【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこの実施例により限定して解釈されるものではない。まず、本実施例における測定方法を説明する。
【0041】
(1)BET比表面積の測定
BET比表面積の測定は、クオンタクローム インストルメント社製のオートソーブ iQ ステーション 1を用い、前処理として脱気温度200℃にて処理後、77K(絶対温度)で窒素(N
2)吸着法により行った。
(2)細孔容積測定
細孔容積測定は、クオンタクローム インストルメント社製の水銀ポロシメーターを用い、水銀圧入法により行った。
(3)X線回折測定
X線回折測定は、パナリティカル社製のエックス’パート プロ エムピーディー(X’Pert PRO MPD)型全自動多目的X線回折装置を用いて行った。
成形体の結晶状態を、電圧45kV、電流40mAで測定した。
触媒の結晶子径は、Ir(111)面のXRDピークを用い、以下に示すシェーラー(Scherrer)の式により求めた。
D=K × λ / (β × cosθ)
(式中、Dは結晶子の径(オングストローム)、Kはシェーラー定数(1.15)、λは使用したX線管球の波長(1.54056オングストローム)、βは結晶子の径による回折線の拡がり、θは回折角を示す。)
(4)示差熱重量分析
示差熱重量分析は、ネッチ・ジャパン社製のティージー−ディーティーエイ2000エス(TG−DTA2000S)装置を用いて行った。
試料容器およびリファレンス容器はいずれもアルミナ製とし、昇温速度は10℃/分、雰囲気として窒素ガス(N
2)の100ml/分の気流にて分析した。
(5)Irの定量
触媒調製後のIr担持量を、ICP(誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma)法)により分析した。
【0042】
[実施例1] La添加θ型アルミナ成形体の製造
Ir担持触媒の担体として、Laを重量基準で、全量の3.5重量%添加したθ型アルミナの粉末を原料アルミナとして用いた。すなわち、La添加θ型アルミナ粉末中のAl、La、Oの重量比は、それぞれ、48.4重量%、3.5重量%、48.1重量%となる。
【0043】
原料アルミナを、平均の粒子径が1mm程度となるように加圧成形後、粉砕、分級した。成形された原料を、焼成炉にて、実施例2に示すように所定温度、所定時間加熱してLa添加θ型アルミナ成形体を得た。
【0044】
[実施例2] La添加θ型アルミナ成形体の製造とその耐熱性評価
実施例1において製造されたLa添加θ型アルミナ成形体の製造につき、焼成温度及び焼成時間と、BET比表面積、細孔容積及び細孔径分布との関係を検討し、表1、
図2及び
図3に示した。
図2において、横軸(X軸)は焼成温度(「℃」)、縦軸(Y軸)左側はBET比表面積(「m
2/g」)で黒ひし形(◆)の折れ線にて示し、縦軸(Y軸)右側は細孔容積(「ml/g」)で黒四角(■)の折れ線にて示した。
図3において、細孔径分布の測定はPP(ポリプロピレン)を18重量%含有する条件で行ったものである。図中、横軸(X軸)は細孔径(「nm(ナノメーター)」)、縦軸(Y軸)は細孔容積の微分値(dV/d(log D)を示し、Vは細孔容積(「cc/g」)、Dは細孔径を示す)を示す。焼成条件は、
図3(a)が1100℃で5時間、
図3(b)が1200℃で5時間、
図3(c)が1300℃で5時間焼成したものである。
【0045】
表1及び
図2から分かるように、La添加θ型アルミナ成形体のBET比表面積及び細孔容積は、熱処理温度が高くなるとBET比表面積及び細孔容積は共にその減少量が大きくなり、1300℃で5時間の焼成条件ではBET比表面積は5m
2/gまで低下した。
【0046】
図2及び
図3から分かるように、平均細孔径が20nm程度のミクロな細孔(
