【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、水中に一様に、溶解性・乳化性・懸濁性を有さない薬剤を水面で拡散させることで、従来の薬剤輸送技術では限界と考えられていた一箇所への薬剤投入処理で、100m
2から250m
2を超える面積の水田等への、薬品成分の自動的な輸送を達成した。これにより、水環境への薬剤散布作業の省力化を飛躍的に向上させることができる。
【0018】
すなわち、従来の薬品の一段階の水中への三次元拡散に代えて、
本発明である自己水面拡散型省力化薬剤では、
(1)自己水面拡散型省力化薬剤の重力の利用や水面への表面吸着の利用で、短時間で薬剤投入処理地点からの距離に依存しにくい薬品成分の均一分布を達成する、一段階目の水平方向の拡散機構と、
(2)水平方向の拡散より遅れて、水面から水環境底部に到達する、薬品成分の水面から水中への緩やかな溶解で拡散する、二段階目の鉛直方向の拡散機構と、
からなる、逐次的二段階拡散機構の組み合わせにより、薬剤の効率的な長距離均一輸送を達成した。
【0019】
ここで、自己水面拡散型省力化薬剤の重力の利用や水面への表面吸着を利用した、水環境での薬剤の(一段階目の)水平方向の拡散について以下説明する。
【0020】
1)まず、重力は利用するが水面への表面吸着を利用しない薬剤の水環境での展開について説明する。水面での展開・拡散に適切な極性度を有する極性基(以下、単に「適切な極性基」という)を備えない、水浮遊性の非水溶性液状組成物(以下、単に、「液状組成物」という。)が水面に投入された場合についての水面上での展開について説明する。投入直後、液状組成物の塊は、重力に起因する自重による液状組成物の塊の圧縮される方向の作用力により水面上に広がり始める。このとき、その液状組成物の展開力は、その液状組成物の塊としてまとまる方向の作用力である粘度や表面張力に対抗している。そして、その液状組成物の層の厚みは薄くなる。その後、水面に展開した液状組成物の厚みが、さらに薄くなると、液状組成物の粘度に対抗する重力に起因した自重の圧縮・展開力の作用が小さくなり、展開速度が低下する。
【0021】
さらに液状組成物の水面上の展開膜の厚みが薄くなると、適切な極性基を備えないため、液状組成物の水面への吸着力が十分でなく、重力による液状組成物の水面展開が、液状組成物の表面張力に対抗できなくなり、水面上の液状組成物の展開は停止する。この状態が、非水溶性液状組成物の塊が水面に浮いている状態である。
【0022】
2)次に、重力と共に水面への表面吸着を利用する本願発明の水環境での拡散について説明する。本願発明である自己水面拡散型省力化薬剤は、水浮遊性で、水面での拡散・拡散に適切な極性基を備える拡散作用成分が配合されている。その自己水面拡散型省力化薬剤が水面に投入された場合についての水面上での拡散について説明する。投入直後、自己水面拡散型省力化薬剤の塊は、自重による液状組成物の塊の圧縮される方向の作用力により水面上に広がり始める。このとき、その自己水面拡散型省力化薬剤の拡散力は、その液状組成物の塊としてまとまる方向の作用力である粘度や表面張力に対抗している。そして、その自己水面拡散型省力化薬剤の層の厚みは薄くなる。その後、水面に拡散した自己水面拡散型省力化薬剤の厚みが、さらに薄くなると、自己水面拡散型省力化薬剤の粘度に対抗する重力に起因した自重の圧縮・展開力の作用が小さくなり、拡散速度が低下する。
【0023】
しかし、適切な極性基を備える拡散作用成分を配合されている自己水面拡散型省力化薬剤では、自己水面拡散型省力化薬剤が水面上に吸着され、熱力学に安定化された薄膜状の拡散膜になる。このことにより、さらに自己水面拡散型省力化薬剤の水面上の拡散膜の厚みが薄くなっても、自己水面拡散型省力化薬剤の表面張力に対抗し続け、より広い範囲に水面上を拡散し続ける。
【0024】
3)最後に、重力をあまり利用せず、強い水への吸着のため、薬品成分が、水中にマイクロエマルジョンによって可溶化、乳化、懸濁し、水面のみならず水中においても、水と溶け合わない相の界面を作り出すことで、本発明が目的としない三次元拡散を起こす例を説明する。むろん、極性が強すぎる物質を含む組成物は、溶解性、乳化性、懸濁性を有し、水中への三次元拡散を起こす。そのため、その組成物は、本発明のように、水面境界で薬品成分と拡散作用成分が二層に分離することによる、二層の上層に位置する物質の重量に起因する重力効果や、水面のみへの表面吸着作用を十分に利用できず、水面上での十分に広い範囲への拡散性は低い。
