(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353714
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ナトリウム二次電池用正極活物質、及びナトリウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20180625BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20180625BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20180625BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20180625BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20180625BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20180625BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/054
H01M10/0566
H01M10/0562
H01M10/36 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-130137(P2014-130137)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2016-9615(P2016-9615A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
【審査官】
近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/077781(WO,A1)
【文献】
特開2005−332691(JP,A)
【文献】
特表2015−536890(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0333325(US,A1)
【文献】
Chem.Mater.,2015年 9月 1日,27,p.6682−6688
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 10/054
H01M 10/0562
H01M 10/0566
H01M 10/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がNa2Ni(1-x)FexO2(0≦x≦0.6)である
ことを特徴とするナトリウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
一般式がNa2Ni(1-x)MnxO2(0≦x≦0.2)である
ことを特徴とするナトリウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナトリウム二次電池用正極活物質を備えたナトリウム二次電池。
【請求項4】
請求項3に記載のナトリウム二次電池であって、
有機溶媒を電解質として構成されることを特徴とするナトリウム二次電池。
【請求項5】
請求項3に記載のナトリウム二次電池であって、
水溶液を電解質として構成されることを特徴とするナトリウム二次電池。
【請求項6】
請求項3に記載のナトリウム二次電池であって、
ナトリウム伝導体である固体電解質を電解質として構成されることを特徴とするナトリウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム二次電池用正極活物質、及びナトリウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、携帯情報端末、定置型蓄電設備などでは、高容量の二次電池が利用される。現在、二次電池の主流はリチウム二次電池であるが、その正極活物質としてはLiCoO
2、LiMn
2O
4などが知られている。
【0003】
しかしこれらの物質の主要な組成であるリチウムは、地球上における存在量としては豊富であるが、その多くは海水中に存在しており、しかもリチウムの採取が産業として経済的に成り立つ地域は、リチウムを多く含んだ塩湖が存在する、政治的に不安定な南米の一部の地域に集中しており、今後の電池の世界的な需要拡大に伴い供給不安や価格高騰が懸念されている。
【0004】
こうした背景の下、近年、電極活物質としてナトリウムを用いたナトリウム二次電池が注目されており、活発に研究開発が行われている。ナトリウム二次電池は、負極集電体としてレアメタルを用いるリチウム二次電池と異なり、正極と同じアルミニウムを使用することができるため、電池の軽量化や低コスト化も期待されている。
【0005】
ナトリウム二次電池に関し、例えば、特許文献1には、ナトリウム二次電池の放電容量の向上等を目的として、電極活物質を、NaおよびM
1(ここで、M
1は遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表す。)をNa:M
1のモル比でx:1(ここで、xは2以上5以下の範囲の値である。)となるように含む原料が焼成されてなる金属酸化物を含有する構成とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−40311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現状、リチウム二次電池といえどもエネルギー密度は十分ではなく、スマートフォン等の小型モバイル用から電気自動車等の大型機器に至るまで、様々な分野において二次電池の高容量化が切望されている。また既存の正極活物質と同等以上の容量を有する二次電池を実現するには、正極活物質を4V以上の電圧で作動させる必要があるが、その場合、有機電解液等の分解に伴うサイクル性能の劣化を防ぐことが課題となる。
【0008】
