(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353002
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】計時器用部品
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20180625BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20180625BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
G04B15/14 Z
G04B17/06 Z
G04B13/02 Z
【請求項の数】18
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-196249(P2016-196249)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2017-96925(P2017-96925A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年10月4日
(31)【優先権主張番号】15195348.6
(32)【優先日】2015年11月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−077528(JP,A)
【文献】
特開2015−184281(JP,A)
【文献】
特開2014−152400(JP,A)
【文献】
特開2012−167808(JP,A)
【文献】
スイス国特許発明第00681370(CH,A5)
【文献】
特開昭58−067890(JP,A)
【文献】
特開昭62−124290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 13/02,15/14,17/06
C25D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電鋳に適した材料で作られたコア(2)を有する計時器用部品(1)であって、
コア(2)は、金又は金合金の表面層(3)で少なくとも局所的に被覆されており、これによって、前記金又は金合金の表面層(3)を有する領域(4)における摩擦的なふるまいを改善させ、
前記電鋳に適した材料は、含有しているニッケル−リン(NiP)に含まれる形態で、リンを8〜15重量%含有する
ことを特徴とする部品(1)。
【請求項2】
前記電鋳に適した材料は、コバルトを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の部品(1)。
【請求項3】
前記電鋳に適した材料は、タングステンを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の部品(1)。
【請求項4】
前記電鋳に適した材料は、ニッケル−リン(NiP)で作られており、リンを8〜15重量%含有し、
前記金又は金合金の表面層(3)は、金を99.0重量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の部品(1)。
【請求項5】
前記金又は金合金の表面層(3)は、1.0μm以下の厚みの表面層(3)である
ことを特徴とする請求項4に記載の部品(1)。
【請求項6】
前記金又は金合金の表面層(3)は、金を75重量%以上含有しており銅と銀を含有する18カラットの金合金で作られている
ことを特徴とする請求項5に記載の部品(1)。
【請求項7】
前記表面層(3)は、金を99.0重量%以上含有する
ことを特徴とする請求項5に記載の部品(1)。
【請求項8】
当該部品(1)は、車、ピニオン、パレットレバー、パレットプレート、ガードピン、持ち上げ部品、インパルスピン及びばね要素から選択される摩擦によって力及び/又はトルクを伝達するように構成しているムーブメントの部品、又はバランス、エスケープ車、エスケープピニオン、パレットレバー及びインパルスピンから選択されるエスケープ機構の部品である
ことを特徴とする請求項1に記載の部品(1)。
【請求項9】
請求項1に記載の部品(1)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする腕時計(100)。
【請求項10】
計時器用部品(1)を製造する方法であって、
LIGA法又は電鋳法によって固体コア(2)を作るのに適した材料の組成物を用意するステップと、
LIGA法又は電鋳法によって前記固体コア(2)の形を形成するステップと、及び
金又は金合金の表面層(3)で前記固体コア(2)を少なくとも局所的に摩擦が発生する領域(4)にて覆うステップと
を有し、
前記組成物は、含有しているニッケル−リン(NiP)に含まれる形態で、リンを8〜15重量%含有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記金又は金合金の表面層(3)での固体コア(2)の被覆を、前記コアの表面の全体にわたって行う
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記金又は金合金の表面層(3)での固体コア(2)の被覆は、電気めっき技術及び/又はPVD被覆によって行われる
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記固体コア(2)の形の形成の後であって前記金又は金合金の表面層(3)での固体コア(2)の被覆の前又は後に、前記固体コア(2)を熱処理するステップを行う
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記金又は金合金の表面層(3)での固体コア(2)の被覆を、1.0μm以下の厚みの分行う
