特許第6353322号(P6353322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353322
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】運搬車両及びその走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   G05D1/02 L
   G05D1/02 J
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-180464(P2014-180464)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-53916(P2016-53916A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 航
(72)【発明者】
【氏名】板東 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】一野瀬 昌則
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真二郎
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−330630(JP,A)
【文献】 特開2009−169581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00−1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運行管理を行う管制サーバに無線回線を介して接続され、前記管制サーバからの指示を考慮して自律走行する運搬車両であって、
自車両の予測位置を算出する位置算出装置と、
前記予測位置を中心とし、前記運搬車両が予め定められた期待確率で存在する位置範囲を算出する位置範囲算出部と、
前記運搬車両の目標経路と前記位置範囲内に含まれる各地点との乖離量のうちの最大値からなる最大乖離量を算出する最大乖離量算出部と、
前記最大乖離量が相対的に大きい場合に、前記運搬車両の目標車速を相対的に小さく定める目標車速決定部と、
前記目標車速に従って、前記目標経路に沿って前記運搬車両を走行させるための制御を行う目標経路追従部と、
を備えることを特徴とする運搬車両。
【請求項2】
前記目標車速決定部は、前記目標経路に復帰させるために予め定められた最低復帰車速を適用するかを判断するための距離閾値である最低復帰車速適用閾値以上、かつ、前記目標経路への復帰が不可能と判断するための前記最低復帰車速適用閾値よりも大きい距離閾値である停止判断閾値未満の範囲に前記最大乖離量が含まれる場合、前記目標車速として前記最低復帰車速を用いると定める、
ことを特徴とする請求項1に記載の運搬車両。
【請求項3】
前記最大乖離量算出部は、前記目標経路と平行な直線が前記位置範囲の輪郭線と接する位置から、前記目標経路に下した垂線のうちの最大長の距離を前記最大乖離量として算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の運搬車両。
【請求項4】
前記目標車速決定部は、前記最低復帰車速適用閾値よりも小さい距離閾値である復帰車速適用閾値以上、かつ、前記最低復帰車速適用閾値未満の範囲に前記最大乖離量が含まれる場合、前記目標車速として、前記目標経路の地図情報に予め規定された制限速度を示す経路要求車速、又は前記管制サーバが前記目標経路の混雑状況及び鉱山全体の操業効率の少なくとも一つを基に定めた管制要求車速のいずれか小さい車速値に対し、前記最大乖離量が大きいほど小さな重みw(0<w<1)を乗算して算出した復帰車速を用いると定める、
ことを特徴とする請求項2に記載の運搬車両。
【請求項5】
前記位置算出装置が、グローバルポジショニングシステムを用いた位置算出装置であって、
前記位置範囲算出部は、前記位置範囲として前記予測位置を中心とする誤差楕円を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の運搬車両。
【請求項6】
運行管理を行う管制サーバに無線回線を介して接続され、前記管制サーバからの指示及び自車両に備えられた位置算出装置から出力される前記自車両の予測位置を基に自律走行する運搬車両に搭載される運搬車両の走行制御装置であって、
前記予測位置を中心とし、前記運搬車両が予め定められた期待確率で存在する位置範囲を算出する位置範囲算出部と、
前記運搬車両の目標経路と前記位置範囲内に含まれる各地点との乖離量のうちの最大値からなる最大乖離量を算出する最大乖離量算出部と、
前記最大乖離量が相対的に大きい場合に、前記運搬車両の目標車速を相対的に小さく定める目標車速決定部と、
前記目標車速に従って、前記目標経路に沿って前記運搬車両を走行させるための制御を行う目標経路追従部と、
を備えることを特徴とする運搬車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車両及びその走行制御装置に係り、特に露天掘り鉱山等で使用される自律走行可能な運搬車両の走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
露天掘り鉱山等で掘削された鉱石や土砂を搬送するための運搬車両として、オペレータが搭乗することなく自律走行する、所謂無人車両が知られている。無人車両を自律走行させるためには自車位置を算出する必要がある。そこで自車位置算出装置として、グローバルポジショニングシステム(GPS:Global Positioning System)や慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)からの出力を用いた慣性航法演算処理が知られている。
