特許第6353045号(P6353045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6353045高い熱機械的強度を有する柔軟な難燃性熱可塑性組成物、特に電気ケーブル用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353045
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】高い熱機械的強度を有する柔軟な難燃性熱可塑性組成物、特に電気ケーブル用
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20180625BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20180625BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180625BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20180625BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08L23/08
   C08L23/06
   C08L23/26
   C08K3/22
   C08K3/00
   H01B7/34 B
   H01B3/44 P
   H01B3/44 F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-532714(P2016-532714)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公表番号】特表2016-531982(P2016-531982A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】FR2014051756
(87)【国際公開番号】WO2015018995
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】1357805
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クワインベシュ, セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】パロルト, ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】サヴィニャ, ブノワ
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−520937(JP,A)
【文献】 特開平07−278370(JP,A)
【文献】 特開2000−239459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08K 3/00− 13/08
H01B 3/00− 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンフリーの難燃性熱可塑性組成物であって、
− 50から75重量%の難燃性充填剤、
− 0.1から45重量%の、極性官能基を有するエチレン性モノマーとエチレンとのコポリマー、
− 10から25重量%の非官能化超低密度ポリエチレン(VLDPE)、
− 任意選択的に、10%までの添加剤、
− 及び2.5から重量%の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)
からなることを特徴とし、
超低密度ポリエチレン(VLDPE)の密度が0.85から0.91であること、直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.91より高いこと、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が主鎖に存在する無水マレイン酸グラフトでグラフトされていること及び添加剤が、酸化防止剤、UV安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、着色顔料、ゼオライト、「滴下防止」剤(シリコーン(PDMS)ベースの製品、又はPTFE等のフッ素化製品)及び/又は可塑剤から選択されることを特徴とする、を特徴とする、組成物。
【請求項2】
上記の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が、組成物の重量の3.5%から5%であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記の超低密度ポリエチレン(VLDPE)が、最大で組成物の重量の20%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
