃を上回る温度、例えば、900℃から1350℃の間で焼結すること、および
2)前記焼結ハイドロキシアパタイトを微粒子化して前記第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)を得ること
によって生成したものである、実施形態1または実施形態2に記載の方法。
【0148】
4 不活性化ハイドロキシアパタイト粉末の粒径が、D(v、0.99)<1000μm、好ましくは<200μm、より好ましくは<100μm、例えば<50μmであり、および/または比表面積が、BETで測定したとき、<20m/g、好ましくは<10m/gである、実施形態1乃至3のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
5 不活性化ハイドロキシアパタイトの結晶性含量が>90%、好ましくは>95%、例えば>99%である、実施形態1乃至4のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
6 前記第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)の500℃で2時間の熱処理(すなわち不活性化)によって、前記不活性化ハイドロキシアパタイト粉末、硫酸カルシウム粉末および水性液体を含む第1の硬化性骨代替物ペーストの硬化時間を、前記第1のハイドロキシアパタイト粉末(「未処理HA」)、前記硫酸カルシウム粉末および前記水性液体を同一の量および同一条件下で含む第2の硬化性骨代替物ペーストと比較して、3分以上(ギルモア針で測定したISTおよびFST)、例えば、5分以上または10分以上短縮する、実施形態1乃至5のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
7 第1の硬化性骨代替物ペーストの硬化時間が外科的治療を含む臨床治療において使用するための許容範囲内である、実施形態6に記載の方法。
【0152】
8 実施形態1乃至7のいずれか1つに記載の方法によって得ることができる不活性化ハイドロキシアパタイト粉末。
【0153】
9 硫酸カルシウムをさらに含む、硬化性骨代替物で使用するための実施形態8に記載の不活性化ハイドロキシアパタイト粉末。
【0154】
10 硫酸カルシウムが硫酸カルシウム半水和物である、実施形態9に記載の不活性化ハイドロキシアパタイト粉末。
【0155】
11 硫酸カルシウム粉末、例えば硫酸カルシウム半水和物粉末、および水性液体をさらに含む硬化性骨代替物ペーストにおいて使用するための、実施形態9または実施形態10に記載の不活性化ハイドロキシアパタイト粉末。
【0156】
12 ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))が水と反応しない、実施形態8乃至11のいずれか1つに記載の不活性化ハイドロキシアパタイト粉末。
【0157】
13 硫酸カルシウム粉末、例えば硫酸カルシウム半水和物粉末を含む硬化性骨代替物組成物における、実施形態1乃至7のいずれか1つに記載の方法によって得ることができる不活性化ハイドロキシアパタイト粉末の使用。
【0158】
14 硫酸カルシウム粉末、例えば硫酸カルシウム半水和物粉末、および水性液体を含む硬化性骨代替物ペーストにおける、実施形態1乃至7のいずれか1つに記載の方法によって得ることができる不活性化ハイドロキシアパタイト粉末の使用。
【0159】
15 ハイドロキシアパタイト粉末および硫酸カルシウム粉末を含む即使用可能な硬化性骨代替物粉末の調製方法であって、
a)不活性化ハイドロキシアパタイト粉末を用意するステップ、
b)硫酸カルシウム粉末を用意するステップ、および
c)適切な比で2つの粉末を混合するステップを含む方法。
【0160】
16 不活性化ハイドロキシアパタイト粉末が実施形態8乃至12のいずれか1つに記載の粉末である、実施形態15に記載の方法。
【0161】
17 即使用可能な硬化性骨代替物粉末がさらに促進剤、例えば、硫酸カルシウム二水和物、および/または適切な塩、例えば、塩化物塩もしくは硫酸塩などの無機、例えば塩化ナトリウムを含む、実施形態15または実施形態16に記載の方法。
【0162】
18 前記即使用可能な硬化性骨代替物粉末および水性液体を含む第1の硬化性骨代替物ペーストの硬化時間が、ハイドロキシアパタイト粉末(第1のハイドロキシアパタイト粉末と同じロット由来)が不活性化されていない(「未処理HA」)こと以外は第1の硬化性骨代替物ペーストと同一である第2の硬化性骨代替物ペーストの硬化時間と比較して、3分以上(ギルモア針で測定したISTおよびFST)、例えば、5分以上または10分以上短縮する、実施形態15乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【0163】
19 前記第1の硬化性骨代替物ペーストの硬化時間(ISTおよびFSTの両方)が外科的治療を含む臨床治療において使用するために適切な範囲内である、実施形態18に記載の方法。
【0164】
20 実施形態8乃至12のいずれか1つに記載の不活性化ハイドロキシアパタイト粉末および硫酸カルシウム粉末を含む即使用可能な硬化性骨代替物粉末。
【0165】
21 硫酸カルシウム粉末が硫酸カルシウム半水和物粉末である、実施形態20に記載の粉末。
【0166】
22 不活性化ハイドロキシアパタイト粉末が粉末成分の全重量の20〜80重量%の範囲で存在し、硫酸カルシウム半水和物が粉末成分の全重量の80〜20重量%の範囲で存在する、実施形態20または実施形態21に記載の粉末。
【0167】
23 適切な量の促進剤、例えば、粉末成分の全重量の10重量%まで、例えば、5重量%まで、2重量%または1重量%までの硫酸カルシウム二水和物粉末をさらに含む、実施形態20乃至22のいずれか1つに記載の粉末。