【0003】
特許文献1には、自車位置を用いた無人車両の走行制御技術として、無人車両が走行する予め決められた走行コース上の目標位置と自車両の現在位置との位置ずれ量が大きくなると、無人車両の目標車速を事前に決めたものより小さく設定する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/31302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような位置算出装置で得られた自車位置には、実際の自車位置(真値)からの誤差が含まれている。そのため、無人車両の目標位置からの位置ずれ量の算出に際して自車位置に含まれる誤差を考慮しない場合、自車位置(真値)と目標位置との位置ずれ量が実際の位置ずれ量よりも小さく見積もられるという可能性がある。この点につき特許文献1では考慮されておらず、自車位置に含まれる誤差に起因して位置ずれ量が過小に算出される可能があり、位置ずれ量に対する目標車速の設定が不十分であるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、位置算出装置から得られる自車位置の誤差を考慮して走行制御が行える運搬車両及びその走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、運行管理を行う管制サーバに無線回線を介して接続され、前記管制サーバからの指示を考慮して自律走行する運搬車両であって、自車両の予測位置を算出する位置算出装置と、前記予測位置を中心とし、前記運搬車両が予め定められた期待確率で存在する位置範囲を算出する位置範囲算出部と、前記運搬車両の目標経路と前記位置範囲内に含まれる各地点との乖離量のうちの最大値からなる最大乖離量を算出する最大乖離量算出部と、前記最大乖離量が相対的に大きい場合に、前記運搬車両の目標車速を相対的に小さく定める目標車速決定部と、前記目標車速に従って、前記目標経路に沿って前記運搬車両を走行させるための制御を行う目標経路追従部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、予め定められた期待確率で存在する位置範囲、即ち運搬車両が存在する可能性がある位置と目標経路との位置ずれ量の最大値(最大乖離量)が相対的に大きいと目標車速を相対的に低くすることができるので、例えば目標経路に向かう方向に操舵角が設定されていれば運搬車両の進行方向に沿ったより短い距離で目標経路に復帰できる可能性が高くなる。また、目標経路から外れる方向に操舵角が設定されていても、車速が速い場合に比べて目標経路からの更なる位置ずれを小さくできる可能性が高くなる。
【0009】
また本発明は上記構成において、前記目標車速決定部は、前記目標経路に復帰させるために予め定められた最低復帰車速を適用するかを判断するための距離閾値である最低復帰車速適用閾値以上、かつ、前記目標経路への復帰が不可能と判断するための前記最低復帰車速適用閾値よりも大きい距離閾値である停止判断閾値未満の範囲に前記最大乖離量が含まれる場合、前記目標車速として前記最低復帰車速を用いると定める、ことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、停車するほどではなく目標経路への復帰は可能であるが、目標経路との最大乖離量が比較的大きい場合には、最低復帰車速で定速走行させることで進行方向に沿ったより短い距離で目標経路に復帰する可能性をより高くすることができる。
【0011】
また本発明は上記構成において、前記最大乖離量算出部は、前記目標経路と平行な直線が前記位置範囲の輪郭線と接する位置から、前記目標経路に下した複数の垂線のうちの最大長の距離を前記最大乖離量として算出する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、複数の垂線の長さを比較して最大乖離量の算出が行えるので、最大乖離量の算出処理に係る負荷を低減することができる。
【0013】
また本発明は上記構成において、前記目標車速決定部は、前記最低復帰車速適用閾値よりも小さい距離閾値である復帰車速適用閾値以上、かつ、前記最低復帰車速適用閾値未満の範囲に前記最大乖離量が含まれる場合、前記目標車速として、前記目標経路の地図情報に予め規定された制限車速を示す経路要求車速、又は前記管制サーバが前記目標経路の混雑状況及び鉱山全体の操業効率の少なくとも一つを基に定めた管制要求車速のいずれか小さい車速値に対し、前記最大乖離量が大きいほど小さな重みw(0<w<1)を乗算して算出した復帰車速を用いると定める、ことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、最大乖離量が復帰車速適用閾値以上最低復帰車速適用閾値未満の場合は、最大乖離量が小さければより速い車速値で、大きければより遅い車速値で走行させることにより、目標経路への復帰のための減速の影響をなるべく小さくすることができる。
【0015】
また本発明は上記構成において、前記位置算出装置が、グローバルポジショニングシステムを用いた位置算出装置であって、前記位置範囲算出部は、前記位置範囲として前記予測位置を中心とする誤差楕円を算出する、ことを特徴とする。
【0016】
これにより、GPSを用いた位置予測結果に特徴的な存在期待確率分布である誤差楕円に基づいて目標車速を決定することができ、GPSを用いた運搬車両に好適な走行制御を行うことができる。
【0017】