極性官能基を有するエチレン性モノマーが、3から20個の炭素原子を含むことを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
極性官能基を有するエチレン性モノマーが、4から8個の炭素原子を含むことを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
極性官能基を有するエチレン性モノマーが、飽和カルボン酸ビニルエステル、不飽和カルボン酸、又は不飽和カルボン酸(メタ)アクリル酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1からの何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
難燃剤が、無機充填剤であることを特徴とする、請求項1からの何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
上記の難燃性充填剤が、組成物の重量の60%より多く存在することを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも二つの層を有し、少なくともその何れか一方の層が請求項1から8の何れか一項に記載の熱可塑性組成物により形成される、ケーブル又はパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、高い熱機械的強度を有する柔軟な難燃性熱可塑性組成物である。本発明はまた、本組成物のケーブル、パイプ等のシース層(外層)、及び保護シースの構成材料(内層)としての使用にも関する。
【0002】
こうした組成物は、電気ケーブル、光ファイバー又は液冷媒若しくはオイルのような流体の輸送用パイプを絶縁及び保護するためのケーブル製造において有用である。電気ケーブル、電気部品、電気工学部品、自動車の外装等の用途では、それらの電気絶縁性の性質に加えて、材料がとりわけ高いレベルの耐火性(難燃性)を有していなければならない。これは、なぜなら電気設備がショートの原因となり、発火しうるからである。また、電気設備は炎に曝される可能性があり、故に、発火してケーブルトレイに沿って延焼することもある。
【0003】
ポリエチレン、ポリアミド又はそれらの混合物等の熱可塑性ポリマーは、優れた電気絶縁体であり、加工が容易である。それは、電気筐体及びコネクタ並びにケーブル外装を製造するために使用される。
【0004】
組成物の難燃性特性は、通常、限界酸素指数(LOI)試験により測定される。限界酸素指数の測定は、試験片上部の着火とともに垂直位置にあるプラスチックの燃焼を維持することを可能にする酸素/窒素混合物中の最小酸素濃度を決定することができる。したがって、材料の燃焼性が定量的に特徴づけられる。
【0005】
LOI試験の結果が10%未満の場合、組成物は、非常に燃焼しやすい。LOI試験の結果が21%から30%の場合、組成物は燃焼するが、しばらく時間が経つと自己消火する。ケーブル製造の分野では、難燃性層(ケーブルは通常、複数の平行層から形成されている)について、LOI試験の結果が、組成物の燃焼の自然又は即時消火に該当する35%を下回ってはならない。
【0006】
プラスチックを不燃性にするための種々の添加剤が存在し、ハロゲン化製品をベースとするものもあれば、無ハロゲンのものもある。
【0007】
ハロゲン化誘導体の使用は、燃焼中に、有毒ガス及び腐食性ガスを生じさせるという大きな欠点を呈する。したがって、本発明に関連する場合などで、製造業者及び加工業者は次に、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムのような金属の酸化物、水酸化物、又は無機塩を含む組成物の開発に向いている。これらの物質の添加は、それらが含まれている熱可塑性組成物に難燃性特性を付与するが、その機械的特性は損なわれる。
【0008】
ケーブル製造におけるこうした難燃性組成物のための前提条件である耐火性に加えて、該組成物は、最適な機械的特性を示さなければならない。
【0009】
実際、パイプ、ケーブル等の全部又は一部を形成する熱可塑性組成物の燃焼の非存在(又は非常にわずかな燃焼)に関連する目的が達せられたら、熱可塑性組成物は、機械的及び熱機械的特性(かなりの熱による過熱時の機械的特性)を呈していなければならない。
【0010】
難燃性充填剤が大量に存在する場合、パイプ、ケーブル等の難燃性特性を満たすためには、難燃性充填剤は組成物を硬化する傾向があるため、マトリックス(充填剤を含む)が最大の柔軟性を前記組成物に付与する必要がある。