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)の各図において、左側の細孔径が小さい領域に示す。)の細孔径は、1200℃で5時間の焼成条件まではほぼ一定の細孔径を示したが、1300℃で5時間の焼成条件では細孔径は150nm程度まで増加することが確認された。一方で、細孔径が数μmのマクロな細孔(
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)の各図において、右側の細孔径が大きい領域に示す。)は、焼成温度が1300℃で5時間の焼成条件まで上昇しても細孔径の分布は保持された。これにより、ミクロな細孔の細孔径が増加することに伴い細孔容積は徐々に低下することが示された。
【表1】
【0047】
[実施例3] La添加θ型アルミナ成形体の耐熱性評価(X線回折測定)
実施例1および実施例2において製造されたLa添加θ型アルミナ成形体につき、粉末X線回折により測定し、その結果を
図4に示す。
図4において、XRD回折測定ではPP(ポリプロピレン)を18重量%含有する条件で行ったものである。横軸(X軸)は回折角度(「°」)2θであり、縦軸(Y軸)は任意強度を示し、図中、白丸(○)はθ型アルミナに帰属するピークを、黒丸(●)はα型アルミナに帰属するピークを示し、焼成条件は、
図4(a)が原料粉末、
図4(b)が1000℃で1時間、
図4(c)が1100℃で5時間、
図4(d)が1200℃で5時間、
図4(e)が1300℃で5時間焼成したものである。
【0048】
各焼成条件における結晶構造は、
図4(b)および
図4(c)の各図において示されるように、1100℃で5時間焼成までは
図4(a)に示す原料粉末(La添加θ型アルミナ)と同じθ型であるが、
図4(d)に示す1200℃で5時間焼成ではθ相とα相の混合相なり、
図4(e)に示す1300℃で5時間焼成では完全にα相に転位していることが確認された。焼成温度の上昇によるアルミナ成形体の比表面積、細孔容積の低下は、アルミナのθ型からα型への相転位に起因すると考えられた。
【0049】
以上の結果より、La添加θ型アルミナ原料粉末として成形、焼成することで、数μmのマクロな細孔と20nmのミクロな細孔を有し、100m
2/g程度の表面積を持つ担体を調製できることが確認できた。また、この担体は、1200℃で5時間焼成という高温においても、焼成後すなわち熱処理後において40m
2/g程度のBET比表面積を維持できることがわかった。よって、本担体を用いIrを担持させた触媒は、耐熱性が高く、HAN系推進薬向けスラスタの触媒として適している。
【0050】
[実施例4] Ir/La添加θ型アルミナ成形体の耐熱性評価(BET比表面積測定)
次に、活性金属であるIrを担持した触媒(Ir/La添加θ型アルミナ)の耐熱性を評価するために、触媒を高温で熱処理してBET比表面積の変化を測定した。
【0051】
担体であるLa添加θ型アルミナ成形体へのIrの担持は次のように行った。まず、塩化Ir酸水溶液(Ir濃度:0.064g―Ir/ml)を調製した。この塩化Ir酸水溶液に、分級した担体を浸漬し、エバポレーターにて減圧しながら3分間含浸させた。含浸後、Irが含浸されたLa添加θ型アルミナ成形体のサンプルを取り出し、減圧濾過を行い余剰の塩化Ir水溶液を除去した。その後、サンプルを乾燥器により乾燥した(100℃、30分)。次に電気炉中で触媒を仮焼(380℃、30分)した。触媒の含浸、乾燥、仮焼の処理を10回繰り返し、最終的に400℃(1時間)にてサンプルを焼成した。
【0052】
焼成後のサンプル中には、原料に由来する塩素が残留しているため、この塩素を除去するために温水(50〜60℃)にてサンプルを洗浄した。洗浄量は、触媒1gに対しておおよそ0.5Lの温水とした。洗浄後のサンプルを乾燥し、その後、水素(H
2)気流中で、500℃/1時間の条件で触媒を還元した。
【0053】
触媒調製後に、ICP(誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma)法)により分析したIrの担持量は、約40重量%であった。
