(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
すべての車輪の車輪速の最大値又は平均値と、各車輪それぞれの車輪速との対比に基づいて、各車輪について、該車輪の車輪速が低下しているか否かを検知する低下車輪検知手段をさらに備え、
前記ディレイ設定手段は、前記低下車輪検知手段により検知された、車輪速が低下している車輪が一輪のみの場合にディレイを設定することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
前記低下車輪検知手段は、運転者の操作に応じて変速比が変更される手動変速モードが選択されており、変速比が所定の変速比よりもローギヤであり、かつ、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否かの判定を停止することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
前記ディレイ設定手段は、前記車両の減速度が所定減速度以上の場合には、該所定減速度未満の場合よりも、前記ディレイをより短く設定することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
前記ディレイ設定手段は、直接的又は間接的に取得された、エンジン始動時における自動変速機の温度が所定温度以下の場合には、該所定温度より高い場合よりも前記ディレイをより短く設定することを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
前記路面勾配検出手段は、エンジンの出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められる車両の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定するとともに、該路面勾配が略ゼロの平坦路を略一定速度で走行しているときに、前記加速度検出手段のゼロ点を学習することを特徴とする請求項25〜29のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
前記車輪速低下率算出手段は、左前輪車輪速及び右前輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右後輪の平均車輪速で除算して前輪ベース車輪速比を求めるとともに、左後輪車輪速及び右後輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右前輪の平均車輪速で除算して後輪ベース車輪速比を求め、前記前輪ベース車輪速比及び前記後輪ベース車輪速比のいずれか小さい方の値を前記車輪速低下率とすることを特徴とする請求項1〜30のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、例えば、乾燥したアスファルト路などの路面摩擦係数μが高い道路(高μ路)を走行している状況でマンホールの上を通過するような場合、一時的に路面のμが低下することにより、一瞬ABS制御に入る(アンチロックブレーキシステムが作動する)ことが起こり得る。このような場合に、上述した従来の技術では、アンチロックブレーキシステムの作動に伴って協調制御が実行されることにより、ロックアップクラッチを解放してしまうため、例えば、その直後にアクセルペダルを踏み込むと、エンジンの回転数が吹け上がったりなど、ドライバビリティ(走行性)を悪化させるおそれがあった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、アンチロックブレーキシステムとの協調制御機能を有する自動変速機の制御装置において、不必要な協調制御の実行を防止でき、ドライバビリティを改善することが可能な自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、制動時における車輪のロックを防止するアンチロックブレーキシステムの作動中に、エンジンの駆動力を車輪に伝達するクラッチの解放及び変速比の保持のうち少なくともいずれか一方を含む協調制御を実行する協調制御手段と、車体の車体速を取得する車体速取得手段と、車体に取り付けられている複数の車輪それぞれの車輪速を検出する車輪速検出手段と、アンチロックブレーキシステムの作動中かつ制動中に、すべての車輪の車輪速の内、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率を算出する車輪速低下率算出手段と、車輪速低下率算出手段により算出された車輪速低下率に基づいて、協調制御を開始するまでのディレイを設定するディレイ設定手段とを備え、協調制御手段が、ディレイ設定手段により設定されたディレイが経過したときに、協調制御を実行することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る自動変速機の制御装置によれば、アンチロックブレーキシステムの作動中かつ制動中に、すべての車輪の車輪速の内、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率が算出され、該車輪速低下率に基づいて、アンチロックブレーキシステムとの協調制御を開始するまでのディレイ(待ち時間)が設定される。そして、設定されたディレイが経過したときに、協調制御が実行される。そのため、例えば、乾燥したアスファルト路などの路面摩擦係数μが高い道路(高μ路)を走行している状況でマンホールの上を通過するような場合、すなわち、一時的に路面のμが低下することにより、一瞬ABS制御に入る(アンチロックブレーキシステムが作動する)ような場合に、不必要な協調制御の実行を防止でき、ドライバビリティ(走行性)を改善することが可能となる。
【0014】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、車輪速低下率算出手段が、左前輪車輪速及び右前輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右後輪の平均車輪速で除算して前輪ベース車輪速比を求めるとともに、左後輪車輪速及び右後輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右前輪の平均車輪速で除算して後輪ベース車輪速比を求め、前輪ベース車輪速比及び後輪ベース車輪速比のいずれか小さい方の値を車輪速低下率とすることが好ましい。このようにすれば、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率を適切に算出することができる。
【0015】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、ディレイ設定手段が、車輪速低下率が大きくなる程、ディレイを短く設定することが好ましい。このようにすれば、車輪速低下率に応じて、適切にディレイを設定することができる。
【0016】
また、本発明に係る自動変速機の制御装置では、ディレイ設定手段が、車輪速低下率及び車速に基づいて、ディレイを設定するとともに、車速が低くなる程ディレイを短く設定することが好ましい。このようにすれば、車輪速低下率及び車速に基づいて、より適切にディレイを設定することができる。
【0017】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、すべての車輪の車輪速の最大値又は平均値と、各車輪それぞれの車輪速との対比に基づいて、各車輪について、該車輪の車輪速が低下しているか否かを検知する低下車輪検知手段をさらに備え、ディレイ設定手段が、低下車輪検知手段により検知された、車輪速が低下している車輪が一輪のみの場合にディレイを設定することが好ましい。この場合、他の車輪の車輪速との対比において、車輪速が低下している車輪が検知され、車輪速が低下している車輪が一輪のみの場合にディレイが設定される。よって、車輪速が低下している車輪が二輪以上ある場合には、ディレイなく協調制御を開始することができる。
【0018】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、低下車輪検知手段が、車体速と、各車輪それぞれの車輪速との対比に基づいて、すべての車輪の車輪速が低下しているか否かを判定し、ディレイ設定手段が、すべての車輪の車輪速が低下していると判定された場合には、ディレイをより短く設定することが好ましい。
