(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子材料の少なくとも一部の体積に相当する予め定められた仮想の空間に、少なくとも一個のフィラー粒子モデルを有するフィラーモデルと、複数のポリマー粒子モデルを含むポリマーモデルとが配置された高分子材料モデルを、コンピュータを用いて作成するための方法であって、
前記コンピュータが、前記空間に、前記フィラーモデルを配置する工程と、
前記コンピュータが、前記空間に、前記ポリマーモデルを配置するポリマーモデル定義工程とを含み、
前記ポリマーモデル定義工程は、前記ポリマーモデルの各ポリマー粒子モデルと、前記フィラー粒子モデルとの最短距離が、予め定められた距離よりも大きくなるように、前記各ポリマー粒子モデルの位置を決定するポリマー粒子モデル配置工程を含み、
前記ポリマー粒子モデル配置工程は、隣接するポリマー粒子モデル間の距離が、予め定められた距離以下となるように、各ポリマー粒子モデルの位置を決定することを特徴とする高分子材料モデル作成方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料モデル作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある)は、フィラーが配合された高分子材料の解析に用いられる高分子材料モデルを、コンピュータを用いて作成するための方法である。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ又はアルミナ等が含まれる。また、高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂又はエラストマー等が含まれる。
【0023】
図1は、本発明の作成方法を実行するためのコンピュータ1の斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられる。なお、記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
【0024】
図2は、本実施形態の作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の作成方法では、先ず、コンピュータ1に、予め定められた仮想の空間が設定される(工程S1)。
図3は、本実施形態の仮想の空間を説明する斜視図である。
【0025】
空間2は、高分子材料(図示省略)の少なくとも一部の体積に相当するものである。本実施形態の空間2は、例えば、互いに向き合う少なくとも一対、本実施形態では3対の面3、3を有する立方体として定義されている。空間2内の位置は、例えば、直交座標系(デカルト座標系)等で定義される。本実施形態の空間2内の位置は、立方体の頂点4を原点(0、0、0)とするx軸、y軸及びz軸の座標値(x、y、z)で定義される。なお、空間2の位置は、例えば極座標系等、他の座標系で定義されてもよい。
【0026】
一対の面3、3の間隔(即ち、x軸方向の1辺の長さLx、y軸方向の1辺の長さLy、z軸方向の1辺の長さLz)については、シミュレーションの規模等に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の各長さLx、Ly、Lzは、例えば、50nm〜1000nm(分子動力学計算の単位では、76σ〜1515σ)に設定されるのが望ましい。このような空間2は、コンピュータ1に記憶される。
【0027】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、空間2に、フィラーモデルを配置する(工程S2)。
図4は、フィラーモデルを示す概念図である。
図5は、フィラー粒子モデル及び結合鎖モデルを示す概念図である。本実施形態では、複数のフィラーモデル5が、空間2に配置される。各フィラーモデル5は、少なくとも一個、本実施形態では複数個のフィラー粒子モデル6を含んで構成されている。さらに、各フィラーモデル5は、隣接するフィラー粒子モデル6、6間を結合する結合鎖モデル7を含んでいる。
【0028】
フィラー粒子モデル6は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、フィラー粒子モデル6には、質量、体積、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。
【0029】
複数のフィラー粒子モデル6の位置(座標値)は、例えば、高分子材料の現実の三次元構造(図示省略)に基づいて、フィラーが配置されている領域に決定されるのが望ましい。これにより、フィラーモデル5の形状を、現実のフィラーの形状に近似させることができる。なお、三次元構造は、例えば、走査型透過電子顕微鏡で撮像された電子線透過画像から構築することができる。
【0030】