図5に、合成したIr/La添加θ型アルミナ触媒と代表的なヒドラジン推進薬の分解触媒であるShell(登録商標)405触媒の比表面積と熱処理温度の関係を示した。Shell(登録商標)405触媒のBET比表面積は、1000℃の熱処理で14m
2/gまで低下し、更に1100℃以上に熱処理温度を上げると10m
2/g以下まで低下した。
図5において、横軸(X軸)は熱処理温度(「℃」)、縦軸(Y軸)はBET比表面積(「m
2/g」)であり、黒四角(■)の折れ線はShell(登録商標)405触媒、黒三角(▲)の折れ線は合成したIr/La添加θ型アルミナ触媒によるデータを示す。
【0054】
一方で、合成した触媒(
図5中では「触媒B」と表記)は、熱処理温度1000℃では48m
2/g、1100℃でも41m
2/gと比較的高い比表面積を示すことが確認できた。更に1200℃以上まで熱処理を行うと10m
2/g以下まで低下した。
以上の結果より、本発明によるIr/La添加θ型アルミナ触媒は、Shell(登録商標)405触媒に比べて高温でのBET比表面積が高いため、より高温まで触媒活性を維持できると考えられる。すなわち、HAN系推進薬向けのスラスタ触媒として適していることが確認できた。
【0055】
[実施例5] 触媒反応試験(示差熱重量分析(TG−DTA分析))
以下に記載の担体A,B,Cは1000℃にて焼成した。また担体A,B,Cよりそれぞれ製造された触媒A,B,Cは、実施例4と同様にして、担体A,B,Cへそれぞれ、Irを含浸させ製造した。
また実施例5,6で用いたHAN系推進薬の組成は、HAN(硝酸ヒドロキシアンモニウム):HN(硝酸ヒドラジン):TEAN(トリエタノールアンモニウムナイトレート):水=46:23:6:25(重量%)とした。
図6に触媒反応試験を示す。
図6において、横軸(X軸)は時間(「分」)、縦軸(Y軸)左側は温度(「℃」)およびDTA(「μV(マイクロボルト)」)にて示し、縦軸(Y軸)右側はTG(「mg」)にて示し、
図6(a)はHAN系推進薬、
図6(b)はShell(登録商標)405(フレッシュ)、
図6(c)は本発明に係る触媒A(担体A、フレッシュ)のTG−DTA分析の結果である。
図6(a)に、HAN系推進薬単独で行ったTG/DTA試験の結果を示す。図より約50℃〜100℃の間で徐々に重量減少し、その後、180℃付近より急激に重量減少を開始し、最終的に280℃付近で終了した。この結果より、HAN系推進薬が単独で分解終了する温度は、およそ280℃であることがわかった。
【0056】
図6(b)に、代表的なヒドラジン分解向けの商用触媒であるShell(登録商標)405触媒(フレッシュ)のTG/DTA測定結果を示す。反応は2段階で進行し、1段目は約79℃、2段目は約117℃で発熱ピークとともに急激に重量減少した。この結果は、Shell(登録商標)405触媒の存在下において、HAN系推進薬は単独の場合よりも低温で分解することを示した。
【0057】
図6(c)に、担体Aを用いて試作したIr触媒(触媒A)のTG/DTA測定結果を示す。発熱ピークは約109℃で、急激な重量減少を伴い反応は進行した。Shell(登録商標)405と異なり1段階で分解は終了した。
【0058】
以上の結果より、試作したIr触媒を用いることでHAN系推進薬が低温で分解できることが確認できた。
【0059】
[実施例6] 簡易反応試験
TG/DTA測定の他に、一定温度に加熱した触媒表面に微量のHAN系推進薬を滴下し、分解挙動を観察した。アルミナ製の容器中に触媒(約10mg)を入れ、ホットスターラー上で150℃まで加熱した。触媒の温度を150℃で保持したまま、マイクロシリンジを用いてHAN系推進薬を滴下し、分解挙動を観察した。150℃でHAN系推進薬が分解しない場合は、スターラーの温度設定を上げて触媒を加熱し、HAN系推進薬が分解する挙動を観察した。温度は、アルミナ容器近傍に設置したシース型熱電対(K型)を用いて測定した。
【0060】
(HAN系推進薬単独での分解挙動)