た、運行管理を行う管制サーバに無線回線を介して接続され、前記管制サーバからの指示を考慮して自律走行する運搬車両であって、前記運搬車両が、当該運搬車両の目標経路を含む第一距離内では前記目標経路の地図情報に予め規定された制限車速を示す経路要求車速、又は前記管制サーバが前記目標経路の混雑状況を基に定めた管制要求車速により走行し、前記第一距離範囲の外側に隣接する第二距離範囲内に前記運搬車両が位置する場合には、前記目標経路からの位置ずれ量が大きいほど小さい車速値からなる復帰車速で走行し、前記第二距離範囲の外側に隣接する第三距離範囲内にある場合は、前記目標経路に復帰させるために予め定められた前記復帰車速よりも小さい最低復帰車速により定速走行させるように制御する走行制御装置と、前記走行制御装置による制御に従って駆動する走行駆動装置と、を備える構成も好ましい
【0018】
上記構成によれば、目標経路を中心とする運搬車両が走行する可能性がある範囲を、距離に応じて第一距離範囲、第二距離範囲、第三距離範囲に分け、第三距離範囲に運搬車両が位置する場合には最低復帰車速により定速走行させることができる。
【0019】
また本発明は、運行管理を行う管制サーバに無線回線を介して接続され、前記管制サーバからの指示及び自車両に備えられた位置算出装置から出力される前記自車両の予測位置を基に自律走行する運搬車両に搭載される運搬車両の走行制御装置であって、前記予測位置を中心とし、前記運搬車両が予め定められた期待確率で存在する位置範囲を算出する位置範囲算出部と、前記運搬車両の目標経路と前記位置範囲内に含まれる各地点との乖離量のうちの最大値からなる最大乖離量を算出する最大乖離量算出部と、前記最大乖離量が相対的に大きい場合に、前記運搬車両の目標車速を相対的に小さく定める目標車速決定部と、前記目標車速に従って、前記目標経路に沿って前記運搬車両を走行させるための制御を行う目標経路追従部と、を備えることを特徴とする。
【0020】
これにより、運搬車両が存在する可能性がある位置と目標経路との位置ずれ量の最大値(最大乖離量)が大きいほど目標車速を低くすることができる。そのため、例えば目標経路に向かう方向に操舵角が設定されていれば運搬車両の進行方向に沿ったより短い距離で目標経路に復帰できる可能性が高くなり、目標経路から外れる方向に操舵角が設定されていても、車速が速い場合に比べて目標経路からの更なる位置ずれを小さくできる可能性が高くなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、位置算出装置から得られる自車位置の誤差を考慮して走行制御が行える運搬車両及びその走行制御装置を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】鉱山内の概略構成を示す図
図2】管制サーバ及びダンプ20のハードウェア構成図であって、(a)は管制サーバ、(b)はダンプを示す。
図3】管制サーバの主な機能を示す機能ブロック図
図4】管制サーバに記憶される経路データの一例を示す図であって、(a)は経路データを模式的に示し、(b)は経路データのデータ構造例を示す。
図5】ダンプ20の機能構成を示すブロック図
図6】適合リンクを探す処理を示す説明図
図7図5の行動司令部内の機能構成を示すブロック図
図8】最大乖離量算出処理を示す説明図
図9】最大乖離量と目標車速との関係を示すテーブル
図10】本実施形態に係るダンプの走行制御処理の流れを示すフローチャート
図11】他の実施形態の概念を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明する。以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。なお、以下の実施の形態において、その構成要素(処理ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須ではない。
【0024】
また、以下の実施の形態における各構成、機能、処理部、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、後述する各構成、機能、処理部、処理部等は、コンピュータ上で実行されるプログラムとして実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各構成、機能、処理部、処理部等を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0026】
<第一実施形態>
図1を参照して、本実施形態に係る位置算出装置を搭載した運搬車両としての鉱山用ダンプ(以下「ダンプ」と略記する)が走行する鉱山内の概略構成について説明する。図1は、鉱山内の概略構成を示す図である。
【0027】
図1に示すように、鉱山内では、積込場61(積載地点に相当)及び放土場62(放土地点に相当)を接続する走行経路60が設けられる。積込場61では土砂や鉱石の積込作業を行うショベル10が掘削作業を行う。そして、ダンプ20−1、20−2は、積込場61においてショベル10から土砂や鉱石等の積荷を積込まれ、走行経路60に沿って放土場62に向かって走行する。ダンプ20−1、20−2は、放土場62に到着すると積荷を放土する。そしてダンプ20−1、20−2は空荷で積込場61に向けて走行する。
【0028】
ダンプ20−1、20−2は管制センタ30に設置された管制サーバ31に無線通信回線40を介して通信接続される。そして、ダンプ20−1、20−2は管制サーバ31からの管制制御に従って走行する。図1の符号32は、管制サーバ31に接続される無線アンテナであり、符号41−1、41−2、41−3は無線移動局を示す。以下の説明では、ダンプ20−1、20−2を区別しない場合は、ダンプ20と記載する。
【0029】