複数のフィラー粒子モデル6は、例えば、面心立方格子状、体心立方格子、又は、単純格子等の結晶格子状に配置されるのが望ましい。これにより、フィラー粒子モデル6を結晶格子状に結合させて、フィラー粒子モデル6の動きを強固に拘束することができ、フィラーモデル5に高い剛性を定義することができる。
【0031】
結合鎖モデル7は、ボンド関数に基づいて定義される。即ち、結合鎖モデル7は、例えば、下記式(1)で定義されるポテンシャル(以下、「LJポテンシャルU
LJ(r
ij)」ということがある。)と、下記式(2)で定義される結合ポテンシャルU
FENEとの和で示されるポテンシャルP1で設定される。
【0032】
【数1】
【数2】
ここで、各定数及び変数は、Lennard-Jones及びFENEの各ポテンシャルのパラメータであり、次のとおりである。
r
ij:粒子間の距離
r
c:カットオフ距離
k:粒子間のばね定数
ε:粒子間に定義されるLJポテンシャルの強度
σ:粒子の直径に相当
R
0:伸びきり長
なお、距離r
ij、カットオフ距離r
c、及び、伸びきり長R
0は、各フィラー粒子モデル6の中心6c、6c間の距離として定義される。
【0033】
上記式(1)において、フィラー粒子モデル6、6間の距離r
ijが小さくなると、斥力が作用するLJポテンシャルU
LJ(r
ij)が大きくなる。他方、上記式(2)において、フィラー粒子モデル6、6間の距離r
ij が大きくなると、引力が作用する結合ポテンシャルU
FENEが大きくなる。従って、ポテンシャルP1は、距離r
ijを、LJポテンシャルU
LJ(r
ij)と結合ポテンシャルU
FENEとが互いに釣り合う位置に戻そうとする復元力が定義される。
【0034】
また、上記式(1)では、フィラー粒子モデル6、6間の距離r
ijが小さくなるほど、LJポテンシャルU
LJ(r
ij)が無限に大きくなる。一方、上記式(2)では、距離r
ijが伸びきり長R
0以上となる場合に、結合ポテンシャルU
FENEが∞に設定される。従って、ポテンシャルP1は、伸びきり長R
0以上の距離r
ijを許容しない。
【0035】
なお、LJポテンシャルU
LJ(r
ij)及びFENEの各ポテンシャルの強度ε、伸びきり長R
0、粒子の直径σ及びカットオフ距離r
cについては、適宜設定することができる。これらの定数は、例えば、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著 「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990)に基づいて、下記のように設定されるのが望ましい。
強度ε:1.0
伸びきり長R
0:1.5
距離σ:1.0
カットオフ距離r
c:2
1/6σ
【0036】
また、バネ定数kは、フィラーモデル5の剛性を決定するパラメータである。バネ定数kは、例えば、20〜3000に設定されるのが望ましい。このようなフィラーモデル5は、コンピュータ1に記憶される。
【0037】
本実施形態では、結合鎖モデル7が、ボンド関数に基づいて定義される態様が例示されたが、これに限定されるわけではない。結合鎖モデル7は、例えば、粒子間距離拘束法に基づいて定義することができる。粒子間距離拘束法としては、例えば、SHAKE法が採用される。SHAKE法では、Lagrangeの未定乗数法に基づいて拘束力を導出し、フィラー粒子モデル6、6の拘束が定義される。従って、SHAKE法では、粒子間距離を一定値に固定することができるため、粒子間距離が平衡長付近で高速に変化するボンド関数に比べて、後述する分子動力学計算での単位時間を大きくしても、安定して計算することができる。
【0038】
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、空間2に、ポリマーモデル11を配置する(ポリマーモデル定義工程S3)。
図6は、ポリマーモデルの概念図である。
図7は、フィラーモデル及びポリマーモデルを拡大して示す概念図である。本実施形態のポリマーモデル定義工程S3では、複数のポリマーモデル11が、空間2(
図3に示す)内に配置される。各ポリマーモデル11は、複数のポリマー粒子モデル12を含んで構成されている。さらに、各ポリマーモデル11は、隣接するポリマー粒子モデル12、12間を結合する結合鎖モデル13を含んでいる。
【0039】
ポリマー粒子モデル12は、高分子材料のモノマー又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。高分子材料の分子鎖がポリブタジエンである場合には、例えば1.55個分のモノマーを構造単位として、1個のポリマー粒子モデル12に置換される。これにより、各ポリマーモデル11は、N個(例えば、10〜5000個)のポリマー粒子モデル12を含んで構成される。
【0040】
なお、1.55個分のモノマーを構造単位としたのは、上記論文1、及び、論文2(L,J.Fetters ,D.J.Lohse and R.H.Colby 著、「Chain Dimension and Entanglement Spacings 」Physical Properties of Polymers Handbook Second Edition P448」)の記載に基づくものである。また、高分子鎖がポリブタジエン以外の場合でも、例えば、上記論文1及び2に基づいて、構造単位を設定することができる。
