特許第6353544号(P6353544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353544
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】坂道逆進速度コントロール
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   B60T7/12 E
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-544322(P2016-544322)
(86)(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公表番号】特表2016-531048(P2016-531048A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】US2014048708
(87)【国際公開番号】WO2015041752
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】14/029,269
(32)【優先日】2013年9月17日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】リ,チンユエン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】バダンゲ,ラヴィクマール
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−505454(JP,A)
【文献】 特開2005−035424(JP,A)
【文献】 特開2009−120059(JP,A)
【文献】 実開平07−023679(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール・ブレーキを有する車両の逆進速度をコントロールするためのシステムであって、
第1の信号を受信し、かつ実際の方向信号を出力するべく構成された運転方向仲裁モジュールと、
前記実際の方向信号およびギア・シフト信号を受信し、かつ坂道逆進コントロール・イネーブル信号を生成するべく構成された発進/停止仲裁モジュールと、
地形勾配角度信号を受信するべく構成された車両速度制限モジュールであって、目標逆進速度信号を、
前記地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さい場合に第1のあらかじめ決定済みの値に、
前記地形勾配角度信号の値が前記勾配スレッショルドより大きい場合に第2のあらかじめ決定済みの値にセットするべく構成された車両速度制限モジュールと、
車両ブレーキ・コントロール・モジュールであって、
前記坂道逆進コントロール・イネーブル信号、前記目標逆進速度信号、および車両速度信号を受信し、かつ
前記ホイール・ブレーキに印加して前記車両の逆進速度を前記目標逆進速度信号の値に維持するブレーキ・コントロール信号を決定するべく構成された車両ブレーキ・コントロール・モジュールと、を包含し、
前記第2のあらかじめ決定済みの値は、前記第1のあらかじめ決定済みの値より小さく、
前記車両速度制限モジュールは、変速機温度信号を受信するべく構成され、
前記車両速度制限モジュールは、前記目標逆進速度信号を、
前記地形勾配角度信号の値が前記勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ前記変速機温度信号の値が温度スレッショルドより高いとき、第3のあらかじめ決定済みの値に、
前記地形勾配角度信号の値が前記勾配スレッショルドより大きく、かつ前記変速機温度信号の値が前記温度スレッショルドと等しいか、またはそれより高いとき、第4のあらかじめ決定済みの値にセットするべく構成される、
システム。
【請求項2】
前記第3のあらかじめ決定済みの値は前記第1のあらかじめ決定済みの値より小さく、前記第4のあらかじめ決定済みの値は前記第2のあらかじめ決定済みの値より小さく、かつ前記第4のあらかじめ決定済みの値は前記第3のあらかじめ決定済みの値より小さい、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1のあらかじめ決定済みの値および前記第2のあらかじめ決定済みの値は、前記地形勾配角度信号の正確な値に基づく、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の信号は、車輪方向信号および変速機出力シャフト・センサの方向信号のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記発進/停止仲裁モジュールは、運転者制動要求信号を受信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記発進/停止仲裁モジュールは、複数の車両状態信号を受信