【実施例】
【0033】
本発明を、以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
(実施例1)ハスモンヨトウに対する効果(純音との比較)
<材料と方法>
[材料及び試験系]
ガ(ハスモンヨトウ、羽化後数日を経過した成虫。雌雄は区別せず)を糸で吊るし,超音波(雑音)をフレキシブル・スピーカから送信し、マイク(knowles, FG)でエコーを受信した。
糸の固定具とスピーカまでの距離を60cmとした。ガは30cmから90cmの範囲で飛行した。
ガの動きをビデオカメラで上側から撮影し、PC上で自動トラッキングを行った(
図1)。
[信号の生成]
波形発生装置としてのPCにより発生させたデジタル信号をDA変換器によりアナログ信号(電圧出力)に変換し、当該アナログ信号をアンプにより増幅してスピーカから音(雑音)を発した。用いられた音の種類は以下のとおりであった:
・白色雑音(周波数10kHzから100kHz程度。ただし、スピーカの特性によって帯域雑音として適用された)
・帯域雑音:20-30kHz、25-35kHz、・・・
・純音(比較例):周波数20、25、30、・・・、60kHz
本実施例においては、PCで作製された雑音はホワイトノイズ(白色雑音。周波数10kHzから100kHz程度)であり、すべての周波数(サンプリング周波数の半分まで)を含んでいた。一方、当該雑音をスピーカを通して再生させると、スピーカの特性によりある特定の帯域のみが音として発生される(
図2)。
[信号の送信]
音(雑音)の持続時間は0.1秒で、0.2秒間隔で10秒間指定の音を送信した。
その指定の音の前にビデオカメラ上に実験開始と終了の合図のための音を送信した。
指定された音の1秒前に4000Hzの音を0.1秒送信し、そのあとに指定音の種類を表す音を送信した。
加えて、指定された音の終了1秒後に、終わりの合図のための音(3500+4000Hz)の音を送信した。またコントロール刺激として無音の時間帯(200ms)を設けた。
上記10秒間の雑音の送信を、試験に供試されたガの個体が十分な羽ばたきを続け、羽ばたきが停止されるまで行った。より具体的には、10回〜30回、数分の間隔で上記10秒間の雑音を与えた(
図3)。
送信信号として、PCから送信された信号及びスピーカーの特性が反映された信号のそれぞれを、
図4及び
図5に示す。
[解析方法] ビデオカメラで撮影された動画を確認し、羽ばたきを停止した時間を記録(詳細な時刻を決める場合は、動画のフレームレートを下げて再生し判断)した。連続して数秒以上羽ばたきを停止した個体を、停止した個体とした。また、音の送信前の飛翔に比べて、飛翔速度が速くなる等の飛翔変化を示した個体を、忌避行動した個体とした。
【0034】
<結果>
純音に比べて、広帯域雑音は忌避行動を引き起こす率が高かった(
図6、表1)。すなわち、本発明の方法においては63%の個体が停止又は忌避を示したのに対し、純音の場合において停止又は忌避を示す個体は13%にすぎなかった。
【表1】
【0035】
帯域雑音(10kHzの幅の雑音)でも忌避行動が観察された。広帯域雑音においてはより高い停止率を示した(
図7、表2)。
【表2】
【0036】
個体差が認められた(表3、
図8)。
個体差が生じた理由として、
1.今回は実験に用いたガ(ハスモンヨトウ成虫)はオス・メスの判別をせずに実験を行ったこと、及び
2.今回用いたガは業者から購入(野生のガに比べて天敵の影響が小さくなっている可能性)、
が考えられた。
【表3】
【0037】
純音と雑音の詳しい比較を、個体1に関して、各周波数における停止率と音を出してからの時間により行った。純音に関しては、それぞれの周波数2回実施し、広帯域雑音に関しては、6回実施し、平均から停止率や停止までの時間を計算した。
その結果、純音でも停止する場合もあったが、停止までにかかる時間が広帯域雑音のほうが純音にくらべてはるかに短かった(
図9)。このことから、雑音によるガに対する忌避効果は純音よりはるかに高いことが明らかになった。
【0038】
(実施例2)ハスモンヨトウに対する効果(帯域の検討)
<材料と方法>
[材料及び試験系]
ガ(ハスモンヨトウ、雌雄別々に飼育し、羽化後数日を経過した成虫。)を糸で吊るし、超音波を超音波スピーカから送信した。
糸の固定具とスピーカまでの距離を40cmとした。ガは30cmから50cmの範囲で飛行した。
ガの動きをビデオカメラで上側から撮影した(
図1)。
[信号の生成]