【0041】
ポリマー粒子モデル12は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、ポリマー粒子モデル12には、例えば、質量、体積、直径又は電荷などのパラメータが定義される。
【0042】
ポリマーモデル11は、結合鎖モデル13に沿って連続する3つのポリマー粒子モデル12がなす結合角θ1が設定されている。結合角θ1は、高分子材料の分子鎖の構造に基づいて適宜設定することができ、例えば10度〜170度の範囲から選択される。これにより、ポリマーモデル11の構造を、分子鎖の構造に近似させることができる。
【0043】
結合鎖モデル13は、ポリマー粒子モデル12、12間が、伸びきり長が設定されたポテンシャルP2によって定義される。本実施形態のポテンシャルP2は、上記式(1)で定義されるLJポテンシャルU
LJ(r
ij)と、上記式(2)で定義される結合ポテンシャルU
FENEとの和で設定される。LJポテンシャルU
LJ(r
ij)及び結合ポテンシャルU
FENEの各定数及び各変数の値としては、適宜設定することができる。これにより、結合鎖モデル13は、ポリマー粒子モデル12を伸縮自在に拘束した直鎖状のポリマーモデル11を設定することができる。本実施形態では、上記論文1に基づいて、次の値が設定される。
ばね定数k:30
伸びきり長R
0:1.5
強度ε:1.0
距離σ:1.0
カットオフ距離r
c:2
1/6σ
【0044】
図8は、ポリマーモデル定義工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9は、1番目のポリマー粒子モデル12Aの位置を決定する工程を説明する概念図である。本実施形態のポリマーモデル定義工程S3では、先ず、各ポリマーモデルのポリマー粒子モデル12の位置が決定される(ポリマー粒子モデル配置工程S31)。ポリマー粒子モデル配置工程S31では、ポリマーモデル11の各ポリマー粒子モデル12と、フィラー粒子モデル6との最短距離L1が、予め定められた距離(以下、「基準距離」ということがある。)よりも大きくなるように、各ポリマー粒子モデル12の位置が決定される。本実施形態では、1番目のポリマー粒子モデル12A(
図6に示す)からN番目のポリマー粒子モデル12N(
図6に示す)まで、各ポリマー粒子モデル12の位置が順番に決定される。最短距離L1は、フィラー粒子モデル6の中心6cとポリマー粒子モデル12の中心12cとの間で距離として定義される。
【0045】
基準距離(最短距離L1の予め定められた距離)としては、各ポリマー粒子モデル12の位置を順番に決定する際に、フィラー粒子モデル6との重複を防ぎうる距離が設定されるのが望ましい。なお、基準距離が小さすぎると、ポリマー粒子モデル12が、フィラー粒子モデル6に重複して配置されるおそれがある。逆に、基準距離が大きすぎると、ポリマー粒子モデル12を配置できる領域が制限され、ポリマー粒子モデル12の位置を、円滑に決定することができなくなるおそれがある。このような観点より、基準距離は、ポリマー粒子モデル12の直径L2(
図7に示す)の、好ましくは1倍以上、さらに好ましくは5倍以上であり、また、好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下が望ましい。
【0046】
最短距離L1を計算する際に、各ポリマー粒子モデル12に最も隣接するフィラー粒子モデルを探索する方法については、適宜採用することができる。例えば、空間2が区切られた複数の小さなセル(図示省略)に基づいて、各セルに配置された各粒子モデル6、12を高速に探索することができるセルインデックス法(セルリンクリスト法、リンクリスト法)や、ネイバーリスト法が採用されるのが望ましい。このような方法が用いられることにより、i番目のポリマー粒子モデル12に最も隣接するフィラー粒子モデル6を、短時間で探索することができる。従って、計算時間を短縮することができる。最短距離L1は、コンピュータ1に記憶される。
【0047】
図10は、ポリマー粒子モデル配置工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、先ず、添字iに1(初期値)が代入される(工程S41)。添字iは、空間2に配置される各ポリマー粒子モデル12の順番を区別するためのものである。この添字iには、1(初期値)からN−1までの整数が代入される。添字iの初期値は、コンピュータ1に記憶される。
【0048】
次に、ポリマー粒子モデル配置工程S31では、空間2に、i番目のポリマー粒子モデル12の位置がランダムに決定される(第1決定工程S42)。第1決定工程S42では、添字iに1が代入されているため、
図9に示されるように、1番目のポリマー粒子モデル12Aの位置が決定される。
