(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353517
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】リチウム電池負極材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20180625BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20180625BHJP
C01B 33/02 20060101ALN20180625BHJP
C01B 32/15 20170101ALN20180625BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 B
!C01B33/02 Z
!C01B32/15
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-255211(P2016-255211)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120787(P2017-120787A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】104144501
(32)【優先日】2015年12月30日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】105140487
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】514213682
【氏名又は名称】友達晶材股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AUO Crystal Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】林 漢塗
(72)【発明者】
【氏名】賀 安麗
(72)【発明者】
【氏名】蘇 瑩瑩
(72)【発明者】
【氏名】陳 展添
(72)【発明者】
【氏名】鄭 榮瑞
(72)【発明者】
【氏名】林 坤豐
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−004562(JP,A)
【文献】
特開2006−019127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
C01B 32/15
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒効果を有する金属材及び炭素材でシリコン材の表面を被覆する工程と、
高温熱処理を行うことにより、前記金属材及び前記炭素材を前記シリコン材の表面において反応させて、前記シリコン材の表面に、金属ケイ化物、金属酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層並びに自由端がヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部を形成し、これによりシリコン複合材を形成し、前記シリコン複合材でリチウム電池負極材を形成する工程と、
を含むリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項2】
前記高温熱処理の温度は、800℃より高く、1200℃より低い請求項1に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項3】
前記高温熱処理を行う時に、前記金属材の触媒作用により炭化ケイ素及び前記突出部の形成を促進する請求項1に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項4】
黒鉛材を高圧通路を通過させることにより、前記高圧通路における摩擦により前記黒鉛材から複数のグラフェン単位を分離させる工程と、
前記高温熱処理を行う前に、まず前記グラフェン単位を前記シリコン材、前記金属材及び前記炭素材と混合してから、前記高温熱処理により、前記金属材及び前記炭素材で前記シリコン材の表面を被覆して前記シリコン複合材を形成する工程と、
を更に含む請求項1に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項5】
前記グラフェン単位を前記シリコン材、前記金属材及び前記炭素材と混合してから、前記高圧通路を通過させることにより、前記グラフェン単位を前記シリコン材、前記金属材及び前記炭素材と均一に混合する工程を更に含む請求項4に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項6】