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記熱処理を、30分〜6時間の持続時間に150℃〜600℃の温度で行う
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は、ニッケルベースの組成物を用いて用意される
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物は、コバルト及び/又はタングステンを含有する
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項18】
当該部品(1)は、車、ピニオン、パレットレバー、パレットプレート、ガードピン、持ち上げ部品、インパルスピン及びばね要素から選択される摩擦によって応力を伝達するように構成しているムーブメントの部品、又はバランス、エスケープ車、エスケープピニオン、パレットレバー及びインパルスピンから選択されるエスケープ機構の部品である
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳に適した材料で作られたコアを有する計時器用部品であって、コアが、少なくとも局所的に金又は金合金の表面層で被覆されており、これによって、前記金又は金合金の表面層を有する領域における摩擦的なふるまいを改善するものに関する。
【0002】
本発明は、さらに、計時器用部品を製造する方法に関する。
【0003】
本発明は、さらに、このような部品を少なくとも1つ有する腕時計に関する。
【0004】
本発明は、計時器用機構の分野に関し、特に、エスケープ機構の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
計時器用機構の潤滑を確実にし、長期にわたって潤滑を維持することは常に難しい。元の潤滑剤が劣化することは、一般的に、腕時計ユーザーがメンテナンスのために腕時計を戻さなければならないことを意味する。
【0006】
NIVAROX−FAR SA名義の国際特許出願WO2009/083487は、UV−LIGA(Lithographie Galvanik Abformung)タイプの方法において、少なくとも2つの異なる材料の層を重ね合わせることによって、金属の微細構造を製造する方法を開示している。
【0007】
SEIKO Instruments Inc.名義のスイス特許CH703794は、電鋳されたガードピンを備えるパレットレバーの製造について開示している。
【0008】
Estoppey−Reber及びGET名義のスイス特許CH681370は、薄いニッケル−リン層上の金ベースの潤滑組成物を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、計時器用機構、特に、エスケープ機構、の特定の部品の摩擦的なふるまいを改善させることを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、請求項1に記載の計時器用部品に関する。
【0011】
本発明は、さらに、このような部品を少なくとも1つ有する腕時計に関する。
【0012】
本発明は、さらに、請求項12に記載の計時器用部品を製造する方法に関する。
【0013】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点が明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ここにおいてはエスケープ車である本発明に係る計時器用部品の概略平面図を示している。
【
図3】材料の組成物を用意する第1のステップと、前記組成物からコアの形を形成する第2のステップと、及び金を含有する表面層で前記コアを覆う第3のステップとを有する本発明に係る部品を形成する方法の図である。
【
図4】前記表面層でコアを覆うステップの前に熱処理をするステップを行う本方法の変種の図である。
【
図5】前記表面層でコアを覆うステップの後に熱処理をするステップを行う本方法の変種の図である。
【
図6】
図1の部品を有する腕時計の概略平面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、摩擦特性が改善された計時器用部品1に関する。
【0016】
この部品1は、電鋳に適した材料で作られた電鋳されたコア2を有し、このコア2は、金又は金合金の表面層3で少なくとも局所的に被覆されており、これによって、金又は金合金の表面層3を有する領域4において摩擦的なふるまいを改善する。
【0017】
本発明によると、コア2は、1種類の材料のみで作られており、電鋳されたコア2の材料は、ニッケルを含有する。
【0018】
特定の場合において、コア2には、空欠部が設けられている。
【0019】
特定の場合において、電鋳されたコア2の材料は、コバルトを含有する。
【0020】
特定の場合において、電鋳されたコア2の材料は、タングステンを含有する。
【0021】
特定の場合において、電鋳されたコア2の材料は、ニッケル−リン(NiP)を含有する。
【0022】
特定の場合において、電鋳に適した材料は、含有しているニッケル−リン(NiP)に含まれる形態で、リンを8〜15重量%含有する。特定の場合において、コア2は、ニッケル−リン(NiP)のみを含有する。
【0023】
この変種実施形態においては、固体コア2は、ニッケル−リン(NiP)のみを含有し、実装するのが容易であって合理的なコストであり、この材料は金又は金合金の表面層3に対する接着性が良好である。この場合、特定の場合において、コア2は、40μm〜1000μmの厚みを有する。
【0024】
好ましくは、コア2は、電鋳処理によって製造されるが、ここでは説明しない。なぜなら、測時技術/宝石の分野の当業者に広く知られているからである。
