(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一収容体と前記第二収容体と前記樹脂被覆部とは、互いに熱膨張係数が等しい樹脂材料からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のトランスボビンアッシー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスの絶縁状態を長期間好適に維持するために、電気絶縁性部材を多重化することが考えられる。たとえば、特許文献1に記載されたトランスに対して、このトランスの一次側コイル及び二次側コイルを絶縁ボビンに収容して組み立てられた組立体の外面をさらにモールド樹脂でオーバーモールドすることが考えられる。しかしながら、組立体の外面の全てに対してオーバーモールドをする場合、モールド樹脂が組立体の外面の全体に行き渡るように隙間を有する成形型が必要となり、オーバーモールドのための成形型の構造及びモールド形成工程が複雑である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、モールド樹脂を行き渡らせるための複雑な成形型を必要とせずに二重の絶縁が外面に施されたトランスボビンアッシー、及び、複雑な成形型を必要とせずに二重の絶縁を構成可能なトランスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明のトランスボビンアッシーは、軸方向に並べて配される一次側コイル及び二次側コイルと、前記一次側コイル及び前記二次側コイルの少なくとも一部を内部に収容可能な電気絶縁性の第一収容体と、前記一次側コイル及び前記二次側コイルの少なくとも一部を内部に収容可能で前記第一収容体に係止可能な電気絶縁性の第二収容体と、前記第一収容体と前記第二収容体との外面に形成された電気絶縁性の樹脂被覆部と、前記一次側コイル及び前記二次側コイルと前記第一収容体又は第二収容体との間に位置するように前記第一収容体又は第二収容体の内部に配された電気絶縁性のインシュレータと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明のトランスの製造方法は、一次側コイル及び二次側コイルを内部に収容可能な電気絶縁性のカバーの内面の一部に電気絶縁性のインシュレータを配し、前記一次側コイル及び前記二次側コイルを軸方向に並べて組み立てた筒状の組立体の両端面の一方に前記インシュレータが接するように前記組立体を前記カバーの内部に収容し、前記カバーの外面のうち、前記組立体の両端面の他方,前記組立体の内周面,及び前記組立体の外周面を覆う部位に電気絶縁性の樹脂による被覆部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、一次側コイル及び二次側コイルが第一収容体及び第二収容体によって囲まれた状態にあり、第一収容体及び第二収容体によって一時側コイル及び二次側コイルからなる組立体全体が電気的に絶縁されている。さらに、一次側コイル及び二次側コイルの組立体と第一収容体又は第二収容体との間には、電気絶縁性のインシュレータが配されているので、インシュレータが配された部分は、第一収容体又は第二収容体とインシュレータとによって二重に絶縁されている。第一収容体の外面又は第二収容体の外面のうちインシュレータが配された部分を載置面として、第一収容体の外面及び第二収容体の外面にオーバーモールドを行うことで、載置面以外はモールド樹脂による樹脂被覆部が形成された状態となる。このとき、載置面以外は、第一収容体及び第二収容体と、樹脂被覆部とによって二重に絶縁されている。その結果、本発明によれば、載置面にモールド樹脂を行き渡らせるための複雑な成形型を必要とせずに二重の絶縁が外面に施されたトランスボビンアッシーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1〜
図6を参照して本発明の一実施形態について本実施形態のトランスボビンアッシー2を備えたトランス1を例として説明する。
図1に示すように、本実施形態のトランス1は、トランスボビンアッシー2と、トランスコア33とを備える。