ダンプ20は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation System)の少なくとも3つの航法衛星50−1、50−2、50−3から測位電波を受信して自車両の位置を取得するための位置算出装置(図1では図示を省略する)を備える。GNSSとして、GPSの他、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、GALILEOを用いてもよい。
【0030】
管制サーバ31は、すべてのダンプ20−1、20−2の走行位置や目標経路、鉱山の操業目標や操業効率などを考慮して、管制サーバ31から見て、各ダンプ20−1、20−2に走行時に適用させたい車速(スカラー量)である管制要求車速を算出(決定)し、それを各ダンプ20−1、20−2に通知することができる。管制要求車速は、走行経路60の地図情報においてカーブの曲率や勾配、道幅を考慮して定められた走行経路60上の各区間の制限車速(経路要求車速)に対して、実際の渋滞状態やダンプ20の稼働台数を含む運行状況により補正した車速である。従って経路要求車速が各区間の最高車速であり、管制要求車速は経路要求車速以下の車速値である。なお、本明細書において車速はスカラー量を示す。
【0031】
次に図2を参照して、図1の管制サーバ31及びダンプ20のハードウェア構成について説明する。図2は、管制サーバ及びダンプ20のハードウェア構成図であって、(a)は管制サーバ、(b)はダンプを示す。
【0032】
図2の(a)に示すように、管制サーバ31は、CPU311、RAM(Random Access Memory)312、ROM(Read Only Memory)313、HDD(Hard Disk Drive)314、I/F315、バス318を含む。そして、CPU311、RAM312、ROM313、HDD314、及びI/F315がバス318を介して接続されて構成される。
【0033】
更に、管制サーバ31は、LCD(Liquid Crystal Display)316、操作部317を備え、これらがI/F315に接続される。
【0034】
CPU311は演算部であり、管制サーバ31全体の動作を制御する。
【0035】
RAM312は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU311が情報を処理する際の作業領域として用いられる。
【0036】
ROM313は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、本実施形態の特徴をなす自律走行制御プログラムが格納されている。
【0037】
HDD314は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。
【0038】
LCD316は、ユーザが鉱山内のダンプの走行状況を確認するための視覚的利用者インターフェースである。
【0039】
操作部317は、キーボードやLCD316に積層されたタッチパネル(図示を省略)等、ユーザが管制サーバ31に情報を入力するための利用者インターフェースである。
【0040】
管制サーバ31のI/F315には、無線通信回線40に接続するためのサーバ側通信装置340が接続される。
【0041】
一方、ダンプ20は、図2の(b)に示すように自律走行のための制御処理を行う走行制御装置200と、走行制御装置200からの制御指示に従ってダンプ20を走行駆動するための走行駆動装置210と、ダンプ20の自車両の予測位置を算出するための位置算出装置220と、ダンプ20の周辺環境を認識するためのミリ波センサ等の外界センサ231と、車体傾斜や積載量などの車体情報の認識に用いるための車体センサ232と、無線通信回線40に接続するためのダンプ側通信装置240と、を備える。
【0042】
走行駆動装置210は、ダンプ20に対して制動をかける制動装置211、ダンプ20の操舵角を変更するための操舵モータ212、及びダンプ20を走行させるための走行モータ213を含む。
【0043】
位置算出装置220は、航法衛星50−1、50−2、50−3からの測位電波を受信して自車両の予測位置を算出するGPS装置や、IMUである。
【0044】
走行制御装置200は、CPU201、RAM202、ROM203、HDD204、I/F205、及びバス208を含む。そして、CPU201、RAM202、ROM203、HDD204、及びI/F205がバス208を介して接続されて構成される。更に、走行駆動装置210、位置算出装置220、外界センサ231、車体センサ232、及びダンプ側通信装置240が、I/F205に接続される。
【0045】
このようなハードウェア構成において、ROM203、313やHDD204、314若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納された自律走行制御プログラムがRAM202、312に読み出され、CPU201、311の制御に従って動作することにより、自律走行制御プログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働して、管制サーバ31及び走行制御装置200の機能を実現する機能ブロックが構成される。なお、本実施形態では、管制サーバ31及び走行制御装置200の構成をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより説明したが、特にダンプ20は、ダンプ側で実行される自律走行制御プログラムの機能を実現する論理回路を用いて構成してもよい。
【0046】
次に図3乃至図4を参照して、管制サーバ31の機能構成について説明する。図3は、管制サーバの主な機能を示す機能ブロック図である。図4は、管制サーバに記憶される経路データの一例を示す図であって、(a)は経路データを模式的に示し、(b)は経路データのデータ構造例を示す。
