特許第6353733号(P6353733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許6353733コンクリート内の鋼材の防食機能を有したスペーサー部材およびその設置方法
<>
  • 特許6353733-コンクリート内の鋼材の防食機能を有したスペーサー部材およびその設置方法 図000003
  • 特許6353733-コンクリート内の鋼材の防食機能を有したスペーサー部材およびその設置方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353733
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】コンクリート内の鋼材の防食機能を有したスペーサー部材およびその設置方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/10 20060101AFI20180625BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20180625BHJP
   E04C 5/18 20060101ALI20180625BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C23F13/10 A
   E04B1/92
   E04C5/18 104
   C23F13/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-158939(P2014-158939)
(22)【出願日】2014年8月4日
(65)【公開番号】特開2016-35095(P2016-35095A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】上村 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−511581(JP,A)
【文献】 特開2006−336394(JP,A)
【文献】 特開2000−265619(JP,A)
【文献】 特開2009−097049(JP,A)
【文献】 特表2002−536544(JP,A)
【文献】 特開2003−129671(JP,A)
【文献】 特開2003−129262(JP,A)
【文献】 特開2011−184744(JP,A)
【文献】 特開2011−127158(JP,A)
【文献】 特開2011−127157(JP,A)
【文献】 特開2003−160885(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0238347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00−13/22
E04B 1/62−1/99
E04C 5/00−5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート内に設置し、コンクリート内の鋼材の位置を適切にするために配置するスペーサー部材において、スペーサーブロック部材を構成する金属が亜鉛アルミニウム合金であり、コンクリート内の鋼材とスペーサーブロック部材を構成する金属が電気的に接続されており、金属の周りに金属表面の不動態被膜の生成を避けるのに充分なpHを持った電解質溶液を含有する多孔性材料を付設し、前記多孔性材料に1種類以上のアルカリ・シリカ反応抑制剤が含まれることを特徴とする鋼材のスペーサー部材。
【請求項2】
コンクリート内の鋼材とスペーサーブロック部材を構成する金属の電気的接続において、金属部分と接合されたワイヤーを用いる請求項1に記載の鋼材のスペーサー部材。
【請求項3】
前記アルカリ・シリカ反応抑制剤がリチウムイオンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材のスペーサー部材。
【請求項4】
金属部分と接合されたワイヤーをコンクリート内の鋼材に巻き付け、コンクリート内の鋼材とスペーサー部材を固定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材のスペーサー部材の設置方法。
【請求項5】
求項1〜のいずれか1項に記載の鋼材のスペーサー部材をコンクリート内に設置し、電気化学的防食機能を付与してなる、鉄筋と型枠の間、鉄筋と鉄筋の間、および既存コンクリートと鉄筋の間の所定空間の保持方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材のスペーサー部材を設置したコンクリート内の鋼材の自然電位の測定方法であって、コンクリート内の鋼材のスペーサー部材を設置した面と反対側の面を測定点とし、照合電極を用い、自然電位を測定することを特徴とするコンクリート内の鋼材の自然電位の測定方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材のスペーサー部材を設置したコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物を作る際に鉄筋と型枠の間、鉄筋と鉄筋の間、および既存コンクリートと鉄筋の間に所定の空間を保持するための鉄筋コンクリート用スペーサー部材に関するものであって、特に、鉄筋コンクリート構造物の内部に、該鋼材よりも標準電極電位の低い金属よりなるスペーサーブロック部材を含むスペーサー部材を設置し、コンクリート構造物内部の鋼材とスペーサーブロック部材を電気的に接続することにより、コンクリート内部の鋼材の腐食を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリート構造物は、コンクリートの中に鋼材を埋め込んで、外力に対してコンクリートと、その中の鋼材が一体となって働くものである。
【0003】