【0019】
ところで、すべての車輪の車輪速が同時に低下する(落ち込む)場合には、車輪速低下率の算出を誤るおそれがある。しかしながら、この場合、車体速と、各車輪それぞれの車輪速との対比に基づいて、すべての車輪の車輪速が低下しているか否かが判定され、すべての車輪の車輪速が低下していると判定された場合には、ディレイがより短く(ゼロを含む)設定される。よって、すべての車輪の車輪速が同時に低下する場合であっても、アンチロックブレーキシステムの作動時に、エンジンストールを確実に回避することが可能となる。
【0020】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、低下車輪検知手段が、アンチロックブレーキシステムの作動時に、車輪速が低下している車輪が検知されない場合には、すべての車輪の車輪速が同時に低下していると判定することが好ましい。このようにすれば、一部の車輪の車輪速の低下が検知されない場合には、すべての車輪の車輪速が同時に低下している(4輪同時落ち)と推定されて、ディレイがより短く(ゼロを含む)設定される。そのため、アンチロックブレーキシステムの作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0021】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、車両の減速度が所定減速度以上の場合には、低下車輪検知手段が、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否かの判定を停止することが好ましい。
【0022】
ところで、すべての車輪の車輪速が同時に低下する状況は、極低μ路で発生し易い。そのため、車両の減速度が所定減速度以上の場合には、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判定を停止することにより、誤判定を防止することができる。
【0023】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、運転者の操作に応じて変速比が変更される手動変速モードが選択されており、変速比が所定の変速比よりもローギヤであり、かつ、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、低下車輪検知手段が、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否かの判定を停止することが好ましい。
【0024】
ところで、極低μ路では、例えば、アクセルOFFや、ダウンシフトなどによっても車輪速の低下が発生し得る。そのため、このような走行条件下では、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判定を停止することにより、誤判定を防止することができる。
【0025】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、悪路走行に適した変速制御を行う悪路走行モードの選択操作を受け付ける悪路走行モード受付手段をさらに備え、ディレイ設定手段が、悪路走行モードが選択されている場合には、該悪路走行モードが選択されていないときよりもディレイをより長く設定することが好ましい。
【0026】
ところで、悪路走行に適した悪路走行モードが選択されている場合には、悪路走行モードが選択されていないときよりも変速比がロー側に制御される。この場合、悪路走行モードが選択されている場合には、ディレイをより長く設定することにより、アンチロックブレーキシステムの作動時に、ドライバビリティが悪化することをより確実に回避することが可能となる。
【0027】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、スポーツ走行に適した変速制御を行うスポーツ走行モードの選択操作を受け付けるスポーツ走行モード受付手段をさらに備え、ディレイ設定手段が、スポーツ走行モードが選択されている場合には、該スポーツ走行モードが選択されていないときよりもディレイをより長く設定することが好ましい。
【0028】
ところで、スポーツ走行に適したスポーツ走行モードが選択されている場合には、スポーツ走行モードが選択されていないときよりも変速比がロー側に制御される。この場合、スポーツ走行モードが選択されている場合には、ディレイをより長く設定することにより、アンチロックブレーキシステムの作動時に、ドライバビリティが悪化することをより確実に回避することが可能となる。
【0029】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、ディレイ設定手段が、車両の減速度が所定減速度以上の場合には、該所定減速度未満の場合よりも、ディレイをより短く設定することが好ましい。このようにすれば、車両の減速度が大きいときには、ディレイが短く(ゼロを含む)設定される。そのため、アンチロックブレーキシステムの作動時に、エンジンストールを確実に回避することができる。
【0030】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、ディレイ設定手段が、車両が旋回している場合には、車両が旋回していない場合よりもディレイをより短く設定することが好ましい。このようにすれば、車両が旋回している場合(例えば、操舵角が所定舵角以上又は横加速度センサ値が所定値以上の場合)に、ディレイがより短く(ゼロを含む)設定されるため、車両旋回中に車両の挙動が不安定になることを防止することが可能となる。
【0031】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、ディレイ設定手段が、外気温が所定温度以下の場合には、該所定温度より高い場合よりもディレイをより短く設定することが好ましい。
【0032】
ところで、外気温度が所定温度(例えば0℃)以下の場合には路面が凍結するなどにより低μ路となっている可能性が高い。この場合、外気温が所定温度以下の場合には、ディレイをより短く(ゼロを含む)設定することにより、アンチロックブレーキシステムの作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0033】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、ディレイ設定手段が、直接的又は間接的に取得された、エンジン始動時における自動変速機の温度が所定温度以下の場合には、該所定温度より高い場合よりもディレイをより短く設定することが好ましい。
【0034】
ところで、エンジン始動時における自動変速機の温度が所定温度(例えば0℃)以下の場合には路面が凍結するなどにより低μ路となっている可能性が高い。この場合、自動変速機の温度が所定温度以下の場合には、ディレイをより短く(ゼロを含む)設定することにより、アンチロックブレーキシステムの作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0035】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、協調制御手段が、設定されたディレイが経過するまでの間、クラッチを半クラッチ状態に保持することが好ましい。
【0036】
ところで、協調制御が開始されてから、実際にクラッチが解放状態になるまでには遅れがある。この場合、設定されたディレイが経過するまでの間、クラッチが半クラッチ状態に保持されるため、協調制御が開始されてからクラッチが解放状態になるまでの遅れを短縮することが可能となる。
【0037】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、車両の加速度を検出する加速度検出手段をさらに備え、車体速取得手段が、加速度検出手段により検出された加速度に基づいて、車体速を取得することが好ましい。このようにすれば、加速度検出手段により検出された加速度を用いて、車体速を適切に取得することができる。
【0038】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、上記クラッチがロクアップクラッチであり、車速がロックアップクラッチが締結されるロックアップ車速以上であり、かつ制動中の場合、及び、略一定速度で走行しているときに、車体速取得手段が、車体速を取得することが好ましい。