【0047】
図3に示すように、管制サーバ31は、走行許可区間設定部311a、管制要求車速決定部311b、サーバ側通信制御部311c、経路データ記憶部314a、及び運行管理情報データベース(以下データベースを「DB」と略記する)314bを備える。走行許可区間設定部311a、管制要求車速決定部311b、及びサーバ側通信制御部311cは、管制サーバ31で実行される自律走行制御プログラムにより構成される。
【0048】
経路データ記憶部314aは、HDD314など固定的に記憶する記憶装置を用いて構成される。図4の(a)に示すように、経路データは、走行経路60上の各地点(以下「ノード」という)22の位置情報と、各ノードを連結するリンク21とにより定義される。また、鉱山の地形情報や、各ノードの絶対座標(測位電波を基に算出される3次元実座標)を含んでもよい。各ノードには、そのノードを固有に識別する識別情報(以下「ノードID」という)が付与される。
【0049】
各リンクは進行方向(図4の(a)における矢印A方向)を持ち、先端ノードと終端ノードとが定義されている。そして図4の(b)に示すように、経路データは各リンクを固有に識別する識別情報(例えば21A)と、そのリンクの先端ノードIDの座標値(x22A,y22A)および終端ノードIDの座標値(x22B,y22B)、そのリンクを走行する際の経路要求車速V21A、道幅W21A、勾配S21A、曲率C21Aのデータとを関連付けている。
【0050】
経路要求車速は、その経路の勾配、曲率、道幅などの道路仕様などから決定される。この経路要求車速は、ダンプ20が実際に走行する際の目標車速の候補となる。
【0051】
運行管理情報DB314bは、走行経路60を走行している各ダンプの位置を示す運行管理情報を格納する。
【0052】
走行許可区間設定部311aは、各ダンプ20から送信される走行許可要求情報に応じて、当該ダンプ20に対して次の走行許可区間を設定する。具体的には、運行管理情報DB314bの運行管理情報を参照して当該ダンプ20の前方を走行している他のダンプの位置を取得する。次に、経路データ記憶部314aの経路データを参照し、走行経路60上におけるダンプ20の前方を走行する他のダンプの現在位置から、少なくとも制動をかけて停止するために必要な距離(停止可能距離)後方の地点に、新たに設定する走行許可区間の前方境界地点を設ける。更に、当該ダンプ20の現在位置よりも停止可能距離分離れた位置に後方境界地点を設定する。そして、前方境界地点及び後方境界地点の間を、走行許可要求を出したダンプ20に対して付与する新たな走行許可区間として設定する。
【0053】
管制要求車速決定部311bは、管制要求車速を決定する。具体的には、管制要求車速決定部311bは、経路データ記憶部314aから経路データを読み出して、運行管理情報D314bに記憶された運行情報を参照し、ダンプ20に対して設定された新たな走行許可区間に含まれるリンクに対応付けられている経路要求車速と、ダンプ20の前方車両との距離、交通混雑の状態とを考慮して、管制要求車速を決定する。通常、最大管制要求車速は、経路データにおいてリンクに対応しづけられている車速であり、交通渋滞の場合はそれよりも遅い車速が管制要求車速として決定される。管制要求車速は、走行許可区間設定部311aに出力される。
【0054】
走行許可区間設定部311aは、設定した新たな走行許可区間の前方境界点、後方境界点、及び管制要求車速を示す走行許可応答情報を生成し、サーバ通信制御部311cに出力する。
【0055】
サーバ通信制御部311cは、各ダンプ20の走行許可要求情報の受信、及びその要求に応じて生成された走行許可応答情報を送信する制御を行う。
【0056】
次に図5乃至図8を参照してダンプ20の自律走行に係る機能構成について説明する。図5は、ダンプ20の機能構成を示すブロック図である。図6は適合リンクを探す処理を示す説明図である。図7図5の行動司令部内の機能構成を示すブロック図である。図8は、最大乖離量算出処理を示す説明図である。
【0057】
図5に示すように、走行制御装置200は、走行する経路とそれに付随する情報を記録した経路データ記憶部204aと、位置算出装置220が算出した自車両の予測位置を中心とし、ダンプ20が予め定められた期待確率(例えば信頼度95%以上)で存在する位置範囲を算出する位置範囲算出部201bと、経路データ記憶部204aから適切なデータを抽出する経路データ抽出部201cと、前方障害物の位置を検出する障害物位置演算部201dと、走行車速や操舵角、積載重量などの車体状態を認識する車体情報演算部201eと、自車の目標車速、目標経路などを決定し目標経路に追従するために必要な指令情報を出力する行動指令部201fと、目標車速で目標経路に沿って移動するために必要な駆動、制動、操舵の制御量を決定する目標経路追従部201gと、現在走行中の走行許可区間の終端地点(前方境界点)に近づくと、次に走行する新たな走行許可区間の設定要求を行う走行許可要求部201hと、管制サーバ31との無線通信制御を行うダンプ側通信制御部201iと、を備える。
【0058】
経路データ記憶部204aは、ダンプ20が走行すべき経路を、両端にノードと呼ばれる点を備えたリンクの集合体として表現した経路データを記録する。また、リンクを指定すると、そのリンクに紐付けられたデータを抽出することができるよう、リンクIDとそれに付帯する付帯情報とが関連付けて構成されている。
【0059】
位置範囲算出部201bは、現在の演算結果がどの程度の信頼性があるかを表現する確率分布を算出する。本実施形態では位置算出装置220としてGPSを用い、確率分布として誤差楕円を用い、これを位置情報に反映させた位置範囲を求める。以下の説明では「誤差楕円」は単なる確率分布だけでなく、予測位置を中心とする誤差楕円の確率分布を反映させた位置範囲を意味するものとして用いる。