【0011】
一般的に、熱可塑性組成物に柔軟性を付与するために、例えば、非常に高含有量の酢酸ビニルを有するか、或いは超低密度ポリエチレンを有するEVA(エチレン/酢酸ビニル)コポリマー等のポリオレフィンが熱可塑性組成物に添加される。
【0012】
残念ながら、この種のポリオレフィンの取り込みは、熱可塑性組成物の融点を低下させ、したがって極めて著しく熱機械的特性が損なわれる結果を有する。
【0013】
したがって、非常に高含有量の充填剤を含み、結果として著しく硬化している熱可塑性組成物から出発し、本組成物の柔軟性の追求は、必然的に熱機械的特性を犠牲にして行われる。
【0014】
これらの特性(柔軟性、熱機械的特性及び難燃性)のすべての組み合わせで高い性能特性を示す熱可塑性組成物は、現在のところ市場に存在しない。
【0015】
技術の現状
アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、メタクリレート、アセテート及び酢酸ビニルからなる群より選択される極性基を含むエチレンのコポリマーと;立方センチメートル当たり0.860から0.910グラム(g/cm)の密度を有するシングルサイト触媒を用いて製造したエチレンのコポリマーと;ハンタイト及び/又はハイドロマグネサイトを含む無ハロゲン無機充填剤と、無水マレイン酸で修飾されたエチレンのホモポリマー又はコポリマーとを含む難燃性ポリマー組成物が現在知られている。
【0016】
また、低融点を有し、0.86から0.91g/cmの密度を有するVLDPEをベースにした樹脂を用いた無水マレイン酸グラフト(高グラフト化度を意味する)を示すポリエチレンを3から10重量%と、EEA(エチレン−アクリル酸エチル)又はEVAの少なくとも一方を15から25重量%と、α−オレフィンポリマーを5から20重量%と、無機系難燃剤を40から65重量%含む組成物から製造される無ハロゲンケーブルのための難燃性組成物も知られている。この組成物は、所有者が以下で試験した「DM2」組成物にほぼ相当する。
【0017】
更に、オレフィンマルチブロックインターポリマー及び極性モノマーベース相溶化剤を含み、高い無機電荷を有する、難燃性組成物が知られている。
【0018】
また、四つの成分、すなわちEVA(エチレン−酢酸ビニル)コポリマー、超低密度ポリエチレン、無水マレイン酸でグラフトされた別の超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンを含む難燃性組成物(難燃性充填剤を含む)も知られている。本組成物は、以下に示す試験で「DM1」と表記されている組成物にほぼ相当する。
【0019】
最後に、仏国特許出願公開第2985731号が知られており、以下を含む難燃性熱可塑性組成物(前記文献の実施例9)を開示する:
− アルミニウム三水和物を63重量%、
− EVAを22.75重量%、
− 非官能化LLDPEを9重量%、
− 無水マレイン酸グラフトでグラフトされたLLDPEを5重量%、及び
− 酸化防止剤を0.25重量%。
【0020】
このような組成物は硬すぎるし(参照例:下記DM12)、また、非官能化LLDPEがVLDPEで置換されている場合も、組成物の熱機械的特性に関連する当業者の教示に反して、該組成物はまだ硬すぎる(参照例:DM8のショアDの43)。
【0021】
仏国特許出願公開第2870542号、欧州特許第0953599号及び欧州特許第1092751号に開示される組成物も知られている。
【0022】
これらの難燃性組成物はすべて、一部幾つかの用途においては申し分ないものの、前記の特性(柔軟性、熱機械的特性及び難燃性)のすべての組み合わせですべて高い性能特性を満たしていないか、又はあまりにも高価である(成分のコスト、製造/製造方法のコスト)。
【発明の概要】
【0023】
驚くべきことに、出願人は実験後、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、非官能化超低密度ポリエチレン(VLDPE)及び無水マレイン酸でグラフトされた直鎖状低密度ポリエチレンを特定の割合で、特定の特性で組み合わせるハロゲンフリーの難燃性組成物が、最適な熱機械的特性を保持又は維持しつつ、難燃性組成物に必要な柔軟性を付与することができることを発見した。
【0024】
したがって本発明は、パイプ、ケーブル等の二つの重要な要件、すなわち柔軟性及び熱機械的強度を満たす熱可塑性組成物を提供することにより前記組成物の柔軟性が増す場合、先行技術の難燃性組成物の熱機械特性の大幅な低下を克服することを意図している。
【0025】
