(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項1に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料、電池、および硫化物固体電解質材料の製造方法について、詳細に説明する。
【0015】
A.硫化物固体電解質材料
まず、本発明の硫化物固体電解質材料について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料は、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=25.19°±1.00°、29.62°±1.00°、30.97°±1.00°の位置にピークを有し、Li
(4+x)Al
xSi
(1−x)S
4(0<x<1)の組成を有することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、特定のピークを有する結晶相を備えるため、Liイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。また、上記結晶相は、通常、Li元素、Al元素、Si元素およびS元素から構成されるため、次のような利点がある。例えば、LiGePS系の硫化物固体電解質材料が知られているが、Ge元素は耐還元性が比較的低く、高コストであるという課題を有し、P元素は化学的安定性が低く(例えば揮発性が高く)、高温での加熱処理が難しいという課題を有する。Al元素およびSi元素は、資源量が豊富であるため低コストであるという利点を有し、Si元素は化学的安定性が高いという利点を有する。そのため、例えば、Ge元素およびP元素の代わりにAl元素およびSi元素を用いることで、低コストで化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0017】
本発明の硫化物固体電解質材料は、X線回折測定における特定の位置にピークを有する結晶相を備える。この結晶相は、アルジロダイト(Argyrodite)構造の結晶相である。硫化物固体電解質材料の結晶性にもよるが、上記結晶相は、通常、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、25.19°±1.00°、29.62°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°、51.70°±1.00°に特徴的なピークを有する。また、相対的に強度の低いピークも含めた場合、上記結晶相は、通常、2θ=54.26°±1.00°、58.35°±1.00°、60.72°±1.00°、61.50°±1.00°、70.46°±1.00°、72.61°±1.00°にも特徴的なピークを有する。なお、これらのピーク位置は、材料組成等によって結晶格子が若干変化するため、±1.00°の範囲内とした。各ピークの位置は、±0.50°の範囲内であっても良く、±0.30°の範囲内であっても良い。
【0018】
本発明の硫化物固体電解質材料は、上記結晶相を主体として含有することが好ましい。硫化物固体電解質材料の全結晶相に対する上記結晶相の割合は、例えば、50重量%以上であり、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。上記結晶相の割合は、例えば、シンクロトロンXRDにより測定することができる。
【0019】
本発明の硫化物固体電解質材料は、通常、Li
(4+x)Al
xSi
(1−x)S
4(0<x<1)の組成を有する。この組成は、Li
4SiS
4およびLi
5AlS
4の固溶体の組成に該当する。すなわち、この組成は、
図1に示すように、Li
4SiS
4およびLi
5AlS
4のタイライン上の組成に該当する。
2Li
2S+SiS
2→Li
4SiS
4
5Li
2S+Al
2S
3→2Li
5AlS
4
(1−x)Li
4SiS
4+xLi
5AlS
4→Li
(4+x)Al
xSi
(1−x)S
4
【0020】
また、Li
(4+x)Al
xSi
(1−x)S
4におけるxは、通常、0より大きく、0.01以上であっても良く、0.05以上であっても良く、0.08以上であっても良い。一方、上記xは、通常、1より小さく、0.7以下であっても良く、0.5以下であっても良く、0.3以下であっても良い。
【0021】
本発明の硫化物固体電解質材料は、Liイオン伝導性が高いことが好ましい。25℃における硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度は、例えば、1×10
−4S/cm以上であることが好ましい。また、本発明の硫化物固体電解質材料の形状は、特に限定されるものではないが、例えば粒子状を挙げることができる。さらに、硫化物固体電解質材料の平均粒径(D
50)は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明の硫化物固体電解質材料は、良好なLiイオン伝導性を有するため、Liイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本発明の硫化物固体電解質材料は、電池に用いられることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。また、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法については、後述する「C.硫化物固体電解質材料の製造方法」で詳細に説明する。
【0023】
B.電池
次に、本発明の電池について説明する。
図2は、本発明の電池の一例を示す概略断面図である。
