特許第6353377号(P6353377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353377
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】鉄道車両のネットワークシステム
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/28 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   H04L12/28 200M
   H04L12/28 100A
   H04L12/28 200A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-16521(P2015-16521)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-143945(P2016-143945A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼取 隆志
(72)【発明者】
【氏名】神戸 勝啓
【審査官】 大石 博見
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−205777(JP,A)
【文献】 特開2011−205582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が連結された車両編成の各車両に搭載され、プライベートアドレスが付与される少なくとも第1及び第2の機器が接続された車両内ネットワークと、
前記車両編成の全体において、異なる前記車両に搭載された前記機器同士の間で情報の送受信を行うための全車両間ネットワークと、
各々の前記車両に、前記車両内ネットワークと前記全車両間ネットワークとの間に接続されて設けられ、異なる前記車両に搭載された前記機器同士の間で情報の送受信を行う際に、前記第1の機器の前記プライベートアドレスと前記全車両間ネットワークのIPアドレスとを相互に変換するアドレス変換を行うネットワークアドレス変換部を有するルータと、
前記車両編成を構成する各前記車両に搭載された前記第1及び第2の機器の中から外部端末によって選択される保守対象機器と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークに有線接続されていない前記外部端末との間で、情報の送受信を行うための伝送路であって、前記保守対象機器が搭載された前記車両の前記ネットワークアドレス変換部を介さない伝送路を形成する保守用伝送路形成手段と、
を備えた鉄道車両のネットワークシステム。
【請求項2】
前記保守用伝送路形成手段は、
各々の前記車両内ネットワークに接続された無線LANアクセスポイントと、
前記外部端末に接続または内蔵された無線LANアダプタとを有し、
前記無線LANアダプタ及び前記無線LANアクセスポイントを介して、前記外部端末と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークとをつなぐ前記伝送路を形成する、
請求項1に記載の鉄道車両のネットワークシステム。
【請求項3】
前記保守用伝送路形成手段は、
前記外部端末に内蔵され、いずれか1つの前記車両内ネットワークと接続されるVPNクライアントと、
各々の前記車両に、前記車両内ネットワークと前記全車両間ネットワークとの間に接続されて設けられるVPNサーバとを有し、
前記VPNクライアント及び前記VPNサーバを介して、前記外部端末と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークとをつなぐ前記伝送路を形成する、
請求項1に記載の鉄道車両のネットワークシステム。
【請求項4】
前記外部端末は、前記保守用伝送路形成手段により形成された前記伝送路を介して、前記保守対象機器のソフトウェアを更新する、
請求項1〜3のいずれかに記載の鉄道車両のネットワークシステム。
【請求項5】
前記外部端末は、前記保守用伝送路形成手段により形成された前記伝送路を介して、前記保守対象機器の動作ログを受信する、
請求項1〜4のいずれかに記載の鉄道車両のネットワークシステム。
【請求項6】
各々の前記車両の前記第1の機器は、前記車両内ネットワークを介して前記第2の機器の状態を監視するモニタ装置であり、
前記全車両間ネットワークを介して、各前記車両の各前記モニタ装置間で、各前記第2の機器の状態に関する情報を送受信する、
請求項1〜5のいずれかに記載の鉄道車両のネットワークシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両のネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道列車においては、通常、列車を構成する各車両に搭載された機器の状況を、先頭車両に配置したモニタ装置で監視するようになっており、各車両の機器の情報を収集するために、ネットワークが構築されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
鉄道列車は、その編成を変更する際に、車両を併合・分割するため、一般的には、車両ごとにネットワークを構成するとともに、編成全体のネットワークを構成している。以降、車両ごとのネットワークを「車両内ネットワーク」、編成全体のネットワークを「全車両間ネットワーク」と呼ぶ。
【0004】
そして、編成変更時(車両の併合・分割時)には、車両内ネットワーク同士を接続・切断するため、車両内ネットワークをローカルネットワーク、全車両間ネットワークをグローバルネットワークとし、ルータにより接続する形態が一般的である。
【0005】
