(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
前記複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含むことを特徴とする、請求項4または5に記載の装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】V.Hopfe,A.Tehel,G.Leonhardt,German Patent DE 40 18 940.6−45(1991)
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Maxwell,J.L.et al.,Diamond&Related Materials 16(2007)1557−1564
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【非特許文献34】A.Udayakumara,A.Sri Ganesh,S.Raja,M.Balasubramanian,J.Eur.Ceram.Soc.31 1145−1153(2011)
【非特許文献35】C.Cofer and J.Economy,Carbon,33 [4],389−395(1995)
【非特許文献36】M.Leparoux,L.Vandenbulcke,and C.Clinard,J.Am.Ceram.Soc,82 [5],1187−1195(1999)
【非特許文献37】J.Thomas,N.E.Weston,and T.E.O’Connor,J.Am.Chem.Soc,84 [24],4619−4622(1963)
【非特許文献38】http://www.htcomposites.com/Fiber_Coatings.html
【非特許文献39】A.Decamp,L.Maille,S.Saint Martin,R.Pailler,and A.Guette;Composites Science and Technology 70 622−626(2010)
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【非特許文献42】J.Curtis and H.Spilker,ATK−COI Ceramics,Private Communications,August 23,2010
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【非特許文献50】S.M.Lee,Handbook of Composite Reinforcements,Wiley−VCH,Palo Alto,Ca p.97(1993)
【非特許文献51】N.S.Jacobson and D.L.Myers,Oxid Met 75,1−25(2011)
【非特許文献52】F.Rebillat,A.Guette and C.R.Brosse,Acta mater.Vol.47,No.5,1685−1696(1999)
【非特許文献53】T.Kusunose,T.Sekino and Y.Ando,Nanotechnology 19 1−9(2008)
【非特許文献54】A K Khanra,Bull.Mater.Sci.,30 [2],pp.93−96.(2007)
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記で組み込まれた次の題名の米国特許仮出願明細書に関する発明が、以下に開示されている:
I.複数の制御可能なレーザーを用いた高強度セラミック繊維の大規模製造のための方法および装置−前駆体(例えば、CVD)から複数の繊維を形成するための方法および装置であって、該方法及び装置は、複数の個々の繊維を成長させるように構成されたリアクターと、複数の独立に制御可能なレーザーとを含み、該複数のレーザーの個々のレーザーは、複数の繊維のそれぞれの繊維を成長させる。リアクターおよびレーザーは、レーザー誘起化学気相蒸着に従って繊維を成長させることができる。一実施形態における複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含む。
【0024】
II.微小亀裂を方向付けし、マトリックス複合体に微小亀裂および酸化への免疫応答を与える高性能繊維用のナノコーティングシステム−構造中に配列された複数の繊維と、繊維間に配置されたマトリックスとを含む、高性能繊維(HPF)構造であって、該構造中、繊維の表面の一部に沿って多層コーティングが提供されている。前記多層コーティングは、シート様の強度を有する内層領域と、粒子様の強度を有する外層領域を含み、マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も外層に沿って伝播してマトリックス中に戻り、それにより亀裂が繊維に接近することを阻むようになっている。一実施形態において、内層領域は、繊維用の酸素バリアとして作用し、酸素に曝露された際、外層領域の少なくとも一部が内層領域に類似した酸素バリアに転化し、それにより繊維により大きな保護を提供する。
【0025】
III.セラミックマトリックス複合材料中の炭化ケイ素繊維の非架橋性窒化ホウ素のその場コーティング−複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料中に界面相を形成する方法であって、プリフォーム中に複数のSiC繊維を配列する工程と、繊維の表面からケイ素を選択的に除去(例えば、エッチング)し、繊維上に多孔質炭素層をもたらす工程と、界面相層(例えば、窒化ホウ素)によって多孔質炭素層を置きかえる工程とを含み、該界面相層が繊維をコーティングして、それによりプリフォーム中での繊維間の架橋形成を最小化する。
【0026】
上記の出願のいずれかで開示された技法、方法、および/または生成物のいずれもが、その他のいずれかの出願の技法、方法、および/または生成物と組み合わせて使用することができ、このような組合せ(複数可)は本発明の範囲内に含まれる。例えば、繊維が形成された後、繊維を依然として平行な構成にしておきながら、LCVDをコーティングに施用することができる。
【0027】
I.複数の制御可能なレーザーを用いた高強度セラミック繊維の大規模製造のための方法および装置
本発明は一実施形態において、独立に制御されたレーザーの大型アレイの使用であり、
図3に図示された通り、繊維80の等しく大きなアレイを並行に成長させる。
図3は、各繊維80の先端周囲にプラズマ90を誘起するレーザービーム80の増倍によりどのように繊維LCVDがフィラメント格子100から大量に並列化され得るかを示している。
【0028】
上述した通り、単一の光源から従来のレーザー格子を発生させることは、商業的な回折格子を用いて実行することができる。商業的な回折格子は、所望の線形アレイを含めた幅広い範囲の慣習的なパターンを発生させることができる。LCVDにより繊維を成長させるために回折パターンを使用することは、その全体を参照によりこれにて本明細書に組み込む非特許文献1によっても以前に実証されている。得られた繊維アレイは
図4に示されており、LCVDにより平行に成長した炭素繊維の7×7アレイである。複数の焦点は、レーザービーム源を、回折格子を通して動作させることによって作り出され、これにより「ビームレット」(beamlet)のアレイが作り出され、それぞれが繊維を成長させる。不均等な成長高さがおそらく、不均等な出力分布および長い焦点レイリー範囲(focal Rayleigh range)に起因することに留意されたい。
【0029】
回折格子を用いて大きな線形焦点アレイを発生させる際の1つの困難は、幾何形状と放射照度の両方の観点で均一なパターンを得ることである。さらに、回折格子は、出力伝達において非効率的である。したがって、大型焦点アレイによる解決策は、高品質で特別仕様の格子と、高出力かつ十分に平行化した拡張レーザー源とを必要とするであろう。
【0030】
例えば、1.064μmの波長および8.1mmに拡張されたビーム用に最適化されたサンプルシミュレーションの結果が、
図5に示されている。
図5は、次の設計仕様、すなわち、焦点の数:60、焦点パラメータ:100〜250mW、ウエスト直径(waist diameter):12.5μm、レイリー範囲(焦点深度):920μm、焦点分布:中心間距離:150μm、焦点距離:55mm、波長:1.064μm、入力ビーム直径:8.1mm、の設計仕様用に最適化された、効率と回折次数とを対比したサンプル回折格子シミュレーションである。これは、焦点間での±12%の平均出力変動を示しており、78%の総合的な効率を伴っている。格子の入力ビーム要件を満たすためには、ビーム源は、約4倍拡張され、空間的にフィルターされる必要があるであろう。したがって、このような解決策を実施するには、20Wから40Wに定格化され回折格子中に約5W散逸する、高品質レーザー源を必要とするであろう。空間フィルターは、追加の出力損失、さらにはより大きな出力損失を加える。相対的な焦点一様性は、LCVD成長を支持することがあり得たが、光学系およびレーザーのコストは、$18〜$25/mWで推移し、妥当な予算からかなり外れていた。
【0031】
さらに、焦点間での出力分布の不均等は、繊維を異なる速度で成長させ得る。回折限界の光学系の長いレイリー範囲と組み合わさると、これはおそらく、異なる長さおよび直径に繊維が成長することにもつながるであろう。異なる速度で異なる長さに成長する繊維はおそらく、
図4の7×7アレイ中の繊維により示された不均衡を引き起こしたようである。
図5のようなシミュレーションは、焦点の数が増大するにつれて、焦点間での出力強度の不均等が悪化することを指し示している。
【0032】
本発明によれば、レーザーエミッタそれ自体の物理的複製が開示される。焦点アレイは、高い出力密度および小さなサイズの要件を満たすべきである。かかる要件は、単一源レーザーを用いれば、上述した回折格子手法を含めて、平行化されたビームから出発することにより達成され得る。したがって、複数の独立したレーザーについては、これらのレーザーは、回折限界に近い焦点を生成するのに十分なほど良く平行化されたビームを生成するか、または、ビームが平行化されないならば、レーザー源は、そのイメージが高い出力強度を生成するのに十分なほど点源に近似しなければならない。前者は、例えばレーザー繊維のアレイにより達成することができる。別法として、単一のマイクロエレクトロニクスチップ上の複数のレーザーダイオードが候補となるが、このようなレーザーダイオードは、それらがLCVD用の光学的出力源としての候補になる見込みを無くしてしまう、独自の問題を有し得る。レーザーダイオードは、典型的には、数十度とはいかないまでも、数度程度の大きな発散角度を有する。問題を複雑化することになるが、レーザーダイオードは、数千ではないとしても数百μm
2程度の大きな面積にわたって発光し、空間フィルターにより送達される点源とは程遠い。レーザーダイオードは、理論的にはLCVD目的用に十分な出力を出力することができる。しかしながら、それらのエミッタサイズおよびビーム特性は、レーザー媒体が耐えることができる出力密度により決定づけられる。したがって、大きな面積から発光されたこのような発散ビームを収束させることは、回折ではなく、幾何光学系によって制限される。短い焦点を用いたとしても、レーザー源の大きな開口数は、イメージの出力密度を、回折限界の光学系によって達成可能なものよりかなり低く制限する。