前記グラフェン単位を前記シリコン材、前記金属材及び前記炭素材と混合してから、乾燥及び造粒作業により、前記高温熱処理で複数の球状を呈するリチウム電池負極材を形成する工程を更に含む請求項4に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項7】
黒鉛材を高圧通路を通過させることにより、前記高圧通路における摩擦により前記黒鉛材から複数のグラフェン単位を分離させる工程と、
前記グラフェン単位と前記シリコン複合材を相互に混合する工程と、
を更に含む請求項1に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項8】
前記グラフェン単位と前記シリコン複合材を混合してから、前記高圧通路を通過させることにより、前記グラフェン単位と前記シリコン複合材を均一に混合する工程を更に含む請求項7に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項9】
前記グラフェン単位のそれぞれは、層数が30層以下であるグラフェン層を含む請求項7に記載のリチウム電池負極材の製造方法。
【請求項10】
シリコン材、並びに、前記シリコン材の表面に形成される、触媒効果を有する金属のケイ化物及び酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層及び自由端がヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部を含むシリコン複合材と、
前記シリコン複合材と相互に混合してリチウム電池負極材を形成する複数のグラフェン単位と、
を備えるリチウム電池負極材。
【請求項11】
前記グラフェン単位のそれぞれは、層数が30層以下であるグラフェン層を含む請求項10に記載のリチウム電池負極材。
【請求項12】
表面に、自由端がヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部が形成されるシリコン材を含み、
前記シリコン材の表面に、触媒効果を有する金属のケイ化物及び酸化物を含む複合物層が形成されるリチウム電池負極材。
【請求項13】
前記ヘッド部が炭素材で被覆される請求項12に記載のリチウム電池負極材。
【請求項14】
前記複合物層は炭化ケイ素(SiC)を更に含み、且つ前記ヘッド部には前記金属を含有する請求項12に記載のリチウム電池負極材。
【請求項15】
前記突出部は、前記シリコン材の表面と前記ヘッド部との間に接続され、且つシリコンを含む本体部を有する請求項14に記載のリチウム電池負極材。
【請求項16】
前記本体部が炭素材で被覆される請求項15に記載のリチウム電池負極材。
【請求項17】
前記突出部は、長さが10ナノメートル以上800ナノメートル以下である請求項12に記載のリチウム電池負極材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池負極材及びその製造方法に関し、特に、炭化ケイ素及び複数のグラフェン層を含むリチウム電池負極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の使用は、今までかなり一般的である。二次電池の繰り返し充電可能、軽量性、高操作電圧の特性により、従来の使い捨て電池の寿命が短く過ぎ、容量が低すぎる問題を解決でき、電子器具の使用利便性を付与するとともに、環境に優しく経済的にもなる。
【0003】
二次電池の操作は、基本的に電気化学反応である酸化−還元反応に基づくものである。電気化学電池構造において、正極、負極、正極及び負極の間に設けられるセパレータ、並びに反応用の電解液を最も基本的なものとして含む。例えば、
図1に示す従来のリチウム電池100の全体構造は、よくある円筒形構造が採用され、正極101、負極102及びセパレータ103を含む。電解液は、正極101と負極102との間に充填され、セパレータ103の設置により、正極101及び負極102の接触による短絡を防止する。
【0004】
上記のリチウム電池100は、操作途中で放電状態となる場合、正極101による還元作用で電子を吸収し、負極102による酸化作用で電子を放出するが、充電状態となる場合、上記と逆の反応を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に呼ばれるリチウム電池は、負極活性材としてリチウム金属を採用する電気化学電池を指す。これは、リチウム金属そのものが大きな活性、高い反応起電力、軽い重量等のメリットを有するためである。しかしながら、リチウム金属を負極活性材とする場合、上記のメリットを有するが、その製造コストが高すぎるとともに、電池の繰り返し充放電過程中に、リチウムイオンがリチウム金属の表面に繰り返して堆積し溶解して、樹枝状結晶(Dendritic Structure)を形成する。樹枝状結晶は、次第に堆積されてから、セパレータを刺し通す可能性があり、電解液を通して正極と接触し、更に電池内部の短絡を招き、大量の反応熱を放出する。最後、電池の失効、引いては爆発を引き起こす可能性がある。