より具体的には、本発明との関連において所望される組成物は、現在市場で使用されている組成物と同等の柔軟性を示す必要があり、この柔軟性のレベルは、パイプ、ケーブル等の技術分野におけるすべてのプレーヤーに受け入れられ、且つ満足されるものである。
【0026】
熱機械的特性は、本明細書において、加熱変形試験(hot pressure test)として知られている当業者に周知の試験を介して測定され、一方、柔軟性は、ショアD試験として当業者によく知られている試験によって測定される。
【0027】
該組成物の機械的特性に関する別の試験が、周囲温度で前記特性を確認するために実施された。これは、ISO規格R527:93−1BAに従った、一般的な引張試験である。
【0028】
したがって、本発明は、ハロゲンフリ−の難燃性熱可塑性組成物であって:
− 50から75重量%の難燃性充填剤、
− 0.1から45重量%の、極性官能基を有するエチレン性モノマーとエチレンとのコポリマー、
− 10から25重量%の非官能化超低密度ポリエチレン(VLDPE)、
− 任意選択的に、10%までの添加剤、
− 及び0.1から10重量%の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、
からなることを特徴とし、
超低密度ポリエチレン(VLDPE)の密度が0.85から0.91であること、直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.91より高いこと、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が主鎖に存在する無水マレイン酸グラフトでグラフトされていることを特徴とする、組成物に関する。
【0029】
市場で入手可能な既存の溶液に関しては、本発明の熱可塑性組成物により、熱可塑性成分を、四つの代わりに三つだけ使用することが可能になる。供給源の多様なニーズに関連するコストの節約に加えて、難燃性組成物の製造方法は、有利に簡略化される。
【0030】
本発明の他の有利な特徴は以下のように特定される:
− 上記の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が、組成物の重量の、有利には2.5%から7%、好ましくは3.5%から5%である;
− 上記の超低密度ポリエチレン(VLDPE)が、最大で組成物の重量の20%である;
− 好ましくは、極性官能基を有するエチレン性モノマーが、3から20個の炭素原子、好ましくは4から8個の炭素原子を含む;
− 好ましくは、極性官能基を有するエチレン性モノマーが、飽和カルボン酸ビニルエステル、不飽和カルボン酸、又は不飽和カルボン酸(メタ)アクリル酸エステルから選択される;
− 有利には、難燃剤が無機充填剤、特に水酸化アルミニウム(aluminum trihydroxide)及び/又は水酸化マグネシウム(magnesium dihydroxide)である;
− 添加剤が、酸化防止剤、UV安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、着色顔料、ゼオライト及び/又は「滴下防止」剤(シリコーン(PDMS)ベースの製品、又はPTFE等のフッ素化製品)から選択される;
− 本発明の好ましい代替的形態によると、上記の難燃性充填剤は、組成物の重量の60%を超える。
【0031】
本発明は、更に具体的には、少なくとも一方の層が上記の熱可塑性組成物により前述のように形成される、少なくとも二つの層を呈するケーブル又はパイプに関する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は難燃性組成物に関し、該組成物中には、任意選択的に存在する添加剤に加え、三つの特定の熱可塑性成分が見出され、それらの組み合わせによって、特にケーブル、チューブ、パイプ等での用途において先行技術の難燃性組成物の問題点の解決が可能になる。
【0033】
無論、本発明の難燃性熱可塑性組成物は、任意選択的に一又は複数の他の成分、特に熱可塑性タイプの成分を含みうるが、上述の技術的な問題は、三つの特定の成分のみで解決される。そのため、有利な実施態様では、本発明による組成物は、他のすべての熱可塑性成分を排除して、これら三つの熱可塑性成分のみを含むことになる。
【0034】
その三つの熱可塑性成分とは、以下である:
− 極性官能基を有するエチレン性モノマーとエチレンとのコポリマー
− 0.85から0.91の超低密度の非官能化ポリエチレン、
− 無水マレイン酸グラフトでグラフトされている、0.91より高い密度の直鎖状低密度ポリエチレン。
【0035】