通常、車両に搭載されている複数の機器は、動作ログ等の機器情報の収集等のために、車両内ネットワークに接続される。そして、運転席がある先頭車両のモニタ装置では、編成内の全車両における機器情報を確認することができ、機器の動作異常などがあった場合には運転手へ報知するようにしている。このような機器情報には、例えば、ドア、照明機器、空調機器等の動作状況あるいはその異常を示す情報などがある。
【0006】
ここで、全車両の機器情報の収集等のために、モニタ装置と他の車両の多数の機器の各々と通信する場合には、全車両間ネットワークのトラフィックが増大し、スループットが低下するという問題がある。これは、編成の車両数が多くなるほど顕著になる。
【0007】
また、上記のように、先頭車両のモニタ装置が他の車両の多数の機器の各々と通信する場合には、車両内ネットワークと全車両間ネットワークとを接続する各ルータは、各々の機器についてのアドレス変換方法を記録したテーブル(NATテーブル)に基づいて、アドレス変換することになる。しかし、機器の増減等によってアドレスの追加及び変更などが生じた場合には、NATテーブルを適宜更新しなければならず、NATテーブルを管理する手間が生じるという問題がある。また、すべての機器が他の車両からアクセス可能という状況は、セキュリティ上好ましくない。
【0008】
これらの問題を回避するために、通常、各車両に、車両内ネットワークに接続された情報収集用のモニタ装置を置き、各車両の機器情報はそのモニタ装置で収集処理し、全車両間ネットワークをモニタ装置間の通信のみに使用するようにしていることが多い。例えば、先頭車両以外の車両の機器に異常があればその異常情報を、当該車両のモニタ装置から全車両間ネットワークを用いて先頭車両のモニタ装置へ送信するようにしている。この場合、NATテーブルには、モニタ装置に関するアドレス変換方法しか記録されていないので、NATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,037,204号明細書
【特許文献2】特許第5595768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、車両に搭載されている複数の機器は、各機器に備えられている制御装置により制御されるが、制御ロジックやパラメータの変更のためには、制御装置のソフトウェア(機器の動作プログラムやパラメータ)を更新する必要がある。また、各機器の制御装置に蓄積(記憶)されている機器の動作ログ等のログ情報を取得することが必要な場合がある。このようなソフトウェアの更新や動作ログを取得するためには、作業員等により例えば携帯型の外部端末(保守端末)を保守対象機器に接続する必要がある。そのため、作業員は、編成車両のうち、保守対象機器が存在する場所に移動したり、当該機器が床下にある場合には、床下から作業を行う必要があったため、保守作業に大きな労力を必要としていた。
【0011】
特に、全車両間ネットワークをモニタ装置間の通信のみに使用するようにしている場合、NATテーブルにはモニタ装置に関するアドレス変換方法しか記録されていないので、保守端末と保守対象機器とを互いに通信可能にするために、保守端末を保守対象機器が接続されている車両内ネットワークに直接接続して行うようにしている。
【0012】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、保守作業を効率的に行うことができる鉄道車両のネットワークシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のある形態に係る鉄道車両のネットワークシステムは、複数の車両が連結された車両編成の各車両に搭載され、プライベートアドレスが付与される少なくとも第1及び第2の機器が接続された車両内ネットワークと、前記車両編成の全体において、異なる前記車両に搭載された前記機器同士の間で情報の送受信を行うための全車両間ネットワークと、各々の前記車両に、前記車両内ネットワークと前記全車両間ネットワークとの間に接続されて設けられ、異なる前記車両に搭載された前記機器同士の間で情報の送受信を行う際に、前記第1の機器の前記プライベートアドレスと前記全車両間ネットワークのIPアドレスとを相互に変換するアドレス変換を行うネットワークアドレス変換部を有するルータと、前記車両編成を構成する各前記車両に搭載された前記第1及び第2の機器の中から外部端末によって選択される保守対象機器と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークに有線接続されていない前記外部端末との間で、情報の送受信を行うための伝送路であって、前記保守対象機器が搭載された前記車両の前記ネットワークアドレス変換部を介さない伝送路を形成する保守用伝送路形成手段と、を備えている。
【0014】
この構成によれば、保守用伝送路形成手段によって、外部端末と、外部端末が有線接続されていない車両内ネットワークに存在する第1及び第2の機器の中から選択される保守対象機器との間で情報の送受信を行うための伝送路であって、保守対象機器が搭載された車両のネットワークアドレス変換部を介さない伝送路を形成することができる。よって、外部端末と、全車両間ネットワークに接続できない第2の機器との間にも伝送路を形成することができる。これにより、保守作業員は、保守作業時に、外部端末を保守対象機器に直接接続する必要もなく、例えば、ある車両(例えば先頭車両)に外部端末を持ち込んでその車両に滞在したまま、他の車両へ移動しなくても、他の車両の車両内ネットワークに接続された第1、第2の機器を保守対象として保守作業を実施することができるので、保守作業を効率的に行うことができる。また、例えば、通常の列車運行時における全車両間ネットワークを用いた通信を第1の機器間のみの通信とすることにより、全車両間ネットワークのトラフィックの増大を抑えるとともに、ルータのNATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下を抑えることができる。
