特許第6353452号(P6353452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353452
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20180625BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20180625BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12N5/02
   A61P43/00 101
   A61P43/00 105
   A61K35/545
   A61L27/38 300
【請求項の数】5
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2015-535314(P2015-535314)
(86)(22)【出願日】2014年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2014004524
(87)【国際公開番号】WO2015033558
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-182945(P2013-182945)
(32)【優先日】2013年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-102539(P2014-102539)
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】岡入 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】西村 益浩
(72)【発明者】
【氏名】和田 圭樹
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133942(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007900(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/085612(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/150001(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/063870(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養し、多能性幹細胞の細胞塊を形成させる工程を備えた、多能性幹細胞の調製方法であって、
前記浮遊培養を、以下の(A)又は(B)を含む溶液中で行うことを特徴とする
前記調製方法。
(A)ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩;
(B)デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩;
【請求項2】
哺乳動物間葉系幹細胞がヒト骨髄間葉系幹細胞又はヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
多能性幹細胞がNanog、Oct3/4、又はSox2を発現していることを特徴とする請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
浮遊培養を、血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液中で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調製方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の調製方法で得られた多能性幹細胞に分化処理を施す工程を備えたことを特徴とする多能性幹細胞の分化誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養し、多能性幹細胞の細胞塊を形成させる工程を備えた多能性幹細胞の調製方法や、かかる調製方法により得られた多能性幹細胞や、かかる多能性幹細胞を含む、臓器又は組織の機能低下若しくは機能障害の改善剤や、上記多能性幹細胞の分化誘導方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞は、生体に存在する全ての細胞へと分化できる能力を有する細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)はその代表例である。ヒトES細胞はこの性質を利用して再生医療への応用が期待されているが、分化させたES細胞の移植により、拒絶反応が惹起してしまうという問題がある。
【0003】
近年、山中らのグループにより、マウス体細胞用いて4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−myc)の発現により脱分化を誘導し、ES細胞に近い多能性や増殖能を有する細胞(誘導多能性幹細胞)、いわゆるiPS細胞の開発が報告され(非特許文献1)、その後、ヒトの分化細胞からもiPS細胞を作製できることが報告されている(非特許文献2)。かかるヒトiPS細胞は、治療対象となる患者由来の細胞を用いて作製できることから、拒絶反応のない人工臓器作製のためのツールとして期待されている。しかしながら、iPS細胞のin vivoでの挙動を解析すると、iPS細胞は必ずしもES細胞と同じ性質を有する細胞ではない可能性が示唆されている。例えば、iPS細胞を用いてキメラマウスを作製したところ、約20%の個体において腫瘍形成が観察された。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値である。
【0004】
この腫瘍形成リスクが高いという問題を解決するため、癌遺伝子として知られているc−mycを用いず、3因子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、及びKlf4遺伝子)のみからiPS細胞を作製し、かかるiPS細胞を用いてキメラマウスを作製すると、腫瘍形成リスクを抑制できることが報告された(非特許文献3、4)。しかしながら、ヒトiPS細胞などの多能性幹細胞を臨床応用する場合、腫瘍形成リスクは限りなくゼロに近いことが求められる。このため、iPS細胞を臨床応用する場合、依然として腫瘍化するリスクが問題とされている。
【0005】
他方、多能性幹細胞を生体組織から直接単離する研究も進められている。ヒト骨髄間葉系細胞を、トリプシンや低酸素処理などのストレスを与えることによりストレス耐性の多能性幹細胞を選択したり、あるいは多能性幹細胞の表面抗原であるSSEA−3の発現を指標として多能性幹細胞を選択し、さらに浮遊培養を重なることにより、多能性幹細胞を単離できることが報告された(特許文献1、非特許文献5)。しかしながら、かかる方法では細胞ストレスを与えることやSSEA−3の発現を指標として多能性幹細胞を選択する操作が必要となるため、時間対効果や費用対効果の面から改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5185443号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takahashi, K. et al., Cell. 126: 663-676 (2006)
【非特許文献2】Takahashi, K. et al., Cell. 131: 861-872 (2007)
【非特許文献3】Nakagawa, M. et al., Nat Biotechnol 26: 101-106 (2008)
【非特許文献4】Wering, M. et al., Cell Stem Cell 2: 10-12 (2008)
【非特許文献5】Kuroda, Y. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 107: 8639-8643 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、多能性を有し、かつ腫瘍化リスクが極めて低い細胞を、安価に且つ簡便に調製できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、ヒト骨髄間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells from Bone Marrow;hMSC-BM)及びヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(Human Adipose Tissue-derived Mesenchymal Stem Cell;hAT−MSC)(「ヒト脂肪細胞由来幹細胞[Human Adipose-derived Stem Cells;hADSC]」ともいう。)や、ヒト接着性成熟細胞7種(ヒトヘパトサイト細胞[hHEP細胞]、ヒト臍帯静脈内皮細胞[HUVEC細胞]、ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞[HMVEC細胞]、ヒト表皮角化細胞[NHEK細胞]、ヒト気管支上皮細胞[NHBE細胞]、ヒトメラノサイト細胞[NHEM細胞]、及びヒト平滑筋細胞[UASMC細胞])及びヒト接着性前駆細胞3種(ヒト皮膚線維芽細胞[NHDF細胞]、ヒト骨格筋筋芽細胞[HSMM細胞]、及びヒト骨芽細胞[NHOst細胞])を浮遊培養し、細胞塊(スフェロイド[Spheroid])を形成させたところ、多能性幹細胞のマーカータンパク質が発現する多能性幹細胞を誘導(あるいは単離)できることを見いだした。また、hMSC-BM細胞を、輸液(無血清培養液)中や、ジェランガム又はデキストランを含有する培養液中でスフェロイド培養を行うと、多能性獲得の効率が高まることを確認した。また、調製したhMSC-BM細胞のスフェロイドの多分化能について解析したところ、hMSC-BM細胞のスフェロイドは、3つの胚(外胚葉、内胚葉、中胚葉)由来の細胞へ分化する能力(多分化能)を有する細胞であることも確認した。さらに、調製したhMSC-BM細胞のスフェロイドやhADSC細胞のスフェロイドは、腫瘍化リスクが極めて低い細胞であることを確認した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は(1)哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養し、多能性幹細胞の細胞塊を形成させる工程を備えたことを特徴とする多能性幹細胞の調製方法(以下、「本件調製方法1」ということがある)や、(2)哺乳動物間葉系幹細胞がヒト骨髄間葉系幹細胞又はヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞であることを特徴とする上記(1)に記載の調製方法や、(3)多能性幹細胞がNanog、Oct3/4、又はSox2を発現していることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の調製方法や、(4)浮遊培養を、(A)ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩;又は(B)デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩;を含む溶液中で行うことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の調製方法や、(5)浮遊培養を血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液中で行うことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の調製方法に関する。
【0011】
また、本発明は(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の調製方法により得られる多能性幹細胞に関する。
【0012】
また、本発明は(7)哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養することにより得られた多能性幹細胞や、(8)哺乳動物間葉系幹細胞がヒト骨髄間葉系幹細胞又はヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞であることを特徴とする上記(7)に記載の多能性幹細胞や、(9)Nanog、Oct3/4、又はSox2を発現していることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の多能性幹細胞や、(10)浮遊培養を、(A)ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩;又は(B)デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩;を含む溶液中で行うことを特徴とする上記(7)〜(9)のいずれかに記載の多能性幹細胞や、(11)浮遊培養を血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液中で行うことを特徴とする上記(7)〜(10)のいずれかに記載の多能性幹細胞に関する。(以上(6)〜(11)の多能性幹細胞を、以下「本件多能性幹細胞1」ということがある。)
【0013】
また、本発明は(12)上記(6)〜(11)のいずれかに記載の多能性幹細胞を含む、臓器又は組織の機能低下若しくは障害の改善剤(以下、「本件改善剤1」ということがある)に関する。
【0014】
また、本発明は(13)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の調製方法で得られた多能性幹細胞に分化処理を施す工程を備えたことを特徴とする多能性幹細胞の分化誘導方法(以下、「本件分化誘導方法1」ということがある)に関する。
【0015】