【0039】
ところで、車体速は常時演算すると誤差が累積されてしまうおそれがある。この場合、車体速を取得する運転条件を限定することにより、車体速の誤差の累積を防止でき、車体速を精度良く算出することが可能となる。
【0040】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、路面勾配を検出する路面勾配検出手段をさらに備え、車体速取得手段が、加速度検出手段により検出された加速度を、路面勾配検出手段により検出された路面勾配で補正し、補正後の加速度に基づいて、車体速を取得することが好ましい。このようにすれば、検出された加速度に路面勾配が含まれる場合であっても、該路面勾配が取得されて、加速度が補正される。そのため、車体速をより精度良く算出することが可能となる。
【0041】
なお、本発明に係る自動変速機の制御装置では、路面勾配検出手段が、加速度検出手段により検出された車両の加速度と車速の微分値との差に基づいて、路面勾配を検出することが好ましい。
【0042】
ここで、本発明に係る自動変速機の制御装置は、自動変速機の出力軸の回転数を検出する回転数検出手段をさらに備え、上記車速が、回転数検出手段により検出された自動変速機の出力軸の回転数に基づき、又は、すべての車輪速の平均値から取得されることが好ましい。このようにすれば、車速を適切に取得することができる。
【0043】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、路面勾配検出手段が、車両が旋回しているときには、路面勾配の検出を停止することが好ましい。
【0044】
ところで、路面勾配の推定では、旋回で生じたスリップアングルにより、車体の加速度と車速の微分値とにズレが生じるおそれがある。この場合、車両が旋回しているときには、路面勾配の検出が停止されるため、路面勾配の誤検出を防止することが可能となる。
【0045】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、路面勾配検出手段が、車輪がスリップしているときには、路面勾配の検出を停止することが好ましい。
【0046】
ところで、路面勾配の推定では、車輪がスリップしていると演算を誤るおそれがある。この場合、車輪がスリップしているときには、路面勾配の検出が停止されるため、路面勾配の誤検出を防止することが可能となる。
【0047】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、路面勾配検出手段が、エンジンの出力トルクから求められる駆動力に対し、車速の微分値から求められる車両の加速度が所定値以上に大きい場合には、路面勾配の検出を停止することが好ましい。この場合、エンジンの出力トルクから求められる駆動力に対し、車速の微分値から求められる車両の加速度が所定値以上に大きいときには、車輪がスリップしていると判断されて、路面勾配の検出が停止される。よって、路面勾配の誤検出を防止することが可能となる。
【0048】
本発明に係る自動変速機の制御装置では、路面勾配検出手段が、エンジンの出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められる車両の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定するとともに、該路面勾配が略ゼロの平坦路を略一定速度で走行しているときに、加速度検出手段のゼロ点を学習することが好ましい。このようにすれば、加速度検出手段のゼロ点を学習することができるため、車体速をより精度良く算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、アンチロックブレーキシステムとの協調制御機能を有する自動変速機の制御装置において、不必要な協調制御の実行を防止でき、ドライバビリティを改善することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0052】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る自動変速機の制御装置1の構成について説明する。
図1は、ロックアップクラッチ解放機能、及び変速比保持(シフトホールド)機能を含むアンチロックブレーキシステムとの協調制御機能を有する自動変速機の制御装置1、及び、該自動変速機の制御装置1が適用された車両4の要部の構成を示すブロック図である。
【0053】
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ81により検出される。さらに、スロットルバルブには、該スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ82が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0054】
上述したエアフローメータ81、スロットル開度センサ82に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ83、及びエンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ84等の各種センサも接続されている。
【0055】
エンジン20の出力軸(クランク軸)21には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ22、及び前後進切換機構31を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力する無段変速機30が接続されている。
【0056】
トルクコンバータ22は、主として、ポンプインペラ23、タービンライナ24、及びステータ25から構成されている。出力軸21に接続されたポンプインペラ23がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ23に対向して配置されたタービンライナ24がオイルを介してエンジン20の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ25は、タービンライナ24からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ23に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0057】
また、トルクコンバータ22は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ26を有している。トルクコンバータ22は、ロックアップクラッチ26が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン20の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップクラッチ26が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン20の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。
【0058】
前後進切替機構31は、駆動輪の正転と逆転(車両4の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構31は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列(図示省略)、前進クラッチ及び後進ブレーキを備えている。前後進切替機構31では、前進クラッチ、及び後進ブレーキそれぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
【0059】
無段変速機30は、前後進切替機構31を介してトルクコンバータ22のタービン軸(出力軸)と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
【0060】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0061】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0062】
ここで、プライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0063】