【0015】
また、前記保守用伝送路形成手段は、各々の前記車両内ネットワークに接続された無線LANアクセスポイントと、前記外部端末に接続または内蔵された無線LANアダプタとを有し、前記無線LANアダプタ及び前記無線LANアクセスポイントを介して、前記外部端末と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークとをつなぐ前記伝送路を形成するようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、外部端末が、無線LANアダプタ及び無線LANアクセスポイントを介して、保守対象機器が存在する車両内ネットワークに接続することができるため、外部端末は、各車両内ネットワークに接続された全ての第1及び第2の機器を保守対象機器とすることができる。また、外部端末を車両内に持ち込まなくても車両外から保守作業を行うこともできる。
【0017】
また、前記保守用伝送路形成手段は、前記外部端末に内蔵され、いずれか1つの前記車両内ネットワークと接続されるVPNクライアントと、各々の前記車両に、前記車両内ネットワークと前記全車両間ネットワークとの間に接続されて設けられるVPNサーバとを有し、前記VPNクライアント及び前記VPNサーバを介して、前記外部端末と、前記保守対象機器が存在する前記車両内ネットワークとをつなぐ前記伝送路を形成するようにしてもよい。
【0018】
この構成によれば、外部端末が、これに内蔵されたVPNクライアント及び保守対象機器が搭載された車両のVPNサーバを介して、保守対象機器が存在する車両内ネットワークに接続することができるため、外部端末は、各車両内ネットワークに接続された全ての第1及び第2の機器を保守対象機器とすることができる。
【0019】
また、前記外部端末は、前記保守用伝送路形成手段により形成された前記伝送路を介して、前記保守対象機器のソフトウェアを更新するようにしてもよい。
【0020】
また、前記外部端末は、前記保守用伝送路形成手段により形成された前記伝送路を介して、前記保守対象機器の動作ログを受信するようにしてもよい。
【0021】
また、各々の前記車両の前記第1の機器は、前記車両内ネットワークを介して前記第2の機器の状態を監視するモニタ装置であり、前記全車両間ネットワークを介して、各前記車両の各前記モニタ装置間で、各前記第2の機器の状態に関する情報を送受信するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上に説明した構成を有し、保守作業を効率的に行うことができる鉄道車両のネットワークシステムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態の一例の鉄道車両のネットワークシステムを搭載した列車を模式的に示した図である。
図2図2は、NAT処理を説明するための図である。
図3図3は、NAT処理の一例を示す模式図である。
図4図4は、第2実施形態の一例の鉄道車両のネットワークシステムを搭載した列車を模式的に示した図である。
図5図5は、第2実施形態においてPPTPサーバを内蔵したルータによる処理を説明するための模式図である。
図6図6は、第2実施形態においてルータが全車両間ネットワークを通じてパケットを受信したときの処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態において接続制御処理を行う場合のパケットを示す図である。
図8図8は、第2実施形態におけるトンネル処理を説明するための図である。
図9図9は、第2実施形態においてトンネル及びセッションの確立手順の概要を示すフローチャートである。
図10図10は、第2実施形態において1号車の保守端末から3号車の機器へパケットを送出する際のパケットの流れを説明するための図である。
図11図11は、第2実施形態において3号車の機器から1号車の保守端末へパケットを送出する際のパケットの流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0025】
以下の第1、第2実施形態では、外部端末によって選択される保守対象機器と、保守対象機器が存在する車両内ネットワークに有線接続されていない外部端末との間で、情報の送受信を行うための伝送路であって、保守対象機器が搭載された車両のネットワークアドレス変換部を介さない伝送路を形成する保守用伝送路形成手段を有する鉄道車両のネットワークシステムの一例である。第1実施形態では、外部端末がいずれの車両内ネットワークにも有線接続されずに上記伝送路を形成することができる構成である。一方、第2実施形態では、外部端末がいずれか1つの車両内ネットワークに有線接続されて、上記伝送路を形成することができる構成であり、さらに、外部端末が有線接続された車両内ネットワークに存在する機器を保守対象機器とする場合に、保守用伝送路形成手段が、外部端末と、外部端末が有線接続された車両内ネットワークに存在する保守対象機器との間で、情報の送受信を行うための伝送路であって、保守対象機器が搭載された車両のネットワークアドレス変換部を介さない伝送路をも形成できるように構成されている。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の一例の鉄道車両のネットワークシステムを搭載した列車を模式的に示した図である。
【0027】
図1に示す車両編成(列車)4は、複数の車両1〜3が連結されて構成されている。ここで、車両1〜3は、進行方向を紙面左側とし、1号車(先頭車両)、2号車(中間車両)、3号車(後尾車両)であるが、編成に含まれる車両数はこれに限られるものではない。
