(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0018】
〔樹脂製歯車〕
(第1の実施形態の樹脂製歯車)
第1の実施形態における樹脂製歯車は、
リム部と、当該リム部の外周部に設けられた歯部を有し、
前記リム部に対して、又は前記リム部及び前記歯部に対して、75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を1回行った後の歯車の歪み量c(%)と、
75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を50回繰り返して行った後の歯車の歪み量d(%)との差(d−c:残留歪み)が、0.9ポイント以下である。
【0019】
(第2の実施形態の樹脂製歯車)
第2の実施形態における樹脂製歯車は、
リム部と、当該リム部の外周部に設けられた歯部を有し、
前記リム部に対して、又は前記リム部及び前記歯部に対して、75MPaの負荷を1回行った際の歪み量b(%)と、その後75MPaから15MPaまでの除荷を1回行った後の歪み量c(%)との差(b−c:弾性歪み)が、2.5ポイント以下である。
【0020】
(第3の実施形態の樹脂製歯車)
第3の実施形態における樹脂製歯車は、
リム部と、当該リム部の外周部に設けられた歯部を有する樹脂製歯車であって、
前記リム部に対して、又は前記リム部及び前記歯部に対して、75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を1回行った後の歯車の歪み量c(%)と、75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を50回繰り返して行った後の歯車の歪み量d(%)との差(d−c:残留歪み)の、
75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を50回繰り返して行った後の歪み量d(%)と、15MPaまでの負荷を1回行った際の当該負荷が15MPaに到達した時の歪み量a(%)の差(d−a)に対する比率((d−c)/(d−a)):残留歪み率)が0.50以下である。
【0021】
(ポリアセタール樹脂組成物)
本実施形態の樹脂製歯車はポリアセタール樹脂を含むことが好ましい。当該ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂組成物を成形することによって得ることができる。
【0022】
<ポリアセタール樹脂>
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含有する。
ポリアセタール樹脂としては、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマー、架橋構造を有するポリアセタールコポリマー、ブロック成分を有するホモポリマーベースのブロックコポリマー、及びブロック成分を有するコポリマーベースのブロックコポリマーが挙げられる。
ポリアセタール樹脂は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ポリアセタール樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、分子量の異なるポリマーの組み合わせや、コモノマー量の異なるポリアセタールコポリマーの組み合わせ等も適宜使用可能である。
本実施形態においては、ポリアセタール樹脂として、ブロック成分を含むブロックコポリマーを用いることが好ましい。
なお、「ブロック成分」とは、ポリアセタール樹脂を構成し、一分子中に結合している各ポリマーを言う。
【0024】
ポリアセタール樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる実質上オキシメチレン単位のみからなるポリアセタールホモポリマーや、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソランや1,4−ブタンジオールホルマール等のグリコールやジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル若しくは環状ホルマールを、共重合させて得られるポリアセタールコポリマーが挙げられる。
【0025】
ポリアセタールコポリマーとしては、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを、共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることもできる。
【0026】
ポリアセタールコポリマーは、ポリアセタールの繰り返し構造単位とは異なる異種のブロック成分を有するブロックコポリマーであってもよい。
本実施形態において、ブロックコポリマーとしては、下記一般式(1)、(2)、(3)のいずれかで表されるブロック成分を少なくとも有するアセタールホモポリマー又はアセタールコポリマー(以下、両者をあわせてブロックコポリマーと記載することがある。)が好ましい。
【0030】
前記一般式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種を示し、複数のR
1及びR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
R
3は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種を示す。
mは1〜6の整数を示し、1〜4の整数が好ましい。
nは1〜10000の整数を示し、10〜2500の整数が好ましい。
【0031】
上記一般式(1)で表されるブロック成分は、アルコールのアルキレンオキシド付加物から水素原子が脱離した残基であり、上記一般式(2)で表されるブロック成分は、カルボン酸のアルキレンオキシド付加物から水素原子が脱離した残基である。
前記一般式(1)又は(2)で表されるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーは、例えば、特開昭57−31918号公報に記載の方法により製造することができる。
【0032】
前記一般式(3)中、R
4は、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種を示し、複数のR
4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
pは2〜6の整数を示し、2つのpは各々同一であっても異なっていてもよい。
q及びrは、それぞれ正の数を示し、qとrとの合計を100モル%とする場合に、qは2〜100モル%、rは0〜98モル%であり、−(CH(CH
2CH
3)CH
2)−単位及び−(CH
2CH
2CH
2CH
2)−単位は、それぞれランダム又はブロックで存在する。
【0033】
下記式(1)、(2)、(3)のいずれかで表されるブロック成分は、両末端又は片末端に水酸基等の官能基を有するブロック成分を構成する化合物を、ポリアセタールの重合過程でポリアセタールの末端部分と反応させることによりポリアセタール樹脂内に挿入することができる。
ポリアセタール樹脂であるブロックコポリマー中における前記一般式(1)、(2)又は(3)で表されるブロック成分の挿入量は、特に限定されないが、ブロックコポリマーを100質量%としたとき、0.001質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
樹脂製歯車において実用上十分な曲げ弾性率を得る観点から、前記一般式(1)〜(3)で表されるブロック成分の挿入量は30質量%以下とすることが好ましく、樹脂製歯車の引張強度の観点から前記ブロック成分の挿入量は0.001質量%以上であることが好ましい。
前記ブロック成分の挿入量の下限値は、より好ましくは0.01質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%であり、さらにより好ましくは1質量%である。