また本発明の実施の他の形態として、〔1〕哺乳動物接着性成熟細胞又は哺乳動物接着性前駆細胞を浮遊培養し、多能性幹細胞の細胞塊を形成させる工程を備えたことを特徴とする多能性幹細胞の調製方法(以下、「本件調製方法2」ということがある)や、〔2〕多能性幹細胞がNanog、Oct3/4、又はSox2を発現していることを特徴とする上記〔1〕に記載の調製方法や、〔3〕浮遊培養を、(A)ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩;又は(B)デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩;を含む溶液中で行うことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の調製方法や、〔4〕浮遊培養を、血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液中で行うことを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の調製方法を挙げることができる。
【0016】
また、本発明の実施の他の形態として、〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の調製方法により得られる多能性幹細胞を挙げることができる。
【0017】
また本発明の実施の他の形態として、〔6〕哺乳動物接着性成熟細胞又は哺乳動物接着性前駆細胞を浮遊培養することにより得られた多能性幹細胞や、〔7〕Nanog、Oct3/4、又はSox2を発現していることを特徴とする上記〔6〕に記載の多能性幹細胞や、〔8〕浮遊培養を、(A)ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩;又は(B)デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩;を含む溶液中で行うことを特徴とする上記〔6〕又は〔7〕に記載の多能性幹細胞や、〔9〕浮遊培養を、血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液中で行うことを特徴とする上記〔6〕〜〔8〕のいずれかに記載の多能性幹細胞を挙げることができる。(以上〔5〕〜〔9〕の多能性幹細胞を、以下「本件多能性幹細胞2」ということがある。)
【0018】
また、本発明の実施の他の形態として、〔10〕上記〔5〕〜〔9〕のいずれかに記載の多能性幹細胞を含む、臓器又は組織の機能低下若しくは障害の改善剤(以下、「本件改善剤2」ということがある)を挙げることができる。
【0019】
また本発明の実施の他の形態として、〔11〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の調製方法で調製した多能性幹細胞に分化処理を施す工程を備えたことを特徴とする多能性幹細胞の分化誘導方法(以下、「本件分化誘導方法2」ということがある)を挙げることができる。
【0020】
また本発明の他の実施形態として、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2を、臓器又は組織の機能低下若しくは障害を有する患者に投与することを含む、前記患者の治療方法を挙げることができる。
【0021】
また本発明の他の実施形態として、哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養することにより得られる細胞の多能性幹細胞としての使用や、哺乳動物接着性成熟細胞又は哺乳動物接着性前駆細胞を浮遊培養することにより得られる細胞の多能性幹細胞としての使用を挙げることができる。
【0022】
また本発明の他の実施形態として、臓器又は組織の機能低下若しくは障害の改善(治療)剤としての使用のための本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2を挙げることができる。
【0023】
また本発明の他の実施形態として、臓器又は組織の機能低下若しくは障害の改善(治療)剤の製造のための本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0024】
本件調製方法1及び本件調製方法2を用いると、本件多能性幹細胞1及び本件多能性幹細胞2、すなわち、多能性を有し、かつ腫瘍化リスクが極めて低い細胞を得ることができ、心不全、インスリン依存性糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷などの疾患の安全な治療に有用である。また、本件多能性幹細胞1及び本件多能性幹細胞2は、浮遊培養により調製することができるため、細胞へ遺伝子導入してiPS細胞を調製する場合と比べ、比較的短時間で簡便かつ大量に細胞を調製することができる点で優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】接着培養したhMSC-BM細胞(上段)と、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Nanog)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図2】接着培養したhMSC-BM細胞(上段)と、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Oct3/4)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図3】接着培養したhMSC-BM細胞(上段)と、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Sox2)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図4】接着培養したhMSC-BM細胞(上段)と、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(SSEA3)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図5】接着培養したhMSC-BM細胞と、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞における3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog[左上段]、Oct3/4[右上段]、及びSox2[左下段])のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図6】接着培養したhADSC細胞(上段)と、スフェロイド培養したhADSC細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Nanog)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図7】接着培養したhADSC細胞(上段)と、スフェロイド培養したhADSC細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Oct3/4)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図8】接着培養したhADSC細胞(上段)と、スフェロイド培養したhADSC細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(Sox2)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図9】接着培養したhADSC細胞(上段)と、スフェロイド培養したhADSC細胞(下段)における多能性幹細胞マーカータンパク質(SSEA3)の発現を解析した結果を示す図である。左図は、位相差画像を示し、右図は蛍光画像を示す。
図10】接着培養したhADSC細胞と、スフェロイド培養したhADSC細胞における3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog[左上段]、Oct3/4[右上段]、及びSox2[左下段])のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図11】スフェロイド培養した細胞(hMSC-BM並びに接着性成熟細胞7種[HUVEC、HMVEC、NHEK、hHEP、NHBE、NHEM、及びUASMC細胞]及び接着性前駆細胞3種[NHDF、HSMM、及びNHOst細胞])の顕微鏡画像を示す図である。図中のスケールバーは、500μmを示す。
図12】接着培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)と、スフェロイド培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Oct3/4)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図13】接着培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)と、スフェロイド培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図14】接着培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)と、スフェロイド培養した細胞(hMSC-BM並びに上記接着性成熟細胞7種及び上記接着性前駆細胞3種)における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Sox2)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図15】接着性成熟細胞6種(HUVEC、HMVEC、NHEK、NHBE、NHEM、及びUASMC細胞)及び接着性前駆細胞3種(NHDF、HSMM、及びNHOst細胞)の専用培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種と、MSCBM培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Oct3/4)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図16】上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種の専用培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種と、MSCBM培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図17】上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種の専用培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種と、MSCBM培養液中でスフェロイド培養した上記接着性成熟細胞6種及び上記接着性前駆細胞3種における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Sox2)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図18】MSCBM培養液中でスフェロイド培養したhMSC-BM細胞と、輸液中でスフェロイド培養したhMSC-BM細胞における多能性幹細胞マーカー遺伝子3種(Oct3/4、Nanog、及びSox2)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図19図19Aは、HUVEC培養用培養液中でスフェロイド培養したHUVEC細胞の位相差画像(左図)と、輸液中でスフェロイド培養したHUVEC細胞の位相差画像(右図)である。図19Bは、HUVEC培養用培養液中でスフェロイド培養したHUVEC細胞と、輸液中でスフェロイド培養したHUVEC細胞における多能性幹細胞マーカー遺伝子3種(Oct3/4、Nanog、及びSox2)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である(平均値±標準偏差、[n=3])。
図20図20Aは、NHEK培養用培養液中でスフェロイド培養したNHEK細胞の位相差画像(左図)と、輸液中でスフェロイド培養したNHEK細胞の位相差画像(右図)である。図20Bは、NHEK培養用培養液中でスフェロイド培養したNHEK細胞と、輸液中でスフェロイド培養したNHEK細胞における多能性幹細胞マーカー遺伝子3種(Oct3/4、Nanog、及びSox2)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である(平均値±標準偏差、[n=3])。
図21図21Aは、ジェランガムを含む培養液中でスフェロイド培養したhMSC-BM細胞における多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。図21Bは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、ジェランガム、グァーガム、キサンタンガム、又はデキストランを含む培養液中でスフェロイド培養し、多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図22】hMSC-BM細胞のスフェロイドを、CNTF(毛様体神経栄養因子)を添加した培養液を用いた浮遊培養(以下、「神経分化誘導法1」という)(非特許文献5及び本実施例参照)による神経細胞(外胚葉由来細胞)への分化誘導処理した後、神経細胞マーカータンパク質(ネスチン)の発現を解析した結果(図22A)と、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果(図22B)を示す図である。
図23】hMSC-BM細胞のスフェロイドを、Nogginを添加した培養液を用いた接着培養(以下、「神経分化誘導法2」という)(文献「Wada, et al., PLoS One. 4(8):e6722(2009)」及び本実施例参照)による神経細胞への分化誘導処理した後、神経細胞マーカータンパク質(βチューブリン3)の発現を解析した結果(図23A)と、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果(図23B)を示す図である。