よって、鉄筋コンクリート構造物は、内部に埋め込まれた鋼材の配置は重要であり、鉄筋コンクリート用スペーサー部材は、鉄筋に取り付けて、鉄筋と型枠、鉄筋と鉄筋、および鉄筋と既存コンクリートとの距離を所定の長さに保ちコンクリートを打設することにより、健全な鉄筋コンクリート構造物を構築するために用いられる。
【0004】
さまざまな鉄筋コンクリート構造物に対応するために鉄筋コンクリート用スペーサー部材も目的によって多種多様なものが開発されている。そのような中、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の位置を保つことに加え、新たな付加価値が求められており、特許文献1,2等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−307548号公報
【特許文献2】特開2000−265619号公報
【0006】
しかしながら、鉄筋コンクリート用スペーサー部材は、鉄筋と共に、鉄筋コンクリート楮物の内部に設置されるが、近年、鉄筋コンクリート構造物の劣化が大きな課題となっている。
【0007】
コンクリート構造物の代表的な劣化要因としては、中性化、塩害、凍害、アルカリ骨材反応、化学的侵食、および疲労等を挙げることができる。
このようにコンクリート構造物の耐久性の課題は、コンクリートそのものの耐久性のみでなく、併用する鋼材の耐久性(耐腐食性)の課題であることも多い。
【0008】
コンクリート内の鋼材は、鋼材全体が、強アルカリ性のコンクリートで覆われるため、鋼材表面に不導体被膜を形成し、耐久性(耐腐食性)が向上する。しかしながら、鋼材がスペーサー部材等の強アルカリ性を呈さない材料と接した部分においては、不導体被膜が形成されない。
【0009】
特に、コンクリート内部の鋼材の腐食は、コンクリートの中性化、コンクリートに含まれる塩分、並びに、外部からコンクリートに浸入してくる塩化物イオン、硫化物イオン、及び窒化物イオンなどの影響で、立地環境によっては比較的短期間で進行する場合がある。
【0010】
さらには、前記の理由等により、コンクリート構造物の一部を部分的に補修した場合では、既設部の鋼材がアノード、補修部の鋼材がカソードとなり、新たにマクロセル腐食を生ずる場合がある等の課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、コンクリート内部の鋼材を確実に防食することが可能となる、スペーサー部材およびその設置方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)鉄筋コンクリート内に設置し、コンクリート内の鋼材の位置を適切にするために配置するスペーサー部材において、スペーサーブロック部材を構成する金属が亜鉛アルミニウム合金であり、コンクリート内の鋼材とスペーサーブロック部材を構成する金属が電気的に接続されており、金属の周りに金属表面の不動態被膜の生成を避けるのに充分なpHを持った電解質溶液を含有する多孔性材料を付設し、前記多孔性材料に1種類以上のアルカリ・シリカ反応抑制剤が含まれることを特徴とする鋼材のスペーサー部材
(2)コンクリート内の鋼材とスペーサーブロック部材を構成する金属の電気的接続において、金属部分と接合されたワイヤーを用いる前記(1)の鋼材のスペーサー部材
(3)前記アルカリ・シリカ反応抑制剤がリチウムイオンを含む前記(1)又は(2)の鋼材のスペーサー部材
(4)金属部分と接合されたワイヤーをコンクリート内の鋼材に巻き付け、コンクリート内の鋼材とスペーサー部材を固定する前記(1)〜(3)のいずれかの鋼材のスペーサー部材の設置方法
(5)前記(1)〜(3)のいずれかの鋼材のスペーサー部材をコンクリート内に設置し、電気化学的防食機能を付与してなる、鉄筋と型枠の間、鉄筋と鉄筋の間、および既存コンクリートと鉄筋の間の所定空間の保持方法
(6)前記(1)〜(3)のいずれかの鋼材のスペーサー部材を設置したコンクリート内の鋼材の自然電位の測定方法であって、コンクリート内の鋼材のスペーサー部材を設置した面と反対側の面を測定点とし、照合電極を用い、自然電位を測定することを特徴とするコンクリート内の鋼材の自然電位の測定方法。
(7)前記(1)〜(3)のいずれか鋼材のスペーサー部材を設置したコンクリート構造物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼材のスペーサーブロック部材を設置することによって、コンクリート内部の鋼材を確実に防食することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】自然電位測定図
図2】電解質溶液を含有する多孔性材料と鋼材のスペーサー部材の外観図
【符号の説明】
【0015】
1:スペーサー部材
2:鋼材(みがき鋼棒)
3:コンクリート
4:照合電極
5:リード線
6:多孔性材料
7:スペーサーブロック部材
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
また、本発明におけるコンクリートとは、モルタルを含む場合もある。
【0017】
本発明の鋼材のスペーサー部材は、スペーサーとしての機能のみならず、コンクリート内部の鋼材を陰極とし、コンクリート内部に設置したスペーサーブロック部材を構成する金属を陽極として、両者を電気的に接続することにより、この陰極−陽極間に電気を流し、コンクリート内部の鋼材を防食するものである。
本発明の鋼材のスペーサー部材は、鉄筋と型枠の間、鉄筋と鉄筋の間、および既存コンクリートと鉄筋の間に所定空間を保持する機能を持つ。スペーサー部材の形状や大きさは、保持したい所定空間により任意に調整することが可能であり、特に限定されないが、通常、数mm〜数100mmである。
【0018】
本発明の鋼材のスペーサーブロック部材を構成する金属とは、亜鉛、アルミニウム、カドミウム、マグネシウムの内、1種又は2種以上含む合金がげられるが、亜鉛アルミニウム合金が好ましい。