【0033】
クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]は、最近商業的に導入された。QWIレーザーダイオードは、依然として大きな開口数(水平な軸に沿って5°、垂直な軸に沿って22°)を有し、エミッタの面積は数百μm
2であるが、エミッタの材料処方では、散逸を顕著に減少させることにより最大レーザー強度を上昇させる。結果として、焦点での出力密度は、エッチング用途のために十分なほど高い。実際に、この種類のレーザーアレイは、コンピューターから直接印刷する方式[Computer to Plate(CtP)]の工業的印刷産業において隙間市場を素早く見出された。これはまた、それをLCVD用の成立可能な候補にもした。
【0034】
印刷機産業、すなわちコンピューターから直接印刷する方式(CtP)用に開発されたこのようなレーザーダイオードアレイは、約$0.65/mWにおいて多数のビームを送達し、これは回折格子より30〜40倍の改善を示す。Intense,Limitedから入手可能な1つのこのようなレーザー源(バーモジュール)が、
図6に示されている。この装置は64個の個別に制御されるレーザーエミッタを特質とし、110mmF.L.を介して190/230μm二重の間隔幅を有する12.5μm×4.5μm(垂直×水平)ガウス形スポットにイメージ化される。焦点深度(回折限界の光学系におけるレイリー範囲に等価)は、200μm×30μm(垂直×水平)である。各ビーム上限レーザー出力は260mWである。
【0035】
大きな開口数のレーザー源は、ダイオードが極度に高い光学的出力に耐えることを可能とし、さもなくばレーザー媒体を素早く破壊するであろう。したがって、発光窓は、非常に狭くて非常に強力なスリットとすることができ、これは次いで、110mm焦点距離の光学系を介して約1:1にイメージ化される。
【0036】
このレーザーアレイは、830nmにおいて64個の0〜200mWビームを送達する。さらに、本発明によれば回折格子と対照的に、ビームは個別に制御可能であり、例えば、それらの出力が個別に制御可能である。個々のレーザー源は平行化されず、そのため、スポットサイズは、回折ではなく幾何光学系により制限される。この事例において、個々のレーザーダイオードは、垂直な軸に沿って大きな開口数を提供し、水平な軸に沿って狭い開口数を提供する。レーザー源は、110mm焦点距離を介して、190/230μm二重の間隔幅によって均一に間隔を置かれた焦点スポットにイメージ化される。焦点深度は、光学的映像化の結果として異方性で浅い。200μm×30μm(垂直×水平)において、焦点深度は、格子の回折限界の焦点深度より5〜30倍浅い。
【0037】
LCVD用のCtP(例えば、QWI)レーザーアレイを用いることが、科学的な発端であり、浅い焦点深度の使用もそうであった。それは、非常に有益な結果を提供する。
図7に示されたもの等のサンプル炭素繊維は、並行に成長した。
図7は、
図6に記述した装置を用いた、炭素繊維の平行なLCVD成長を示している。図の左が成長中の繊維であり、図の右が得られた直径10〜12μmで約5mmの長さの独立の繊維である。
【0038】
すべての先行事例において、ビームは、長いレイリー範囲を有する回折限界のスポットに収束された。本発明によれば、焦点がCVDを持続するのに十分なほど強力であるだけでなく、浅い被写界深度は、映像面の表と裏の小さな領域中にのみ繊維が成長し得ることを意味する。これは、長い被写界深度が成長領域を最大化するために好まれるという、一般的に許容されているLCVDの慣行に反する。浅い被写界深度の利点は、それが与え得る制御のレベルのため重要である。例えば、1つの繊維が何らかの理由から成長を停止したならば、焦点はこの繊維先端に後退し得る。すべてのその他の成長は停止し、遅れていた繊維が他のものと同じレベルに引き戻された後に再開するであろう。
【0039】
浅い焦点深度の効果は、
図4に示されたMaxwellらが成長させた繊維アレイを、
図7に示された線形アレイと比較したとき実に著しい。回折格子の不均等な焦点間での出力分布は、回折限界の光学系の長い焦点深度と組み合わせて、成長面の位置についてのあらゆる制御を阻んでいる。
【0040】
もう一つの主要な利益は、
図7の繊維を、
図4のMaxwellらが成長させたものと比較したとき自明である。すなわち、繊維が同期的に同じ高さまで成長するという利益である。これは、回折限界の光学系と比較したレーザー源イメージ化の予期せぬ利益であった。というのは、その焦点深度が、等価な回折限界の焦点のレイリー範囲より5〜30倍(それぞれ垂直および水平)浅いためである。繊維が焦点の中および外に素早く成長するため、これは大きな利点であると判明している。これは、繊維成長を追跡すること、さらには、他のすでに成長していた繊維のいずれにも影響することなく、成長を停止した繊維を回収するために引き返すことを可能にする。CtPレーザー・バーのこの独特な特質は、繊維アレイのために将来的な平行LCVD成長を制御する際の主要な利点を代表していると期待される。
【0041】
要約すると、本発明は、(例えば、CVD)前駆体から複数の繊維を形成するための方法および装置であり、該方法および装置は、複数の個々の繊維を成長させるように構成されたリアクターと、複数の独立に制御可能なレーザーとを含み、複数のレーザーのそれぞれのレーザーは、複数の繊維のそれぞれの繊維を成長させる。リアクターおよびレーザーは、レーザー誘起化学気相蒸着に従って繊維を成長させることができる。一実施形態における複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含む。
【0042】
上記の方法、生成物、または方法から得られた生成物のいずれもが、本発明の範囲内に含まれる。
【0043】
本発明は、ロケットノズル、超音波ドーム、ジェットエンジン、発電、高効率内燃機関、および装甲用途等、すべての高温および超高温用途に重要な活用を見出すと期待されている。期待される影響は、経済的なもの、すなわち、改善された性能、より手頃なSiC−SiCコンポジット材料である。
【0044】
I.微小亀裂を方向付けし、微小亀裂性および酸化への免疫性応答を有するマトリックス複合体を与えるための高性能繊維用のナノコーティングシステム
ポリマーマトリックス複合体(PMC)は一般的に、軽量化用途に室温で使用されている。金属マトリックス複合体(MMC)は、同じ目的のために開発され、金属マトリックスと適合するより高い温度に耐えることができる。さらにより高い温度、特に酸化性環境下において、セラミックマトリックス複合体(CMC)は、この30年間、産業界、学界および政府機関における研究者の意欲をかきたててきた。補強材料は、PMCおよびMMCにおいては、CMCとは対照的に、非常に異なる役割を果たしている。前者においては、マトリックスは、荷重を担持している繊維間での延性バインダーとして作用する。最適な特性は、繊維とマトリックスとの間に良好な接着があるとき達成される。後者(CMC)においては、マトリックスは、脆性バインダー材料であり、繊維と同じ組成であることが多く、しかも、モノリシック・セラミックの脆性破損モード特性を阻むために、繊維はマトリックスから分離していなければならない。セラミック・マトリックスは荷重担持に関与するが、繊維の構造的一体性を損なうことなく破損することが可能でなければならない。PMC/MMCとCMCとの挙動のこの差異は、それらの破損モードにおいて自明である。前者は、典型的には層間剥離により破損し、壊れた区域間に一組のもつれた繊維を残す。後者は、典型的にはマトリックス亀裂により破損し、繊維が引き出される。CMCによってこの結果を達成するために、繊維は典型的には、繊維とマトリックスとの間でバリアとして働く材料でコーティングされ、該材料は、小さなせん断を許容するが、繊維とマトリックスとの間で荷重を伝達するのに十分なほど抵抗性な材料である。このコーティング用の材料は、例えば、熱分解性の炭素(PyC)および窒化ホウ素(BN)であってよい。マトリックスの脆性亀裂が繊維を介して伝播するのを阻むことにより、該コーティングは、セラミックを耐損傷性複合体に変え、その靱性を2〜3倍に、その破損ひずみを約50倍に増大させることができる。靱性におけるさらなる50%増加は、コーティングを繊維に対しては強く接着するようにし、マトリックスに対してはあまり接着しないようにすることにより獲得され得るが、この格差的接着性をどのように得るかはこれまで難点であった。
【0045】
要約:
本発明は、必要とされる機能を提供するナノコーティング設計によって、これらの問題に対処する。ナノコーティング材料の特定の組合せは、さらなる利益を提供する。高温条件については、材料損傷の主な源は酸素である。そして、本明細書中で開示されるナノコーティングの特定の組合せは、必要とされる格差的接着性を提供するだけでなく、酸素の存在下において、コーティングのせん断適合性を保存しながら、増強されたレベルの保護を局所的に提供するように変化するする。
【0046】
本発明は、SiCf−SiC CMCが、破損軽減、酸化予防、および自己回復用に設計された、真っ先に挙げるべき微小機械システムであることが、ますます確かになったことを示している。本発明はこれらの機能を増強し、以下でさらに記述する「免疫性応答」をそれらに加える。この新しい機能を用いれば、酸素侵入の局所的な検出が、さらなる移入に対して防禦し、将来的な侵襲に対してより抵抗性な「瘢痕組織」を残すように、資源を結集させることになる。
【0047】
より詳細には、本発明により、従来技術の短所に対処し、さらなる利点が提供され、
本発明は一態様において高性能繊維(HPF)構造であって、該構造は、構造中に配列された複数の繊維と、繊維間に配置されたマトリックスとを含み、多層コーティングが少なくとも一部の繊維の表面に沿って提供されている。多層コーティングは、シート様の強度を有する内層領域と、粒子様の強度を有する外層領域とを含み、マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も外層に沿って伝播してマトリックス中に戻り、それにより亀裂が繊維に接近することを阻むようになっている。
【0048】
内層領域は黒鉛状炭素を含むことができ、外層領域は熱分解性炭素を含むことができる。あるいは、内層領域は六方晶窒化ホウ素(hexagonal B−nitride)を含むことができ、外層領域は乱層構造窒化ホウ素(turbostatic B−nitride)を含むことができる。
【0049】
有利なことに、前記構造は、高密度微小亀裂性効果をマトリックス内に誘起し、亀裂の伝播から繊維を実質的に遮断する。
【0050】
別の実施形態において、内層領域は、繊維用の酸素バリアとして作用し、酸素にさらされた際、外層領域の少なくとも一部が内層領域に類似した酸素バリアに変質し、それにより繊維により大きな保護を提供する。
【0051】
詳細な説明:
いくつかの論題が、ここで、本発明をさらに規定するために記述される。
【0052】
界面相:
SiCf−SiC CMC中で繊維と周囲のマトリックスとの間の界面に配置された材料の薄片(sliver)は、「界面相」と呼ばれている。その単純な形態において、界面相は、例えば、熱分解性炭素(PyC)または六方晶窒化ホウ素(hBN)のいずれかの薄いコーティングであり得る。これらの材料は同数の電子を有し、類似した結晶性構造を示す。それらの特性は、表1に要約されている。より精巧な型の界面相は、PyCまたはhBNおよびSiCの交互に重なった層から作製することができる。
【0054】
表1は、上位3位までの界面相候補材料の層内的機械的特性を示している。注記:基面に垂直方向のhBNの熱膨張率(CTE)は、1500°Kに至るまで負に留まる。記号://層内的、+垂直方向、=層間的。
【0055】
構造的特性:
界面相は、CMCの重量のわずか1%のみに相当し得るが、それは、その構造的靱性のほとんどすべてを複合体に授け得る。ここで論述する条件下では、界面相は、極限引張り応力の4倍および破損ひずみの50倍もの増大を説明し得る。
【0056】
どのようにして構造的エンジニアリングのこのような芸当が可能にさえなっているか、およびどのようにその利益を最大化するかは、この20年間で初めて明らかになった。一連の論説において、Droillardら[非特許文献10−12]は、どのように界面相のミクロ的作用が大きなマクロ的効果を及ぼし得るかを示した。例えば、界面相がないと、CMCは、モノリシック・セラミックが受けるのと同じ壊滅的な破損を受ける恐れがある。亀裂が展開したらすぐに、それは、マトリックスおよび繊維を介して同じように伝播し、
図8に示されたような、滑らかな破壊表面を残す[非特許文献13]。ここで、
図8には、界面相を有さないSiCf−SiC CMC破壊表面の破面解析を示している。
【0057】
図9に示された二重PyC/SiC層等の良く設計された界面相は、ひずみエネルギー放出機構を提供でき、該機構により、マトリックス微小亀裂(「μ亀裂」)を界面相に中へ分岐させる。
図9は、CMC破損機構における弱い繊維−界面相接着の効果の図示である。マトリックス中に展開した伸長性μ亀裂は、界面相(この場合、PyCと2つのSiCとの3つの交互に重なった層)で止められる。外側のPyC層中にせん断亀裂として伝播した後、界面相が張力により破断して、最も内側のPyC層を残し、繊維の表面に沿ってせん断亀裂を伝播させる[非特許文献11]。一旦そこに着いたら、μ亀裂は、せん断および張力それぞれにより、それらの発生源から、界面相に沿っておよび界面相を横切って、繊維の表面に到達するまで伝播していく。一旦繊維表面に着いたら、亀裂はその上を進行し続け、繊維上の引張り荷重をそれが破断するまで上昇させる。壊れた複合体は、
図10に示されるように比較的滑らかな開裂マトリックスバックグラウンド上に、大きな集団の「引き出された」繊維および「ラビットホール」を現し、Hi−Nicalon SiC繊維およびPIP浸潤したマトリックス上にBN界面相を有するSiCf−SiC CMC破壊表面の破面解析を示している[非特許文献13]。前記破壊は、マトリックス微小亀裂によって予想される、引き出された繊維および「ラビットホール」のパターンを現している。この機構を用いれば、界面相は、ひずみエネルギーを拡散するための手段を提供し、もって引張り強度を2〜3倍増大させ、破断ひずみをモノリシック・セラミックの50倍超に増大させる。
【0058】
Droillardら[非特許文献11]は、引張り強度のさらなる50%改善の余地が依然としてあることを示した。彼らは、(
図9におけるような)繊維の表面に到達するのとは対照的に、(
図11におけるような)界面相層内に残留しているμ亀裂伝播の決定的な重要性を確認した。
図11は、繊維への界面相の最も内側の層の強い接着の効果の図示である。マトリックスμ亀裂は、次のSiC層が張力によりひび割れし、亀裂がせん断によりさらに伝播することが可能になるまで、界面相の最も外側のPyC層中に進路を逸らされる。亀裂伝播は、それが最も内側のPyC層に到達するまで継続し、その中で伝播し続ける([非特許文献11]より)。
【0059】
最も内側の界面相層と繊維との間での強い接着は、この挙動を生成する。μ亀裂が界面相中を伝播するにつれて、それらは、マトリックス中の元々の応力集中を緩和させ、新しいマトリックスμ亀裂が展開してサイクルが新たに開始するまで、該応力集中を繊維に沿って再分配する。この挙動は、セラミック破損パターンを劇的に転換させ、繊維の構造的一体性を保存しながら、繊維の経路に沿って分配された莫大な集団の新しいマトリックスμ亀裂を作り出す。DroillardおよびLamon[非特許文献12]は、繊維に沿ったμ亀裂の平均分布が300cm
−1から1000cm
−1の間であると見積もっており、このようにCMCの体積の隅々にひずみエネルギーを拡散させる。コンポジットの破壊は、弱く接着する界面相(
図9および
図10)におけるのと同じ引き出された繊維およびラビットホールを現すが、開裂マトリックス表面は高度に不均一である。この改質された破損モードは、より高いエネルギー吸収モード、したがって引張り強度の増加を表している。この望ましい反応は、一般に「高密度微小亀裂」と呼称され得る。
【0060】
Naslainら[非特許文献14]は、「[微小]機械的フューズ」としての界面相の機能に言及している。これは実際、界面相の主な機能が、一旦μ亀裂が繊維のすぐ近くまで展開した場合のマトリックスのあらゆる局所的な過荷重を阻むことであるという意味で、良好な類推である。興味深いことに、界面相層の厚さは、それらの微小機械的挙動に関して重要になるようには見えない。厚い層は、界面接合が同じであることを条件にして、薄層と同じように挙動するように見える[非特許文献12]。
図12は、すべての界面相が媒介する破損モードの比較概要を提供している。
図12は、界面相を有さないSiCf−SiC CMCの引張り曲線、弱く接合された界面相を有するSiCf−SiC CMCの引張り曲線、および強く接合された界面相を有するSiCf−SiC CMCの引張り曲線、ならびに対応する破壊パターン([非特許文献10]および[非特許文献11]から構成した)を示している。
【0061】
繊維と界面相の最も内側の層との間に強い接着を生成するために、Droillardら[非特許文献11]は、非開示の独自開発の処理を繊維に適用した。その他の公開報告に基づくと、この処理は、糊抜き(de−sizing)、及びそれに引き続くSiCf表面の塩素エッチングであるように見える[非特許文献16]。著者自身の言うところによると、この処理は、公開された写真に基づくと100nmから150nmの間であると見積もられる、ある表面粗さを繊維の表面上に生成する。
【0062】
本発明者の繊維製造に関連して、生産中に繊維粗さを所望のRMSに調節し、それにより、塩素エッチングの必要性およびこのプロセスに通常付随する繊維損傷を取り除くことができる[非特許文献17]。さらに、界面相半径に沿ったせん断強度勾配は、半径が増大するにつれて、完全結晶化から乱層構造へとBNまたはPyCの結晶化の程度を変化させることにより達成され得る。BNコーティングの場合、このアイデアは、以下でさらに記述する熱力学的な意味合いの観点におおいて、その完全な潜在能力を明らかにするだろう。
【0063】
酸化性特性:
Cf−SiC CMCの酸化機構および速度論は、Naslainら[非特許文献18]により開示されており、そこからは、
図13に再現される亀裂誘起酸化損傷の概略図を抽出できる。これは、Cf−SiC CMC中での亀裂誘起酸化損傷の説明図であり、(i)SiC−微小亀裂に沿った拡散、(ii)炭素相の酸化により創出された細孔中での拡散、(iii)反応部位への炭素表面での酸素の拡散、(iv)表面反応、(v)SiC−微小亀裂壁上でのシリカの成長、を含む[非特許文献18]。
【0064】
あるいは、参考資料[非特許文献19]は、SiCf−SiC CMC中での各材料の酸化機構およびそれらの共酸化の包括的な検討を提供している。
図13は炭素繊維強化CMCに関しているが、この図は、亀裂集団が大きくなるほど酸化損傷のリスクが大きくなるという、高密度微小亀裂に関して最も決定的な事項を指摘している。したがって、より大きな複合体強度のために支払う対価は、酸化損傷へのより大きな性向であるように見えるであろう。本発明は、局所的な免疫応答が身体の隅々にわたって異物侵入を防止するのと同じように、この性向を逆転させることができる、ナノコーティング構造を提案している。
【0065】
この概要の目的のために、SiCおよびPyCの枢要な酸化特性、次いでhBNに着目した熱力学的な特性が論述される。
【0066】
SiCの酸化:
SiCは、酸化に対する主たるバリアであり得る。SiC酸化は最初、炭素(COまたはCO
2ガスとして放出される)減衰及び、酸化が完了したと仮定すると、SiO
2層の形成から進行し、該SiO
2層は1600℃(シリカの融点付近)までは固体のままである。DealおよびGrove[非特許文献22]。CMCについては、表面酸化はまた、ある自己回復特性も付与し、該特性はケイ素のモル体積が酸化の際に2倍以上になることに大部分起因する(非特許文献14&
図13)。一旦、固体SiO
2シールドが形成されたら、酸化は、SiO
2中へのイオン状酸素の拡散および、SiO
2の外へのCOの拡散により進行する。したがって、酸化プロセスは限定された物質輸送であり、酸化物層厚さは、典型的には曝露時間の平方根に比例して増大する。高温および低い酸素分圧における場合のように、酸化が不完全な場合のみ、該反応が律速となり、ケイ素が時間に伴って、揮発性の亜酸化ケイ素[SiO(g)]として直線的に減衰する[非特許文献20][非特許文献21]。
【0067】
PyCの酸化:
完全結晶化黒鉛は3650℃まで熱安定であるが、空気中で400℃において酸化を開始する。それは、温度に依存した異方酸化性を示し、低温においては基面の両端間を横切るよりも、端部に沿う方がはるかに速く進行する[非特許文献26]。温度が増大するにつれて、垂直方向のエッチングが面内方向のものに追いついていき、750〜800℃範囲で等しくなる。PyCが乱層構造黒鉛であるため、それは、高レベルのナノ多孔度、したがって酸素に対するより大きな反応度を示す。Delcampら[非特許文献16]は、SiC繊維の塩素エッチングにより得られたナノ多孔質PyCを文書化しており、該ナノ多孔質PyCは約1000m
2/gおよび1500m
2/gの圧倒的な比表面積(酸素に対して開放されている)を有しており、その結果、酸化が225℃程度の低い温度で開始する。炭素が酸化するとき、それはCOまたはCO
2ガスとして減衰し、したがって酸化が律速とされ、炭素減衰が時間に伴って直線的に進行する。これは、酸化性環境下で炭素界面相または繊維を用いることに対する主要な欠点である。
【0068】
hBNの酸化:
hBNは、酸化性環境下で高温SiCf−SiC CMC用に選択される界面相材料になっている。hBNは、高温においてさえも高い伝熱性(層内的および垂直的のそれぞれで600W/m Kおよび30W/m K)を有し、高い電気抵抗率、および高レベルの化学的不活性性を有する。酸素の不在下では、hBNは、約3000℃、100kPaで昇華して分解すると考えられているが、それが純粋な窒素雰囲気下で大気圧においては溶融し得るとの指摘がある[非特許文献27]。
【0069】