【0025】
さらに、極性が強すぎる物質を含む組成物に、比重が1以上の粒状または粉末上の固体薬品成分を含んでいる場合では、固体薬品成分が水中において懸濁状態となった後、すぐにその場所で水中を沈降し始める。このため、本発明が目的とする、広い範囲への効率的な薬剤輸送は達成できない。他方、拡散作用成分の極性度が適切である場合には、例え、比重が1以上の粒状または粉末上の固体薬品成分であっても、水中への密度による沈降に抵抗して、拡散作用成分が、薬品成分を水面境界上に支持して本発明の逐次的二段階拡散機構によって広範囲に薬品成分を拡散させる。このように、本発明の自己水面拡散型省力化薬剤は、水流が無い水環境においても、長距離の薬品成分の自動的な輸送を達成できるが、水流のある状態での応用を妨げるものではない。
【0026】
このような意味で、本発明の自己水面拡散型省力化薬剤は、水面上層にとどまることによる自重の重力効果と、水面への表面吸着による、一段階目の水平拡散と、それに続く二段階目の鉛直方向の水中への拡散を組み合わせた逐次的二段階拡散機構を利用している。
【0027】
上記の課題を解決するために、より具体的には、本発明は、
(1)
少なくとも、液状、粒又は粉状の薬品成分と、前記薬品成分に溶解又は吸着し、或いは前記薬品成分を被覆し、前記薬品成分を沈降させることなく水面上に支持し、前記水面で前記薬品成分を拡散させる液状の拡散作用成分を含んでなる流動性の混合物で、
かつ、前記流動性の混合物が20倍の重量の、0℃より高く40℃より低い温度範囲の水中に、振り混ぜられた後、3分以内に前記水との二相に分離し、一様に、溶解、懸濁又は乳化しない薬剤であって、
前記薬剤の水環境における一箇所の投入地点から重力及び前記拡散作用成分の水面への表面吸着作用によって前記薬品成分を水面で均一分布させる水平方向の拡散機構と、
前記薬品成分を前記水面から水中への緩やかな溶解で拡散させ、前記水平方向の拡散より遅れて前記水面から前記水環境底部に到達する鉛直方向の拡散機構からなる逐次的二段階拡散機構を備えることを特徴とする自己水面拡散型省力化薬剤。
(2)
前記薬品成分が、水より密度が大きいことを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(3)
前記薬品成分を拡散させる液状の拡散作用成分が、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、カルボキシル基、水酸基を分子内に有する化合物の内から選ばれる1種以上を含んでなることを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(4)
さらに、粘度調整剤として、直鎖炭化水素を含むことを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(5)
前記薬品成分を拡散させる液状の拡散作用成分が、大豆油、ひまし油、亜麻仁油、2−エチルヘキサノール、オレイン酸、及びオレイン酸メチルの内から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(6)
前記粒又は粒子の薬品成分が、1mm以下の平均粒径を示す固体粒子で、前記拡散作用成分中に懸濁されていることを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(7)
前記拡散が、(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤の一箇所での投入であって、水流が存在しない条件下において、250m
2を超える面積であることを特徴とする自己水面拡散型省力化薬剤。
(8)
前記自己水面拡散型省力化薬剤から、乳化性界面活性剤を1〜20重量%含むものを除くことを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(9)