【0025】
変種の1つでは、コア2はLIGA法によって製造される。
【0026】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、1.0μm以下の厚みの層である。
【0027】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、金を少なくとも50重量%含有する金合金の層である。
【0028】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、金を75重量%以上含有する金合金の層である。
【0029】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、金を75重量%以上含有しており、銅と銀を含有する18カラットの金合金で作られている。
【0030】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、金を最大77重量%含有する金合金の層である。
【0031】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3は、金を100%まで含有することがある金合金の層である。本発明の特定の有利な実装において、堆積される金は、実質的に純粋であるものであり、表面層3の99.0重量%以上を形成する。表面層3は、さらに、他の材料を微量含有することができ、特に、ニッケル及び/又はコバルトの含有量が0.5重量%よりも小さく、ニッケル又はコバルトを微量含有する。
【0032】
特定の場合において、部品1は、摩擦によって力及び/又はトルクを伝達するように構成しているムーブメント用部品であり、例えば、車、ピニオン、パレットレバー(プレート及び/又はガードピン及び/又は持ち上げ部品)、インパルスピン、ばね要素、又はより具体的には、エスケープ機構の部品であり、通常のエスケープ部品としては、バランス、エスケープ車、エスケープピニオン、パレットレバー、インパルスピンがある。
【0033】
本発明は、さらに、この種の部品1を少なくとも1つ有する腕時計100に関する。
【0034】
本発明は、さらに、計時器用部品1を製造する方法に関し、これは、以下のステップを有する。
−ステップ10:
LIGA法又は電鋳法によって固体コア2を作るのに適した材料の組成物を用意するステップ
−ステップ20:
LIGA法又は電鋳法によって固体コア2の形を形成するステップ
−ステップ30:
摩擦が発生する領域4に金又は金合金の表面層3で固形物コア2を少なくとも局所的に覆うステップ
【0035】
特定の場合において、この金又は金合金の表面層3での固体コア2の被覆は、コアの表面の全体にわたって行われる。
【0036】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3での固体コア2の被覆は、電気めっき技術及び/又はPVD被覆によって行われる。
【0037】
特定の場合において、固体コア2の形が形成され、固体コア2が金又は金合金の表面層3で被覆されて、部品1を形成する前又は後に、固体コア2又は部品1に、熱処理ステップ40が施される。
【0038】
特定の場合において、金又は金合金の表面層3による固体コア2又は部品1(場合による)の被覆は、1.0μm以下の厚みの表面層3の形態で行われる。
【0039】
特定の場合において、表面層3は、0.85〜1.00μmの厚みを有する。
【0040】
特定の場合において、熱処理は、持続時間30分〜6時間で150℃〜600℃の温度で行われる。特定の場合において、熱処理は、持続時間30分〜6時間で150℃〜600℃の温度で行われる。特定の場合において、この熱処理は、200℃〜600℃の温度で行われる。
【0041】
特定の場合において、熱処理は、固体コア2の表面硬化熱処理である。
【0042】
特定の場合において、前記組成物は、ニッケルを含有し、特定の場合において、前記組成物は、ニッケルベースの組成物を用いて用意される。
【0043】
特定の場合において、前記組成物ニッケル−リン(NiP)を特に有する前記組成物ニッケル−リン(NiP)基礎で用意されている。
【0044】
特定の場合において、前記組成物、含有しているニッケル−リン(NiP)に含まれる形態で、リンを8〜15重量%含有する。
【0045】
特定の場合において、前記組成物、含有しているニッケル−リン(NiP)に含まれる形態で、リンを13〜15重量%含有する。
【0046】
特定の場合において、コア2は1種類の材料のみで作られている。
【0047】
特定の場合において、前記組成物ニッケル−リン(NiP)でのみ用意されている。
【0048】
特定の場合において、前記組成物、コバルト及び/又はタングステンを含有する。
【0049】
特定の場合において、コア2の厚みは、40〜1000μmである。特定の場合において、コア2の厚みは、40〜500μmである。
【0050】
特定の場合において、ニッケル−リン層の厚みは、固体コア2が互いに重なり合ったいくつかの材料の層を有する場合、1〜50μmである。
【0051】
特定の場合において、固体コア2が互いに重なり合ったいくつかの材料の層を有する場合、金又は金合金の表面層3を受ける層は、ニッケル−リン層である。
【0052】
特定の場合において、部品1は、摩擦によって力及び/又はトルクを伝達するように構成しているムーブメント用部品であり、例えば、車、ピニオン、パレットレバー(プレート及び/又はガードピン及び/又は持ち上げ部品)、インパルスピン、ばね要素、又は特定の場合において、バランス、エスケープ車、エスケープピニオン、パレットレバー、インパルスピンから選択されるエスケープ機構の部品である。
【符号の説明】
【0053】
1 計時器用部品
2 コア
3 表面層
4 領域
100 腕時計