特許第6353631号(P6353631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 光洋シーリングテクノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6353631-密封装置 図000002
  • 特許6353631-密封装置 図000003
  • 特許6353631-密封装置 図000004
  • 特許6353631-密封装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353631
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20180625BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20180625BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   F16C33/80
   F16C19/38
   F16C33/78 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-275921(P2012-275921)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-40904(P2014-40904A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年10月7日
【審判番号】不服2017-6739(P2017-6739/J1)
【審判請求日】2017年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-165558(P2012-165558)
(32)【優先日】2012年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】田幡 正裕
【合議体】
【審判長】 平田 信勝
【審判官】 中村 達之
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131452(JP,A)
【文献】 特開2012−97817(JP,A)
【文献】 特開2010−180896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C33/78-33/80
F16C19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、前記内輪の外周側に同心に配置された外輪と、前記内輪の一端部に一体に形成されているとともに、一側面の一部が前記外輪の一端面にすき間を有して対向している、車両の車輪を固定するためのフランジ部と、を備えた転がり軸受装置に用いられ、前記内輪と前記外輪との間の環状空間を密封する転がり軸受装置用の密封装置であって、
前記外輪の一端部の内周面に嵌合固定される円筒部、及び、前記外輪の一端面と当接した状態で前記円筒部の一端部から径方向外方に延びて前記フランジ部に対向配置される円環部を備えた芯金と、
弾性素材からなるとともに、前記芯金に取り付けられて前記内輪の周面に摺接するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、前記円環部の外周面側から径方向外方に延びて外部の泥水が前記すき間に到達するのを抑制する環状の外周鍔部と、
前記フランジ部に対向している前記円環部の対向面に設けられ、当該対向面から前記フランジ部に向かって突出することでその先端と前記フランジ部の一側面との間で前記すき間を密封するラビリンスシールを構成している環状突起部と、を備え、
前記環状突起部には、当該環状突起部の一部が切除された切除部が、前記転がり軸受装置が前記車両に取り付けられたときに下側となる部分に設けられ、
前記切除部は、前記フランジ部に対向している底面と、前記環状突起部の周方向両端面とによって構成され、
前記底面は、前記外周鍔部において前記フランジ部に対向している側面と面一であり、
前記環状突起部は、前記外輪の外周面よりも径方向内側に設けられ、前記フランジ部における前記外輪の一端面と平行な一側面との間でラビリンスシールを構成し、
さらに、前記環状突起部は、前記フランジ部の一側面側に向かって軸方向に沿って延びている外周部と、この外周部の先端部から前記外輪側へ向かって漸次縮径するように傾斜する傾斜面を有しているとともに軸方向断面における前記傾斜面の径方向幅が軸方向断面における前記外周部の軸方向の突出長さよりも長い内周部と、を有し、
前記外周鍔部は、前記環状突起部の外周から径方向外方に延びている
転がり軸受装置用の密封装置。
【請求項2】
