(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱間圧延後の厚鋼板の搬送方向に列設され、搬送方向と垂直な幅方向に分布を有する水量密度で散水できる複数の冷却ヘッダーと、これらの複数の冷却ヘッダー間、最初の冷却ヘッダーの上流側及び最後の冷却ヘッダーの下流側に配設され、厚鋼板の表面に幅方向に傾斜して噴水できる複数の水切りヘッダーとを備える冷却装置を用い、熱間圧延後の厚鋼板を冷却する方法であって、
上記冷却装置に投入される厚鋼板の幅方向の温度分布を測定する工程と、
上記測定工程で得られる温度分布、上記厚鋼板の物性、冷却ヘッダーから散水される冷却水の温度、及び上記各水切りヘッダーの使用の有無又は各水切りヘッダーの搬送方向位置の違いの水切りパターンに基づいて、冷却開始から終了までの厚鋼板の表面の温度分布を予測する工程と、
上記予測工程で得られる温度分布の偏差が小さくなるよう水切りパターンを選択する工程と
を備えることを特徴とする厚鋼板冷却方法。
上記冷却開始から終了までの厚鋼板の表面の温度分布の予測が、上記水切りパターン毎に予想される搬送方向の水膜高さ分布に基づく各冷却ヘッダー毎の水膜高さの代表値を用いて行われる請求項1に記載の厚鋼板冷却方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0018】
[厚鋼板加工設備]
図1の厚鋼板加工設備は、原料厚鋼板(スラブ)Pを加熱する加熱炉1と、加熱された原料厚鋼板Pを熱間圧延する粗圧延機2と、粗圧延機2で圧延された厚鋼板Pをさらに熱間圧延する仕上圧延機3と、仕上圧延機3で熱間圧延された厚鋼板Pを冷却する厚鋼板冷却装置4と、冷却された厚鋼板Pを矯正するレベラー5とを備える。
【0019】
加熱炉1、粗圧延機2、仕上圧延機3及びレベラー5については、それぞれ公知の構成とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0020】
<厚鋼板冷却装置>
厚鋼板冷却装置4は、熱間圧延後の厚鋼板Pを搬送しつつ厚鋼板Pの表面(上面)及び裏面(下面)に冷却水を散水することにより厚鋼板Pを冷却するものであって、加速冷却装置とも呼ばれる。この厚鋼板冷却装置4において、厚鋼板Pの冷却は、予め設定される冷却停止温度まで急速に冷却される。冷却停止温度としては、目的とする製品(厚鋼板Pの用途)に応じて定められるが、例えば200℃以上650℃以下とされる。
【0021】
当該厚鋼板冷却装置4は、
図2に示すように、搬送装置10、温度測定装置20、複数の表面冷却ヘッダー30、複数の水切りヘッダー40、複数の裏面冷却ヘッダー50及び制御装置60を備える。
【0022】
(搬送装置)
上記搬送装置10は、厚鋼板Pを搬送する。この搬送装置10は、例えば
図2に例示するように、複数のローラー11によって構成されるローラーコンベアーとすることができる。
【0023】
(温度測定装置)
温度測定装置20は、上記搬送装置10により搬送される厚鋼板Pの搬送方向に垂直な幅方向の温度分布を測定する。この温度測定装置20は、表面冷却ヘッダー30の上流側で厚鋼板Pの幅方向の温度分布を測定できるものであればよく、例えば放射温度計を用いることができる。
【0024】
(表面冷却ヘッダー)
上記表面冷却ヘッダー30は、厚鋼板Pの搬送方向に列設され、それぞれ幅方向に分布を有する水量密度で厚鋼板Pの表面に冷却水を散水できるよう構成される。
【0025】
表面冷却ヘッダー30は、
図3(a)に示すように、厚鋼板Pの幅方向(図中左右方向)に長い直方体状であり、底面に開口する複数の吐出口31と、内部空間を幅方向に3つに区分する2枚の隔壁32とを備え、2枚の隔壁32が幅方向に対称、かつ幅方向に対して傾斜して搬送方向上流側に向けて広がるように配設されている。これにより、表面冷却ヘッダー30の内部空間は、2枚の隔壁32の内側の中央領域33と2枚の隔壁32の外側の2つの端部領域34とに区分される。この表面冷却ヘッダー30に対して、厚鋼板Pは、図中の矢印D方向に搬送される。