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記複数の車両状態信号は、ブレーキ過熱警告信号を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数の車両状態信号は、坂道保持コントロール制動要求信号を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記車両ブレーキ・コントロール・モジュールは、運転者加速要求信号を受信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ホイール・ブレーキを有する車両の逆進速度をコントロールするための方法であって、
運転方向仲裁モジュールが、第1のセンサを用いて、前記車両が移動する方向を確認することと、
発進/停止モジュールが、前記車両がギア・シフト・レバーの現在の状態に関連付けされた方向と逆の方向に移動しているか否かを決定すると共に、坂道逆進コントロール・イネーブル信号を生成することと、
車両速度制限モジュールが、地形勾配角度センサを用いて、地形勾配角度を確認すること共に、
目標逆進速度を、
前記地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さい場合に第1のあらかじめ決定済みの値に、または
前記地形勾配角度が前記勾配スレッショルドより大きい場合に第2のあらかじめ決定済みの値にセットすることと、
ブレーキ制御モジュールが、前記車両に圧力の値を車両ブレーキに適用させる制動信号を生成することと、
前記坂道逆進コントロール・イネーブル信号、目標逆進速度信号、及び前記第1のセンサを用いて、前記車両の速度を確認し、
前記車両の速度が前記目標逆進速度に等しくなるように、調整された制動信号を、前記車両のブレーキに適用することを包含し、
前記第2のあらかじめ決定済みの値は、前記第1のあらかじめ決定済みの値より小さく、
前記ブレーキ制御モジュールが、第2のセンサを用いて、前記車両の変速機の温度を確認し、
前記車両速度制限モジュールが、前記目標逆進速度を、
前記地形勾配角度が前記勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度が温度スレッショルドより高いとき、第3のあらかじめ決定済みの値に、または
前記地形勾配角度が前記勾配スレッショルドより大きく、かつ前記変速機温度が温度スレッショルドより高いとき、第4のあらかじめ決定済みの値にセットする、
方法。
【請求項11】
前記第3のあらかじめ決定済みの値は前記第1のあらかじめ決定済みの値より小さく、前記第4のあらかじめ決定済みの値は前記第2のあらかじめ決定済みの値より小さく、かつ前記第4のあらかじめ決定済みの値は前記第3のあらかじめ決定済みの値より小さい、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のあらかじめ決定済みの値および前記第2のあらかじめ決定済みの値は、前記地形勾配角度の正確な値に基づく、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のセンサは、複数の車輪センサおよび変速機出力シャフト・センサのうちの少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のセンサは、温度センサである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両コントロールに関する。より詳細には、本発明の実施態様は、車両の逆進速度をコントロールするシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用およびそのほかの車両には、車両が坂道に位置するときに車両の逆進を防止するシステムを装備しているものがある、たとえば、坂道または上向きスロープを上っている車両が交差点での停止に至ることがある。交差点においては、運転者がブレーキ・ペダルを踏み込み、車両を停止させたまま維持する。しかしながら移動の継続時にはブレーキ・ペダルが直ちに解放されなければならない。車両が上り勾配上に位置決めされていることから、車両は逆方向に移動する可能性がある。
【0003】
マニュアル変速機を装備している車両においては、クラッチが摩擦点となるまで車両のブレーキ(たとえば、車両のドラムまたはディスク式のホイール・ブレーキ)を保持するデバイスを車両に装備することが知られている。その種のデバイスは、坂道保持コントロール・メカニズムの一例である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
