(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法で得られる複合成形体1は、
図1(a)または
図2(a)に示すとおり、基材である金属成形体10と皮膜層20が、高い接合強度で一体化されたものである。
基材である金属成形体10は、用途に応じて公知の金属からなるものであり、例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅、マグネシウム、タングステンおよびそれらを含む合金、タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどのサーメットから選ばれるものを挙げることができる。また、上記金属に対して、アルマイト処理、めっき処理などの表面処理を施した金属へも適応できる。
皮膜層20は、金属、セラミックス、サーメットおよび樹脂から選ばれる構成材料からなるものである。
【0009】
基材である金属成形体10の表面に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射する工程について説明する。
図1(b)または
図2(b)に示すとおり、基材である金属成形体10の面(皮膜層形成面)12に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射する。
この工程では、皮膜層形成面12に対して高い照射速度でレーザー光を連続照射することで、ごく短時間で皮膜層形成面12を粗面にすることができる。
金属成形体10の皮膜層形成面12は、
図1(b)に示すような平面でもよいし、曲面でもよいし、平面と曲面の両方を有しているものでもよいし、さらに凹凸を有している面でもよい。
図1(b)の金属成形体10は、皮膜形成面12上において、長さ方向に向かって平行な多数本の直線12aが形成されるように照射している。
図2(b)の金属成形体は、皮膜形成面12が凹部11を含んでおり、段差部も含めた高さの違う平面にわたって、長さ方向に向かって平行な多数本の直線(レーザー照射痕)12aが形成されるように照射している。
【0010】
連続波レーザーの照射速度は、2000〜20,000mm/secが好ましく、2,000〜18,000mm/secがより好ましく、2,000〜15,000mm/secがさらに好ましい。
連続波レーザーの照射速度が前記範囲であると、加工速度を高めることができ(即ち、加工時間を短縮することができ)、金属成形体10と皮膜層との接合強度も高いレベルに維持することができる。
【0011】
この工程では、下記要件(A)、(B)であるときの加工時間が0.1〜30秒の範囲になるようにレーザー光を連続照射することが好ましい。
(A)レーザー光の照射速度が2000〜15000mm/sec
(B)金属成形体の皮膜層形成面の面積が100mm
2
要件(A)、(B)であるときの加工時間を上記範囲内にするとき、皮膜層形成面12の全面を粗面化することができる。
【0012】
レーザー光の連続照射は、例えば次のような方法を適用することができるが、皮膜層形成面12を粗面化できる方法であれば特に制限されるものではない。
(I)
図3、
図4に示すように、皮膜層形成面(例えば長方形とする)12の一辺(短辺または長辺)側から反対側の辺に向かって1本の直線または曲線が形成されるように連続照射し、これを繰り返して複数本の直線または曲線を形成する方法。
(II)皮膜層形成面12の一辺側から反対側の辺に向かって連続的に直線または曲線が形成されるように連続照射し、今度は逆方向に間隔をおいての直線または曲線が形成されるように連続照射することを繰り返す方法。
(III)皮膜層形成面12の一辺側から反対側の辺に向かって連続照射し、今度は直交する方向に対して連続照射する方法。
(IV)皮膜層形成面12に対してランダムに連続照射する方法。
【0013】
(I)〜(IV)の方法を実施するとき、レーザー光を複数回連続照射して1本の直線または1本の曲線を形成することもできる。
同じ連続照射条件であれば、1本の直線または1本の曲線を形成するための照射回数(繰り返し回数)が増加するほど皮膜層形成面12に対する粗面化の程度が大きくなる。
【0014】
(I)、(II)の方法において、複数本の直線または複数本の曲線を形成するとき、それぞれの直線または曲線が0.005〜1mmの範囲(