【0026】
また、表面冷却ヘッダー30は、中央領域33に冷却水を供給する中央給水流路35及び2つの端部領域34に冷却水をそれぞれ給水する一対の端部給水流路36を有する。中央給水流路35には、主調整弁37を介して冷却水が供給される。一方、端部給水流路36には、中央給水流路35から分岐する分岐流路38に設けた分岐調整弁39を介して、中央給水流路35から冷却水が供給されるようになっている。
【0027】
このように構成された表面冷却ヘッダー30は、厚鋼板Pの中心軸を基準とする幅方向の位置x[mm]における水量密度W(x)[L/min/m
2]が、
図3(b)に示すような分布を示す。なお、表面冷却ヘッダー30の一方の隔壁32は幅方向位置x
1[mm]からx
2[mm]にかけて配設され、他方の隔壁32は一方の隔壁32と対称に配設されている。また、表面冷却ヘッダー30の両端の位置は±x
3とされている。
【0028】
幅方向中心における水量密度(基準水量密度)W
0[L/min/m
2]は、中央給水流路35への給水量によって定められる。また、幅方向両端(x
3)における水量密度W(x
3)は、端部給水流路36への給水量によって定められ、基準水量密度W
0に対する比をクラウン量Cw[無次元数]として、W(x
3)=Cw・W
0で表わされる。このクラウン量Cwは、分岐調整弁39によって調整することができる。そして、幅方向位置x
1からx
2の間において、隔壁32により区分される中央領域33と端部領域34との搬送方向の長さ割合が線形に変化するので、水量密度W(x)は、W
0からCw・W
0まで直線的に変化する。
【0029】
(水切りヘッダー)
上記水切りヘッダー40は、複数の表面冷却ヘッダー30の間、最初の表面冷却ヘッダー30の上流側及び最後の表面冷却ヘッダー30の下流側にそれぞれ配設され、厚鋼板Pの表面に幅方向に傾斜して噴水することにより、厚鋼板Pの表面に滞留する冷却水を幅方向に押し流して除去する。
【0030】
水切りヘッダー40の具体的な構成としては、厚鋼板Pの幅方向略中央の上方に配設され、幅方向一方側に傾斜して厚鋼板Pの表面に冷却水を噴射する第1のノズルと、この第1のノズルの搬送方向後方に並んで配設され、幅方向他方側に傾斜して厚鋼板Pの表面に冷却水を噴射する第2のノズルとを備える構成とすることができる。
【0031】
(裏面冷却ヘッダー)
上記裏面冷却ヘッダー50は、厚鋼板Pを挟んで表面冷却ヘッダー30に対向するよう配設され、厚鋼板Pの裏面に均等な水量密度で冷却水を散水する。
【0032】
裏面冷却ヘッダー50は、厚鋼板Pの裏面に一様に冷却水を散水する多数のノズルにより構成される。この裏面冷却ヘッダー50による散水量は、位置にかかわらず一定とされる。
【0033】
(制御装置)
上記制御装置60は、温度測定装置20の測定結果に基づいて、水切りヘッダー40の使用の有無の組合せにより決定される水切りパターンの選択、及び表面冷却ヘッダー30の水量密度分布の調整を行う。
【0034】
具体的には、制御装置60は、温度測定装置20が測定した温度分布、上記厚鋼板の物性、冷却ヘッダーから散水される冷却水の温度、及び上記水切りパターンに基づいて、冷却開始から終了までの厚鋼板の表面の温度分布を予測する処理と、予測した冷却開始から終了までの温度分布の偏差が小さくなるよう水切りパターンを選択する処理と、選択した水切りパターンにおいて予測される冷却後の幅方向の温度偏差を小さくするよう水量密度分布W(x)を調整する処理とを行う。
【0035】