HAN系推進薬単独で試験した。HAN系推進薬は、150℃で滴下後、僅かに発泡するが分解はしなかった。温度を更に上げると、230℃位より発煙しながら発泡し、最終的に、茶色く変色しながら280℃付近で分解が終了した。実施例5のTG/DTAの結果からも、HAN系推進薬の分解終了温度は280℃程度であることが分かっており、本結果と良い整合性を示している。
【0061】
(Shell(登録商標)405触媒(フレッシュ)でのHAN系推進薬の分解試験)
Shell(登録商標)405触媒(フレッシュ)の場合、HAN系推進薬は、150℃で滴下後、直ちに激しく反応し、発火を伴い分解することが確認された。
【0062】
(触媒BおよびC(いずれもフレッシュ、還元済み)でのHAN系推進薬の分解試験)
それぞれ担体BおよびCを用いて試作したIrが担持された触媒BおよびCについても、HAN系推進薬分解試験を実施した。両触媒とも、試験には予め水素(H
2)気流中、500℃にて還元処理したものを用いた。
【0063】
触媒B(フレッシュ)において、HAN系推進薬を滴下直後に、激しく発泡と分解が始まり、極短時間で発火を伴って分解は終了した。
触媒C(フレッシュ、水素(H
2)還元済み)においても、同様に、HAN系推進薬を滴下直後に、激しく発泡と反応が始まり、極短時間で発火を伴って分解は終了した。
【0064】
以上の結果より、試作したIrが担持された触媒は、HAN系推進薬を低温で効率良く分解できることを確認した。
【0065】
[実施例7] Ir/La添加θ型アルミナ成形体の製造
活性金属であるIrを担持した触媒(Ir/La添加θ型アルミナ)の耐熱性を評価するために、触媒を高温で熱処理してBET比表面積及び結晶子径の変化を測定した。
【0066】
実施例1で得たLa添加θ型アルミナ成形体へのIrの担持は次のように行った。まず、塩化Ir酸水溶液(Ir濃度:0.064g―Ir/ml)を調製した。この塩化Ir酸水溶液に、分級した担体を浸漬し、エバポレーターにて減圧しながら10分間含浸させた。含浸後、Irが含浸されたLa添加θ型アルミナ成形体のサンプルを取り出し、減圧濾過を行い余剰の塩化Ir水溶液を除去した。その後、サンプルを乾燥器により乾燥した(100℃、30分)。次に電気炉中で触媒を仮焼(380℃、30分)した。触媒の含浸、乾燥、仮焼の処理をIr含浸量が触媒重量当たり20重量%(ICP(誘導結合プラズマ法)により分析)になるまで20〜40回程度繰り返し、最終的に400℃(1時間)にてサンプルを焼成した。
【0067】
焼成後のサンプル中には、原料に由来する塩素が残留しているため、この塩素を除去するために温水(50〜60℃)にてサンプルを洗浄した。洗浄量は、触媒1gに対しておおよそ0.5Lの温水とした。洗浄後のサンプルを乾燥し、その後、水素(H
2)気流中で、500℃/1時間の条件で触媒を還元した。
【0068】
Irを担持した触媒(Ir/γ型アルミナ)は、実施例1に記載の、La添加θ型アルミナ粉末の代わりにγ型アルミナ粉末を原料アルミナとして用いた以外は同じようにして製造した。
【0069】
試験に用いたShell(登録商標)405触媒は市販品をそのまま用いた。
【0070】
[実施例8] Ir/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒の耐熱性評価(BET比表面積)
実施例7において製造されたIr/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒につき、1000℃での熱処理時間とBET比表面積との関係を検討し、
図7に示した。
【0071】
図7中、横軸(X軸)は熱処理時間(「時間」)、縦軸(Y軸)はBET比表面積(「m
2/g」)を示す。Ir/La添加θ型アルミナ触媒(「Ir/θ-Al
2O
3」と表示)の結果を白三角(△)の折れ線にて、Ir/γ型アルミナ触媒(「Ir/γ-Al
2O
3」と表示)の結果を黒ひし形(◆)の折れ線にて示した。なお、Shell(登録商標)405触媒について熱処理しないフレッシュな場合のBET比表面積は約110m
2/gであり、
図7中、クロス(×)にて示した。