前記ブロック成分の挿入量の上限値は、より好ましくは15質量%であり、さらに好ましくは10質量%であり、さらにより好ましくは8質量%である。
【0034】
ブロックコポリマー中のブロック成分の分子量は、10000以下であることが、樹脂製歯車において実用上十分な曲げ弾性率を得る観点から好ましく、より好ましくは8000以下であり、さらに好ましくは5000以下である。
前記ブロック成分の分子量の下限値は特に限定されないが、100以上であることが、安定した摺動性を維持し続ける観点から好ましい。
【0035】
ブロックコポリマー中のブロック成分を形成する化合物は、以下に限定されるものではないが、例えば、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
40C
18H
37、C
11H
23CO
2(CH
2CH
2O)
30H、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
70H、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
40Hや、両末端ヒドロキシアルキル化水素添加ポリブタジエン等が挙げられる。
ブロックコポリマーは、結合形式として、ABA型ブロックコポリマーであることが好ましい。
ABA型ブロックコポリマーとは、前記一般式(3)で表されるブロック成分を有するブロックコポリマーであり、具体的には、ポリアセタールセグメントA(以下、Aと記す。)と、両末端がヒドロキシアルキル化された水素添加ポリブタジエンセグメントB(以下、Bと記す。)を、A−B−Aの順で構成させたブロックコポリマーのことを意味する。
【0036】
前記一般式(1)〜(3)で表されるブロック成分は、ヨウ素価20g−I
2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。不飽和結合としては、特に限定されないが、例えば炭素−炭素二重結合が挙げられる。
前記一般式(1)〜(3)で表されるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーは、例えば、国際公開第2001/09213号に開示されたポリアセタールブロックコポリマーが挙げられ、当該公報に記載された方法により調製することができる。
ブロックコポリマーとして上述したA−B−A型ブロックコポリマーを用いることにより、後述するガラス系充填材の表面との接着性が向上する傾向にある。その結果、本実施形態の樹脂製歯車の引張破壊応力及び曲げ弾性率を増大させることが可能となる傾向にある。
【0037】
ポリアセタール樹脂中のブロックコポリマーの比率は、ポリアセタール樹脂全体を100質量%としたとき、好ましくは5質量%以上95質量%以下である。
当該ブロックコポリマーの比率の下限値は、より好ましくは10質量%であり、さらに好ましくは20質量%であり、さらにより好ましくは、25質量%である。
当該ブロックコポリマーの比率の上限値は、より好ましくは90質量%であり、さらに好ましくは80質量%であり、さらにより好ましくは75質量%である。
ポリアセタール樹脂中のブロックコポリマーの比率は、
1H−NMRや
13C−NMR等により測定することができる。
【0038】
また、ポリアセタール樹脂として、末端OH基の含有量が主鎖のオキシメチレンユニット1molに対して0.006mol%以上であるものを用いることが好ましい。より好ましくは0.007mol%以上、さらに好ましくは0.008mol%以上、さらにより好ましくは0.01mol%以上である。末端OH基の含有量の上限は特に設けないが、1mol%以下であることが好ましい。
末端OH基の含有量は、
1H NMRスペクトルにおける積分比により測定することができる。用いる溶媒としては重水素化ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、重水素化クロロホルム及びこれらの混合溶媒が好ましい。
ポリアセタール樹脂として、上述のブロックコポリマー又は末端OH基の含有量が0.006mol%以上であるものを用いることにより、本実施形態の樹脂製歯車の耐久性及び静音性が向上する。
【0039】
<ガラス系充填材>
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下を含むことが好ましい。
ガラス系充填材の含有量が10質量部以上であることにより、機械的強度や耐久性が向上する。また、ガラス系充填材の含有量が100質量部以下であることにより、成形時においてガラス系充填材同士の接触によるガラス系充填材の破壊を抑制することができる。このため、機械的強度や耐久性が向上する。さらに、ガラス系充填材の含有量が100質量部以下であることにより、安定した押出成形を行うことができ、樹脂製歯車の外観不良を抑制し、静音性を向上することができる。
【0040】
ガラス系充填材の含有量の下限値は、好ましくは12質量部であり、より好ましくは15質量部であり、さらに好ましくは20質量部であり、さらにより好ましくは25質量部である。
ガラス系充填材の含有量の上限値は、好ましくは90質量部であり、より好ましくは80質量部であり、さらに好ましくは75質量部であり、さらにより好ましくは70質量部である。
【0041】
本実施形態の樹脂製歯車に用いるポリアセタール樹脂組成物において使用することができるガラス系充填材としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、及びフレーク状ガラス等が挙げられる。
ガラス繊維としては、以下に限定されるものではないが、例えば、チョップドストランドガラス繊維、ミルドガラス繊維、ガラス繊維ロービング等が挙げられる。中でも、チョップドストランドガラス繊維が、取扱い性及び歯車の機械的強度の観点から好ましい。
ガラス系充填材は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ガラス系充填材の粒径、繊維径、及び繊維長等は特に限定されず、何れの形態のガラス系充填材を用いてもよいが、表面積が広い方が、ポリアセタール樹脂との接触面積が増え、樹脂製歯車の耐久性が向上するため好ましい。
ガラス系充填材がチョップドストランドガラス繊維の場合、平均繊維径は、7μm以上15μm以下であることが好ましい。
当該チョップドストランドガラス繊維の平均繊維径が上記範囲内にあることで、本実施形態の樹脂製歯車の表面が平滑となり、静音性を向上することができる。また、本実施形態の樹脂製歯車の耐久性を高めることができるとともに、成形時の金型表面の削れ等を防止することができる。
前記チョップドストランドガラス繊維の平均繊維径の下限値は、より好ましくは8μmであり、さらに好ましくは9μmである。
平均繊維径の上限値は、より好ましくは14μmであり、さらに好ましくは12μmである。
【0043】
本実施形態において、ガラス系充填材の平均繊維径は、本実施形態の樹脂製歯車を充分に高い温度(400℃以上)で焼却して、樹脂成分及び有機成分を除去したのち、得られた灰分を走査型電子顕微鏡で観察し、直径を測定することにより容易に測定できる。誤差を少なくするため、少なくとも100本以上のチョップドストランドガラス繊維の直径を測定して、繊維径の平均値を算出する。
ガラス系充填材としては、繊維径の異なるガラス繊維を2種以上ブレンドして用いてもよい。
【0044】
ガラス系充填材は、被膜形成剤にて処理され、表面が変性されたものであることが好ましい。
被膜形成剤は、収束剤と称される場合もある。
被覆形成剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、少なくとも1種の酸成分を有する共重合体樹脂等が挙げられる。
中でも、少なくとも1種の酸成分を有する共重合体樹脂を含む被膜形成剤が好ましい。
