【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
<I. 電極触媒の調製>
[I-1-1. 実施例1]
アセチレンブラックYS(比表面積:105 m
2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量した。これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて500℃まで昇温した後、500℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た。得られたカーボン担体12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して40質量%のPt担持量となるPt仕込み量(8 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)した(触媒金属塩担持工程)。得られた40質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が2となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)して合金化した(合金化工程)。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た(硝酸処理工程)。
【0054】
[I-1-2. 実施例2]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を510℃に変更し、且つジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液の添加量を、最終生成物の総質量に対して30質量%のPt担持量となるPt仕込み量(5.14 g)のPtを含む量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0055】
[I-1-3. 実施例3]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を510℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0056】
[I-1-4. 実施例4]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0057】
[I-1-5. 実施例5]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.1となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を650℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0058】
[I-1-6. 実施例6]
実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.4となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を750℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0059】
[I-1-7. 実施例7]
実施例1において、アセチレンブラックをCA250(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0060】
[I-1-8. 実施例8]
実施例1において、アセチレンブラックをCA250(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0061】
[I-1-9. 実施例9]
実施例4において、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が2.2となる量に変更した他は、実施例4と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0062】
[I-1-10. 実施例10]
実施例1において、アセチレンブラックをFX35(デンカ社製)に変更し、加熱処理温度を510℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理温度を670℃に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0063】
[I-1-11. 実施例11]
実施例1において、アセチレンブラックをグラファイト化したケッチェンに変更し、加熱処理温度を400℃に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0064】
[I-1-12. 実施例12]
実施例1において、アセチレンブラックをグラファイト化したケッチェンに変更し、加熱処理温度を430℃に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が3.5となる量に変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0065】
[I-2-1. 比較例1]
カーボンOSAB(比表面積:800 m
2/g;デンカ社製)12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して50質量%のPt担持量となるPt仕込み量(12 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、800℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、800℃で2時間保持)した。得られた50質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が4.5となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、800℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、800℃で2時間保持)して合金化した。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た。