【0072】
図7から分かるように、Ir/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒のBET比表面積は、熱処理によりフレッシュ(処理が0時間)の場合よりも減少する。しかしながら、本発明によるIr/La添加θ型アルミナ触媒は熱処理時間が長くなっても80m
2/g以上のBET比表面積を維持している。これに対しIr/γ型アルミナ触媒では熱処理時間が長くなるに従い減少し、100時間の熱処理では20m
2/gを若干超える程度となっていた。このことは、本発明に係るIr/La添加θ型アルミナ触媒はIr/γ型アルミナ触媒よりも耐熱性があり、これはLa添加θ型アルミナを採用したことによるものである。
【0073】
[実施例9] Ir/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒の耐熱性評価(結晶子径)
実施例7において製造されたIr/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒につき、1000℃での熱処理時間と結晶子径との関係を検討し、
図8に示した。
【0074】
図8中、横軸(X軸)は熱処理時間(「時間」)、縦軸(Y軸)は結晶子径(「オングストローム」)を示す。Ir/La添加θ型アルミナ触媒(「Ir/θ-Al
2O
3」と表示)の結果を白三角(△)の折れ線にて、Ir/γ型アルミナ触媒(「Ir/γ-Al
2O
3」と表示)の結果を黒ひし形(◆)の折れ線にて示した。
【0075】
図8から分かるように、Ir/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒の結晶子径は、熱処理によりフレッシュ(処理が0時間)の場合よりも増加する。しかしながら、本発明によるIr/La添加θ型アルミナ触媒は熱処理時間が長くなっても500オングストローム程度の結晶子径を維持していた。これに対しIr/γ型アルミナ触媒では熱処理時間が長くなるに従い徐々に増加し、100時間の熱処理では700オングストローム程度にまで達した。このことは、本発明に係るIr/La添加θ型アルミナ触媒は結晶子径という結晶構造の観点からもIr/γ型アルミナ触媒よりも耐熱性があり、これはLa添加θ型アルミナを採用したことによるものである。
【0076】
[実施例10] 各種触媒を用いた推進薬分解試験
実施例7において製造されたIr/La添加θ型アルミナ触媒およびIr/γ型アルミナ触媒とShell(登録商標)405触媒を、
図9に示す推進薬分解試験のためのバッチ式小型反応装置11を用い、各種触媒による反応開始温度をもとに評価した。
【0077】
図9に示すバッチ式小型反応装置による試験は次のように行なった。すなわち、恒温槽15には金属密閉容器16が備えられており、金属密閉容器16の中に各種の触媒と推進薬が保持されている。この熱電対19は金属密閉容器16内部用として備えられ、他方の熱電対18は恒温槽15用として備えられ、これらの熱電対18,熱電対19は、ケーブル21を介して制御手段(コンピュータ)12に接続されている。
【0078】
また金属密閉容器16は、金属密閉容器側の管22を介してバルブ14に接続され、バルブ14より圧力計側の管23を介して圧力計13に繋がっている。圧力計13は、ケーブル20を介して制御手段(コンピュータ)12に接続されている。なおバルブ14は、排気側の管24を介してガス等を外部へ排気する。
【0079】
推進薬分解試験では、恒温槽15の温度を徐々に上昇させ、それと共に恒温槽15の内部の金属密閉容器16が、さらに金属密閉容器16の中の触媒と推進薬の温度も上昇する。これら、恒温槽15および金属密閉容器16の内部の温度は、恒温槽15用の熱電対18,金属密閉容器16内部用の熱電対19にて検知され、ケーブル(熱電対側)21を介して制御手段12へ送られ、記録される。また金属密閉容器16の内部に保持された触媒と推進薬の温度が上昇し、ある温度において推進薬が分解し、分解して発生したガスにより圧力が上昇する。この圧力は圧力計13により経時的に検知され、ケーブル(圧力計側)20を介して制御手段12へ送られ、記録される。