【0049】
上述したように、本実施形態の空間2内の位置は、
図3に示されるように、立方体の頂点4を原点とするx軸、y軸及びz軸の座標値(x、y、z)で決定される。座標値(x、y、z)の最小値は、(0、0、0)である。座標値(x、y、z)の最大値は、(Lx、Ly、Lz)である。本実施形態では、乱数ξ(区間:0≦ξ<1)を用い、1番目のポリマー粒子モデル12Aの座標値(x1、y1、z1)として、(Lx×ξ、Ly×ξ、Lz×ξ)で決定している。なお、座標値(x1、y1、z1)は、ポリマー粒子モデル12の中心12cで特定されるものとする。1番目のポリマー粒子モデル12Aの位置は、コンピュータ1に記憶される。
【0050】
乱数ξについては、適宜設定することができる。本実施形態では、一様乱数が用いられている。一様乱数とは、分布関数が、所定の区間(本実施形態では、0〜1)内では一様、その区間外では0となる乱数である。
【0051】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、i番目のポリマー粒子モデル(1番目のポリマー粒子モデル12A)とフィラー粒子モデル6との最短距離が計算される(工程S43)。工程S43では、全てのフィラー粒子モデル6を対象に、i番目のポリマー粒子モデル(1番目のポリマー粒子モデル12A)との最短距離L1が計算される。
【0052】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きいか否かが判断される(工程S44)。工程S44では、最短距離L1が、基準距離よりも大きいと判断された場合(工程S44で、「Y」)、次の第2決定工程S45が実施される。他方、工程S44では、最短距離L1が、基準距離以下と判断された場合は、決定されたi番目のポリマー粒子モデル12(1番目のポリマー粒子モデル12A)の位置をキャンセルして(第1キャンセル工程S46)、第1決定工程S42がやり直される。これにより、最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きくなるまで、第1決定工程S42が繰り返し実施されるため、i番目のポリマー粒子モデル12(1番目のポリマー粒子モデル12A)の位置を、フィラー粒子モデル6から基準距離よりも離間した位置に、確実に決定することができる。なお、異なるポリマーモデル11のポリマー粒子モデル12の重複は許容される。これは、後述する工程S4において、ポリマー粒子モデル12、12間にポテンシャルP3が設定されることにより、互いに離間して配置されるためである。
【0053】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、i+1番目のポリマー粒子モデルの位置が決定される(第2決定工程S45)。
図11は、2番目のポリマー粒子モデル12Bの位置を決定する工程を説明する概念図である。第2決定工程S45では、i+1番目のポリマー粒子モデル12(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)の位置が、i番目に決定されたポリマー粒子モデル(例えば、1番目のポリマー粒子モデル12A)の位置から予め定められた範囲内に決定される。
【0054】
本実施形態では、隣接するポリマー粒子モデル12、12間、即ち、i番目に決定されたポリマー粒子モデル(例えば、1番目のポリマー粒子モデル12A)の位置から、i+1番目のポリマー粒子モデル12(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)までの距離L3が、予め定められた距離以下となるように、i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置が決定される。予め定める距離としては、適宜設定することができるが、ポリマー粒子モデル12、12間に結合される結合鎖モデル13のポテンシャルP2(
図7に示す)に基づいて決定されるのが望ましい。距離L3は、例えば、ポテンシャルP2のカットオフ距離(平衡長)r
cの150%以下に設定されるのが望ましい。これにより、後述する工程S32において、結合鎖モデル13(ポテンシャルP2)が定義された後に、各ポリマー粒子モデル12が大きく移動するのを防ぐことができる。本実施形態の距離L3は、カットオフ距離(平衡長)r
cに設定されている。
【0055】
そして、i+1番目のポリマー粒子モデル12(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12)の位置は、i番目に決定されたポリマー粒子モデル(例えば、1番目のポリマー粒子モデル12A)の位置から予め定められた範囲(本実施形態では、距離L3)で取りうる全ての座標値から、乱数に従って、ランダムに選択される。これにより、第2決定工程S45では、i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置を決定することができる。i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置は、コンピュータ1に記憶される。