(非官能化)超低密度ポリエチレン、及び無水マレイン酸でのグラフトによって官能化されている直鎖状低密度ポリエチレンに関して、ポリエチレンは、ホモポリマー又はコポリマーを意味すると解される。コモノマーとして、α−オレフィン、有利には3から30個の炭素原子を有するものが挙げられる。任意選択のコモノマーとしての、3から30個の炭素原子を有するα−オレフィンの例は、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−デトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセン、1−ヘキサコセン、1−オクタコセン及び1−トリアコンテンを含む。これらのα−オレフィンは、単独でも、又は二若しくは三以上の混合物としても使用されうる。
【0036】
ポリエチレンは、メタロセン起源のものであってよい。メタロセンポリエチレンは、例えばジルコニウム又はチタンでありうる金属原子と、該金属に結合した二環式アルキル分子とから通常なるシングルサイト触媒の存在下で、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキサン又は1−オクテン等のα−オレフィンとエチレンとの共重合により得られるポリマーを意味する。更に具体的には、メタロセン触媒は、金属に結合した二つのシクロペンタジエン環から通常なる。これらの触媒は、共触媒又は活性化剤としてアルミノキサンと共に、好ましくはメチルアルミノキサン(MAO)と共に、しばしば使用される。また、シクロペンタジエンが結合する金属としてハフニウムが使用されうる。他のメタロセンは、IVa、Va及びVIa族の遷移金属を含みうる。ランタノイド系列の金属も使用されうる。これらのメタロセンポリエチレンはまた、Mw/Mn<3、好ましくはMw/Mn<2のMw/Mn比によって特徴づけることができ、ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量をそれぞれ意味する。メタロセンポリエチレンはまた、6.53未満のMFR(メルトフロー比)と、MFRマイナス4.63より大きいMw/Mn比を有するものを意味する。MFRとはMFI2(荷重2.16kgでのMFI)に対するMFI10(荷重10kgでのMFI)の比を意味する。他のメタロセンポリエチレンは、6.13以上のMFR、及びMFRマイナス4.63以下のMw/Mn比により定義される。
【0037】
超低密度ポリエチレンの密度は、有利には0.850から0.910である。
【0038】
無水マレイン酸でのグラフトにより官能化された直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、有利には0.91より高い。
【0039】
直鎖状低密度ポリエチレンに対する無水マレイン酸のグラフトは、それ自体が当業者に既知の操作である。無水マレイン酸のグラフトの程度、すなわちグラフト化ポリマー中の無水マレイン酸モノマー単位の数は、検討中のポリエチレンに応じて可変であり、グラフト化ポリマーの重量の0.1%から4%、好ましくは0.4%から2%である。
【0040】
極性官能基を有するエチレン性モノマーとエチレンとのコポリマーに関して、エチレン性モノマーは、ラジカルルートのプロセスにおいてエチレンと反応可能な不飽和を含むモノマーを意味する。極性官能基は、アミン、アルコール、ウレタン、酸又はエステル官能基のような双極子モーメントを示す官能基を意味する。好ましくは、極性官能基は、酸性官能基又はエステル官能基である。
【0041】
極性官能基を有するエチレン性モノマーは、好ましくは3から20個の炭素原子、好ましくは4から8個の炭素原子を含む。
【0042】
コポリマーの例として、エチレンとカルボン酸ビニルエステルとのコポリマー、エチレンと不飽和カルボン酸とのコポリマー、或いはエチレンとアルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレート(本願においては、用語アルキル(メタ)アクリレートの下に統合される)とのコポリマーが挙げられる。エチレン性モノマーは、有利には、酢酸ビニル及びメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート又はブチル(メタ)アクリレートから選択されうる。
【0043】
コポリマーの総重量に対するエチレン性モノマーの重量は、1%から70%、有利には10%から60%、好ましくは20%から45%の範囲内でありうる。
【0044】
本発明に従い、コポリマー中に存在する種々のモノマーの量は、ISO規格8985(1998)を用いて、赤外分光法により測定されうる。コポリマーの軟化温度は、ASTM規格E28−99(2004)により測定されうる。
【0045】