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、バルブボディ60は、例えば、車両4の前進/後進を切替える前後進切替機構31等にも油圧を供給する。
【0064】
無段変速機30の変速制御は、トランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)70によって実行される。すなわち、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するシフトアップ・ソレノイドバルブ、シフトダウン・ソレノイドバルブの駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34cに供給/排出するATF(Automatic Transmission Fluid)量を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。なお、詳細は後述する。
【0065】
変速機構33のセカンダリ軸37は、一対のギヤ(リダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤ)からなるリダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39につながれており、変速機構33で変換された駆動力は、リダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39に伝達される。カウンタ軸39は、一対のギヤ(カウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤ)からなるカウンタギヤ40を介して、フロントドライブシャフト43につながれている。カウンタ軸39に伝達された駆動力は、カウンタギヤ40、及び、フロントドライブシャフト43を介してフロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)44に伝達される。フロントデフ44は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ44からの駆動力は、左前輪ドライブシャフト45Lを介して左前輪10FLに伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフト45Rを介して右前輪10FRに伝達される。
【0066】
一方、上述したカウンタ軸39上のカウンタギヤ40(カウンタドライブギヤ)の後段には、リヤディファレンシャル47に伝達される駆動力を調節するトランスファ41が介装されている。トランスファ41は、例えば、ベベルギヤ式、プラネタリギヤ式のセンタディファレンシャル装置と、前輪側出力部及び後輪側出力部の差動を拘束する電子制御カップリングを有して構成される。また、このような機械式センタディファレンシャル及び差動制限用カップリングの組み合わせに代えて、前輪、後輪の一方のアクスルディファレンシャルを変速機の出力軸と直結とし、他方への駆動力伝達を電子制御カップリングによって可変させる構成としてもよい。トランスファ41は、4輪の駆動状態(例えば前輪10FL,10FRのスリップ状態等)やエンジントルクなどに応じて締結力(すなわち後輪10RL,10RRへのトルク分配率)を制御する。よって、カウンタ軸39に伝達された駆動力は、トランスファ41によって分配され、後輪10RL,10RR側にも伝達される。
【0067】
より具体的には、カウンタ軸39の後端は、一対のギヤ(トランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤ)からなるトランスファギヤ42を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。よって、カウンタ軸39に伝達され、トランスファ41によって調節(分配)された駆動力は、トランスファギヤ42(トランスファドリブンギヤ)から、プロペラシャフト46を介してリヤディファレンシャル(以下「リヤデフ」ともいう)47に伝達される。
【0068】
リヤデフ47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。リヤデフ47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
【0069】
各車輪10FR〜10RR(以下、すべての車輪10FR〜19RRを総称して車輪10ということもある)それぞれには、車輪10FR〜10RRを制動するブレーキ11FR〜11RR(以下、すべてのブレーキ11FR〜11RRを総称してブレーキ11ということもある)が取り付けられている。また、各車輪10FR〜10RRそれぞれには、車輪回転速度を検出する車輪速センサ12FR〜12RR(以下、すべての車輪速センサ12FR〜12RRを総称して車輪速センサ12ということもある)が取り付けられている。
【0070】
本実施形態では、ブレーキ11として、ディスクブレーキを採用した。ブレーキ11は、車両4の車輪10に取り付けられたブレーキディスクと、ブレーキパッド及びホイールシリンダを内蔵したブレーキキャリパを有して構成されている。ブレーキ時(制動時)には、油圧によりブレーキパッドがブレーキディスクに押圧され、摩擦力によってブレーキディスクと連結されている車輪10が制動される。なお、本実施形態で用いられているブレーキ10は、ディスクブレーキであるが、摩擦材をドラムの内周面に押し付けて制動するドラムブレーキ等を用いてもよい。
【0071】
車輪速度センサ12は、車輪10とともに回転するロータ(ギヤロータ、又は磁気ロータ)による磁界の変化を検出する非接触型センサであり、例えば、ロータ回転をホール素子やMR素子で検出する半導体方式が好適に用いられる。
【0072】
また、この車両4には、急制動や滑りやすい路面で制動した場合に生じる車輪ロックを防止し、各車輪のスリップ率を適正に保つことで、制動時の方向安定性と操舵性を確保するとともに、最適な制動力を得るアンチロックブレーキシステム(ABS)50が搭載されている。なお、詳細は後述する。
【0073】
また、車両4のフロア(センターコンソール)等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(図示省略)が設けられている。シフトレバーには、シフトレバーと連動して動くように接続され、該シフトレバーの選択位置を検出するレンジスイッチ93が取り付けられている。レンジスイッチ93は、TCU70に接続されており、検出されたシフトレバーの選択位置が、TCU70に読み込まれる。なお、シフトレバーでは、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。
【0074】
一方、ステアリングホイール15の後側には、手動変速モード時に、運転者による変速操作(変速要求)を受付けるためのプラス(+)パドルスイッチ及びマイナス(−)パドルスイッチ(図示省略)が設けられている(以下、プラスパドルスイッチ及びマイナスパドルスイッチを総称して「パドルスイッチ」ということもある)。プラスパドルスイッチは手動でアップシフトする際に用いられ、マイナスパドルスイッチは手動でダウンシフトする際に用いられる。プラスパドルスイッチ及びマイナスパドルスイッチは、TCU70に接続されており、パドルスイッチから出力されたスイッチ信号はTCU70に読み込まれる。
【0075】
また、この車両4は、エンジン20の出力特性および無段変速機30の変速特性を、運転者の操作により切り替え可能に構成されている。より詳細には、例えば車両4のセンターコンソールには、通常路走行に用いられる走行モードであるIモード(出力トルクを抑制してイージードライブ性と低燃費性とを両立させたモード)、Sモード(アクセル開度に対して出力トルクがほぼリニアに変化するように設定され、通常運転に適したモード)、S#モード(低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性としたパワー重視のモード)の選択操作を受け付ける走行モード切替スイッチ85、及び、悪路走行モードであるXモードを選択又はキャンセルするXモードスイッチ95が設けられている。
【0076】