前記自己水面拡散型省力化薬剤から、界面活性剤を1〜20重量%含むものを除くことを特徴とする(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤。
(10)
(1)に記載の自己水面拡散型省力化薬剤を、水環境水面に注ぎ入れ、水面に均一拡散させ、かつ前記薬品成分を水環境中に均一に拡散させることを特徴とする省力化薬剤散布方法。
(11)
前記水環境が、水田であること特徴とする(10)に記載の省力化薬剤散布方法。
(12)
薬品成分と、前記薬品成分に溶解又は吸着し、或いは前記薬品成分を被覆し、前記薬品成分を沈降させることなく水面上に支持し、前記水面で前記薬品成分を拡散させる液状の拡散作用成分を含んでなる流動性の混合物である自己水面拡散型省力化薬剤を、
先ず、水環境の水面に注ぎ入れ、水面で水平方向に拡散分布させ、続いて、前記自己水面拡散型省力化薬剤を、前記水平方向に拡散分布するよりも遅れて前記水環境の底部に到達する前記水面から水中へ鉛直方向に緩やかに溶解させる、逐次的二段階拡散機構によって前記薬品成分を前記水環境に拡散させることを特徴とする省力化薬剤散布方法。
(13)
水流が存在しない水環境下において、前記自己水面拡散型省力化薬剤の一箇所の投入によって、前記薬品成分が、前記水環境の水面面積100m
2を超える範囲に拡散することを特徴とする(12)に記載の省力化薬剤散布方法。
(14)
水流が存在しない水環境下において、前記自己水面拡散型省力化薬剤の一箇所の投入によって、前記薬品成分が、前記水環境の水面面積250m
2を超える範囲に拡散することを特徴とする(12)に記載の省力化薬剤散布方法。
の構成とした。
【0028】
ここで、「水環境」としては、水田、蓮田、ワサビ田、魚等の養殖池、施設、またはボウフラやその他の害虫の駆除の必要がある一般の池などが例示できる。さらに、水耕栽培や植物工場での、手動または自動的な薬剤処理に好適に適応できる。
【0029】
「薬剤」とは、水中植物、生物、水環境へ作用する、肥料、或いは殺虫、殺菌、各種予防のための農薬等の薬品成分と、薬品成分を水面に拡散させる拡散作用成分とからなる。
【0030】
薬品成分は、本発明の逐次的二段階拡散を妨げないものであれば使用できるが、単体では、水に即溶性でなく、少量溶解する或いは時間経過により少量溶解する水に難溶性(20℃の水に、10g/L未満の溶解)で、溶解することで目的作用を発揮する機能性成分であり、水より密度が大きい固形の微粉砕物で、通常は水に沈下する性質のものであってもよい。
【0031】
勿論、水より密度が小さい成分も対象にすることができる。例えば、単体で水面に散布した場合、ママコ状に凝集し、難懸濁性、難溶解性を示す性質の薬品成分の場合には、特に、本発明の拡散機能が有効に作用し、確実に拡散、溶解、目的の作用を示すことができる。薬品成分の凝集、集中、或いは非拡散に伴う、濃度ムラによる薬害を防止することができる。
【0032】
薬品成分としては、例えば、「殺菌剤」として、シメコナゾール、メタラキシル、フルトラニル、イソチアニル、プロベナゾール、ピロキロン、トリシクラゾール、バリダマイシンなどが例示でき、「殺虫剤」として、エチプロール、シラフルオフェン、シクロプロトリン、エトフェンプロックス、ジノテフラン、クロチアニジン、ニテンピラム、メタアルデヒド、カルタップ、BPMC、MEP、イミダクロプリド、チアメトキサム、スピノサド、ピメトロジン、クロラントラニリプロールなどが例示でき、「除草剤」として、ピラゾキシフェン、ピラゾレ−ト、ベンゾフェナップ、テフリルトリオン、ベンゾビシクロン、メソトリオン、カフェンストロール、ブタクロール、プレチラクロール、メフェナセット、ジメタメトリン、ダイムロン、アジムスルフロン、イマゾスルフロン、シクロスルファムロン、ピラゾスルフロンエチル、ベンスルフロンメチル、メタゾスルフロン、MCPB、MCP、2.4−PA、ピリフタリド、オキサジクロメホン、シハロホップブチル、ピリミスルファンなどが例示できる。農薬登録のある薬剤に限らず種々の用途に活性が認められている多くの物質や肥料なども、薬品成分として適応できる。
【0033】
また、農薬分野に関しては、次のURLに記載されているものがある。