【0056】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、i+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)とフィラー粒子モデル6との最短距離が計算される(工程S47)。工程S47では、全てのフィラー粒子モデル6を対象に、i+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)との最短距離が計算される。最短距離L1は、コンピュータ1に記憶される。
【0057】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きいか否かが判断される(工程S48)。最短距離L1が基準距離よりも大きいと判断された場合(工程S48で、「Y」)、次の工程S49が実施される。他方、最短距離L1が基準距離以下と判断された場合は、決定されたi+1番目のポリマー粒子モデル12(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)の位置をキャンセルして(第2キャンセル工程S50)、第2決定工程S45がやり直される。これにより、最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きくなるまで、第2決定工程S45が繰り返し実施されるため、i+1番目のポリマー粒子モデル12(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)の位置を、フィラー粒子モデル6から基準距離よりも離間した位置に、確実に決定することができる。
【0058】
次に、本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、ポリマーモデル11の全てのポリマー粒子モデル12が空間2に配置されたか否かが判断される(工程S49)。本実施形態では、添字iがN−1であるか否かによって、全てのポリマー粒子モデル12A〜12Nが配置されたか否かが判断される。工程S49では、全てのポリマー粒子モデル12A〜12Nが配置されたと判断された場合(工程S49で、「Y」)、次の工程S32が実施される。他方、全てのポリマー粒子モデル12が配置されていないと判断された場合(工程S49で、「N」)、添字iをインクリメント(i=i+1)して(工程S51)、第2決定工程S45が再度実施される。これにより、第2決定工程S45では、3番目のポリマー粒子モデル12CからN番目のポリマー粒子モデル12Nの位置を順次決定することができる。
【0059】
図12は、3番目のポリマー粒子モデル12Cの位置を決定する工程を説明する図である。3番目のポリマー粒子モデル12C〜N番目のポリマー粒子モデル12Nの位置が決定される場合は、ポリマー粒子モデル12、12間の距離L3に加えて、連続する3つのポリマー粒子モデル12なす結合角θ1が、予め定められた角度となるように、各ポリマー粒子モデル12C〜12Nの位置が決定される。即ち、i+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、3番目のポリマー粒子モデル12C)、i番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)、及び、i−1番目のポリマー粒子モデル(例えば、1番目のポリマー粒子モデル12A)がなす結合角θ1が、予め定められた範囲(例えば、10度〜170度)となるように、i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置が決定される。これにより、i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置を、フィラー粒子モデル6から予め定められた距離(基準距離)よりも離間した位置に決定しつつ、ポリマーモデル11の構造を、分子鎖の構造に近似させることができる。
【0060】
次に、ポリマーモデル定義工程S3では、
図6及び
図7に示されるように、ポリマー粒子モデル12、12間に、結合鎖モデル13が定義される(工程S32)。これにより、一つのポリマーモデル11(
図6に示す)を設定することができる。
【0061】
次に、ポリマーモデル定義工程S3では、全てのポリマーモデル11が、空間2に配置されたか否かが判断される(工程S33)。工程S33では、全てのポリマーモデル11が配置されたと判断された場合(工程S33で、「Y」)、次の工程S4が実施される。他方、全てのポリマーモデル11が配置されていないと判断された場合(工程S33で、「N」)、ポリマー粒子モデル配置工程S31及び工程S32が再度実施される。これにより、全てのポリマーモデル11を、空間2内に配置することができる。
【0062】
