特許第6353321号(P6353321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6353321ゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353321
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/24 20060101AFI20180625BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G01N3/24
   G01M17/02
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-178358(P2014-178358)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-53474(P2016-53474A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504211429
【氏名又は名称】栃木住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 正登
(72)【発明者】
【氏名】白石 正貴
(72)【発明者】
【氏名】山下 健一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】徳山 高司
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225057(JP,A)
【文献】 特開昭58−209603(JP,A)
【文献】 特開2011−136670(JP,A)
【文献】 特開2012−185042(JP,A)
【文献】 特開2000−304666(JP,A)
【文献】 特開平08−304250(JP,A)
【文献】 特開2008−281429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/24
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列する複数本の金属コードからなるコード配列体と、このコード配列体を被覆するゴムとが互いに接着されたゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法であって、
前記ゴム・コード複合体のサンプル片を用い、該サンプル片内で隣り合う金属コードのうちの一方である第1の金属コードを長さ方向一方側に、かつ他方である第2の金属コードを長さ方向他方側に引っ張り、そのときの第1、第2の金属コード間のせん断方向の歪みγと、せん断方向の応力τとを測定する引張り試験工程、
及び前記歪みγと、応力τとに基づき、金属コード間のせん断方向の剛性を評価する評価工程とを含むことを特徴とするゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、前記応力τと歪みγとからなる応力・歪み曲線の傾き(τ/γ)を指標とすることを特徴とする請求項1記載のゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法。
【請求項3】
前記指標は、歪みが10%〜20%の範囲における応力・歪み曲線の傾き(τ/γ)であることを特徴とする請求項2記載のゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法。
【請求項4】
前記引張り試験工程では、第1の金属コードが長さ方向一方側に引っ張られ、かつその両側で隣り合う2本の第2の金属コードが長さ方向他方側に引っ張られることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コードとその表面に接着されるゴムとの間の界面における剛性を考慮したゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを用いて、タイヤの走行状態を解析するシミュレーション方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシミュレーション方法では、シミュレーション用のタイヤモデルを如何に実際のタイヤに近づけて作成するかが重要であり、そのためにはタイヤの構成要素となるゴム・コード複合体の機械的特性を把握しておくことが必要となる。
【0003】
例えばタイヤのトレッド部には、コーナリングパワーを高めて操縦安定性を向上させるために、複数枚(例えば2枚)のベルトプライを重ね合わせたベルト層が配されている。このベルトプライは、並列する複数本のベルトコード(金属コード)からなるコード配列体と、該コード配列体を被覆するトッピングゴムとが互いに加硫接着されたシート状のゴム・コード複合体として形成されている。
【0004】
他方、コーナリングパワーに影響する因子として、前記ベルト層の引張り剛性Aと、ベルトプライ間のせん断剛性Bとがあり、各剛性A、Bが高い方が、コーナリングパワーが大きくなる。ここで、前記引張り剛性Aは、ベルトコードの引張り弾性に起因し、またベルトプライ間のせん断剛性Bは、トッピングゴムのせん断弾性に起因すると考えられている。そのため従来においては、前記ベルトコードの引張り弾性およびゴムのせん断弾性によりベルト層の機械的特性が把握され、これに基づいてタイヤモデルが作成されている。
【0005】
しかし本発明者の研究の結果、前記プライ間のせん断剛性Bは、ゴムのせん断弾性だけでなく、ゴムとコードとの間の界面の形状が大きく影響していることが判明した。
【0006】
具体的に説明すると、以下の通りである。図7(A)は、撚り構造1×4のベルトコードa1を有するベルト層b1の概念図であり、図7(B)は、撚り構造2/7のベルトコードa2を有するベルト層b2の概念図である。同図に誇張して示されるように、ベルトコードa1、a2の各表面には、撚りによって凹凸が生じ、この凹凸は撚り構造によって相違する。