完全結晶化hBNは、乾燥空気中で700〜800℃において酸化を開始する[非特許文献24]。黒鉛と同様に、酸化は、基面に沿っての方が、垂直方向よりもはるかに速く進行し[非特許文献25]、したがって、乱層構造BN(tBN)は、約400℃から始まる多孔度に依存した酸化温度も有する。黒鉛とhBNとが類似していることを前提とすれば、類似した比面積を予想することが正当である。しかしながら、黒鉛と対照的に、酸化によりボリア(B
2O
3)層が形成され、該層は410℃から1200℃の間で液体のままである[非特許文献28]。液体ボリアは、CMCとの関連で数多くの魅力的な特性を有する。すなわち、それは非常に低い蒸気圧力(20℃での約0Paから1200℃での1.5kPaまで上昇する[非特許文献29])を有し、極度に粘性の流体(600℃で480Pa・s[非特許文献30]からその凝固点付近での約160×10
3Pa・sまで上昇する)であり、シリカ中に容易に拡散して、最高のシリケートガラス転移温度を示すボロシリケートガラス[別名Pyrex(商標)]を形成する。結果として、ボリア(または、溶液中の場合のボロシリケート)は、酸化損傷を遅延させるためには、炭素よりはるかに良好な解決策を示す。しかしながら、hBNの酸化は、水蒸気の存在下、特に低濃度(約20ppm)においては大きく加速されることに留意すべきである[非特許文献18][非特許文献25][非特許文献31〜33]。
【0070】
hBN結晶化の熱力学:
完全結晶化hBN合成は、約2000℃の高温を必要とする。Le Galletら[非特許文献2]ならびにその他の著者[非特許文献34][非特許文献35][非特許文献36]は、1000℃から1700℃の間の温度での後処理としての熱処理を化学蒸着されたtBN界面相に施用して、それらを緻密なhBNに変質させた。実際、CVD温度が2000℃に接近するにつれて、堆積されたBNは完全な密度および化学量論に接近する。すべての実用的な目的に関して、化学量論は、1800〜2000℃の範囲で達成されるように見える。堆積密度はまた、前駆体圧力に非常に鋭敏であるようにも見える。1400から2000℃の間の温度において1300Pa未満で堆積されたBNは、十分に緻密である。
【0071】
上述した通り、BN密度は耐酸化性に大きな影響を与え、湿分の存在下でさえもそうである。Matsuda[非特許文献33]により報告された熱重量分析は、1400℃から2000℃の間で650Paにおいて堆積されたBN、すなわち完全結晶化hBNは、800℃に至るまでの温度において本質的に安定であることを示している。提案する「免疫性系」に関連して、tBNの結晶化における酸素の影響は、特に魅力的な特性を提供する。少量だとしても、ボリア(B
2O
3)は、tBNからhBNへの変質温度を、2000℃から1450℃まで減少させる[非特許文献37]。
【0072】
本発明は高性能繊維(HPF)のためのナノコーティングのシステムに関し、該システムは、(1)セラミックマトリックス複合体の靱性を最適化し、(2)セラミックマトリックス複合材料に酸化損傷に対する反応性を与え、該反応性は免疫応答と同種であり、資源を局所的に動員することにより酸素侵入と戦い、さらなる酸化に対する保護を構築する。
【0073】
界面相設計−SiCf−SiC CMCのための免疫系
本発明によれば、下記の特性を有する新規な界面相システムが開示されている:
・繊維、例えばSiC繊維に強く接着した内側の界面相層、
・界面相半径に沿って低下していくせん断強度,
・免疫系のものと同種の酸化への応答。
【0074】
最初の2つの特性は、最も内側の半径における完全結晶化hBNから最も外側の半径におけるtBNまでの結晶化勾配を有するBN層を提供することにより、本発明に従って獲得される。これはまた、BNではなく、最も内側の完全結晶化黒鉛状炭素から最も外側のPyCまでの結晶化勾配を有する炭素によって獲得され得る。
【0075】
hBNは、特にその基面の縁部に沿って酸化を受けやすく、tBNではもっとそうであり、これがそれを事実上の酸素ナノセンサーにする。これらの縁部は、繊維の端部がマトリックスから表面に出てくる場合、および表面μ亀裂の場合には、CMCの端部においてむき出しになる。したがって、酸素移入の効果を最小化するためには、本発明者らは、BN層の厚さを、せん断および繊維粗さ要件と矛盾させないで最小化することを必要とする。
【0076】
たとえ少量のボリア(tBNの酸化中に作り出される)であってもナノ触媒として挙動し得、hBNへの周囲のtBNの低温結晶化を誘発する。局所化された結晶化は、酸素にさらされる比表面積が事実上残っておらず、したがってより大きな酸化温度および、さらなる酸化に対するより大きな抵抗性を有する、「瘢痕組織」(”scar tissue”)を形成すると予想される。
【0077】
本発明によれば、連続ナノコーティング、例えば25〜50nmの厚さの連続ナノコーティングが提供され、最も内側の層は完全結晶化hBNを含み、最も外側はtBNであり、酸化損傷に対する組み込み型防御機構を提供する一方で、マクロな亀裂よりマトリックスμ亀裂を促進するように働き得るようになっている。提案された界面相システムが、酸素に対する脆弱性に対抗する一方で、μ亀裂挙動はコンポジット靱性を増大させる。表面μ亀裂が展開して、酸素が中に拡散される場合には、曝露されたtBNの外層は、ボリアの影響下でhBNに変質する。一旦この変質が起きたら、界面相の酸化が開始する温度が400℃上昇し、hBN「瘢痕組織」の形成が完了することになり、該「瘢痕組織」はさらなる酸素移入を防止し、非亀裂区域を細分化して元々のものと同形の小型複合体にする。増大した官能性のため、これらの層は、各対の間に挿置されたSiCの層を伴って繰り返され得る。
図14は、提案されるCMCの免疫性応答に関するこの予想された筋書きを要約している。
図14は、提案される免疫性系機能の例示的な応答を示している。すなわち、A:界面相システムが、マクロな亀裂よりも高密度マトリックスμ亀裂を促進する。B、C:表面マトリックスμ亀裂の拡大を増大させる。D:酸素への曝露前の界面相は、tBNの保護膜を有するhBNの層からなる。E:酸素に曝露した際、作り出された酸化ホウ素の画分は、局所的にtBNをhBNに変質させる触媒として作用し、もって酸化温度を400℃上昇させ、非亀裂区域を細分化して元々のものと同形な小型複合体にする。一方、前記亀裂は、シリケート/ボロシリケートガラスで満たされる傾向がある。
【0078】
本発明は、高温構造コンポーネントに利権を有するすべての関係者に興味深いものであろう。酸化しやすいと予想されるコンポーネントについては、すべての内燃機関が含まれ、ジェットエンジンおよびタービン発電においては、具体的に極めて近い将来の差し迫った利害関係がある。枢要な米国での主要な利害関係者は、航空機産業およびその他の高性能エンジン製造業者である。その他の主要な予測される市場には原子力産業が含まれる。該産業においては、先端セラミックマトリックス複合体が燃料棒およびボックス用のジルカロイに対してより安全な代替品(もっとも、現在のところより高価)であると確認されている(SiC−SiCセラミックマトリックス複合体は、損傷に耐え、Fukishimaの事故で生き残ることができたかもしれない)。
【0079】
より詳細には、一態様における本発明は高性能繊維(HPF)構造であって、該構造は、該構造中に配列された複数の繊維と、繊維間に配置されたマトリックスとを含み、該構造中において多層コーティングが少なくとも一部の繊維の表面に沿って提供されている。該多層コーティングは、シート様の強度を有する内層領域と、粒子様の強度を有する外層領域とを含み、マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も、外層に沿って伝播してマトリックス中に戻り、それにより亀裂が繊維に接近することを阻むようになっている。
【0080】
繊維は、複数の配向、例えば1つの層が長手方向で、次の層が横断する方向に、交互に重なって整列され得、あるいは、繊維は、2次元パターンにして織り込まれ得、または3次元「レンガ」状に編み組まれ得る。
【0081】
内層領域は黒鉛状炭素を含み得、外層領域は熱分解性炭素を含み得;あるいは、内層領域は六方晶窒化ホウ素を含み得、外層領域は乱層構造窒化ホウ素を含み得る。
【0082】
有利なことに、前記構造は、高密度微小亀裂性効果をマトリックス内に誘起し、亀裂の伝播から繊維を実質的に遮断し、靱性を増大させる。
【0083】
別の実施形態において、内層領域は、繊維の酸素バリアとして作用し、酸素に曝露された際、外層領域の少なくとも一部が内層領域に類似した酸素バリアに変質し、それにより繊維により大きな保護を提供する。
【0084】
独特な特質は、次のものを含む:(1)コーティング層内でマトリックス微小亀裂を局所的に逸らせ、繊維に沿って進行するように強制し、それにより、再びひび割れて新たにサイクルが開始する時間までマトリックス中の応力の位置を変位させる、ナノコーティングシステム。(2)高温で酸素に曝露されたときに別の種類に変質し、これにより、生物体の免疫系と同類の様式で、酸化損傷に対して資源を局所的に動員する、一種のナノコーティングシステム。
【0085】
本発明の利点は、次のものを含む:(1)ナノコーティングシステムが、設計されたマトリックスの高密度微小亀裂を誘起し、それにより靱性および破損ひずみを増大させることにより、セラミックマトリックス複合体のエネルギー吸収能力を最大化する。(2)ナノコーティングシステムが、自己回復を提供するだけでなく、酸化損傷に対するさらなる防御も構築する。微小亀裂間の構造は、瘢痕組織を中間に有する元々の複合体と同形である。これにより、酸化性環境下で高温において動作したときに、より高い抵抗性を有するCMCが提供される。
【0086】
非特許文献2〜38のそれぞれは、その全体を参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
III.セラミックマトリックス複合材料中の炭化ケイ素繊維の非架橋性窒化ホウ素によるその場コーティング
セラミックマトリックス複合材料から形成された高性能繊維(HPF)は、軍事および航空宇宙(ターボ機械、ロケット、先端構造)、自動車、生体医療、エネルギー、および並外れた強度、剛性、耐熱性、および/または耐薬品性の先端材料を必要とするその他の用途といった、数多くの特殊用途における使用を拡張するために提案されている。HPFは、既存の金属フィラメントまたは炭素、ガラス、植物性もしくは鉱物繊維により満たされ得ない、極限的材料特性の組合せが必要とされるときに希求される。HPFシステムは一般に、「マトリックス」中で間隔を置かれた複数のコーティング済み繊維を含む。
【0088】
靱性および耐酸化性のために、炭化ケイ素繊維(SiCf)強化炭化ケイ素マトリックス(SiCm)複合体は、繊維とマトリックスとの間に界面相材料の層を有し得る。1つの層材料は、乱層構造(tBN)または完全結晶化六方晶(hBN)の窒化ホウ素(BN)であってよい。SiCf加工の制限のため、必要とされる界面相コーティングは、一旦それらが予備形成されて糊抜きされ、浸潤する準備ができてから繊維に施用され得る。しかしながら、この方法は繊維間の接触をもたらし、それが繊維「架橋」として知られる拡散溶接(diffusion welds)を起こす。この拡散溶接は、得られるコンポジットの機械的靱性を顕著に低減させる。本発明は架橋形成を予防するためのプロセスを修正し、コーティングプロセス中に繊維が接触しないことを確実にしている。したがって、得られた複合材料特性は、繊維の荷重担持構造中の弱い箇所を取り除くことにより改善されている。