図2における電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池とすることができる。
以下、本発明の電池について、構成ごとに説明する。
【0025】
1.正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、正極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。正極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内であり、1体積%〜60体積%の範囲内であることが好ましく、10体積%〜50体積%の範囲内であることがより好ましい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO
2、LiMnO
2、Li
2NiMn
3O
8、LiVO
2、LiCrO
2、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiNiO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等を挙げることができる。
【0026】
正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、正極活物質層は、結着材を含有していても良い。結着材の種類としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
2.負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、負極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。負極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内であり、1体積%〜60体積%の範囲内であることが好ましく、10体積%〜50体積%の範囲内であることがより好ましい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。
【0028】
なお、負極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
3.電解質層
本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層は、イオンの伝導を行うことができる層であれば特に限定されるものではないが、固体電解質材料から構成される固体電解質層であることが好ましい。電解液を用いる電池に比べて、安全性の高い電池を得ることができるからである。さらに、本発明においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%〜100体積%の範囲内であり、50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内である。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。なお、本発明における電解質層は、電解液から構成される層であっても良い。
【0030】
4.その他の構成
本発明の電池は、上述した正極活物質層、電解質層および負極活物質層を少なくとも有する。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができ、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0031】
5.電池
本発明の電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明の電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本発明の電池の製造方法は、上述した電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、本発明の電池が全固体電池である場合、その製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0032】
C.硫化物固体電解質材料の製造方法
次に、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法は、上述した硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記硫化物固体電解質材料の構成成分を含有する原料組成物を準備する準備工程と、上記原料組成物を加熱し、急冷する加熱急冷工程と、を有することを特徴とする。
【0033】
図3は、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示す説明図である。
図3では、まず、Li
2S、P
2S
5およびAl
2S
3を混合することにより、原料組成物を準備する。この際、空気中の水分によって原料組成物が劣化することを防止するために、不活性ガス雰囲気下で原料組成物を作製することが好ましい。次に、原料組成物を加熱し、急冷することで、硫化物固体電解質材料を得る。
【0034】
本発明によれば、原料組成物に対して加熱急冷を行うことで、Liイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。
以下、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0035】
1.準備工程
本発明における準備工程は、上記硫化物固体電解質材料の構成成分を含有する原料組成物を準備する工程である。
【0036】