【0019】
本発明の鋼材のスペーサーブロック部材を構成する金属の不動態化を避けるため、金属の周りの全てまたは一部は適当な高いpHが維持されなければならない。亜鉛−アルミニウム合金の場合には適当なpH値は13.3以上であるが、他の材料の場合には、その材料の不動態化を避けるのに十分高いpHが必要である。
【0020】
しかしながら、スペーサーブロック部材を構成する金属に付設された多孔性材料に含有する電解質溶液のpHが高いため、多孔性材料に隣接するコンクリート部分でアルカリ・シリカ反応が懸念されることから、多孔性材料に含有する電解質溶液に少なくとも1種類のアルカリ・シリカ反応抑制剤の存在することが好ましい。
【0021】
アルカリ・シリカ反応抑制剤は、電解質溶液のpHの低下を抑制するためにはリチウムイオンが好ましく、水酸化リチウムの形態で添加することがさらに好ましい。
【0022】
鋼材とスペーサーブロック部材を電気的に接続する方法は、スペーサーブロック部材を構成する金属と鋼材が電気的に導通されていればよく特に限定されるものではないが、鉄等の金属線の一部を金属内に埋め込み、埋め込まれていない部分を、鋼材等に巻き付ける方法が実用上簡便である。
【0023】
本発明では、コンクリート構造物の中に、スペーサー部材を設置し、鋼材とスペーサーブロック部材に電気的な接続を施した後、コンクリートを打設しスペーサー部材を埋め込む形でコンクリート構造物を構築するか、または、スペーサーブロック部材の金属表面を不動態被膜の生成を避けるのに充分なpHを持った電解質溶液を含有する多孔性材料で覆った後、スペーサーブロック部材と鋼材を電気的な接続をし、コンクリートを打設し、スペーサー部材を埋め込む形でコンクリート構造物を構築することによって、スペーサーブロック部材と鋼材間に防食電流が流れ、コンクリート内の鋼材が防食される。
【0024】
本発明では、自然電位を測定することで、効果を確認することができる。
すなわち、コンクリート内部の鋼材に、それより標準電極電位の低い金属を電気的に接続すると、コンクリート内部の鋼材自体の自然電位が低くなる。そのため、自然電位を測定することで、その数値から、陽極電極層の有効性が判断できる。
自然電位の測定は、コンクリート内部の鋼材のスペーサー部材を設置した面と反対側の面を測定点とし、銅照合電極を用い測定する。このときスペーサーブロック部材と鋼材の接続を切り離せるようにしておき、接続を切り離した直後のインスタントオフ電位と24時間経過後の電位(24時間後オフ電位)を測定し、これらの差から復極量を算出する。復極量が大きいほど鋼材を防食する効果が大きい。
【0025】
ここで、鉛照合電極により測定した電位Em(mV)は、以下により飽和硫酸銅電極基準の値に換算される。
Ecse=Em−800
Ecse :飽和硫酸銅電極基準換算値鉛(mV)
Em :照合電極で測定した値(mV)
復極量(mV)=[Eio(mV)]−[Eof(mV)]
Eio :インスタントオフ電位
Eof :24時間後、オフ電位
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明する。なお、実験例1(実施例1)、実験例2(実施例2)は、参考例である。
【0027】
「実験例1」
図1に実験に用いた試験体の概要を示す。100×100×500mmの直方体のコンクリートの試験体において、亜鉛の周りに金属表面の不動態被膜の生成を避けるのに充分なpHを持った電解質溶液を含有する多孔性材料を付設した幅40mm×長さ60mm×厚さ40mmスペーサー部材1を直方体の長辺の端部に設置し、100×100の面に垂直となるように、長さ400mmのD19みがき丸鋼2を配置し、成形体を作製した。鋼材およびスペーサーブロック部材からリード線5を配し、鋼材とスペーサーブロック部材の電気的接続は試験体の外で行い、任意にon−off動作を出来るようにした。
図2に実験に用いたスペーサー部材1の構成を示す。スペーサーブロック部材7(亜鉛)の周りに、亜鉛表面の不動態被膜の生成を避けるのに充分なpHを持った電解質溶液を含有する多孔性材料6を付設した。また、スペーサーブロック部材7と電気的接続されたワイヤーを設置している。
作製した成形体に使用したコンクリート3は、1m当たり10kgの塩素イオンを含有させ、鋼材腐食環境下のコンクリート構造物を模したコンクリートの試験体を作製した。
試験体は3日水中、4日乾燥の乾湿繰り返し養生とした。
コンクリート内部のスペーサー部材1を設置した面で鉄筋の中心に相当する点を測定点とし、銅照合電極4を用い測定した。また、インスタントオフ電位と通電を停止してから24時間後のオフ電位を測定し復極量を算出した。自然電位測定結果を表1に示す(実施例1)。
【0028】
「実験例2」
スペーサーブロック部材7の金属が、亜鉛/アルミニウムの比が1/1である亜鉛アルミニウム合金であること以外は、実験例1と同様の試験体を作製し、測定を行った。自然電位測定結果を表1に示す(実施例2)。
【0029】
「実験例3」
アルカリ・シリカ反応抑制剤(ゼオライト系アルカリ・シリカ反応抑制剤(水沢化学工業社製、商品名アルカット))を多孔性材料に含有(質量比で多孔性材料の5%)させたこと以外は、実験例2と同様の試験体を作製し、測定を行った。自然電位測定結果を表1に示す(実施例3)。
【0030】
「実験例4」
試験体のスペーサーブロック部材7を取り付けないこと以外は、実験例1と同様の試験体を作製し、測定を行った(比較例1)。自然電位測定結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
本発明のスペーサーブロック部材を使用することにより、コンクリート構造物の鋼材に、安定で、かつ均質な防食電流を得ることができるので、主に、土木・建築業界等における、海洋構造物や護岸構造物等のコンクリート構造物の高耐久化の用途に適する。
図1
図2