【0089】
SiCf−SiC複合材料は、高温において、荷重担持抵抗性及び酸化抵抗性になるように設計されている。セラミック構成材料はもともと脆性であるが、該複合体は、その構造のミクロ機械的設計の結果としての強度および靱性を示す。該ミクロ機械的設計では、過荷重および応力集中を逸らせることで、エネルギー吸収を改善している。これは、繊維とマトリックスとの間に配置された、界面相と呼ばれる材料により達成され得る。
【0090】
この界面相は、繊維に沿ってせん断されてマトリックスの破壊を予防する、微小機械的フューズの役割を果たし得る。しかしながら、その機能を効果的に果たすことを可能にするためには、界面相は繊維に沿って連続しているべきである。現状の製造技術では、繊維が直接接触しているため、この連続性を得ることができない。利用できる予備コーティングされたSiCfがなければ、次善の解決策は、コーティング中の繊維接触を阻むことである。これが本発明の達成したことであり、それにより複合体の機械的特性を向上させるものである。
【0091】
SiC繊維のその場コーティング:
SiC繊維用には、その場コーティングプロセスは、より良好な代替を欠くため、工業的用途で普及しているように見える。むき出しのSiCf繊維束(tow)の取扱及び加工の困難に直面して、産業は、「プリフォーム」と呼ばれる方法、すなわち、最終的な織り込み・編み組みに至るまで、糊付け処理された繊維を用いて加工することを選んだ。一旦繊維が配置されたら、それらは、(典型的には600℃で12時間加熱することにより)糊抜きされ、次いで所定位置でコーティングされ、最後にマトリックスを浸潤される。
【0092】
Hyper−Therm HTC(Huntington Beach、CA)は、例えば、コーティング織物およびプリフォームから業務を手掛け始めた。
図15は、設立趣意書から抜き出されている[非特許文献38]。
図15は、SiC繊維の多層その場コーティングの連続拡大図を示している(出典:Hyper−Therm HTC[非特許文献38])。この図は、Hyper−Thermが多層コーティングを使って実現することを可能にしていた、絶妙なレベルの制御を示している。しかしながら、この写真が同様に示しているものは、その場コーティングの直接的な結果である繊維間の接触箇所であり、糊抜きされた繊維は、ここで直接接触した後、コーティングプロセス中または高温使用中に接合可能になっている。このような箇所は、
図1において黄色の円によって同定されており、複合体強度および靱性に高度に有害な繊維「架橋」起こすことが知られている。そうではなくて、
図16に示された、コーティング済み繊維(仮想)構成を得ることが望まれる。
図16では、その場コーティングの例示的なSEMであり、繊維が明瞭に分離されてそれにより架橋形成を予防している、その場コーティングの所望の結果を示している。
【0093】
糊抜き後に繊維を離れたままにしておくための手段がないことを前提にすると、本発明の出現までは、これを得ることは困難または不可能であっただろう。
【0094】
その場コーティングの一手法が、Delcampらにより最近提案された[非特許文献16]。該手法は、繊維の材料からコーティングを作り出す工程からなり、SiCf表面からケイ素を選択的にエッチングして、これにより(この時点ではより小さな直径の)コアSiCfを遮断する炭素の層を作り出す。これは、Tyranno ZMI(UBE Industries)またはNicalon NLM−202(Nippon Carbon Corp.)SiCfプリフォーム(布、組みひも)を550〜675℃の温度の塩素ガスに曝露することにより達成された。この方法により得られたサンプルコーティングが
図17に示されている。600℃での3時間の塩素−エッチング後のサンプルSiC繊維であり、左がTyranno ZMI、右がNicalon NLM−202である[非特許文献16]。
【0095】
得られた炭素コーティングは、かなり均一なように見える。しかしながら、より厳密な検査により、それらがナノ多孔質(細孔サイズ<2nm)であることが示された。後の熱重量分析により、この多孔度が、完全結晶化炭素よりはるかに低い温度で炭素の酸化を起こすことを示した。すなわち、黒鉛について400℃に対して225℃である。
【0096】
この所見は、ケイ素をエッチングして除くことにより作り出された炭素残余を、CMC界面相材料として使用することを本質的に不適格としている。それはまた、SiOC繊維(Tyranno ZMI)上のナノ多孔質炭素層を、アルミニウムオキシ−ニトリド(Al−O−N)またはアルミニウムボロオキシニトリド(Al−B−O−N)[非特許文献39]のいずれかによって置換する、同じ研究チーム[非特許文献16]による追跡作業を正当化している。これは、プリフォームに三塩化アルミニウム(AlCl
3)、またはホウ酸(B(OH)
3)およびAlCl
3のそれぞれを連続して、含浸し、それをアンモニア雰囲気下で950〜1000℃において反応させることにより達成された。炭素消費の機構はまったく明瞭になっていないが、このグループは、炭素がシアン化水素ガス(HCN)としてガス形態で排除されることを示唆している。
図18には、SEM検査の下での研磨済み断面の高解像度SEMが示され、該断面はAl−ONの上塗層を有するナノ多孔質炭素の残留層を示している。出典:[非特許文献39]。得られたCMC構造は、
図16中の所望のコーティングの架空SEMに非常に近いように見える。しかしながら、繊維の軸に沿った破壊表面の厳密な検査によれば、不完全な被包を明らかにしており、著者はAlCl
3溶液による不完全な含浸によるものと考えている。
図19は、繊維に平行な破壊表面に沿った同じCMCミクロ構造の図であり、コーティングの不完全な被包を示している。出典:[非特許文献39]
【0097】
しかしながら、
図19で観察されている均等に間隔を置かれた破壊のパターンもまた、界面相、繊維、およびマトリックスの間での不合致の熱膨張と矛盾しないことに留意すべきである。
【0098】
Delcampらにより[非特許文献16]および[非特許文献36]において提案された手法は、その場コーティング用に有望であり得る。実際、該炭素置換ステップは、Shenらによる、初期の研究[非特許文献40]に非常に類似している。以下でさらに記述するが、Shenらは、それを使用してSiCf上にBNをコーティングした。もっとも、Shenらの手法はその場プロセス用に開発されたものではないし、ナノ多孔質炭素の層を作り出さなかった。しかしながら、Shenら[非特許文献40]は、プロセスが誘起した繊維への損傷の広範なレベルを指摘していることに留意すべきである。同じ結論は、Delcampらにより[非特許文献39]において提案された手法にも当てはまり得るが、得られたCMCについての機械的試験が報告されていない。
【0099】
SiC繊維束(tow)のスプール間のコーティングにおける制約:
本発明者らはここで、コーティング装置を連続的に通過するときに,フィラメントおよび繊維束(tow)に均一なコーティングを施用する、独立型のプロセスに言及する。この種類のユニットプロセスは、複合体製造での利用前に繊維をコーティングすることになるため、本質的に魅力的である。NASAを含めた数多くの使用者が、予備コーティングされたSiC繊維束(tow)が市販されるのを目にしたいと要望してきた。この需要は珍しくない。予備コーティングされた繊維は、織物産業において、また、Kevlar(商標)、ガラス、および炭素繊維等の特殊繊維の加工においてさえも、一般的に使用されている。均一で接着性の皮膜を生成するために、繊維は、典型的には、コーティングされる前に伸展されて糊抜きされる(必ずしもこの順序は必須ではない)。コーティング後、伸展したフィラメントは、繊維束(tow)に再グループ化されて再糊付け処理される(やはり必ずしもこの順序ではない)。これは当然ながら、糊付け剤は溶解しても元に戻り得るし、繊維束(tow)は伸展を受けても損傷がないままであり得ることを前提としている。
【0100】
SiCfの繊維束(tow)伸展および糊抜きを伴う従来技術:
【0101】
その他の特殊繊維の連続的な繊維束(tow)コーティング前に反復する必要があるステップは、次の通りである:
− 前記繊維束(tow)が事前に有していたどんな捩れをも除去する工程。
− 糊付け剤を焼却または蒸発させる工程。
− コーティング中の繊維凝集を予防して均一な皮膜の分布を促進するために、コーティング前に繊維束(tow)を伸展する工程。
− 繊維束(tow)をコーティングする工程。
− 繊維束(tow)を収束しなおし、糊付け剤を施用して、巻き取る前に必要ならばねじっておく工程。
【0102】
この手順を商業的なSiCf繊維束(tow)に施用する試行は、これまで失敗してきたように思われる[非特許文献41]。この失敗の理由は、特定の熟練者によれば数多くあり、この方法によるコーティングを試みることを「存在する最も困難な問題の1つ」にしている[非特許文献41]。糊付け剤の除去は繊維強度の劇的な低減をもたらし、このことが、それらがコーティング段階に到達する前でさえ、最小限の荷重の下でさえ、「破裂する」原因となっている。Wesson[非特許文献41]は、糊付け剤はフィラメント間で潤滑剤として作用するが、フィラメントの荷重分布を均一化もすることを報告している。糊付け剤が除去されたとき、繊維束(tow)中のフィラメント間の磨滅が、ネッキング損傷(necking damage)を引き起こし、総合的な強度を低下させる。さらに、荷重差は、糊付け剤が消失するにつれてフィラメント間で増大する。これは、すでに損傷していたフィラメントを悪化させ、糊付け剤除去炉中にまだある繊維束(tow)の壊滅的な破損を起こす。Wesson[非特許文献41]により報告された実験の総合的な結論によれば、糊付け剤が除去され伸展段階に到達する前に繊維が壊滅的に破損するか、あるいは、糊付け剤が一部のみ除去されてフィラメントが凝集し、伸展工程中にエアナイフ(air knife)の下で破損するか、のいずれかである。どちらにしても、糊付け剤除去は、それがもたらす利益よりはるかに大きい損傷を引き起こす加工段階であるように見える。代替法として、繊維束(tow)がねじれ無しで入手できる場合、およびそれらが糊付け剤無しで入手できる場合には、段階1および段階2はそれぞれ、省略できる。
【0103】
ねじられていない未糊付け処理のSiCf繊維束(tow)を得ることもまた、調査されてきた。Wesson[非特許文献41]とCurtisおよびSpilker[非特許文献42]の両方が、このようなSiCf繊維束(tow)はうまく取り扱えないことを報告している。捻られていない未糊付け処理の繊維束(tow)が最終使用プロセスに到達できると仮定しても、それらによってプリフォームを織り込む、または製造することは、フィラメント間での自ら招いた損傷のためほとんど不可能であろう。より重要なことに、未糊付け処理のまたは捻られていない繊維束(tow)では、巻き取った繊維束を解くことが極度に困難である。まだスプール上にある繊維束(tow)の部分からのフィラメントは、巻かれていない区域に絡みついて、クモの巣状構造を作り出し、巻き取った繊維束を解くにつれて、ますます悪化する。Wesson[非特許文献41]は独立に、未糊付け処理の炭素繊維束(tow)を巻き取ろうとした経験に基づいて同意見であるとしている。わずかな未糊付け処理のフィラメントが巻き取り中に壊れ、近づいてくる繊維束(tow)に再度巻きついて絡みつき、最終的には、Wessonが「レンガ」という言葉で描写した、もつれたフィラメントでできた固体ブロックを形成する傾向がある。1つの結論は、コーティング段階が、繊維束(tow)上へのCVD等の拡散駆動プロセスによって行われる場合、それは、フィラメントが繊維束(tow)に束ねられ、糊付け処理され、巻き取られる前に生じさせなければならないということである。SiCf繊維束(tow)を糊抜きまたは伸展することは、あまりに大きなプロセス誘起損傷を引き起こすように見えるので、非実用的である。次に提供するSiCfの摩擦学的挙動の新たな最初の分析は、Wesson[非特許文献41]により報告された実験の発見を支持している。