図24】hMSC-BM細胞のスフェロイドを神経細胞への分化誘導処理後、神経前駆細胞マーカー遺伝子2種(Musashi[図24A]及びMAP2[図24B])のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図25図25A及びBは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、それぞれ浮遊培養及び接着培養による肝細胞(内胚葉由来細胞)への分化誘導処理後、肝細胞マーカータンパク質(AFP)の発現を解析した結果を示す図である。図25Cは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養による肝細胞への分化誘導処理後、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図26図26Aは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、接着培養による心筋細胞(中胚葉由来細胞)への分化誘導処理後、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果を示す図である。図26Bは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養及び接着培養による心筋細胞への分化誘導処理後、心筋細胞マーカー遺伝子(GATA4)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図27図27Aは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、接着培養による脂肪細胞(中胚葉由来細胞)への分化誘導処理後、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果である。図27B及びCは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、それぞれ浮遊培養及び接着培養による脂肪細胞への分化誘導処理後、Oil Red染色法により脂肪滴を解析した結果を示す図である。図27Dは、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養及び接着培養による脂肪細胞への分化誘導処理後、脂肪細胞マーカー遺伝子(LPL)のmRNAの発現を解析した結果を示す図である。
図28図28の左側上段は、NHEK細胞のスフェロイドを神経細胞へ分化誘導処理し、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果を示す図である。図28の右側上段は、HUVEC細胞のスフェロイドを神経細胞へ分化誘導処理し、細胞の形態を顕微鏡で観察した結果を示す図である。図28の左側下段は、NHEK細胞のスフェロイドを神経細胞へ分化誘導処理し、神経細胞マーカータンパク質(TUJ1)の発現を解析した結果を示す図である。図28の右側下段は、HUVEC細胞のスフェロイドを神経細胞へ分化誘導処理し、神経細胞マーカータンパク質(TUJ1)の発現を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本件多能性幹細胞1は、哺乳動物間葉系幹細胞を浮遊培養することにより得られた細胞塊(スフェロイド[Spheroid])(以下、「本件多能性幹細胞塊1」ということがある)を形成する細胞であり、通常多能性幹細胞として使用するために用いる。また、本件多能性幹細胞2は、哺乳動物接着性成熟細胞又は哺乳動物接着性前駆細胞を浮遊培養することにより得られた細胞塊(スフェロイド)(以下、「本件多能性幹細胞塊2」ということがある)を形成する細胞であり、通常多能性幹細胞として使用するために用いる。本発明において、「多能性幹細胞として使用するために用いる」とは、生体内の細胞に対してパラクライン(傍分泌)効果を与えることを目的として用いる(移植する)ことの他、生体内において、3胚葉(外胚葉、内胚葉、中胚葉)に由来する細胞へ分化させることを目的として用いる(移植する)ことや、上記3胚葉に由来する目的の細胞へインビトロで分化させるために用いることを意味する。また、本発明において、多能性幹細胞として使用するための細胞とは、「多能性幹細胞として使用するため」という用途が限定された細胞を意味する。
【0027】
本発明の哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類などを例示することができ、中でもマウス、ブタ、又はヒトが好ましく、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2を再生医療に用いる場合、特にヒトを好適に例示することができる。
【0028】
本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2は、それ自体では個体になることができないが、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有し、かつ哺乳動物に移植した場合の腫瘍化リスクがない、或いは極めて低い細胞であり、哺乳動物に移植した場合の腫瘍化リスクが高い、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)等の多能性幹細胞や、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する複能性幹細胞や、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する単能性幹細胞(前駆細胞)とは異なる。
【0029】
本発明において、「浮遊培養」とは、細胞又は細胞塊(スフェロイド[Spheroid])、すなわち細胞が多数集合して形成された3次元構造(球状やぶどうの房状)を有する細胞の塊を培養器に接着させない条件で培養(スフェロイド培養)することを意味する。
【0030】
本願明細書において、「接着性成熟細胞」とは、足場に接着することで生存、増殖、物質生産を行なうことができる足場依存性であり、かつ分化が終了(完了)した細胞を意味し、通常の培養条件下では脱分化せず、安定に分化状態が維持される性質を有する。すなわち、上記接着性成熟細胞には、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、皮膚線維細胞、骨格筋細胞、骨細胞、ヘパトサイト(肝)細胞、臍帯静脈内皮細胞、皮膚微小リンパ管内皮細胞、表皮角化細胞、気管支上皮細胞、メラノサイト細胞、平滑筋細胞、象牙細胞等の成熟細胞が含まれるが、ES細胞、EG細胞、GS細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等の複能性幹細胞、心筋前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、脂肪前駆細胞、皮膚線維芽細胞、骨格筋筋芽細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞等の単能性幹細胞(前駆細胞)などの幹細胞や、赤血球、白血球(好中球、単球、リンパ球、マクロファージ等)などの浮遊性細胞は含まれない。
【0031】
本願明細書において、「接着性前駆細胞」とは、足場に接着することで生存、増殖、物質生産を行なうことができる足場依存性であり、かつ特定の組織や細胞へ分化する細胞を意味する。すなわち、上記接着性前駆細胞には、上記単能性幹細胞(前駆細胞)は含まれるが、上記多能性幹細胞、上記複能性幹細胞、上記成熟細胞、及び上記浮遊性細胞は含まれない。
【0032】
本件多能性幹細胞1及び本件多能性幹細胞2は、多能性(多分化能)を有するものであり、Nanog、Oct3/4、Sox2、SSEA3、TRA−1−60等の多能性マーカーの発現により、より特徴付けられる。哺乳動物間葉系幹細胞を通常培養(接着培養)した場合、多能性マーカーは発現しないため、通常培養した哺乳動物間葉系幹細胞における多能性マーカーの発現量(以下、「コントロールの発現量」という)と比べ、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2における多能性マーカーの発現量は増加する。例えば、本件多能性幹細胞1におけるNanog遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常2倍以上、好ましくは8倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは30倍以上、さらにより好ましくは50倍以上増加する。また、本件多能性幹細胞1におけるOct3/4遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、さらにより好ましくは5倍以上、特に好ましくは5.5倍以上、最も好ましくは6倍以上増加する。また、本件多能性幹細胞1におけるSox2遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、さらにより好ましくは5倍以上、特に好ましくは5.5倍以上、最も好ましくは6倍以上増加する。また、本件多能性幹細胞2におけるNanog遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは9倍以上、さらに好ましくは15倍以上、さらにより好ましくは20倍以上、特に好ましくは100倍以上、最も好ましくは1000倍以上増加する。また、本件多能性幹細胞2におけるOct3/4遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上、さらにより好ましくは10倍以上、特に好ましくは50倍以上、最も好ましくは1000倍以上増加する。本件多能性幹細胞2におけるSox2遺伝子のmRNAの発現量は、コントロールの発現量と比べ、通常1.5倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上、さらにより好ましくは10倍以上、特に好ましくは50倍以上、最も好ましくは1000倍以上増加する。
【0033】
本発明の哺乳動物間葉系幹細胞としては、骨髄や骨膜由来、末梢血由来、臍帯血、又は脂肪組織由来であり、かつ間充織組織系の組織(脂肪組織、軟骨組織、骨組織など)に分化可能な幹細胞であれば特に制限されないが、生体組織からの細胞の採取が容易であり、採取した後の培養方法が確立されている点から、哺乳動物骨髄間葉系幹細胞が好ましく、また、生体から余剰組織として採取することが容易であり、採取する際の侵襲性が低いという点から、脂肪組織由来間葉系幹細胞が好ましい。
【0034】
本件改善剤1及び本件改善剤2は、それぞれ本件多能性幹細胞1及び本件多能性幹細胞2、すなわち、多能性を有し、かつ腫瘍化リスクが極めて低い細胞を有効成分として含むものであり、臓器又は組織の機能低下若しくは障害を改善(治療)する作用を有する。
【0035】
上記臓器又は組織としては、脳、肺、肝臓、腎臓、心臓、腸(大腸、小腸、結腸等)、膵臓、骨(骨髄)、皮膚等を挙げることができる。
【0036】
上記臓器又は組織の機能低下若しくは障害としては、具体的に、腫心不全、インスリン依存性糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷、皮膚炎を挙げることができる。
【0037】
本件改善剤1や本件改善剤2に含まれる本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞数としては、移植の対象となる疾患部位や、臓器又は組織の機能低下レベル若しくは機能障害レベルにより異なるため、また、局所投与の場合と全身投与の場合とで異なるため、一概に特定することはできないが、通常1×10〜1×1011である。
【0038】
本件改善剤1及び本件改善剤2を上記臓器又は組織の機能低下若しくは障害を有する患者に投与する方法としては、カテーテルを用いて挿入する、冠動静脈内や直接疾患原因の臓器・組織へ注入する、静脈に注射する等の方法を挙げることができる。
【0039】
本件調製方法1に用いる哺乳動物骨髄間葉系幹細胞は、骨髄が存在する、上腕骨、肋骨、大腿骨、脛骨などの長骨や、手根骨、足根骨などの短骨や、頭頂骨、肩甲骨、骨盤(腸骨)などの扁平骨から採取することができるが、多量の細胞が採取でき、また採取が容易であるため、大腿骨、脛骨又は骨盤(腸骨)から採取することが好ましい。
【0040】
本件調製方法1に用いる哺乳動物脂肪組織由来間葉系幹細胞は、脂肪組織が存在する皮下組織や内臓組織から採取することができるが、多量の細胞が採取でき、また採取が容易であるという点から、皮下組織から採取することが好ましい。
【0041】
生体組織から定法により採取した哺乳動物間葉系幹細胞は、初代培養法に準ずる方法で接着培養することにより単離することができる。
【0042】
上記哺乳動物接着性成熟細胞や哺乳動物接着性前駆細胞は、皮膚(表皮、真皮、皮下組織等)、筋肉、心筋、神経、骨、軟骨、血管、脳、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、口腔内、角膜、骨髄、臍帯血、羊膜、毛等の臓器や組織から定法により採取し、初代培養法に準ずる方法で接着培養することにより単離することができる。
【0043】
本件調製方法1や本件調製方法2において、哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物接着性成熟細胞、及び哺乳動物接着性前駆細胞は、通常0.1〜30(v/v)%の血清(ウシ胎児血清[Fetal bovine serum;FBS]、子牛血清[Calf bovine serum;CS]等)を含有する動物細胞培養用培養液(DMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199など)中で接着培養するが、細胞の性質(特性)に合わせて最適化された培養液中で接着培養してもよく、かかる培養液としては、具体的には、本実施例や本参考例で用いた培養液(MSCBM培養液、ADSC−BM培養液、hHEP培養用培養液、HUVEC培養用培養液、HMVEC培養用培養液、NHEK培養用培養液、NHDF培養用培養液、NHBE培養用培養液、HSMM培養用培養液、NHEM培養用培養液、UASMC培養用培養液、及びNHOst培養用培養液)を挙げることができる。
【0044】