【0060】
誤差楕円は自車の予測位置の演算時に自車が存在し得る二次元平面上の範囲(つまり測定位置誤差)を楕円で表現したものであり、車両の進行方向のある一定確率以上の存在範囲と車両横方向のある一定確率以上の存在範囲を統合することで自車位置がある一定確率以上で存在する範囲の境界を2次元上の楕円形で表現したものである。ここでいう予測位置とは、その誤差楕円範囲内で自車が存在する可能性が最も高い位置を示しており、誤差楕円の円周部分に近づくにつれ、自車が存在する可能性が低くなることを示している。つまり、誤差楕円の円周上は、期待確率は低いがある一定確率以上で、例えば95%以上などで存在する可能性があることを示している。
【0061】
誤差楕円を用いることにより、GPSを用いた予測位置に特徴的な誤差を反映した確率分布である誤差楕円を用いて目標車速を算出でき、GPSを搭載したダンプに好適な走行制御が行える。
【0062】
位置範囲算出部201bが算出した位置範囲は行動指令部201fに出力される。
【0063】
なお、自車位置の期待確率を示す確率分布は、誤差楕円に限らず例えばXY座標上のある座標における確率をXY平面に直交するZ軸方向にプロットした2次元正規分布を生成してもよい。
【0064】
経路データ抽出部201cは、位置範囲算出部201bから得られる位置範囲に基づき、その位置近傍の経路データを抽出する。一例として自車位置近傍のデータを抽出する様子を図7に示す。経路データ抽出部201cは、位置範囲算出部201bから得られる位置範囲の予測位置CPと、各リンク(例えばリンク21A)の先端ノード(先端ノード22A)および終端ノード(例えば22B)の座標値とを比較し、先端ノード22Aと終端ノード22Bの間に予測位置CPが当てはまるリンクのうち最も近いものを選択し、それを適合リンク21Aと決定する。そして経路データ抽出部201cは、経路データ記憶部204aに記憶されている経路データから、決定した適合リンク21Aに紐付けられている経路データを抽出する。経路データ抽出部201cは、抽出した経路データを行動指令部201fに出力する。
【0065】
障害物位置演算部201dは、例えばミリ波センサやステレオカメラなどの外界センサ231からの出力を基に、特にダンプ20の進行方向前方に位置する障害物(例えば前方車両)の有無やダンプ20からの距離を演算する。障害物を検出した場合は、行動指令部201fに検出結果を出力する。行動指令部201fは検出結果に応じて、例えば衝突回避のために減速・停止のための制動動作を行う。
【0066】
車体情報演算部201eは、各種車体センサ232からの出力に基づいて、操舵角、走行車速、積載重量など、ダンプの車体状態を示す値を演算する。例えば車体情報演算部201eは、操舵軸に取り付けられた回転角センサからの出力を基に操舵角を演算する。また車体情報演算部201eは、前輪や後輪の回転数を計測する車輪回転数センサからの出力された回転数及びタイヤ仕様を基に走行車速を演算する。更に車体情報演算部201eは、各車輪に設置されたサスペンションの圧力を計測できる圧力センサからの出力を基に積載重量を演算する。車体情報演算部201eは、抽出した経路データを行動指令部201fに出力する。行動指令部201fは検出結果に応じて、例えば空荷の場合は積荷よりも制動をかける際のタイミングを速くするなど、車体情報に応じた走行制御を行う。
【0067】
目標経路追従部201gは、行動指令部201fが定めた目標車速に従って、目標経路に沿ってダンプ20を走行させるための制御を行うもので、目標車速を実現するための走行モータトルク指令を生成する目標トルク生成部501、及び目標経路を実現するように操舵角指令を生成する目標操舵角生成部502を含む。
【0068】
目標トルク生成部501は、行動指令部201fから目標車速を取得し、目標車速と現在の車速値との差をフィードバックし、その差を小さくするような目標走行トルクを生成する。
【0069】
目標操舵角生成部502は、ダンプ側通信制御部201iから走行許可応答情報を取得し、目標経路(走行許可区間)の位置情報を取得する。そして、位置範囲算出部201bから得られる予測位置と目標経路との位置ずれをフィードバックし、その差を小さくするような目標操舵角を生成する。
【0070】
走行許可要求部201hは、位置範囲算出部201bから得られる自車両の予測位置と経路データ記憶部204aから読み出した経路データとを照合し、次の走行許可区間の設定を要求する走行許可要求情報を送信する地点(走行許可要求地点)に自車両が到達したかを判定し、到達した場合にはダンプ側通信制御部201iに対して走行許可要求情報を送信する。
【0071】
ダンプ側通信制御部201iは、管制サーバ31に対し、次の走行許可区間を要求するための走行許可要求情報を送信するとともに、管制サーバ31から、走行許可応答情報(管制要求車速情報を含む)を受信する制御を行う。
【0072】
行動指令部201fは、図7に示すように、複数の目標車速候補の中から一つを選択する目標車速候補選択部601と、ダンプ20の目標経路と位置範囲内に含まれる各地点との乖離量のうちの最大値からなる最大乖離量を算出する最大乖離量算出部602と、最大乖離量が相対的に大きい場合に、運搬車両の目標車速を相対的に小さく定める目標車速決定部603と、を備える。
【0073】
目標車速候補選択部601は、経路データ抽出部201cから取得した適合リンク21Aにひもづけられている経路データの経路情報から経路要求車速を取得する(読み取る)とともに、ダンプ側通信制御部240から出力された走行許可応答情報に含まれる管制要求車速を読取り、両者を比較して遅い方の車速を目標車速の候補として選択する。目標車速候補選択部601は、選択した目標車速候補を目標車速決定部603に出力する。