このように、本実施形態の作成方法では、全てのポリマーモデル11について、各ポリマー粒子モデル12とフィラー粒子モデル6との距離が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きくなるように、各ポリマー粒子モデル12の位置が決定されるため、例えば、凝集して配置されたフィラー粒子モデル6、6間に、ポリマー粒子モデル12が配置されることがない。また、ポリマー粒子モデル12の位置は、コンピュータ1によって、自動的に決定される。従って、本発明の作成方法では、短時間で、適切な高分子材料モデルM(
図13に示す)を作成することができる。
【0063】
次に、本実施形態の作成方法では、
図7に示されるように、隣接するポリマーモデル11、11のポリマー粒子モデル12、12間に、ポテンシャルP3が設定される(工程S4)。ポテンシャルP3は、上記式(1)のLJポテンシャルU
LJ(r
ij)によって定義される。なお、ポテンシャルP3の強度ε及び定数σも、適宜設定することができるが、ポリマーモデル11の結合鎖モデル13に定義された数値と同一範囲が望ましい。ポテンシャルP3は、コンピュータ1に記憶される。
【0064】
次に、本実施形態の作成方法では、隣接するフィラーモデル5、5間、及び、ポリマーモデル11とフィラーモデル5との各粒子間に、ポテンシャルP4が定義される(工程S5)。ポテンシャルP4も、上記式(1)のLJポテンシャルU
LJ(r
ij)によって定義される。また、ポテンシャルP4の各定数及び各変数の値としては、適宜設定することができるが、上記論文1に基づいて設定されるのが望ましい。ポテンシャルP4は、コンピュータ1に記憶される。
【0065】
本実施形態の作成方法では、
図2に示した一連の処理が実施されることにより、高分子材料モデルを作成することができる。
図13は、高分子材料モデルMを示す概念図である。
図13では、ポリマーモデル11を一つのみ示して、その他のポリマーモデル11を省略して表示している。このような高分子材料モデルMは、例えば、高分子材料の諸条件に基づいて実施される変形シミュレーションに用いることができる。従って、高分子材料モデルMは、ゴム等の高分子材料の開発に役立つ。なお、変形シミュレーションは、例えば、OCTAに含まれるCOGNACを用いて処理することができる。
【0066】
本実施形態の作成方法では、フィラーモデル5と、ポリマーモデル11とを用いて、分子動力学計算に基づく構造緩和が計算されてもよい。分子動力学計算では、例えば、空間2について所定の時間、フィラーモデル5及びポリマーモデル11が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻でのフィラーモデル5及びポリマーモデル11の動きが、単位時間毎に追跡される。構造緩和の計算は、空間2において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。
【0067】
このような構造緩和の計算は、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、ポリマーモデル11の初期配置を、さらに緩和させることができる。構造緩和の計算は、例えば(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるCOGNACを用いて処理することができる。
【0068】
本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、位置が決定されたポリマー粒子モデル12と、フィラー粒子モデル6との最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)以下の場合に、決定されたポリマー粒子モデル12の位置をキャンセルして、ポリマー粒子モデル12の位置が再度決定される態様が例示されたが、これに限定されるわけではない。
図14及び
図15は、本発明の他の実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図14及び
図15において、前実施形態と同一の処理が実施される工程については、同一の符号を付して説明している。
【0069】
この実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、i+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)とフィラー粒子モデル6との最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)以下と判断された場合(工程S48で、「N」)、第2キャンセル工程S50に先立ち、i+1番目のポリマー粒子モデル12についての第2決定工程S45のやり直し回数である第2やり直し回数Tbが判断される(工程S52)。
【0070】
第2やり直し回数Tbは、第2決定工程S45が再度実施される直前の工程S54(