本発明における原料組成物は、Li元素、Al元素、Si元素およびS元素を含有する。Li元素を含有する原料としては、例えば、Liの硫化物を挙げることができる。Liの硫化物としては、具体的にはLi
2Sを挙げることができる。Al元素を含有する原料としては、例えば、Alの単体、Alの硫化物等を挙げることができる。Alの硫化物としては、具体的にはAl
2S
3等を挙げることができる。Si元素を含有する原料としては、例えば、Siの単体、Siの硫化物等を挙げることができる。Siの硫化物としては、具体的にはSiS
2等を挙げることができる。
【0037】
本発明においては、各原料を混合することで原料組成物が得られる。各原料の割合は、目的とする硫化物固体電解質材料の組成を考慮して、適宜調整することが好ましい。原料を混合する方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料を粉砕しながら混合する方法が好ましい。より均一な原料組成物を得ることができるからである。原料を粉砕しながら混合する方法としては、例えば、振動ミル等を挙げることができる。
【0038】
2.加熱急冷工程
本発明における加熱急冷工程は、上記原料組成物を加熱し、急冷する工程である。急冷を行うことで、アルジロダイト構造を有する上記結晶相を固定化することができる。
【0039】
加熱温度は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができる温度であれば特に限定されるものではないが、例えば、600℃以上であり、700℃以上であっても良く、800℃以上であっても良い。一方、加熱温度は、例えば、1200℃以下であり、1100℃以下であっても良く、1000℃以下であっても良い。また、加熱時間は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、30分以上であり、1時間以上であっても良く、5時間以上であっても良い。一方、加熱時間は、例えば、100時間以下であり、70時間以下であっても良い。また、加熱雰囲気は、酸化を防止する観点から、真空中または不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。加熱方法としては、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0040】
一方、急冷時の冷却速度は、例えば500℃/分以上であり、700℃/分以上であることが好ましい。また、急冷により、例えば100℃以下、中でも50℃以下まで冷却することが好ましい。冷却方法は、通常、加熱した対象物を、直接的または間接的に冷媒に接触させる方法が用いられる。具体的には、加熱した対象物が入った容器を水、氷等の液体に接触させる方法、加熱した対象物を回転する金属ロールに接触させる方法等を挙げることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0043】
[実施例1−1]
出発原料として、硫化リチウム(Li
2S)と、硫化ケイ素(SiS
2)と、硫化アルミニウム(Al
2S
3)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li
4.1Al
0.1Si
0.9S
4の組成となるように混合し、原料組成物を得た。次に、得られた原料組成物を振動ミルにより粉砕した。振動ミルにはシーエムティー科学社製TI−100を使用した。具体的には、10mLのポットに、原料組成物2gと、アルミナ製振動子とを入れ、回転数370rpmで30分間処理を行った。
【0044】
次に、得られた粉末を、カーボンコートした石英管に入れ真空封入した。真空封入した石英管の圧力は、約30Paであった。次に、石英管を焼成炉に設置し、900℃で1時間加熱し、その後、氷水に投入することで急冷した。これにより、Li
4.1Al
0.1Si
0.9S
4の組成を有する硫化物固体電解質材料を得た。なお、この組成は、Li
4+xAl
xSi
(1−x)S
4におけるx=0.1の組成に該当する。
【0045】
[実施例1−2]
加熱温度を950℃に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0046】
[実施例1−3]
加熱温度を1000℃に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0047】
[実施例1−4]
加熱時間を5時間に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0048】
[実施例1−5]
加熱温度を950℃に変更したこと以外は、実施例1−4と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0049】
[実施例1−6]
加熱温度を1000℃に変更したこと以外は、実施例1−4と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0050】
[実施例2]
Li
4.08Al
0.08Si
0.92S
4の組成(x=0.08)に変更し、加熱条件を750℃、1時間に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0051】
[比較例1−1]
Li
4.2Al
0.2Si
0.8S
