特許第6352955号(P6352955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社キャタラーの特許一覧

特許6352955燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法
<>
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000003
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000004
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000005
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000006
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000007
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000008
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000009
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000010
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000011
  • 特許6352955-燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352955
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒、及び燃料電池用電極触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20180625BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20180625BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20180625BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180625BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180625BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20180625BHJP
【FI】
   H01M4/86 B
   H01M4/96 M
   H01M4/92
   H01M4/90 M
   H01M4/88 K
   !H01M8/10 101
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-2877(P2016-2877)
(22)【出願日】2016年1月8日
(65)【公開番号】特開2017-123312(P2017-123312A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2017年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180862
【弁理士】
【氏名又は名称】花井 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】永見 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】菅田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長島 真也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 幹裕
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−007050(JP,A)
【文献】 特開2011−249226(JP,A)
【文献】 特開平10−214630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体と、該カーボン担体に担持された白金及びPt3Coを含有する触媒金属とを含み、該カーボン担体が2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有し、該触媒金属が2.7〜5.0 nmの範囲の白金の(220)面の結晶子径を有し、白金に対する金属間化合物の形態のPt3CoのXRDのピーク高さの比が0.03〜0.08の範囲である、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有するカーボン担体を得る、カーボン担体準備工程;
カーボン担体準備工程によって得られたカーボン担体と、白金の塩及びPt3Coを形成するコバルトの塩を、コバルトの塩に対する白金の塩のモル比が2〜3.5の範囲で含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる触媒金属塩担持工程;
触媒金属塩担持工程によって得られた触媒金属材料を担持したカーボン担体を、600〜1000℃の範囲の温度で焼成して白金及びコバルトを合金化させる、合金化工程;
を含む、前記方法。
【請求項4】
金化工程における焼成温度が650〜750℃の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
合金化工程によって得られた触媒金属を硝酸水溶液で処理する、硝酸処理工程をさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得る。燃料電池の発電に伴って生じる生成物は、原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどない、クリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、アノード(燃料極)側に水素を含む燃料ガスを、カソード(空気極)側に酸素を含む酸化ガスを、それぞれ供給することにより、起電力を得る。ここで、アノード側では下記の(1)式に示す酸化反応が、カソード側では下記の(2)式に示す還元反応が進行し、全体として(3)式に示す反応が進行して外部回路に起電力を供給する。
H2→2H++2e- (1)
(1/2)O2+2H++2e-→H2O (2)
H2+(1/2)O2→H2O (3)
【0004】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)及び固体酸化物型(SOFC)等に分類される。このうち、PEFC及びPAFCにおいては、カーボン担体等の導電性の担体と、該導電性の担体に担持された白金又は白金合金等の触媒活性を有する触媒金属の粒子とを有する電極触媒を使用することが一般的である。
【0005】
電極触媒に使用されるカーボン担体は、通常は、その表面に800 m2/g程度の高比表面積、すなわち低結晶性のグラファイト構造を有する。高比表面積の表面には、触媒金属の粒子を高分散に担持し得る。それ故、高比表面積のカーボン担体を使用することにより、結果として得られる電極触媒の質量活性を向上し得る。
【0006】
例えば、特許文献1は、導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒であって、前記触媒粒子の組成(モル)比は白金:コバルト=3:1〜5:1であることを特徴とする燃料電池用電極触媒を記載する。当該文献は、前記導電性担体は好ましくは比表面積50〜1000 m2/gのファーネストカーボン若しくはアセチレンブラックであることを記載する。また、当該文献は、市販の比表面積(約800 m2/g)のカーボンブラック粉末を用いて前記燃料電池用電極触媒を製造した結果を記載する。