前記少なくとも1種の酸成分を有する共重合体樹脂としては、前記酸成分がカルボン酸であるものが好ましく、以下に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸含有不飽和ビニル単量体及び該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体及び該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体等が挙げられる。中でも、カルボン酸含有不飽和ビニル単量体及び該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体を用いることがより好ましい。
被膜形成剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カルボン酸含有不飽和ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられ、アクリル酸が好ましい。
カルボン酸含有不飽和ビニル単量体は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マレイン酸又はイタコン酸の無水物等が挙げられる。
カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体は、1種のみを単独でも用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ガラス系充填材の表面を被膜形成剤によって変性することにより、ポリアセタール樹脂との界面の接着強度を高めることができ、ガラス系充填材の表面を覆うポリアセタール樹脂を含む成分の平均厚みが増大する。これにより耐久性が向上する。さらに摺動時の摩耗が抑制され、静音性を向上することができる。
中でも、ブロック成分を含むポリアセタール樹脂及び/又は末端OH基の含有量が主鎖のオキシメチレンユニット1molに対して0.006mol%以上であるポリアセタール樹脂と、被膜形成剤により変性されたガラス系充填材を組み合わせることで、耐久性及び静音性が飛躍的に向上する。
【0046】
本実施形態においてガラス系充填材は、カップリング剤によって表面変性されていてもよい。
カップリング剤は特に限定されず、公知のものを用いることができる。
カップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、有機シラン化合物、有機チタネート化合物、有機アルミネート化合物等が挙げられる。
カップリング剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
有機シラン化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びγ−グリシドキシプロピルメトキシシランが好ましい。ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランが、経済性と本実施形態の樹脂製歯車を構成するポリアセタール樹脂組成物の熱安定性の観点より好ましい。
有機チタネート化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレンブリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート等が挙げられる。
有機アルミネート化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
カップリング剤で表面処理されているガラス系充填材を用いることで、本実施形態の樹脂製歯車の耐久性がより高まる傾向にあるとともに、樹脂製歯車の熱安定性がより向上する傾向にある。
【0048】
<ポリエチレン樹脂>
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物においては、重量平均分子量50万以下のポリエチレン樹脂を含むことが好ましい。
ポリエチレン樹脂は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は50万以下であることが好ましい。ポリエチレン樹脂の重量平均分子量が50万以下であることにより、成形時における切粉の発生を抑制することができるとともに、本実施形態の樹脂製歯車の摺動時において摩擦係数が低くなり、静音性が向上する。
ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは1万以上40万以下であり、さらに好ましくは1.5万以上30万以下であり、さらにより好ましくは2万以上20万以下であり、よりさらに好ましくは3万以上15万以下である。
【0049】
ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は以下の方法で測定することができる。
ポリアセタール樹脂組成物の試料、又は樹脂製歯車の一部を切り出し、ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、HFIPと略す。)中に浸漬し、溶解したポリアセタール樹脂成分をろ別する。なお、HFIPに溶解しない場合は、塩酸分解等でポリアセタール樹脂成分を除去してもよい。
次に、未溶融残渣分をトリクロロベンゼン(以下、TCBと略す。)に140℃で溶解させ、ろ過することでガラス系充填材をろ別する。得られたろ液を用い、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略す。)で測定する。
用いるカラムとしては、昭和電工(株)製UT−807(1本)と東ソー(株)製GMHHR−H(S)HT(2本)を直列に接続する。
移動相としてTCBを用い、試料濃度は20〜30mg(ポリエチレン樹脂)/20ml(TCB)とする。
カラム温度を140℃、流量は1.0ml/分とし、示差屈折計を検出器として用い、測定を行う。
重量平均分子量の算出は、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略す。)を標準物質として用いて算出する。この際のPMMA標準物質は数平均分子量として、2,000程度から1,000,000程度の範囲で、少なくとも4サンプルを用いる。
【0050】
ポリエチレン樹脂の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上6質量部以下であり、さらに好ましくは1.5質量部以下5質量部以下である。
ポリエチレン樹脂の含有量を0.5質量部以上とすることにより、本実施形態の樹脂製歯車は摺動性が良好で、かつ長期間にわたり安定した摺動性が得られる。また耐摩耗性も向上する。
また、ポリエチレン樹脂の含有量を8質量部以下とすることで、本実施形態の樹脂製歯車の機械的強度の低下、樹脂組成物の溶融混練時における切粉、及び樹脂製歯車におけるポリエチレン樹脂成分の脱離を抑制できる。
【0051】
ポリエチレン樹脂の含有量は、例えば下記の方法で確認することができる。
ポリアセタール樹脂組成物又は樹脂製歯車を充分に高い温度(400℃以上)で焼却し、樹脂成分を除去する。得られた灰分の重量により、ガラス系充填材の含有量が求められる。
次に、ポリアセタール樹脂組成物又は樹脂製歯車に含まれるポリアセタール樹脂を塩酸分解し、残渣から先に求めたガラス系充填材の配合比を引いたものがポリエチレン樹脂の含有量である。なお、状況に応じ、IR等で他の成分の有無を確認し、追加除去操作をしてもよい。
【0052】
本実施形態で用いることのできるポリエチレン樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、5質量%以下のプロピレン、ブテン、オクテン等のコモノマーを含有するエチレン系共重合体等を用いてもよい。
中でも、摩擦係数の低減及び静音性の観点から、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0053】
本実施形態で用いることのできるポリエチレン樹脂は、融点(以下、Tmと略す。)が115℃以下であるものを少なくとも1種含むことが好ましい。より好ましくはTmが110℃以下であるものを含む。