波形発生装置としてのPCにより発生させたデジタル信号をDA変換器によりアナログ信号(電圧出力)に変換し、当該アナログ信号をアンプにより増幅してスピーカから音(雑音)を発した。用いられた音の種類は以下のとおりであった:
・白色雑音(スピーカの特性によって10kHz〜100kHzの帯域雑音として適用された)
・帯域雑音1:15-25kHz、25-35kHz、・・・、75-85kHz
・帯域雑音2:15-35kHz、25-45kHz、・・・、65-85kHz
・帯域雑音3:15-45kHz、35-65kHz、55-85kHz
・帯域雑音4:15-55kHz、35-75kHz
・帯域雑音5(1/3オクターブ帯域雑音):18-22kHz、27-33kHz、・・・、81-99 kHz
・疑似雑音:疑似雑音系列(9次511ビット)を40kHzで位相変調した雑音(
図17)
送信信号の音圧レベルは70、80、90 dB SPLとし、各試験の目的に応じて適宜選択して用いた。
[信号の送信]
音(雑音)の持続時間は1ミリ秒から200ミリ秒で、3ミリ秒から0.4秒間隔で3秒間指定の音を送信した。
その指定の音の前にビデオカメラ上に実験開始と終了の合図のための音を送信した。
指定された音の1秒前に3000から5000Hzに周波数変調する音を0.1秒送信し、そのあとに指定音の種類を表す音を送信した。
加えて、指定された音の終了1秒後に、終わりの合図のための音(3500+4000Hz)の音を送信した。
上記3秒間の雑音を20回から94回、数秒以上の間隔で与えた。
[解析方法]
実験中のガの状態を目視で確認し、必要に応じてビデオカメラの動画も確認した。3秒間の音送信中に羽ばたきを停止した個体を、停止個体とした。また、音の送信前の飛翔に比べて、飛翔速度が速くなる等の飛翔変化を示した個体を、忌避行動した個体とした。
実験には7個体(オスが3個体、メスが4個体)と用いた。停止率及び忌避行動率を、停止した個体数及び忌避行動が引き起こされた個体数の全供試個体における割合として求めた。
【0039】
<結果>
結果を
図10〜
図15に示す。
用いられた各パルス長(持続時間:
図10)及び雑音の送信周期(
図11)において、本発明の方法によりハスモンヨトウの行動に対する影響が確認された。
また70及び80 dB SPLのいずれの音圧においても、上記帯域雑音1〜4において、本発明の方法によりハスモンヨトウの行動に対する影響が確認された(
図12及び
図13)。
さらに狭帯域の雑音(音圧80 dB SPL)を用いた場合にも、本発明の方法によりハスモンヨトウの行動に対する影響が確認された(
図14)。疑似雑音についても同様であった(
図15)。
【0040】
<結論・考察>
実施例1及び2に示した結果から、本発明の方法はハスモンヨトウに対して、純音に比べてはるかに高い効果を奏する防虫方法(装置)を奏することが明らかになった。
なお、広帯域雑音だけでなく、10kHz程度の周波数幅をもつ帯域雑音でも、本発明の方法は効果があることも示された。
【0041】
(実施例3)オオタバコガに対する効果
実施例2において用いた方法により、オオタバコガに対する本発明の方法の効果を調べた。
<材料と方法>
1個体のオオタバコガ成虫に対し、以下の試験の条件により行動における影響を調べた:
・雑音音の種類:白色雑音(スピーカの特性によって10kHz〜100kHzの帯域雑音として適用された)
・音圧レベル:80dB SPL
・個々の雑音発生の持続時間:1msから80ms
・雑音発生の間隔(無音の時間):下記表4に示すとおり、各持続時間に対応した無音の時間をそれぞれ設定し、これら複数の無音の時間を順番に置いて各所定の持続時間の雑音を与えた。
【表4】
[解析方法]
実験中のオオタバコガの状態を目視で確認し、3秒間の音送信中に羽ばたきを停止した場合を停止したと判定とした。また音の送信前の飛翔に比べて、飛翔速度が速くなる等の飛翔変化を示した場合を、忌避行動をしたと判定とした。
各持続時間(パルス長:1、3、15、20、40及び80ms)について、4種類の雑音発生の間隔のうち忌避行動をした場合の割合を忌避行動率として求めた。
<結果>
オオタバコガにおいても忌避行動が確認された(
図16)。したがって、本発明の方法はオオタバコガにも効果を奏することが明らかになった。
【0042】
<総合考察>
実施例1〜3の結果から、本発明の方法及び装置は、ハスモンヨトウやオオタバコガといったヨトウガ類に対し、優れた効果を示すと考えられる。