【0007】
特許文献2は、白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子型燃料電池用触媒において、前記触媒粒子の白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33であり、前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo-Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒を記載する。当該文献は、炭素微粉末(比表面積約900 m2/g)を担体とする白金担持率46.5質量%の白金触媒を用いて前記固体高分子型燃料電池用触媒を製造した結果を記載する。
【0008】
特許文献3は、白金原子および非白金金属原子を有する合金粒子であり、非白金金属原子−非白金金属原子の結合数の平均値に対する非白金金属原子−白金原子の結合数の平均値の比が2.0以上である、燃料電池用電極触媒粒子、並びに該燃料電池用電極触媒粒子が導電性担体に担持されてなる、燃料電池用電極触媒を記載する。当該文献は、前記導電性担体は、好ましくは比表面積が10〜5000 m2/gであることを記載する。また、当該文献は、カーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KettjenBlackEC300J、平均粒子径:40 nm、BET比表面積:800 m2/g、ライオン株式会社製)を用いて前記燃料電池用電極触媒を製造した結果を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/119640号
【特許文献2】特開2014-007050号公報
【特許文献3】特開2015-035356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
燃料電池の運転条件下において、電極触媒のカーボン担体は、下記の(4)式に示す反応によって電気化学的に酸化される。当該酸化反応に伴い、カーボン担体を構成する炭素原子から変換された二酸化炭素は、該カーボン担体から離脱する。
C+2H2O→CO2+4H++4e- (4)
【0011】
前記式(4)の反応の酸化還元電位は、約0.2 Vである。このため、燃料電池の運転条件下において、前記式(4)の反応は徐々に進行し得る。その結果、燃料電池を長期に亘って運転する場合、カーボン担体における炭素の減少に伴う電極の「痩せ」が観察される場合がある。電極の「痩せ」が発生すると、燃料電池の性能低下をもたらす可能性がある。前記式(4)の反応は、高結晶性のグラファイト構造の炭素において進行が抑制される。それ故、高結晶性のグラファイト構造を有するカーボン担体は、一般的に、前記(4)の酸化反応に対する耐久性が高い。
【0012】
カーボン担体の比表面積を向上させるためには、該カーボン担体の表面構造を改変する必要がある。しかしながら、カーボン担体の表面構造を改変すると、該表面のグラファイト構造に乱れが生じ得る。すなわち、カーボン担体の比表面積を向上させることにより、結果として該カーボン担体の耐酸化性が低下し得る。カーボン担体の比表面積と、該カーボン担体における触媒金属の担持サイトの数との間には、一定の相関関係が存在する。カーボン担体の比表面積が低下する場合、該カーボン担体に担持される触媒金属の分散性が低下し得る。この場合、結果として得られる電極触媒の活性が低下する可能性がある。以上のように、高結晶性のカーボン担体を使用する燃料電池用電極触媒は、活性及び耐久性の観点から、性能向上の余地が存在した。
【0013】
それ故、本発明は、燃料電池用電極触媒において、高い活性と高い耐久性とを両立する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、所定の範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び比表面積を有するカーボン担体に白金及び白金合金を所定の割合で含有する触媒金属を担持させることにより、活性及び耐久性のいずれをも向上し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) カーボン担体と、該カーボン担体に担持された白金及び白金合金を含有する触媒金属とを含み、該カーボン担体が2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有し、該触媒金属が2.7〜5.0 nmの範囲の白金の(220)面の結晶子径を有し、白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比が0.03〜0.08の範囲である、燃料電池用電極触媒。
(2) 白金合金が白金とコバルトとの合金である、前記(1)に記載の燃料電池用電極触媒。
(3) 前記(1)又は(2)に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
(4) 前記(1)又は(2)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有するカーボン担体を得る、カーボン担体準備工程;
カーボン担体準備工程によって得られたカーボン担体と、白金の塩及び白金合金を形成するさらなる金属の塩を、さらなる金属の塩に対する白金の塩のモル比が2〜3.5の範囲で含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる触媒金属塩担持工程;
触媒金属塩担持工程によって得られた触媒金属材料を担持したカーボン担体を、600〜1000℃の範囲の温度で焼成して白金及びさらなる金属を合金化させる、合金化工程;
を含む、前記方法。
(5) 白金合金が白金とコバルトとの合金であり、合金化工程における焼成温度が650〜750℃の範囲である、前記(4)に記載の方法。
(6) 合金化工程によって得られた触媒金属を硝酸水溶液で処理する、硝酸処理工程をさらに含む、前記(4)又は(5)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、燃料電池用電極触媒において、高い活性と高い耐久性とを両立する手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価において、80%の相対湿度における0.1 A/cm2の時点の電圧値を示す図である。
図2図2は、実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価において、80%の相対湿度における3.5 A/cm2の時点の電圧値を示す図である。
図3図3は、実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価において、30%の相対湿度における0.1 A/cm2の時点の電圧値を示す図である。
図4図4は、実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価において、30%の相対湿度における2.5 A/cm2の時点の電圧値を示す図である。
図5図5は、実施例1〜8、並びに比較例1、4及び5の電極触媒の製造におけるコバルト塩担持後の合金化時の熱処理温度(合金化温度)又はPtに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係を示す図である。A:合金化温度とRDE評価による比活性との関係;B:Ptに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係。