前記切除部は、前記環状突起部の全周に対して、5%以上、25%以下の範囲で周方向に切除されている請求項1に記載の転がり軸受装置用の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の車輪を支持するための転がり軸受装置に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車輪を支持するための転がり軸受装置には、その内部に泥水や異物等が侵入するのを防止するために内外輪間を密封するための密封装置が用いられている。このような密封装置は、転がり軸受装置の内外輪間の両端に取り付けられる(例えば、特許文献1参照)。
図4は、自動車用の転がり軸受装置の一端部側に取り付けられた従来の密封装置を示す断面図である。図中、転がり軸受装置60は、自動車の車輪を固定するためのフランジ部61が形成された回転輪としての内輪62と、固定輪としての外輪63と、転動体としての円錐ころ64とを備えている。転がり軸受装置60に取り付けられた密封装置50は、フランジ部61に対向する外輪63の端部に内嵌固定された芯金51と、弾性体からなるとともに芯金51に取り付けられて内輪62の外周面及びフランジ部61に摺接する複数のシールリップ52〜54とを備えている。これら複数のシールリップ52〜54は、芯金51の外方側面を基端として内輪62の外周面及びフランジ部61へ延びるように形成されており、車両の走行に伴って回転する内輪62の外周面及びフランジ部61に摺接することで、内外輪の隙間を密封し、当該転がり軸受装置60内部に泥水や異物等が侵入するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−76784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記密封装置50が取り付けられた外輪63の端面と、フランジ部61との間には、図4のように、すき間が形成されている。このすき間は径方向外方に開口しているため、このすき間から泥水や異物が外輪63の内周側に侵入し、それらが外輪63の内周側に留まってしまうおそれがある。このため、外輪63の内周側に位置するシールリップ52〜54が過度に泥水や異物にさらされ、密封装置の耐久性を低下させる場合があった。
また、上記すき間から泥水等が侵入するのを防止するため、密封装置にフランジ部61側に摺接する、上記すき間を密封するためのシールリップをさらに設けることも考えられるが、転がり軸受装置の回転トルクを過大に増加させてしまうおそれがあるため、好ましくない。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、転がり軸受装置の回転トルクを過大に増加させることなく、密封性能を長期に渡って維持することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、内輪と、前記内輪の外周側に同心に配置された外輪と、前記内輪の一端部に一体に形成されているとともに、一側面の一部が前記外輪の一端面にすき間を有して対向している、車両の車輪を固定するためのフランジ部と、を備えた転がり軸受装置に用いられ、前記内輪と前記外輪との間の環状空間を密封する転がり軸受装置用の密封装置であって、前記外輪の一端部の内周面に嵌合固定される円筒部、及び、前記外輪の一端面と当接した状態で前記円筒部の一端部から径方向外方に延びて前記フランジ部に対向配置される円環部を備えた芯金と、弾性素材からなるとともに、前記芯金に取り付けられて前記内輪の周面に摺接するシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記円環部の外周面側から径方向外方に延びて外部の泥水が前記すき間に到達するのを抑制する環状の外周鍔部と、前記フランジ部に対向している前記円環部の対向面に設けられ、当該対向面から前記フランジ部に向かって突出することでその先端と前記フランジ部の一側面との間で前記すき間を密封するラビリンスシールを構成している環状突起部と、を備え、前記環状突起部には、当該環状突起部の一部が切除された切除部が、前記転がり軸受装置が前記車両に取り付けられたときに下側となる部分に設けられ、前記切除部は、前記フランジ部に対向している底面と、前記環状突起部の周方向両端面とによって構成され、前記底面は、前記外周鍔部において前記フランジ部に対向している側面と面一であり、前記環状突起部は、前記外輪の外周面よりも径方向内側に設けられ、前記フランジ部における前記外輪の一端面と平行な一側面との間でラビリンスシールを構成し、さらに、前記環状突起部は、前記フランジ部の一側面側に向かって軸方向に沿って延びている外周部と、この外周部の先端部から前記外輪側へ向かって漸次縮径するように傾斜する傾斜面を有しているとともに軸方向断面における前記傾斜面の径方向幅が軸方向断面における前記外周部の軸方向の突出長さよりも長い内周部と、を有し、前記外周鍔部は、前記環状突起部の外周から径方向外方に延びている
【0007】
上記のように構成された密封装置によれば、円環部の外周面側から、径方向外方に延びて外部の泥水が前記すき間に到達するのを抑制する環状の外周鍔部を備えているとともに、円環部の対向面には、フランジ部との間ですき間を密封するラビリンスシールを構成している環状突起部が設けられているので、転がり軸受装置の回転トルクを過大に増加させることなく、外輪とフランジ部との間のすき間から外輪の内周側に泥水や異物が侵入するのを抑制できる。