【0006】
上記のリチウム金属を負極活性材として採用することによる電池性能の低下、使用上の不安全及びコストが高すぎるという問題を解決するために、炭素材、炭素複合物等のような非金属化合物をリチウム金属に取って代わってなる複数種類のリチウム電池負極材が提案された。
【0007】
上記非金属化合物をリチウム電池負極材とすると、操作安全性を大幅に向上させることができるが、これらの非金属化合物により製造されるリチウム電池は、依然として性能不良、寿命が短すぎるという問題があり、且つ、その製造方法も複雑で、コスト及び経済効果を満たさない。
【0008】
このため、リチウム電池の効率及び寿命を向上するように、既存のリチウム電池に適用できる新規のリチウム電池負極材、及び当該リチウム電池負極材を簡単に製造できる方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リチウム電池負極材を提供する。炭化ケイ素からなるシリコン複合材をリチウム電池負極材に適用するすることにより、リチウム電池の容量及び充放電サイクル効率を向上させることができる。且つ、シリコン材の表面に金属ケイ化物、金属酸化物からなる複合物層を形成して、シリコン材の体積膨張によるリチウム電池の効率低下の問題を抑制することができる。また、本発明は、更にシリコン複合材と複数のグラフェン単位を高圧通路により均一に混合して、更にリチウム電池の容量及び寿命を増加する。
また、本発明は、製造コストを低下させるように、上記リチウム電池負極材を簡単に製造できる製造方法を提供する。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、リチウム電池負極材の製造方法を提供する。このリチウム電池負極材の製造方法は、
触媒効果を有する金属材及び炭素材でシリコン材の表面を被覆する工程と、高温熱処理を行うことにより、金属材及び炭素材をシリコン材の表面において反応させて、シリコン材の表面に、金属ケイ化物、金属酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層並びに自由端がヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部を形成し、これによりシリコン複合材を形成し、シリコン複合材でリチウム電池負極材を形成する工程と、を含む。
【0011】
上記のリチウム電池負極材の製造方法において、高温熱処理の温度は、800℃より高く、1200℃より低い。高温熱処理を行う時に、金属材の触媒作用により炭化ケイ素及び突出部の形成を促進してもよい。
【0012】
上記のリチウム電池負極材の製造方法において、黒鉛材を高圧通路を通過させることにより、高圧通路における摩擦により黒鉛材から複数のグラフェン単位を分離させる工程と、高温熱処理を行う前に、まずこれらのグラフェン単位をシリコン材、金属材及び炭素材と混合してから、高温熱処理により、金属材及び炭素材でシリコン材の表面を被覆してシリコン複合材を形成する工程と、を更に含む。そして、これらのグラフェン単位をシリコン材、金属材及び炭素材と混合してから、高圧通路を通過させることにより、これらのグラフェン単位、シリコン材、金属材及び炭素材を均一に混合する。
【0013】
上記のリチウム電池負極材の製造方法において、これらのグラフェン単位をシリコン材、金属材及び炭素材と混合してから、乾燥及び造粒作業により、高温熱処理で複数の球状を呈するリチウム電池負極材を形成する。
【0014】
別の態様において、上記のリチウム電池負極材の製造方法は、黒鉛材を高圧通路を通過させることにより、高圧通路における摩擦により黒鉛材から複数のグラフェン単位を分離させる工程と、これらのグラフェン単位とシリコン複合材を相互に混合する工程と、を含んでもよい。そして、これらのグラフェン単位とシリコン複合材を混合してから、高圧通路を通過させることにより、これらのグラフェン単位とシリコン複合材を均一に混合する。グラフェン単位のそれぞれは、層数が30層以下であるグラフェン層を含んでもよい。
【0015】
別の態様において、本発明は、リチウム電池負極材を提供する。このリチウム電池負極材は、シリコン材、並びに、前記シリコン材の表面に形成される、
触媒効果を有する金属のケイ化物
及び酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層及び自由端がヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部を含むシリコン複合材と、シリコン複合材と相互に混合してリチウム電池負極材を形成するための複数のグラフェン単位と、を備える。