図6図6は、実施例4の電極触媒のXRDを示す図である。
図7図7は、比較例1及び実施例4の電極触媒の高分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)による観察画像を示す図である。A:比較例1の電極触媒のSTEM画像;B:実施例4の電極触媒のSTEM画像。
図8図8は、実施例4及び比較例1の電極触媒の高電位耐久評価結果を示す図である。A:165%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m);B:80%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m);C:30%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)。
図9図9は、Pt-Coの温度相関図(Desk Handbook, Phase Diagrams for Binary Alloys, Hiroaki Okamoto, ASM INTERNATIONAL, The Materials Information Society)を示す図である。
図10図10は、異なる合金化温度で調製した電極触媒における合金化温度とPt(220)結晶子径及びPtに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比との関係を示す図である。図中、黒塗り菱形は、Pt(220)結晶子径を、白抜き菱形は、Ptに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
<1. 燃料電池用電極触媒>
本発明は、燃料電池用電極触媒に関する。
【0020】
本発明の燃料電池用電極触媒は、カーボン担体と、該カーボン担体に担持された白金(Pt)及び白金合金を含有する触媒金属とを含むことが必要である。
【0021】
従来、燃料電池用電極触媒において、触媒金属を高分散に担持することによって活性を向上することを目的として、高比表面積を有するカーボン担体が使用された。一般に、カーボン担体は、その表面にグラファイトの結晶構造が発達している。そして、グラファイトの結晶性が高くなる程、グラファイトの結晶層の厚さが増加する。グラファイトの結晶層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査透過型電子顕微鏡(STEM)画像に基づき決定されるだけでなく、X線回折(XRD)スペクトルに基づき決定される炭素の(002)面の結晶子サイズ(Lc)によっても表される。
【0022】
燃料電池用電極触媒において、カーボン担体のLcは、カーボン担体の表面に形成されたグラファイト構造自体を表す物性値である。燃料電池の運転条件下において、カーボン担体の酸化は、グラファイト構造と比較して、非グラファイト構造の部分においてより進行しやすいと予想された。また、カーボン担体におけるグラファイト構造部分の酸化は、低結晶性の部分においてより進行しやすいと予想された。燃料電池用電極触媒において、カーボン担体の酸化が進行すると、触媒金属粒子の移動及び/又は凝集を引き起こす可能性がある。電極触媒の触媒金属粒子が移動及び/又は凝集して粗大化すると、該触媒金属の活性が低下する可能性がある。
【0023】
このため、グラファイト構造の存在比が高く、且つ結晶性が高いカーボン担体を用いることにより、燃料電池用電極触媒の耐久性(例えば高い耐酸化性)を向上させることができると考えられる。しかしながら、高結晶性のカーボン担体は、一般的に比表面積が低い。それ故、燃料電池用電極触媒において、高い活性及び高い耐久性を両立することは困難であった。
【0024】
本発明者らは、燃料電池用電極触媒の製造において、所定の範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び比表面積を有するカーボン担体に白金及び白金合金を所定の割合で含有する触媒金属を担持させることにより、高担持量の触媒金属を有し、且つ耐酸化性の高い燃料電池用電極触媒が得られることを見出した。
【0025】
なお、本発明の燃料電池用電極触媒におけるカーボン担体の耐酸化性は、例えば、該電極触媒の高電位耐久試験の結果に基づき評価することができる。また、本発明の燃料電池用電極触媒の活性は、例えば、該電極触媒のMEA評価試験の結果に基づき評価することができる。
【0026】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体は、2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ(Lc)を有することが必要である。前記Lcは、2.4〜3.5 nmの範囲であることが好ましく、2.4〜3.2 nmの範囲であることがより好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体のLcが前記範囲の場合、耐酸化性が高く、且つ/又は、高担持量の触媒金属を有する電極触媒を得ることができる。
【0027】
前記Lcは、例えば、以下の方法で決定することができる。XRD装置を用いて、燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体のXRDを測定する。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、炭素の(002)面のLcを決定する。
【0028】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体は、400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有することが必要である。前記比表面積は、400〜500 m2/gの範囲であることが好ましく、400〜450 m2/gの範囲であることがより好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体の比表面積が400 m2/g未満の場合、該カーボン担体に担持された白金及び白金合金を含有する触媒金属における白金の(220)面の結晶子径が大きくなり、結果として得られる燃料電池用電極触媒の活性が低下する可能性がある。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体の比表面積が700 m2/g超の場合、該カーボン担体に担持された白金及び白金合金を含有する触媒金属における白金の(220)面の結晶子径が小さくなり、触媒金属自体の耐久性が低下する可能性がある。それ故、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体の比表面積が前記範囲の場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0029】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体の比表面積は、例えば、比表面積測定装置を用いて、ガス吸着法に基づき本発明の燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体のBET比表面積を測定することにより、決定することができる。