【0066】
[I-2-2. 比較例2]
アセチレンブラックYS(比表面積:105 m
2/g;SN2A社製)20 gを1 N 硝酸水溶液に分散させて、80℃、21時間処理した。得られた分散液を濾過し、残渣を乾燥して、カーボン担体を得た。得られたカーボン担体12 gに、0.1 N硝酸水溶液1500 gを加えて分散させた。この分散液に、最終生成物の総質量に対して40質量%のPt担持量となるPt仕込み量(8 g)のPtを含むジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、99.5%エタノール100 gの順に加えた。この混合物を、実質的に均質となるように十分に撹拌した後、60〜95℃、3時間の条件で加熱した。加熱終了後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)した。得られた40質量%Pt担持カーボン担体を、その総質量に対して80倍の質量の純水に分散させた。この分散液に、硝酸コバルト水溶液を、Coに対するPtのモル比が2となる量まで滴下した。前記硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させることによって調製した。硝酸コバルト水溶液の滴下後、得られた混合物に、純水で希釈した水素化ホウ素ナトリウムを、Coに対するモル比が1〜6の範囲となる量まで滴下した。水素化ホウ素ナトリウムの滴下後、得られた混合物を1〜20時間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を、濾過排液の導電率が5 μS/cm以下になるまで、繰返し濾過及び洗浄した。得られた固形分を、80℃で15時間送風乾燥した。乾燥後の粉末を、アルゴンガス中、700℃で熱処理(条件:5℃/minで昇温、700℃で2時間保持)して合金化した。次いで、得られた粉末を、0.1〜2 N硝酸水溶液中、40〜80℃、0.5〜24時間の条件で処理して、電極触媒の粉末を得た。
【0067】
[I-2-3. 比較例3]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m
2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つ硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が4となる量に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0068】
[I-2-4. 比較例4]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m
2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を600℃に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0069】
[I-2-5. 比較例5]
比較例2において、カーボン担体の調製を、アセチレンブラックYS(比表面積:105 m
2/g;SN2A社製)10 gを磁性皿に秤量し、これを電気炉内に入れ、1.5時間かけて540℃まで昇温した後、540℃で5時間加熱して、カーボン担体を得た方法に変更し、且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を800℃に変更した他は、比較例2と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0070】
[I-2-6. 比較例6]
比較例1において、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液の添加量を、最終生成物の総質量に対して30質量%のPt担持量となるPt仕込み量(5.14 g)のPtを含む量に変更し、且つ且つコバルト塩担持後の工程の熱処理温度を800℃に変更した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0071】
<II. 電極触媒の評価方法>
[II-1. カーボン担体の炭素の(002)面の結晶子サイズ(Lc)]
XRD装置(Rint2500;リガク製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒の調製に用いた触媒金属担持前のカーボン担体のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである:Cu管球、50 kV、300 mA。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、炭素の(002)面の結晶子サイズを決定した。
【0072】
[II-2. カーボン担体の比表面積]
比表面積測定装置(BELSORP-mini;日本ベル製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒の調製に用いた触媒金属担持前のカーボン担体の、ガス吸着法に基づくBET比表面積(m
2/g)を測定した。測定条件は、以下のとおりである:前処理:150℃、2時間真空脱気;測定:定容法を用いた窒素による吸着等温線の測定。
【0073】
[II-3. 触媒金属の担持量測定]
王水を用いて、所定量の実施例及び比較例の電極触媒から触媒金属を溶解させた。誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(ICPV-8100;島津製作所製)を用いて、得られた溶液中の触媒金属イオンを定量した。前記定量値から、電極触媒に担持された触媒金属(Pt及びCo)の担持量(電極触媒の総質量に対する質量%)を決定した。
【0074】
[II-4. 白金の(220)面の結晶子径]
XRD装置(Rint2500;リガク製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである:Cu管球、50 kV、300 mA。得られたXRDスペクトルに基づき、Scherrerの式を用いて、白金の(220)面の結晶子径を決定した。
【0075】