ポリエチレン樹脂のうち、少なくとも1種のTmが115℃以下であることにより、摩擦係数が低く非常に安定したものとなり、静音性が長期にわたって持続する。また、ポリアセタール樹脂組成物を溶融混練により製造する際に、押出機のトルクを大幅に低減できる効果も奏する。これにより、従来ポリアセタール樹脂とガラス系充填材の複合材では困難であった、吐出量の増加を達成することができる。
本実施形態において、Tmは、ポリアセタール樹脂組成物の試料、又は樹脂製歯車から切り出した試料4〜6mgを用い(プレス等で薄片化することが好ましい)、示差走査熱量測定(DSC)で、10℃/minの昇温した際に得られる吸熱のピーク値を用いる。
【0054】
<安定剤>
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、通常ポリアセタール樹脂組成物に使用されている各種安定剤を含んでもよい。
安定剤としては以下に限定されるものではないが、例えば、酸化防止剤、ホルムアルデヒド、ギ酸の捕捉剤等が挙げられる。
安定剤は1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤としては、樹脂製歯車の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものが適宜使用可能である。
酸化防止剤の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下が好ましい。
ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メラミン、ポリアミド系樹脂等のホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体;アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩等が挙げられる。
より具体的には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)等が挙げられる。これらの脂肪酸は、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。
前記ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤の添加量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤であるホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体が0.1質量部以上3質量部以下、アルカリ土類金属の脂肪酸塩が0.1質量部以上1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、従来ポリアセタール樹脂組成物に使用されている公知の、ガラス系充填材以外の充填材(タルク、ウォラストナイト、マイカ、炭酸カルシウム等)、導電性付与剤(カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等)、着色剤(酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、有機染料等)、摺動付与剤(各種エステル系化合物、有機酸の金属塩等)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑材等の各種安定剤も含有することができる。
その他の成分の添加量は、ガラス系充填材以外の充填材、導電性付与剤、着色剤については、ポリアセタール樹脂を100質量%とした場合に、好ましくは30質量%以下であり、摺動付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑材については、ポリアセタール樹脂100質量%に対して、好ましくは5質量%以下である。
その他の成分は、1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
〔ポリアセタール樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の樹脂製歯車に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、上述したポリアセタール樹脂、ガラス系充填材、必要に応じて安定剤、その他の成分を公知の方法により混合及び溶融混練することにより製造することができる。
なお、少なくとも1種の酸を含みガラス系充填材の表面を変性する機能を有する物質で、ガラス系充填材の表面を変性する工程と、当該変性されたガラス系充填材とポリアセタール樹脂とを混合する工程を有することが好ましい。
原料成分を混合及び溶融混練する方法としては、特に限定されず、当業者が周知の方法を利用できる。
具体的には、成分を、予めスーパーミキサー、タンブラー、V字型ブレンダー等で混合し、二軸押出機で一括溶融混練する方法;成分を二軸押出機メインスロート部に供給し溶融混練しつつ、押出機の途中から成分を添加する方法等が挙げられる。
これらはいずれも利用できるが、本実施形態の樹脂製歯車の機械的物性を高めるためには、成分を二軸押出機メインスロート部に供給し溶融混練しつつ、押出機の途中から成分を添加する方法が好ましい。
最適な条件は、押出機の大きさによって変動するため、当業者の調整可能な範囲で適宜調整することが好ましい。より好ましくは、押出機のスクリューデザインに関しても、当業者に調整可能な範囲で種々調整する。
成分を配合する場合には、押出機の途中から添加することもできるが、メインスロート部から供給することが好ましい。このような製法を取ることで、驚くべきことに押出機のトルクを大幅に低下する効果も得られる傾向にある。これにより、大幅に生産性を改善することができる。
【0057】
〔樹脂製歯車の製造方法〕
本実施形態の樹脂製歯車は、前記ポリアセタール樹脂組成物を公知の方法によって成形することで製造することができる。
成形方法については特に限定されず、公知の成形方法を利用できる。
具体的には、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。これらの中でも射出成形が好ましい。
【0058】
〔樹脂製歯車の特性〕
(樹脂製歯車の残留歪み)
本実施形態における樹脂製歯車は、リム部と、当該リム部の外周部に設けられた歯部を有する。
前記リム部に対して、又は前記リム部及び前記歯部に対して、75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を1回行った後の樹脂製歯車の歪み量c(%)と、75MPaの負荷及び75MPaから15MPaまでの除荷を50回繰り返して行った後の樹脂製歯車の歪み量d(%)との差(d−c):(以下、「残留歪み」と表す)が、0.9ポイント以下である。
前記残留歪み(d−c)は、好ましくは0.8ポイント以下、より好ましくは0.7ポイント以下、さらに好ましくは0.6ポイント以下である。
残留歪み(d−c)は、応力下における塑性変形と相関するものである。この値が0.9ポイント以下であることにより、本実施形態の樹脂製歯車の耐久性及び静音性が優れたものとなる。
樹脂製歯車の残留歪みは、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
なお、圧子の面積は歯車の大きさによって適宜変更を行うことができる。圧子の面積によって残留歪み、弾性歪み及び残留歪み率の値は殆ど影響を受けない。
【0059】
(樹脂製歯車の弾性歪み)
また、本実施形態における樹脂製歯車は、リム部と、当該リム部の外周部に設けられた歯部を有し、前記リム部に対して、又は前記リム部及び前記歯部に対して、75MPaの負荷を行った際の歪み量b(%)と、その後75MPaから15MPaまでの除荷を行った後の歪み量c(%)との差(b−c):(以下、「弾性歪み」と表す)が、2.5ポイント以下である。前記弾性歪み(b−c)は、好ましくは2.0ポイント以下、より好ましくは1.8ポイント以下、さらに好ましくは1.6ポイント以下である。
弾性歪み(b−c)は、応力下における弾性変形と相関するものである。この値が2.5ポイント以下であることにより、歯車の耐久性及び静音性が優れたものとなる。