1)平成27年 山口県農作物病害虫・雑草防除指導基準
http://www.nrs.pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a1720160/00000008/002%20mokuji.htm
2)V−1−(4)2 稲・箱施用・培土処理
http://www.nrs.pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a1720160/00000008/302作物1−3 箱施用・培土処理.pdf
3)V−1−(4)3 稲・本田用殺菌剤
http://www.nrs.pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a1720160/00000008/303作物1−7 本田用剤.pdf
4)V−7−(5)水稲除草剤の有効成分と作用特性一覧
http://www.nrs.pref.yamaguchi.lg.jp/hp_open/a1720160/00000008/175%EF%BC%98%EF%BC%88%EF%BC%95%EF%BC%89%E6%B0%B4%E7%94%B0%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%9C%89%E5%8A%B9%E6%88%90%E5%88%86%E3%81%A8%E4%BD%9C%E7%94%A8%E7%89%B9%E6%80%A7%E4%B8%80%E8%A6%A7.pdf
5)雑草防除ガイド掲載農薬一覧(水稲除草剤)
http://www.agri.hro.or.jp/boujosho//boujo-guide/h26boujo-guide/h26boujoguide-pdf/42002_ine-syoki_h26.pdf
6)農薬登録情報ダウンロード - 農林水産消費安全技術センター
http://www.acis.famic.go.jp/ddata/index.htm
【0034】
拡散作用成分は、界面活性機能を有する物質であるが、油溶性成分の水中への乳化作用を有するものでなく、水面拡散作用を有する物質である。例えば、HLB1〜4の範囲の界面活性剤、分散剤などが例示できる。さらに、大豆油に代表される油脂類は、油溶性であるが、親水性基の含有量、性質、作用により、水面に浮き、水面を自己拡散(二次元)する。
特許文献4において、界面活性剤として「サーフィノール」が例示されている。そして全ての実施例で「サーフィノール」が多量に使用されている。
ここで、サーフィノールは、特表2011−512418号公報の段落0014に「サーフィノール104PG−50(商標)が、薬物の水性相への導入前に内部油相に添加された。得られた生成物は、約230nmの非常に小さい粒径を特徴とし、この実験結果は、再現可能である。このサイズ分布は、凝集を阻止するためのサーフィノール104PG−50(商標)の能力におそらく起因して均一に非常に狭い(多分散性指数(PDI)〜0.1)。」とあるように、薬品(油相)の水相への導入で微小の粒径になっていることから明らかであり、サーフィノールは油脂を水中油型に乳化する乳化性界面活性剤である。
本願発明では、薬品成分を逐次的二段階拡散機構で拡散させることから(拡散作用成分として多量の乳化性界面活性剤(薬剤100重量部に対して1〜20重量部)を含む場合、発明の目的を実現できない場合がある。
すなわち、特許文献4のサーフィノールのような乳化性界面活性剤が添加された場合、界面活性剤の添加量(段落0009の「(サーフィノール 104、エア−プロダクツ社製)界面活性剤は稲紋枯病防除組成物100重量部に対して1〜20重量部の範囲から適宜選択して使用することができる。」)では本願発明のような薬品成分の広範囲の拡散(逐次的二段階拡散機構)は実現できない、以上からも、本願発明は、特許文献4と同一ではないことを付言する。