【0030】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属は、2.7〜5.0 nmの範囲の白金の(220)面の結晶子径を有することが必要である。前記白金の(220)面の結晶子径は、2.9〜4.0 nmの範囲であることが好ましく、2.9〜3.5 nmの範囲であることがより好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属が前記上限値未満の白金の(220)面の結晶子径を有する場合、触媒金属が高分散で担持された電極触媒を得ることができる。また、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属が前記下限値超の白金の(220)面の結晶子径を有する場合、触媒金属自体の耐久性が高い電極触媒を得ることができる。それ故、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属が前記範囲の白金の(220)面の結晶子径を有する場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0031】
一般に、燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属において、白金の(220)面の結晶子径は、以下の要因によって変動し得る。すなわち、燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体の比表面積が小さいほど、白金の(220)面の結晶子径は大きくなる。燃料電池用電極触媒に含まれる白金の担持量が増加するほど、白金の(220)面の結晶子径は大きくなる。また、燃料電池用電極触媒の製造において、白金の担持後の熱処理温度を高くするほど、白金の(220)面の結晶子径は大きくなる。前記範囲の白金の(220)面の結晶子径を有する触媒金属を得るための具体的な条件は、前記の要因を考慮して、予め予備実験を行って各条件の相関関係を取得しておき、該相関関係を適用することによって決定することができる。このような手段により、前記範囲の白金の(220)面の結晶子径を有する触媒金属を得ることができる。
【0032】
前記白金の(220)面の結晶子径は、例えば、以下の方法で決定することができる。XRD装置を用いて、燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属のXRDを測定する。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、白金の(220)面の結晶子径を決定する。また、白金の(220)面の結晶子径は、(111)面のような白金の他の格子面の結晶子径との間に一定の相関関係を有する。それ故、前記白金の(220)面の結晶子径は、(111)面のような白金の他の格子面の結晶子径に基づき算出してもよい。
【0033】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属は、白金(Pt)及び白金合金を含有することが必要である。前記白金合金は、通常は、Pt及び1種以上のさらなる金属からなる。この場合、白金合金を形成する1種以上のさらなる金属としては、コバルト(Co)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、並びにガドリニウム(Gd)、ランタン(La)及びセリウム(Ce)等のランタノイド元素を挙げることができる。前記1種以上のさらなる金属は、Co、Au、Pd、Ni、Mn、Cu、Ti、Ta又はNbが好ましく、Coがより好ましい。好ましくは、前記白金合金は、Pt3Coである。また、本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属は、好ましくは白金合金を主成分とするコア及びPtを主成分とするシェルを含むコアシェル構造を有し、より好ましくはPt3Co規則合金を主成分とするコア及びPtを主成分とするシェルを含むコアシェル構造を有する。本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属がPt及び前記1種以上のさらなる金属からなる白金合金を含有する場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0034】
本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属は、白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比が0.03〜0.08の範囲であることが必要である。白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比は、0.03〜0.07の範囲であることが好ましい。白金合金を形成する1種以上のさらなる金属がCoの場合、金属間化合物の形態の白金合金は、通常はPt3Coである。白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比が前記範囲の場合、本発明の燃料電池用電極触媒は前記組成及び構造を備える触媒金属を含むことができる。
【0035】
本発明の燃料電池用電極触媒は、前記の特徴を有する触媒金属を、電極触媒の総質量に対して30〜50質量%の範囲の担持量で含むことが好ましく、30〜40質量%の範囲の担持量で含むことがより好ましく、35〜40質量%の範囲の担持量で含むことがさらに好ましい。燃料電池用電極触媒を燃料電池のカソードとして使用する場合、通常は約10 μmの厚さに成形される。燃料電池用電極触媒に含まれるカーボン担体として嵩密度が低いカーボン担体を使用する場合、所望の厚さを達成するためには、高担持量の触媒金属を含む必要がある。それ故、前記範囲の担持量で触媒金属を含む本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池のカソードとして好適に使用することができる。
【0036】
前記触媒金属の組成及び担持量は、例えば、王水を用いて、電極触媒から触媒金属を溶解させた後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて該溶液中の触媒金属イオンを定量することにより、決定することができる。触媒金属における白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比は、例えば、触媒金属のXRDを測定し、白金及び金属間化合物の形態の白金合金に固有のピークのピーク高さの比を算出することにより、決定することができる。また、触媒金属における白金及び金属間化合物の形態の白金合金の構造は、例えば、TEM又はSTEM画像に基づき決定することができる。
【0037】
本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池のカソード及びアノードのいずれにも適用することができる。それ故、本発明はまた、本発明の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池にも関する。本発明の燃料電池用電極触媒は、高担持量の触媒金属が高分散で担持されており、且つ/又は耐酸化性が高い。それ故、本発明の燃料電池用電極触媒を備える本発明の燃料電池は、高い発電能力を有するだけでなく、長期に亘る使用においても高い耐久性を発揮することができる。本発明の燃料電池を自動車等の用途に適用することにより、長期に亘る使用においても、安定的に高い性能を発揮することができる。
【0038】
<2. 燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明はまた、前記で説明した本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。
【0039】
[2-1. カーボン担体準備工程]
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有するカーボン担体を得る、カーボン担体準備工程を含むことが必要である。
【0040】