200から2500barの圧力で通常作用するラジカル重合として記載した方法が使用されうる。こうした方法は、二つの主要なタイプの反応器、すなわちオートクレーブ型反応器又は管型反応器を使用して工業的に実施される。当業者に知られているこれらのこうした重合方法は、例えば仏国特許出願公開第2498609号、仏国特許出願公開第2569411号及び仏国特許出願公開第2569412号に記載の方法が用いられる。当業者であれば、本発明で用いられる、極性官能基を有するエチレン性モノマーとエチレンとのコポリマーを得るために各モノマーをどのくらいの割合で使用するのか知っている。
【0046】
これらのコポリマーは、Evatane(登録商標)及びLotryl(登録商標)のブランドで出願人により販売されている。
【0047】
難燃剤については、本発明を例示するために選択された実施例、すなわち先行技術の組成物に関する試験に対する本発明の組成物に関する試験の実施との関連で、従来から使用されている二種の無機系難燃性付与剤(難燃剤)、すなわち水酸化アルミニウム(ATH)と、任意選択的に代替又は補助として水酸化マグネシウム(MDH)が選択されている。
【0048】
したがって、無機系難燃剤が、本発明の組成物において好ましい。
【0049】
しかしながら、難燃剤を、HPO(オルトリン酸)、(HPO)n(メタリン酸)及びH(ピロリン酸)等の酸を燃焼中に形成することができる化合物の定義に合致するものとしてみなすことも可能であろう。そのような難燃剤の例として、リン酸アンモニウム、ホスフィナート、ピロホスフェート及びポリホスフェート、メラミンホスフェート、メラミンホスファイト、ピペラジンホスファイト、ピペラジンジホスファイト、グアナゾールホスフェート、メラミンピロホスフェート及びピペラジンピロホスフェートが挙げられる。
【0050】
一般式(NHn+23n+1(式中、nは、2以上の整数を表す)の一本鎖ポリマーであるポリリン酸アンモニウムが使用されうる。該ポリリン酸アンモニウムはメラミン系樹脂中に封入されうる。上述した難燃剤の混合物を使用することは、本発明の範囲を逸脱するものではない。難燃剤は、官能化することができ、例えばシラン官能基を有することができる。
【0051】
本発明による組成物の難燃剤は、また、窒素含有難燃剤からなっていてもよい。該難燃剤は、純粋なメラミン、メラミン誘導体(例えば、有機酸又は無機酸(例えば、ホウ酸、シアヌル酸、リン酸若しくはピロ/ポリリン酸)の塩)、又はメラム若しくはメレムのようなメラミン同族体から選択される。
【0052】
組成物の難燃剤は、ホウ素(ホウ酸塩、ホウ酸とホウ砂との混合物、ホウ酸亜鉛等)、三酸化アンチモン、亜鉛化合物(硫化亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛等)、発泡混合物(例えば、ポリリン酸アンモニウム混合物、ペンタエリスリトール、メラミン誘導体の混合物)、膨張黒鉛又はナノ複合材料(例えば、モンモリロナイトのようなケイ酸アルミニウム粘土)を含む化合物からなっていてもよい。
【0053】
最後に、本発明の組成物は、ポリオレフィン中の混合物として、一般的に使用される赤リンを含んでいても良いことに注目されたい。
【0054】
したがって、本発明の組成物の難燃剤は、上記目的製品のうちの一つ又はそれらの製品の組み合わせである。
【0055】
組成物の調製:
本発明の組成物は、均質な組成物を生じさせるために成分を混合し、成分間で起こりうる化学反応を実施する、一段階法に従って調製されうる。こうした組成物は、高い装填量の充填剤を有する熱可塑性樹脂を加工するための一般的な手段、例えば押出加工又は混練によって種々の構成成分を混合することにより調製されうる。内部ミキサー、コニーダー又は共回転二軸押出機が用いられうる。組成物は、好ましくは、構成成分の融点以上且つ難燃剤が分解し始める温度よりも低い温度で調製される。
【0056】
充填剤、特に無機系充填剤が、組成物の熱機械的強度を向上させるために添加されうる。暗黙に限定するものではないが、シリカ、アルミナ、タルク又は炭酸カルシウム又はカーボンナノチューブが例として挙げられる。有利には、ナノメートル領域において混合される改質粘土又は非改質粘土が用いられ、これは、合成樹脂の不燃性のための幾つかの基準の要件、例えばUL94−V0(最大10秒間での、火の粉の落下なしの自己消火)を満たすため行われる。
【0057】
可塑剤は、加工を容易にするため、また、組成物及び構造物の製造方法の生産性を向上させるために添加されうる。例として、パラフィン系、芳香族系又はナフテン系鉱油が挙げられる。また、可塑剤としては、フタル酸エステル類、アゼライン酸エステル類、アジピン酸エステル類又はトリクレジルホスフェートが挙げられる。
【0058】
組成物に、「滴下防止」剤(例えば、シリコーン(PDMS)ベースの製品又はフッ素化製品(PTFE等))を添加しても、本発明の範囲からの逸脱にはならない。