樹脂製歯車の弾性歪みは、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0060】
(樹脂製歯車の残留歪み率)
また、本実施形態における樹脂製歯車は、
前記残留歪み(d−c)を、
前記リム部に対して、又は前記リム部と前記歯部に対して、75MPaの負荷及び15MPaまでの除荷を50回繰り返して行った後の歪み量d(%)と、0MPaから15MPaまでの負荷を1回行った際の当該負荷が15MPaに到達した時の歪み量a(%)の差(d−a)で除した値((d−c)/(d−a)):残留歪み率)が0.50以下である。好ましくは0.48以下、より好ましくは0.46以下、さらに好ましくは0.44以下である。
残留歪み率((d−c)/(d−a))は、応力下における塑性変形と相関するものである。この値が0.50以下であることにより、歯車の耐久性及び静音性が優れたものとなる。
樹脂製歯車の残留歪み率は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0061】
図1に本実施形態の樹脂製歯車の一例の概略平面図を示し、
図2に、
図1中の破線X−Yにおける樹脂製歯車の概略断面図を示す。
本明細書中、「平歯車」とは、回転軸に平行に歯がある歯車を言う。
図1に示す樹脂製歯車は、中心孔を有する内周部10と、当該内周部10よりも厚みが大きいリム部2と、当該リム部2の外周部に設けられた歯部1とを具備している。
【0062】
本実施形態の樹脂製歯車の、上述した残留歪み、弾性歪み、残留歪み率の測定の際には、
図3に一例を示すように、例えば
図1、
図2に示すような形状を有している樹脂製歯車のリム部2及び歯部1に対して、接触面が平面状の圧子4を用い、当該圧子4を接触させて、
図3中の矢印方向に負荷をかけ、続いて当該負荷を減らして除荷を行う。
【0063】
荷重は、樹脂製歯車と圧子4との接触部の面積から、応力が15MPa及び75MPaとなる値を算出する。
負荷及び除荷の速度は1mm/minとする。なお、負荷及び除荷は、少なくとも任意の3点以上について行い、平均値を算出する。
ここで樹脂製歯車と圧子4との接触部面積とは、
図4に示すように、リム部2と歯部1とを有する歯車が、平面状圧子4と接触している部分、すなわち、
図4中の歯車と圧子との接触部分5(斜線部分)の面積を示す。
【0064】
図5に本実施形態の樹脂製歯車の他の一例の概略平面図を示し、
図6に、
図5中の破線X−Yで切った樹脂製歯車の概略断面図を示す。
図5及び
図6に示す樹脂製歯車は、リム部2と歯部1の厚みが異なっている。
なお、リム部2と歯部1との厚みが異なる樹脂製歯車である場合には、
図7に示すように、リム部2のみについて、負荷及び除荷を行う。
【0065】
図8に本実施形態の樹脂製歯車の他の一例の概略平面図を示す。
図8の樹脂製歯車は、リム部と歯部が一体化した構成の平歯車である。
このような平歯車である場合には、
図9に示すように、歯部及びその内側のリム部に相当する領域について、負荷及び除荷を行う。
【0066】
樹脂製歯車と圧子4との接触面積は、残留歪み(d−c)、弾性歪み(b−c)、及び残留歪み率((d−c)/(d−a))の値に対して殆ど影響を与えない。
また、樹脂製歯車の歯幅3もこれらの値に対して殆ど影響を与えない。
【0067】
本実施形態の樹脂製歯車の、残留歪み、弾性歪み、及び残留歪み率の測定においてで得られる負荷−除荷曲線の一例を
図10に示す。
75MPaまでの負荷を最初に行う過程で15MPaに到達した点がA、75MPaの負荷を1回行った点がB、その後75MPaから15MPaまでの除荷を1回行った点がCであり、負荷及び除荷を50回繰り返して行った点がDである。
それぞれの点における変位を歯幅3で除することにより歪み量(%)を算出する。
残留歪み(d−c)は、点Dにおける歪み量(%)(上述した歪み量dに相当する。)と点Cにおける歪み量(%)(上述した歪み量cに相当する。)の差(ポイント)である。
弾性歪み(b−c)は、点Bにおける歪み量(%)(上述した歪み量bに相当する。)と点Cにおける歪み量(%)(上述した歪み量cに相当する。)の差(ポイント)である。
また残留歪み率((d−c)/(d−a))は、前記残留歪み(d−c)を、点Dにおける歪み量(%)(上述した歪み量dに相当する。)と点Aにおける歪み量(%)(上述した歪み量aに相当する。)の差(d−a)で除した値である。
【0068】
残留歪み(d−c)、弾性歪み(b−c)、及び残留歪み率((d−c)/(d−a))を所定の範囲に制御する方法としては、特に制限されないが、上述したように、ポリアセタール樹脂としてブロックコポリマー及び/又は末端OH基の含有量が主鎖のオキシメチレンユニット1molに対して0.006mol%以上であるものを用いること、酸を含む被膜形成剤により処理されたガラス系充填剤を使用すること等が有効である。
特に、ブロックコポリマー及び酸を含む被膜形成剤を併用すると、ポリアセタール樹脂とガラス系充填材との界面の接着性が飛躍的に向上し、残留歪み、弾性歪み、及び残留歪み率を、上述した所望の範囲に制御することが容易となる。
また本実施形態の樹脂製歯車の強度、すなわち残留歪み、弾性歪み、及び残留歪み率を上記範囲とするためには、樹脂製歯車の材料であるポリアセタール樹脂組成物を溶融混練により製造する際に、ガラス系充填材をポリアセタール樹脂と、より長時間混練することも有効である。一般的には、ポリアセタール樹脂組成物の溶融混練時に、ガラス系充填材はより短時間で混練することが好ましいと考えられているが、本実施形態においては逆の傾向となる。具体的には、押出混練時においてガラス系充填材をサイドフィーダーから供給する場合、より上流側から供給することが好ましい方法として挙げられる。
【0069】
残留歪みは、歯車が駆動している状態で蓄積される歪み量と相関する値である。歯車は、回転駆動時に歯と歯がかみ合い、離れ、1回転後に再度同じ歯にかみ合うという特性を有している。このため、繰り返し荷重が負荷、除荷されるものである。その際に蓄積される歪み量が少ないほど、歯車が変形しにくい。このために歯車の耐久性が向上するほか、寸法変化が小さくなり、静音性が向上する。
弾性歪みは、歯車に一定トルクをかける際の歪み量と相関する値である。特に用途によっては、使用トルクから外れた高いロックトルクをかけて、その負荷を数秒、時には数時間かけた状態を維持する歯車もある。その際に発生する弾性的な歪み量が少なければ少ないほど、静止状態における回転精度に優れたものとなる。また、歯車が噛み合った際の微小な変形が抑制されることにより、静音性が向上する。
残留歪み率もまた、残留歪みと同じく、歯車が駆動している状態で蓄積される歪み量と相関する値である。この値が小さいほど、歯車の耐久性及び静音性が向上する。
【0070】
(ガラス系充填材の表面を覆う成分)
本実施形態の樹脂製歯車が、上述したように、ポリアセタール樹脂とガラス系充填材を含有する樹脂組成物を用いて成形されたものである場合、当該樹脂製歯車を引張破断したときに、破断した歯車の破断面から突出したガラス系充填材の表面が平均厚み0.2μm以上3.0μm以下のポリアセタール樹脂を含む成分で覆われていることが好ましい。
当該ポリアセタール樹脂を含む成分の平均厚みが0.2μm以上であることにより、耐久性や歯元強度等の機械的強度が向上する傾向にある。また、切粉を抑制し、かつ得られる歯車の外観不良を抑制できるため、静音性が向上する傾向にある。さらに、成形サイクルが短縮されるため生産性が向上する傾向にある。
また、当該ポリアセタール樹脂を含む成分の平均厚みが3.0μm以下であることにより、ポリアセタール樹脂組成物の流動性の低下を抑制し、樹脂製歯車の外観不良を抑制することができる傾向にある。
当該平均厚みの下限値は、より好ましくは0.3μmであり、さらに好ましくは0.4μmである。
当該平均厚みの上限値は、より好ましくは2.5μmであり、さらに好ましくは2.0μmである。
【0071】
上記樹脂製歯車の引張破断は引張速度50mm/minで行うものとする。