ここで、Iモードでは、燃費及び静粛性を重視して、エンジン回転数がSモード、S#モードに対して比較的低くなるように変速制御が行われる。Sモードでは、エンジンの回転数がIモードに対して比較的高くなるよう(ロー側)に変速制御が行われる。また、S#モード(特許請求の範囲に記載のスポーツ走行モードに相当)では、エンジンの回転数がSモードに対しさらに高くなるよう(よりロー側)に変速制御が行われる。すなわち、走行モード切替スイッチ85は、特許請求の範囲に記載の、スポーツ走行に適した変速制御を行うスポーツ走行モードの選択操作を受け付けるスポーツ走行モード受付手段として機能する。
【0077】
Xモードは、車両4が未舗装路等の不整路面や、雪路、氷結路等の低摩擦係数路面等の悪路を走行する際に用いられる悪路走行モードである。Xモードでは、アクセルオフによってより強いエンジンブレーキが得られるよう、エンジンの回転数がIモードに対して高くなるように変速制御が行われる。すなわち、Xモードスイッチ95は、特許請求の範囲に記載の、X悪路走行に適した変速制御を行う悪路走行モードの選択操作を受け付ける悪路走行モード受付手段として機能する。
【0078】
上述したように、無段変速機30の変速制御及びロックアップクラッチの締結・解放制御(ロックアップ制御)などはTCU70によって実行される。
【0079】
ここで、TCU70には、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン20を総合的に制御するECU80、及び、ABSコントロールユニット(以下「ABSCU」という)51等と相互に通信可能に接続されている。
【0080】
TCU70、ECU80、及びABSCU51は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0081】
ECU80では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を総合的に制御する。
【0082】
また、ECU80では、エアフローメータ81により検出された吸入空気量に基づいて、エンジン20のエンジン軸トルク(出力トルク)が算出される。そして、ECU80は、CAN100を介して、エンジン水温(冷却水温度)、エンジン軸トルク、エンジン回転数、及びアクセルペダル開度等の情報をTCU70に送信する。
【0083】
ABSCU51には、4つの車輪速センサ11FL〜11RR、操舵角センサ16、前後加速度(前後G)センサ55、横加速度(横G)センサ56、及びブレーキスイッチ57などが接続されている。車輪速センサ11FL〜11RRは、上述したように、車輪10FL〜10RRの中心に取り付けられた歯車の回転を磁気ピックアップ等によって検出することにより、車輪10FL〜10RRの回転状態を検出する。前後加速度センサ55は、車両4に作用する前後方向の加速度(以下、単に「加速度」ともいう)を検出し、横加速度センサ83は、車両4に作用する横方向の加速度を検出する。また、操舵角センサ16は、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪10FL,10FRの操舵角を検出する。
【0084】
ABSECU51は、各車輪10FL〜10RRに設けた車輪速度センサ11FL〜11RRの回転情報を基に各車輪11FL〜11RRのスリップ状態を推定し、マスタバック(マスタシリンダ)53とホイールシリンダ間に設けられたABSユニット(ABSアククエータ)52を駆動させ、制動時の各輪ブレーキ油圧(ホイールシリンダ油圧)を独立に制御する。ここで、ABSユニット52は、ABSECU51からの制御指令により制動時(ブレーキ時)のホイールシリンダ油圧を調節する。
【0085】
なお、ABSCU51は、滑りやすい路面や過大な駆動力によって生ずる駆動輪の空転を抑えて、発進時や加速時の車両安定性と加速性を確保するトラクションコントロール機能(TCS機能)を兼ね備えている。そのため、ABSユニット52には、各輪独立に自動加圧できる機能が付加されている。
【0086】
ABSECU51は、検出した各車輪10の車輪速、前後加速度、横加速度、操舵角、ABS制御・TCS制御が実行中であるか否かを示す情報(ABSフラグ・TCSフラグ)、及び制動情報(ブレーキング情報)等を、CAN100を介してTCU70に送信する。
【0087】
TCU70には、無段変速機30の油温を検出する油温センサ91、セカンダリ軸37の回転数を検出する出力軸回転センサ(特許請求の範囲に記載の回転数検出手段に相当)92、レンジスイッチ93、外気温度を検出する外気温センサ94、及び、上記Xモードスイッチ95等が接続されている。また、上述したように、TCU70は、CAN100を介して、ABSCU51から、各車輪10の車輪速、前後加速度、横加速度、操舵角、ABS制御・TCS制御が実行中であるか否かを示す情報(ABSフラグ・TCSフラグ)、及び制動情報(ブレーキング情報)等を受信するとともに、ECU80から、エンジン水温(冷却水温度)、エンジン軸トルク(出力トルク)、エンジン回転数、及びアクセルペダル開度等の情報を受信する。
【0088】
TCU70は、変速マップに従い、車両4の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU70内のROMに格納されている。また、TCU70は、アンチロックブレーキシステム50(ABSCU51)との協調制御機能を有するとともに、不必要な協調制御の実行を防止でき、ドライバビリティを改善する機能を有している。
【0089】
そのため、TCU70は、協調制御部71、車体速取得手部72、車輪速低下率算出部73、低下車輪検知部74、ディレイ設定部75、及び、路面勾配検出部76を機能的に有している。TCU70では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、上記協調制御部71、車体速取得手部72、車輪速低下率算出部73、低下車輪検知部74、ディレイ設定部75、及び、路面勾配検出部76の各機能が実現される。
【0090】
車体速取得部72は、前後加速度センサ55により検出された車両4の加速度に基づいて、次式(1)により、車体速を取得(推定)する。すなわち、車体速取得部72は、特許請求の範囲に記載の車体速取得手段として機能する。
車体速=演算開始時の車速+勾配補正後減速度×演算周期 ・・・(1)
ここで、勾配補正後減速度(勾配を除いた純粋な減速度)は、次式(2)により算出される(詳細は後述する)。
勾配補正後減速度=補正後加速度センサ値−勾配値 ・・・(2)
ただし、勾配値は次式(3)により、補正後加速度センサ値は次式(4)により算出される(詳細は後述する)。
勾配値=補正後加速度センサ値−車速の微分値 ・・・(3)
補正後加速度センサ値=加速度センサ値+0点学習値 ・・・(4)
【0091】
なお、車体速は、常時演算すると誤差が累積されるため、演算条件が限定されている。より具体的には、車体速取得部72は、車速が、ロックアップクラッチ26が締結されるロックアップ車速以上でありかつ制動中の場合、及び、車両4が略一定速度で走行しているとき(すなわち、車体の加減速が少なく、ブレーキのON/OFFが少なく、アクセル開度変化が少なく、かつ、燃料カットのON/OFFが少ないとき)に、車体速を取得(推定)する。
【0092】
また、車体速取得部72は、上式(2)で示されたように、前後加速度センサ55により検出された車両4の加速度に0点学習値が加算された補正後加速度センサ値から、路面勾配を減算して勾配補正後減速度(特許請求の範囲に記載の「補正後の加速度」に相当)を算出し、該勾配補正後減速度に基づいて、車体速を取得(推定)する。なお、取得(推定)された車体速は、低下車輪検知部74に出力される。
【0093】
ここで、上記路面勾配は、路面勾配検出部76によって検出(算出)される。すなわち、路面勾配検出部76は、特許請求の範囲に記載の路面勾配検出手段として機能する。より具体的には、路面勾配検出部76は、上式(3)で示されるように、車両4の加速度に0点学習値が加算された補正後加速度センサ値と、車速の微分値との差に基づいて、路面勾配を検出する。なお、これらの値には、例えば、ADDAの揺れや路面の凹凸に影響されないように、なましを設定する(すなわちフィルタリング処理を施す)ことが好ましい。ここで、上記車速は、出力軸回転センサ92により検出された無段変速機30の出力軸の回転数(又は、すべての車輪速の平均値)に基づき、取得することができる。
【0094】