【0007】
そして、ベルトプライc、c間にせん断力qが発生した場合、この凹凸が抵抗となって作用し、凹凸の状態に応じてプライ間のせん断歪みを減少させる。即ち、せん断剛性Bを増加させる。本例の場合、ベルト層a1よりベルト層a2の方が、せん断剛性Bが大きい。
【0008】
このように、プライ間のせん断剛性Bは、ゴムとコードとの間の界面の形状に影響を受ける。従って、タイヤモデルを作成する場合、前記界面の形状に起因する剛性(以下、「界面剛性」という場合がある。)を考慮することが重要であり、そのためには、界面剛性を考慮したせん断剛性を評価する方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−075634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シミュレーション方法におけるタイヤモデルの作成に好適に採用でき、金属コードとその表面に接着されるゴムとの間の界面剛性を考慮したせん断剛性を簡易に評価しうるゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、並列する複数本の金属コードからなるコード配列体と、このコード配列体を被覆するゴムとが互いに接着されたゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法であって、
前記ゴム・コード複合体のサンプル片を用い、該サンプル片内で隣り合う金属コードのうちの一方である第1の金属コードを長さ方向一方側に、かつ他方である第2の金属コードを長さ方向他方側に引っ張り、そのときの第1、第2の金属コード間のせん断方向の歪みγと、せん断方向の応力τとを測定する引張り試験工程、
及び前記歪みγと、応力τとに基づき、金属コード間のせん断方向の剛性を評価する評価工程とを含むことを特徴としている。
【0012】
本発明に係る前記ゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法では、前記評価工程は、前記応力τと歪みγとからなる応力・歪み曲線の傾き(τ/γ)を指標とすることが好ましい。
【0013】
本発明に係る前記ゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法では、前記指標は、歪みが10%〜20%の範囲における応力・歪み曲線の傾き(τ/γ)であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る前記ゴム・コード複合体の機械的特性の評価方法では、前記引張り試験工程では、第1の金属コードが長さ方向一方側に引っ張られ、かつその両側で隣り合う2本の第2の金属コードが長さ方向他方側に引っ張られることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は叙上の如く、ゴム・コード複合体において、互いに隣り合う第1、第2の金属コードを、それぞれ長さ方向一方側、他方側に引っ張り、そのときの第1、第2の金属コード間のせん断方向の歪みγと、せん断方向の応力τとを測定している。そしてこの歪みγと応力τとに基づき、金属コード間のせん断方向の剛性を評価している。
【0016】
このように本発明では、金属コードに引張り荷重を加え、この金属コードを介してコード間のゴムにせん断変形を与えている。従って、前記せん断変形による歪みγは、金属コードとゴムとの間の界面の凹凸の影響を受けた歪みとして測定される。即ち、前記歪みγと応力τとに基づいて得られる金属コード間のせん断方向の剛性は、金属コードとゴムとの間の界面剛性が考慮された剛性として評価することができる。
【0017】
この剛性は、例えばベルトプライ間のせん断剛性に適用しうる。即ち、この評価方法によって得た結果は、シミュレーションで使用されるタイヤモデルのベルト層を規定するための値として好適に採用しうる。そしてこれにより、タイヤモデルを実際のタイヤにより近づけて作成することが可能となり、シミュレーションによる解析精度を向上させることができる。
【0018】
なお本発明の評価方法は、ゴム・コード複合体を具えるタイヤ以外の種々なゴム・コード構造体のシミュレーション方法にも好適に適用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の評価方法によって評価されるゴム・コード複合体のサンプル片の斜視図である。
図2】(A)はサンプル片のコード長さ方向に沿った断面図、(B)はコード長さ方向と直角な方向の断面図である。
図3】引張り試験によるせん断変形状態におけるサンプル片の断面図である。
図4】評価方法に用いる引張り試験機の一例を概念的に示す斜視図である。
図5】応力・歪み曲線を示すグラフである。
図6】引張り試験によって測定された実施例1、2における応力・歪み曲線を示すグラフである。
図7】(A)、(B)は、ベルトプライ間のせん断剛性を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の評価方法によって評価させるゴム・コード複合体1のサンプル片2を示す斜視図である。図1に示されるように、ゴム・コード複合体1は、並列する複数本の金属コード3からなるコード配列体3Rと、このコード配列体3Rを被覆するゴム4とを具えるシート状をなし、金属コード3とゴム4とは加硫によって接着されている。
【0021】
本例のゴム・コード複合体1は、タイヤのシミュレーション方法においてベルト層をモデル化するために用いられる。そのため、前記金属コード3としてベルトコードが採用され、かつゴム4としてベルト層のトッピングゴムが採用されるとともに、金属コード3、3のコード中心間距離Pとして、ベルトプライ間におけるコード中心間距離が適用される。