4の組成(x=0.4)を有する硫化物固体電解質材料を、固相法により作製した。まず、実施例1−1と同様にして、原料組成物を振動ミルにより粉砕した。次に、得られた粉末を20MPaでプレス成型し、得られたペレットをカーボンコートした石英管に入れ真空封入した。真空封入した石英管の圧力は、約30Paであった。次に、石英管を焼成炉に設置し、3時間かけて400℃まで昇温し、400℃で8時間加熱し、自然冷却した。得られた試料をメノウ乳鉢で粉砕し、再び、カーボンコートした石英管に入れ真空封入した。次に、石英管を焼成炉に設置し、3時間かけて550℃まで昇温し、550℃で8時間加熱し、自然冷却した。これにより、硫化物固体電解質材料を得た。
【0052】
[比較例1−2、1−3]
xの値を、x=0.5、0.6に変更したこと以外は、比較例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0053】
[比較例2、3]
Li
4SiS
4(x=0)およびLi
5AlS
4(x=1)を、それぞれ比較例2、3とした。
【0054】
[評価]
(CuKα線を用いたXRD測定)
実施例1−1〜1−6で得られた硫化物固体電解質材料に対して、X線回折(XRD)測定を行った。XRD測定は、不活性雰囲気、CuKα線使用の条件下で行った。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、実施例1−1では、2θ=15.34°、17.74°、25.19°、29.62°、30.97°、44.37°、47.22°、51.70°の各近傍の位置にピークが現れた。また、これらのピークは、アルジロダイト構造を有するLi
7PS
6のICSD(Inorganic Crystal Structure Database)のピークと、ほぼ一致した。そのため、実施例1−1で得られた硫化物固体電解質材料は、アルジロダイト構造を有する結晶相を備えることが確認された。実施例1−2〜実施例1−6でも、実施例1−1と同様の位置にピークが現れたことから、これらの硫化物固体電解質材料は、アルジロダイト構造を有する結晶相を備えることが確認された。なお、実施例1−1〜1−6では、2θ=27°付近に、Li
2Sのピークが僅かに確認されるものの、アルジロダイト構造を有する結晶相が、ほぼ単相で生成された。
【0055】
また、実施例2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、XRD測定を行った。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、実施例2でも、実施例1−1と同様の位置にピークが現れたことから、この硫化物固体電解質材料は、アルジロダイト構造を有する結晶相を備えることが確認された。なお、実施例2では、サンプルホルダーに由来する2つのピークが確認されたが、これらのピークは、硫化物固体電解質材料のピークではない。
【0056】
また、比較例1−1〜1−3で得られた硫化物固体電解質材料に対して、XRD測定を行った。その結果を
図6に示す。
図6に示すように、比較例1−1〜1−3では、Li
2S、Li
4SiS
4、Li
5AlS
4のピークは現れたが、アルジロダイト構造を有する結晶相を有するピークは現れなかった。これらの結果から、アルジロダイト構造を有する結晶相を生成するためには、急冷が重要であることが示唆された。
【0057】
(シンクロトロンXRD測定)
実施例1−1および実施例2で得られた硫化物固体電解質材料に対して、シンクロトロンXRD測定を行った。シンクロトロンXRDは、シンクロトロン放射光(光速に近い速度で直進する電子が、その進行方向を変えられた際に発生する電磁波)を用いた測定方法である。シンクロトロン放射光は輝度が高いため、結晶構造をより詳細に分析できる。実施例1−1および実施例2の結果を、それぞれ
図7および
図8に示す。
図7および
図8に示すように、アルジロダイト構造を有する結晶相は、200℃および400℃においても、安定して存在していることが確認された。
【0058】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1−1〜1−6、2、3および比較例1−1〜1−3、2、3で得られた硫化物固体電解質材料を対して、25℃でのLiイオン伝導度を測定した。まず、硫化物固体電解質材料を200mg秤量し、マコール製のシリンダに入れ、4ton/cm
2の圧力でプレスした。得られたペレットの両端をSUS製ピンで挟み、ボルト締めによりペレットに拘束圧を印加し、評価用セルを得た。評価用セルを25℃に保った状態で、交流インピーダンス法によりLiイオン伝導度を算出した。測定には、ソーラトロン1260を用い、印加電圧5mV、測定周波数域0.01〜1MHzとした。代表的な結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例1−2、1−3、1−5、1−6では、10
−4S/cm以上の高いLiイオン伝導度が得られた。これに対して、比較例2、3では、Liイオン伝導度が低かった。なお、比較例1−1〜1−3では、上述したように、Li
2S、Li
4SiS
4、Li
5AlS
4のピークは現れたが、アルジロダイト構造を有する結晶相を有するピークは現れなかったため、比較例2、3と同様、Liイオン伝導度は低かった。
【0061】
[参考例]
Li
4+xAl
xSi
(1−x)S
4におけるxを、x=0、0.05、0.08、0.10、0.12、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、硫化物固体電解質材料を得た。
【0062】
得られた硫化物固体電解質材料に対して、示差熱分析(DTA)を行った。その結果を
図9および
図10に示す。
図9および
図10に示すように、得られた硫化物固体電解質材料は、少なくとも600℃までは安定であることが確認できた。その理由は、硫化物固体電解質材料に含まれる元素(特にSi元素)の化学的安定性が高いためであると推測される。