制御装置60は、水量密度分布決定処理の各制御工程をそれぞれ実行する複数の制御要素を有し、厚鋼板冷却装置4の動作を制御する。なお、上記水量密度分布決定処理の各制御工程については、後で詳しく説明する。制御装置60は、例えばマイクロコンピューターを有するパーソナルコンピューター、プログラマブルロジックコントローラー等からなり、例えば各制御要素を構成するプログラムモジュール又はパートプログラムを含む制御プログラムに従って、温度分布予測処理、水切りパターン選択処理及び水量密度分布調整処理を実行する。
【0036】
制御装置60は、ある水切りパターンにおいて表面冷却ヘッダー30から散水される冷却水の滞留によって厚鋼板Pの表面に形成される水膜の幅方向中央における高さ(基準水膜高さ)h
0の搬送方向の分布、つまり搬送方向の各位置y[mm]における基準水膜高さh
0(y)[mm]の予測値を予め記憶している。ここで、この基準水膜高さの搬送方向の分布h
0(y)としては、簡略化のため、幅方向の水量密度分布W(x)が、全ての位置xにおいて基準水量密度W
0である場合のものを用いることができる。当該厚鋼板冷却装置4において、搬送方向の基準水膜高さh
0(y)の分布は、例えば
図4に示すような分布となる。
【0037】
各水切りパターンにおける基準水膜高さh
0(y)の分布の予測値は、実機を用いた試験により予め測定してもよいが、表面冷却ヘッダー30の実機又はダウンスケールモデルを1つだけ用いた散水試験により測定される幅方向の水膜高さの分布に基づいて、シミュレーションにより予め算出してもよい。基準水膜高さh
0(y)のシミュレーション方法としては、VOF(Volume of Fluid)法を用いた流動シミュレーションを用いることができる。具体的には、連続の式、運動量保存式(非圧縮性Navier−Stokes方程式)、k−ω SST乱流モデル、及び気液二相流(空気、水)を考慮して基礎方程式を導出するとよい。
【0038】
また、基準水膜高さの分布h
0(y)は、搬送方向に並んだ複数の区間を設定し、各区間内では幅方向中央の水膜高さが一定であるものとして取り扱うこともできる。つまり、基準水膜高さの分布h
0(y)は、複数の区間についてそれぞれ1つ算出される代表値の数列によって表わすことができる。典型的には、水切りヘッダー40の間を1つの区間とし、表面冷却ヘッダー30毎に1つずつ定められる水膜高さh
0(y)の代表値が制御装置60に予め記憶される。
【0039】
制御装置60は、温度測定装置20によって測定された厚鋼板Pの幅方向の温度分布Ti(x)[K]、初期設定時の表面冷却ヘッダー30の水量密度分布W(x)、表面冷却ヘッダー30から散水される冷却水の温度、予め設定される厚鋼板Pの物性、サイズ等のパラメーター、及び各水切りパターンに対応する水膜高さの搬送方向の分布h
0(y)に基づいて、冷却開始から終了までの厚鋼板Pの表面温度の幅方向の偏差を算出し、この表面温度の偏差が小さくなる水切りパターンを選択する処理を行う。
【0040】
そして、制御装置60は、選択した水切りパターンにおいて、さらに表面温度の偏差が小さくなるよう水量密度分布W(x)を調整する処理を行う。つまり、制御装置60は、選択した水切りパターンを適用して、基準水量密度W
0及びクラウン量Cwを調整弁37及び分岐調整弁39によって調節することにより、表面冷却ヘッダー30の水量密度分布W(x)を決定する処理を行う。
【0041】
<レベラー>
レベラー5は、厚鋼板冷却装置4により冷却された厚鋼板Pの歪みをローラーによって補正して平坦化する。
【0042】
<厚鋼板冷却方法>
これより、上記厚鋼板冷却装置4の動作、つまり上記制御装置60によって行うことができる本発明の一実施形態に係る厚鋼板冷却方法について説明する。
【0043】
厚鋼板冷却装置4の制御装置60は、