上記接着培養は、ガラス製又はプラスチック製のマルチウエルプレート、培養皿(シャーレ、ディッシュ)、フラスコなどの培養器を用いて行うことができ、ここでプラスチック製の培養器には、細胞が接着しやすいようにポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの親水性ポリマーや、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブリノーゲン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジンなどの細胞接着分子で表面処理されたものが含まれる。親水性ポリマーや細胞接着分子で表面処理された培養器は、市販のものであっても、自ら調製したものであってもよい。親水性ポリマーで表面処理された培養器の市販品としては、例えば細胞培養フラスコ(TPP社製)、ペトリディッシュ(TPP社製)、プライマリア カルチャーウェア(日本BD社製)などを挙げることができ、細胞接着分子で表面処理された培養器の市販品としては、例えばBD バイオコート ラミニンコート製品(日本BD社製)、バイオコート ポリ−D−リジン/ラミニン ディッシュ(コスモバイオ社製)、バイオコート ポリ−L−オルニチン/ラミニン プレート(コスモバイオ社製)、バイオコート ラミニン/フィブロネクチン プレート(コスモバイオ社製)などを挙げることができる。また、ガラス製の培養器の市販品としては、チャンバースライドII(IWAKI社製)、BD Falconカルチャースライド(日本BD社製)、チャンバースライド(松波硝子工業社製)などを挙げることができる。哺乳動物間葉系幹細胞は、培養器に接着して増殖する性質を有するため、浮遊して増殖する造血性幹細胞と分離することができる。
【0045】
上記接着培養は、哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物接着性成熟細胞、及び哺乳動物接着性前駆細胞の培養に適した条件で実施することができ、培養に適用される培養温度は、通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは37℃である。培養時のCO濃度は、通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%である。培養時の湿度は、通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%である。また、必要に応じて培養液を交換してもよい。
【0046】
哺乳動物間葉系幹細胞が単離されたことは、CD106、CD166、CD29、CD105、CD73、CD44、CD90、CD71などの間葉系幹細胞で発現するマーカータンパク質(ポジティブマーカー)の発現が検出されることや、CD31、CD18、CD56、CD45、CD34、CD14、CD11、CD80、CD86、CD40などの間葉系幹細胞で発現しないマーカータンパク質(ネガティブマーカー)の発現が検出されないことを指標に確認することができる。また、単離した哺乳動物間葉系幹細胞は慣用の方法を用いて凍結保存することができる。
【0047】
哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物接着性成熟細胞、及び哺乳動物接着性前駆細胞の浮遊培養は、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)や、ハイドロゲルや、MPCポリマー(2-Methacryloylethyl Phosphoryl Choline)などで表面がコーティングされた低接着性の培養器や、上記細胞接着分子でコーティングされていない非接着性の培養器上で細胞を浮遊培養することにより行うことができる。
【0048】
上記低接着性の培養器や非接着性の培養器は、市販のものであっても、自ら調製したものであってもよい。市販の低接着性の培養器としては、例えばEZSPHERE(スフェロイド形成培養用容器)(IWAKI社製)、NCP(NanoCulture Plate)(SCIVAX Life Sciences社製)、ULA(超低接着表面)培養容器(CORNING社製)の市販品を挙げることができ、市販の非接着性の培養器としては、例えば浮遊培養用ペトリディッシュ(Nunc社製)、浮遊細胞培養用シャーレ(住友ベークライト社製)、ノントリートメントプレート(BD Falcon社製)の市販品を挙げることができる。
【0049】
哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物接着性成熟細胞、及び哺乳動物接着性前駆細胞の浮遊培養は、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞塊が形成できる溶液中で行う。かかる溶液としては、例えば、0.1〜30(v/v)%の血清(FBS、CS等)を含有する動物細胞培養用培養液(DMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199等)、血清代替物を適量(例えば、1〜30%)添加した上記動物細胞培養用培養液、本実施例や本参考例で用いた培養液(MSCBM培養液、ADSC−BM培養液、hHEP培養用培養液、HUVEC培養用培養液、HMVEC培養用培養液、NHEK培養用培養液、NHDF培養用培養液、NHBE培養用培養液、HSMM培養用培養液、NHEM培養用培養液、UASMC培養用培養液、NHOst培養用培養液、hMSC培養用培養液)などの血清又は血清代替物(血清代替成分)を含む培養液や、生理食塩水、緩衝効果のある生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水[Phosphate buffered saline;PBS]、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水等)、リンゲル液(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等)、5%グルコース水溶液、上記動物細胞培養用培養液、等張剤(ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム等)、本実施例で用いた輸液などの血清又は血清代替物(血清代替成分)を含まない生理的水溶液を挙げることができ、血清又は血清代替物(血清代替成分)を含まない生理的水溶液が好ましく、具体的に、本実施例で用いた輸液を挙げることができる。ジェランガムやデキストランを補充した場合、多能性獲得の効率が高まるため、ジェランガム若しくはその誘導体又はそれらの塩(以下、「ジェランガム類」ということがある)と、デキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩(以下、「デキストラン類」ということがある)のいずれか一方又は両方を含有する上記溶液が好ましい。
【0050】
本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞塊をデキストラン存在下で浮遊培養した場合、多能性獲得の効率が高まるため、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞塊を形成させる工程の後に、さらに本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞塊を、デキストラン類を含有する上記溶液中で浮遊培養する工程を備えた本件調製方法1や本件調製方法2が好ましい。
【0051】
上記ジェランガム類におけるジェランガムとしては、直鎖状のヘテロ多糖類であり、グルコース、グルクロン酸、グルコース及びラムノースの4つの糖に由来する繰り返し単位から構成されているものであれば特に制限されず、脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムを挙げることができる。かかる脱アシル型ジェランガムとしては、ケルコゲル(登録商標)等が市販されており、ネイティブ型ジェランガムとしては、ケルコゲル(登録商標)LT100、ケルコゲル(登録商標)HM、ケルコゲル(登録商標)HT等が市販されている。本発明において、脱アシル型ジェランガムが好ましい。
【0052】
上記ジェランガム類におけるジェランガム誘導体としては、ジェランガムに対してエステル化、有機又は無機の酸の塩の添加等の標準の化学反応を行うことによって得られる生成物であればよく、具体的にはウェランガムを挙げることができる。
【0053】
上記ジェランガム類におけるジェランガム又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、ジェランガムの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0054】
上記溶液中のジェランガム類の濃度は、通常0.001〜1.0(w/v)%の範囲内であり、好ましくは0.005〜0.2(w/v)%、より好ましくは0.01〜0.2(w/v)%である。
【0055】
上記デキストラン類におけるデキストランとしては、D−グルコースからなる多糖(C10であって、α1→6結合を主鎖とするものであれば特に制限されず、デキストランの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、デキストラン40(Mw=40000)、デキストラン70(Mw=70000)などを挙げることができる。これらデキストランは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法で製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、低分子デキストランL注(大塚製薬工場社製)、デキストラン70(東京化成工業社製)などの市販品を挙げることができる。
【0056】
上記デキストラン類におけるデキストラン誘導体としては、デキストラン硫酸、カルボキシル化デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン等を挙げることができる。
【0057】
上記デキストラン類におけるデキストラン又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、デキストランの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0058】
上記溶液中のデキストラン類の濃度は、通常、0.1(w/v)%以上、好ましくは、0.5(w/v)%以上、より好ましくは1.0(w/v)%以上である。また、細胞の生存率への悪影響を回避する観点から、上記溶液中のデキストラン類の濃度は、例えば20(w/v)%以下、好ましくは15(w/v)%以下、より好ましくは12(w/v)%以下、さらに好ましくは10(w/v)%以下である。したがって、上記溶液中のデキストラン類の濃度は、例えば、0.1〜20(w/v)%、好ましくは0.5〜15(w/v)%、より好ましくは1.0〜12(w/v)%、さらに好ましくは1.0〜10(w/v)%である。
【0059】
上記血清又は血清代替物を含む培養液や、上記血清又は血清代替物を含まない生理的水溶液には、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、キレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン等の非必須アミノ酸)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、多糖類(例えば、グァーガム、キサンタンガム等)、溶解補助剤、保存剤、酸化防止剤などの添加物を必要に応じて適宜補充してもよい。
【0060】
本発明において、「血清代替物」とは、血清の代わりに細胞を培養・増殖させるために用いるもの(成分)であり、血清と同様の効果を有するものを意味する。血清代替物としては、具体的には、市販のB27サプリメント(−インスリン)(Life Technologies社製)、N2サプリメント(Life Technologies社製)、B27サプリメント(Life Technologies社製)、Knockout Serum Replacement(Invitrogen社製)等を挙げることができる。
【0061】
浮遊培養を行う培養条件は、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2のスフェロイドが形成できる培養条件(温度、時間、細胞濃度等)であれば適宜選択することができる。例えば、浮遊培養開始時の細胞濃度は、通常1×10〜1×10であり、好ましくは1×10〜1×10であり、より好ましくは1×10〜1×10である。培養に適用される培養温度は、通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは37℃である。培養時のCO濃度は、通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%である。培養時の湿度は、通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%である。また、必要に応じて培養液を交換してもよい。培養時間としては、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2が十分な割合で調製できる期間であればよく、通常5時間〜4週間であり、好ましくは1日〜3週間であり、より好ましくは3日〜2週間である。
【0062】
本件調製方法1や本件調製方法2を用いて、調製された細胞が多能性であることは、Nanog、Oct3/4、Sox2、SSEA3、TRA−1−60等の多能性マーカーの発現が検出されることを指標に確認することができる。多能性マーカーの発現を検出する方法としては、細胞の全RNAを抽出・精製し、多能性マーカー遺伝子のmRNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたノーザンブロッティング法で検出する方法や、細胞の全RNAを抽出・精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、多能性マーカー遺伝子のmRNA由来のcDNAを特異的に増幅するプライマー対を用いた、競合的PCR法、リアルタイムPCR法などの定量PCR法で検出する方法や、細胞の全RNAを精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、ビオチン(biotin)やジゴキシゲニン(digoxigenin)などでcDNAをラベルし、蛍光物質が標識されたビオチンに対する親和性の高いアビジン(avidin)やジゴキシゲニンを認識する抗体などで間接的にcDNAを標識した後、ガラス、シリコン、プラスチックなどのハイブリダイゼーションに使用可能な支持体上に固定化された、多能性マーカー遺伝子のcDNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたマイクロアレイで検出する方法の他、多能性マーカータンパク質を特異的に認識する抗体を用いた免疫学的測定法(免疫組織化学染色法、ELISA法、EIA法、RIA法、ウェスタンブロッティング法など)を挙げることができる。