図3に示すb1の間隔)で等間隔に形成されるようにレーザー光を連続照射することができる。
このときの間隔は、レーザー光のビーム径(スポット径)よりも大きくなるようにする、また、このときの直線または曲線の本数は、金属成形体10の皮膜層形成面12の面積に応じて調整することができる。
【0015】
(I)、(II)の方法において、複数本の直線または複数本の曲線を形成するとき、それぞれの直線または曲線が0.005〜1mmの範囲(
図3、
図4に示すb1の間隔)で等間隔に形成されるようにレーザー光を連続照射することができる。
そして、これらの複数本の直線または複数本の曲線を1群として、これを複数群形成することができる。
このときの各群の間隔は0.01〜1mmの範囲(
図4に示すb2の間隔)で等間隔になるようにすることができる。
なお、
図3、
図4に示す連続照射方法に代えて、
図5に示すように、連続照射開始から連続照射終了までの間、中断することなく連続照射する方法も実施することができる。
【0016】
レーザー光の連続照射は、例えば次のような条件で実施することができる。
出力は4〜4000Wが好ましく、50〜2500Wがより好ましく、100〜2000Wがさらに好ましく、250〜2000Wがさらに好ましい。
ビーム径(スポット径)は5〜200μmが好ましく、5〜100μmがより好ましく、10〜100μmがさらに好ましく、11〜80μmがさらに好ましい。
さらに出力とスポット径の組み合わせの好ましい範囲は、レーザー出力とレーザー照射スポット面積(π×〔スポット径/2〕
2)から求められるエネルギー密度(W/μm
2)より選択することができる。
エネルギー密度(W/μm
2)は、0.1W/μm
2以上が好ましく、0.2〜10W/μm
2がより好ましく、0.2〜6.0W/μm
2がさらに好ましい。
エネルギー密度(W/μm
2)が同じであるとき、出力(W)が大きい方がより大きなスポット面積(μm
2)に対してレーザー照射できることになるため、処理速度(1秒当たりのレーザー照射面積;mm
2/sec)が大きくなり、加工時間も短くすることができる。
波長は300〜1200nmが好ましく、500〜1200nmがより好ましい。
焦点位置は-10〜+10mmが好ましく、−6〜+6mmがより好ましい。
【0017】
連続波レーザーの照射速度、レーザー出力、レーザービーム径(スポット径)およびエネルギー密度との好ましい関係は、連続波レーザーの照射速度が2,000〜15,000mm/secであり、レーザー出力が250〜2000W、レーザービーム径(スポット径)が10〜100μmであり、前記レーザー出力とスポット面積(π×〔スポット径/2〕
2)から求められるエネルギー密度(W/μm
2)が0.2〜10W/μm
2の範囲である。
【0018】
連続波レーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、ファイバーレーザーが好ましく、特にシングルモードファイバーレーザーが好ましい。
【0019】
本発明の複合成形体の製造方法では、金属成形体10の皮膜層形成面12に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射しているため、レーザー光が連続照射された部分は粗面化される。
このときの金属成形体10の皮膜層形成面12の状態の一実施形態を
図6〜
図8により説明する。
なお、連続波レーザーを使用して粗面化すると、サンドブラストでは充分に粗面化できないような形状または硬度(例えばタングステン)の金属成形体またはその部分に対しても使用することができるほか、マスキングも不要になる。
【0020】
図6に示すとおり、レーザー光(例えば、スポット径11μm)を連続照射して多数の線(図面では3本の線61〜63を示している。各線の間隔は50μm程度。)を形成することで粗面化することができる。1本の直線への照射回数は1〜10回が好ましい。
このとき、粗面化された皮膜層形成面12を含む金属成形体10の表層部は、
図7(a)、
図8(a)〜(c)に示すようになっている。なお、「金属成形体10の表層部」は、金属成形体10の表面から粗面化により形成された開放孔(幹孔または枝孔)の深さ程度までの部分であり、金属成形体10の表面から深さ50〜500μmまで程度の範囲である。