図5に示すように、水量密度分布W(x)の初期値を含む初期条件を設定する工程(ステップS01)と、温度測定装置20により厚鋼板Pの温度分布Ti(x)を測定する工程(ステップS02)と、測定した温度分布、冷却水の水温及び複数の水切りパターンに基づいて、各水切りパターンにおける冷却開始から終了までの厚鋼板Pの幅方向の温度分布を予測する工程(ステップS03)と、予測した冷却開始から終了までの厚鋼板Pの温度分布における偏差が最も小さい水切りパターンを選択する工程(ステップS04)と、予測した冷却開始から終了までの厚鋼板Pの温度偏差の中の冷却終了時の温度偏差(冷却後の温度偏差)が予め設定される所定の閾値以下であるか否かを確認する工程(ステップS05)と、冷却後の厚鋼板Pの温度偏差の確認結果に基づいてこの温度偏差が小さくなるよう水量密度分布W(x)を調整する工程(ステップS06)と、調整後の水量密度分布W(x)に基づいて冷却後の厚鋼板Pの幅方向の温度分布を再予測する工程(ステップS07)とを備える。
【0044】
〔初期条件設定工程〕
ステップS01の初期条件設定工程において、制御装置60は、水量密度分布W(x)の初期値及びその他の運転条件を設定する。また、その他の運転条件としては、厚鋼板Pの板厚、幅方向の長さ、比熱、熱伝導率、変態発熱量等の物性、冷却水の水温、冷却停止温度、搬送装置10の搬送速度などが設定される。このような初期条件は、例えばハードディスクドライブやメモリー等の記憶装置から読み込むことや、外部の制御装置との通信によって設定することができる。
【0045】
〔温度分布測定工程〕
ステップS02の温度分布測定工程において、制御装置60は、温度測定装置20に厚鋼板Pの幅方向位置xでの表面温度の分布Ti(x)[K]を測定させる。この厚鋼板Pの温度分布Ti(x)は、厚鋼板Pの仕様等に応じて差異があり、同じ仕様の厚鋼板Pであっても、加熱炉1での偏熱、スキッドの影響等により一定ではない。
【0046】
〔温度分布予測工程〕
ステップS03の温度分布予測工程は、
図6に示すように、初期設定されている水量密度分布W(x)及び厚鋼板Pの幅方向の長さB[mm]を考慮して厚鋼板Pの表面に形成される水膜高さの幅方向の分布h(x)を算出する工程(ステップS11)と、この水膜高さ分布h(x)を用いて熱伝達係数の分布α(x)[W/(m
2・K)]を算出する工程(ステップS12)と、上記温度分布Ti(x)の測定値及び熱伝達係数分布α(x)に基づいて厚鋼板Pの冷却開始から終了まで、つまり全ての複数の表面冷却ヘッダー30の下を通過する間の予測温度分布Te(x)を導出する工程(ステップS13)とを有する。
【0047】
〈水膜高さ分布算出工程〉
ステップS11の水膜高さ算出工程では、幅方向の位置xでの水膜高さh(x)を、限界水膜高さh
cr[mm]と、水量密度分布W(x)と、厚鋼板Pの幅方向の長さB及び厚鋼板冷却装置4固有の特性等に応じて定められる係数f
1、f
2及びf
3とを用い、下記式(1)により算出する。
h(x)=h
cr+f
1・(1−f
3・x)
0.5−f
2・(1−f
3・x) ・・・(1)
【0048】
上記式(1)においては、下記式(11)及び(12)の関係が成り立つ。
h
cr={(2+C)・q
cr2/2/g}
1/3 ・・・(11)
q
cr=γ・(B
2+0.25)
0.5/4 ・・・(12)
なお、q
crは限界流量[L/min]、gは重力加速度[m/sec
2]、γは水量密度、水量クラウン量及びエッジカット量により決定されるノズル群流量[L/min]、Cは定数である。
【0049】
〈熱伝達係数分布算出工程〉
ステップS12の熱伝達係数分布算出工程では、位置xでの熱伝達係数α(x)を、水膜高さh(x)と、基準水膜高さh
0(y)[mm]及び幅方向中心での熱伝達係数(基準熱伝達係数)α
0[W/(m
2・K)]と
、基準水量密度W
0に応じて定められる補正係数εとを用い、下記式(2)により算出する。
α(x)={h(x)/h
0(y)}
ε・α
0 ・・・(2)
【0050】
なお、上記基準熱伝達係数α