本実施形態において、引張破断した樹脂製歯車の破断面から突出したガラス系充填材の表面を覆うポリアセタール樹脂組成物を含む成分の平均厚みは、引張破断した樹脂製歯車の破断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察することにより求めることができる。
【0072】
特に限定されるものではないが、ガラス系充填材としてガラス繊維を例にとり、以下、上述したポリアセタール樹脂を含む成分の平均厚みの測定方法について、具体的に説明する。
本実施形態の樹脂製歯車において、ガラス繊維の表面を覆うポリアセタール樹脂組成物を含む成分の平均厚みを測定する際は、測定するガラス繊維として、引張破断した樹脂製歯車の破断面の中央付近に存在するガラス繊維を選択することが好ましい。
まず、破断面より突出しているガラス繊維を無作為に少なくとも50個選択する。次に、当該ガラス繊維の表面を覆う成分の層を観察し、当該層の厚みを測定する。当該層の厚みが均一でない場合には、最大値を当該層の厚みとして採用する。そして50個の層の厚みを加算平均することで平均厚みを算出する。
なお、ガラス繊維の表面を均一に樹脂成分が覆っている場合、ガラス繊維と表面を覆う成分の層との境界が明瞭でない場合がある。このような場合は、表面を覆っている層の厚みを算出する際に、ガラス繊維単独の直径を用いて算出してもよい。例えば、断面が円形であるガラス繊維の表面を均一に樹脂成分が覆っている場合、表面を覆う層の厚みは下記式により求められる。
表面を覆う層の厚み=(層を含めた直径−ガラス繊維の直径)/2
【0073】
ガラス繊維単独の直径は、樹脂製歯車から樹脂成分を除去した残渣を計測して求めることができる。
樹脂製歯車から樹脂成分を除去する方法としては、例えば、十分に高い温度(400℃以上)で樹脂製歯車中の樹脂成分を焼却する方法、ポリアセタール樹脂を溶解する溶剤に浸漬して樹脂製歯車中の樹脂成分を除去する方法等が挙げられる。
【0074】
本実施形態において、ガラス系充填材の表面は、面積比率として、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上がポリアセタール樹脂を含む成分によって覆われていることが好ましい。
ガラス系充填材の表面を覆うポリアセタール樹脂を含む成分の面積比率が50%以上であることによって、本実施形態の樹脂製歯車の耐久性がより向上する。
【0075】
ガラス系充填材の表面が平均厚み0.2μm以上3.0μm以下のポリアセタール樹脂を含む成分で覆われるようにするためには、例えば、ポリアセタール樹脂として前述のブロックコポリマー及び/又は末端OH基の含有量が主鎖のオキシメチレンユニット1molに対して0.006mol%以上であるものを用いること、及び被膜形成剤として前述の酸を含むものを使用すること等が挙げられる。
中でも、ブロックコポリマー及び酸を含む被膜形成剤を併用すると、ポリアセタール樹脂とガラス系充填材との界面の接着性が飛躍的に向上し、ガラス系充填材の表面を覆うポリアセタール樹脂を含む成分の平均厚みが増大する。
また当該平均厚みを上記範囲内とするためには、ポリアセタール樹脂組成物を溶融混練により製造する際に、ガラス系充填材をポリアセタール樹脂と、より長時間混練することも有効である。一般的には、樹脂組成物の溶融混練時に、ガラス系充填材はより短時間で混練することが望ましいと考えられているが、本実施形態においては逆の傾向となる。具体的には、押出混練時においてガラス系充填材をサイドフィーダーから供給する場合、より上流側から供給することが挙げられる。
【0076】
本実施形態において、ガラス系充填材の表面を覆う層を構成するポリアセタール樹脂組成物を含む成分は、ポリアセタール樹脂が主成分であるが、前述のポリエチレン樹脂及び/又は安定剤等を含む樹脂成分であってもよい。
【0077】
(歯車の表層におけるポリエチレン樹脂の存在量)
本実施形態の樹脂製歯車は、当該樹脂製歯車の表層10nm以内におけるポリエチレン樹脂の存在量が、樹脂製歯車の表層から1,000μmより深層を切り出した面の表層10nm以内におけるポリエチレン樹脂の存在量よりも多いことが好ましい。
ポリエチレン樹脂の存在量は、X線光電子分光法(XPS)を用いて計測した炭素Cの相対元素濃度(atomic%)から算出できる。
測定装置としては、例えば、フィッシャーサイエンティフィック(株)製のESCALAB250等が挙げられる。
測定時の励起源としては、monoAlKα等を用いることが好ましい。
また、歯車表面に付着した付着汚染成分の影響を除くため、歯車表面を、洗浄剤(例えば、VALTRON DP97031の水溶液)で超音波洗浄し、純水で洗浄し、オーブン等で乾燥する。
XPS測定では、Binding Energy 286〜288eVがポリアセタール樹脂由来の炭素であり、284〜286eVがポリエチレン等のオレフィン由来の炭素であるため、ピークが分離できる場合にはポリエチレン由来成分の炭素だけを用いるが、分離できない場合は、284〜288eVの範囲のピーク面積を用いてもよい。
【0078】
樹脂製歯車の表層から10nm以内の炭素濃度をC
1と、樹脂製歯車の中心部(歯車の1,000μmより深層部)を切り出した面の表層10nm以内における炭素濃度C
2を用いたとき、以下の式が成り立つことが好ましい。
[C
1]/[C
2]>1
上記の式が成り立つとき、表層から10nm以内に(C)ポリエチレン樹脂が多く存在するといえる。
より好ましくは、1.01≦[C
1]/[C
2]≦1.20であり、さらに好ましくは1.02≦[C
1]/[C
2]≦1.18であり、さらにより好ましくは、1.05≦[C
1]/[C
2]≦1.15である。
【0079】
ポリアセタール樹脂として、前述の式(3)で表されるブロック成分を有するブロックコポリマーを用いた場合、ポリアセタール樹脂の炭素濃度自体が多くなる。
しかし、表層から10nm以内及び1,000μmより深層部においてポリアセタール樹脂に由来する炭素濃度に差はないことから、上記の式が成り立つとき、表層から10nm以内にポリエチレン樹脂が多く存在すると言える。
【0080】
なお、本実施形態の樹脂製歯車においては、C
2を測定する箇所を樹脂製歯車の1,000μmより深層部としているが、本実施形態の樹脂製歯車においては、その表層から100μmより深層部であれば、箇所によらずポリエチレン樹脂の存在量は仕込み比とほぼ同一の値となる。
【0081】
上述したように、表層10nm以内におけるポリエチレン樹脂の存在量が、樹脂製歯車の表層から1000μmより深層を切り出した面の表層10nm以内におけるポリエチレン樹脂の存在量よりも多いことにより、特に摺動初期における摺動性が向上する。また、少量のポリエチレン配合で摺動性の効果を飛躍的に向上させることができるため、曲げ弾性率等の機械的強度の低下を抑制することができる。更には、樹脂との溶融混練時に切粉を飛躍的に抑制するという驚くべき効果も得ることができる。
【0082】
なお、厚みが2,000μm未満である樹脂製歯車の場合、1,000μmより深層部における炭素濃度に代えて、樹脂製歯車の深さ方向の中心部における炭素濃度を用いることができる。
樹脂製歯車の表層から10nm以内におけるポリエチレン樹脂が、歯車の1,000μmより深層部よりも多く存在するようにするためには、配合するポリエチレン樹脂の重量平均分子量を50万以下とすることで達成できる。またポリエチレン樹脂の融点を115℃以下とすることで、樹脂製歯車の表層から10nm以内におけるポリエチレン樹脂の存在量を、樹脂製歯車の1,000μmより深層部よりも多くすることができる。
【0083】
〔用途〕
本実施形態の樹脂製歯車は、耐久性、機械的強度及び静音性に優れるため、様々な用途に好適に使用できる。
特に、前記歯車として、以下に制限されないが、例えば、はすば歯車、平歯車、内歯車、ラック歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギア、ねじ歯車、ウォームギア、ウォームホイールギア、ハイポイドギア、及びノビコフ歯車が挙げられる。また、上記のはすば歯車や平歯車などは、シングル歯車及び2段歯車、並びに駆動モータから多段に組み合わせ、回転ムラをなくして減速するような構造を有する組合せ歯車であってもよい。