本工程において使用されるカーボン担体材料は、当該技術分野で通常使用されるカーボン担体材料であれば特に限定されない。好適なカーボン担体材料は、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)、CA250(比表面積:250 m2/g;デンカ社製)、FX35(比表面積:130 m2/g;デンカ社製)、及びアルゴン中で1600℃、2時間の条件でグラファイト化したケッチェン(比表面積:223 m2/g)である。各種カーボン担体材料を使用することにより、前記特徴を有するカーボン担体を得ることができる。
【0041】
本工程において使用されるカーボン担体材料が2.0〜3.5 nmの範囲の炭素の(002)面の結晶子サイズ及び400〜700 m2/gの範囲の比表面積を有する場合、該カーボン担体材料をそのままの状態で以下の工程に使用することができる。或いは、本工程において使用されるカーボン担体材料が前記特徴を有していない場合、該カーボン担体材料を酸素存在下で熱酸化処理することによってカーボン担体材料を酸化することが好ましい。この場合、熱酸化処理の条件は、使用されるカーボン担体材料、並びに所望のLc及び比表面積に基づき適宜設定することができる。例えば、熱酸化処理温度は、500〜600℃の範囲であることが好ましく、500〜540℃の範囲であることがより好ましい。前記熱酸化処理温度における熱酸化処理の時間は、2〜8時間の範囲であることが好ましく、3〜5時間の範囲であることがより好ましい。前記熱酸化処理は、酸素を含むガス存在下で実施されることが好ましく、空気存在下で実施されることがより好ましい。前記条件で熱酸化処理を実施することにより、前記で説明した特徴を有するカーボン担体を得ることができる。
【0042】
[2-2. 触媒金属塩担持工程]
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、カーボン担体準備工程によって得られたカーボン担体と、白金の塩及び白金合金を形成するさらなる金属の塩を含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる触媒金属塩担持工程を含むことが必要である。
【0043】
本工程において使用される触媒金属材料に含有される白金の塩は、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸のような白金含有錯体又はヘキサヒドロキソ白金アンミン錯体であることが好ましい。また、本工程において使用される触媒金属材料に含有される、白金合金を形成するさらなる金属の塩は、該さらなる金属と硝酸又は酢酸との塩であることが好ましく、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸ニッケル又は酢酸マンガンであることがより好ましい。
【0044】
本工程において使用される触媒金属材料は、白金の塩及び白金合金を形成するさらなる金属の塩を、さらなる金属の塩に対する白金の塩のモル比が2〜3.5の範囲で含有することが必要である。前記モル比で白金の塩及び白金合金を形成するさらなる金属の塩を含有することにより、結果として得られる本発明の燃料電池用電極触媒に含まれる触媒金属における白金及び白金合金の組成を所望の範囲とすることができる。
【0045】
本工程は、コロイド法又は析出沈殿法等のような、当該技術分野で通常使用される反応を用いることにより、実施することができる。
【0046】
本工程において、カーボン担体と、白金の塩及び白金合金を形成するさらなる金属の塩を含有する触媒金属材料とを反応させる順序は特に限定されない。好ましくは、カーボン担体と白金の塩とを反応させ、次いで白金合金を形成するさらなる金属の塩と反応させる。本実施形態の場合、カーボン担体と白金の塩とを反応させた後、該反応物を、不活性ガス存在下で熱処理することが好ましい。この場合、前記熱処理温度は、600〜1000℃の範囲であることが好ましく、650〜750℃の範囲であることがより好ましい。前記熱処理温度における熱処理の時間は、1〜6時間の範囲であることが好ましく、1〜2時間の範囲であることがより好ましい。前記不活性ガスは、アルゴン、窒素又はヘリウムであることが好ましく、アルゴンであることがより好ましい。本工程において、カーボン担体と白金の塩とを反応させた後、該反応物を前記条件で熱処理することにより、白金の塩から金属形態の白金を形成させることができる。
【0047】
[2-3. 合金化工程]
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、触媒金属塩担持工程によって得られた触媒金属材料を担持したカーボン担体を焼成して白金及びさらなる金属を合金化させる、合金化工程を含むことが必要である。
【0048】
本工程において、触媒金属材料を担持したカーボン担体を焼成する温度は、600〜1000℃の範囲であることが必要である。前記焼成の温度は、650〜750℃の範囲であることが好ましい。さらなる金属がコバルトの場合、本工程における焼成温度を650〜750℃の範囲とすることにより、白金とコバルトとの合金を形成させることができる。前記焼成の時間は、1〜6時間の範囲であることが好ましく、1〜3時間の範囲であることがより好ましい。前記焼成は、不活性ガス存在下で実施されることが好ましい。前記不活性ガスは、アルゴン、窒素又はヘリウムであることが好ましく、アルゴンであることがより好ましい。本工程において、触媒金属材料を担持したカーボン担体を前記条件で焼成することにより、さらなる金属の塩から白金及びさらなる金属を合金化させて、金属形態の白金及び白金合金を形成させることができる。また、触媒金属塩担持工程が、カーボン担体と白金の塩とを反応させた後、該反応物を前記条件で熱処理して、次いで白金合金を形成するさらなる金属の塩と反応させる実施形態の場合、続いて前記条件で本工程を実施することにより、白金合金を主成分とするコア及びPtを主成分とするシェルを含むコアシェル構造を有する触媒金属を形成させることができる。
【0049】
[2-4. 硝酸処理工程]
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、場合により、合金化工程によって得られた触媒金属を硝酸水溶液で処理する、硝酸処理工程をさらに含むことができる。合金化工程によって得られた触媒金属を硝酸水溶液で処理することにより、触媒金属に残留するさらなる金属の酸化物及び/又は触媒金属の表面に存在する白金合金を形成するさらなる金属の少なくとも一部を除去することができる。これにより、プロトン伝導を阻害し得るさらなる金属のイオンの形成を実質的に防止することができる。また、前記で説明したコアシェル構造を有する触媒金属を形成させることができる。
【0050】
本工程において使用される硝酸水溶液は、0.1〜2 Nの範囲の濃度であることが好ましい。硝酸処理の温度は、40〜80℃の範囲であることが好ましい。また、硝酸処理の時間は、0.5〜24時間の範囲であることが好ましい。前記条件で本工程を実施することにより、プロトン伝導を阻害し得るさらなる金属のイオンの形成を実質的に防止することができる。また、前記で説明したコアシェル構造を有する触媒金属を形成させることができる。
【0051】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法により、前記で説明した特徴を有する、高い活性及び高い耐久性を備える燃料電池用電極触媒を得ることが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
<I. 電極触媒の調製>
[I-1-1. 実施例1]
アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量した。これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて500℃まで昇温した後、500℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た。得られたカーボン担体12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して40質量%のPt担持量となるPt仕込み量(8 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)した(触媒金属塩担持工程)。得られた40質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が2となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)して合金化した(合金化工程)。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た(硝酸処理工程)。
【0054】
[I-1-2. 実施例2]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を510℃に変更し、且つジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液の添加量を、最終生成物の総質量に対して30質量%のPt担持量となるPt仕込み量(5.14 g)のPtを含む量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0055】
[I-1-3. 実施例3]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を510℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0056】
[I-1-4. 実施例4]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0057】
[I-1-5. 実施例5]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.1となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を650℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0058】
[I-1-6. 実施例6]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.4となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を750℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0059】
[I-1-7. 実施例7]
実施例1において、アセチレンブラックをCA250(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0060】
[I-1-8. 実施例8]
実施例1において、アセチレンブラックをCA250(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0061】
[I-1-9. 実施例9]
実施例4において、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が2.2となる量に変更した他は、実施例4と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0062】
[I-1-10. 実施例10]
実施例1において、アセチレンブラックをFX35(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0063】
[I-1-11. 実施例11]
実施例1において、アセチレンブラックをグラファイト化したケッチェンに変更し、加熱処理温度を400℃に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0064】
[I-1-12. 実施例12]
実施例1において、アセチレンブラックをグラファイト化したケッチェンに変更し、加熱処理温度を430℃に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0065】
[I-2-1. 比較例1]
カーボンOSAB(比表面積:800 m2/g;デンカ社製)12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して50質量%のPt担持量となるPt仕込み量(12 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、800℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、800℃で2時間保持)した。得られた50質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が4.5となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、800℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、800℃で2時間保持)して合金化した。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た。
【0066】
[I-2-2. 比較例2]
アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)20 gを1 N 硝酸水溶液に分散させて、80℃、21時間処理した。得られた分散液を濾過し、残渣を乾燥して、カーボン担体を得た。得られたカーボン担体12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して40質量%のPt担持量となるPt仕込み量(8 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)した。得られた40質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が2となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)して合金化した。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た。
【0067】
[I-2-3. 比較例3]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が4となる量に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0068】
[I-2-4. 比較例4]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を600℃に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0069】
[I-2-5. 比較例5]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を800℃に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0070】
[I-2-6. 比較例6]
比較例1において、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液の添加量を、最終生成物の総質量に対して30質量%のPt担持量となるPt仕込み量(5.14 g)のPtを含む量に変更し、且つ且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を800℃に変更した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0071】