なお、路面勾配検出部76は、エンジン20の出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められる車両4の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定するとともに、推定された路面勾配が略ゼロの(所定勾配以下の)平坦路を略一定速度で走行しているときに、前後加速度センサ55のゼロ点を学習する。そして、上式(4)で示されたように、前後加速度センサ55の出力値を学習したゼロ点で補正(加算)する。
【0095】
ところで、路面勾配の推定は、旋回で生じたスリップアングルにより、Gセンサと車速の微分値にズレが生じるため、路面勾配検出部76は、舵角センサ値(操舵角)、又は横加速度センサ値(横G)に基づいて、車両4が旋回中であるか否かを判定し、車両4が旋回しているときには、路面勾配の検出を停止する。
【0096】
また、路面勾配の推定は、車輪10がスリップしていると演算を誤るおそれがあるため、路面勾配検出部76は、4輪車輪速の偏差が所定値以上ある場合、もしくはTCS(トラクションコントロール)が作動している場合には、車輪10がスリップしていると判断し、路面勾配の検出を停止する。
【0097】
同様に、路面勾配検出部76は、エンジン20の出力トルクから求められる駆動力に対し、車速の微分値から求められる車両4の加速度が所定値以上に大きい場合には、車輪10がスリップしていると判断し、路面勾配の検出を停止する。
【0098】
車輪速低下率算出部73は、アンチロックブレーキシステム50の作動中(ABSフラグがON)かつ制動中(ブレーキング中)に、すべての車輪10の車輪速の内、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率を算出する。すなわち、車輪速低下率算出部73は、特許請求の範囲に記載の車輪速低下率算出手段として機能する。
【0099】
より具体的には、車輪速低下率算出部73は、次式(5)〜(9)に基づいて、左前輪車輪速及び右前輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右後輪の平均車輪速(式(8))で除算して前輪ベース車輪速比を求める(式(6))とともに、左後輪車輪速及び右後輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右前輪の平均車輪速(式(9))で除算して後輪ベース車輪速比を求め(式(7))、前輪ベース車輪速比及び後輪ベース車輪速比のいずれか小さい方の値(車輪速比)を車輪速低下率とする(式(5))。
車輪速低下率=MIN(前輪ベース車輪速比、後輪ベース車輪速比) ・・・(5)
前輪ベース車輪速比=MIN(左前輪車輪速、右前輪車輪速)/後輪平均・・・(6)
後輪ベース車輪速比=MIN(左後輪車輪速、右後輪車輪速)/前輪平均・・・(7)
後輪平均=(左後輪車輪速+右後輪車輪速)/2 ・・・(8)
前輪平均=(左前輪車輪速+右前輪車輪速)/2 ・・・(9)
なお、算出された車輪速低下率は、ディレイ設定部75に出力される。
【0100】
低下車輪検知部74は、すべての車輪10の車輪速の最大値(又は平均値)と、各車輪10それぞれの車輪速との対比に基づいて、各車輪10について、該車輪10の車輪速が低下しているか否かを検知(判定)する。すなわち、低下車輪検知部41は、特許請求の範囲に記載の低下車輪検知手段として機能する。より具体的には、低下車輪検知部74は、次式(10)〜(13)に基づいて、何輪が車輪速低下しているか判断する。
左前輪車輪速−4輪車輪速MAX>所定値(例えば3km/h) ・・・(10)
右前輪車輪速−4輪車輪速MAX>所定値(例えば3km/h) ・・・(11)
左後輪車輪速−4輪車輪速MAX>所定値(例えば3km/h) ・・・(12)
右後輪車輪速−4輪車輪速MAX>所定値(例えば3km/h) ・・・(13)
ただし、4輪車輪速MAX=MAX(左前輪車輪速、右前輪車輪速、左後輪車輪速、右後輪車輪速)である。
なお、検知結果はディレイ設定部75に出力される。
【0101】
また、4輪同時に車輪速が落ち込む場合は、車輪速低下率の算出を誤るおそれがあるため、低下車輪検知部74は、車体速と、各車輪10それぞれの車輪速との対比に基づいて、すべての車輪10の車輪速が同時に低下している(4輪同時落ち)か否かを判定する。より具体的には、低下車輪検知部74は、次式(14)〜(17)に示される条件がすべて成立した状態が所定時間経過したときに、4輪同時落ちと判定する(すなわち、加速度センサ値から車体速度を推定し、4輪共低下していれば4輪同時落ちと判定する)。
左前輪車輪速−車体速<所定値 ・・・(14)
右前輪車輪速−車体速<所定値 ・・・(15)
左後輪車輪速−車体速<所定値 ・・・(16)
右後輪車輪速−車体速<所定値 ・・・(17)
【0102】
ただし、低下車輪検知部74は、車両4の減速度が所定減速度以上の場合には、すべての車輪10の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判定を停止する。すなわち、4輪同時落ちは低μ路のみで生じると想定されるため、減速度が大きい場合(高μ路)には判定を禁止し、誤作動を防止する。
【0103】
なお、低下車輪検知部74は、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、車輪速が低下している車輪10が検知されない場合には、すべての車輪10の車輪速が同時に低下している(4輪同時落ち)と判定する。
【0104】
また、極低μ路ではアクセルOFFや、マニュアルダウンシフトだけで車輪速の低下が発生するため、低下車輪検知部74では、すべての車輪10の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判断を行う条件を限定している。より具体的には、低下車輪検知部74は、運転者の操作に応じて変速比が変更される手動変速モード(マニュアルモード)が選択されており、変速比が所定の変速比よりもローギヤであり、かつ、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、すべての車輪10の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判定を停止する。なお、これらの条件に加えて、ダウンシフト時であることを条件としてもよい。判定結果(4輪同時落ちが発生しているか否か)はディレイ設定部75に出力される。
【0105】
ディレイ設定部75は、車輪速低下率算出部73により算出された車輪速低下率、及び車速に基づいて、アンチロックブレーキシステム50との協調制御を開始するまでのディレイ(待ち時間)を設定する。すなわち、ディレイ設定部75は、特許請求の範囲に記載のディレイ設定手段として機能する。
【0106】
その際に、ディレイ設定部75は、車輪速低下率が大きくなる程(値としては小さくなるほど)ディレイを短く設定する。また、車速が低くなるほどディレイを短く設定する。
【0107】
ここで、ディレイの設定の仕方について説明する。例えば、TCU70のROMには、車輪速低下率と、車速と、ディレイとの関係を定めたマップ(協調制御開始ディレイマップ)が記憶されており、車輪速低下率と車速とに基づいてこの協調制御開始ディレイマップが検索されることによりディレイ(待ち時間)が求められる。
【0108】
ここで、協調制御開始ディレイマップの一例を
図3に示す。
図3において、横軸は車速(km/h)であり、縦軸は車輪速低下率である。協調制御開始ディレイマップでは、車輪速低下率と車速との組み合わせ(格子点)毎にディレイ(sec.)が与えられている。協調制御開始ディレイマップでは、車輪速低下率が大きく(すなわち数値としては小さく)なるほどディレイが短くなるように、また、車速が低くなるほどディレイが短くなるように設定されている。また、車輪速低下率が所定値以下の領域(すなわち車輪速低下率が大きい領域、主に低μ路)では、ディレイがゼロになるように設定されている。さらに、車速が所定速度以下の領域では、エンジンストールを回避するため、ディレイがゼロになるように設定されている。
【0109】
ここで、ディレイ設定部75は、低下車輪検知部74により検知(判定)された、車輪速が低下している車輪が一輪のみの場合にディレイを設定する。一方、ディレイ設定部75は、すべての車輪の車輪速が同時に低下している(4輪同時落ち)と判定された場合には、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロに)設定する。これは、4輪すべての車輪速が同時に低下した場合、車輪速低下率がみかけ上1.0に近くなるため、ディレイが作動してしまうことを回避するためである。