かかる歯車が好適に用いられる部品としては、以下に制限されないが、例えばカム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイドが挙げられる。加えて、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板も挙げられる。
前記歯車の具体的な用途としては、以下に制限されないが、例えば、オフィスオートメーション機器用機構部品、カメラ又はビデオ機器用機構部品、音楽、映像又は情報機器用機構部品、通信機器用機構部品、電気機器用機構部品、電子機器用機構部品、自動車用の機構部品(ドア周辺部品、シート周辺部品、空調器周辺部品)、自転車の機構部品(駆動モーター伝達等)、スイッチ部品、文具機構部品、住居設備の機構部品、自動販売機機構部品、スポーツ・レジャー・レクリエーション関係機器の機構部品、及び工業用機器の機構部品が挙げられる。
また、本実施形態の樹脂製歯車は、従来の樹脂製歯車と比較して、顕著に優れた耐久性及び静音性を保持できる観点から、自動車、電動車全般に適用することができる。ここで前記電動車としては、以下に制限されないが、例えば、シニア四輪、バイク及び電動二輪車が挙げられる。
【0084】
本実施形態の樹脂製歯車は、グリースを塗布して使用されることが好ましい。これにより、耐久性及び静音性が大きく向上し得る。
【実施例】
【0085】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態について説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で用いたポリアセタール樹脂組成物、及び樹脂製歯車の製造条件と評価項目は以下のとおりである。
【0086】
〔ポリアセタール樹脂組成物及び樹脂製歯車の製造条件〕
((1)ポリアセタール樹脂組成物の製造条件:押出条件)
ポリアセタール樹脂組成物の製造においては、スクリュー径Dに対するスクリュー長さLの比(L/D)=48(バレル数12)であり、第6バレルと第8バレルにサイドフィーダーを有し、第11バレルに真空ベントを備えた同方向回転二軸押出機(東芝機械(株)製TEM−48SS押出機)を用いた。
第1バレルを水冷し、第2〜第5バレルを210℃、第6〜第12バレルを180℃に設定した。
押出に用いたスクリューは以下のデザインとした。
第1〜第4バレルの位置にフライトスクリュー(以下、FSと略す。)を配し、第5バレルの位置に送り能力を有するニーディングディスク(以下、RKDと略す。)2枚、送り能力のないニーディングディスク(以下、NKDと略す。)2枚、及び逆方向への送り能力を有するニーディングディスク(以下、LKDと略す。)1枚をこの順に配した。
第6〜第8バレルの位置にFSを配し、第9バレルの位置にRKDとNKDを1枚ずつこの順に配し、第10〜第11バレルの位置にFSを配した。
ガラス系充填材を第8バレルのサイドフィーダーより供給し、スクリュー回転数150rpmとし、総押出量を70kg/hとして押出を行い、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを得た。
【0087】
((2)樹脂製歯車の製造条件)
樹脂製歯車の製造においては、射出成形機(FANUC Roboshot(登録商標) i50B型、ファナック(株)製)を用いた。
成形条件としては、樹脂温度200℃、金型温度80℃とし、射出圧力及び保圧は100MPaとした。
直径φ50mm、モジュール=1.0、歯数=50、歯幅8mm、幅1.5mmのリム部を有する平歯車を射出成形により製造した。
ゲートをウェブに3点配置し、その間隔は円周方向で120度ごとに均一とした。
【0088】
〔樹脂製歯車の特性評価〕
((1)樹脂製歯車の歪み量)
万能試験機(インストロン(登録商標)5566型、インストロン社製)を用いた。
平面に樹脂製歯車を設置し、樹脂製歯車のリム部及び歯部に圧縮荷重を加えて評価した。
圧子は直径1cmの円形平面状のものを用いた。
圧縮荷重は、樹脂製歯車のウェブ面に対して垂直となる方向とした。
図4に示す、樹脂製歯車と圧子との接触部分5の面積(
図4中の斜線部分)から、応力が15MPa及び75MPaとなる荷重を計算し、これに相当する圧縮荷重までの負荷及び除荷を50回繰り返した。
負荷及び除荷の速度は1mm/minとした。
負荷及び除荷を1回行った後の歪み、及び繰り返し負荷及び除荷を50回かけた後の歪みを測定し、各歪み量を歯幅で除することにより歪み量(%)を算出した。
図10に、後述する実施例1における圧縮試験によって得られた負荷−除荷曲線を示す。
図11に、後述する比較例5における圧縮試験によって得られた負荷−除荷曲線を示す。
残留歪み:点Dにおける歪み量(%)(上述した歪み量dに相当する。)と、点Cにおける歪み量(%)(上述した歪み量cに相当する。)の差(ポイント)である。
弾性歪み:点Bにおける歪み量(%)(上述した歪み量bに相当する。)と、点Cにおける歪み量(上述した歪み量cに相当する。)の差(ポイント)である。
残留歪み率:前記残留歪み(d−c)を、点Dにおける歪み量(%)(上述した歪み量dに相当する。)と、点Aにおける歪み量(%)(上述した歪み量aに相当する。)との差(d−a)で除したもの((d−c)/(d−a))である。
上記により、残留歪み、弾性歪み及び残留歪み率を算出した。
試験は任意の3点について行い、平均値を採用した。
【0089】
((2)ガラス系充填材の表面を覆う成分の層の平均厚み)
樹脂製歯車から5mm×5mm×1mmの試験片を切り出し、引張速度50mm/minで引張試験機を用いて破断させた。
試験片の破断面に白金を蒸着することで観察用試験片を作製した。
観察用試験片を用い、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、ガラス系充填材の表面を覆う成分の層の厚みを計測した。
観察倍率は5,000倍で行った。
観察部位としては、試験片の破断面中央部とし、当該破断面中央部を観察できるように調整を行った。
破断面より突出しているガラス系充填材のうち任意の50本を選出した。
全てのガラス系充填材において、断面が円形であるガラス系充填材の表面を均一に樹脂成分が覆っていることが確認された。
次に、樹脂成分で覆われているガラス系充填材の直径を計測した。
別途、予め試験片を450℃で3時間焼却して樹脂成分を除去して求めておいたガラス系充填材の直径(100本の平均値)との差から、表面に付着した樹脂成分の厚みを求めた。
50本について加算平均し、ガラス系充填材の表面を覆う成分の層の平均厚みとした。
【0090】
((3)樹脂製歯車の表層におけるポリエチレン樹脂の存在比(表面ポリエチレン比))
サーモフィシャーサイエンティフィック(株)製のX線光電子分光法(XPS)ESCALAB250を用い、励起源としてmonoALKα(15kV×10mA)を用いた。
分析サイズを1mm四方とした。
樹脂製歯車の表層の付着物を除去する為、市販の精密機器用洗浄剤(VALTRON DP97031)の1.5%水溶液を用いて、50℃の条件で3分間超音波洗浄を行い、表面の有機物を除去したのち、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水で室温条件下にて15分超音波処理を行い、洗浄を実施した。
次いで洗浄後の樹脂製歯車を、乾燥オーブンで80℃、1時間乾燥処理を行い、測定に供した。
当該測定において、光電子取出角は0°(歯車表面に対し垂直)とし、取込領域は、Surbey Scanを0〜1100eV、Narrow Scan 炭素Cは1sの領域とした。
また、Pass EnergyはSurvey scanが100eV、Narrow scanが20eVで実施した。
このときのC濃度は284eVから288eVの範囲のピーク面積比とした。
面積比から相対元素濃度を算出し、四捨五入して1atomic%以上のものは有効数字2桁で、1atomic%未満のものは有効数字1桁で算出した。
樹脂製歯車の表層における炭素濃度を[C
1]とした。