【0016】
上記のリチウム電池負極材において、グラフェン単位のそれぞれは、層数が30層以下であるグラフェン層を含んでもよい。
【0017】
更に他の態様において、本発明は、自由端が炭素材で覆われるヘッド部を形成するように拡大する少なくとも1つの突出部
が形成されるシリコン材を含み、
シリコン材の表面に、触媒効果を有する金属のケイ化物及び酸化物を含む複合物層が形成されるリチウム電池負極材を提供する。
【0018】
上記のリチウム電池負極材において、複合物層は
炭化ケイ素(SiC)を更に含み、且つヘッド部には金属を含有する。突出部は、シリコン材の表面とヘッド部との間に接続され、シリコンを含み、炭素材で覆われる本体部を有する。突出部は、長さが10ナノメートル以上800ナノメートル以下であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】従来のリチウム電池の全体構造を示す模式図である。
【
図2】本発明のある実施例によるリチウム電池負極材の製造方法の流れを示す模式図である。
【
図3A】
図2によるリチウム電池負極材を示す模式図である。
【
図3B】リチウム電池負極材を示す電子顕微鏡図である。
【
図4A】異なる高温熱処理温度で、各種の結合剤(binder)をリチウム電池負極材として使用する場合の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図4B】異なる高温熱処理温度で、各種の結合剤(binder)をリチウム電池負極材として使用する場合の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図5A】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5B】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5C】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5D】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5E】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5F】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図5G】高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
【
図6】異なる高温熱処理温度における異なるリチウム電池負極材のX線回折スペクトルを示す比較図である。
【
図7】高温熱処理後、ELP処理がなされるX線回折スペクトル及びELP処理がなされないX線回折スペクトルを示す比較図である。
【
図8A】異なる高温熱処理温度におけるリチウム電池の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図8B】異なる高温熱処理温度におけるリチウム電池の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図8C】異なる高温熱処理温度におけるリチウム電池の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図8D】異なる高温熱処理温度におけるリチウム電池の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図9】本発明のある実施例による高圧通路を示す模式図である。
【
図10】黒鉛材が
図9の高圧通路を通って形成される複数のグラフェン層を含むポールピースを示す模式図である。
【
図11】黒鉛材が繰り返して高圧通路を複数回で往復して通ってから、複数のグラフェン層を形成するラマン測定結果である。
【
図12】異なる回数で高圧通路を通る電子顕微鏡図である。
【
図13A】シリコン複合材及びグラフェン単位が高圧通路による混合がなされる又は高圧通路による混合がなされないリチウム電池充放電サイクル効率を示す比較図である。
【
図13B】シリコン複合材及びグラフェン単位が高圧通路による混合がなされる又は高圧通路による混合がなされないリチウム電池充放電サイクル効率を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面で本発明の複数の実施例を説明する。明らかに説明するために、下記で多くの実際の細部を合わせて説明する。しかしながら、理解すべきなのは、これらの実際の細部が、本発明を制限するためのものではない。つまり、本発明の一部の実施例において、これらの実際の細部は、必要でないものである。また、図面を簡略化するために、ある従来慣用の構造及び素子は、図面において簡単で模式的に示される。