本発明は、高容量のナトリウム二次電池を実現するための正極活物質、及びこれを用いたナトリウム二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、上記ナトリウム二次電池用正極活物質であって、前記一般式がNa
2Ni
(1-x)Fe
xO
2(0≦x≦0.6)であることとする。
【0011】
本発明のうちの他の一つは、上記ナトリウム二次電池用正極活物質であって、前記一般式がNa
2Ni
(1-x)Mn
xO
2 (0≦x≦0.2)であることとする。
【0012】
本発明のうちの他の一つは、上記ナトリウム二次電池用正極活物質を備えたナトリウム二次電池であることとする。
【0013】
上記ナトリウム二次電池は、例えば、有機溶媒を電解質として構成される。
【0014】
また、上記ナトリウム二次電池は、例えば、水溶液を電解質として構成される。
【0015】
また、上記ナトリウム二次電池は、例えば、ナトリウム伝導体である固体電解質を電解質として構成される。
【0016】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高容量のナトリウム二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】正極活物質としてLiMn
2O
4を用いたナトリウム二次電池について第一原理計算を行うことにより得た容量と起電力との関係を示すグラフである。
【
図2】正極活物質としてNa
2NiO
2を用いたナトリウム二次電池について第一原理計算を行うことにより得た容量と起電力との関係を示すグラフである。
【
図3】正極活物質としてNa
2Ni
0.5Fe
0.5O
2を用いたナトリウム二次電池について第一原理計算を行うことにより得た容量と起電力との関係を示すグラフである。
【
図4】正極活物質としてNa
2Ni
0.5Mn
0.5O
2を用いたナトリウム二次電池について第一原理計算を行うことにより得た容量と起電力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
現状のリチウム二次電池の性能を凌駕するナトリウム二次電池を実現可能な正極活物質を見出すべく、本発明者らは、候補として選出した複数の正極活物質(Na
2NiO
2、Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2、及びNa
2Ni
0.5Mn
0.5O
2)について、夫々を正極活物質として用いた場合におけるナトリウム二次電池の容量と起電力との関係を第一原理計算により求めた。具体的には、第一原理計算により得られる主要な結果の一つである、計算対象とした系の全エネルギーを利用することにより、次の方法でナトリウム二次電池の容量と起電力との関係を求めた。
【0021】
まず二次電池の起電力は、充電状態と放電状態との間のギブス自由エネルギー差であるため、エントロピーを無視する近似の範囲で起電力を第一原理計算により評価することができる。例えば、リチウムイオン二次電池の起電力V(負極にリチウム金属を使用した場合)は、文献(G. Ceder et al., Electrochimica Acta 45 (1999) 131-150)によれば、
と表される。ここで
は、それぞれ正極、リチウム金属中の化学ポテンシャルであり、エントロピーを無視する近似の範囲で第一原理計算により求めることができる。
【0022】
ナトリウムイオン二次電池の場合もリチウムイオン二次電池の場合と同様であり、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質のNa/Na+電位に対する起電力V(負極にナトリウム金属を使用した場合)は、
で表すことができる。ここで
は、正極の化学ポテンシャルであり、
は、ナトリウム金属中の化学ポテンシャルである。このうち
は、エントロピーを無視する近似の範囲で第一原理計算によりナトリウム金属の1モル当たりのエネルギーとして求められる。
【0023】
は、正極中のナトリウムの量に依存するが、例えば、計算対象にn個のナトリウムを含む場合における全エネルギーをE(n)とすると、nがn1個からn2個に変化する場合の平均の化学ポテンシャルは、
と表わすことができる。つまり第一原理計算によりE(n)を求めることで、nがn1個からn2個に変化する場合における平均の化学ポテンシャルを求めることができる。
【0024】
尚、本実施形態では、第一原理計算における解析プログラムとして、全エネルギーの計算において信頼性が確認されている、文献(A. Kato et al., J. Cond. Matt. 21 (2009)205801)に記載されているプログラムを用いた。
【0025】
<第一原理計算の信頼性の検証>
まずLiMn
2O
4を正極活物質として用いたリチウム二次電池について第一原理計算を行い、容量[mAh/g]と起電力[V]との関係(容量発現時の電位(vs Na/Na
+)))を求め、第一原理計算の信頼性を検証した。
【0026】
図1にLiMn
2O
4を正極活物質とするリチウム二次電池について行った第一原理計算の結果を示す。同図に示すように、有機電解液の酸化分解が懸念される電位である4V(vs Li/Li
+)以下において約100[mAh/g]の容量が得られている。ここでLiMn
2O
4は、平均作動電位(3.8[V])において容量が110[mAh/g]であることが知られているが、これは上記第一原理計算の結果とほぼ一致しており、第一原理計算の信頼性が十分に高いことが検証された。
【0027】
<ナトリウム二次電池用正極活物質の候補の検証>
続いて、候補として選出した3つの正極活物質(Na
2NiO
2、Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2、及びNa
2Ni
0.5Mn
0.5O
2)の夫々について、夫々を用いて構成したナトリウム二次電池の特性(容量[mAh/g]と起電力[V]との関係(容量発現時の電位(vs Na/Na
+)))を第一原理計算により求めた。以下、各正極活物質について順に説明する。
【0028】
(1)Na
2NiO
2
図2はNa
2NiO