【0110】
ディレイ設定部75は、Xモード(悪路走行モード)が選択されている場合には、ディレイをより長く設定する。同様に、ディレイ設定部75は、S#モード(スポーツ走行モード)が選択されている場合には、ディレイをより長く設定する。
【0111】
一方、減速度が高い場合にはエンジンストールの危険性があるため、ディレイ設定部75は、車両4の減速度(車速の微分値、又は加速度センサ値)が所定減速度以上の場合には、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロに)設定する。
【0112】
また、危険挙動となることを回避するため、ディレイ設定部75は、車両4が旋回している場合(すなわち、操舵角が所定値以上、又は横加速度センサ値が所定値以上の場合)には、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロに)設定する。
【0113】
ディレイ設定部75は、外気温センサ94により検出された外気温が所定温度(例えば0℃)以下の場合には、路面のμが低下している(低μ路)可能性が高いため、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロに)設定する。
【0114】
同様に、エンジン始動時にエンジン温度又は無段変速機温度が所定値以下の場合にも、路面のμが低下している(低μ路)可能性が高い。そのため、ディレイ設定部75は、エンジン始動時のエンジン20の冷却水温(エンジン温度)又は無段変速機30の油温(無段変速機温度)が所定温度(例えば0℃)以下の場合には、そのドライビングサイクル中はディレイをより短く(本実施形態ではゼロに)設定する。なお、ディレイ設定部75で設定されたディレイは協調制御部71に出力される。
【0115】
協調制御部71は、アンチロックブレーキシステム50の作動中(ABSフラグON中)に、ロックアップクラッチ26の解放及び変速比の保持を含む協調制御を実行する。特に、協調制御部71は、ディレイ設定部75により設定されたディレイが経過したときに、アンチロックブレーキシステム50との協調制御を実行する。すなわち、協調制御部71は、特許請求の範囲に記載の協調制御手段として機能する。
【0116】
なお、協調制御が開始されてから実際にロックアップクラッチ26が開放状態になるまでには遅れがあるため、協調制御部71は、設定されたディレイが経過するまでの間、ロックアップクラッチ26の油圧を開放一歩手前の値まで下げるか、又はスリップ状態にすること、すなわち、ロックアップクラッチ26を半クラッチ状態に保持することにより、上記遅れを改善することが好ましい。
【0117】
次に、
図2を参照しつつ、自動変速機の制御装置1の動作について説明する。
図2は、自動変速機の制御装置1による、アンチロックブレーキシステム50との協調制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU70において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0118】
まず、ステップS100では、アンチロックブレーキシステム50が作動中(ABSフラグがON)であるか否かについての判断が行われる。ここで、アンチロックブレーキシステム50が作動中でない場合には、一旦、本処理から抜ける。一方、アンチロックブレーキシステム50が作動中のときには、ステップS102に処理が移行する。
【0119】
ステップS102では、制動中(ブレーキング中)であるか否かについての判断が行われる。ここで、制動中でない場合には、一旦、本処理から抜ける。一方、制動中であるときには、ステップS104に処理が移行する。
【0120】
ステップS104では、外気温が所定温度(例えば0℃)以下であるか否かの判断が行われる。ここで、外気温が所定温度以下である場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、外気温が所定温度以下でないときには、ステップS106に処理が移行する。
【0121】
ステップS106では、エンジン始動時における、エンジン10の水温(エンジン温度)又は無段変速機30の油温(無段変速機温度)が所定温度(例えば0℃)以下であるか否かの判断が行われる。ここで、エンジン温度又は無段変速機温度が所定温度以下である場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、エンジン始動時のエンジン温度又は無段変速機温度が所定温度以下でないときには、ステップS108に処理が移行する。
【0122】
ステップS108では、車両4の加速度が所定値以下(減速度が大)であるか否かの判断が行われる。ここで、車両4の加速度が所定値以下である場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、車両4の加速度が所定値以下でないときには、ステップS110に処理が移行する。
【0123】
ステップS110では、車速の微分値が所定値以下(減速度が大)であるか否かの判断が行われる。ここで、車速の微分値が所定値以下である場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、車速の微分値が所定値以下でないときには、ステップS112に処理が移行する。
【0124】
ステップS112では、操舵角が所定値以上(旋回中)であるか否かの判断が行われる。ここで、操舵角が所定値以上である場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、操舵角が所定値以上でないときには、ステップS114に処理が移行する。
【0125】
ステップS114では、4輪同時落ち判定が成立したか否かの判断が行われる。ここで、4輪同時落ち判定が成立した場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、4輪同時落ち判定が成立していないときには、ステップS116に処理が移行する。
【0126】
ステップS116では、2輪以上の車輪速の低下が検知されたか否かの判断が行われる。ここで、2輪以上の車輪速の低下が検知された場合には、ステップS118においてディレイにゼロが設定された後、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。一方、2輪以上の車輪速の低下が検知されていないときには、ステップS120に処理が移行する。
【0127】
ステップS120では、すべての車輪10の車輪速の内、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率が算出される。なお、車輪速低下率の算出方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0128】
次に、ステップS122では、ステップS120で算出された車輪速低下率、及び車速に基づいて、アンチロックブレーキシステム50との協調制御を開始するまでのディレイ(待ち時間)が設定される。なお、ディレイの設定方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0129】
続いて、ステップS124ではステップS122で設定されたディレイが経過したか否かについての判断が行われる。ここで、ディレイが経過していない場合には、ディレイが経過するまで、本ステップが繰り返して実行される。一方、ディレイが経過したときには、ステップS126において協調制御が実行(開始)される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0130】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、アンチロックブレーキシステム50の作動中かつ制動中(ブレーキング中)に、すべての車輪10の車輪速の内、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率が算出され、該車輪速低下率に基づいて、アンチロックブレーキシステム50との協調制御を開始するまでのディレイ(待ち時間)が設定される。そして、設定されたディレイが経過したときに、協調制御が実行される。そのため、例えば、乾燥したアスファルト路などの路面摩擦係数μが高い道路(高μ路)を走行している状況でマンホールの上を通過するような場合、すなわち、一時的に路面のμが低下することにより、一瞬ABS制御に入る(アンチロックブレーキシステム50が作動する)ような場合に、不必要な協調制御の実行を防止でき、ドライバビリティ(走行性)を改善することが可能となる。