図14に示す)において、「0」に初期化される。第2やり直し回数Tbは、第2キャンセル工程S50が実施される度に、インクリメント(Tb=Tb+1)される(工程S53)。従って、第2やり直し回数Tbは、同一のi+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)の位置を確定できずに、第2決定工程S45がやり直された回数を示すことができる。
【0071】
第2やり直し回数Tbが大きい場合、第2決定工程S45をこれ以上継続して処理しても、i+1番目のポリマー粒子モデル(例えば、2番目のポリマー粒子モデル12B)の位置を早期に決定できないおそれがある。この原因としては、例えば、i+1番目のポリマー粒子モデルよりも前に決定されたポリマー粒子モデル12の位置が、フィラー粒子モデル6の近くに設定されている場合、i+1番目のポリマー粒子モデルを配置できる領域が大幅に制限されていることが考えられる。
【0072】
このような観点より、第2やり直し回数Tbが、予め定められた回数を超える場合(工程S52で、「Y」)、決定された1番目のポリマー粒子モデル12Aからi+1番目のポリマー粒子モデル12までの位置がキャンセルされ(第3キャンセル工程S55)、その後、
図4に示した工程S41及び第1決定工程S42がやり直される。他方、第2やり直し回数Tbが、予め定められた回数以下である場合(工程S52で、「N」)、前実施形態と同様に、第2キャンセル工程S50及び工程S53が実施された後に、第2決定工程S45がやり直される。
【0073】
このように、この実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、第2やり直し回数Tbが予め定められた回数を超える場合、ポリマーモデル11の全てのポリマー粒子モデル12の位置をリセットして、1番目のポリマー粒子モデル12Aの位置から再度決定されるため、ポリマー粒子モデル12の位置を、早期に決定するのに役立つ。なお、第3キャンセル工程S55が処理された後、及び、i+1番目のポリマー粒子モデル12の位置が確定した場合、第2やり直し回数Tbが「0」に初期化される(工程S54)。
【0074】
なお、第2やり直し回数Tbの予め定められた回数(以下、単に「第1基準回数」ということがある。)については、空間2、フィラー粒子モデル6、及び、ポリマー粒子モデル12の体積や、割合に基づいて、適宜設定することができる。なお、第1基準回数が大きいと、例えば、i+1番目のポリマー粒子モデルよりも前に決定されたポリマー粒子モデル12の位置が、フィラー粒子モデル6の近くに設定されていても、第3キャンセル工程S55が早期に実施されないため、ポリマー粒子モデル12の位置を短時間で決定できないおそれがある。逆に、第1基準回数が小さくても、第3キャンセル工程S55が早期に実施されてしまうため、ポリマー粒子モデル12の位置を短時間で決定できないおそれがある。このような観点より、第1基準回数は、好ましくは2以上、より好ましくは10以上であり、また、好ましくは100000以下、さらに好ましくは10000以下である。
【0075】
なお、この実施形態の第3キャンセル工程S55では、1番目のポリマー粒子モデル12Aからi+1番目のポリマー粒子モデルまでの全ての位置がキャンセルされる場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、i+1番目のポリマー粒子モデルから降順に、一部のポリマー粒子モデルの位置がキャンセルされてもよい。これにより、全てのポリマー粒子モデル12のうち、一部のポリマー粒子モデル12の位置のみがキャンセルされるため、ポリマー粒子モデル12の位置を早期に決定するのに役立つ。
【0076】
前実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、i+1番目のポリマー粒子モデル12についての第2やり直し回数Tbが、予め定められた回数を超える場合、1番目のポリマー粒子モデル12Aから前記i+1番目のポリマー粒子モデルまでの位置をキャンセルして、第1決定工程S42をやり直す態様が例示されたが、これに限定されるわけではない。
図16及び
図17は、本発明のさらに他の実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図16及び
図17において、前実施形態と同一の処理が実施される工程については、同一の符号を付して説明している。
【0077】
本実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、
図17に示されるように、第2やり直し回数Tbが、予め定められた回数を超える場合(工程S52で、「Y」)、第3キャンセル工程S55に先立ち、第1決定工程S42のやり直し回数である第1やり直し回数Taが判断される(工程S56)。
【0078】