【0028】
各車両1〜3において、第1の機器であるモニタ装置M(M1〜M3)と、第2の機器である機器A(A1〜A3)と、無線LANアクセスポイントAP(AP1〜AP3)とが接続された車両内ネットワークN1〜N3が構成されている。ここで、第2の機器としては、機器Aのみしか図示していないが、複数の機器(機器A,機器B,機器C,・・・)が車両内ネットワークN1〜N3に接続されている。なお、機器A,機器B,機器C等は、それぞれ、各車両において搭載される同種の機器(例えば、ドア開閉機器、空調機器、照明機器、車両制御装置など)であり、各機器に備えられている制御装置が車両内ネットワークN1〜N3に接続されている。ここで、車両内ネットワークN1〜N3の規格としては例えばイーサネット(登録商標)を用いることができる。
【0029】
また、車両編成4の全体において、モニタ装置M1〜M3間で情報の伝送を行うための全車両間ネットワークNAが構成されている。そして、各々の車両1〜3には、車両内ネットワークN1〜N3と全車両間ネットワークNAとの間を接続するルータR1〜R3が設けられている。ここでは、各ルータR1〜R3には、各車両内ネットワークN1〜N3に接続されたモニタ装置M1〜M3のみに関するNATテーブルが記録されており、全車両間ネットワークNAを用いた通信は、モニタ装置M1〜M3間でのみ行われる。
【0030】
そして、列車運行時においては、各車両1〜3のモニタ装置M1〜M3には、各車両内ネットワークN1〜N3を介して各車両に搭載された各機器(前述の機器A,機器B等)の状態が送信される。例えば、モニタ装置M1〜M3は、機器から取得した機器情報から、機器の異常動作等を示す異常情報(これも機器情報の1つ)や正常動作情報等の監視対象の動作情報を抽出する。
【0031】
そして、先頭車両以外の車両のモニタ装置M2,M3は、監視対象機器の動作情報を、全車両間ネットワークNAを介して先頭車両のモニタ装置M1へ送信する。先頭車両のモニタ装置M1には、表示装置(図示せず)が接続されており、機器の動作情報を視覚的に表示する。例えば、列車運行時に、ドアの開閉や照明機器の点灯に異常が生じた場合には、モニタ装置M2,M3から送信された異常情報等を先頭車両のモニタ装置M1の表示装置に表示するとともに警報音を鳴動させて、機器の異常を運転士に報知する。
【0032】
このように列車運行時には、全車両間ネットワークNAを通じてモニタ装置M1〜M3間で通信が行われ、先頭車両のモニタ装置M1にて全車両の機器情報が集約されて表示装置に異常情報等の機器情報が表示される。
【0033】
なお、各車両内ネットワークN1〜N3内のプライベートIPアドレスは、同種の機器及び装置に対して同一アドレスが割り当てられている。例えば、モニタ装置M1〜M3には「10.0.0.11」、機器A1〜A3には「10.0.0.12」のアドレスが割り当てられている。
【0034】
ここで、モニタ装置(M1〜M3)間で全車両間ネットワークNAを通して通信を行うときのルータ(R1〜R3)のネットワークアドレス変換処理(NAT処理)について説明しておく。図2は、NAT処理を説明するための図であり、図3は、NAT処理の一例を示す模式図である。
【0035】
図2に示すように、ルータによるNAT処理Snは、NATテーブルTnに基づいて行われる。図2において、例えば、ルータが全車両間ネットワークNAからパケットP1を受取ったときのNAT処理Snは、パケットP1のIPヘッダに含まれる宛先アドレス(グローバルIPアドレス)を、NATテーブルTnに基づいてプライベートIPアドレスに変換し、この変換したパケットP2を、車両内ネットワークへ送出する。一方、パケットP1が車両内ネットワークから受取ったパケットである場合には、IPヘッダに含まれる送信元アドレス(プライベートIPアドレス)をNATテーブルTnに基づいてグローバルIPアドレスに変換し、この変換したパケットP2を、全車両間ネットワークNAへ送出する。なお、本例の場合には、NATテーブルTnには、モニタ装置に関するアドレス変換方法しか記録されていない。
【0036】
図3では、一例として、2号車の車両内ネットワークN2に接続されたモニタ装置M2から、先頭車両(1号車)の車両内ネットワークN1に接続されたモニタ装置M1へ情報を送信する場合のNAT処理を示している。
【0037】
図3において、アドレス情報ad1は、2号車のモニタ装置M2が車両内ネットワークN2へ送出するパケットのIPヘッダに含まれる宛先及び送信元アドレスを示す。アドレス情報ad2は、ルータR2がモニタ装置M2から受取ったパケットをNAT処理して全車両間ネットワークNAへ送出するパケットのIPヘッダに含まれる宛先及び送信元アドレスを示す。また、アドレス情報ad3は、ルータR1が全車両間ネットワークNAから受取ったパケットをNAT処理して1号車の車両内ネットワークN1へ送出するパケットのIPヘッダに含まれる宛先及び送信元アドレスを示す。これらのアドレス情報ad1〜ad3では、「TO:」に続いて宛先アドレス、「FROM:」に続いて送信元アドレスが示されている。
【0038】
アドレス情報ad1とアドレス情報ad2とを比較すればわかるように、ルータR2のNAT処理によって送信元アドレスが変換されて書き換えられている。また、アドレス情報ad2とアドレス情報ad3とを比較すればわかるように、ルータR1のNAT処理によって宛先アドレスが変換されて書き換えられている。
【0039】
以上のようにして、通常の列車運行時には、モニタ装置M1〜M3間での通信が行われる。
【0040】
次に、保守端末(外部端末)5を用いて保守作業を行う場合について説明する。保守作業には、前述したように、車両に搭載された機器の制御装置のソフトウェアの更新や、機器の制御装置からの動作ログ等のログ情報の取得などがある。