なお、1本の直線への照射回数が10回を超える回数である場合には、粗面化のレベルをより高めることができ、複合成形体1において金属成形体10と皮膜層20の接合強度を高めることができるが、合計照射時間が長くなる。このため、目的とする接合強度と製造時間との関係を考慮して、1本の直線への照射回数を決めることが好ましい。1本の直線への照射回数が10回を超える回数であるとき、好ましくは10回超〜50回以下、より好ましくは15〜40回、さらに好ましくは20〜35回である。
【0021】
粗面化された皮膜層形成面12を含む金属成形体10の表層部は、
図7、
図8に示すように、皮膜層形成面12側に開口部31のある開放孔30を有している。
開放孔30は、厚さ方向に形成された開口部31を有する幹孔32と、幹孔32の内壁面から幹孔32とは異なる方向に形成された枝孔33からなる。枝孔33は、1本または複数本形成されていてもよい。
なお、複合成形体1において金属成形体10と皮膜層20の接合強度が維持できるのであれば、開放孔30の一部が幹孔32のみからなり、枝孔33がないものでもよい。
【0022】
粗面化された皮膜層形成面12を含む金属成形体10の表層部は、
図7、
図8に示すように、皮膜層形成面12側に開口部のない内部空間40を有している。
内部空間40は、トンネル接続路50により開放孔30と接続されている。
【0023】
粗面化された皮膜層形成面12を含む金属成形体10の表層部は、
図7(b)に示すように、複数の開放孔30が一つになった開放空間45を有していてもよいし、開放空間45は、開放孔30と内部空間40が一つになって形成されたものでもよい。一つの開放空間45は、一つの開放孔30よりも内容積の大きなものである。
なお、多数の開放孔30が一つになって溝状の開放空間45が形成されていてもよい。
【0024】
図示していないが、
図8(a)に示すような2つの内部空間40同士がトンネル接続路50で接続されていてもよいし、
図7(b)に示すような開放空間45と、開口孔30、内部空間40、他の開放空間45がトンネル接続路50で接続されていてもよい。
【0025】
内部空間40は、全てが開放孔30および開放空間45の一方または両方とトンネル接続路50で接続されているものであるが、複合成形体1において金属成形体10と皮膜層20の接合強度が維持できるのであれば、内部空間40のうちの一部が開放孔30および開放空間45と接続されていない閉塞状態の空間であってもよい。
【0026】
このようにレーザー光を連続照射したときに
図7、
図8で示されるような開放孔30、内部空間40などが形成される詳細は不明であるが、所定速度以上でレーザー光を連続照射したとき、金属成形体10の皮膜層形成面12に一旦は孔や溝が形成されるが、溶融した金属が盛り上がって蓋をしたり、堰き止めたりする結果、開放孔30、内部空間40、開放空間45が形成されるものと考えられる。
また、同様に開放孔30の枝孔33やトンネル接続路50が形成される詳細も不明であるが、一旦形成された孔や溝の底部付近に滞留した熱によって、孔や溝の側壁部分が溶融する結果、幹孔32の内壁面が溶融して枝孔33が形成され、さらに枝孔33が延ばされてトンネル接続路50が形成されるものと考えられる。
なお、連続波レーザーに代えてパルスレーザーを使用したときには、金属成形体10の皮膜層形成面12には開放孔や溝が形成されるが、
図7(a)、
図8に示すような、開口部を有していない内部空間と、前記開放孔と前記内部空間を接続する接続通路は形成されない。
【0027】
基材である金属成形体10の表面に対して連続波レーザーを照射する工程は、未処理の金属成形体に対して適用するものあるが、必要に応じて、サンドブラスト、エッチングなどの他の粗面化方法で処理した後、さらに連続波レーザーを照射することもできる。
【0028】
次の工程において、レーザー光が照射された金属成形体10の皮膜形成面12上に皮膜層20を形成する。前記皮膜層20の形成方法として溶射法を使用する。
【0029】
溶射法は、皮膜層20の構成材料に応じて、適宜公知の溶射法から選択することができる。
溶射法としては、燃焼ガスを使用したフレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発照射、電気を使用したアーク溶射、プラズマ溶射、RFプラズマ溶射、電磁加速プラズマ溶射、線爆溶射、電熱爆発粉体溶射法、レーザー光を使用したレーザー溶射、その他のレーザー・プラズマ溶射、コールドスプレーなどを適用することができる。