2を正極活物質とするナトリウム二次電池について行った第一原理計算の結果である。ここでリチウム二次電池の正極活物質として用いた場合に比較的高い容量を示すことが知られているLiCoO
2は、平均作動電位3.7V(vs Li/Li+)において約150[mAh/g]の容量を示す。このため、このエネルギー密度(560[mWh/g])を凌駕するには、Na
2NiO
2(分子量136.7)の平均作動電位を3.5V(vs Na/Na+(0.3V vs Li/Li+))とした場合、例えば、160[mAh/g]の容量を実現できればよく、Na
2NiO
2の化学式あたり0.8個のナトリウムが容量として寄与すればよいことになる。
【0029】
同図に示すように、有機電解液の酸化分解の懸念の少ない4[V]以下(平均作動電位は3.5V程度)において約200[mAh/g]程度の容量が得られており、Na
2NiO
2は、正極活物質として、LiCoO
2やNaCrO
2(容量110[mAh/g])等の既存の正極活物質の性能を十分に凌駕する性能を有していることがわかる。また化学式(Na
2NiO
2)当たり1個のナトリウムが寄与するとした場合の理論容量は196[mAh/g]であるので、化学式当たりほぼ1個のナトリウムがレドックス反応に寄与していることがわかる。
【0030】
また1個のナトリウムが充電時にNa
2NiO
2の結晶から脱離する際は同等量のナトリウム(1化学式あたり1個のナトリウム)が結晶中に残存するので、Na
2NiO
2は、LiCoO
2と同様、優れた結晶安定性を示し、サイクル特性の向上にも貢献すると考えられる。ちなみにLiCoO
2などの層状化合物では、理論容量の6割程度の容量しか発現しない。これはリチウムをレドックス反応に用いると、結晶構造の骨格自体が変化してしまうことが原因と考えられる。
【0031】
(2)Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2
図3はNa
2Ni
0.5Fe
0.5O
2を正極活物質とするナトリウム二次電池の第一原理計算の結果である。同図に示すように、有機電解液の酸化分解の懸念の少ない4[V]以下において約200[mAh/g]程度の容量が得られており、Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2は、正極活物質として、LiCoO
2等の既存の正極活物質の性能を十分に凌駕する性能を有していることがわかる。またNa
2NiO
2と同様に、化学式(Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2)当たりほぼ1個のナトリウムがレドックス反応に寄与していることがわかる。
【0032】
尚、一般式Na
2Ni
(1-x)Fe
xO
2で表される物質において、鉄は通常、+2価で存在し、また+4価にはなりにくいので、+2価⇔+3価の1電子レドックス反応を示すが、鉄の価数変化による作動電位が2.4V(vs Na/Na+)であるためエネルギー密度は低下する(同図において、充電初期の電位が平均で2.4V程度となっているが、これは鉄の+2価⇔+3価の反応によるものであると考えられる。)。ここで一般式Na
2Ni
(1-x)Fe
xO
2で表される活物質におけるエネルギー密度は、化学式当たり1個のナトリウムがレドックス反応に寄与するとすれば、196×(2.4×x+3.5×(1−x))[mWh/g]となる。上式から、既存のLiCoO
2のエネルギー密度である560[mWh/g]を凌駕するには0≦x≦0.6が条件となることがわかる。
【0033】
(3)Na
2Ni
0.5Mn
0.5O
2
図4はNa
2Ni
0.5Mn
0.5O
2を正極活物質とするナトリウム二次電池の第一原理計算の結果である。同図に示すように、有機電解液の酸化分解の懸念の少ない4[V]以下において約100[mAh/g]程度の容量となっている。これは化学式当たり0.5個分(98[mAh/g])のナトリウムしか容量に寄与していないことを示しており、Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2と比べてマンガンがレドックス反応において不活性であることがわかる。ここで一般式Na
2Ni
(1-x)Mn
xO
2で表される正極活物質のエネルギー密度は、196×3.5×(1−x)[mWh/g]となる。上式から、既存のLiCoO
2のエネルギー密度である560[mWh/g]を凌駕するには0≦x≦0.2が条件となることがわかる。
【0034】
<総括>
以上のように、Na
2NiO
2を正極活物質とすることで、既存の正極活物質を十分に凌駕する性能を有するナトリウム二次電池を実現できることがわかった。またNa
2NiO
2を正極活物質とすることで、LiCoO
2と同様に優れた結晶安定性が得られ、サイクル特性の向上を期待できることがわかった。
【0035】
尚、Na
2NiO
2は、遷移金属とキャリアイオンの比が、LiCoO
2と比較して2倍、LiMn
2O
4と比較して4倍であるので理論的にも高容量化が期待できる。
【0036】
また遷移金属としてニッケルのように複数の価数状態をとることが可能な(多電子反応が可能な)元素を選択することにより、複数のナトリウムを寄与させてナトリウム二次電池のさらなる高容量化を期待することができる。
【0037】
また一般式がNa
2Ni
(1-x)X
xO
2(Xは、Fe、及びMnのうちの少なくともいずれか)で表される物質や、Na
2Ni
(1-x)Fe
xO
2(0≦x≦0.6)で表される物質、或いは一般式がNa
2Ni
(1-x)Mn
xO
2(0≦x≦0.2)で表される物質を正極活物質として用いることにより、高容量のナトリウム二次電池を実現可能であることを確認することができた。
【0038】
ところで、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
101 LiMn
2O
4の容量−電位特性グラフ、
102 Na
2NiO
2の容量−電位特性グラフ、
103 Na
2Ni
0.5Fe
0.5O
2の容量−電位特性グラフ、
104 Na
2Ni
0.5Mn
0.5O
2の容量−電位特性グラフ、