【0011】
図1から
図3までに示すように、トランスボビンアッシー2は、互いに絶縁された状態で軸方向に並べて配される一次側コイル3及び二次側コイル14と、一次側コイル3及び二次側コイル14を覆うカバー22と、カバー22内に配されたインシュレータ31と、カバー22の一部を覆う樹脂被覆部32とを備えている。
【0012】
図3及び
図4に示すように、一次側コイル3は、第一コイル部4と、第二コイル部9とを備えている。第一コイル部4及び第二コイル部9は、直列又は並列となるように互いに接続される。
【0013】
第一コイル部4は、導電性板材からなり渦巻き状に巻き回された複数の巻線部(第一巻線部6,第二巻線部7)からなる第一巻回板部5と、第一巻線部6と第二巻線部7とを絶縁する絶縁プレート8とを有している。
【0014】
二つの巻線部6,7の端部同士が直列に接続されることで、二つの巻線部6,7は一続きの渦巻き状をなしている。第一コイル部4を構成する第一巻線部6と第二巻線部7との間に絶縁プレート8が設けられているため、第一巻線部6と第二巻線部7との接続部分を除き第一巻線部6と第二巻線部7との電気的な絶縁が図られている。
【0015】
第二コイル部9は、導電性板材からなり渦巻き状に巻き回された複数の巻線部(第一巻線部11,第二巻線部12)からなる第二巻回板部10と、第一巻線部11と第二巻線部12とを絶縁する絶縁プレート13とを有している。
【0016】
二つの巻線部11,12の端部同士が直列に接続されることで、二つの巻線部11,12は一続きの渦巻き状をなしている。第二コイル部9を構成する第一巻線部11と第二巻線部12との間に絶縁プレート13が設けられているため、第一巻線部11と第二巻線部12との接続部分を除き第一巻線部11と第二巻線部12との電気的な絶縁が図られている。
【0017】
一次側コイル3の各巻回板部5,10には、一次側コイル3を外部に接続するための端子となる二つの端子板部が形成されている。たとえば第一コイル部4と第二コイル部9とが直列に接続されている場合、第一巻回板部5の長手方向の一端に端子板部5A(
図2参照)が形成され、第二巻回板部10の長手方向の一端に端子板部10A(
図2参照)が形成されている。
【0018】
図3及び
図4に示すように、二次側コイル14は、第一コイル部4と第二コイル部9との間に配される。
二次側コイル14は、導電性板材からなり円環状に形成された二つのリング板部15,16と、リング板部15,16に取り付けられた絶縁ケース部18とを備える。
【0019】
各リング板部15,16は、一周よりも若干短く形成され、平面視C字状を呈している。二つのリング板部15,16の端部同士は、二次側コイル14が二周よりも若干短い渦巻き状となるように、溶接等により互いに接続されている。二次側コイル14の二つのリング板部15,16には、二次側コイル14を外部に接続するための端子となる三つの端子板部17A,17B,17Cが形成されている(
図2参照)。端子板部17A,17Bは、一方のリング板部15の長手方向の両端に形成されている。残りの一つの端子板部17Cは、他方のリング板部16の長手方向の一端に形成されている。
【0020】
絶縁ケース部18は、二つのリング板部15,16を互いに絶縁するための電気絶縁性部材からなる中間プレート19と、二つのリング部材15,16を一次側コイル3に対して絶縁するための電気絶縁性部材からなる一対の外装プレート20,21とを有している。
【0021】
絶縁ケース部18と第一コイル部4との間には、一次側コイル3と二次側コイル14とを二重に絶縁するための絶縁シート20Aが設けられている。同様に、絶縁ケース部18と第二コイル部9との間には、一次側コイル3と二次側コイル14とを二重に絶縁するための絶縁シート21Aが設けられている。
【0022】
図3及び
図4に示すように、カバー22は、一次側コイル3及び二次側コイル14が軸方向に並べて組み立てられた筒状の組立体2Aを内部に収容することができる電気絶縁性部材である。カバー22は、電気絶縁性の第一収容体23と、電気絶縁性の第二収容体27とを有している。第一収容体23及び第二収容体27は互いに熱膨張係数が同じとなるように、例えば同じ材料からなる。