0は、実機又は実機を小型化した模擬試験装置での試験により、次の式(21)によってスケールを補正することにより予め設定される。
α
0=10^(c
1+c
2・logW
0+c
3・Ti
0) ・・・(21)
なお、c
1、c
2及びc
3は定数であり、Ti
0は、厚鋼板Pの幅方向中心での表面温度[K]である。
【0051】
模擬試験装置の例としては、冷却ヘッダーとして500個/m
2の密度で吐出口を有し、この吐出口が厚鋼板の300〜500mm上方に配置され、冷却水の水量を200〜2000L/min/m
2の間とすることができるものを有する装置を使用することができる。
【0052】
また、上記補正係数εは、予め上記模擬試験装置での試験により、基準水量密度W
0毎に設定されるか、基準水量密度W
0の関数として設定される。
【0053】
〈予測温度分布導出工程〉
ステップS13の温度分布導出工程では、上記温度分布Ti(x)及び熱伝達係数分布α(x)を用いて、冷却開始から終了までの厚鋼板Pの予測される幅方向の温度分布Te(x)を導出する。この予測温度分布Te(x)の導出は、厚鋼板Pの表面における熱伝達を上記熱伝達係数α(x)を用いて計算し、厚鋼板Pの内部における熱伝導を厚さ方向の一次元熱伝導方程式を用いて計算することによって行われる。
【0054】
〔水切りパターン選択工程〕
図5のステップS04の水切りパターン選択工程では、ステップS03で予測した温度分布Te(x)の履歴のうちで、冷却終了時の温度分布Te(x)について幅方向中心における温度Te(0)との偏差の平均値を算出し、この平均温度偏差の絶対値が最も小さい水切りパターンを選択する。
【0055】
〔確認工程〕
ステップS05の確認工程では、ステップS04の水切りパターン選択工程で選択した水切りパターンについて予測した温度分布Te(x)における上記温度偏差の絶対値が温度分布Te(x)所定の閾値以下であるか否かを確認する。このステップS05において平均温度偏差の絶対値が閾値以下である場合、温度偏差が収束したものと判断して、
図5の水量密度分布決定処理を終了、つまり現在の水量密度分布W(x)を維持する。一方、ステップS05において平均温度偏差の絶対値が閾値を超える場合、ステップS06に進んで水量密度分布W(x)の調整を行い、ステップS07で温度分布Te(x)の再予測を行う。
【0056】
〔水量密度分布調整工程〕
ステップS06の水量密度分布調整工程では、クラウン量Cwを調整する。具体的には、上記平均温度偏差が正の値である場合にはクラウン量Cwを一定量だけ増加し、上記平均温度偏差が負の値である場合にはクラウン量Cwを一定量だけ減少する。
【0057】
〔温度分布再予測工程〕
ステップS07の温度分布再予測工程では、冷却後の厚鋼板P表面の温度分布Te(x)を改めて予測し直す。この冷却後の厚鋼板P表面の温度分布Te(x)の予測は、ステップS03の温度分布予測工程と同様に、
図6に示す手順で冷却開始から終了までの厚鋼板P表面の温度分布Te(x)を予測することによって行ってもよい。
【0058】
ステップS07の温度分布再予測工程で、温度分布Te(x)を再予測したならば、ステップS05に戻って、予測温度分布Te(x)における温度偏差が一定の閾値以下となったかどうかを確認する。
【0059】
このように、ステップS05において予測温度分布Te(x)の温度偏差が一定の閾値以下に収束するまでステップS06の水量密度分布調整工程及びステップS07の温度分布再予測工程が繰り返し行われる。
【0060】
<利点>
当該厚鋼板冷却方法を行う当該厚鋼板冷却装置4は、水切りパターンを考慮して冷却開始から終了までの厚鋼板Pの表面の温度分布Te(x)を予測し、温度分布Te(x)の偏差が小さくなる水切りパターンを選択することにより水膜高さの搬送方向の分布を適切化するので、冷却開始から終了までの厚鋼板Pの温度偏差を効果的に抑制できる。従って、当該厚鋼板冷却方法により厚鋼板を冷却する当該厚鋼板の製造方法は、高品質の厚鋼板を製造することができる。