坂道保持コントロールは一般に知られているが、より洗練された変速機、たとえばデュアル乾式クラッチ変速機の出現に伴って、坂道保持コントロールだけでなく、坂道逆進コントロールのためのより洗練されたメカニズムが有用になるであろう。本発明は、とりわけ、地形の勾配および変速機の温度に基づいてホイール・ブレーキを有する車両の逆進速度をコントロールするためのモジュールおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの実施態様において本発明は、ホイール・ブレーキを伴う車両の非ゼロ逆進速度をコントロールするためのシステムを提供する。システムは、車輪方向信号および変速機出力シャフト・センサの方向信号のうちの少なくとも1つを受信するべく構成された運転方向仲裁モジュールを含む。運転方向仲裁モジュールは、実際の方向の運転信号を出力する。システムは、さらに、実際の方向信号およびギア・シフト信号を受信するべく構成された発進/停止仲裁モジュールを含む。発進/停止仲裁モジュールは、坂道逆進コントロール・イネーブル信号を出力する。システムは、さらに、地形勾配角度信号を受信するべく構成された車両速度制限モジュールを含む。車両速度制限モジュールは、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さいとき、第1のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。車両速度制限モジュールは、さらに、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドより大きいとき、第2のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。システムは、さらに、坂道逆進コントロール・イネーブル信号、目標逆進速度信号、および車両速度信号を受信するべく構成された車両ブレーキ・コントロール・モジュールを含む。車両ブレーキ・コントロール・モジュールは、ホイール・ブレーキに印加されて車両の逆進速度を目標逆進速度信号の値に維持するブレーキ・コントロール信号を決定する。
【0006】
別の実施態様において本発明は、ホイール・ブレーキを有する車両の非ゼロ逆進速度をコントロールする方法を提供する。第1のセンサが、車両が移動している方向を確認する。モジュールが、ギア・シフト・レバーの現在の状態に関連付けされた方向と逆の方向に車両が移動しているか否かを決定する。地形勾配角度センサが、地形の勾配角度を確認する。地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さいとき、モジュールが、目標逆進速度を第1のあらかじめ決定済みの値にセットする。モジュールは、さらに、地形勾配角度が勾配スレッショルドより大きいとき、目標逆進速度を第2のあらかじめ決定済みの値にセットする。方法は、車両に、圧力の値を車両ブレーキに適用させる制動信号を生成する。第1のセンサが、車両の速度を確認する。車両の速度が目標逆進速度に等しくないとき、モジュールが制動信号を調整する。
【0007】
さらに別の実施態様において本発明は、ホイール・ブレーキを伴う車両の非ゼロ逆進速度をコントロールするためのシステムを提供する。システムは、車輪方向信号および変速機出力シャフト・センサの方向信号のうちの少なくとも1つを受信するべく構成された運転方向仲裁モジュールを含む。運転方向仲裁モジュールは、実際の方向運転信号を出力する。システムは、さらに、実際の方向信号およびギア・シフト信号を受信するべく構成された発進/停止仲裁モジュールを含む。発進/停止仲裁モジュールは、坂道逆進コントロール・イネーブル信号を出力する。システムは、さらに、地形勾配角度信号および変速機温度信号を受信するべく構成された車両速度制限モジュールを含む。車両速度制限モジュールは、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度信号の値が温度スレッショルドより低いとき、第1のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。車両速度制限モジュールは、さらに、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度信号の値が温度スレッショルドより低いとき、第2のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。車両速度制限モジュールは、さらに、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度信号の値が温度スレッショルドより高いとき、第3のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。車両速度制限モジュールは、さらに、地形勾配角度信号の値が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度信号の値が温度スレッショルドと等しいか、またはそれより高いとき、第4のあらかじめ決定済みの値の目標逆進速度信号を生成する。システムは、さらに、坂道逆進コントロール・イネーブル信号、目標逆進速度信号、および車両速度信号を受信するべく構成された車両ブレーキ・コントロール・モジュールを含む。車両ブレーキ・コントロール・モジュールは、ホイール・ブレーキに印加されて車両の逆進速度を目標逆進速度信号の値に維持するブレーキ・コントロール信号を決定する。