【0023】
第一収容体23は、環状の第一底板部24と、第一底板部24の外周から第一底板部24に対して垂直に延びる第一外周筒部25と、第一底板部24の内周から第一底板部24に対して垂直に延びる第一内周筒部26とを有している。
【0024】
第一外周筒部25は、組立体2Aの外周に沿う筒状形状をなし、第一底板部24に繋がっている。第一外周筒部25の軸方向において第一底板部24との境界をなす端と反対側の端には、第二外周筒部29に接続するための段部25aが形成されている。
【0025】
第一内周筒部26は、組立体2Aの内周に沿う筒状形状をなし、第一底板部24に繋がっている。第一内周筒部26の軸方向において第一底板部24との境界をなす端と反対側の端には、第二内周筒部30に接続するための段部26aが形成されている。
【0026】
第一内周筒部26には、後述する第二収容体27の第二内周筒部30の一部(爪部30b)が入り込む凹部26bが形成されている。第一内周筒部26の凹部26bは、第一内周筒部26を貫通する貫通孔であってもよい。
【0027】
凹部26bは、第二収容体27の爪部30bが凹部26b内でカバー22の軸方向に進退可能となる程度に、第一収容体23の軸方向に長い。凹部26b内で爪部30bが進退移動可能な量は、トランス1の製造過程及び使用時における熱の影響による第一収容体23及び第二収容体27の膨張や収縮の量を考慮して設定される。このように、凹部26b内で爪部30bが移動可能であることにより、凹部26bに爪部30bが係止された状態でカバー22が熱により膨張したり収縮したりしても凹部26b又は爪部30bが破損しにくくなる。
【0028】
第二収容体27は、環状の第二底板部28と、第二底板部28の外周から第二底板部28に対して垂直に延びる第二外周筒部29と、第二底板部28の内周から第二底板部28に対して垂直に延びる第二内周筒部30とを有している。
【0029】
第二外周筒部29は、組立体2Aの外周に沿う筒状形状をなし、第二底板部28に繋がっている。第二外周筒部29の軸方向において第二底板部28との境界をなす端と反対側の端には、第一収容体23の第一外周筒部25に接続するための段部29aが形成されている。第一外周筒部25に形成された段部25aと第二外周筒部29に形成された段部29aとが組み合わされると、組立体2Aの外周はカバー22の外部に対して電気的に絶縁される。
【0030】
第二内周筒部30は、組立体2Aの内周に沿う筒状形状をなし、第二底板部28に繋がっている。第二内周筒部30の軸方向において第二底板部28との境界をなす端と反対側の端には、第一収容体23の第一内周筒部26に接続するための段部30aが形成されている。第二内周筒部30に形成された段部30aと第一内周筒部26に形成された段部26aとが組み合わされると、組立体2Aの内周はカバー22の外部に対して電気的に絶縁される。
第二内周筒部30には、第一収容体23の第一内周筒部26に形成された凹部26bに入り込んで凹部26bに係止される爪部30bが形成されている。第二内周筒部30に形成された段部30aと第一内周筒部26に形成された段部26aとが組み合わされた状態で第二内周筒部30の爪部30bが第一内周筒部26の凹部26bに入り込むことにより、爪部30bと凹部26bとによって、第二収容体27と第一収容体23とは互いに連結される。
【0031】
インシュレータ31は、第一底板部24の形状に倣い、第一底板部24と第一外周筒部25と第一内周筒部26とによって囲まれた空間内で第一底板部24に接する、電気絶縁性の環状部材である。
【0032】
樹脂被覆部32は、互いに連結された第一収容体23の外面と第二収容体27の外面とに形成された樹脂による被覆部である。樹脂被覆部32を構成する樹脂は電気絶縁性を有する。樹脂被覆部32は、第二収容体27の外面の全て、並びに第一外周筒部25の外周面25b及び第一内周筒部26の内周面26cに設けられている。樹脂被覆部32は、第一収容体23及び第二収容体27と熱膨張係数が互いに等しい(熱膨張係数が略等しい態様を含む)。
【0033】
図1に示すトランスコア33は、第一内周筒部26及び第二内周筒部30(