【0063】
本件調製方法1や本件調製方法2において、高純度な本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞懸濁液を調製する場合、本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2の細胞塊を、細胞分散液(トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロナーゼ、ペプシン、エラスターゼ、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ等)や、ピペットやピペットマンを用いて細胞懸濁液を調製し、多能性幹細胞の細胞表面マーカー(TRA−1−60、SSEA−3等)に対する抗体を用いた蛍光活性化セルソーター(FACS)や、蛍光物質やビオチン、アビジン等の標識物質で標識した上記多能性幹細胞の細胞表面マーカーに対する抗体と、かかる標識物質に対する抗体とMACSビーズ(磁性ビーズ)とのコンジュゲート抗体とを用いた自動磁気細胞分離装置(autoMACS)により単離処理を施す。上記蛍光物質としては、アロフィコシアニン(APC)、フィコエリトリン(PE)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、PE−Texas Red、PE−Cy5、PE−Cy7等を挙げることができる。
【0064】
本件分化誘導方法1や本件分化誘導方法2としては、本件調製方法1や本件調製方法2を用いて調製した本件多能性幹細胞1や本件多能性幹細胞2に分化処理を施す工程を備えた方法であれば特に制限されないが、分化効率を高めるために、調製した細胞塊(本件多能性幹細胞塊1や本件多能性幹細胞塊2)に分化処理を施す前に、上記細胞分散液で処理したり、ピペットやピペットマンを用いて、多能性幹細胞の細胞塊を単一細胞の状態に懸濁する工程と、単一細胞を浮遊培養し、細胞塊を形成させる工程をさらに備えた方法が好ましい。単一細胞を浮遊培養するときの溶液や培養条件は上述のとおりである。本願明細書において、「単一細胞の状態」とは、他の細胞と寄り集まって塊を形成していないこと(即ち、凝集していない状態)を意味する。多能性幹細胞中に含まれる単一細胞の状態の細胞の割合は、通常70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%である。単一細胞の状態の細胞の割合は、懸濁液中の多能性幹細胞を顕微鏡下で観察し、無作為に選択された複数個(例えば、1000個)の細胞について凝集の有無を調べることにより確認することができる。
【0065】
上記分化処理は、ES細胞、iPS細胞、胚様体(EB)細胞等の多能性幹細胞で報告されている分化処理方法を参考に任意の細胞への分化誘導法を用いて適宜行うことができ、例えば、神経幹細胞への分化誘導は、文献(特開2002−291469号公報)に記載された方法にしたがって行うことができ、神経分化誘導法1(非特許文献5及び本実施例参照)や、神経分化誘導法2(文献「Wada, et al., PLoS One. 4(8):e6722(2009)」及び本実施例参照)により行うことができ、膵幹様細胞への分化誘導は、文献(特開2004−121165号公報)に記載された方法にしたがって行うことができ、造血細胞への分化誘導は、文献(特表2003−505006号公報、国際公開第99/064565号パンフレット)に記載された方法にしたがって行うことができ、筋細胞への分化誘導は、文献(Boheler K.R, et al, Circ. Res. 91,189-201, 2002)に記載された方法にしたがって行うことができ、肝細胞への分化誘導は、HGF(肝細胞増殖因子)を添加した培養液を用いた浮遊培養又は接着培養(本実施例参照)により行うことができ、心筋細胞への分化誘導は、文献(Klug M. G, et al, J. Clin. Invest. 98, 216-224, 1996、Muller M, et al, FASEB. J. 14, 2540-2548, 2000)に記載された方法にしたがって行うことができ、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞への分化誘導は、文献(Vittet D, et al,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 6273-6278, 1997、Bloch W, et al, J. Cell Biol. 139, 265-278, 1997、Yamashita J, et al, Nature 408, 92-96, 2000、Feraud O, et al,Lab. Invest. 81, 1669-1681, 2001)に記載された方法にしたがって行うことができ、脂肪細胞への分化誘導は、脂肪細胞誘導用培養液(Lonza社製、PT-3004)を用いた浮遊培養又は接着培養(本実施例参照)により行うことができ、網膜細胞への分化誘導は、文献(Ikeda H, et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA102, 11331-11336, 2005、Osakada F, et al, Nat. Biotechnol. 26, 215-224, 2008、Osakada F, et al, Nat. Protoc. 4, 811-824, 2009、Hirami Y, et al, Neurosci. Lett.458, 126-131, 2009、Osakada F, et al, J Cell Sci 122, 3169-3179, 2009)に記載された方法にしたがって行うことができ、樹状細胞への分化誘導は、文献(Senju S, Haruta M, Matsunaga Y, et al, Stem Cells 27, 1021-1031, 2009)に記載された方法にしたがって行うことができる。
【0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
1.hMSC-BM細胞をスフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞が得られることの確認
1−1 方法
1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法
〔1〕75cmのフラスコに、間葉系幹細胞添加因子セット(Lonza社製、PT-4105)を加えたMSCBM(Mesenchymal Stem Cell Basal Medium)(Lonza社製、PT-3238)(以下、「MSCBM培養液」という)16mLを添加し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で培養液の加温・平衡化を行った(30分以上)。
〔2〕hMSC-BM細胞(Lonza社製)を液体窒素から取り出し、37℃の湯浴器中で迅速に融解した。
〔3〕融解した細胞を、予め5mLMSCBM培養液を入れておいた15mL遠心管に移し混和した。
〔4〕500g、5分間、22℃で遠心処理を行った。
〔5〕上清を除き、1mLMSCBM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔6〕さらに9mLMSCBM培養液を加えて撹拌した。
〔7〕細胞数をカウントし、75cmフラスコに播種した(4.0×10細胞/フラスコ)。
〔8〕インキュベーター(37℃、5%CO)内で細胞培養を行った。
〔9〕3日又は4日おきに培養液を交換した。
〔10〕80%コンフルエント程度になったら培養液をアスピレーターで吸引し、10mLPBSを加え細胞を洗浄した。
〔11〕PBSを除き、トリプシン/EDTA(Lonza社製)を3.75mL程度加え、顕微鏡で細胞の状態を確認しながら室温で5分間トリプシン処理を行った後、90%以下の細胞が剥離しなかった場合は、さらに3〜10分間トリプシン処理を行った。
〔12〕室温のMSCBM培養液をトリプシン/EDTAと等量加え、トリプシン処理を止めた後、ピペッティングで細胞を剥離し、15mLチューブに回収した。
〔13〕600g、5分間、室温で遠心処理を行った。
〔14〕上清を除き、1mLMSCBM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔15〕さらに9mLMSCBM培養液を加えて撹拌した。
〔16〕細胞数をカウントし、75cmフラスコに播種した(3.75〜4.5×10細胞/フラスコ)。
〔17〕インキュベーター(37℃、5%CO)内で細胞培養を行った。
〔18〕3日又は4日おきに培養液を交換した。
〔19〕解析に用いる上で十分な細胞数(0.3〜1×10細胞)となるまで、工程〔10〕〜[18]を繰り返した。
〔20〕80%コンフルエント程度になったら培養液をアスピレーターで吸引し、10mLPBSを加え細胞を洗浄した。
〔21〕PBSを除き、トリプシン/EDTA(Lonza社製)を3.75mL程度加え、顕微鏡で細胞の状態を確認しながら室温で5分間トリプシン処理を行った後、90%以下の細胞が剥離しなかった場合は、さらに3〜10分間トリプシン処理を行った。
〔22〕室温のMSCBM培養液をトリプシン/EDTAと等量加え、トリプシン処理を止めた後、ピペッティングで細胞を剥離し、15mLチューブに回収した。
〔23〕600g、5分間、室温で遠心処理を行った。
〔24〕上清を除き、1mLMSCBM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔25〕さらに9mLMSCBM培養液を加えて撹拌した。
〔26〕細胞数をカウントし、低接着性の100mmディッシュ(Corning社製)及び96ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ディッシュ及び1.0×10細胞/プレート)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間スフェロイド培養を行った。
【0068】
1−1−2 免疫蛍光染色法
〔1〕上記「1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって96ウェルプレートでスフェロイド培養したhMSC-BM細胞を、1.5mLチューブに回収した。なお、コントロールとしてチャンバースライド(IWAKI社製)にて接着培養したhMSC-BM細胞は、剥離せずに以下同様の操作を行った。
〔2〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔3〕上清を除き、0.5〜1mL4%ホルムアルデヒド/PBSを加え、細胞の固定処理を行った(15分間、室温)。
〔4〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔5〕上清を除き、1〜1.5mLPBSを加え、細胞の洗浄処理を行った(5分間、室温)。
〔6〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔7〕工程〔5〕〜[6]を2回繰り返した。
〔8〕上清を除き、0.5〜1mLTriton/PBSを加え、細胞の透過処理を行った(5分間、室温)。
〔9〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔10〕上清を除き、1〜1.5mLPBSを加え、細胞の洗浄処理を行った(5分間、室温)。
〔11〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔12〕工程〔10〕〜[11]を1回繰り返した。
〔13〕上清を除き、1mLブロッキング溶液(5%正常血清/PBS又は3%BSA/PBS)を加え、細胞のブロッキング処理を行った(1〜2時間、室温)。
〔14〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔15〕上清を除き、4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質(Nanog、Oct3/4、Sox2、及びSSEA3)の発現を検出するために、0.5〜1mL1次抗体溶液(抗Nanog抗体[Cell signaling technology社製、#4903S、1/800倍希釈]、抗Oct4抗体[Cell signaling technology社製、#2750S、1/400倍希釈]、抗Sox2抗体[Cell signaling technology社製、#3579S、1/400倍希釈]、又は抗SSEA3抗体[Millipore社製、A488、1/200倍希釈])を加え、細胞の1次抗体反応処理を行った(一晩、4℃)。
〔16〕上清を除き、1〜1.5mLPBSを加え、細胞の洗浄処理を行った(5分間、室温)。
〔17〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔18〕工程〔16〕〜[17]を2回繰り返した。
〔19〕上清を除き、0.5〜1mL2次抗体溶液(Alexa Fluor 488抗ラビット抗体[Invitrogen社製、A21206、1/1000倍希釈]、Alexa Fluor 555抗ラビット抗体[Invitrogen社製、A21428、1/1000倍希釈]、又はAlexa Fluor 488抗マウス抗体[Invitrogen社製、A21202、1/1000倍希釈])を加え、細胞の2次抗体反応処理を行った(1〜2時間、室温)。
〔20〕上清を除き、1〜1.5mLPBSを加え、細胞の洗浄処理を行った(5分間、室温)。
〔21〕スフェロイド培養した細胞塊は、チューブ底に沈むまで静置した。
〔22〕工程〔20〕〜[21]を2回繰り返した。
〔23〕上清を除き、1〜1.5mLPBSを加え、スライドグラス上に細胞塊を静置後、又は、接着培養のチャンバースライド上部の剥離後、Fluoromount(Diagnostic BioSystem社製)を滴下しカバーグラスをかけ封入し、免疫蛍光染色用の細胞試料を作製した。
〔24〕Axio Observer(Carl Zeiss社製)を用いて、細胞試料における蛍光画像と位相
差画像を取得した。解析ソフトには、Axio Vision(Carl Zeiss社製)を使用した。