【0008】
一方、外周鍔部及び環状突起部を設けることで、外輪の内周側に侵入してしまった泥水が外部に排出されにくくなり、逆に密封装置の耐久性を低下させるおそれがある。この点、本発明では、環状突起部の一部が切除された切除部が、環状突起部の下側となる部分に設けられているので、環状突起部と、フランジ部とによって構成されているラビリンスシールの一部に、内部の泥水を外部へ排出するための経路を設けることができる。この結果、たとえ、環状突起部の内周側に泥水が侵入したとしても、切除部を通じて侵入した泥水を環状突起部の下側から外周側に向けて速やかに排出することができる。
【0009】
この結果、転がり軸受装置の回転トルクを過大に増加させることなく、外輪の内周側に泥水等が侵入するのを効果的に抑制するとともに、万一泥水が外輪の内周側に侵入してしまったとしても、当該泥水を速やかに排出することができる。よって、泥水等によるシールリップの密封性の低下を防止でき、密封性能を長期に渡って維持することができる。
【0010】
また、上記密封装置において、切除部は、環状突起部の全周に対して極端に小さいと、適切に泥水を排水できないおそれがある。また、逆に環状突起部の全周に対して極端に大きいと、切除部から外輪の内周側に泥水が侵入し易くなるおそれがある。
このため、前記切除部は、前記環状突起部の全周に対して、5%以上、25%以下の範囲で周方向に切除されていることが好ましく、この場合、外部からの泥水の侵入を抑制しつつ、侵入した泥水を外部に向けて速やかに排出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封装置によれば、転がり軸受装置の回転トルクを過大に増加させることなく、密封性能を長期に渡って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る密封装置が用いられている転がり軸受装置の断面図である。
図2図1中の密封装置の部分断面図である。
図3図1中の密封装置の下側部分の部分断面図である。
図4】自動車用の転がり軸受装置の一端部側に取り付けられた従来の密封装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る密封装置が用いられている転がり軸受装置の断面図である。この転がり軸受装置1は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する。
【0014】
転がり軸受装置1は、外輪2と、内輪としての内軸3と、外輪2と内軸3の間に配置された転動体としての複数の円錐ころ4と、これらの円錐ころ4をそれぞれ保持する保持器5と、を備えており、複列の円錐ころ軸受を構成している。
外輪2は、自動車の懸架装置に固定される固定輪であり、内軸3の外周側に同心に配置されている。外輪2の内周面には、円錐ころ4が転動する外輪軌道2aが形成されている。
【0015】
内軸3は、回転輪であると同時に図示しない車輪が取り付けられる車軸を構成している。内軸3の外周面には、円錐ころ4が転動する内輪軌道3aが形成されている。内軸3の一端部には、車輪を固定するためのフランジ部6が形成されている。このフランジ部6は、その一側面の一部が外輪2の一端面との間ですき間Sを有して対向している。転がり軸受装置1は、このフランジ部6が形成されている一端部側が車両外方側、他端部側が車両内方側となるように懸架装置に固定される。
以上の構成により、転がり軸受装置1は、図示しない車輪が固定される内軸3を車両に対して回転自在に支持する。
【0016】
また、外輪2の両端部と、内軸3との間には、外輪2と内軸3との間の環状空間を密封するための密封装置9,10が取り付けられている。このうち、フランジ部6との間ですき間Sを形成している外輪2の一端部側に取り付けられている密封装置10には、本発明の一実施形態である密封装置が用いられている。
【0017】
図2は、図1中の密封装置10の部分断面図である。図において、密封装置10は、外輪2の一端部に固定された円環状の芯金11と、この芯金11に取り付けられたシール部材12とを備えている。
【0018】
芯金11は、SPCC等の鋼板をプレス加工することによって環状に形成されており、外輪2一端部の内周面に嵌合固定された円筒部13と、外輪2の一端面2bに当接した状態で円筒部13の一端部から径方向外方に延びている円環部14と、円筒部13の他端部から径方向内側に延びてシール部材12を支持している内鍔部15とを有している。
円環部14は、外輪2の一端面2bに当接することで、密封装置10全体を軸方向に対して位置決めしている。また、円環部14は、一端面2bと当接して形成されていることで、フランジ部6に対して対向配置されている。
【0019】