【0008】
さらに別の実施態様において本発明は、ホイール・ブレーキを有する車両の非ゼロ逆進速度をコントロールする方法を提供する。第1のセンサが、車両が移動している方向を確認する。モジュールが、ギア・シフト・レバーの現在の状態に関連付けされた方向と逆の方向に車両が移動しているか否かを決定する。地形勾配角度センサが、地形の勾配角度を確認する。第2のセンサが、車両の変速機の温度を確認する。モジュールが、地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度が温度スレッショルドと等しいか、またはそれより低いとき、目標逆進速度を第1のあらかじめ決定済みの値にセットする。モジュールは、さらに、地形勾配角度が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度が温度スレッショルドと等しいか、またはそれより低いとき、目標逆進速度を第2のあらかじめ決定済みの値にセットする。モジュールは、地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度が温度スレッショルドより高いとき、目標逆進速度を第3のあらかじめ決定済みの値にセットする。モジュールは、さらに、地形勾配角度が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度が温度スレッショルドより高いとき、目標逆進速度を第4のあらかじめ決定済みの値にセットする。方法は、車両に、圧力の値を車両ブレーキに適用させる制動信号を生成する。第1のセンサが、車両の速度を確認する。車両の速度が目標逆進速度に等しくないとき、モジュールが制動信号を調整する。
【0009】
このほかの本発明の側面は、以下の詳細な説明および添付図面を考察することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】上り勾配にある車両および前進ギア選択に関連付けされる方向とは逆の方向における車両の移動を図解した説明図である。
図2】本発明の1つの実施態様に従った坂道逆進速度コントロール・システムまたはモジュールを図解したブロック図である。
図3】本発明の1つの実施態様に従った坂道逆進速度コントロール・システムまたはモジュールの内部構造を図解したブロック図である。
図4図2に示されている坂道逆進速度コントロール・システムまたはモジュールの動作の実施態様を図解したフローチャートである。
図5】坂道逆進速度コントロール・システムまたはモジュールが坂道保持コントロール・モジュールと連携して動作する態様を図解した図式である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施態様の詳細な説明に入る前に、本発明が、以下の記述の中で示されるか、または添付図面の中に図解されている構成要素の構造ならびにアレンジメントの詳細へのその応用に限定されないことが理解されるものとする。本発明は、そのほかの実施態様、多様な方法での実践または実施が可能である。
【0012】
また、この中に使用されている表現法および用語は、説明を目的としたものであり、限定として考えられるべきでないことも理解されるものとする。この中に使用される「含む」、「包含する」、または「有する」、およびこれらの活用形は、それらの手前に列挙された項目およびそれらの等価物をはじめ追加の項目を囲い込むことを意味する。用語「搭載される」、「接続される」、および「結合される」は広義に使用され、直接的および間接的いずれの搭載、接続、および結合を囲い込む。さらに、「接続される」および「結合される」は、物理的または機械的な接続または結合に拘束されず、電気的な接続または結合を、それが直接的であるか間接的であるかによらず、含むことができる。また、電子的な通信および通知は、直接接続、無線接続等々を含むほかの周知の手段を使用して行なわれ得る。
【0013】
これについても注意が必要であるが、複数のハードウエアおよびソフトウエア・ベースのデバイスをはじめ、複数の異なる構造的構成要素を本発明の実装に利用できる。さらに、またこの後に続く段落の中でも述べているとおり、図面内に図解された具体的な構成には、本発明の実施態様を例示することが意図されている。代替構成は可能である。
【0014】