[II-5. 白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比]
II-1と同様の手順及び測定条件で、実施例及び比較例の電極触媒のXRDを測定した。得られたXRDスペクトルに基づき、白金(Pt)に相当するピーク高さ及び金属間化合物の形態の白金合金(Pt3Co)に相当するピーク高さから、白金に対する金属間化合物の形態の白金合金のXRDのピーク高さの比を決定した。
【0076】
[II-6. 電極触媒の電子顕微鏡観察]
走査透過型電子顕微鏡(STEM)(JEM-2100F;日本電子製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒のカーボン担体の表面を観察した。湿式分散法を用いて、各電極触媒の試料を調製し、加速電圧200 kV、倍率10,000,000倍で、電極触媒粒子の構造を観察した。
【0077】
[II-7. 電極触媒のMEA評価]
1 gの電極触媒を水に懸濁した。この懸濁液に、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)DE2020溶液(デュポン社製)、及びエタノールを添加した。得られた懸濁液を、一晩攪拌した後、超音波ホモジナイザを用いて分散処理することにより、インク溶液を調製した。インク溶液中の各成分は、アイオノマ/カーボン担体の質量比が0.65、水/(エタノール+水)の質量比が8、インク溶液/カーボン担体の質量比が28となるように添加した。前記インク溶液を、スプレー法によって所定のPt目付量となるようにナフィオン(登録商標)電解質膜の表面に塗工して、カソードを作製した。このカソードに、ホットプレス法によってアノードを接合して、MEAを作製した。アノードには、電極触媒として30% Ptを担持したケッチェンブラック(登録商標)を、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)DE2020を、それぞれ使用した。アノードのPt目付量は0.05 mg/cm
2,アイオノマ/カーボン担体の質量比は1.0とした。得られたMEAの両極相対湿度を100%に調整した状態で、アノードに水素(0.5 L/min)を、カソードに空気(2 L/min)を、それぞれ流通した。電流密度0.1 A/cm
2から電圧値0.2 Vを下回らない高電流密度域まで4回の慣らし運転を実施した。MEAの両極相対湿度を30%に調整した後、IV性能を測定した。次いで、MEAの両極相対湿度を80%に調整した後、IV性能を測定した。
【0078】
[II-8. 電極触媒のRDE評価]
4〜5 mgの電極触媒を1 mlの水に懸濁した。この懸濁液に、アイオノマとして所定量のナフィオン(登録商標)DE2020溶液(デュポン社製)、及び8.5 mlのエタノールを添加した。得られた懸濁液を、超音波ホモジナイザを用いて分散処理することにより、インク溶液を調製した。前記インク溶液を、マイクロシリンジに吸い込んだ。回転させた作用電極上に、マイクロシリンジからインク溶液を吐出させた。その後、インク溶液を乾燥させることにより、カソードを塗工した作用電極を作製した。得られた作用電極を、RDE評価装置に設置した。電解液として0.1 N HClO
4溶液を、参照極として水素電極を、それぞれ使用した。窒素をバブリングしながら、50及び1200 mVの電位サイクルを600サイクル繰り返してクリーニングを行った。その後、酸素のバブリングに切り替え、2500、1600、900及び400 rpmの条件下で作用極を回転させて、酸素還元電流を測定した。得られた測定値と、質量活性及び電気化学表面積(ECSA)とから、比活性を算出した。
【0079】
[II-9. 電極触媒の高電位耐久評価]
II-7と同様の手順で、MEAを作製した。得られたMEAを用いて、II-7と同様の手順で慣らし運転を実施した。その後、MEAの両端相対湿度を100%に調整した状態で、アノードに水素(0.5 L/min)を、カソードに窒素(2 L/min)を、それぞれ流通した。ポテンショスタットによって、アノードに対してカソードに1.3 V印加した状態で2時間保持した(高電位耐久)。その後、MEAの両極相対湿度を165%に調整した後、カソードガスを1% O
2/N
2(2 L/min)に切り替え、0.95及び0.1 Vの間のIVスイープを7サイクル実施した。7サイクルの時点の最大電流密度の値から、ガス拡散抵抗を算出した。次いで、MEAの両極相対湿度を80%に調整した後、同様の手順でガス拡散抵抗を算出した。さらに、MEAの両極相対湿度を30%に調整した後、同様の手順でガス拡散抵抗を算出した。
【0080】
<III. 電極触媒の評価結果>
[III-1. 電極触媒の調製条件及び物性値]
実施例及び比較例の電極触媒の調製条件の概要及び該電極触媒の物性値を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
比較例1は、2 nm以下のLcを有するカーボン、すなわち、従来使用されていた典型的な高比表面積のカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。比較例1の電極触媒に使用されるカーボン担体は、Lcが1.8 nmという小さい値である。それ故、比較例1の電極触媒は、カーボン担体の結晶性が低く、カーボン担体の耐酸化性が十分でないと推測される。
【0083】
比較例2は、400 m
2/g以下の比表面積を有するカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、実施例の電極触媒に使用されるカーボン材料であるアセチレンブラックYSを硝酸処理することによって、比表面積を141 m
2/gまで拡大した。比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、比較例1の電極触媒に使用されるカーボン担体と比較して高いLc値を有することから、結晶性が高い。他方、比較例2の電極触媒に使用されるカーボン担体は、低い比表面積を有することから、該カーボン担体に担持された触媒金属のPt(220)結晶子径は、5 nmを超える値となった。それ故、比較例2の電極触媒は、触媒活性が十分ではなかった。
【0084】
比較例3は、電極触媒の製造において、Coに対するPtのモル比が3.5を超える条件で白金塩及びコバルト塩を使用する方法によって得られた電極触媒である。比較例3の電極触媒は、白金合金であるPt