シール部材12は、ニトリルゴム等の弾性素材を円環状に形成したもので、内鍔部15及び円筒部13に加硫接着することによって芯金11に密着形成されている。このシール部材12は、内軸3の外周面3bに摺接するラジアルリップ12a,12bと、フランジ部6の一側面6aに摺接するアキシャルリップ12cとを有している。これらラジアルリップ12a,12b及びアキシャルリップ12cは、芯金11の内鍔部15を基端としてそれぞれ外周面3b、一側面6aに延びるように形成されており、当該転がり軸受装置1の内部に泥水や、砂、小石等の異物が進入しないように密封している。
【0020】
また、シール部材12は、円環部14に設けられてフランジ部6に向かって突出している環状突起部20を有している。この環状突起部20は、円環部14のフランジ部6に対向している対向面14aからフランジ部6に向かって突出するように形成されている。環状突起部20は、芯金11の外側面に沿って密着形成されている基部12dによって、各リップ12a,12b,12cと繋がっており、上記各リップ12a,12b,12cとともにシール部材12として一体的に芯金11に密着形成されている。従って、本実施形態において、環状突起部20は、ニトリルゴム等の弾性素材により形成されている。
【0021】
環状突起部20は、円環部14側から軸方向に沿ってフランジ部6の一側面6a側に延びる環状の外周部21と、この外周部21の先端部22から円環部14側に向かって漸次縮径する内周部23とを有しており、その断面形状が、ほぼ直角三角形とされている。
外周部21の先端部22は、内周部23との間を滑らかに繋ぐR面に形成されている。先端部22は、フランジ部6の一側面6aに対して、例えば0.5mmのクリアランスをおいて形成されている。これによって、環状突起部20の外周部21の先端部22と、フランジ部6の一側面6aとの間で、すき間Sを密封するラビリンスシールが構成されている。
【0022】
また、シール部材12は、円環部14の外周端14bを基端として、径方向外方に延びて環状に形成されている外周鍔部30を有している。外周鍔部30は、環状突起部20や、各リップ12a,12b,12cとともにシール部材12として一体的に芯金11に密着形成されている。従って、外周鍔部30は、ニトリルゴム等の弾性素材により形成されている。
外周鍔部30は、フランジ部6に対向して形成されており、外部の泥水や異物等がラビリンスシールを構成している環状突起部20とフランジ部6との間に到達することが可能な経路を制限することができる。これによって、外周鍔部30は、外部の泥水がすき間Sに到達するのを抑制する。
【0023】
円環部14の外周先端側には、外輪2の一端面2bに離間している薄肉部14cが形成されている。薄肉部14cは、外輪2の一端面2bに当接している円環部14の本体部14eの先端から径方向に延びて形成されている。
【0024】
薄肉部14cと、外輪2の一端面2bとの間には、円環部14と外輪2の一端面2bとの間を密封するための環状シール部31が介在している。
環状シール部31は、薄肉部14cの外輪2側の側面を覆うように外周鍔部30の基端部に繋がって形成されている。環状シール部31は、環状突起部20や、外周鍔部30、各リップ12a,12b,12cとともにシール部材12として一体的に芯金11に密着形成されている。従って、環状シール部31は、ニトリルゴム等の弾性素材により形成されている。
【0025】
環状シール部31には、外輪2の一端面2b側に環状に突出した突起31aと、突起31aの基端部の内外周側それぞれにおいて薄肉部14c側に凹んだ環状凹部31b,31cとが形成されている。
【0026】
突起31aは、外輪2に取り付けられる前の自由状態においては、図中、破線で示すように、本体部14eに対して外輪2側に向けて突出している。突起31aは、外輪2に取り付けられると、薄肉部14cと、外輪2の一端面2bとによって強圧され、図2に示すように、つぶされて弾性変形した状態で、薄肉部14cと、外輪2の一端面2bとの間に介在する。図2中、破線で示されている部分は、突起31aにおける締め代である。
【0027】
環状凹部31b,31cは、図2に示すように、外輪2に取り付けられた状態で、その底部が一端面2bに接しない程度の深さに形成されている。環状凹部31b,31cは、突起31aが弾性変形したときに、当該変形した環状突起31aを径方向に逃がすための空間を確保している。これによって、環状突起31aが外輪2の一端面2bに接触したときにスムーズに弾性変形させ、当該環状突起31aと、一端面2bとの間にすき間が生じるのを抑制することができる。
【0028】
このように、環状シール部31は、突起31aがつぶされて弾性変形した状態で、薄肉部14cと、外輪2の一端面2bとの間に介在しているので、薄肉部14cと一端面2bとの間を効果的に密封することができる。
【0029】
また、フランジ部6に対向している円環部14の対向面14aには、当該対向面14aからフランジ部6に向かって突出することでその先端部22とフランジ部6の一側面6aとの間ですき間Sを密封するラビリンスシールを構成している環状突起部20が設けられている。
【0030】