【0041】
保守端末5は、ノートパソコンのような持ち運び可能な携帯型のパソコンであり、ディスプレイからなる表示部、キーボード等からなる入力部、及び、CPU及びメモリ等からなる制御部を備えている。そして、保守作業を行うためのプログラム(保守ソフト)及び必要な情報等は制御部のメモリに予め記憶されている。制御部は、入力部から入力指令が入力され、表示部の制御を行う。
【0042】
保守作業員は、保守端末5の入力部を操作することにより、制御部に入力指令を与えて保守作業を行うことができる。また、保守作業員が入力部の操作を行うために必要な情報等は、制御部の制御によって表示部の画面に表示される。よって、保守作業員は、表示部の画面を見ながら入力部を操作して保守作業を行うことができる。
【0043】
本実施形態では、各車両内ネットワークN1〜N3に無線LANアクセスポイントAP1〜AP3が接続されている。そして、保守端末5に無線LANアダプタADが接続されている。なお、無線LANアダプタADは、保守端末5に内蔵されていてもよい。
【0044】
無線LANアクセスポイントAP1〜AP3は、各々異なるSSID(識別名)が設定されており、それをビーコンとして送信している。
【0045】
本実施形態では、保守用伝送路形成手段は、無線LANアクセスポイントAP1〜AP3と、無線LANアダプタADとを有し、無線LANアダプタAD及び無線LANアクセスポイントAP1〜AP3を介して、保守端末5と、保守対象機器が存在する車両内ネットワークN1〜N3とをつなぐ伝送路を形成するようになっている。これにより、保守端末5と保守対象機器との間で、保守対象機器が搭載されたルータR1〜R3のNAT機能を用いずに、保守情報の送受信を行うための伝送路を形成することができる。
【0046】
図1では、保守端末5を1号車の車両1内に持ち込んで、3号車の車両3に搭載された機器(モニタ装置M3及び機器A3等)を保守対象機器とする場合を示し、保守端末5に無線LANアダプタADを接続し、無線LANのインフラストラクチャ・モードのように、無線LANアクセスポイントAP3を介して、保守端末5を3号車の車両内ネットワークN3に直接接続するようにしている。この接続された状態を、図1において、白抜きの太線101で模式的に示しており、太線101は実在するものではない。
【0047】
保守作業員が保守端末5の入力部を操作して、保守対象機器が搭載されている車両(3号車)を選択すると、保守端末5は、3号車の無線LANアクセスポイントAP3と共通のSSIDを設定する。これにより、保守端末5が3号車の車両内ネットワークN3に接続された状態になる。なお、保守端末5には、予め、各車両1〜3の無線LANアクセスポイントAP1〜AP3のSSIDが記憶されている。
【0048】
次に、保守作業員が保守端末5の入力部を操作して、3号車の車両3に搭載された機器の中から保守対象機器を選択することにより、保守対象機器との通信ができるように構成されている。この通信において、保守対象機器のプライベートIPアドレスが必要になるが、ここでは、各車両に搭載された同種の機器は、同じアドレスが割り当てられ、予め保守端末5に記憶されている。
【0049】
この場合、保守端末5は、3号車の車両内ネットワークN3に論理的に直接接続されているため、3号車の車両内ネットワークN3に接続された全ての機器と通信が可能になる。
【0050】
そして、保守作業として、保守対象機器(例えば機器A3)の制御装置のソフトウェア(保守対象機器の動作プログラムやパラメータ)を更新する際には、その更新するための情報が保守情報として、保守端末5から保守対象機器へ送信される。また、保守作業として、保守対象機器(例えば機器A3)の制御装置から動作ログ等のログ情報を取得する際には、保守対象機器の動作状態に関してメモリ等に記憶されたログ情報が保守情報として、保守対象機器から保守端末5へ送信される。
【0051】
なお、同様にして、保守端末5は、他の車両内ネットワークN1,N2に接続された全ての機器との通信も可能になり、選択された保守対象機器との間で保守情報の送受信ができる。
【0052】
よって、本実施形態では、保守作業員は、保守作業時に、保守端末5を保守対象機器に直接接続する必要もなく、例えば、ある車両(例えば先頭車両)に保守端末5を持ち込んでその車両に滞在したまま、他の車両へ移動しなくても、全ての車両内ネットワークN1〜N3に接続された機器(モニタ装置を含む)を保守対象として保守作業を実施することができるので、保守作業を効率的に行うことができる。また、通常の列車運行時における全車両間ネットワークNAを用いた通信をモニタ装置間のみの通信とすることにより、全車両間ネットワークNAのトラフィックの増大を抑えるとともに、ルータR1〜R3のNATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下を抑えることができる。
【0053】
なお、保守端末5が持ち込まれた車両内の機器を保守対象機器として通信する際には、保守端末5を、それが存在する車両の車両内ネットワーク(図1の例では、先頭車両1の車両内ネットワークN1)に、有線接続するようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、保守端末5を車両内に持ち込まなくても車両外から保守作業を行うこともできる。
【0055】
また、本実施形態では、各車両内ネットワークに接続された機器のプライベートIPアドレスは、同種の機器に対して同一アドレスが割り当てられ、保守端末5がそれを記憶しているものとしたが、これに限られない。例えば、DNSやNetBIOS over TCP/IPなどの名前解決手段を用いて、機器の名前からIPアドレスを特定できるように構成してもよい。また、IPアドレスを、DHCPのように動的に割り当てる方法を採用してもよい。この場合、保守端末5のIPアドレスと重複しないようにする必要があるが、そのためには、保守端末5のIPアドレスを固定として動的割当て対象から外すようにしてもよいし、保守端末5のIPアドレスも動的割り当て機能を用いて割り付けるようにしてもよい。
