(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用内装材の吸音性能を高めるためには、吸音材の厚みや敷設面積を増大するか、吸音性能に優れた材料を選択する必要があって、コスト的に不利となってしまうことは否めない。
【0005】
そこで、本発明は吸音材の厚みの増大化や高価な吸音材料の使用を伴うことなく吸音性能を高めることができる車両用内装材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用内装材は、トリム材の裏側に多孔質材料からなる吸音材を配設してあって、
波形状に形成された吸音材
において波形の各山部の斜面に
設けられ、山部の長さ方向に所要の間隔をおいて
設けられた複数の切り起こし片
を備えている。そして、吸音材には、山部の頂部側から谷部に向けて切り起こし領域を区画するスリットが設けられ、切り起こし片は、谷部を基点とし、山部の頂部側を自由端として構成され、自由端側が山部の内側に向かうように切り起こされている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸音材を波形状に形成してその波形の各山部の斜面に複数の切り起こし片を形成することにより、該吸音材の音を吸収する表面積を増大することができる。
【0008】
また、吸音材とトリム材や車体パネルとの間に吸音層となる波形に対応したボリュウムの背後空気層を形成することができる。
【0009】
これにより、吸音材の厚みの増大化や高価な吸音材料の使用を伴うことなく吸音性能を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態をトリム材として自動車のバックドアトリムを例に採って図面と共に詳述する。
【0012】
図1に示す実施形態のバックドアトリム10は、
図2に例示するバックドアの略下半部を構成するドア本体1に配設される。
【0013】
ドア本体1はドアアウタパネル2とドアインナパネル3とで閉断面に形成してあり、該ドア本体1のドアウェスト部の車幅方向両側にドアフレームが立設され、該ドアフレームにウィンドウパネルを固着してバックドアの略上半部が構成される(ドアフレーム、ウィンドウパネルは何れも図示省略)。
【0014】
バックドアトリム10は、このドア本体1のドアインナパネル3の前面(車室側の面)を覆ってその周縁部の複数ヶ所で例えばクリップにより止着固定される。
【0015】
バックドアトリム10は、適宜の合成樹脂材をもって射出成形等により型成形され、その裏面には吸音材11を配設してある。
【0016】
吸音材11は、フェルト,グラスウール,樹脂繊維の集合体、あるいはポリウレタンのような連続気泡を持つ発泡体といった多孔質材料が選択的に用いられる。
【0017】
このような多孔質材料は、一般に、面密度が100g/m
2〜1200g/m
2、厚さが5mm〜30mmのものを使用することで、優れた吸音性能が得られることが知られている。
【0018】
また、吸音材11として、上述の多孔質材料を単体として用いる他、多孔質材料の表面に、例えば、面密度15〜300g/m
2の低通気性不織布や、面密度30〜100g/m
2のポリエチレンフィルム、といった表面および/または裏面保護材を設けた多層構造のものを用いることができる。
【0019】
本実施形態では、上述の吸音材11としてバックドアトリム10の裏面に配設可能な矩形状に裁断したフェルトを用いている。
【0020】
この吸音材11は、
図3に示すように例えば上下方向に波形状に形成してあって、その波形の各山部の斜面に、山部の長さ方向(車幅方向)に所要の間隔をおいて複数の切り起こし片13を形成してある。
【0021】
本実施形態では、前記波形の山部の両斜面に頂部側から谷部に向けて切り起こし領域を区画する矩形のスリット12を設けて、このスリット12から短冊状の切り起こし片13を山部の内側に向けて切り起こし成形している。
【0022】
スリット12の形成は複数の切刃を設けた図外の刃型により容易に形成することができるが、この他、NCカッターやウォータージェットなどの加工手段を採用することができる。
【0023】
図1〜
図3に示す例では、切り起こし片13を波形の山部の両斜面に同一のピッチで対向的に形成しているが、
図8(A)に示すように前記波形の山部の両斜面で切り起こし片13を1ピッチずらして形成するようにしてもよい。
【0024】
また、スリット12による切り起こし片13の形状は、上述の短冊形状に限らず
図8(B)に示す台形状、
図8(C)に示すU字状(または扇形状)、
図8(D)に示すV字状(三角形状)等に形成することができ、この他に形状を複雑にすることで吸音表面積を増加させ、吸音効果を高めることが可能である。
【0025】
図8の(B)〜(D)に示す何れの形状の場合も、切り起こし片13を波形の山部の両斜面に同一のピッチで対向的に形成しているが、これは同図(A)と同様に波形の山部の両斜面で1ピッチずらして形成するようにしてもよい。
【0026】