【0080】
以上の操作を通じて、
図10として恒温槽温度、触媒温度および圧力の経時変化が示された。
【0081】
図10は、1000℃での熱処理をしていないフレッシュな各種触媒による推進薬分解試験の結果を示す。
図10(a)ではIr/La添加θ型アルミナ触媒、
図10(b)ではIr/γ型アルミナ触媒、
図10(c)ではShell(登録商標)405触媒を用いた、推進薬分解試験の結果を示す。さらに
図11として、Shell(登録商標)405触媒を大気中にて1000℃で1時間、20時間、40時間の熱処理したものを、それぞれ、
図11(d)、
図11(e)、
図11(f)として示す。
【0082】
図10中、横軸(X軸)は経過時間(「秒」)、縦軸(Y軸)は温度(「℃」)であり、点線は恒温槽15に保持した熱電対(恒温槽側)18の示す温度、実線は金属密閉容器16内部に保持した熱電対19の示す温度(「温度(触媒)」と表示)、破線は圧力計13の示す圧力を表示している。
【0083】
図10より分かるように、1000℃での熱処理をしていないフレッシュな触媒(
図10(a)〜
図10(c))では、いずれの触媒においても、圧力計13による圧力が示すように、推進薬が分解するとガスが発生して、約120℃において圧力が急激に上昇する。以降、この反応が開始し圧力が急激に上昇し始める温度を反応開始温度という。さらに反応開始温度付近においては、金属密閉容器16内部に保持した熱電対19の示す温度に極大点が認められる。これに対し、
図11に示したShell(登録商標)405触媒を1000℃で1時間、20時間、40時間の熱処理したものによる推進薬分解試験の結果では、反応開始温度が、
図11(d)では約130℃、
図11(e)では約160℃、
図11(f)では約170℃となっており、Shell(登録商標)405触媒は1000℃での熱処理により、反応開始温度が上昇すること、さらに上昇幅も熱処理時間に応じて高くなることが分かる。このことは、Shell(登録商標)405触媒は、1000℃での熱処理によりその構造が変化したため、推進薬分解反応開始がより高温になったものと解される。
【0084】
図12は、以上の各種触媒を用いた推進薬分解試験の結果および、Ir/La添加θ型アルミナ触媒(「Ir/θ-Al
2O
3」と表示)とIr/γ型アルミナ触媒(「Ir/γ-Al
2O
3」と表示)については1000℃での熱処理時間による影響を示す結果(個別には図示せず)をまとめたものである。
【0085】
図12から分かるように、Ir/La添加θ型アルミナ触媒では、1000℃での熱処理時間が0時間(フレッシュ)〜100時間にかけて、反応開始温度が、約120℃から若干上昇するものの、100時間の熱処理においても約150℃であり、あまり上昇しない。これに対し、Ir/γ型アルミナ触媒では、反応開始温度が、約120℃から経時的に上昇し、100時間の熱処理では約170℃に達した。さらに、Shell(登録商標)405触媒では、約120℃から経時的に上昇し、100時間の熱処理では180℃近くまでに達した。
【0086】
このことは、Ir/La添加θ型アルミナ触媒は耐熱性を有し、HAN分解反応の触媒活性を十分に維持できるのに対し、Ir/γ型アルミナ触媒およびShell(登録商標)405触媒では、Ir/La添加θ型アルミナ触媒ほどの耐熱性は有していないことを示すものである。特に、γ型アルミナに代えて、La添加θ型アルミナをもとに製造されたIr/La添加θ型アルミナ触媒に、上記で示すような耐熱性を有するという結果は驚くべきことである。
【0087】
以上の結果より、本発明によるIr/La添加θ型アルミナ触媒は、Ir/γ型アルミナ触媒およびShell(登録商標)405触媒に比べ、高温においてBET比表面積、結晶子径等の構造上の安定性が高く、また高温まで触媒活性を維持できる。すなわち、HAN系推進薬向けのスラスタ触媒として適していることが確認できた。