【0030】
皮膜層20の構成材料としては、金属、セラミックス、サーメットおよび樹脂から選ばれるものであり、溶射法を実施できるものである。
金属としては、銅、黄銅、リン青銅、アルミニウム青銅、錫、モリブデン、タングステン、ニッケル、ニッケル−アルミニウム、ニッケル−クロミウム、カーボンスチール、スチール、ステンレス、これらを含む合金(自溶合金も含む)などの公知の材料を使用することができる。
皮膜層20の構成材料として使用する金属は、基材となる金属成形体の金属と同じものでもよい。
【0031】
セラミックスとしては、ジルコニア、アルミナ、グレイアルミナ、アルミナ−チタニア、チタニア、クロミア、アルミナ−ジルコニウム、ムライト、スピネル、マグネシア−シリカ、RC(クロミア−シリカ−アルミナ)、RA(アルミナ−シリカ)、RZS(ジルコニア−シリカ)、RZ(ジルコニア−炭化カルシウム)などの公知の材料を使用することができる。
【0032】
サーメットは、金属の酸化物、炭化物、硼化物などの無機化合物と結合剤としての金属からなるものであり、タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどを使用することができる。
【0033】
樹脂としては、溶射法を適用できるものであればよく、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)などの熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0034】
金属成形体10の皮膜層形成面12に対して、皮膜層20の構成材料を溶射するときは、皮膜層形成面12を除いた残部面をマスキングした状態で溶射する。
このように溶射法を適用したとき、前記構成材料は、皮膜層形成面12の表層部に形成された開放孔30、内部空間40、開放空間45、トンネル接続路50内まで侵入した後、さらに積層されて、皮膜層20が形成される。
このため、複合成形体1の金属成形体10と皮膜層20は、従来技術のようにサンドブラスト処理をした場合と比べると、より高い接合強度で接合されている。
【実施例】
【0035】
実施例1〜4、比較例1〜4
<レーザー照射工程:
図10(a)>
基材となる金属成形体10(30mm×30mm×3mm;
図9参照)の一面の中央部付近の皮膜形成面12(6mm×20mm)に対して、表1に示す条件で連続波レーザーを照射して(照射痕12a)、多孔構造を有する粗面にした。
但し、比較例1〜4は、
図10(a)に示すレーザー照射工程は実施していない。
【0036】
【表1】
【0037】
<溶射工程:
図10(b)>
次に、連続波レーザーを照射した皮膜形成面12に対して、表2に示す溶射方法により皮膜層20(厚さ20μm)を形成した。なお、溶射には、基材金属のレーザー照射面の表面温度が150℃を超えないように冷風を吹き付けながら、かつ照射時間を調整しながら行った。
実施例および比較例とも、外観上は基材10上に皮膜層20が形成された複合成形体1が得られた。
【0038】
次に、
図10(c)に示すように、2つの複合成形体1の皮膜層20同士を正対させた状態で、接着剤層25を介して接着した。
次に、
図10(d)に示すように、反対方向に引っ張ったときの結合力と接合強度を測定し、最終的な破壊状態を観察した。
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例1〜4では、基材と皮膜層が高い結合強度で一体化されていた。
【0041】
実験例
表3に示すとおり、金属成形体の同一加工面積に対して、連続波レーザーとパルスレーザーを使用したときの加工時間を評価した。
【0042】
【表3】
【0043】
実験例1と比較実験例1、実験例2と比較実験例2の加工時間の対比から確認できるとおり、連続波レーザーを使用したときには、加工時間を大きく短縮できた。この加工時間の差は、工業的規模で大量生産するときには非常に大きな生産性の違いとなる。
パルスレーザーを使用して金属表面を粗面化する技術は知られているが、その技術を溶射法の前処理として適用したときには、本発明と比べると生産性の観点で大きく劣るものであり、さらに
図7、
図8の説明にも記載しているとおり、パルスレーザーを使用した場合には、
図7(a)、
図8のような多孔構造にすることはできない。