【0104】
繊維束(tow)伸展を伴わない従来技術:
SiCf繊維束(tow)を連続的にCVDコーティングする試みが公表されたのはかなり最近であり(2000および2003)、それぞれドイツ[非特許文献43]および日本[非特許文献44]を起源とする。両方とも糊抜きを伴うが、繊維束(tow)伸展を使用することはない。日本の論文は特に、繊維コーティングプロセスにおける摩擦学的な制約を非常によく明らかにしている。Suzukiら[非特許文献44]は実際、伸展および糊抜きを伴わないSiC紡糸のスプール間でバッチコーティングの試行を報告している。実験はCVDによりBNをSiCf上に堆積することを目的としており、糊抜きすることなく、1580℃および1.3kPaにおいて、BCl
3、NH
3およびArを含有する混合体からTyranno SA繊維上へCVDが行われ、繊維に接着せず剥離するBNフィルムを初めてもたらした。したがって、堆積システムは、
図20に示される糊抜き炉を含むように修正されていた。ここで、
図20は、Suzukiら[非特許文献44]が用いた連続的な紡糸コーティング・リアクター(紡糸速度4.5mm/s)の概略図である。
【0105】
最初に800℃で糊抜きすることにより、コーティングは繊維に接着性になった。興味深いことに、著者は、糊抜き工程を追加した後に紡糸張力を急激に低減しなければならないことを認めている。報告された紡糸張力は、各フィラメントが直径7.5ミクロンの1600フィラメント繊維束(tow)ではわずかに100mNだった。これは、Wesson[非特許文献41]によりなされた摩擦学的議論および本明細書の他の場所で提供された新たな分析を確かに確証している。著者によれば紡糸張力の効果は、フィラメント束のゆるみをもたらし、それにより、紡糸間の拡散を改善して200〜500nm範囲のより均一なコーティング厚さを生じさせた。しかし、著者は、紡糸中の最も内側の繊維が束になると不均等なコーティングをもたらすことも認めている。フィラメントの張力が試験され、それらの予備コーティング引張り強度の90%を保持しているように見える。Suzukiら[非特許文献44]の結果は、独立型のスプール間の繊維束(tow)コーティングプロセスについて述べられた目的に近づいているように見える。
【0106】
Hopfeら[特許文献1]は、繊維をコーティングするためのLCVDの使用を促進している。しかしながら、Hopfeらは、CVDリアクターに入る前に繊維束(tow)が伸展して平坦なリボン状になると仮定している。しかしながら、どのように繊維束(tow)このような構成に配置されることになるかに関しては言及されていない。
【0107】
2008年に、ジェネラル・エレクトリック社(GE−アビエーション)[General Electric(GE−Aviation)は、「シリコンカーバイド(SiC)繊維用直列型繊維束コーティング」(「In−Line Tow Coating for Silicon Carbide(SiC)Fibers」)に関して空軍物資指令部(Air Force Materiel Command)契約を発注された[非特許文献46]。この業務の明細は機密であり得る。
【0108】
その他のアプローチ:
SiC以外の繊維から出発することによって、繊維束(tow)の糊抜き及び伸展の問題を回避するものの、リアクターからはSiCとして取り出している、2つの追加的な論文が公開されている。Lackeyら[非特許文献47]による一番目のものは、ケイ素の層を堆積するためにメチル−トリクロロ−シラン(MTS)と水素との混合体にされている未糊付け処理の炭素繊維(Amoco T−300、3000フィラメント/繊維束(tow))に対する、静電気による繊維束(tow)伸展機の使用を提案し試験しており、該炭素繊維は、ケイ素の層を堆積するために、メチル−トリクロロ−シラン(MTS)と水素との混合体に曝露される。該ケイ素は、繊維中の炭素と、同じ環境下、1050〜1400℃間の温度において反応し、炭化ケイ素フィラメントを生成する。繊維形態はプロセスパラメータによって急激に変化するが、著者は、SiCfの範囲の最上位である、4GPaの引張り強度を主張している。著者は、繊維を集めて糊付けする前にコーティングが添加され得ると主張しているが、実証してはいない。
【0109】
Lackeyらのもの[非特許文献47]の4年後に出てきたNewellおよびPuzianowskyによる論文[非特許文献48]は類似した主張をしているが、炭素へのKevlar繊維の事前変質工程から出発している。繊維束(tow)は、ベンチュリ伸展機(Venturi spreader)を用いて伸展されると主張されているが、実験データは示されていない。
【0110】
要約:
本発明により、従来技術の欠点に対処され、さらなる利点が提供される。本発明は、一態様において、SiC繊維の架橋形成を阻み、これによりセラミックマトリックス複合体の靱性および耐酸化性を向上させる界面相生成方法である。
【0111】
繊維とマトリックスが同一または類似した材料から作られた繊維強化セラミックマトリックス複合材料、たとえば炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素マトリックス複合体のような材料の、脆性破損を予防するためには、コーティング(「界面相」と呼ばれている)が、繊維とマトリックスとの間に挿置されることが必要である。炭化ケイ素繊維のための現在の界面相コーティング方法は、織り込み、編み組み、またはその他の繊維配置の方法のいずれかにより繊維がそれらの最終的な位置の中で加工された後でのみ施用されている。これは、「その場(in−situ)」コーティングと呼ばれている。
【0112】
その場コーティングは通常、マトリックス浸潤の直前に繊維に施用される最後のプロセス工程である。この順序は、SiC繊維の極度の摩擦学的特性により必要になっており、界面相コーティング前に繊維が互いに直接接触することをもたらし得る。結果としては、コーティング中、マトリックス浸潤中、または使用中に繊維が、このような接触箇所において融合または接合が可能となり、「架橋」を形成し、該架橋が得られたセラミックマトリックス複合材料の弱い箇所になる。
【0113】
本発明は、繊維の表面上にSiCからのケイ素の選択的な除去(例えば、エッチング)を加え、次いで、残留ナノ多孔質炭素層を、界面相層(例えば、窒化ホウ素)によって置きかえることにより、前記その場コーティングを修正する。前記界面層は前記繊維をコーティングし、かつ前記繊維を分離することで架橋を阻む。
【0114】
より詳細には、一態様における本発明は、複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料中に界面相を形成する方法であり、該方法は繊維間の接触を最小化することにより靱性を最大化し、該方法には複数のSiC繊維をプリフォーム中に配列する工程と、繊維の表面からケイ素を選択的に除去(例えば、エッチング)し、繊維上に多孔質炭素層をもたらす工程と、界面相層(例えば、窒化ホウ素)によって多孔質炭素層を置きかえる工程と、が含まれ、該界面活性層が繊維をコーティングし、もってプリフォーム中での繊維間の接触を最小化する。
【0115】
界面相層は窒化ホウ素を含ことができる。この場合、この方法は、プリフォームにホウ酸を浸潤させる工程と、ホウ酸を炭素およびNを生じさせる化合物と反応させて、窒化ホウ素層を形成する工程とを含み得る。この方法はさらに、プリフォームにマトリックス材料を浸潤させ、セラミックマトリックスコンポジット材料をもたらす工程を含む。
【0116】
さらなる特質および利点は、本発明の技法により実現される。本発明のその他の実施形態および態様は、本明細書中で詳細に記述されており、請求されている発明の一部とみなされる。
【0117】
詳細な説明:
SiCf摩擦学を用いた第一原理分析:
SiCf以外の特殊繊維に施用される連続的なスプール間の繊維束(tow)コーティングの方式を、SiCfによって複製する試行は、これまで失敗してきた。この失敗の原因は、繊維束(tow)伸展と糊抜きの共存を妨げる、SiCfの特有の摩擦学的挙動であるように見える。実際、繊維の導電性材料は、非常に剛性(ヤング率300〜400GPa)であり、非常に硬質(30〜40GPa)であり、それ自体に伴う高い摩擦係数(0.5〜0.7)を有する。SiCf繊維束(tow)加工中に働いている限定的な物理をより良好に理解するためには、2つのSiCフィラメントの摩擦学的挙動の新たな説明用の例を考慮されたい。
【0118】
図21に示された通り接触荷重Qの下で角度ωにおいて交差している15μmSiCフィラメントのペアを検討してみよう。これは角度ωにおいて交差し、接触荷重Q受けてた2つのSiCフィラメントの例であり、左が拡大した上面図、右が側面図である。
【0119】
第一原理に基づくと、Hertzian楕円体接触理論[非特許文献49]は、繊維が接触している場合での最大接触圧力の見積もりを可能にする。例えば、1mN程度の微小な荷重下で30°の交差角度においては、最大接触圧力は、平方ミクロン未満の接触面積ですでに2.2GPaである。
図22は、1mNの荷重下での15SiCおよびCフィラメントのペアのμm交差角度の関数としての、最大接触圧力(GPa)および接触面積(μm
2)を示している。
図22はこの例を拡大して、10°から90°までの範囲の交差角度における最大接触圧力および接触面積をプロットしている。繊維接触部分が1cm/sの適度な速度で滑っていくとさらに仮定されるならば、繊維接触に散逸した最大の面出力は13MW/m
2である。
【0120】
この例において使用された値は、繊維束(tow)伸展、糊抜きまたはコーティング等の実際の繊維束(tow)加工中におそらく発生することになるものよりかなり低いことに留意すべきである。例えば、1mNは、2×2mm平方編みパターン中に15μmSiCモノフィラメントに及ぼされることになる荷重である。
【0121】
これらの数を展望するために、
図22はまた、炭素上の炭素に対する客観的な比較も提供している。同一の荷重およびフィラメント幾何形状に関する同じ派生物は、炭素については、同じ条件下のSiC繊維と比較して、接触圧力は1桁小さく、接触面積は3倍大きいことを示している。同様に、同一の滑り条件下で散逸した面出力は、200kW/m