【0131】
また、本実施形態によれば、左前輪車輪速及び右前輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右後輪の平均車輪速で除算して前輪ベース車輪速比を求めるとともに、左後輪車輪速及び右後輪車輪速のいずれか低い方の車輪速を左右前輪の平均車輪速で除算して後輪ベース車輪速比を求め、前輪ベース車輪速比及び後輪ベース車輪速比のいずれか小さい方の値が車輪速低下率とされる。そのため、最も低下した車輪速と車体速との割合である車輪速低下率を適切に算出することができる。
【0132】
本実施形態によれば、車輪速低下率及び車速に基づいてディレイが設定される。その際に、車輪速低下率が大きく(値としては小さく)なる程ディレイが短く設定され、車速が低くなる程ディレイが短く設定される。よって、車輪速低下率及び車速に応じて、適切にディレイを設定することができる。
【0133】
本実施形態によれば、他の車輪10の車輪速との対比において、車輪速が低下している車輪10が検知され、車輪速が低下している車輪10が一輪のみの場合にディレイが設定される。よって、車輪速が低下している車輪10が二輪以上ある場合には、ディレイなく協調制御を開始することができる。
【0134】
ところで、すべての車輪の車輪速が同時に低下する(4輪同時落ち)場合には、車輪速低下率の算出を誤るおそれがある。しかしながら、本実施形態によれば、車体速と、各車輪10それぞれの車輪速との対比に基づいて、すべての車輪10の車輪速が同時に低下しているか否かが判定され、すべての車輪10の車輪速が同時に低下していると判定された場合には、ディレイがより短く(本実施形態ではゼロ)設定される。よって、すべての車輪10の車輪速が同時に低下する(4輪同時落ち)場合であっても、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、エンジンストールを確実に回避することが可能となる。
【0135】
本実施形態によれば、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、車輪速が低下している車輪10が検知されない場合、すなわち、一部の車輪10の車輪速の低下が検知されない場合には、すべての車輪10の車輪速が同時に低下している(4輪同時落ち)と推定されて、ディレイがより短く(本実施形態ではゼロ)設定される。そのため、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0136】
ところで、すべての車輪10の車輪速が同時に低下する状況は、極低μ路で発生し易い。そのため、本実施形態によれば、車両4の減速度が所定減速度以上の場合には、すべての車輪10の車輪速が同時に低下しているか否か(4輪同時落ち)の判定を停止することにより、誤判定を防止することができる。
【0137】
ところで、極低μ路では、例えば、アクセルOFFや、ダウンシフトなどによっても車輪速の低下が発生し得る。そのため、本実施形態によれば、運転者の操作に応じて変速比が変更される手動変速モードが選択されており、変速比が所定の変速比よりもローギヤであり、かつ、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合には、すべての車輪の車輪速が同時に低下しているか否かの判定を停止することにより、誤判定を防止することができる。
【0138】
ところで、悪路走行に適したXモード(悪路走行モード)が選択されている場合には、変速比がロー側に制御される。本実施形態によれば、Xモード(悪路走行モード)が選択されている場合には、ディレイがより長く設定されることにより、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、ドライバビリティが悪化することをより確実に回避することが可能となる。
【0139】
ところで、スポーツ走行に適したS#モードが選択されている場合には、変速比がロー側に制御される。本実施形態によれば、S#モード(スポーツ走行モード)が選択されている場合に、ディレイをより長く設定することにより、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、ドライバビリティが悪化することをより確実に回避することが可能となる。
【0140】
本実施形態によれば、車両4の減速度が所定減速度以上の場合には、ディレイがより短く(本実施形態ではゼロ)設定される。そのため、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、エンジンストールを確実に回避することができる。
【0141】
本実施形態によれば、車両4が旋回している場合(例えば、操舵角が所定舵角以上又は横加速度センサ値が所定値以上の場合)に、ディレイがより短く(本実施形態ではゼロ)設定されるため、車両旋回中に車両4の挙動が不安定になることを防止することが可能となる。
【0142】
ところで、外気温度が所定値(例えば0℃)以下の場合には路面が凍結するなどにより低μ路となっている可能性が高い。本実施形態によれば、外気温が所定温度以下の場合には、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロ)設定することにより、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0143】
ところで、エンジン始動時におけるエンジン20の水温(エンジン温度)、又は無段変速機30の油温(無段変速機温度)が所定値(例えば0℃)以下の場合には路面が凍結するなどにより低μ路となっている可能性が高い。本実施形態によれば、エンジン20の水温(エンジン温度)、又は無段変速機30の油温(無段変速機温度)が所定温度以下の場合には、ディレイをより短く(本実施形態ではゼロ)設定することにより、アンチロックブレーキシステム50の作動時に、エンジンストールをより確実に回避することが可能となる。
【0144】
ところで、協調制御が開始されてから、実際にロックアップクラッチが解放状態になるまでには遅れがある。本実施形態によれば、設定されたディレイが経過するまでの間、ロックアップクラッチ26が半クラッチ状態に保持されるため、協調制御が開始されてからロックアップクラッチ26が解放状態になるまでの遅れを短縮(改善)することが可能となる。
【0145】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。また、無段変速機に代えて、例えば、多段式(有段式)自動変速機(Automatic Transmission)や、DCT(Dual Clutch Transmission)、AMT(Automated Manual Transmission)等に適用することもできる。なお、上記実施形態では、発進デバイスとして、ロックアップクラッチ26を有するトルクコンバータ20を用いたが、DCTやAMTに適用される際には、発進デバイスとして、湿式多板クラッチ(特許請求の範囲に記載のクラッチに相当)などが用いられる。
【0146】
上記実施形態では、本発明をガソリンエンジンを走行用動力源とする4輪駆動車(AWD)に適用したが、走行用動力源の種類や駆動方式は上記実施形態には限られない。
【0147】
また、制御システムのシステム構成は上記実施形態には限られない、例えば、上記実施形態では、エンジン20を制御するECU80と、無段変速機30を制御するTCU70とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【0148】
上記実施形態では、車輪速が低下している車輪10が二輪以上ある場合には、ディレイなく協調制御を開始する構成としたが、すべての車輪10の車輪速が低下している場合(4輪同時落ち)に限り、ディレイなく協調制御を開始する構成としてもよい。
【0149】
さらに、上記実施形態では、アンチロックブレーキシステム50との協調制御時に、
無段変速機30の変速比を固定する構成としたが、ダウンシフトを禁止すればよく、変速比を固定する構成に代えて、例えばアップシフトする構成としてもよい。