吸音材11の上述の波形状の形成は、山部を摘みあげた状態にして吸音材11を
図1の上下方向に縮めるようにして形成するか、あるいは型成形によって形成することができる。
【0027】
切り起こし片13の切り起こしに有効な幅(形成幅)Lは、吸音材11の厚みtに対して0.5倍〜5.0倍(例えば、吸音材厚みt=10mmの場合、スリット幅L=5mm〜50mm)が好ましい。また、スリット間の間隔Xは、スリット幅Lの0.3倍〜3倍好ましくは0.5倍〜1.5倍(例えば、スリット幅L=20mmの場合、スリット間隔X=10mm〜30mm)が好ましい。
【0028】
一方、吸音材11の波形の山部の角度は0°〜90°の範囲、好ましくは45°±10°とすることが望ましい。
【0029】
このようにして形成された吸音材11は、バックドアトリム10の裏面に張設されるが、その固定は、超音波溶着,ホットメルト,両面接着テープ,粘着剤等による接着,クリップやフック等による掛着固定、等を選択的に用いることができる。
図1の符号Pはこの固定点を示している。
【0030】
図4〜
図6はバックドアトリム10に対する吸音材11の固定手段の一例を示している。
【0031】
図4に示す例では吸音材11の波形進行方向の両端縁部を、バックドアトリム10の前記固定点Pに対応した位置に突設したリブ片14で係止固定し、場合によって超音波溶着を併用して固定している。
【0032】
図5に示す例では上述のリブ片14に替えてフック片15により吸音材11の端縁をしっかりと抱持して掛着固定している。
【0033】
図6に示す例ではバックドアトリム10の前記固定点Pに対応した位置に突設したピン16と、吸音材11に設けた係止孔17との係着による固定とし、場合によってピン16の突出端を超音波溶着によりかしめ固定するようにしている。
【0034】
図7はこのような吸音材11の固定と併せて、吸音材11の波形の山部の沈み込み変形を防止するようにした例を示している。
【0035】
図示する例ではバックドアトリム10の前記吸音材11の波形の山部の頂部に対応する位置にリブ突起18を突設し、該山部の頂部をリブ突起18により背面側から支えてその沈み込み変形を防止している。
【0036】
なお、このリブ突起18に替えて別体の短冊片を山部頂部とバックドアトリム10との間に嵌入固定するようにして、構造の簡素化を図ることもできる。
【0037】
以上の構成からなる本実施形態によれば、吸音材11を波形状に形成することと併せて、その波形の各山部の斜面に該山部の長さ方向に所要の間隔をおいて複数の切り起こし片13を内側に向けて形成することにより、該吸音材11の音を吸収する表面積を増大することができる。
【0038】
また、吸音材11とバックドアトリム10との間に波形に対応したボリュームの背後空気層Sが形成され、中低域側の吸音性能を向上できる。
【0039】
この結果、吸音材11の厚みを増大したり、バックドアトリム10の裏面の限られた面内で吸音材敷設面積を増大したり、あるいは高価な吸音素材を使用しなくても高い吸音性能が得られ、バックドアトリム10の吸音効果を高めることができる。
【0040】
また、切り起こし片13の形成により広がったスリット12を通過してバックドアトリム10の裏面で反射した騒音を波形の山部の裏面側で吸収させることができるので、吸音性能をより一層高めることができる。
【0041】
このように本実施形態では、吸音材11を波形状に形成することで表面積を増大できる。また、波形の各山部の斜面に複数の切り起こし片13を形成することによって広がったスリット12の開口を通して吸音材11の表裏面、および該切り起こし片13の表裏面を吸音層として使用することが可能となる。これによって、従来の吸音材を凌駕する吸音効果を発揮させることができる。
【0042】
これは、例えば本実施形態と同じ材料投入量,原反面積の同質材からなるシート状の吸音材と比較した場合、本実施形態では吸音性能を5%〜20%向上することが可能である。
【0043】
このことは、比較例と同じ吸音性能を得ようとした場合、本実施形態では重量および材料コストを10%〜20%削減することが可能である。
【0044】
前記実施形態では、吸音材11を上下方向に波形状に形成しているが、車幅方向に波形状に形成することも可能である。
【0045】
また、
図2、
図3では切り起こし片13が波形の谷部を基点にして山部の内側に向けて形成されて、バックドアトリム10の裏面に当接した状態として示しているが、離間状態にすれば該切り起こし片13の表裏面をより効果的に吸音層として使用することができる。
【0046】
同様の趣旨により、上述の切り起こし片13を波形の山部の外側に向けて形成し、あるいは、波形の山部の長さ方向に向けて切り起こし成形することも可能である。
【0047】
また、本実施形態では吸音材11をバックドアトリム10に設けているが、ドアインナパネル3面に配設することも可能である。
【0048】
なお、トリム材として前述のバックドアトリムの他、サイドドアトリムやリアサイドトリム、あるいはルーフトリムなどにも適用できることは勿論である。