特許文献4は、水面拡散によって、薬剤をイネの茎部に付着させる技術で、本願発明と特許文献4とでは、発明の目的、効果においてまったく異なる。より具体的には、特許文献4には、明細書段落0006に「従来の防除方法の考え方から発想を転換し、農薬有効成分を水稲の根又は茎葉部から吸収させるのではなく、稲紋枯病の生態に合わせて水面と接する葉鞘部に効率良く付着させて稲体内に吸収させ、」とあるように、水面での展開のみを考慮し、水中、土壌へ拡散を意図せず、却って水中への拡散を忌避、回避している。
他方、本願発明は、「薬品成分を前記水面から水中への緩やかな溶解で拡散させ、前記水平方向の拡散より遅れて前記水面から前記水環境底部に到達する鉛直方向の拡散機構」を備えるものである。
すなわち、特許文献4の技術は「農薬有効成分を水稲の根又は茎葉部から吸収させるのではなく、」と記載されてあるように、水中、土壌への拡散を意図せず、却って回避しており、本願発明は「水環境底部に到達する」としている点、特許文献4と本願発明1とは、根本的に技術思想が異なることが明らかで、特許文献4は、本願発明をなすための動機はなく、却って、本願発明の創作に阻害的な先行技術である。
特許文献4が「局所施用」及び「葉鞘部」への付着のための「界面活性剤」を多量に含むことで「薬品成分の水面での濃度低下」により、広範な水面での展開が意図も、実現もしていないことは明らかで、さらに水中へ薬剤の拡散を意図していないことからも、特許文献4に接した当業者は、特許文献4から本願発明の水中、土壌への拡散、広範囲展開、さらには「薬品散布の省力化」を想到することは到底できるものでないことを付言する。
【0035】
以上の相違により、本願発明は、水中乳化・懸濁系による水中への拡散(三次元)よりも、少量で広範囲に効果的に均一に拡散(散布)することができる。水中乳化・懸濁系による拡散(三次元)では、水体積範囲への拡散になり、多量に散布成分を要するとともに、三次元拡散のため薬剤投入地点からの距離が遠くなると、拡散させた薬剤濃度が急激に低下する(原理的には当該薬剤濃度は投入地点距離の二乗に反比例する)。一方、水面での拡散では二層に分離することによる重力並びに拡散作用成分や薬品成分の水面への吸着が作用するために、水面上での薬剤濃度は速やかに、投入地点からの距離によらず均一になる。
【0036】
また水面は、速やかに本発明の自己水面拡散型省力化薬剤により完全に覆われ、その水面の拡散膜の水面展開圧により薬剤構成分子が水面上で押し合う構造をとることで安定化される。そのため風などによる吹き寄せに関わる不均一な薬剤分布を抑え、均一な薬剤分布状況を実現することができる。
【0037】
例えば、脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物である「動植物由来の油脂類」は、薬剤を広範囲の水面上に拡散させる拡散作用成分として、適切な親水性・疎水性バランスを持ち、拡散作用成分に溶解しない固体薬品成分を、粉砕・分散処理を行った場合、安定な懸濁液を調製できると同時に、その懸濁液が水に、乳化・懸濁しない性質を両立することができる。大豆油に代表される液状油脂類は、単独でこのような性質を両立できる好適な材料である。
【0038】
ここで、「脂肪酸」とは、「長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である。一般的に、炭素数2−4個のものを短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)、5−12個のものを中鎖脂肪酸、12個以上の炭素数のものを長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)と呼ぶ。炭素数の区切りは諸説がある。脂肪酸は、一般式CnHmCOOHで表せる。脂肪酸はグリセリンとエステル化して油脂を構成する。」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%82%AA%E9%85%B8)
3分子の脂肪酸が1分子のグリセリンとエステル化して油脂を構成することが一般的であるが、グリセリンの水酸基がエステル化せず残存するものもある。
【0039】
拡散作用成分としては、例えば、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、カルボキシル基、アルコール性の水酸基など弱い極性を有する部分が分子内にある油脂類、合成樹脂添加用の可塑剤類や、その他の化学物質、を使用することができる。