【0056】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態の一例の鉄道車両のネットワークシステムを搭載した列車を模式的に示した図であり、図1と同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態では、第1実施形態の場合と同様、各車両1〜3において、車両内ネットワークN1〜N3が構成されるとともに、車両編成4の全体において、モニタ装置M1〜M3間で情報の伝送を行うための全車両間ネットワークNAが構成されている。そして、各々の車両1〜3には、車両内ネットワークN1〜N3と全車両間ネットワークNAとの間を接続するルータR1〜R3が設けられ、各ルータR1〜R3には、各車両内ネットワークN1〜N3に接続されたモニタ装置M1〜M3のみに関するNATテーブルが記録されており、全車両間ネットワークNAを用いた通信は、モニタ装置M1〜M3間でのみ行われる。
【0058】
そして、本実施形態では、第1実施形態のような無線LANアクセスポイントAP1〜AP3を設けずに、各ルータR1〜R3に、VPN(仮想プライベートネットワーク)サーバとしてPPTP(Point to Point Tunneling Protocol)サーバVS1〜VS3を設けている。また、第1実施形態のような無線LANアダプタADを保守端末5に接続せずに、保守端末5にVPNクライアントとしてPPTPクライアントVCを設けている。各PPTPサーバVS1〜VS3は、ルータR1〜R3のハードウェア上で動作するソフトウェアとしても実装できるため、追加のハードウェアを不要とすることも可能である。また、PPTPクライアントVCは、保守端末5のハードウェア上で動作するソフトウェアとして実装される。
【0059】
本実施形態では、保守用伝送路形成手段は、VPNクライアントの一例であるPPTPクライアントVCと、VPNサーバの一例であるPPTPサーバVS1〜VS3とを有し、PPTPクライアントVC及びPPTPサーバVS1〜VS3を介して、保守端末5と、保守対象機器が存在する車両内ネットワークN1〜N3とをつなぐ伝送路を形成するようになっている。これにより、保守端末5と保守対象機器との間で、保守対象機器が搭載されたルータR1〜R3のNAT機能を用いずに、保守情報の送受信を行うための伝送路を形成することができる。なお、本実施形態では、VPNを構築するために、PPTPを用いた例を説明するが、VPNを構築可能である他の類する方法を使用することも可能である。
【0060】
本実施形態では、列車運行時には、第1実施形態の場合と同様、全車両間ネットワークNAを通じてモニタ装置M1〜M3間で通信が行われ、先頭車両のモニタ装置M1にて全車両の機器情報が集約されて、モニタ装置M1に接続された表示装置(図示せず)に監視対象機器の動作情報等が表示される。
【0061】
次に、保守端末5を用いて保守作業を行う場合について説明する。この場合、保守作業員は、保守端末5を1号車の車両1内に持ち込んで、1号車の車両内ネットワークN1に有線接続する。
【0062】
図4では、一例として保守端末5を1号車の車両1内に持ち込んで、1号車の車両内ネットワークN1に有線接続し、3号車の車両3に搭載された機器(モニタ装置M3及び機器A3等)を保守対象機器とする場合を示している。なお、保守端末5と車両内ネットワークとを有線接続できる構成であれば、必ずしも保守端末5を車両内に持ち込む必要はない。
【0063】
保守作業員は、保守端末5の入力部を操作して、保守対象機器を1つ選択する。ここで、例えば、保守対象機器として、3号車(車両3)の機器A3を選択すると、PPTPクライアントVCを内蔵した保守端末5は、3号車のPPTPサーバVS3を内蔵したルータR3との間で、後述のトンネル及びセッションを確立した後、機器A3との間での通信が可能になり、保守情報の送受信を行うことができる。このとき、保守端末5のPPTPクライアントVCと3号車のPPTPサーバVS3との間で通信が行われる。この状態を、図4において、白抜きの太線102で模式的に示しており、太線102は実在するものではない。
【0064】
本実施形態においては、第1実施形態のように別の通信路を設けるのではなく、通常の列車運行時のモニタ装置間の通信(モニタ通信)と、保守作業時の通信とが同じ通信路(全車両間ネットワークNA)を共用して行われる。そのため、ルータはパケットを適切に処理しわける必要がある。
【0065】
図5は、PPTPサーバを内蔵したルータによる処理を説明するための模式図であり、図6は、上記ルータが全車両間ネットワークNAを通じてパケットを受信したときの処理を示すフローチャートである。
【0066】
PPTPの通信は大別して、
(a)TCP/IPを用いてトンネル及びセッションを確立するための通信
(b)PPTPトンネリングプロトコルを用いた通信
がある。PPTPクライアントVC(保守端末5)は、(a)を用いてルータで稼働しているPPTPサーバとの間で、トンネル及びセッションを確立した後、(b)を用いて保守対象とする車両内ネットワーク内の機器へアクセスする。
【0067】
図6に示すように、ルータは、ステップS1〜S3の処理によって、受信パケットのプロトコル番号が47の場合にはトンネル処理Stを行い、宛先ポート番号が1723の場合には接続制御処理Scを行い、これら以外の場合はモニタ装置間の通信(モニタ通信)でありNAT処理Snを行う。これを模式的に示したのが図5である。なお、図5では、一例として、1号車のモニタ装置M1及び保守端末5と、3号車のPPTPサーバを内蔵したルータR3との間の通信を示している。