<II. 電極触媒の評価方法>
[II-1. カーボン担体の炭素の(002)面の結晶子サイズ(Lc)]
XRD装置(Rint2500;リガク製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒の調製に用いた触媒金属担持前のカーボン担体のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである:Cu管球、50 kV、300 mA。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、炭素の(002)面の結晶子サイズを決定した。
【0072】
[II-2. カーボン担体の比表面積]
比表面積測定装置(BELSORP-mini;日本ベル製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒の調製に用いた触媒金属担持前のカーボン担体の、ガス吸着法に基づくBET比表面積(m2/g)を測定した。測定条件は、以下のとおりである:前処理:150℃、2時間真空脱気;測定:定容法を用いた窒素による吸着等温線の測定。
【0073】
[II-3. 触媒金属の担持量測定]
王水を用いて、所定量の実施例及び比較例の電極触媒から触媒金属を溶解させた。誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(ICPV-8100;島津製作所製)を用いて、得られた溶液中の触媒金属イオンを定量した。前記定量値から、電極触媒に担持された触媒金属(Pt及びCo)の担持量(電極触媒の総質量に対する質量%)を決定した。
【0074】
[II-4. 白金の(220)面の結晶子径]
XRD装置(Rint2500;リガク製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである:Cu管球、50 kV、300 mA。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、白金の(220)面の結晶子径を決定した。
【0075】
[II-5. 白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比]
II-1と同様の手順及び測定条件で、実施例及び比較例の電極触媒のXRDを測定した。得られたXRDスペクトルに基づき、白金(Pt)に相当するピーク高さ及び金属間化合物の形態の白金合金(Pt3Co)に相当するピーク高さから、白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比を決定した。
【0076】
[II-6. 電極触媒の電子顕微鏡観察]
走査透過型電子顕微鏡(STEM)(JEM-2100F;日本電子製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒のカーボン担体の表面を観察した。湿式分散法を用いて、各電極触媒の試料を調製し、加速電圧200 kV、倍率10,000,000倍で、電極触媒粒子の構造を観察した。
【0077】
[II-7. 電極触媒のMEA評価]
1 gの電極触媒を水に懸濁した。この懸濁液に、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)DE2020溶液(デュポン社製)、及びエタノールを添加した。得られた懸濁液を、一晩攪拌した後、超音波ホモジナイザを用いて分散処理することにより、インク溶液を調製した。インク溶液中の各成分は、アイオノマ/カーボン担体の質量比が0.65、水/(エタノール+水)の質量比が8、インク溶液/カーボン担体の質量比が28となるように添加した。前記インク溶液を、スプレー法によって所定のPt目付量となるようにナフィオン(登録商標)電解質膜の表面に塗工して、カソードを作製した。このカソードに、ホットプレス法によってアノードを接合して、MEAを作製した。アノードには、電極触媒として30% Ptを担持したケッチェンブラック(登録商標)を、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)DE2020を、それぞれ使用した。アノードのPt目付量は0.05 mg/cm2,アイオノマ/カーボン担体の質量比は1.0とした。得られたMEAの両極相対湿度を100%に調整した状態で、アノードに水素(0.5 L/min)を、カソードに空気(2 L/min)を、それぞれ流通した。電流密度0.1 A/cm2から電圧値0.2 Vを下回らない高電流密度域まで4回の慣らし運転を実施した。MEAの両極相対湿度を30%に調整した後、IV性能を測定した。次いで、MEAの両極相対湿度を80%に調整した後、IV性能を測定した。
【0078】
[II-8. 電極触媒のRDE評価]
4〜5 mgの電極触媒を1 mlの水に懸濁した。この懸濁液に、アイオノマとして所定量のナフィオン(登録商標)DE2020溶液(デュポン社製)、及び8.5 mlのエタノールを添加した。得られた懸濁液を、超音波ホモジナイザを用いて分散処理することにより、インク溶液を調製した。前記インク溶液を、マイクロシリンジに吸い込んだ。回転させた作用電極上に、マイクロシリンジからインク溶液を吐出させた。その後、インク溶液を乾燥させることにより、カソードを塗工した作用電極を作製した。得られた作用電極を、RDE評価装置に設置した。電解液として0.1 N HClO4溶液を、参照極として水素電極を、それぞれ使用した。窒素をバブリングしながら、50及び1200 mVの電位サイクルを600サイクル繰り返してクリーニングを行った。その後、酸素のバブリングに切り替え、2500、1600、900及び400 rpmの条件下で作用極を回転させて、酸素還元電流を測定した。得られた測定値と、質量活性及び電気化学表面積(ECSA)とから、比活性を算出した。
【0079】
[II-9. 電極触媒の高電位耐久評価]
II-7と同様の手順で、MEAを作製した。得られたMEAを用いて、II-7と同様の手順で慣らし運転を実施した。その後、MEAの両端相対湿度を100%に調整した状態で、アノードに水素(0.5 L/min)を、カソードに窒素(2 L/min)を、それぞれ流通した。ポテンショスタットによって、アノードに対してカソードに1.3 V印加した状態で2時間保持した(高電位耐久)。その後、MEAの両極相対湿度を165%に調整した後、カソードガスを1% O2/N2(2 L/min)に切り替え、0.95及び0.1 Vの間のIVスイープを7サイクル実施した。7サイクルの時点の最大電流密度の値から、ガス拡散抵抗を算出した。次いで、MEAの両極相対湿度を80%に調整した後、同様の手順でガス拡散抵抗を算出した。さらに、MEAの両極相対湿度を30%に調整した後、同様の手順でガス拡散抵抗を算出した。
【0080】
<III. 電極触媒の評価結果>
[III-1. 電極触媒の調製条件及び物性値]
実施例及び比較例の電極触媒の調製条件の概要及び該電極触媒の物性値を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例1は、2 nm以下のLcを有するカーボン、すなわち、従来使用されていた典型的な高比表面積のカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。比較例1の電極触媒に使用されるカーボン担体は、Lcが1.8 nmという小さい値である。それ故、比較例1の電極触媒は、カーボン担体の結晶性が低く、カーボン担体の耐酸化性が十分でないと推測される。
【0083】