【0059】
試験配合物の成果:
以下に記載の配合物を、直径46ミリメートルで、長さが直径の15倍であり、直径70ミリメートルのシングルテークアップスクリュー(single take−up screw)を備えたBuss社製PR46ブランドのコニーダーによる押出成形によって調製する。このコニーダーのスクリュー及びバレルを、それぞれ100℃と110℃で加熱し、一方シングルテークアップスクリューは150℃で加熱する。押出流量は、285回転/分(毎分回転数)のコニーダーの回転速度に対して15kg/時(毎時キログラム)である。種々の構成成分(難燃性充填剤を除く)を第一のホッパー(ホッパー1)に導入し、また、難燃性充填剤はホッパー1及び2に等分に導入する。
【0060】
ケーブル製造における本願は別として、本発明の難燃性熱可塑性組成物は別の出願を有しており、そこでは、その耐火性特性や優れた機械的、熱機械的及び柔軟性特性が要求される。こうした組成物は、ポリオレフィンの変形のための従来技術(押出成形、射出成形、回転成形)によって向上した耐火性を示す工業製品(薄板、銘板、特性素子、中空体、パイプ)に変換可能であるという利点を有する。
【0061】
試験配合物を製造するために用いられる材料:
ATH:4m2/gの比表面積を有する水酸化アルミニウム。
Orevac(登録商標)18340:アルケマ製でLLDPE−g−MAと称され、3g/10分のMFI(ISO1133に従い190℃、2.16kgで測定)及び0.918の密度を有する、無水マレイン酸でグラフトされた直鎖状低密度ポリエチレン。
Evatane(登録商標)28−03:アルケマ製でEVAと称され、3g/10分のMFI(ISO1133に従い190℃、2.16kgで測定)を有する、エチレンと酢酸ビニル(28重量%)とのコポリマー。
LLDPE:1g/10分のMFI(ISO1133に従い190℃、2.16kgで測定)及び0.921の密度を有する直鎖状低密度ポリエチレン。
VLDPE:1g/10分のMFI(ISO1133に従い190℃、2.16kgで測定)及び0.870の密度を有する超低密度ポリエチレン。
Fusabond(登録商標)N525:デュポン製でVLDPE−g−MAと称され、0.88の密度を有する、無水マレイン酸でグラフトされた超低密度ポリエチレン。
酸化防止剤:例えばフェノール系の酸化防止剤。
【0062】
本発明は、以下の非限定的実施例により更に詳細に説明される。試験の結果を歪ませないために、以下の組成物は、本発明に特有のものであれ、従来技術によるものであれ、正確に同じ含有量又は重量パーセントの難燃性充填剤を組成物中に含む。難燃性充填剤が(検討中の組成物の総重量に対して)63%という重量パーセントが以下の全試験組成物において選択されており、この値は実質的に、難燃性充填剤の正常値に相当する。
【0063】
更に、他の難燃性熱可塑性組成物(実施例1から4)に対して本発明の実施例を比較するために、以下の組成の例を試験のために提供したが、下記の結果は網羅的ではなく、また、実験室での工業化前の試験により、本発明の難燃性熱可塑性組成物及びその好ましい代替的形態をより正確に決定することが可能になった。
【実施例】
【0064】
実施例1:「DM1」と表示された組成物は、先行技術による配合物である。DM1は、EVAを19重量%、VLDPEを10重量%、LLDPEを4重量%及びMAグラフトVLDPE(VLDPE−grafted−MA)を4重量%の割合で含む。
実施例2:「DM2」と表示された組成物は、先行技術による配合物である。DM2は、EVAを23重量%、VLDPEを10重量%及びMAグラフトVLDPEを4重量%の割合で含む。
実施例3:「DM3」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではなく、LLDPE−g−MAを含まない。DM3は、EVAを23重量%及びVLDPEを14重量%の割合で含む。
実施例4:「DM4」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではなく、無水マレイン酸でのグラフトにより官能化されていないLLDPEを含む。DM4は、EVAを19重量%、VLDPEを14重量%及びLLDPEを4重量%の割合で含む。
実施例5:「DM5」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物である。DM5は、EVAを19重量%、VLDPEを14重量%及びLLDPE−g−MAを4重量%の割合で含む。
実施例6:「DM6」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物である。DM6は、EVAを15重量%、VLDPEを18重量%及びLLDPE−g−MAを4重量%の割合で含む。