【0168】
24 a)35〜45重量%の不活性化ハイドロキシアパタイト、
b)55〜65重量%の硫酸カルシウム半水和物、
c)0〜2重量%の硫酸カルシウム二水和物、および
d)0〜10重量%のその他の成分から構成される実施形態23に記載の粉末。
【0169】
25 水性液体と混合した実施形態20乃至24のいずれか1つに記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末を含む硬化性骨代替物ペースト。
【0170】
26 液体粉末比(L/P)が0.2から0.6ml/gの範囲、例えば0.3から0.5ml/gの範囲である、実施形態25に記載の硬化性骨代替物ペースト。
【0171】
27 水性液体が水である、実施形態25または実施形態26に記載の骨代替物ペースト。
【0172】
28 水性液体が、適切な塩、例えば、塩化物塩または硫酸塩などの無機塩、例えば塩化ナトリウム、好ましくは0.9重量%の塩化ナトリウムを含む、実施形態25乃至27のいずれか1つに記載の骨代替物ペースト。
【0173】
29 水性液体が水溶性非イオン性X線造影剤を含む、実施形態25乃至28のいずれか1つに記載の骨代替物ペースト。
【0174】
30 ペーストが、抗生物質(抗真菌薬を含む)、化学療法薬、ビタミン、ホルモン、細胞分裂阻害剤、ビスホスホネート、成長因子、骨治癒プロモーター、タンパク質、ペプチド、骨髄吸引液、多血小板血漿および鉱質除去した骨からなる群から選択される1種または複数種の生理活性剤を含む、実施形態25乃至29のいずれか1つに記載の骨代替物ペースト。
【0175】
31 1種または複数種の抗生剤が、アミノグリコシド抗生物質の群、ペニシリンの群、セファロスポリンの群、抗真菌薬の群、リファンピシンまたはクリンダマイシンに属する、実施形態30に記載の骨代替物ペースト。
【0176】
32 抗生剤が、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、リファンピシン、クリンダマイシン、ニスタチン、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ケトコナゾールおよびミコナゾールからなる群から選択される、実施形態31に記載の骨代替物ペースト。
【0177】
33 即使用可能な硬化性骨代替物粉末と水性液体を混合する前に生理活性剤を即使用可能な硬化性骨代替物粉末または水性液体と混合するか、あるいは即使用可能な硬化性骨代替物粉末を水性液体と混合した後で生理活性剤をペーストに添加する、実施形態30乃至32のいずれか1つに記載の骨代替物ペースト。
【0178】
34 骨代替物ペーストが注射可能な骨代替物ペーストである、実施形態25乃至33のいずれか1つに記載の骨代替物ペースト。
【0179】
35 使用前に即使用可能な硬化性骨代替物粉末を水性液体と混合する、実施形態25乃至34のいずれか1つに記載の硬化性骨代替物ペーストの調製方法。
【0180】
36 臨床治療、例えば外科的治療において医薬品として使用するための、実施形態20乃至24のいずれか1項に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末または実施形態25乃至34のいずれか1つに記載の硬化性骨代替物ペースト。
【0181】
37 欠損した骨組織の再生および/または骨感染の治療によるヒトまたは非ヒト対象における支持組織の障害の治療において使用するための、実施形態20乃至24のいずれか1項に記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末または実施形態25乃至34のいずれか1つに記載の硬化性骨代替物ペースト。
【0182】
38 障害が、骨量減少、骨折、骨外傷および骨髄炎などの症状から選択される、実施形態37に記載の即使用可能な骨代替物粉末またはペースト。
【0183】
39 実施形態20乃至24のいずれか1つに記載の即使用可能な硬化性骨代替物粉末、混合注射一体型装置および任意選択で適切な水性液体を含む、注射可能な硬化性骨代替物ペーストを調製するためのキット。
40 1種または複数種の非イオン性X線造影剤、抗生物質、抗真菌薬、化学療法薬、ビタミン、ホルモン、細胞分裂阻害剤、ビスホスホネート、成長因子、骨治癒プロモーター、タンパク質、ペプチド、骨髄吸引液、多血小板血漿および/または鉱質除去した骨などの1種または複数種の生理活性剤、任意選択の指示書からなる群から選択された1種または複数種の品目をさらに含み、該品目が1つまたは複数の別々の容器に含まれている実施形態39に記載のキット。
【0184】
41 1種または複数種の抗生剤が、アミノグリコシド抗生物質の群、ペニシリンの群またはセファロスポリンの群または抗真菌剤の群、またはリファンピシンもしくはクリンダマイシンに属し、好ましくは、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、リファンピシン、クリンダマイシン、ニスタチン、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ケトコナゾールおよびミコナゾールからなる群から選択される、実施形態40に記載のキット。
【0185】
42 適切な時間で硬化するために実施形態25乃至35のいずれか1つに記載の骨代替物ペーストを放置することを含む、硬化した骨代替物の生成方法。
【0186】
43 特注の形態を含むビーズまたはより大きな形態などの硬化した骨代替物が型内で硬化するか、または手作業で形作られる、実施形態42に記載の方法。
【0187】
44 実施形態42または実施形態43に記載の方法によって得られる硬化した骨代替物。
図1
図2
図3
図4