続いて、樹脂製歯車の厚み方向の中央(歯車の表層から4mm)をミクロトームにて削り出し、同様の測定で厚み方向の中央部付近における炭素濃度[C
2]を測定した。
[C
1]/[C
2]を算出し、これを「歯車の表層におけるポリエチレン樹脂の存在比」とした。
【0091】
((4)耐久性)
歯車耐久試験機(高トルクギア耐久試験機NS−1、(有)中川製作所製)を用いて、樹脂製歯車の耐久性を測定した。
金属歯車(直径φ50mm、モジュール=1.0、歯数=50、歯幅20mm)を相手歯車とし、一定の作動トルクを付加し、樹脂製歯車が破壊するまでの時間(時間:hour)を測定した。
作動トルクは5.0N・m、5.5N・m、及び6.0N・mの3水準で行った。
回転数は100rpmとした。
試験は23℃、湿度50%の恒温室にて行った。
【0092】
((5)静音性)
樹脂製歯車として、直径φ50mm、モジュール=1.0、歯数=50、歯幅8mmの、幅1.5mmのリム部を有する平歯車を射出成形により製造した。
また金属歯車として直径φ10mm、モジュール=1.0、歯数=10、歯幅8mmのものを用いた。
無響箱内にて、前記樹脂製歯車と前記金属歯車を噛み合わせて連続的に駆動させた。
回転数は100rpmとした。
前記金属歯車の軸より50mm離れた箇所にマイクロホンを設置した。
運転開始後10時間後の騒音(dB)を騒音計(JIS C1502に準拠)を用いて測定した。
【0093】
〔ポリアセタール樹脂組成物、及び樹脂製歯車の原料成分〕
次に、実施例及び比較例に用いたポリアセタール樹脂組成物及び樹脂製歯車の原料成分を以下に説明する。
(ポリアセタール樹脂)
ポリアセタール樹脂としては、下記(A1)〜(A4)を用いた。
(A1) 製品名:テナック(登録商標)−C 4520(旭化成ケミカルズ(株)製)、コポリマー、メルトフローレート(MFR)=9.0g/10分、数平均分子量Mn=約7万、主鎖のオキシメチレンユニット1molに対する末端OH基含有量=0.0055mol%
(A2) 製品名:テナック(登録商標) MG210(旭化成ケミカルズ(株)製)、ホモポリマー、メルトフローレート(MFR)=1.7g/10分
(A3) ポリアセタールブロックコポリマーを、次のようにして調製した。
熱媒を通すことのできるジャケット付きの2軸パドル型連続重合機を80℃に調整した。トリオキサンを40モル/時間、環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを2モル/時間、重合触媒としてシクロヘキサンに溶解させた三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対し5×10
-5モルとなる量、連鎖移動剤として下記式(4)で表される両末端ヒドロキシル基水素添加ポリブタジエン(数平均分子量Mn=2,330)をトリオキサン1モルに対し1×10
-3モルになる量で、上記重合機に連続的に供給し重合を行った。
【0094】
【化4】
【0095】
次に、上記重合機から排出されたポリマーを、トリエチルアミン1%水溶液中に投入し、重合触媒の失活を完全に行った後、ポリマーを濾過、洗浄して、粗ポリアセタールブロックコポリマーを得た。
得られた粗ポリアセタールブロックコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物(日本国特許第3087912号公報に記載)を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合した。第4級アンモニウム化合物の添加量は、窒素量に換算して20質量ppmとした。これをベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリアセタールブロックコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加した。押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分で、ポリアセタールブロックコポリマーの不安定末端部分の分解除去を行った。
不安定末端部分の分解されたポリアセタールブロックコポリマーに、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.3質量部を添加し、ベント付き押出機で真空度20Torrの条件下で脱揮しながら、押出機ダイス部よりストランドとして押出し、ペレタイズした。
このようにして得られたポリアセタールブロックコポリマーを、(A3)ポリアセタールブロックコポリマーとした。このブロックコポリマーは、ABA型ブロックコポリマーであり、メルトフローレートが15g/10分(ISO−1133 条件D)であった。メルトフローレートから算出した数平均分子量Mnは約5万であった。主鎖のオキシメチレンユニット1molに対する末端OH基含有量は0.0103mol%であった。
(A4) 前記両末端ヒドロキシル基水素添加ポリブタジエンの代わりにエチレングリコールを用いた以外は、上述した(A3)と同様に行い、ポリアセタール樹脂を得た。主鎖のオキシメチレンユニット1molに対する末端OH基含有量は0.0078mol%であった。
なお、ポリアセタール樹脂における末端OH基含有量は下記の方法で測定した。
ポリアセタール樹脂10mgをヘキサフルオロイソプロピルアルコールとクロロホルムの混合溶媒(質量比1/1)1mLに投入し、一晩放置した。さらに40℃にて4時間加熱し、溶解させた。
次に、シリル化剤としてN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド0.2mLを添加し、40℃にて2.5時間加熱した。大気中に解放して一晩風乾し、溶媒が揮発したことを確認した後、80℃にて一晩真空乾燥させた。
上記操作で得られた、末端がトリメチルシリル化されたポリアセタール樹脂10mgを、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール−dとクロロホルム−dの混合溶媒(体積比1/1)0.8mLに、55℃で溶解させ、NMR測定用試料とした。
日本電子(株)製ECA500型を使用し、
1H NMRの測定を行った。得られたスペクトルから、4.95ppmのピーク(オキシメチレンユニットに帰属)の積分値を基準とし、0.17〜0.23ppmのピーク(トリメチルシリル化された末端OH基に帰属)の積分値より、末端OH基含有量を算出した。
【0096】
(ガラス系充填材)
ガラス系充填材は、以下のものを用いた。
(B1)日本国特許第4060831号公報の製造例1記載の被膜形成剤(アクリル酸とアクリル酸メチルの共重合体を含有する)等で処理したガラス繊維。
(B2)日本国特開2009−7179号公報の試料No.1記載の被膜形成剤(酸を含有しない)で処理したガラス繊維。
【0097】
(ポリエチレン樹脂)
ポリエチレン樹脂は、旭化成ケミカルズ(株)製サンテック(登録商標)LD L1850A(重量平均分子量13.2万、Tm=107℃、密度918kg/m
3)を用いた。
重量平均分子量の測定は、ポリエチレン樹脂をTCBに140℃で溶解させて得られた溶液を用い、以下のとおりGPCで測定した。
用いるカラムとしては、昭和電工(株)製UT−807(1本)と東ソー(株)製GMHHR−H(S)HT(2本)を直列に接続した。
移動相としてTCBを用い、試料濃度は20〜30mg(ポリエチレン樹脂)/20ml(TCB)とした。カラム温度を140℃、流量は1.0ml/分とし、示差屈折計を検出器として用い、測定を行った。重量平均分子量の算出は、PMMAを標準物質として用いて算出した。
【0098】
〔実施例1〜6〕
各成分を表1に示すとおりに配合し、混練及び成形を行って樹脂製歯車を得た。
評価結果を表1に示す。
いずれの実施例も残留歪み量(%)の差が0.9ポイント以下となり、耐久性及び静音性が良好であった。
【0099】
〔比較例1〜5〕
各成分を表1に示すとおりに配合し、混練及び成形を行って樹脂製歯車を得た。
評価結果を表1に示す。
いずれの比較例も残留歪み量(%)の差が0.9ポイントを超え、耐久性及び静音性に劣る結果となった。
【0100】
【表1】