【0021】
図2を参照されたい。
図2は、本発明のある実施例によるリチウム電池負極材の製造方法の流れを示す模式図である。リチウム電池負極材の製造方法は、下記の工程を含む。
【0022】
工程S101において、金属材及び炭素材でシリコン材の表面を被覆する。
【0023】
工程S102において、高温熱処理を行うことにより、金属材及び炭素材をシリコン材の表面において反応させて、シリコン材の表面に、金属ケイ化物、金属酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層を形成する。
【0024】
工程S103において、黒鉛材を繰り返して高圧通路を往復して通過させることにより、高圧通路における摩擦により黒鉛材から複数のグラフェン単位を分離させる。
【0025】
工程S104において、複数のグラフェン単位とシリコン複合材を相互に混合してリチウム電池負極材を形成する。
【0026】
上記工程S102における高温熱処理は、温度が800℃〜1200℃にある。高温加熱により、金属材及び炭素材をシリコン材の表面において反応させて複合物を形成する。
他の実施例において、当業者に対して理解できるのは、前記高温熱処理を工程S104に遅らせて行ってもよく、言い換えれば、工程S104のシリコン複合材は複数のグラフェン単位と相互に混合してから高温熱処理により得られる。
ある好ましい実施例において、金属材はニッケル(Ni)金属から選ばれるが、本発明はこれに限定されなく、他の実施例において、銅、チタン、鉄等の触媒効果を有する金属源を採用してもよい。シリコン材は、粒子状であることが好ましく、シート状であってもよい。このため、高温熱処理後、ケイ素粒子の表面に珪化ニッケル(SiNi
x)、酸化ニッケル(NiO
x)、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素(SiO
x)の複合物が形成される。
【0027】
上記工程S103において、各グラフェン単位は、それぞれ30層以下であることが好ましい複数のグラフェン層(Graphene)を含んでもよい。これは、層数が少ないほど、効果的にリチウム電池の充放電効率を改善できることに基づくものである。層数は、高圧通路を通る回数への制御により制御することができる。高圧通路を通る回数が1回となる場合、数層〜十数層のグラフェン層が得られる。
【0028】
上記リチウム電池負極材の製造方法により製造されるリチウム電池負極材200について、
図3Aを参照されたい。リチウム電池負極材200は、相互に混合される複数のシリコン複合材210及びグラフェン単位220を含む。上記に記載されるシリコン複合材210は、シリコン材(ケイ素粒子)211の表面に金属ケイ化物、金属酸化物、炭化ケイ素(SiC)及び酸化ケイ素からなる複合物層212が形成される構造である。シリコン複合材210は、上記のような工程S101及びS102により形成されてもよく、工程S104でグラフェン単位と相互に混合してから高温熱処理を行うことにより形成されてもよい。
【0029】
グラフェン単位220は、それぞれ層数が同じ又は異なる複数のグラフェン層を含んでもよい。その形成方式は、上記のような工程S103に示される。
【0030】
上記工程S101〜S104により形成されるシリコン複合材210−グラフェン単位220混合物は、リチウム電池の負極活性材とされることができる。このようなリチウム電池負極活性材は、従来の負極活性材よりも優れるとともに、従来の負極活性材の問題を解決でき、これを以降で詳しく説明する。
【0031】
より詳しく、上記の工程S101の目的を達成するために、具体的な実施形態は、例えば、化学メッキにより金属素材(例えば、ニッケル)でシリコン材の表面を覆い、そして、このシリコン材を炭素材(例えば、アスファルト)に混合する。
しかしながら、本発明はこれに限定されなく、他の実施例において、シリコン材、炭素材、及び金属材を直接混合してもよく、金属材については、ニッケル、有機ニッケル又はニッケル塩であってもよく、本実施例において、酢酸ニッケルであり、このようにして金属材及び炭素材でシリコン材の表面を覆うことができる。
【0032】
前記のような工程を完成してから、ある好ましい実施例において、まず工程S103で生じられる複数のグラフェン単位と混合してから、また工程S102の高温熱処理を行ってもよい。好ましくは、まず乾燥及び造粒の作業により、リチウム電池負極活性材を複数の球状粒子の形を呈するようにし、複数の球状粒子が5〜15ナノメートルであることが好ましい。このため、グラフェン単位の表面に前記炭素材を覆うことができる。
【0033】