2に低下している。これは5桁の低減である。2つの材料間でのこのような莫大な差異は、特に炭素繊維のヤング率が現在のSiC繊維のもの(約300GPa)と同じ桁であることを考慮すると、かなり驚異的である。しかしながら、この差異は、結晶化した黒鉛の驚くほど寛大な性質およびその極度に低い摩擦係数により説明することができる。黒鉛状炭素繊維は、その軸(その基面の方向)に沿って極度に剛性である(>300GPa)ことは確かだが、36GPaのヤング率を伴う径方向(基面に垂直)には比較的柔軟であり、36GPaのヤング率を伴う[非特許文献50]。黒鉛状炭素のそれ自体に対する摩擦係数がSiCのそれ自体に対するものより60倍小さいことをさらに考慮したとき、面出力散逸における極度の差異は驚異的ではない。
【0122】
上記の例は、黒鉛状炭素繊維用のありふれた加工を、むき出しのSiCf繊維束(tow)によって複製することの困難を説明できる。フィラメント間のごくわずかな荷重でも、Wesson[非特許文献41]により早期に断言されていたのと同様な、広範な摩耗損傷を引き起こしそうである。
【0123】
これが、紡糸プロセスの直後に(通常はポリビニルアルコール(PVA)を用いて)SiCfが糊付け処理される理由である。糊付け剤は、保護用の柔軟な材料の鞘によって繊維を包み、もって直接的な繊維間の接触を阻んで繊維滑りを促進する。糊付け剤無しでは、SiCf繊維束(tow)は、織物機器を用いて加工することができず、織り込むことまたは予備形成することができなかった。
【0124】
SiC繊維エッチング:
先述した通り、SiCfからのケイ素の選択的エッチングは、ナノ多孔質炭素の層を残す。このプロセスは、本発明にとって再検討する価値があり、プロセスが誘起した損傷のリスクに繊維をさらしてしまうため、置換コーティングのプロセス中に軽減しなければならない。独立した研究報告によると、SiCfからのケイ素または炭素の選択的除去は、繊維の機械的特性の顕著な劣化をもたらすと結論づけている。
【0125】
Shenら[非特許文献40]は、炭素に富んだSiCフィラメントの撚糸(NicalonおよびC−Nicalon)からの炭素の除去を、ホウ酸[B(OH)
3]中で浸漬コーティングし、続いてそれらをアンモニア(NH
3)雰囲気中で1000°に加熱することにより達成した。主な反応はホウ酸の炭素熱還元であり、該反応は、炭素をCOおよびCO
2として除去し、それをホウ素によって置換してアンモニアと反応させて、窒化ホウ素を形成していた。さらなる化学的経路は、酸化ホウ素(B
2O
3)の形成につながるが、これをShenらは、下記の経路に沿ってアンモニアによりさらに還元されていると主張している:
B
2O
3(l)+2NH
3(g)<==>2BN
(s)+3H
2O
(g) (1)
B
2O
3(l)+3C
(s)+2NH
3(g))<==>
2BN(s)+3CO
(g)+3H
2(g) (2)
【0126】
前記コーティングは、大半が非晶質窒化ホウ素で、約200nmの厚さであり、残りが酸化ホウ素であることが見出され、著者らは、これを、(式1)が律速段階であることに帰している。Shenら[非特許文献40]は、NicalonおよびC−Nicalon SiCfのそれぞれに関して、15〜85%の引張り強度の相対的損失を報告している。
【0127】
Delcampら[非特許文献16]は、塩素エッチングを施用してケイ素を選択的に除去し、Tyranno ZMIおよびNicalon NLM−202繊維上にPyCコーティングを発生させているだけで、引張り強度データを報告していない。しかしながら、おそらく、このような測定をしていれば、Shenらのもの[非特許文献40]に類似した結論を提供することになるだろう。炭化ケイ素の塩素エッチングは、酸化と同様に等方性ではない[非特許文献51]。したがって、おそらく該エッチングは不均一になり、繊維中の構造的欠陥につながるだろう。この主張は、SiCf上へのBNのCVD/CVIコーティングの効果を探索したRebillatら[非特許文献52]の発見、ハロゲン化ホウ素前駆体を用いたSiCfのコーティングに特に関連した研究、により支持されている。該著者らは、BNの堆積につながる化学反応が両方向に進行し得ることを観察しており、これは、堆積されたBNが、コーティングと同時にエッチングされて除かれることを意味しており、下記の反応に従った反応の速度バランスを表している。
NH
3(g)+BX
3(g)<==>BN(s)+3HX(g),
式中、「X」はClまたはFを表す (3)
【0128】
CVD反応中に形成されたハロゲン酸(HF、およびより少ない程度のHCl)は、ケイ素をエッチングするのに極度に効率的であり、次いで気体状ハロゲン化物形態で排出されることにも留意されたい。したがって、繊維が堆積中に損傷を被り得るという正当な懸念があり、Rebillatら[非特許文献52]はこの懸念を、繊維の直接検査(
図23)と、引張り強度のほぼ50%の低下(約1GPa)の測定との両方により確認した。
図23は、BF
3(左)およびAr中に希釈されたHF(右)へのSiCf曝露の効果を示している[非特許文献53]。
【0129】
このセクションの主な結論は、ケイ素または炭素の選択的エッチングにおけるどんな試行も、プロセスが誘起した損傷のレベルと関連しており、該損傷は、引張り強度の損失において明白になる。万一この手法がその場コーティングを発生させる際に使用される場合には、その影響を最小化するように注意しなければならない。
【0130】
炭素置換コーティング:
その場コーティングのための炭素置換の主な利点は、繊維架橋形成を阻むことである。SiCfがプリフォーム中で接触しているどんな場所でも、ケイ素の選択的エッチングは、繊維の非エッチングSiCコアと分離した炭素層をもたらす。
【0131】
上に説明した方法は、AlONまたはAlBON界面相層を作り出すための、Delcampら[非特許文献16]により開発された炭素置換の1つの方法である。初期の手法は、Shenら[非特許文献40]による炭素に富んだ炭化ケイ素繊維の単独の繊維撚糸において実証され、該手法は、ホウ素で炭素を同時に置換する工程からなり、アンモニアによるコーティングの窒化と共に進行する。それは確かに、上述したBNコーティングよりも関連性が高いが、炭素によって予備コーティングされているか、または過剰な炭素を有する繊維を必要としていた。
【0132】
BNコーティングを生成するためのShenら[非特許文献40]により導入された炭素置換方法は、その場コーティングに関して実証または主張されていなかったことに留意すべきである。Delcampら[非特許文献16]により、ケイ素の選択的エッチングのみが、その場プロセスとして実証・公開され、Delcampらは次いでAlONまたはAlBONによって残留炭素を置換した。
【0133】
最後に、Kusunoseら[非特許文献53]は、Shenらの手法を想起する様式で、tBNでコーティングされたSiCナノ粒子を生成した[非特許文献40]。シリカ(SiO
2)、ホウ酸、および炭素の混合物をボールミル粉砕して、ナノ粒子の微細な分散を生成した。800℃への加熱は、最初にホウ酸を酸化ホウ素に変質させ、次いでこれをシリカと反応させて、ボロシリケートガラスナノ粒子を生成させた。窒素雰囲気下での1550℃への後続の加熱は、SiO
2およびB
2O
3の炭素熱還元ならびにホウ素の窒化を起こして、BNでコーティングされたSiCナノ粒子を形成した。BNは、乱層構造であると特徴付けられた。
【0134】
本発明は、セラミックマトリックス複合体用途における、窒化ホウ素による炭化ケイ素繊維のその場コーティングを改善する。現在のその場コーティング技術は、予備コーティングされた繊維が入手可能性が欠如していることにより制限されている。したがって、コーティングは繊維に対して、それらが織り込まれ、編まれ、さもなくば予備成形された後に施用される。糊抜きの後、密接に接触している繊維の領域は、高温加工または高温使用により融合し得る。これは、「架橋形成」として知られているものを引き起こし、複合体に関してより低い靱性特性をもたらす。
【0135】
本発明は、繊維間に分離を作り出し、次いで適切な界面相材料によって満たすことによって、架橋形成を阻むものであり、1つの例示的な場合では前記界面相材料は窒化ホウ素である。この目的を達成するために必要とされるプロセス工程は、まさに繊維自体の材料からナノ多孔質炭素の薄層を最初に作り出し、次いで適切な方法により炭素を置換するまたは置きかえることからなる。このプロセスは、次のように実施することができる:
1.塩素またはフッ素等を用いて、プリフォーム中のSiC繊維の表面からケイ素を選択的に除去する(例えば、エッチング)。エッチングが誘起する損傷を限定するために、エッチングは、100nm以下の深さに制御すべきである。
2.プリフォームに、ホウ酸等を浸潤させる。これは、溶液(水、アルコール、またはアセトン)中にホウ酸を導入し、続いて溶媒を蒸発させることにより達成できる。あるいは、ホウ酸を170℃(ホウ酸の融点)より高い温度において液体形態で導入することができ、または好ましくは300℃から575℃の間(それぞれホウ酸の沸点および熱解離)の温度においてガス形態で導入することができる。ホウ酸は、例えばホウ酸の浸潤前に真空を引き込むことにより、炭素層ナノ細孔に浸潤できることに注意すべきである。
3.次のプロセスステップは、Shenら[非特許文献40]またはKusunoseら[非特許文献54]と同様の様式で、順次にまたは単一段階で行うことができる。
a.順次に行う手法は、まず(式4)に従って575℃での熱解離により、堆積されたホウ酸を液体酸化ホウ素に変質させ、次いで酸化ホウ素が1400℃未満での炭素熱還元(式5)によってホウ素とし、炭化ホウ素の形成(式6)を回避する。ホウ素コーティングの窒化により、窒化ホウ素への変質(式6)を完了させる:
2B(OH)
3(g)<==>B
2O
3(l)+3H
2O
(g) (4)
B
2O
3(l、g)+3C
(s)<==>2B
(s)+3CO
(g) (5)
2B
2O
3(l、g)+7C
(s)<==>B
4C
(s)+6CO
(g) (6)
2B
(S)+2NH
3(g)<==>2BN
(s)+3H
2(g) (7)
b.代替法は、アンモニア雰囲気下で1000℃において、または窒素下で1550℃において、単一段階の炭素熱還元を行うことである。プロセスは次いで、上述した(式1)および(式2)により駆動される。ナノ多孔質炭素から進行する単一段階曝露もまた、それが乱層構造BNを生じさせるため好ましいが、多段階曝露は、界面相材料としてあまり望ましくない非晶質BNを生じさせることが示された。
【0136】
従前の技術と比較して、窒化ホウ素の層が厚くなっている必要はないことに留意すべきである。実際、25nmの層は、堆積されたBNが乱層構造であるならば十分なはずであり、BNが完全結晶化六方晶BNならば2倍になる。薄層目的物は、出発する炭素層がナノ多孔質であることにより支援される。炭素熱還元は、その元々のサイズの70%へのモル体積の低減をもたらす。窒化工程は、元々のサイズの166%へのモル体積の増大を引き起こし、コーティング層を緻密化する。
【0137】
出発材料の炭素コーティングのナノ多孔度はまた、2000℃未満の温度における乱層構造BNの成長を有利にする。この温度より高いと、乱層構造は完全に結晶化して六方晶BNになる。
【0138】
次いでマトリックス材料を添加される結果、強靭なセラミックマトリックス複合材料が得られる。
【0139】