第1やり直し回数Taは、ポリマー粒子モデル配置工程S31が開始される直後の工程S59において、「0」に初期化されている。また、第1やり直し回数Taは、第3キャンセル工程S55が実施される度に、インクリメント(Ta=Ta+1)される(工程S60)。従って、第1やり直し回数Taは、同一のポリマーモデル11において、第1決定工程S42のやり直された回数が示される。
【0079】
第1やり直し回数Taが大きい場合、第1決定工程S42をやり直しても、ポリマーモデル11の配置を早期に決定できないおそれがある。この原因としては、ポリマー粒子モデル12の結合角θ1(
図7に示す)が小さいために、ポリマー粒子モデル12が、フィラー粒子モデル6に重複して配置されやすくなっていることが考えられる。
【0080】
このような観点より、第1やり直し回数Taが予め定められた回数を超える場合(工程S56で、「Y」)、ポリマー粒子モデル12の結合角θ1を大に設定して(工程S57)、第1やり直し回数Taが「0」に初期化される(工程S58)。その後、第3キャンセル工程S55及び工程S60が実行され、工程S41及び第1決定工程S42がやり直される。他方、第1やり直し回数Taが予め定められた回数以下である場合(工程S56で、「N」)、前実施形態と同様に、第3キャンセル工程S55及び工程S60が実行され、工程S41及び第1決定工程S42がやり直される。
【0081】
このように、この実施形態のポリマー粒子モデル配置工程S31では、第1やり直し回数Taが予め定められた回数を超える場合、ポリマー粒子モデル12の結合角θ1を大きくした後に、ポリマーモデル11の全てのポリマー粒子モデル12の位置をキャンセルして、1番目のポリマー粒子モデル12Aの位置から再度決定される。このため、ポリマー粒子モデル12が、フィラー粒子モデル6に重複して配置されるのを防ぐことができ、ポリマー粒子モデル12の位置を、早期に決定するのに役立つ。
【0082】
なお、第1やり直し回数Taの予め定められた回数(以下、「第2基準回数」ということがある。)については、第2やり直し回数Tbと同様に、適宜設定することができる。第2基準回数は、好ましくは10以上、さらに好ましくは100以上が望ましく、また、好ましくは100000以下、さらに好ましくは1000以下が望ましい。
【0083】
前実施形態のポリマーモデル定義工程では、1番目のポリマー粒子モデル12Aからi+1番目のポリマー粒子モデルまでの位置をキャンセルして、第1決定工程S42をやり直す際に、結合角θ1を大きくする態様が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、各ポリマー粒子モデル12と、フィラー粒子モデル6との最短距離L1が、予め定められた距離(基準距離)よりも大きくなるように、結合角θ1を適宜変更しながら、各ポリマー粒子モデル12の位置が決定されてもよい。これにより、ポリマー粒子モデル12が、フィラー粒子モデル6に重複して配置されるのを防ぎつつ、ポリマー粒子モデルの位置を確実に決定することができる。
【0084】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0085】
図2、
図8、
図16及び
図17に示した手順に従って、予め定められた仮想の空間に、フィラー粒子モデルを有するフィラーモデルと、ポリマー粒子モデルを含むポリマーモデルとが配置された高分子材料モデルが作成された(実施例1)。
【0086】
比較のために、数密度が0.1となるように、フィラーモデル及びポリマーモデルを空間に配置した後に、分子動力学計算を実施しながら、数密度が0.9の高分子材料モデルが作成された(比較例1)。また、フィラー粒子モデルとポリマー粒子モデルとの重複を許容する条件下で、フィラーモデルが配置された空間に、ポリマー粒子モデルがランダムに配置された後に、分子動力学計算を実施して、高分子材料モデルが作成された(比較例2)。
【0087】
そして、実施例、比較例1及び比較例2の作成時間、ポリマーモデルの慣性半径、フィラーモデルへのポリマーモデルの侵入の有無、及び、フィラーモデルの初期配置からの移動量が、それぞれ比較された。なお、各パラメータは、明細書中の記載通りであり、共通仕様は次のとおりである。テストの結果は、表1に示される。
フィラー体積分率:0.20
フィラーモデル:
個数:400個(10個ごとに凝集)
フィラーモデル1個あたりのフィラー粒子モデルの個数:5000個
フィラーモデルの半径:10σ
ポリマーモデル:
個数:40000本
ポリマー粒子モデルの個数(鎖長):200個
慣性半径:50σ
基準距離L1:12σ
結合角θ1:120度
【0088】
【表1】
【0089】
テストの結果、実施例の作成方法では、比較例1及び比較例2の作成方法に比べて、
作成時間を大幅に短縮でき、さらに、ポリマーモデルの慣性半径を、実際の慣性半径(50σ)に近似させることができた。さらに、実施例の作成方法では、フィラーモデルへのポリマーモデルの侵入を防ぎつつ、フィラーモデルが初期配置から移動するのを防ぐことができた。従って、実施例では、短時間で、適切な高分子材料モデルを作成することができた。