炭素含有基材をリチウム電池負極活性材とすることは、現在広く適用される技術である。しかしながら、単純に炭素含有基材を負極活性材とするリチウム電池は、次第に現在の電子デバイスに対する高容量要求を満足できなくなる。従って、本発明は、シリコン材211をリチウム電池負極活性材に適用して、大幅に既存のリチウム電池の容量を増加させる。しかしながら、シリコン材211は充放電過程中に体積膨張という問題がある。且つ、純シリコン材211の間の導電性は依然として制限性がある。
このため、本発明が提供するリチウム電池負極材200は、更にシリコン材211の外部に複合物層212で被覆される。複合物層212は、珪化ニッケル及び酸化ニッケルのような金属合金からなり、その優れた導電性により大幅にシリコン材211の導電性を向上させ、且つその合金の有する金属の靭性によりシリコン材211の体積膨張が制限される。そして、形成される炭化ケイ素が応力のクッションと見なされてもよく、シリコン材211が体積膨張される場合、強力な障壁を形成し、効果的にシリコン材211の体積膨張による充放電効率低下の問題を解決する。
なお、本発明は、シリコン材211の表面に長さが10ナノメートル〜800ナノメートルである複数の突出部213が更に成長する。前記突出部213の自由端は、ヘッド部213Aを形成するように拡大し、且つ前記シリコン材211の表面と前記ヘッド部213Aとの間に接続される本体部213Bを有する。本実施例の本体部213Bがシリコンを含み、ヘッド部213Aがニッケルを含み、これにより、シリコン材211の個別の構造形態を変化させ、シリコン材211の体積膨張による充放電効率低下の問題の協同解決に寄与する。
なお、本発明は、更に上記シリコン複合材210とグラフェン単位220を相互に混合してリチウム電池負極材200を形成して、グラフェンの材質そのものの特有性質により、更に大幅に導電性を向上させ、充電/放電維持率を向上して寿命を延ばすことができる。注意すべきなのは、工程S101で炭素材をシリコン材211の表面を覆うため、高温熱処理の後で、シリコン材211の表面及びその上の突出部213の何れも炭素材214で覆われ、本実施例においてアモルファスカーボン層であることが理解される。
【0034】
後で、若干のデータにより、本発明に提供される製造方法の素材特性及びリチウム電池素子全体への影響を説明する。
【0035】
図4A〜
図8Dを同時に参照されたい。
図4A〜
図4Bは、異なる高温熱処理温度で、CMC結合剤(binder)をリチウム電池負極材として使用する場合の充放電サイクル効率を示す比較図である。
図5A〜
図5Gは、高温熱処理により形成される各種の複合物の電子顕微鏡図及び成分分析図である。
図6は、異なる高温熱処理温度における異なるリチウム電池負極材のX線回折スペクトルを示す比較図である。
図7は、高温熱処理後、ELP処理がなされるX線回折スペクトル及びELP処理がなされないX線回折スペクトルを示す比較図である。
図8A〜
図8Dは、異なる高温熱処理温度におけるリチウム電池負極材の充放電サイクル効率を示す比較図である。
【0036】
図4A及び
図4Bにおいて、CMC結合剤を使用する場合、それぞれ800℃及び900℃である高温熱処理温度で、充放電サイクル効率への影響を示す。
図4A及び
図4Bから分かるように、900℃である場合、安定な充電/放電維持率が得られる。これは高温における炭化ケイ素の生成によるものである。ここでCMC結合剤を使用することは例示だけであり、SBR結合剤とあわせてCMC結合剤を使用し、又はPAA結合剤を使用する場合、何れも同じ結果が得られる。
【0037】
図5A及び
図5Gから分かるように、高温熱処理の後、シリコン材の表面に生成される複合物には、Ni、Si及びCの成分を含む。即ち、確実に酸化ニッケル、珪化ニッケル、炭化ケイ素及び酸化ケイ素が生成される。ここでの酸素は信号が小さすぎるため現われない。ところで、普通の高温熱処理により酸化ケイ素を生成することは、この技術分野の一般的な知識であるため、ここで別に説明しない。
また、
図5Aは
図5Cの拡大図であり、更に
図5D及び
図5Eを参照されたい。図面から分かるように、シリコン材211から一体的に伸び出すシリコン含有本体部213Bと、本体部213Bから拡大して形成する金属(例えば、ニッケル及び/又はニッケル化合物)ヘッド含有部213A(併せて
図5F及び
図5Gから分かる)と、を有し、且つ外部に炭素材214(
図5Aにおける符号Cを参照する)で被覆される突出部213がシリコン材211の表面に確実に生じる。
【0038】
図6において、X線回折スペクトルは、異なる高温熱処理により形成される素材の変化も示す。例としては、珪化ニッケルの信号が温度の増加につれて小さくなる。逆に、炭化ケイ素の信号が温度の増加につれて大きくなる。炭化ケイ素の形成には、800℃以上よりも高い温度を必要とする。