図1は、地形105上の正面102および背面104を有する車両100を図解している。この実施態様における地形は上り勾配である。車両100は、4つの車輪110、112、114、および116を含む。各車輪には、ブレーキ(ディスク・ブレーキまたはドラム・ブレーキ)120、122、124、および126および4つの車輪センサ130、132、134、および136が備わる。典型的な車両ブレーキ・システムは液圧である。しかしながら本発明の実施態様は、電気作動ブレーキまたはそのほかのタイプのブレーキ・システムとともに実施可能である。車両は、コントローラ140、変速機142、およびエンジン144を含むそのほかの構成要素を含む。1つの実施態様においては、コントローラ140が、Robert Bosch GmbHのESP(登録商標)コントロール・システム等の車両ブレーキおよび電子安定性コントロール・システムの一部になる。車両の運転者は、ステアリング・ホイール150、ギア・シフト・レバー152、ブレーキ・ペダル154、およびアクセル・ペダル156を使用してコントロール入力を生成する。ギア・シフト・レバーのシフトは、運転者ギア・シフト要求信号(後述)を生成する。ブレーキ・ペダルの作動は、運転者制動要求信号(同じく後述)を生成する。アクセル・ペダルの作動は、運転者加速信号(同じく後述)を生成する。
【0015】
車両100が地形105上にあるとき、車両のエンジン144によって生成され、車輪110、112、114、および116へ伝達されるトルク等の対抗する力、またはブレーキ120、122、124、および126によって生成される制動力が車両に作用して、たとえば車両を静止位置に維持するか、または車両を矢印A2によって示される前進方向に移動させない限り、車両を矢印A1によって示される方向に移動させるように重力が車両に作用する。理解されるものとするが、上り坂運転シナリオまたは状況は、車両の正面102が勾配の頂点に面し、かつ車両がその頂点に向かう移動をしているときに生じる。下り坂運転シナリオまたは状況は、車両の背面104が勾配の頂点に面し、かつ車両がその頂点から離れる移動を行なっているときに生じる。矢印A2の方向に移動していた車両が上り勾配上で停止し、いくらかの時間期間にわたって静止のままとどまり、その後、矢印A2の方向の移動を再開する上り坂運転シナリオにおいては、車両が矢印A1の方向へ移動する可能性、すなわち逆進の可能性のある短い時間期間が存在する。この逆進の可能性は、運転者がブレーキを解放して(ブレーキ・ペダル154から足を離す)ブレーキの作動要求を停止する時点(たとえば、ゼロ制動要求信号)と、運転者がアクセル・ペダル156を使用してトルク要求(たとえば、非ゼロ運転者加速信号)を行ない、その要求に応答して生成された実際のトルクが、車両に作用する重力に打ち勝つに充分となってそれをA2の方向に前進させる時点の間の遅れに起因する。
【0016】
図2は、本発明の1つの実施態様に従った坂道逆進コントロール(「HRC」)モジュール200を図解したブロック図である。概して言えば、HRCモジュールは、上り坂運転シナリオにおける車両100の逆進速度(すなわち、非ゼロ速度)を維持する。HRCモジュールは、コントローラ140内にある。コントローラは、坂道保持コントロール(「HHC」)モジュール202、電子処理ユニット204、メモリ206、および入力/出力インターフェース208も含む。入力/出力インターフェースは、コントローラをセンサ等の外部デバイスと接続する。1つの実施態様においては、入力/出力インターフェースがコントローラ・エリア・ネットワーク(「CAN」)バス210と接続される。CANバスは、多様な車両システムが情報の送信および受信に使用できる周知の車両ネットワークである。コントローラは、複数のセンサから信号を受信する。1つの実施態様においては、コントローラとセンサの間の通信がCANバスをわたって生じる。しかしながら、センサをコントローラに直接接続すること(有線または無線接続を介して)は可能である。
【0017】
複数のセンサには、地形勾配角度センサ214、4つの車輪センサ130、132、134、および136、変速機温度センサ242、ギア・シフト・センサ252、ブレーキ・ペダル・センサ254、およびアクセル・ペダル・センサ256が含まれる。地形勾配角度センサは、車両100が移動している地形105の勾配角度を決定する。車輪センサは、車輪110、112、114、および116の回転方向および速度を決定する。変速機温度センサは、変速機142内に配置され、変速機の温度を決定する。ギア・シフト・センサは、ギア・シフト・レバー152の位置(たとえば、自動変速機の場合の駐車(P)、後退(R)、中立(N)、および前進(D))を決定する。ブレーキ・ペダル・センサは、運転者がブレーキ・ペダル154を作動させているか否かを決定する。アクセル・ペダル・センサは、運転者がアクセル・ペダル156を作動させているか否かを決定する。
【0018】