【0022】
前記サンプル片2は、本例では、ゴム4中に3本の金属コード3が埋設された矩形状の切断片として形成される。詳しくは、本例のサンプル片2では、中央の金属コード3である第1の金属コード3Aは、その長さ方向一端側に、ゴム4からの露出長さが大なチャック用の長露出部分3A1を具える。また第1の金属コード3Aの両側で隣り合う金属コード3である第2の金属コード3B、3Bは、その長さ方向他端側に、ゴム4からの露出長さが大なチャック用の長露出部分3B1を具える。特に限定されないが、本例のサンプル片2は、厚さTが約1.2mm程度、長さLが5.0mm程度に設定されている。
【0023】
このようなサンプル片2は、予め加硫成形されたシート状のゴム・コード複合体1から切り出して形成することができる。しかし、3本の金属コード3からなるコード配列体3Rの表裏に未加硫のゴムシートを重ね合わせ、しかる後それを加圧加熱することで直接サンプル片2を形成することもできる。
【0024】
次に、本発明の評価方法では、前記サンプル片2を用いた引張り試験工程、及びそのとき測定される歪みγと応力τとに基づき金属コード3、3間のせん断方向の剛性を評価する評価工程とを含む。
【0025】
前記引張り試験工程では、図2(A)、(B)に示されるように、第1の金属コード3Aを長さ方向一方側に、かつ第2の金属コード3Bを長さ方向他方側に引っ張る引張り試験を行う。そしてこの引張り試験において、第1、第2の金属コード3A、3B間のせん断方向の歪みγ(図3に示す)と、せん断方向の応力τとを測定する。
【0026】
前記歪みγは、次式(1)で定義される。図3に示すように、式中のΔLはゴム4の引張り方向(長さ方向)の変位量を意味し、Wはコード3、3間のゴム4の巾を意味する。巾Wは厳密には、図2(B)に示すように、金属コード3を囲む外接円間の距離で示される。
γ=ΔL/W −−−(1)
【0027】
また前記応力τは、次式(2)で定義される。式中のQは、引張り荷重を意味し、Tはサンプル片2の厚さを意味し、Lはサンプル片2の長さを意味する。
τ=Q/(T×L) −−−(2)
【0028】
従って、引張り試験において、前記変位量ΔL及び引張り荷重Qを測定することにより、そのときの歪みγと応力τとを求めることができる。なお本例の如く、1本の第1の金属コード3Aと、その両側の2本の第2の金属コード3Bとを引っ張ることで、モーメントの発生を抑制でき、変位量ΔL及び引張り荷重Qの測定精度を高めることができる。
【0029】
図4に、前記引張り試験で使用する引張り試験機10の一例が概念的に示される。引張り試験機10は、前記第1の金属コード3Aの長露出部分3A1をクランプする第1のクランプ具11Aと、第2の金属コード3Bの長露出部分3B1をクランプする第2のクランプ具11Bとを具え、第1のクランプ具11Aは、第2のクランプ具11Bに対して、コードの長さ方向に相対移動可能に支持される。本例では、第2のクランプ具11Bが支持台12に固定され、かつ第1のクランプ具11Aが、昇降台13に取り付く場合が示される。なお前記昇降台13は、本例では、例えばボールネジ軸14A及び案内ガイド14B等を含む周知の駆動手段14を介して昇降移動しうる。また引張り試験機10には、前記引張り荷重Qを検出するロードセル等の荷重センサ、及び長さ方向の変位量ΔLを測定する変位センサが配される。引張り試験機10として、種々の構造のものが好適に採用しうる。
【0030】
次に、前記評価工程では、前記歪みγと応力τとに基づき、金属コード3、3間のせん断方向の剛性を評価する。具体的には、引張り荷重Qを徐々に変化させ、そのときの応力τと歪みγとのデータから、例えば図5に示すような応力・歪み曲線Kを求める。そしてこの応力・歪み曲線Kの傾き(τ/γ)を指標として、せん断方向の剛性を評価する。当然ではあるが、前記応力・歪み曲線Kを実際に描く必要はなく、本例には、例えばコンピュータ内の演算処理により応力τと歪みγとのデータから傾き(τ/γ)を直接的に得ることも含まれる。
【0031】
前記指標は、歪みγが10%〜20%の範囲における応力・歪み曲線Kの傾き(τ/γ)であることが好ましい。上記範囲は、傾き(τ/γ)が安定する範囲であり、かつ実際のタイヤ走行状態においてベルトプライ間に発生しうる歪み範囲である。なお前記指標は、前記範囲内の任意の位置における傾きであっても良い。しかし、前記範囲における傾きの最大値と最小値との平均であることが好ましく、また歪みγが10%における傾きと20%における傾きとの平均であることも好ましい。
【0032】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0033】
図4に示す引張り試験機を用い、図1のサンプル片に対して引張り試験が実施された。実施例1のサンプル片では、撚り構造1×4の金属コードが用いられ、実施例2のサンプル片では、撚り構造2/7の金属コードが用いられている。実施例1、2ともに、金属コードの撚り構造以外は実質に同仕様であり、共通仕様は以下の通りである。
・コード中心間距離P(=0.9mm)、
・厚さT(=1.1mm)、
・長さL(=5.0mm)、
・ゴムのせん断弾性率G(=5.0MPa)
【0034】
前記引張り試験では、引張り荷重Qが徐々に増加され、そのとき測定された引張り荷重Qと変位量ΔLとのデータから、図6に示されるように、応力・歪み曲線が求められた。同図に示されるように、撚り構造の相違により、金属コードとゴムとの間の界面に剛性差が発生し、その結果、金属コード間のせん断方向の剛性に差異が生じているのが確認できる。
【符号の説明】
【0035】
1 ゴム・コード複合体
2 サンプル片
3 金属コード
3A 第1の金属コード
3B 第2の金属コード
3R コード配列体
4 ゴム
K 応力・歪み曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7