【0068】
図7は、接続制御処理Scを行う場合のパケットを示す図である。このパケットP3のTCPヘッダに含まれる宛先ポート番号が1723になっている。
【0069】
図8は、トンネル処理Stを説明するための図である。ルータは、全車両間ネットワークNAから受取ったパケットが図8に示すパケットP4であり、先頭のIPヘッダに含まれるプロトコル番号が47であればトンネリングパケットであり、このトンネリングパケットP4からペイロードを抽出する。トンネリングパケットP4からペイロードを抽出する処理がトンネル処理Stであり、抽出されたペイロードがオリジナルのパケットP5である。
【0070】
上記の接続制御処理Sc及びトンネル処理Stは、ルータ(R1〜R3)に内蔵されたPPTPサーバ(VS1〜VS3)によって行われる。
【0071】
図9は、上記(a)によるトンネル及びセッションの確立手順の概要を示すフローチャートであり、このうちのルータの処理(ステップS21〜S27)が接続制御処理Scである。以下の説明中のルータ及びPPTPサーバは、保守対象機器が接続された車両内ネットワークに接続されているルータ(R1〜R3)及びそれに内蔵されているPPTPサーバ(VS1〜VS3)である。
【0072】
保守端末5のPPTPクライアントVCは、宛先ポート番号を1723(PPTPの場合1723)として接続対象のルータの待ち受けポートに対して、TCPで接続要求を送信する(ステップS11)。ルータは接続要求を受信し(ステップS21)、宛先ポート番号で接続要求と判断し、パケットをPPTPサーバの処理ルーチンで処理し、PPTPクライアントVCに接続応答(成功/失敗)を返す(ステップS22)。PPTPクライアントVCは接続応答を受信し(ステップS12)、成功であれば引き続きセッション開始要求を送信する(ステップS13)。セッション開始要求には識別のため「呼出ID」を含む。PPTPサーバはセッション開始要求を受けて、その受付処理を行ってセッション開始応答(成功/失敗)を返す(ステップS23〜S25)。セッション開始応答には識別のため「呼出ID」「応答ID」を含む。PPTPクライアントVCはセッション開始応答を受信し、成功であればセッション接続完了を送信する(ステップS14〜S15)。セッション接続完了には識別のため「応答ID」を含む。PPTPサーバはセッション接続完了を受けて、本セッションで使用可能なセッション情報(通信オプション)を返す(ステップS26〜S27)。セッション情報には識別のため「呼出ID」を含む。なお、セッションは必要に応じて複数確立することができる。
【0073】
PPTPクライアントVCはセッション情報を受信し(ステップS16)、セッション確立後は、前述した(b)のトンネリングプロトコル(PPTPの場合、プロトコル番号47)を使用して通信する。なお、必要に応じてCHAPなどの認証処理や、RC4などの暗号化手順を併用することができる。
【0074】
次に、トンネル及びセッションが確立した後のパケットの流れについて説明する。ここでは、一例として、保守端末5と3号車(車両3)の機器A3との間で通信されるパケットについて説明する。
【0075】
図10は、1号車の車両内ネットワークN1に接続された保守端末5から3号車の機器A3へパケットを送出する際のパケットの流れを説明するための図である。この場合、図10中網掛けで示した1号車のPPTPサーバVS1と、3号車のPPTPサーバVS3を除く本来のルータR3とは、本パケットの伝送に関与しない。図10において、パケットのヘッダに含まれるアドレス情報ad11〜ad13では、「TO:」に続いて宛先アドレス、「FROM:」に続いて送信元アドレスが示されている。
【0076】
保守端末5は、保守作業を行うためのプログラムである保守ソフト5Aの他に、前述のようにPPTPクライアントVCをソフトウェアとして実装している。
【0077】
まず、保守端末5で動作している保守ソフト5Aは、機器A3(10.0.0.12)宛のパケットを生成してPPTPクライアントVCに送付する。PPTPクライアントVCは、既知のトンネル・セッション情報から新たに3号車宛のヘッダ(アドレス情報ad12を含むヘッダ)を付加してトンネリングパケットを生成し、1号車のルータR1へ送信する。
【0078】
1号車のルータR1は、受信した3号車宛のトンネリングパケットをNAT機能で処理し、送信元アドレスを保守端末5のグローバルIPアドレスに書き換えて、全車両間ネットワークNAへ送出する。このとき書き換えるのはトンネリングパケットとして付加されたヘッダのみで、保守ソフト5Aが生成したオリジナルのパケットに対して書き換えは行わない。よって、アドレス情報ad12のみがアドレス情報ad13に書き換えられる。
【0079】
トンネリングパケットは全車両間ネットワークNAを経由し、3号車のハードウェアとしてのルータR3へ送られ、トンネリングパケットのヘッダのプロトコル番号が特定の番号(47)であることから、PPTPサーバVS3に送られる。3号車のPPTPサーバVS3は、トンネリングパケットのヘッダを削除し、保守ソフト5Aが生成したオリジナルパケットを取り出し(前述のトンネル処理St)、3号車の車両内ネットワークN3にある機器A3へ送出する。
【0080】
ここで、3号車のPPTPサーバVS3は、3号車の車両内ネットワークN3の機器群から保守端末5へのパケットを適切に処理できるように、保守端末5と同じプライベートIPアドレスを使用する。すなわち、本例のように、PPTPサーバVS3とルータR3が同じネットワーク機器で動作し、その機器が車両内ネットワークN3と1回線で接続されている場合、その回線は複数のIPアドレスを共用する(図10の場合、その回線はルータR3の10.0.0.1とPPTPサーバVS3の10.0.0.10の2つのIPアドレスを持つ。)。