図3は、本発明の1つの実施態様に従ったHRCモジュール200の内部構造を図解している。HRCモジュールは、4つのサブモジュールを含み、それには運転方向仲裁モジュール(「DDAM」)310、発進/停止仲裁モジュール(「SSAM」)320、車両速度制限モジュール(「VSLM」)340、車両ブレーキ・コントロール・モジュール(「VBCM」)350が含まれる。DDAMは、車両100が移動する実際の方向を決定する。1つの実施態様においては、DDAMが、車輪センサ130、132、134、および136のそれぞれから受信される車輪方向信号312、313、314、および315を使用してこの決定を行なう。これらの車輪方向信号は、車輪120、122、124、および126のそれぞれが回転する方向を示す。別の実施態様においては、DDAMが、変速機142内のセンサから受信した変速機出力シャフト・センサ(「TOSS」)方向信号318を使用してこの決定を行なう。TOSS方向信号は、変速機出力シャフトの回転方向を表わす電気信号である。別の実施態様においては、DDAMが、車輪方向信号およびTOSS方向信号の両方を受信し、比較して車両が移動している方向を決定する。DDAMは、車両が移動している実際の方向を表わす実際の方向信号322を生成する。
【0019】
SSAM 320は、HRCモジュール200がイネーブルされているか否かを決定する。1つの実施態様においては、SSAMが、DDAM 310から実際の方向信号322を、ギア・シフト・センサ252からギア・シフト信号324を受信する。SSAMは、ギア・シフト信号を使用して、運転者が意図している車両100の移動方向を決定する。たとえば、ギア・シフト信号がDレンジにセットされている場合には、運転者が意図している車両の移動方向は前進(すなわち、矢印A2の方向)である。実際の方向信号が車両の後退移動(すなわち、矢印A1の方向)を示し、ギア・シフト信号がDレンジにセットされている場合には、SSAMは、車両が逆進しており、HRCモジュール200がイネーブルされる必要があると識別する。SSAMは、HRCイネーブル信号326を生成することによってHRCモジュールをイネーブルする。
【0020】
別の実施態様においては、SSAM 320が、ブレーキ・ペダル・センサ254から運転者制動要求信号328を追加的に受信する。運転者制動要求信号が、ブレーキ・ペダル154が作動されていることを示す場合には、SSAMがHRCイネーブル信号326を生成しない。別の実施態様においては、SSAM 320が複数の車両状態信号330を追加的に受信する。1つの実施態様においては、車両状態信号がブレーキ過熱警告信号を含む。別の実施態様においては、車両状態信号がHHC制動要求信号を含む。SSAMがブレーキ過熱警告信号またはHHC制動要求信号を受信すると、SSAMは、HRCイネーブル信号326を生成しない。
【0021】
VSLM 340は、HRCモジュール200が維持する車両100の目標逆進速度を決定する。1つの実施態様においては、VSLMが、地形勾配角度センサ214から地形勾配角度信号344を受信する。地形勾配角度信号によって表わされた地形勾配角度が勾配スレッショルド値より小さいか、またはそれと等しい場合には、VSLMが目標逆進速度信号348を第1のあらかじめ決定済みの値、たとえば毎時6キロメートル(「6KPH」)にセットする。それに代えて、地形勾配角度が勾配スレッショルド値より大きい場合には、VSLMが目標逆進速度信号を第2のあらかじめ決定済みの値、たとえば4KPHにセットする。いくつかの実施態様においては、第2のあらかじめ決定済みの値が第1のあらかじめ決定済みの値より小さい。いくつかの実施態様においては、第2のあらかじめ決定済みの値が勾配角度の正確な値に基づく。
【0022】
別の実施態様においては、VSLM 340が、変速機温度センサ242から変速機温度信号342を追加的に受信する。地形勾配角度が勾配スレッショルド値より小さいか、またはそれと等しく、かつ変速機温度信号によって表わされた変速機温度が温度スレッショルド値より高い場合には、VSLMが目標逆進速度信号348を第3のあらかじめ決定済みの値、たとえば5KPHにセットする。それに代えて、地形勾配角度が勾配スレッショルド値より大きく、かつ変速機温度が温度スレッショルド値より高い場合には、VSLMが目標逆進速度信号を第4のあらかじめ決定済みの値、たとえば3KPHにセットする。いくつかの実施態様においては、第3のあらかじめ決定済みの値が第1のあらかじめ決定済みの値より小さく、第4のあらかじめ決定済みの値が第1のあらかじめ決定済みの値より小さい。
【0023】
VBCM 350は、車両100の逆進速度を目標逆進速度信号348によって指定される値に維持するために、車輪110、112、114、および116のブレーキ120、122、124、および126に印加する必要圧力を決定する。VBCMは、SSAM 320からHRCイネーブル信号326を、VSLM 340から目標逆進速度信号を、アクセル・ペダル・センサ256から運転者加速要求信号352を、車輪センサ130、132、134、および136のうちの少なくとも1つから車両速度信号354を受信する。VBCMは、HRCイネーブル信号を受信すると、車両速度信号を目標逆進速度信号と比較する。車両速度信号が目標逆進速度信号に等しくない(すなわち、車両の逆進が目標逆進速度より速いか、または遅い)場合には、VBCMが、目標逆進速度信号によって示される目標速度に車両速度をセットするために車輪に印加する必要な制動力を計算する。VBCMは、ブレーキ・コントロール信号356を生成し、ブレーキへ送信することによって、計算した力をブレーキに印加させる。それに加えて、VBCMは、運転者が矢印A2の前進方向に車両が移動するために充分なトルクを要求していることを運転者加速要求信号が示している場合には、ブレーキに圧力を印加するブレーキ・コントロール信号を生成しない。