比較例2は、400 m2/g以下の比表面積を有するカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、実施例の電極触媒に使用されるカーボン材料であるアセチレンブラックYSを硝酸処理することによって、比表面積を141 m2/gまで拡大した。比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、比較例1の電極触媒に使用されるカーボン担体と比較して高いLc値を有することから、結晶性が高い。他方、比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、低い比表面積を有することから、該カーボン担体に担持された触媒金属のPt(220)結晶子径は、5 nmを超える値となった。それ故、比較例2の電極触媒は、触媒活性が十分ではなかった。
【0084】
比較例3は、電極触媒の製造において、Coに対するPtのモル比が3.5を超える条件で白金塩及びコバルト塩を使用する方法によって得られた電極触媒である。比較例3の電極触媒は、白金合金であるPt3Coの形成が不十分であった。
【0085】
比較例4及び5は、電極触媒の製造において、コバルト塩担持後の合金化時の熱処理温度をそれぞれ650℃未満又は750℃超の温度とする方法によって得られた電極触媒である。比較例4及び5の電極触媒は、いずれも白金合金であるPt3Coの形成が不十分であった。
【0086】
比較例6は、500 m2/g超の比表面積を有するカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。該カーボン担体に担持された触媒金属のPt(220)結晶子径は、2.7 nm未満の値となった。それ故、比較例6の電極触媒は、触媒活性の耐久性が十分ではなかった。
【0087】
実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価結果を図1〜4にそれぞれ示す。図1及び2は、80%の相対湿度における0.1 A/cm2又は3.5 A/cm2の時点の電圧値を、図3及び4は、30%の相対湿度における0.1 A/cm2又は2.5 A/cm2の時点の電圧値を、それぞれ示す。実施例1〜4の電極触媒におけるPt目付量は約0.2 mg/cm2であり、比較例1の電極触媒におけるPt目付量は0.38 mg/cm2であった。実施例1〜4の電極触媒は、比較例1の電極触媒と比較してPt目付量が低いにもかかわらず、低電流密度における電圧値は比較例1の電極触媒の電圧値と同等の値を示し(図1及び3)、高電流密度における電圧値は比較例1の電極触媒の電圧値より高い値を示した(図2及び4)。
【0088】
実施例1〜8、並びに比較例1、4及び5の電極触媒の製造におけるコバルト塩担持後の合金化時の熱処理温度(合金化温度)又はPtに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係を図5に示す。図中、Aは、合金化温度とRDE評価による比活性との関係を、Bは、Ptに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係と、それぞれ示す。RDE評価による比活性は、Pt単位表面積あたりの反応電流値を意味する。また、実施例4〜6、並びに比較例4及び5の電極触媒は、いずれも同一のカーボン担体に同一のPt担持量(40質量%)で触媒金属が担持されているが、該電極触媒の製造における合金化温度がそれぞれ異なる。図5に示すように、従来技術(比較例1)の電極触媒の比活性(357 A/cm2)と比較して、最も高い比活性を示した実施例4の比活性値は約2倍(720 A/cm2)となった。このように、実施例の電極触媒は高い比活性を有することから、比較例1の電極触媒と比較してPt目付量が低いにもかかわらず、MEA評価において比較例1の電極触媒と同等又はそれ以上の性能を示したと推測される(図1〜4)。
【0089】
実施例4の電極触媒のXRDを図6に示す。図6に示すように、実施例4の電極触媒のXRDにおいて、Pt3Coに固有のピークが検出された。また、比較例1及び実施例4の電極触媒の高分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)による観察画像を図7に示す。図中、Aは、比較例1の電極触媒のSTEM画像を、Bは、実施例4の電極触媒のSTEM画像を、それぞれ示す。図7Aに示すように、比較例1の電極触媒のSTEM画像において、Ptの結晶構造が観察された。この結果から、比較例1の電極触媒においては、Ptの結晶構造中にCoが固溶した合金状態の触媒金属が形成されたと推測される。他方、図7Bに示すように、実施例4の電極触媒のSTEM画像において、Pt3Co規則合金をコアとする構造が観察された。図6及び7の結果から、実施例の電極触媒が高活性を示したことは、Pt3Co規則合金をコアとする構造を有する触媒金属が形成されたことに起因すると推測される。
【0090】
実施例4及び比較例1の電極触媒の高電位耐久評価結果を図8に示す。図中、Aは、165%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、Bは、80%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、Cは、30%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、それぞれ示す。図8に示すように、いずれの場合も、比較例1の電極触媒の抵抗値と比較して、実施例4の電極触媒の抵抗値は低い値を示した。前記結果は、カーボン担体の結晶性が高いことに起因すると推測される。
【0091】
前記で説明した結果の如く、Pt3Co規則合金をコアとする構造を有する触媒金属の形成、及び触媒金属におけるPt(220)結晶子径の最適化には、触媒金属が担持されるカーボン担体として、所定の範囲の比表面積を有するカーボン担体を使用することが重要である。
【0092】
Pt-Coの温度相関図(Desk Handbook, Phase Diagrams for Binary Alloys, Hiroaki Okamoto, ASM INTERNATIONAL, The Materials Information Society)を図9に示す。図9に示すように、Pt3Coが形成される温度は、600〜750℃の範囲である。実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が2となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理を550、575、600、625、650、675、700、750、800、850又は900℃の熱処理温度で5時間保持する条件に変更した他は、実施例1と同様の手順で、複数の電極触媒の粉末を得た。得られた電極触媒の合金化温度とPt(220)結晶子径及びPtに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比との関係を図10に示す。図中、黒塗り菱形は、Pt(220)結晶子径を、白抜き菱形は、Ptに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比を、それぞれ示す。図10に示すように、合金化温度が650〜750℃の範囲でPtに対するPt3CoのXRDのピーク高さの比が高くなった。この結果から、図9の相関図から予測されるように、合金化温度が650〜750℃の範囲でPt3Coが多く形成されたことが示された。また、この結果は、図5に示す、650〜750℃の範囲の合金化温度で製造された電極触媒が高い比活性を示した結果ともよく一致する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10