【0069】
1−1−3 mRNAの発現解析
〔1〕上記「1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって100mmディッシュでスフェロイド培養したhMSC-BM細胞を、15mL遠心管に回収した。なお、コントロールとして接着培養したhMSC-BM細胞を回収し、以下同様の操作を行った。
〔2〕細胞における全RNAの抽出は、RNeasy Mini Kit(Qiagen社製)及びQIA shredder(Qiagen社製)を用いて製品付属のプロトコールにしたがって行った。
〔3〕抽出した全RNAの濃度は、NanoDrop 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。
〔4〕全RNAを20μg/mLに調整し、96ウェルプレート(Fast 96 well Reaction plate[Applied Biosystems社製、#4309169])に3μL/ウェルとなるように分注した。
〔5〕3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現量をRT−PCRにより検出するために、TaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents Kit(Applied Biosystems社製、#4309169)を用いて以下の1)〜6)からなる反応液を調製し、全RNAを分注した96ウェルプレートへ滴下した。なお、内部標準としてGAPDH遺伝子を用いた。
1)Rnase-free water;0.5μL
2)2X Master Mix without UNG;10μL(1×)
3)40X MultiScribe and RNase Inhibitor Mix;0.5μL
4)Forward Primer;2.0μL(300nM)
5)Reverse Primer;2.0μL(900nM)
6)TaqMan Probe;2.0μL(200nM)
【0070】
上記3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット(上記「Forward Primer」及び「Reverse Primer」)の塩基配列や、その増幅(PCR)産物にハイブリダイズするプローブ(上記「TaqMan Probe」)の塩基配列は、表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
〔6〕工程〔5〕で調製した全RNAと反応液との混合液を用いて、ABI PRISM 7000 Sequence Detection system (Applied Biosystems社製)によるリアルタイムRT−PCRを、以下の1)〜3)に示した条件で行った。
1)48℃、30分を1サイクル(mRNAからcDNAへの逆転写反応)
2)95℃、10分を1サイクル(ポリメラーゼの活性化)
3)95℃、15秒と60℃、1分の往復を40サイクル(「Forward Primer」及び「Reverse Primer」によるcDNAの増幅)
〔7〕Baselineソフトウェア(Applied Biosystems社製)を用いてPCR産物が一定量になるPCRのサイクル数(threshold cycle;Ct値)を測定し、比較Ct法(delta delta Ct法)によりGAPDH遺伝子のcDNA増幅産物のCt値を基準とした上記3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子のcDNA増幅産物のCt値の相対値を求め、かかるCt値の相対値から、上記3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子のcDNAの相対量、すなわち上記3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子のmRNAの相対量を算出した(図5及び10の縦軸参照)。
【0073】
1−2 結果
免疫蛍光染色法を用いて4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質(Nanog、Oct3/4、Sox2、及びSSEA3)の発現を検出したところ、コントロールの接着培養したhMSC-BM細胞においては、上記4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質の発現は検出されなかったのに対して、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞においては、上記4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質が検出された(図1〜4参照)。
【0074】
また、RT−PCR法を用いて3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現量を検出・定量したところ、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞におけるNanog及びOct3/4のmRNAの発現量は、コントロールの接着培養したhMSC-BM細胞と比べ、それぞれ57.8倍及び43.3倍と大幅に増加していた(図5参照)。また、Sox2のmRNAの発現量は、コントロールの接着培養したhMSC-BM細胞では検出されなかったのに対して、スフェロイド培養したhMSC-BM細胞では検出された(図5参照)。これらの結果は、hMSC-BM細胞をスフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞を誘導(あるいは単離)できることを示している。
【実施例2】
【0075】
2.hADSC細胞をスフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞が得られることの確認
2−1 方法
2−1−1 hADSC細胞の培養とスフェロイド培養方法
〔1〕75cmのフラスコに、ヒト脂肪由来幹細胞添加因子セット(Lonza社製、PT-4503)を加えたADSC−BM(Adipose Derived Stem Cell Basal Medium)(Lonza社製、PT-3273)(以下、「ADSC−BM培養液」という)15mLを添加し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で培養液の加温・平衡化を行った(20〜30分以上)。
〔2〕hADSC細胞(Lonza社製)を液体窒素から取り出し、37℃の湯浴器中で迅速に融解した。
〔3〕融解した細胞を、予め5mLADSC−BM培養液を入れておいた15mL遠心管に移し混和した。
〔4〕210g、5分間、22℃で遠心処理を行った。
〔5〕上清を除き、1mLADSC−BM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔6〕さらに9mLADSC−BM培養液を加えて撹拌した。
〔7〕細胞数をカウントし、75cmフラスコに播種した(3.75×10細胞/フラスコ)。
〔8〕インキュベーター(37℃、5%CO)内で細胞培養を行った。
〔9〕3日又は4日おきに培養液を交換した。
〔10〕90%コンフルエント程度になったら培養液をアスピレーターで吸引し、5mLHEPES buffer(Lonza社製)を加え細胞を洗浄した。
〔11〕HEPES bufferを除き、トリプシン/EDTA(Lonza社製)を3.75mL程度加え、顕微鏡で細胞の状態を確認しながら37℃で3〜5分間トリプシン処理を行った後、90%以下の細胞が剥離しなかった場合は、さらに2分間トリプシン処理を行った。
〔12〕室温のTNS(Trypsin Neutralization Solution)(Lonza社製)をトリプシン/EDTAの2倍量加え、トリプシン処理を止めた後、ピペッティングで細胞を剥離し、15mLチューブに回収した。
〔13〕210g、5分間、室温で遠心処理を行った。
〔14〕上清を除き、1mLADSC−BM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔15〕さらに9mLADSC−BM培養液を加えて撹拌した。
〔16〕細胞数をカウントし、75cmフラスコに播種した(3.75〜4.5×10細胞/フラスコ)。
〔17〕インキュベーター(37℃、5%CO)内で細胞培養を行った。
〔18〕3日又は4日おきに培養液を交換した。
〔19〕解析に用いる上で十分な細胞数(0.3〜1×10細胞)となるまで、工程〔10〕〜[18]を繰り返した。
〔20〕90%コンフルエント程度になったら培養液をアスピレーターで吸引し、10mLPBSを加え細胞を洗浄した。
〔21〕PBSを除き、トリプシン/EDTA(Lonza社製)を3.75mL程度加え、顕微鏡で細胞の状態を確認しながら37℃で3〜5分間トリプシン処理を行った後、90%以下の細胞が剥離しなかった場合は、さらに2分間トリプシン処理を行った。
〔22〕室温のTNS(Lonza社製)をトリプシン/EDTAの2倍量加え、トリプシン処理を止めた後、ピペッティングで細胞を剥離し、15mLチューブに回収した。
〔23〕210g、5分間、室温で遠心処理を行った。
〔24〕上清を除き、1mLADSC−BM培養液を加え、ピペッティングすることにより、細胞を懸濁した。
〔25〕さらに9mLADSC−BM培養液を加えて撹拌した。
〔26〕細胞数をカウントし、低接着性の100mmディッシュ(Corning社製)及び96ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ディッシュ及び1.0×10細胞/プレート)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間スフェロイド培養を行った。
【0076】
2−1−2 免疫蛍光染色法
上記「2−1−1 hADSC細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって96ウェルプレートでスフェロイド培養したhADSC細胞を、上記「1−1−2 免疫蛍光染色法」に記載の方法にしたがって解析した。なお、コントロールとして接着培養したhADSC細胞を用いた。
【0077】
2−1−3 mRNAの発現解析
上記「1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって100mmディッシュでスフェロイド培養したhMSC-BM細胞を、上記「1−1−3 mRNAの発現解析」に記載の方法にしたがって解析した。なお、コントロールとして接着培養したhADSC細胞を用いた。
【0078】
2−2 結果
免疫蛍光染色法を用いて4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質(Nanog、Oct3/4、Sox2、及びSSEA3)の発現を検出したところ、コントロールの接着培養したhADSC細胞においては、上記4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質の発現は検出されなかったのに対して、スフェロイド培養したhADSC細胞においては、上記4種類の多能性幹細胞マーカータンパク質が検出された(図6〜9参照)。
【0079】
また、RT−PCR法を用いて3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現量を検出・定量したところ、スフェロイド培養したhADSC細胞におけるNanog及びOct3/4のmRNAの発現量は、コントロールの接着培養したhADSC細胞と比べ、それぞれ23.6倍及び24.0倍と大幅に増加していた(図10参照)。また、Sox2のmRNAの発現量は、コントロールの接着培養したhADSC細胞では検出されなかったのに対して、スフェロイド培養したhADSC細胞では検出された(図10参照)。これらの結果は、hADSC細胞をスフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞を誘導(あるいは単離)できることを示している。
【0080】
[参考例1]
3.接着性成熟細胞及び前駆細胞をスフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞が得られることの確認
3−1 方法
3−1−1 スフェロイド培養方法
[hHEP細胞(接着性成熟細胞1種)]
〔1〕hHEP細胞(In Vitro Technologies, Inc社製)を液体窒素から取り出し、37℃の湯浴器中で迅速に融解した。
〔2〕細胞を50mLの遠心管に移した。
〔3〕hHEP細胞の専用培養液(hHEP培養用培養液)(表2参照)25mL(氷冷)をゆっくりと滴下した。
〔4〕4℃で遠心した(50×g、3分)。
〔5〕上清を捨て、氷冷したhHEP培養用培養液を5mL添加した。
〔6〕細胞数をカウントし、低接着性の96ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ウェル)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間スフェロイド培養した(図11の「hHEP」参照)。なお、コントロールとして、接着性の24ウェルプレート(旭テクノグラス社製)に播種し(1.0×10細胞/ウェル)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間接着培養を行った。
【0081】
[HUVEC、HMVEC、NHEK、NHBE、NHEM、及びUASMC細胞(接着性成熟細胞6種)、並びにNHDF、HSMM、及びNHOst細胞(接着性前駆細胞3種)]
〔1〕75cmのフラスコのそれぞれに、上記接着性成熟細胞6種及び接着性前駆細胞3種の専用培養液(HUVEC、HMVEC、NHEK、NHDF、NHBE、HSMM、NHEM、UASMC、及びNHOst培養用培養液)(表2参照)16mLを添加し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で培養液の加温・平衡化を行った(30分以上)。
〔2〕上記接着性成熟細胞6種及び接着性前駆細胞3種(すべてLonza社製)を液体窒素から取り出し、37℃の湯浴器中で迅速に融解し、上記9種類の細胞専用の培養液を添加した75cmフラスコに播種した(2500〜10000細胞/cm)。