【0081】
次に、図11は、3号車の機器A3から1号車の車両内ネットワークN1に接続された保守端末5へパケットを送出する際のパケットの流れを説明するための図である。この場合も、図11中網掛けで示した1号車のPPTPサーバVS1と、3号車のPPTPサーバVS3を除く本来のルータR3とは、本パケットの伝送に関与しない。図11において、パケットのヘッダに含まれるアドレス情報ad21〜ad23では、「TO:」に続いて宛先アドレス、「FROM:」に続いて送信元アドレスが示されている。
【0082】
まず、3号車の機器A3が保守端末5(保守ソフト5A)宛のパケットを生成し、車両内ネットワーク3Nへ送出すると、保守端末5と同じプライベートIPアドレスを持つPPTPサーバVS3に配信される。
【0083】
PPTPサーバVS3は、既知のトンネル・セッション情報から新たに1号車宛のヘッダ(アドレス情報ad22を含むヘッダ)を付加してトンネリングパケットを生成し、1号車のルータR1へ送付する。
【0084】
1号車のルータR1は、受信したトンネリングパケットをNAT機能で処理し、宛先アドレスを保守端末5のプライベートIPアドレスに書き換えて、1号車の車両内ネットワークN1へ送出する。このとき書き換えるのはトンネリングパケットとして付与されたヘッダのみで、機器A3が生成したオリジナルのパケットに対して書き換えは行わない。よって、アドレス情報ad22のみがアドレス情報ad23に書き換えられる。
【0085】
トンネリングパケットは1号車の車両内ネットワークN1を経由し保守端末5へ送られ、PPTPクライアントVCがトンネリングパケットのヘッダを削除し、機器A3が生成したオリジナルパケットを取り出し、保守ソフト5Aへ伝送する。
【0086】
以上より、保守端末5(保守ソフト5A)と機器A3とは、あたかも同じ車両内ネットワーク(ローカルネットワーク)に属しているように通信することが可能になる。同様にして、保守端末5は、3号車の車両内ネットワークN3に接続された全ての機器と通信が可能になる。
【0087】
そして、保守作業として、保守対象機器(例えば機器A3)の制御装置のソフトウェア(保守対象機器の動作プログラムやパラメータ)を更新する際には、その更新するための情報が保守情報として、保守端末5から保守対象機器へ送信される。また、保守作業として、保守対象機器(例えば機器A3)の制御装置から動作ログ等のログ情報を取得する際には、保守対象機器の動作状態に関してメモリ等に記憶されたログ情報が保守情報として、保守対象機器から保守端末5へ送信される。
【0088】
また、同様にして、保守端末5は、他の車両内ネットワークN1,N2に接続された全ての機器との通信も可能になり、選択された保守対象機器との間で保守情報の送受信ができる。
【0089】
なお、PPTPサーバVS1〜VS3は、必ずしもルータR1〜R3に内蔵して動作させる必要はなく、別の独立した機器で動作させるように構成してもよい。
【0090】
本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様、保守作業員は、保守作業時に、保守端末5を保守対象機器に直接接続する必要もなく、ある車両(例えば先頭車両)に保守端末5を持ち込んでその車両に滞在したまま、他の車両へ移動しなくても、全ての車両内ネットワークN1〜N3に接続された機器(モニタ装置を含む)を保守対象として保守作業を実施することができるので、保守作業を効率的に行うことができる。また、通常の列車運行時における全車両間ネットワークNAを用いた通信をモニタ装置間のみの通信とすることにより、全車両間ネットワークNAのトラフィックの増大を抑えるとともに、ルータR1〜R3のNATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下を抑えることができる。
【0091】
また、保守端末5が持ち込まれた車両内の機器を保守対象機器として通信する際には、保守端末5を、それが存在する車両の車両内ネットワーク(図4の例では、先頭車両1の車両内ネットワークN1)に有線接続して、PPTPを用いずに、保守端末5をその車両内ネットワークを構成する1つの機器とするようにしてもよい。
【0092】
なお、第1、第2実施形態では、通常の列車運行時における全車両間ネットワークNAを用いた通信をモニタ装置間のみの通信としたが、これに限られるものではない。例えば、全車両間ネットワークNAを用いた通信を、少数の特定装置(モニタ装置、機器)間の通信に限定することで、全車両間ネットワークNAのトラフィックの増大をある程度抑えるとともに、ルータR1〜R3のNATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下をある程度抑えることができる。
【0093】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、全車両間ネットワークのトラフィックの増大を抑えるとともに、NATテーブルの管理の手間やセキュリティの低下を抑え、かつ保守作業を効率的に行うことができる鉄道車両のネットワークシステム等として有用である。
【符号の説明】
【0095】
1〜3 車両
4 車両編成
5 保守端末(外部端末)
M1〜M3 モニタ装置(第1の機器)
A1〜A3 機器(第2の機器)
N1〜N3 車両内ネットワーク
NA 全車両間ネットワーク
R1〜R3 ルータ
AP1〜AP3 無線LANアクセスポイント
AD 無線LANアダプタ
VC PPTPクライアント(VPNクライアント)
VS1〜VS3 PPTPサーバ(VPNサーバ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11