この点、本発明は一態様において、複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料中に界面相を形成する方法であり、繊維間の架橋形成を最小化することにより靱性を最大化する。該発明は、プリフォーム中に複数のSiC繊維を配列する工程と、繊維の表面からケイ素を選択的に除去(例えば、エッチング)し、繊維上に多孔質炭素層をもたらす工程と、該多孔質炭素層を界面相層(例えば、窒化ホウ素)によって置きかえる工程と、を含み、前記界面層は、前記繊維をコーティングしてそれによりプリフォーム中での繊維間の架橋形成を最小化する。
【0140】
界面相層は窒化ホウ素を含み得、この場合、この方法は、プリフォームにホウ酸を浸潤させる工程と、ホウ酸を炭素およびNを生じさせる化合物と反応させて、窒化ホウ素層を形成する工程とを含み得る。この方法はさらに、プリフォームにマトリックス材料を浸潤させ、セラミックマトリックス複合材料をもたらす工程をさらに含む。
【0141】
要約すると、複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料は、繊維の表面上でのSiCからのケイ素の選択的除去を実施し、多孔質炭素層をもたらす工程と、残留多孔質炭素層を界面相層に置きかえる工程とによって形成され、前記界面相層が前記繊維をコーティングし、これによりマトリックス材料の浸潤前での繊維架橋形成を阻む。
【0142】
上記の方法、生成物、または方法からもたらされる生成物のいずれもが、本発明の範囲内に含まれる。
【0143】
本発明は、ホウ素の使用が禁忌(counter−indicated)である原子力用途を除いて、高温構造的コンポーネントに関心のあるすべての関係者に興味をもたれるであろう。酸化しやすいと予想されるコンポーネントについては、これは、ジェットエンジンおよびタービン発電における、具体的な近い将来の差し迫った関心のある、すべての内燃機関を含める。
【0144】
本発明は、ロケットノズル、超音波ドーム、ジェットエンジン、発電、高効率内燃機関、および装甲用途等のすべての高温および超高温用途に重要な活用を見出すと予想されている。予測される影響は、経済的なもの、すなわち、改善された性能、より手頃なSiC−SiC複合材料である。
【0145】
特許文献1、非特許文献16、非特許文献38〜54の文献のそれぞれは、その全体を参照によりこれにて本明細書に組み込む。
【0146】
要約すると、本発明に従って独立にまたは一緒に使用できる下記の発明が、本明細書中で開示されている。
【0147】
I.複数の制御可能なレーザーを用いた高強度セラミック繊維の大規模製造のための方法および装置−(例えば、CVD)前駆体から複数の繊維を形成するための方法および装置であって、複数の個々の繊維を成長させるように構成されたリアクターと、複数の独立に制御可能なレーザーを含み、前記複数のレーザーのそれぞれのレーザーは、前記複数の繊維のそれぞれの繊維を成長させる、方法及び装置。前記リアクターおよびレーザーは、レーザー誘起化学気相蒸着に従って繊維を成長させ得る。一実施形態における前記複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含む。
【0148】
II.微小亀裂を方向付けし、微小亀裂性および酸化への免疫性応答を有するマトリックスコンポジットを与えるための高性能繊維用のナノコーティングシステム−構造中に配列された複数の繊維と、繊維間に配置されたマトリックスとを含む、高性能繊維(HPF)構造であって、多層コーティングが少なくとも一部の繊維の表面に沿って提供されている、高性能繊維(HPF)構造。前記多層コーティングは、シート様の強度を有する内層領域と、粒子様の強度を有する外層領域と、を含み、マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も外層に沿って伝播してマトリックス中に戻り、それにより亀裂が繊維に接近することを阻むようになっている。一実施形態において、内層領域は、繊維用の酸素バリアとして作用し、酸素にさらされた際、外層領域の少なくとも一部が内層領域に類似した酸素バリアに変質し、それにより繊維により大きな保護を提供する。
【0149】
III.セラミックマトリックス複合材料中の炭化ケイ素繊維の非架橋性窒化ホウ素その場コーティング−複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料中に界面相を形成する方法であって、繊維間の架橋形成を最小化することにより靱性を最大化し、該方法は、プリフォーム中に複数のSiC繊維を配列する工程と、界面相層(例えば、窒化ホウ素)によって多孔質炭素層を置きかえる工程とを含み、前記界面層は、繊維をコーティングして、それによりプリフォーム中での繊維間の架橋形成を最小化する。
以下、本明細書に記載の主な発明につき列記する。
[1]
前駆体から複数の繊維を形成する方法であって、
複数の個々の繊維を成長させるように構成されたリアクターを用意する工程と、
複数の独立に制御可能なレーザーを使用する工程であって、前記複数の繊維のそれぞれの繊維を、各レーザーが成長させる工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
[2]
前記リアクターおよびレーザーは、レーザー誘起化学気相蒸着に従って、前記繊維を成長させることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]
前記複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含むことを特徴とする、[1]に記載の方法。
[4]
上記の[1]〜[3]のいずれかに従って形成された、複数の繊維。
[5]
前駆体から複数の繊維を形成するための装置であって、
複数の個々の繊維を成長させるように構成されたリアクターと、
複数の独立に制御可能なレーザーであって、前記複数の繊維のそれぞれの繊維を各レーザーが成長させる前記複数のレーザーと、
を含むことを特徴とする、装置。
[6]
前記リアクターおよびレーザーは、レーザー誘起化学気相蒸着に従って前記繊維を成長させることを特徴とする[5]に記載の装置。
[7]
前記複数のレーザーは、クォンタム・ウェル・インターミキシング[Quantum Well Intermixing(QWI)]レーザーを含むことを特徴とする、[5]に記載の装置。
[8]
構造中に配列された複数の繊維と、
前記繊維間に配置されたマトリックスと、
を含む、高性能繊維(HPF)構造体であって、
多層コーティングが前記繊維の少なくとも一部の繊維の表面に沿って提供されており、
前記多層コーティングが、
シート様の強度を有する内層領域と、
粒子様の強度を有する外層領域と、を含み、
前記マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も前記外層に沿って伝播して前記マトリックス中に戻り、それにより前記亀裂が前記繊維に接近することを阻むようになっている、
を含むことを特徴とする構造体。
[9]
前記内層領域は黒鉛状炭素を含み、前記外層領域は熱分解性炭素を含むことを特徴とする[8]に記載の構造体。
[10]
前記内層領域は六方晶窒化ホウ素を含み、前記外層領域は乱層構造窒化ホウ素を含むことを特徴とする[8]に記載の構造体。
[11]
高密度微小亀裂性効果を前記マトリックス内に誘起し、亀裂の伝播から前記繊維を実質的に遮断することを特徴とする[8]に記載の構造体。
[12]
前記内層領域は、前記繊維用の酸素バリアとして作用することを特徴とする上記の[8]〜[11]のいずれかに記載の構造体。
[13]
酸素に曝露された際、前記外層領域の少なくとも一部が前記内層領域に類似した酸素バリアに変質し、それにより前記繊維により大きな保護を提供することを特徴とする、[12]に記載の構造。
[14]
構造中に配列された複数の繊維を用意する工程と、
前記繊維間に配置されたマトリックスを用意する工程と、
少なくとも一部の前記繊維の表面に沿って多層コーティングを提供する工程と、を含む、高性能繊維(HPF)構造体を形成する方法であって、
前記多層コーティングが、
シート様の強度を有する内層領域と、
粒子様の強度を有する外層領域と、を含み、
前記マトリックスから外層に向かって伝播するどんな亀裂も前記外層に沿って伝播して前記マトリックス中に戻り、それにより前記亀裂が前記繊維に接近することを阻むようになっている、ことを特徴とする方法。
[15]
前記内層領域は黒鉛状炭素を含み、前記外層領域は熱分解性炭素を含むことを特徴とする[14]に記載の方法。
[16]
前記内層領域は六方晶窒化ホウ素を含み、前記外層領域は乱層構造窒化ホウ素を含むことを特徴とする[14]に記載の方法。
[17]
前記構造体が、高密度微小亀裂効果を前記マトリックス内に誘起し、亀裂の伝播から前記繊維を実質的に遮断することを特徴とする[14]に記載の方法。
[18]
前記内層領域は、前記繊維用の酸素バリアとして作用するように形成されることを特徴とする上記の[14]〜[17]のいずれかに記載の方法。
[19]
酸素に曝露した際、前記外層領域の少なくとも一部が前記内層領域に類似した酸素バリアに変質し、それにより前記繊維により大きな保護を提供することを特徴とする[18]に記載の方法。
[20]
複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料中に界面相を形成して、繊維間の架橋形成を最小化することにより靱性を最大化する方法であって、
複数のSiC繊維をプリフォーム中に配列する工程と、
前記繊維の表面からケイ素を選択的に除去し、前記繊維上に多孔質炭素層をもたらす工程と、
界面相層によって前記多孔質炭素層を置きかえる工程と、を含み、
前記界面相層は、前記繊維をコーティングして、それにより前記プリフォーム中での繊維間の架橋形成を最小化する、ことを特徴とする、方法。
[21]
前記界面相層は窒化ホウ素を含むことを特徴とする[20]に記載の方法。
[22]
前記プリフォームにホウ酸を浸潤させる工程と、
前記ホウ酸を前記炭素およびNを生じさせる化合物と反応させて、前記窒化ホウ素層を形成する工程と、
をさらに含むことを特徴とする[21]に記載の方法。
[23]
前記プリフォームにマトリックス材料を浸潤させ、セラミックマトリックス複合材料をもたらす工程をさらに含むことを特徴とする、上記の[20]〜[22]のいずれかに記載の方法。
[24]
上記の[20]〜[23]のいずれかに従って形成された、セラミックマトリックス複合材料。
[25]
複数のSiC繊維を有するセラミックマトリックス複合材料を形成する方法であって、
繊維の表面上でのSiCからのケイ素の選択的除去を実施し、多孔質炭素層をもたらす工程と、
界面相層によって残留多孔質炭素層を置きかえる工程と、を含み、
前記界面相層は、前記繊維をコーティングし、これによりマトリックス材料の浸潤前での繊維架橋形成を阻むことを特徴とする、方法。
[26]
[25]に従って形成された、セラミックマトリックス複合材料。
[27]
[1]および/または[14]および/または[20]および/または[25]に記載の方法を含むことを特徴とする、高性能繊維構造体を形成する方法。
[28]
[1]および/または[14]および/または[20]および/または[25]に記載の方法に従って形成された、高性能繊維構造体。