〔3〕播種後24時間以内に培養液を交換し、以後1日〜3日おきに培養液を交換した。〔4〕培養液を取り除き、15mLのHBSS(Lonza社製)を加えた。細胞をリンス後、HBSSを取り除いた。なお、HSMM細胞については、HBSSの代わりにDPBS(−)を、また、NHEM細胞については、HBSSの代わりにPBS(−)を用いた。〔5〕トリプシン/EDTA(Lonza社製)を6mL加え,5分間処理した。
〔6〕TNS(Lonza社製)を12mL加え、中和した。
〔7〕50mLの遠心管に入れた。
〔8〕各フラスコそれぞれにHBSSを5mL加え,洗い込んだ。なお、HSMM細胞については、HBSSの代わりにDPBS(−)を、また、NHEM細胞については、HBSSの代わりにPBS(−)を用いた。
〔9〕220×g、5分、室温で遠心処理し、上清を捨て、氷冷培地(フラスコ1枚から回収した細胞につき4〜6mL)を添加した。なお、NHEM細胞については、推奨プロトコールに従い、工程〔9〕は行わなかった。
〔10〕細胞数をカウントし、75cmフラスコに播種した(2500〜10000細胞/cm)。
〔11〕1日〜3日おきに培養液を交換した。
〔12〕解析に用いるまで、工程〔4〕〜[11]を繰り返した。
〔13〕工程〔4〕〜〔9〕と同じ作業を行った。
〔14〕細胞数をカウントし、低接着性の96ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ウェル)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間スフェロイド培養を行った(図11の「HUVEC」、「HMVEC」、「NHEK」、「NHDF」、「NHBE」、「HSMM」、「NHEM」、「UASMC」、及び「NHOst」参照)。なお、コントロールとして、接着性の24ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ウェル)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間接着培養を行った。
【0082】
[hMSC-BM細胞]
hMSC-BM細胞のスフェロイド培養は、上記「1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって、低接着性の96ウェルプレート(Corning社製)中で行った(図11の「hMSC-BM」参照)。なお、コントロールとして、接着性の24ウェルプレート(Corning社製)に播種し(1.0×10細胞/ウェル)、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間接着培養を行った。
【0083】
【表2】
【0084】
3−1−2 mRNAの発現解析
〔1〕上記「3−1−1 スフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがってスフェロイド培養した細胞(接着性成熟細胞7種[HUVEC、HMVEC、NHEK、hHEP、NHBE、NHEM、及びUASMC細胞]及び接着性前駆細胞3種[NHDF、HSMM、及びNHOst細胞]については16ウェル分、hMSC-BM細胞については24ウェル分)と、コントロールとして接着培養した細胞(上記接着性成熟細胞7種及び接着性前駆細胞3種については4ウェル分、hMSC-BM細胞については12ウェル分)を、それぞれ1.5mLチューブに回収した。
〔2〕細胞における全RNAの抽出は、RNeasy Mini Kit(Qiagen社製)及びQIA shredder(Qiagen社製)を用いて製品付属のプロトコールにしたがって行った。
〔3〕抽出した全RNAの濃度は、NanoDrop 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。
〔4〕全RNAを20μg/mLに調整し、96ウェルプレート(Fast 96 well Reaction plate[Applied Biosystems社製、#4309169])に3μL/ウェル(60ngRNA)となるように分注した。
〔5〕多能性幹細胞マーカー遺伝子3種(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNA発現をRT−PCRにより検出するために、TaqMan RNA-to-CTTM 1-Step Kit(Applied Biosystems社製、#4392938)を用いて以下の1)〜6)からなる反応液を調製し、全RNAを分注した96ウェルプレートへ滴下した。なお、内部標準としてGAPDH遺伝子を用いた。
1)Rnase-free water;0.5μL
2)2X TaqMan RT-PCR Mix;10μL(1×)
3)40X TaqMan RT Enzyme Mix;0.5μL
4)Forward Primer;2.0μL(900nM)
5)Reverse Primer;2.0μL(900nM)
6)TaqMan Probe;2.0μL(200nM)
【0085】
上記マーカー遺伝子4種及びGAPDH遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット(上記「Forward Primer」及び「Reverse Primer」)の塩基配列や、その増幅(PCR)産物にハイブリダイズするプローブ(上記「TaqMan Probe」)の塩基配列は、表1に示す。
【0086】
〔6〕工程〔5〕で調製した全RNAと反応液との混合液を用いて、ABI PRISM 7000 Sequence Detection system (Applied Biosystems社製)によるリアルタイムRT−PCRを、以下の1)〜3)に示した条件で行った。
1)48℃、15分を1サイクル(mRNAからcDNAへの逆転写反応)
2)95℃、10分を1サイクル(ポリメラーゼの活性化)
3)95℃、15秒と60℃、1分の往復を40サイクル(「Forward Primer」及び「Reverse Primer」によるcDNAの増幅)
〔7〕Baselineソフトウェア(Applied Biosystems社製)を用いてPCR産物が一定量になるPCRのサイクル数(threshold cycle;Ct値)を測定し、比較Ct法(delta delta Ct法)によりGAPDH遺伝子のcDNA増幅産物のCt値を基準とした上記マーカー遺伝子4種のcDNA増幅産物のCt値の相対値を求め、かかるCt値の相対値から、上記マーカー遺伝子4種のcDNA(mRNA)の相対量を算出した(図12〜14の縦軸、表3〜5参照)。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
3−2 結果
RT−PCR法を用いて3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現量を検出・定量したところ、スフェロイド培養したすべての細胞(hMSC-BM細胞及び接着性成熟細胞7種及び接着性前駆細胞3種)におけるNanog及びOct3/4のmRNAの発現量は、コントロールの接着培養した細胞の発現量と比べ、大幅に増加していた(図12〜14、表3〜5参照)。これらの結果は、hMSC-BM細胞等の間葉系幹細胞はもちろんのこと、分化が完了した接着性成熟細胞や特定の組織や細胞へ分化する接着性前駆細胞であっても、スフェロイド培養すると、多能性幹細胞マーカーを発現する細胞を誘導(あるいは単離)できることを示している。
【0091】
[参考例2]
4.接着性成熟細胞及び前駆細胞をスフェロイド培養するときの培養液の検討1
接着性成熟細胞6種(HUVEC、HMVEC、NHEK、NHBE、NHEM、及びUASMC細胞)及び接着性前駆細胞3種(NHDF、HSMM、及びNHOst細胞)をMSCBM培養液等のMSC培養用培養液中で培養した場合に、多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベルに変化が見られるかどうかを解析した。培養液を各細胞専用の培養液からMSCBM培養液へ変更し、上記参考例1記載の方法により上記接着性成熟細胞6種及び接着性前駆細胞3種をスフェロイド培養したところ、すべての接着性成熟細胞において、各種細胞専用の培養液中でスフェロイド培養するよりも、MSCBM培養液中でスフェロイド培養をした方が、3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現レベルが高いことが示された(図15〜17、表6〜8参照)。これらの結果は、接着性成熟細胞や接着性前駆細胞をMSCBM培養液中でスフェロイド培養した方が、各細胞専用の培養液中でスフェロイド培養するよりも、より多能性獲得の効率が高まることを示している。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
【実施例3】
【0095】
5.hMSC-BM細胞をスフェロイド培養するときの培養液の検討1
hMSC-BM細胞を無血清の生理的水溶液で培養した場合に、多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベルに変化が見られるかどうかを解析した。hMSC-BM細胞を、MSCBM培養液に代えて輸液(エルネオパ2号輸液[大塚製薬工場社製]をビカネイト輸液[大塚製薬工場社製]にて100倍希釈したもの)中でスフェロイド培養したところ、3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現レベルが増加することが示された(図18、表9参照)。これらの結果は、hMSC-BM細胞等の間葉系幹細胞を輸液等の無血清の生理的水溶液中でスフェロイド培養した方が、MSCBM培養液等の間葉系幹細胞培養用培養液中でスフェロイド培養するよりも、多能性獲得の効率が高まることを示している。
【0096】
【表9】
【0097】
[参考例3]
6.接着性成熟細胞をスフェロイド培養するときの培養液の検討2
接着性成熟細胞を無血清の生理的水溶液で培養した場合に、多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベルに変化が見られるかどうかを解析した。HUVEC細胞を、HUVEC培養用培養液に代えて輸液(エルネオパ2号輸液[大塚製薬工場社製]をビカネイト輸液[大塚製薬工場社製]にて100倍希釈したもの)中で6日間スフェロイド培養したところ(図19A参照)、3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現レベルが増加することが示された(図19B、表10参照)。また、NHEK細胞を、NHEK培養用培養液に代えて上記輸液中で6日間スフェロイド培養した場合(図20A参照)も同様に、3種類の多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog、Oct3/4、及びSox2)のmRNAの発現レベルが増加することが示された(図20B、表11参照)。これらの結果は、接着性成熟細胞を輸液等の無血清の生理的水溶液中でスフェロイド培養した方が、細胞専用培養液中でスフェロイド培養するよりも、多能性獲得の効率が高まることを示している。
【0098】
【表10】
【0099】
【表11】
【実施例4】
【0100】
7.hMSC-BM細胞をスフェロイド培養するときの培養液の検討2
hMSC-BM細胞を、多糖類を用いて培養液の粘性を向上させることにより完全浮遊状態で培養させたときに、多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベルに変化が見られるかどうかを解析した。hMSC-BM細胞を、ジェランガム(0.02%脱アシル化ジェランガム[三晶社製、CG-LA])を含むMSCBM培養液中で7日間スフェロイド培養した場合、ジェランガムを含まないMSCBM培養液中でスフェロイド培養した場合と比べ、多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現レベルが増加することが示された(図21A参照)。この結果は、hMSC-BM細胞を、ジェランガムを含む培養液中でスフェロイド培養することにより、スフェロイドの浮遊状態を向上させ、多能性獲得の効率が高まったと推測される。
【0101】
また、hMSC-BM細胞を上記実施例1記載の方法により96ウェルプレート中で1日間スフェロイド培養し、スフェロイドを形成させた後、ジェランガム(0.02%脱アシル化ジェランガム[ケルコゲル;登録商標][三晶社製、CG-LA])、グァーガム(0.02%グァーガム[三栄源エフ・エフ・アイ社製、D-2029])、キサンタンガム(0.02%キサンタンガム[三栄源エフ・エフ・アイ社製、NXG-C])、又はデキストラン(10%デキストラン40[名糖産業社製])を含むMSCBM培養液中で7日間スフェロイド培養したところ(図21B参照)、デキストランを含むMSCBM培養液中でスフェロイド培養した場合、デキストランを含まないMSCBM培養液中でスフェロイド培養した場合よりも、多能性幹細胞マーカー遺伝子(Nanog)のmRNAの発現レベルが増加することが示された(図21B参照)。この結果から、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、デキストランを含む培養液中でスフェロイド培養することにより、スフェロイドの浮遊状態を向上させ、多能性獲得の効率が高まったと推測される。
【実施例5】
【0102】
8.hMSC-BM細胞のスフェロイドの多分化能の解析
hMSC-BM細胞のスフェロイドの多分化能について解析するために、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、以下の「8−1−1 スフェロイド培養後の継代培養方法」に記載の方法にしたがって継代培養(スフェロイド培養)した後、以下の「8−1−2 浮遊培養による分化誘導方法」、又は「8−1−3 接着培養による分化誘導方法」に記載の方法にしたがって4種類の臓器・組織(神経、肝臓、心筋、及び脂肪)細胞への分化誘導処理を行った。
【0103】
8−1 方法
8−1−1 スフェロイド培養後の継代培養方法
〔1〕上記「1−1−1 hMSC-BM細胞の培養とスフェロイド培養方法」に記載の方法にしたがって調製したhMSC-BM細胞のスフェロイド(96ウェルプレート1枚分)を、50mLチューブに回収した。
〔2〕5分間室温で静置した後、スフェロイドを吸わないようにかつ培養液の残量が1mL以下になるようにゆっくりと上清(培養液)を除いた。
〔3〕30mLPBS(-)(Life Technologies社製、14190144)を加え、5分間静置した後、同様にゆっくりと上清(培養液)を除いた。