【0074】
最大乖離量算出部602は、図8に示すように、位置範囲算出部201bから得られる自車位置CPと誤差楕円EE、および、経路データ抽出部201cから得られる適合リンク21Dおよびそれに紐付けられている先端ノード22Aおよび終端ノード22Bの座標値を基に、自車位置CPと目標経路である適合リンク21Aとの最大乖離量MaxDを求める。最大乖離量MaxDは、目標経路である適合リンク21Aに対して想定される最大のずれ量と定義する。位置範囲算出部201bから自車位置CPと誤差楕円EEが出力される。この自車位置CPは確率的にもっとも存在可能性が高い位置であり、その位置を中心に、ある確率以上で存在する可能性がある領域が誤差楕円EEとして表現される。つまり、誤差楕円EEの内側であればダンプ20が存在する可能性があることを示している。最大乖離量算出部602は、自車位置CPおよび誤差楕円EEが得られると、目標経路である適合リンク21Aから最も乖離した地点である最大乖離地点Pを演算する。この最大乖離地点Pは適合リンク21Aと平行な直線であるLineAが誤差楕円EEの輪郭線と接する位置として求めることができる。最大乖離量算出部602は、この最大乖離地点Pから目標経路である適合リンク21Aに下ろした垂線である最大乖離地点垂線EDの長さの最大値(最大長の距離)を最大乖離量MaxDと決定する。
【0075】
目標車速決定部603は、目標車速候補選択部601から通知される目標車速候補、及び最大乖離量算出部602から通知される最大乖離量MaxDを基に目標車速を決定し、目標経路追従部201gに出力する。この際、障害物位置演算部201dや車体情報演算部201eからの出力に基づいて、決定した目標車速に対して補正を行ってもよい。補正がされた場合、決定された目標車速よりも更に遅い車速を適用してもよい。
【0076】
自律走行ダンプに限らず、一般に車両は、同じ操舵角であれば、走行車速が遅い方が進行方向における短い距離で目標経路に対するずれ量を小さくすることができる。したがって、できるだけ進行方向における短い距離で目標経路とのずれ量を小さくするためには走行車速を低下させる必要がある。つまり目標車速を低下させることで走行車速を低下させればよい。
【0077】
ここで、上記のとおり位置算出装置220からの出力を基に算出したダンプ20の自車位置は、ある確率で誤差楕円の円周上に存在する。したがって、可能性は低くとも安全性を高めるため、本実施形態では、目標経路とのずれ量を演算するために、誤差楕円内の中でもっとも目標経路とのずれ量が大きい位置(最大乖離地点)を目標車速を決定するために用いる自車両の予測位置として採用する。
【0078】
そこで、目標車速決定部603は、目標車速候補選択部601が選択した目標車速候補に対し、目標経路からの最大ずれ量である最大乖離量MaxDを基に補正する。そして目標車速決定部603は、補正した目標車速を目標経路追従部201gに出力する。これにより、進行方向に沿ってより短い距離で乖離量を小さくすることができる。
【0079】
図9は、最大乖離量と目標車速との関係を示すテーブルである。図9のテーブルでは、目標車速候補よりも遅い復帰車速を適用するかを判断するための復帰車速適用閾値JD1よりも最大乖離量MaxDが大きい場合、重みw=1を現在の目標車速値に乗算する。従って、最大乖離量MaxDが復帰車速適用閾値JD1未満の場合、目標車速決定部603は、目標車速候補に重み1を掛ける、つまり目標車速候補がそのまま目標車速として用いられる。
【0080】
最大乖離量MaxDが復帰車速適用閾値JD1以上、目標経路に復帰させるために予め定められた最低復帰車速を適用するかを判断するための最低復帰車速適用閾値JD2未満の場合は、目標車速決定部603はwmin<w<1(wminは0よりも大きく1未満の値)の範囲で最大乖離量MaxDが大きくなるにつれて小さい重みwを目標車速候補に乗算して、目標車速を決定する。
【0081】
最大乖離量MaxDが最低復帰車速適用JD2以上、目標経路への復帰が不可能と判断するための停止判断閾値JD3以下の場合は、目標車速決定部603は目標車速として最低復帰車速を適用すると決定する。これにより、ダンプ20は、仮に大きく目標経路を外れた場合でも、十分低速な復帰車速(たとえば5km/h)で走行することで進行方向の短い距離で目標経路に戻ることができる。また、目標経路からのずれ量が比較的小さい場合は、最低復帰車速よりも大きい車速を用いて復帰動作を行うことで、復帰動作に伴うダンプ20の減速の影響をより小さくすることができる。
【0082】
最大乖離量MaxDが停止判断閾値JD3以上の場合は、復帰不可能な乖離量であると判断し、最終目標車速をゼロとして停車を指示できるように構成されている。
【0083】
上記復帰車速適用閾値JD1、最低復帰車速適用閾値JD2、停車判断閾値JD3は、車体の積載状態、道幅、すれ違い事象発生の有無などの外的要因を考慮して予め決定されてもよいし、ダンプ20を走行させながら外的要因の変動に対応して動的に決定してもよい。
【0084】
次に図10を参照して、本実施形態に係るダンプの走行制御処理の流れについて説明する。図10は、本実施形態に係るダンプの走行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0085】