【0024】
図4は、図2に示されているHRCモジュール200の動作の実施態様を図解している。最初にHRCモジュールが、車両100の移動方向を確認する(S400)。続いてHRCモジュールは、車両が逆進しているか否かを決定する(S405)。車両が逆進している場合には、HRCモジュールが地形勾配角度を確認する(S410)。いくつかの実施態様においては、HRCモジュールが追加的に、変速機142の温度を確認する(S415)。その後HRCモジュールは、地形勾配角度が勾配スレッショルドを超えているか否かを決定する(S420)。いくつかの実施態様においては、HRCモジュールが追加的に、変速機温度が温度スレッショルドを超えているか否かを決定する(S425、S430)。地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度が温度スレッショルドと等しいか、またはそれより低い場合には、HRCモジュールが、目標逆進速度を第1のあらかじめ決定済みの値(たとえば、6KPH)にセットする(S435)。それに代えて、地形勾配角度が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度が温度スレッショルドと等しいか、またはそれより低い場合には、HRCモジュールが、目標逆進速度を第2のあらかじめ決定済みの値(たとえば、4KPH)にセットする(S440)。それに代えて、地形勾配角度が勾配スレッショルドと等しいか、またはそれより小さく、かつ変速機温度が温度スレッショルドより高い場合には、HRCモジュールが、目標逆進速度を第3のあらかじめ決定済みの値(たとえば、5KPH)にセットする(S445)。それに代えて、地形勾配角度が勾配スレッショルドより大きく、かつ変速機温度が温度スレッショルドより高い場合には、HRCモジュールが、目標逆進速度を第4のあらかじめ決定済みの値(たとえば、3KPH)にセットする(S450)。次に、いくつかの実施態様においてHRCモジュールは、車両のブレーキ120、122、124、および126に初期圧力を印加する(S455)。続いてHRCモジュールは、車両の速度を確認する(S460)。次にHRCモジュールは、車両の速度が目標逆進速度に等しいか否かを決定する(S465)。車両の速度が目標逆進速度と等しい場合には、HRCモジュールが、車両のブレーキに印加される圧力を維持する(S470)。車両の速度が目標逆進速度と等しくない場合には、HRCモジュールが、車両のブレーキに印加される圧力を調整する(S475)。理解されるものとするが、HRCモジュールは、車両の速度が目標逆進速度を超える場合にブレーキに印加される圧力を増加し、車両の速度が目標逆進速度より低い場合に車両のブレーキに印加される圧力を減少する。
【0025】
図5は、HRCモジュール200がHHCモジュール202と連携して動作する態様を図式的に示している。グラフ500の水平軸は、秒を単位とする時間を表わす。グラフの垂直軸は、barを単位とするブレーキ・キャリパの圧力およびKPHを単位とする車両100の速度の両方を表わす。運転者がブレーキ・ペダル154を解放すると、その運転者入力の結果として、グラフに示されているとおり、ブレーキ120、122、124、および126に印加される圧力が減少する(T502)。運転者のブレーキ・ペダルの踏み込みがない場合であっても、HHCモジュールがブレーキに圧力を印加していることから車両が移動しない。運転者のブレーキ・ペダルの踏み込みがもたらしたブレーキへの印加圧力が、最小値の5barに達すると、HHCモジュールは、運転者がブレーキ・ペダルを解放したことを確認する(T504)。設定済み遅延期間後にHHCモジュールは、ブレーキに印加された圧力を2段階で解放する(T506)。HHCモジュールによってブレーキに印加される圧力が最小値に達すると、それが重力に打ち勝つに不充分となり、車両が逆進を開始する(T508)。HHCモジュールによってブレーキに印加される圧力が最小値に達すると、その時点においてHRCモジュールが車両の逆進を検出する。その後HRCモジュールは、6KPHの目標速度に車両を維持するために、ブレーキへの圧力の印加を開始する(T510)。
【0026】
したがって、本発明は、とりわけ、地形の勾配角度および変速機の温度に基づいて車両の逆進速度をコントロールする坂道逆進コントロール・メカニズムを提供する。本発明の多様な特徴および利点を特許請求の範囲内に示す。
【符号の説明】
【0027】
100 車両
310 運転方向仲裁モジュール、DDAM
320 発進/停止仲裁モジュール、SSAM
340 車両速度制限モジュール、VSLM
350 車両ブレーキ・コントロール・モジュール、VBCM
図1
図2
図3
図4
図5