実施例7:「DM7」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物である。DM7は、EVAを12重量%、VLDPEを22重量%及びLLDPE−g−MAを3重量%の割合で含む。
実施例8:「DM8」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではない。DM8は、EVAを22重量%、VLDPEを9重量%及びLLDPE−g−MAを6重量%の割合で含む。
実施例9:「DM9」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではない。DM9は、EVAを27重量%、VLDPEを4重量%及びLLDPE−g−MAを2重量%の割合で含む。
実施例10:「DM10」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物である。DM10は、EVAを2重量%、VLDPEを27重量%及びLLDPE−g−MAを8重量%の割合で含む。
実施例11:「DM11」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではなく、非常に高い重量パーセントのLLDPEを含む。DM11は、EVAを11重量%、VLDPEを14重量%及びLLDPEを12重量%の割合で含む。
実施例12:「DM12」と表示された組成物は、本発明の範囲の配合物ではない。DM12は、EVAを22.75重量%、LLDPEを9重量%及びMAグラフトVLDPEを5重量%の割合で含む。
【0065】
試験は、以下の材料で実施された:
フラットダイを備え、材料の特徴付け又は試験のために必要な試験片を切り出すためのストリップを得るために押出機が150℃に加熱されている、ThermoHaake Rheocord(登録商標)システム40型の実験用異方向二軸押出機を用いて粒子又は構成成分を成形する。
【0066】
第一の試験は、種々の試験材料を、相対湿度が50%(RH=50)を示す媒質中で48時間条件付けした後、ISO規格R527:93−1BAに従って測定した破壊伸び率及び破断応力の点からのそれらの機械的特性を示す。
【0067】
第二の試験は、ISO規格868に従った15秒のショアD試験で構成される。
【0068】
第三の試験は、重さ136g(ストリップを含む)で20mmx20mmx2mmの試験片に適しており、すべてをオーブンに2時間入れ、NF EN規格60811−3−1、8.2に従った80、90及び100℃での加熱変形試験で構成される。
【0069】
最終試験は、ISO規格4589−2に従って測定された限界酸素指数(LOI)を考察する。
【0070】
これらの試験はすべて、国際標準によって与えられ当業者に周知の各種定義(形状、寸法、試験速度、機械のキャリブレーション、装置の精度等)に従い、各試験組成物について同一形状の標準試験片を得ることによって、また、それらの試験片を試験台での各試験に供することによって一般的に実施される。
【0071】
種々の配合の試験片で実施した試験の結果:
以下の表に示す結果に関しては、DM2からDM4及びDM11の試験片は、実施した試験全体に対するこれらの結果があまり良くないことを判明させ、実際、想定した使用に対して不十分でさえあり、満足できるものではない。
試験片DM1に関しては、全体的な試験結果は確かに悪くはないが、本組成物は、(任意選択の添加剤を除いて)四つの構成成分を含み、それでコストが高くなり、その製造方法は相対的に複雑で長い。
試験片DM5からDMのみが、本発明の組成物に合致している。 試験片DM5からDMは、異なる熱可塑性構成成分のそれぞれの好ましい割合を示すことが可能な差異があり、申し分のない特性を示す。
具体的には、これらの試験により、結果の好ましい範囲、すなわち、DM5とDM6の結果がDM7又はDM8の結果より優れていて、DM7又はDM8の結果が、試験片DM9とDM10の結果より良いということの確認が可能になることに注目されたい。
一般的に、組成物が、想定される用途において申し分のないものになるためには、異なる試験について以下のような結果が得られる必要がある:
破壊伸び率が≧150%、好ましくは≧200%、より好ましくは≧250%でなければならない。
破断応力が、≧10MPa(メガパスカル)、好ましくは≧1MPa 、より好ましくは≧12MPaでなければならない。
当業者に周知のショアD測定値(単位なし)が、≦41でなければならない。
また、当業者に周知の加熱変形試験の結果が、80℃で≦50%、好ましくは90℃で≦50%、より好ましくは100℃で≦50%でなければならない。