3Coの形成が不十分であった。
【0085】
比較例4及び5は、電極触媒の製造において、コバルト塩担持後の合金化時の熱処理温度をそれぞれ650℃未満又は750℃超の温度とする方法によって得られた電極触媒である。比較例4及び5の電極触媒は、いずれも白金合金であるPt
3Coの形成が不十分であった。
【0086】
比較例6は、500 m
2/g超の比表面積を有するカーボンをカーボン担体として使用する電極触媒である。該カーボン担体に担持された触媒金属のPt(220)結晶子径は、2.7 nm未満の値となった。それ故、比較例6の電極触媒は、触媒活性の耐久性が十分ではなかった。
【0087】
実施例1〜4及び比較例1の電極触媒のMEA評価結果を
図1〜4にそれぞれ示す。
図1及び2は、80%の相対湿度における0.1 A/cm
2又は3.5 A/cm
2の時点の電圧値を、
図3及び4は、30%の相対湿度における0.1 A/cm
2又は2.5 A/cm
2の時点の電圧値を、それぞれ示す。実施例1〜4の電極触媒におけるPt目付量は約0.2 mg/cm
2であり、比較例1の電極触媒におけるPt目付量は0.38 mg/cm
2であった。実施例1〜4の電極触媒は、比較例1の電極触媒と比較してPt目付量が低いにもかかわらず、低電流密度における電圧値は比較例1の電極触媒の電圧値と同等の値を示し(
図1及び3)、高電流密度における電圧値は比較例1の電極触媒の電圧値より高い値を示した(
図2及び4)。
【0088】
実施例1〜8、並びに比較例1、4及び5の電極触媒の製造におけるコバルト塩担持後の合金化時の熱処理温度(合金化温度)又はPtに対するPt
3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係を
図5に示す。図中、Aは、合金化温度とRDE評価による比活性との関係を、Bは、Ptに対するPt
3CoのXRDのピーク高さの比とRDE評価による比活性との関係と、それぞれ示す。RDE評価による比活性は、Pt単位表面積あたりの反応電流値を意味する。また、実施例4〜6、並びに比較例4及び5の電極触媒は、いずれも同一のカーボン担体に同一のPt担持量(40質量%)で触媒金属が担持されているが、該電極触媒の製造における合金化温度がそれぞれ異なる。
図5に示すように、従来技術(比較例1)の電極触媒の比活性(357 A/cm
2)と比較して、最も高い比活性を示した実施例4の比活性値は約2倍(720 A/cm
2)となった。このように、実施例の電極触媒は高い比活性を有することから、比較例1の電極触媒と比較してPt目付量が低いにもかかわらず、MEA評価において比較例1の電極触媒と同等又はそれ以上の性能を示したと推測される(
図1〜4)。
【0089】
実施例4の電極触媒のXRDを
図6に示す。
図6に示すように、実施例4の電極触媒のXRDにおいて、Pt
3Coに固有のピークが検出された。また、比較例1及び実施例4の電極触媒の高分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)による観察画像を
図7に示す。図中、Aは、比較例1の電極触媒のSTEM画像を、Bは、実施例4の電極触媒のSTEM画像を、それぞれ示す。
図7Aに示すように、比較例1の電極触媒のSTEM画像において、Ptの結晶構造が観察された。この結果から、比較例1の電極触媒においては、Ptの結晶構造中にCoが固溶した合金状態の触媒金属が形成されたと推測される。他方、
図7Bに示すように、実施例4の電極触媒のSTEM画像において、Pt
3Co規則合金をコアとする構造が観察された。
図6及び7の結果から、実施例の電極触媒が高活性を示したことは、Pt
3Co規則合金をコアとする構造を有する触媒金属が形成されたことに起因すると推測される。
【0090】
実施例4及び比較例1の電極触媒の高電位耐久評価結果を
図8に示す。図中、Aは、165%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、Bは、80%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、Cは、30%の相対湿度における耐久後のガス拡散抵抗(s/m)を、それぞれ示す。
図8に示すように、いずれの場合も、比較例1の電極触媒の抵抗値と比較して、実施例4の電極触媒の抵抗値は低い値を示した。前記結果は、カーボン担体の結晶性が高いことに起因すると推測される。
【0091】
前記で説明した結果の如く、Pt
3Co規則合金をコアとする構造を有する触媒金属の形成、及び触媒金属におけるPt(220)結晶子径の最適化には、触媒金属が担持されるカーボン担体として、所定の範囲の比表面積を有するカーボン担体を使用することが重要である。
【0092】
Pt-Coの温度相関図(Desk Handbook, Phase Diagrams for Binary Alloys, Hiroaki Okamoto, ASM INTERNATIONAL, The Materials Information Society)を
図9に示す。
図9に示すように、Pt
3Coが形成される温度は、600〜750℃の範囲である。実施例1において、アセチレンブラックYSの加熱処理温度を540℃に変更し、硝酸コバルト水溶液の添加量を、Coに対するPtのモル比が2となる量に変更し、且つコバルト塩担持後の合金化工程の熱処理を550、575、600、625、650、675、700、750、800、850又は900℃の熱処理温度で5時間保持する条件に変更した他は、実施例1と同様の手順で、複数の電極触媒の粉末を得た。得られた電極触媒の合金化温度とPt(220)結晶子径及びPtに対するPt
3CoのXRDのピーク高さの比との関係を
図10に示す。図中、黒塗り菱形は、Pt(220)結晶子径を、白抜き菱形は、Ptに対するPt
3CoのXRDのピーク高さの比を、それぞれ示す。
図10に示すように、合金化温度が650〜750℃の範囲でPtに対するPt
3CoのXRDのピーク高さの比が高くなった。この結果から、
図9の相関図から予測されるように、合金化温度が650〜750℃の範囲でPt
3Coが多く形成されたことが示された。また、この結果は、
図5に示す、650〜750℃の範囲の合金化温度で製造された電極触媒が高い比活性を示した結果ともよく一致する。