走行制御処理を開始するにあたり、まずダンプ20のエンジンを始動する。これにより走行制御装置200に主電源が投入され、位置算出装置220による自車両の予測位置の算出が開始する(S1001)。または,エンジンと連動した電源ではなく,別途電源スイッチを設けておき,それを投入することで電源が投入されるようにしてもよい。ダンプ20の目的地点が未定であれば(S1002/No)、管制サーバ31に対し走行許可要求部201hが目的地点の設定要求を行い(S1003)、管制サーバ31が目的地点を設定してダンプ20に応答する(S1004)。
【0086】
目的地点が設定されている場合(S1002/Yes、S1004)、走行許可要求部201hが位置算出装置220の予測位置を参照して走行許可要求地点に到達しているかを判断し、到達していれば(S1005/Yes)、管制サーバ31に対して次の走行許可要求地点の設定要求を行う(S1006)。管制サーバ31の走行許可区間設定部311aが走行許可区間を設定すると、管制要求車速決定部311bは、運行管理情報及び設定された走行許可区間内のリンクにひもづけられた経路データに含まれる経路要求車速を基に、管制要求車速を決定し、これらの内容を示す走行許可区間応答情報を生成・ダンプ20へ応答送信する(S1007)。
【0087】
また、位置範囲算出部201bは、位置算出装置220から取得した自車両の予測位置を中心とし、自車両があらかじめ決められた期待確率で存在する位置範囲を算出する(S1008)。経路データ抽出部201cは、位置範囲と経路データ記憶部204a内の経路データとを比較し、自車両に最も近い適合リンクを検索し、その経路データを抽出する(S1009)。
【0088】
目標車速候補選択部601は、管制要求車速又は経路データ抽出部201bが読み出した適合リンクの経路データに含まれる経路要求情報を比較し、車速が遅い方を目標車速候補として選択し(S1010)、目標車速決定部603に出力する。
【0089】
最大乖離量算出部602は、位置範囲算出部201bが算出した位置範囲を基に、目標経路からの最も外れた地点(最大乖離量地点)を検索し、その最大乖離量地点と目標経路との距離(最大乖離量)を算出し(S1011)、目標車速決定部603に出力する。
【0090】
目標車速決定部603は、最大乖離量が復帰車速適用閾値未満であれば(S1012/Yes)、目標車速候補をそのまま目標車速して適用し(S1013)、目標経路追従部201gに出力する。
【0091】
目標車速決定部603は、最大乖離量が復帰車速適用閾値以上最低復帰車速適用閾値未満であれば(S1014/Yes)、1より小さい重みを目標車速候補に乗算して復帰車速を算出し、これを目標車速として適用し(S1015)、目標経路追従部201gに出力する。
【0092】
目標車速決定部603は、最大乖離量が最低復帰車速適用閾値以上停止判断閾値未満であれば(S1016/Yes)、最低復帰車速を目標車速として適用し(S1017)、目標経路追従部201gに出力する。
【0093】
目標車速決定部603は、最大乖離量が停止判断閾値以上であれば(S1018/Yes)、ダンプ20を停止させると判断し、目標経路追従部201gに出力する。
【0094】
目標経路追従部201gの目標トルク生成部501は、取得した目標車速を実現するトルクを算出すると共に、目標操舵角生成部502は走行許可応答情報に含まれる走行許可区間の前方境界点、後方境界点や適合リンクの先端ノードの座標を参照し、目標経路に沿って走行するための操舵角を算出する。そして算出したトルクや操舵角に従って、走行駆動装置210に対する駆動制御を行う(S1019)。走行中は、ステップS1001へ戻り、上記一連の処理を繰り返す。
【0095】
本実施形態によれば、ダンプ20は目標経路からのずれ量が大きくても復帰車速を与えておくことで目標経路とのずれ量を小さくすることができるため、最終目標車速をゼロにする必要はない。しかし、鉱山のような環境では道幅が限られている、対向車線が存在する、などの理由により目標経路とのズレがあまりにも大きくなると路外への逸脱や対向車線との衝突といった事象の発生する危険性が高くなる。そこで、最終目標車速ゼロを設定することでそういった事象が発生することを回避することができる。
【0096】
上記実施形態は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更態様がありうる。他の実施形態について図11を参照して説明する。図11は、他の実施形態の概念を示す図である。例えば、図11に示すように、目標経路を含み、目標経路から相対的に近距離(例えば復帰車速適用閾値)の範囲を第一距離範囲R1と設定する。また第一距離範囲R1の外側に隣接して目標経路から相対的に遠い距離(例えば最低車速適用閾値)の範囲を第二距離範囲内R2と設定する。更に第二距離範囲R2の外側に隣接して、目標経路から更に遠い距離(例えば停止判断閾値)の範囲を第三距離範囲R3を設定する。そして、第一距離範囲R1の範囲では経路要求車速又は管制要求車速で走行し、第二距離範囲R2では復帰車速で走行し、第三距離範囲R3では最低復帰車速で定速走行するようにしてもよい。そして第三距離範囲R3の外側では停止させてもよい。なお、第三距離範囲R3は、オープンエンド(目標経路から離れた側の端部は指定しない範囲)として設定してもよく、この場合はダンプ20が停止することなく第二距離R2に戻るまで定速走行する。
【0097】
これにより、予測位置に誤差がある場合にも、最も存在可能性が高い予測位置と第一距離範囲、第二距離範囲、第三距離範囲との比較に基づいて走行させることができ、位置算出の誤差を吸収して走行制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
10:油圧ショベル
20、20−1、20−2:ダンプ
31:管制サーバ
40:無線通信回線
50−1、50−2、50−3:航法衛星
60:搬送路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11