図3参照)内を通るようにトランスボビンアッシー2に挿通される軸部34と、軸部34と繋がり第一底板部24及び第二底板部28の外面24a,28a(
図3参照)に沿った方向に延びる一対のベース部35と、一対のベース部35に繋がり第一外周筒部25及び第二外周筒部29の外周側に配される外郭部36とを有している。軸部34,ベース部35,及び外郭部36は磁性体からなる。
【0034】
次に、本実施形態のトランスボビンアッシー2の製造方法について説明する。
まず、カバー22の内面のうち、第一収容体23の第一底板部24が位置する部位に、インシュレータ31を取り付ける(
図3及び
図5参照)。
続いて、一次側コイル3と二次側コイル14との組立体2Aを、一次側コイル3及び二次側コイル14が第一内周筒部26を囲む位置関係となるように、第一収容体23内に収容する。この状態では、組立体2Aの一部が第一収容体23からはみ出した状態となっている。続いて、第二内周筒部30が一次側コイル3及び二次側コイル14に挿入されるように、第二収容体27を組立体2Aに被せ、第二収容体27の爪部30bが第一収容体23の凹部26bに挿入されるまで第二収容体27を第一収容体23側へと押し込む。
【0035】
第二収容体27の爪部30bが第一収容体23の凹部26bに挿入されることによって第一収容体23と第二収容体27とは互いに連結され、第一内周筒部26と第二内周筒部30とは組立体2Aの内周部分をカバー22の外部に対して電気的に絶縁する。さらに、第一外周筒部25と第二外周筒部29とは組立体2Aの外周部分をカバー22の外部に対して電気的に絶縁する。
【0036】
第一底板部24,第二底板部28,第一外周筒部25,第二外周筒部29,第一内周筒部26,及び第二内周筒部30によって、組立体2Aの外面の全てが、カバー22の外部に対して電気的に絶縁される。さらにこのとき、第一底板部24と組立体2Aとの間にインシュレータ31が配されているので、組立体2Aの軸方向の両端面のうちインシュレータ31側に向けられた面2A1(
図3参照)は、インシュレータ31及び第一底板部24によって二重に絶縁されている。
【0037】
第一収容体23と第二収容体27とが連結されている状態では、一次側コイル3及び二次側コイル14は、カバー22の内部でカバー22により保持されている。このため、一次側コイル3と二次側コイル14との位置ずれが起こりにくい。
【0038】
カバー22の内部に組立体2Aが収容された後、
図3に示すように、カバー22の外面のうち、第二底板部28の外面28aと、第一外周筒部25及び第二外周筒部29の外周面25b,29bと、第一内周筒部26及び第二内周筒部30の内周面26c,30cとに、絶縁性の樹脂からなる樹脂被覆部32を形成する。樹脂被覆部32を形成する工程では、
図6に示すように、第一底板部24の外面24aを載置面として、インサート成形のための成形型40に第一底板部24の外面24aが接した状態で、第一底板部24の外面24a(載置面)以外の面に絶縁性の樹脂の流動体32aを注入して硬化させる。絶縁性の樹脂の流動体32aは、成形型40内で硬化することで樹脂被覆部32となる。
【0039】
組立体2Aの外面のうちインシュレータ31側に向けられた面2A1以外の面は、樹脂被覆部32とカバー22とによって、二重に絶縁されている。
【0040】
このように、本実施形態では、カバー22、インシュレータ31、及び樹脂被覆部32によって、組立体2Aの外面は全て二重に絶縁されている。
【0041】
上記の製造方法を用いて製造されたトランスボビンアッシー2にトランスコア33を取り付けることにより、本実施形態のトランス1を製造することができる。本実施形態のトランス1の製造方法によれば、樹脂被覆部32を構成する絶縁性の樹脂の流動体(モールド樹脂)を第一底板部24の外面24aに注入する必要がないので、成形型40内でカバー22を浮かせて保持するような複雑な成形型40を必要としない。
また、本実施形態のトランスボビンアッシー2は、カバー22、インシュレータ31、及び樹脂被覆部32によって、組立体2Aが外部に対して二重に絶縁されるので、トランス1の電気絶縁性を長期間好適に維持できる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。