〔4〕2mLトリプシン/EDTA(Lonza社製)を加え、37℃ウォーターバス中で10分間静置した。
〔5〕2mLhMSC-BM培養液(Lonza社製、PT-3001)を加え、トリプシン処理を止めた後、P1000ピペットで3〜5回ゆっくりとスフェロイドを分散させた。
〔6〕600g、5分間、室温で遠心処理し、上清の除き、5ng/mLbFGF(ReproCELL社製、RCHEOT002)を加えたReproFF(ReproCELL社製、RCHEMD004)(以下、「FF+bFGF培養液」という)10mLを添加し、細胞を懸濁した。
〔7〕96ウェルプレート(Corning社製)に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で継代培養(スフェロイド培養)を行った。
〔8〕4日後に、1ウェルあたり70μLのFF+bFGF培養液を除き、新しいFF+bFGF培養液100μLを加えることにより培養液を交換し、さらに7日間継代培養(スフェロイド培養)を行った。
【0104】
8−1−2 浮遊培養による分化誘導方法
〔1〕上記「8−1−1 スフェロイド培養後の継代培養方法」に記載の方法にしたがって調製したhMSC-BM細胞のスフェロイドを、1ウェルあたり70μLのFF+bFGF培養液を除き、新しい5種類の分化誘導用培養液(表12〜16参照)100μLを加えた。
〔2〕インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間浮遊培養した。
〔3〕1ウェルあたり80μLの培養液を除き、新しい5種類の分化誘導用培養液(表12〜16参照)100μLを加えた後、さらに7日間浮遊培養した。なお、その後、免疫染色法及びOil Red染色法による解析を行うサンプルについては、7日間浮遊培養後、細胞を96ウェルプレート(TPP社製、92096)に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で1日間接着培養した。
【0105】
8−1−3 接着培養による分化誘導方法
〔1〕上記「8−1−1 スフェロイド培養後の継代培養方法」に記載の方法にしたがって調製したhMSC-BM細胞のスフェロイド(96ウェルプレート1枚分)を、50mLチューブに回収した。
〔2〕5分間室温で静置した後、スフェロイドを吸わないようにかつ培養液の残量が1mL以下になるようにゆっくりと上清(培養液)を除いた。
〔3〕新しい5種類の分化誘導用培養液(表12〜16参照)30mLを加え、6ウェルプレート(TPP社製、92006)に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で7日間接着培養した。なお、96ウェルプレート1枚から6ウェルプレートで2ウェル分程度を目安とした。
〔4〕培養液の8割相当を新しい培養液と交換し、さらに7日間接着培養した。
【0106】
【表12】
【0107】
【表13】
【0108】
【表14】
【0109】
【表15】
【0110】
【表16】
【0111】
8−1−4 免疫蛍光染色法
上記「8−1−2 浮遊培養による分化誘導方法」及び「8−1−3 接着培養による分化誘導方法」に記載の方法にしたがって分化誘導した細胞について、上記「1−1−2 免疫蛍光染色法」に記載の方法にしたがって3種類の分化マーカータンパク質(βチューブリン3[神経細胞マーカー]、ネスチン[神経細胞マーカー]、及びAFP[肝細胞マーカー])の発現を解析した。なお、コントロールとして分化誘導前の細胞(hMSC-BM細胞のスフェロイド)を用いた。上記3種類の分化マーカータンパク質の検出に用いた1次抗体及び2次抗体を以下の表17に示す。
【0112】
【表17】
【0113】
8−1−5 Oil Red染色法
〔1〕上記「8−1−2 浮遊培養による分化誘導方法」及び「8−1−3 接着培養による分化誘導方法」に記載の方法にしたがって脂肪細胞へ分化誘導した細胞について、ウェルから培養液を除いた。
〔2〕PBSに10%(v/v)量のホルマリンを添加し、pH7.4に調整した後(10%ホルマリン[和光純薬工業社製]/PBS[pH7.4])、4℃保管した。
〔3〕イソプロパノール(和光純薬工業社製)に、0.5%(v/v)量のOil red O(和光純薬工業社製)を添加し、スターラーを用いてよく攪拌して0.5%Oil red O/Isopropanol溶液を作製した。
〔4〕培養液が入った状態で2:1の割合になるように冷10%ホルマリン/PBS(250μL/ウェル程度)を添加し、室温で20分間インキュベートした。
〔5〕0.5%Oil red O/Isopropanol溶液と蒸留水を3:2の割合で混合し、室温で10分間インキュベートした。
〔6〕培養液を除き、新たに冷10%ホルマリン/PBSを400μL添加し、室温で1時間インキュベートした。
〔7〕ホルマリン溶液を除去し、細胞が剥離しないように気をつけながら2回蒸留水(大塚製薬工場社製)で洗った。ウェル内に残った蒸留水はピペットを用いて除去した。
〔8〕染色後、蒸留水で2回洗った。
〔9〕Olympus IX-70(オリンパス社製)を用いて細胞画像を取得した。
【0114】
8−1−6 mRNAの発現解析
上記「8−1−2 浮遊培養による分化誘導方法」及び「8−1−3 接着培養による分化誘導方法」に記載の方法にしたがって分化誘導した細胞について、上記「3−1−2 mRNAの発現解析」に記載の方法にしたがって4種類の分化マーカー遺伝子(Musashi[神経前駆細胞マーカー]、MAP2[神経細胞マーカー]、GATA4[心筋細胞マーカー]、及びLPL[脂肪細胞マーカー])のmRNAの発現解析を行った。なお、コントロールとして分化誘導前の細胞(継代培養前及び継代培養後のhMSC-BM細胞のスフェロイド)を用いた。上記5種類の分化マーカー遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット(「Forward Primer」及び「Reverse Primer」)の塩基配列や、その増幅(PCR)産物にハイブリダイズするプローブ(「TaqMan Probe」)の塩基配列は、表18に示す。また、GAPDH遺伝子のcDNA増幅産物に対する上記5種類の分化マーカー遺伝子のcDNA(mRNA)の相対量は、図24、26B、及び27D、並びに表19〜21に示す。
【0115】
【表18】
【0116】
【表19】
【0117】
【表20】
【0118】
【表21】
【0119】
8−2 結果
hMSC-BM細胞のスフェロイドを、神経分化誘導法1を用いた浮遊培養による神経細胞(外胚葉由来細胞)への分化誘導処理を行った結果、神経細胞マーカータンパク質(ネスチン)を発現し(図22A参照)、神経前駆細胞マーカー遺伝子(Musashi)(図24Aの「神経分化誘導法1 浮遊」、表19参照)及び神経細胞マーカー遺伝子(MAP2)(図24Bの「神経分化誘導法1 浮遊」、表19参照)のmRNAを発現する神経細胞(図22B参照)へ分化することが示された。また、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、神経分化誘導法2を用いた接着培養による神経細胞への分化誘導処理を行った場合も同様に、神経細胞マーカータンパク質(βチューブリン3)を発現し(図23A参照)、神経前駆細胞マーカー遺伝子(Musashi)(図24Aの「神経分化誘導法2 接着」参照)及び神経細胞マーカー遺伝子(MAP2)(図24Bの「神経分化誘導法2 接着」参照)のmRNAを発現する神経細胞(図23B参照)へ分化することが示された。
また、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養及び接着培養による肝細胞(内胚葉由来細胞)への分化誘導処理を行った結果、肝細胞マーカータンパク質(AFP)を発現する(図25A参照)肝細胞(図25C参照)へ分化することが示された。
また、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養及び接着培養による心筋細胞(中胚葉由来細胞)への分化誘導処理を行った結果、心筋細胞マーカー遺伝子(GATA4)のmRNAを発現する(図26B、表20参照)心筋細胞(図26A参照)へ分化することが示された。
さらに、hMSC-BM細胞のスフェロイドを、浮遊培養及び接着培養による脂肪細胞(中胚葉由来細胞)への分化誘導処理を行った結果、脂肪滴が検出され(図27B及びC参照)、脂肪細胞マーカー遺伝子(LPL)のmRNAを発現する(図27D、表21参照)脂肪細胞(図27A参照)へ分化することが示された。
以上の結果は、hMSC-BM細胞のスフェロイドは、3つの胚(外胚葉、内胚葉、中胚葉)由来の細胞へ分化する能力(多分化能)を有する細胞であることを示している。
【0120】
[参考例4]
9.接着性成熟細胞のスフェロイドの多分化能の解析
接着性成熟細胞のスフェロイドの多分化能について解析するために、接着性成熟細胞2種(NHEK及びHUVEC細胞)を96ウェルプレートに播種し、MSCBM培養液中で7日間スフェロイド培養することにより接着性成熟細胞のスフェロイドを調製し、調製した接着性成熟細胞のスフェロイドをFF+bFGF培養液中で1週間スフェロイド培養した後、チャンバースライド(TPP社製、92006)で神経分化誘導法1により神経細胞への分化誘導処理を3週間接着培養を行った後、1次抗体(抗TUJ1抗体[Millipore社製、MAB1637、100倍希釈])及び2次抗体(Alexa Fluor 555抗ラビット抗体[Invitrogen社製、A21422、1/1000倍希釈])を用い、上記「1−1−2 免疫蛍光染色法」に記載の方法にしたがって神経細胞マーカー(TUJ1)の発現解析を行った。その結果、神経細胞への分化誘導処理を行ったNHEK及びHUVEC細胞のスフェロイドは、神経細胞マーカータンパク質(TUJ1)を発現する神経細胞へ分化することが示された(図28参照)。この結果は、NHEK細胞、HUVEC細胞等の接着性成熟細胞のスフェロイドは、少なくとも外胚葉由来の細胞へ分化する能力を有する細胞であることを示している。
【実施例6】
【0121】
10.hMSC-BMやhADSC細胞のスフェロイドのテラトーマ形成能の有無の解析
ES細胞やiPS細胞は無限の増殖能と全能性を有しているため、ES細胞やiPS細胞を未分化状態で移植するとテラトーマ(奇形腫)が形成されることが知られている(文献「Gropp, et al., PLoS One 7(9):(2012)」参照)。そこで、hMSC-BMやhADSC細胞のスフェロイドを移植したときに、テラトーマが形成されるかどうか解析を行った。
【0122】
10−1 方法
上記実施例1記載の方法にしたがって調製したhMSC-BM細胞(1×10細胞)のスフェロイド、及び上記実施例2記載の方法にしたがって調製したhADSC細胞(1×10細胞)のスフェロイドのそれぞれを、0.2mLPBSに懸濁し、メスのマウス(NOD.CB17-Prkdcscid/J)(日本チャールス・リバー社製)の脇腹皮下に注射筒を用いて移植した(それぞれ、「MSC Spheroid群」、及び「ADSC Spheroid群」)。なお、コントロールとして、マウスES細胞(1×10細胞)(Millipore社製、CMSCC050-2A[SCC050])、接着培養したhMSC-BM細胞(1×10細胞)、及び接着培養したhADSC細胞(1×10細胞)のそれぞれを、0.2mLPBSに懸濁し、メスのマウス(NOD.CB17-Prkdcscid/J)(日本チャールス・リバー社製)の脇腹皮下に注射筒を用いて移植した(それぞれ、「Positive Control群」、「MSC Normal群」、及び「ADSC Normal群」)。また、PBSを移植し、細胞未移植のコントロール実験(Sham群)も行った。移植後、12週間目にマウスを頚椎脱臼法により安楽致死させ、テラトーマが形成された場合はテラトーマを摘出し、テラトーマが形成されなかった場合には移植部位を摘出した。摘出した組織は、10%中性緩衝ホルマリン液で浸漬固定し、パラフィン包埋を行った。パラフィン包埋した組織をスライスし、2種類の染色法(ヘマトキシリン・エオジン染色[HE]法、及びビメンチン染色法)を用いて染色し、電子キャリパーを用いた顕微鏡観察により腫瘍の長径(L)と短径(W)を測定した。得られた腫瘍の長径(L)と短径(W)の値を、式「腫瘍体積(mm)=L×W×1/2」に入力することにより腫瘍体積を算出した(表22参照)。
【0123】
10−2 結果
マウスES細胞を移植した場合、全ての移植マウス(n=8)において移植後3週間目でテラトーマが形成されていたのに対し、hMSC-BM細胞のスフェロイドやhADSC細胞のスフェロイドを移植した場合、テラトーマ形成は認められなかった。また、病理解析の結果、マウスES細胞を移植して形成されたテラトーマは、全て未分化な神経組織、消化管、筋肉等の3胚葉成分から構成されていた(「Teratoma、immature」)のに対し、hMSC-BM細胞のスフェロイドやhADSC細胞のスフェロイドを移植したマウスにおいては、腫瘍、細胞塊等は認められなかった(表22参照)。なお、ADSC Normal群のAnimal No.27マウス(表22参照)において腫れが確認されたが、解剖してみると腫瘍形成は認められず、腹膜と脂肪が他のマウスよりも多く検出された。以上の結果から、hMSC-BM細胞やhADSC細胞等の間葉系幹細胞のスフェロイドは、腫瘍化リスクが極めて低い細胞であることを示している。
【0124】
【表22】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によると、腫瘍化リスクが極めて低い安全性の高い移植用細胞を、安価で且つ簡便に提供することができるため、再生医療の安全性の向上や費用軽減に資する。また、本件調製方法1や本件調製方法2により得られた多能性幹細胞を各組織や細胞へ分化させ、医薬品、化粧品、農薬、食品などの安全性の評価や効力評価、機能評価に利用できる。更に、浮遊培養を血清又は血清代替物を含まないヒトの体内に投与可能な液(医薬品、医療機器など)の単品もしくは混合液からなる生理的水溶液中で行うことにより、培養に用いた生理的水溶液中に移植用細胞を懸濁したままヒトに投与するために必要な生理的水溶液の安全性評価(前臨床試験、臨床試験など)を省略できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図25
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図28
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]