【0039】
図7において、ニッケル金属材の炭化ケイ素生成に対する触媒効果を示す。高温熱処理温度が900℃である場合、ELP処理がなされてからニッケルの付着が生じることがあり、ニッケルがSiCを形成する効果的な触媒となる。
図7から分かるように、ELP処理がなされていない場合、SiCが生成できない。
【0040】
図8A〜
図8Dにおいて、それぞれ800℃、900℃、1000℃及び1100℃である高温熱処理温度で、リチウム電池負極材の充放電サイクル効率を比較する。図面から分かるように、800℃及び900℃で高い容量値が得られるが、1000℃のみで、好ましい充電/放電維持率が得られる。
図8A〜
図8Dより、高温度で炭化ケイ素の形成が充電/放電維持率の向上に寄与することも分かる。
【0041】
さらに
図9〜
図12を参照されたい。
図9は、本発明のある実施例による高圧通路300を示す模式図である。
図10は、黒鉛材が
図9の高圧通路300を通って形成されるグラフェン層を示す電子顕微鏡図である。
図11は、黒鉛材が繰り返して高圧通路300を複数回で往復して通ってから、複数のグラフェン層を形成するラマン分光分析図である。
図12A〜
図12Cは、異なる回数で高圧通路300を通る電子顕微鏡図である。
【0042】
上記の
図3に示すグラフェン単位220は、黒鉛材を高圧通路300を通過させて形成されるものである。例において、
図9に示すように、高圧通路300は、幅が100μm以下である狭い通路であり、且つ、その材質がダイヤモンドであってもよい。黒鉛材が高圧通路300を通る場合、高圧通路300の摩擦により複数のグラフェン層を分離させて、異なる又は同じ層数のこの複数のグラフェン層でグラフェン単位220のそれぞれを構成する。最後、グラフェン単位220とシリコン複合材210を相互に混合して目的のリチウム電池負極材を形成する。例において、混合が更に均一となるために、グラフェン単位220とシリコン複合材210を混合してから、高圧通路300を通過させてもよい。
【0043】
図10において、分離される複数のグラフェン層を有するポールピースが見られる。
【0044】
図11及び
図12において、異なる回数で黒鉛材を繰り返して高圧通路300を往復して通過させる場合の影響が得られ、その通過回数がそれぞれ1回、3回及び5回である。
図12において、高圧通路300での通過回数の増加につれて、より少なくのグラフェン層が得られることを示して、
図11に対応して、その二次元(2D)及び一次元(1D)のラマンスペクトル信号も相応的に強くなる。
図11に示すように、そのI
2D/I
Gの比が約0.34〜0.37であり、グラフェン層数が10〜20層であるはずで、透過型電子顕微鏡(TEM)の図面と照合すると、同じ結果も得られる。
【0045】
さらに
図13A〜
図13Bを参照されたい。
図13A〜
図13Bは、シリコン複合材210及びグラフェン単位220が高圧通路300による混合がなされる、又は、高圧通路300による混合がなされないリチウム電池充放電サイクル効率を示す比較図である。図面から分かるように、高圧通路300による混合がなされた後で、複数のグラフェン層が形成されるため、充電/放電維持率を著しく向上させる。これは、グラフェンが効果的にシリコン材の体積膨張による応力を十分に抵抗できる非常に高い強度を有するためである。同時に、グラフェンの優れた導電性は、電池充放電後のインピーダンス向上という問題を更に維持することができる。
【0046】
本発明は、高温熱処理によりシリコン材に複合物層を形成してシリコン複合材を形成することが開示される。なお、黒鉛材を高圧通路を通過させて複数のグラフェン単位を形成するように構成される。リチウム電池負極材は、シリコン複合材及びグラフェン単位を相互に混合してなるものである。このようなリチウム電池負極材は、炭化ケイ素及びグラフェン単位により容量及びリチウム電池の充放電維持率を向上させることができる。且つ、シリコン材の外部に珪化ニッケル、酸化ニッケル、並びに自由端がニッケルを含むシリコン突出部が形成されて、シリコン材の体積の過度膨張による効率低下を抑制し、リチウム電池の充電/放電維持率をより向上させて寿命を延ばすことができる。
【0047】
本発明の実施形態を上記の通り開示したが、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、各種の変更や修正を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
【符号の説明】
【0048】
S101〜S104 工程
200 リチウム電池負極材
210 シリコン複合材
211 シリコン材
212 複合物層
213 突出部
213A ヘッド部
213B 本体部
214 炭素材
220 グラフェン単位
300 高圧通路