【0040】
また、薬品成分が拡散作用成分を含む液状成分に不溶な場合、薬品成分を微粒子として製剤中に懸濁させる必要があり、かつ本発明が意図するように、水には懸濁しない製剤とするために、極性の強さが適切な物質が拡散作用成分として必要である。このような拡散作用成分として、大豆油、菜種油、綿実油、コーンオイル、亜麻仁油、ごま油、グレープシードオイル、オリーブ油、キャノーラ油、米油、桐油、ひまし油、ヤシ油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、またはこれらのエポキシ化など化学修飾を加えた物質、または、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などや、これらのメチルエステル、グリセリンエステルなどが好適に利用できる。また、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、アジピン酸ジオクチル、リン酸トリクレシルなどの可塑剤類も拡散作用成分として使用することができる。また、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ヘキサノールなどのアルコール類も拡散作用成分として使用できる。またこれらに関わらず、水に混和せず水面上を広がる液状の物質であれば拡散作用成分として使用することができる。
【0041】
さらに、特開平6−336402(特許文献4)に記載されているように、水溶性の極性溶剤を少量添加することで、薬品成分の水面上での拡散性を向上させることができる場合がある。しかし、自己水面拡散型省力化薬剤自体の、重要な特性である、水への不溶性、非乳化性及び非懸濁性を損なうほど、過剰に添加すると、自己水面拡散性が低下し薬品成分の長距離輸送性が損なわれる。薬品成分並びに拡散作用成分の組み合わせに合わせて、前記極性溶剤の適正添加量は決められる。
【0042】
「流動性の混合物が、水中に一様に、溶解、懸濁又は乳化しない」条件は、拡散作用成分又は自己水面拡散型省力化薬剤0.25mLを水5mLに加え、5Hzで5分間振盪し、その後3分静置して、水と流動性の混合物が二相に分離することである。
【0043】
薬品成分及び拡散作用成分の他に、本発明である自己水面拡散型省力化薬剤に、ドデカンなどの直鎖炭化水素を含めるとよい。直鎖炭化水素は、拡散作用成分ではなく、粘度調整剤として作用する。速やかに薬品成分を水面で拡散させるために、自己水面拡散型省力化薬剤、特に拡散作用成分の粘度を低く調整するとよい。ドデカンなどの直鎖炭化水素は、油脂類等の長鎖脂肪酸部分との親和性が高いので、拡散作用成分に適宜添加することで、水面拡散性、薬品成分の製剤中での懸濁安定性、および水への非溶解性や非懸濁性を損なうことなしに、自己水面拡散型省力化薬剤の粘度を低下させ、自己水面拡散型省力化薬剤の水面拡散速度を高める作用がある。
【0044】
粘度調整剤としては、飽和炭化水素の場合、炭素数が8以下の炭化水素は揮発性の高く引火性の高い。また、炭素数が16以上のものは徐々に粘度が高くなり粘度の調整という目的に適さない。飽和炭化水素の場合、炭素数が9から15までの炭化水素が好適である。また不飽和の炭化水素であっても、側鎖を有する炭化水素でも添加できる。この中で、入手のしやすさや、粘度の調整効果、調製した薬剤の機械的または化学的安定性の観点から、炭素数12の直鎖炭化水素のドデカンが好適である。
【0045】
また、比重が1以上の粒状または粉末上の固体薬品成分の場合でも、本発明の自己水面拡散型省力化薬剤では、当該薬品成分を安定的な懸濁液としているので、薬剤を水面上に投入した際、当該薬品成分が拡散作用成分によって水面上に支持され水中に沈降することなく、自己水面拡散型省力化薬剤が一体となって水面上を広がり、自動的に当該薬品成分を水面全体へ均一に分布させることができる。
本発明のスプレッディング・サスペンション剤は、さらに固体の物質と組み合わせて、外観上、粉末状、粒状、または錠剤状等の固体に加工されるものであって当該逐次的二段階拡散を実現する組成物を調製することもできが、本発明はこれらの追加の加工を妨げるものではない。