図3(a)は、図1中の密封装置10の下側部分の部分断面図であり、図3(b)は、外周鍔部30の外周部を正面視したときの図である。
図3において、環状突起部20には、当該環状突起部20の一部が切除された切除部36が設けられている。切除部36は、転がり軸受装置1が自動車に取り付けられたときに環状突起部20の下側となる下側部分を、当該環状突起部20を周方向に切除して設けられている。
また、切除部36は、図3(b)に示すように、周方向に切除された部分が、軸方向から正面視したときに、軸中心Oを通過するとともに鉛直方向に沿う基準線Lに対して対称となるように形成されている。
【0031】
上記構成の密封装置によれば、円環部14の外周端14b側から、径方向外方に延びて外部の泥水が前記すき間に到達するのを抑制する環状の外周鍔部30を備えているとともに、円環部14の対向面14aには、フランジ部6との間ですき間Sを密封するラビリンスシールを構成している環状突起部20が設けられているので、転がり軸受装置1の回転トルクを過大に増加させることなく、外輪2とフランジ部6との間のすき間Sから外輪2の内周側に泥水や異物が侵入するのをより効果的に抑制できる。
【0032】
一方、外周鍔部30及び環状突起部20を設けることで、外輪2の内周側に侵入してしまった泥水が外部に排出されにくくなり、逆に密封装置10の耐久性を低下させるおそれがある。この点、本実施形態では、環状突起部20の一部が切除された切除部36が、環状突起部20の下側となる部分に設けられているので、環状突起部20と、フランジ部6とによって構成されているラビリンスシールの一部に、内部の泥水を排水するための経路を設けることができる。この結果、たとえ、ラビリンスシールを構成している環状突起部20の内周側に泥水が侵入してしまったとしても、この切除部36を通じて侵入した泥水を環状突起部20の下側から外周側に向けて速やかに排出することができる。
【0033】
この結果、転がり軸受装置1の回転トルクを過大に増加させることなく、外輪2の内周側に泥水等が侵入するのを効果的に抑制するとともに、万一泥水が外輪2の内周側に侵入してしまったとしても、当該泥水を速やかに排出することができる。よって、泥水等によるシールリップの密封性の低下を防止でき、密封性能を長期に渡って維持することができる。
【0034】
なお、切除部36は、環状突起部20の全周に対して極端に小さいと、適切に泥水を排水できないおそれがある。このため、環状突起部20の全周に対する切除部36の周方向に切除される長さの割合の下限値としては、5%以上であることが好ましい。また、切除部36は、環状突起部20の全周に対して極端に大きいと、切除部36の部分から外輪の内周側に泥水が侵入し易くなるおそれがある。このため、環状突起部20の全周に対する切除部36の周方向に切除される長さの割合の上限値としては、25%以下であることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態では、環状突起部20の外周部21が、円環部14側から軸方向に沿ってフランジ部6の一側面6a側に延びているので、すき間Sから侵入しようとする外部からの泥水等を遮蔽することができその侵入をより効果的に防止できる。
【0036】
また、本実施形態では、環状突起部20の内周部23が、外周部21の先端部22から円環部14側に向かって漸次縮径しているので、万一、外輪2の内周側に泥水等が侵入してしまったとしても、侵入した泥水等をその自重によって環状突起部20の下側に設けられた切除部36に滑らかに導くことができ、切除部36を通じて外部へ向けてより速やかに排出することができる。この結果、泥水等が外輪2の内周側に留まってしまうのを防止することができる。
【0037】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、環状突起部20を先端部22から基端部に亘って外周鍔部30に面一となるように突出方向に全域を切除することで、切除部36を設けたが、例えば、環状突起部20の先端付近を切り欠くように突出方向に一部切除することで、切除部36を設けてもよい。
また、上記実施形態では、環状突起部20の断面形状を、ほぼ直角三角形とした場合を例示したが、外周部21が円環部14側から軸方向に沿ってフランジ部6側に延び、内周部23が、外周部21の先端部22から円環部14側に向かって漸次縮径していればよい。従って例えば、先端部22は、上記実施形態のように内周部23との間を滑らかに繋ぐR面とする他、より径方向に延びるように形成し、環状突起部20の断面形状がほぼ台形形状としてもよい。また、先端部22を平滑面ではなく凹凸を設けてラビリンス効果をより高めることもできる。
【符号の説明】
【0038】
1 転がり軸受装置 2 外輪 2b 一端面
3 内軸 3b 外周面 6 フランジ部
6a 一側面 10 密封装置 11 芯金
12 シール部材 12a,12b,12c シールリップ
13 円筒部 14 円環部 14a 対向面
14b 外周端 20 環状突起部 21 外周部
22 先端部 23 内周部 30 外周鍔部
36 切除部 S すき間
図1
図2
図3
図4