【0061】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0062】
当該厚鋼板冷却方法において、水量密度分布調整工程を省略しても、幅方向の温度偏差を低減する効果を得ることができる。
【0063】
当該厚鋼板冷却方法において、水切りパターン選択工程は、各水切りパターンについての温度分布予測工程後に、その都度予測した温度分布における温度偏差を確認し、温度偏差が予め設定される閾値以下である場合に、その温度分布の算出に用いた水切りパターンを選択してもよい。
【0064】
当該厚鋼板冷却方法及び当該厚鋼板冷却装置において、水切りパターンは、水切りヘッダーの使用の有無に限らず、水切りヘッダーの搬送方向の位置が異なるパターンであってもよい。つまり、水冷ヘッダーの間で水切りヘッダーを搬送方向に移動可能とし、この水冷ヘッダーの移動による搬送方向の水膜高さの変化を考慮して、水切りパターンを選択してもよい。また、水切りヘッダーの使用の有無と水切りヘッダーの搬送方向の移動とを組み合わせた水切りパターンを設定してもよい。
【0065】
当該厚鋼板冷却方法において、予測工程で冷却開始から終了までの厚鋼板の裏面の温度分布をさらに予測し、選択工程で予測工程で得られる厚鋼板の表面の温度分布と裏面の温度分布との差が小さくなるよう水切りパターンを選択してもよい。このように、予測工程で冷却開始から終了までの厚鋼板の裏面の温度分布をさらに予測し、選択工程で予測工程で得られる厚鋼板の表面の温度分布と裏面の温度分布との差が小さくなるよう水切りパターンを選択することによって、冷却開始から終了までの厚鋼板の表裏面の温度差も小さくすることができるので、厚鋼板の品質をさらに向上できる。
【0066】
当該厚鋼板冷却装置において、幅方向の水量密度分布の調整を行う場合、表面冷却ヘッダーは、どのような構造であってもよい。また、表面冷却ヘッダーの数は、4つに限らず、1つでもよく、2つ、3つ又は5つ以上であってもよい。
【0067】
また、本発明に係る厚鋼板加工設備は、上述以外の装置を有してもよい。例えば、粗圧延機の上流側にバーティカルエッジャーを設けてもよく、厚鋼板冷却装置の上流側にさらなるレベラーを設けてもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0069】
(実験例)
図2に準じ、4つの表面冷却ヘッダーと5つの水切りヘッダーとを備える冷却装置を用いて、水切りヘッダーの使用の有無の組合せが異なる水切りパターンにおいて、厚鋼板を冷却し、表裏の温度差を確認した。具体的には、水切りヘッダーを全て使用する水切りパターンと、水切りヘッダーを1つおきに使用する水切りパターン(1番目の表面冷却ヘッダーと2番目の表面冷却ヘッダーとの間の水切りヘッダー及び3番目の表面冷却ヘッダーと4番目の表面冷却ヘッダーとの間の水切りヘッダーを不使用)とで厚鋼板を冷却し、厚鋼板の表裏面の平均温度差がどのように異なるかを確認した。
【0070】
なお、この実験には、板厚20mm、板幅4000mmの厚鋼板を用い、冷却開始温度を800℃、冷却停止温度を550℃とした。また、厚鋼板冷却装置としては、表面冷却ヘッダーの搬送方向の間隔が3mであるものを使用した。
【0071】
図7に、各水切りパターンにおける厚鋼板の表裏面の平均温度差の時間積分値の変化を示す。図示するように、この例では、水切りヘッダーを1つ置きに使用した方が、水切りヘッダーを全て使用するよりも、厚鋼板の表裏面の平均温度差を時間累積値で約18%低減することができた。
【0072】
この実験から分かるように、本発明に係る厚鋼板冷却方法により、水切りパターンを選択することで、厚鋼板冷却時の温度差を低減できると考えられる。