【実施例1】
【0027】
図1は実施例1の半導体装置1000のアクティブ領域における断面図の例を示す。実施例1は本発明を実施するための最小単位に近い構成である。実施例1のIGBTは、コレクタ電極101、pコレクタ層102(第1半導体層)、nバッファ層116(第9半導体層)、n
−基板103(半導体基板)、エミッタ電極104、トレンチ105、ゲート電極106、絶縁層107、ゲート絶縁層108、ダミートレンチ電極109、ダミートレンチ絶縁層110、及び第1領域、第2領域から構成される。第1領域はn
+ソース111(第2半導体層)、p
+コンタクト層112a(第3半導体層)、pベース層113a(第4半導体層)、nバリア層114(第5半導体層)を有する。第2領域はp
+コンタクト層112b(第6半導体層)、pベース層113b(第8半導体層)、n電界集中層115(第7半導体層)を有する。アクティブ領域は本図に示される1セルが周期的に配置されている。
【0028】
図1に示されるように、pコレクタ層102はn
−基板103の一方の表面に形成されている。コレクタ電極101はpコレクタ層102の表面上に形成されている。nバッファ層116はpコレクタ層102とn
−基板103の間に形成されている。エミッタ電極104はpコレクタ層102とは反対側のn
−基板103の表面に形成されている。第1領域と第2領域はエミッタ電極側のn
−基板103の表面に形成されており、第1領域と第2領域の間はトレンチ105で分離されている。第1領域内の表面にn
+ソース111とp
+コンタクト層112aが形成され、少なくとも一部がエミッタ電極と接している。n
+ソース111とp
+コンタクト層112aの下にpベース層113a、更にその下にnバリア層114が形成されている。第2領域内の表面にp
+コンタクト層112bが形成され、少なくとも一部がエミッタ電極と接している。p
+コンタクト層112bの下にpベース層113b、更にその下にnバリア層114よりキャリア濃度の高いn電界集中層115が形成されている。複数のトレンチ105の内、n
+ソース111に接しているトレンチの内壁に沿ってゲート絶縁層108が形成され、更にその内側にゲート電極106が形成されている。n
+ソース111に接していないトレンチの内壁に沿ってダミートレンチ絶縁層110が形成され、更にその内側にダミートレンチ電極109が形成されている。ダミートレンチ電極109は電気的にゲート電極と接続されていても良いし、エミッタ電極と接続されていても良い。あるいはゲート電極、エミッタ電極とは異なる電位に接続されていても良い。トレンチ105及びn
−基板103の少なくとも一部は絶縁層107に覆われている。
【0029】
実施例1の特徴は、第2領域にnバリア層114よりキャリア濃度の高いn電界集中層115を形成することで、寄生サイリスタの存在しない第2領域に電流集中が発生し、寄生サイリスタの存在する第1領域を流れる電流が減少することである。且つ、第2領域は第1領域とはトレンチで分離されているため、第2領域の電流集中によって第1領域がラッチアップすることを抑制することができる。その原理の詳細は以下に記される。
【0030】
n電界集中層115のキャリア濃度がnバリア層114より高くすることにより、ターンオフ動作中において第2領域のpベース層113bとn電界集中層からなるpn接合の電界が、第1領域のpベース層113aとnバリア層114からなるpn接合より高くなる。
図14、15で示されるようにセル間電流集中は相対的に電界の強い箇所に発生するため、n
+ソース111の無い(すなわちn
+ソース/pベース層/n
−基板/pコレクタ層からなる寄生サイリスタが存在しない)第2領域に電流集中が発生し、第1領域への電流集中とそれによる寄生サイリスタのラッチアップを抑制することができる。
【0031】
図9は一例として後述の実施例5の構成(断面模式図は
図7に示される)において計算したターンオフ波形を示す。実線は本発明のIGBTを示し、点線は特許文献4に示される従来のIGBTの波形を示す。
図9(c)はターンオフ中のチップ内最大温度を示す。本発明および従来のIGBTのラッチアップ開始時点が矢印で示されている。本発明は従来のIGBTより高い電流でターンオフしても電流が0Aまで低下しており、絶縁破壊していないことが確認されている。更に本発明のIGBTは、ラッチアップの開始が従来のIGBTより遅れるために、チップ内最大温度が低くなることが確認されている。
図10は
図9のt
2におけるチップ内部の電流密度分布の計算結果を示す。
図10(b)に示されるように、従来のIGBTにおいては1つのセルに電流が集中しているのに対し、本発明においてはセル間電流集中が複数の第2領域に発生しているために、第1領域の電流が分散していることが確認されている。以上のように本発明は、第2領域にセル間電流集中を発生させることによってラッチアップによる発熱を軽減し、ターンオフ時の破壊を抑制することができる。
【0032】
なお、
図1に示される構成例においては第2領域にpベース層113bを形成しているが、第2領域には必ずしもpベース層113bを形成しなくても良い。また、
図1はnバッファ層116を形成しているが、必ずしも形成しなくても良い。
【0033】
また、
図1は第2領域と第2領域を交互に配置しているが、本発明は
図1の配置に限定されるものではない。例えば第1領域または第2領域が1セル内に複数あっても良いし、各領域が部分的に連続で配置されていても良い。また、第1領域と第2領域はトレンチで間を区切られていれば良く、必ずしも隣接する必要は無い。
【0034】
ところで、本発明に一見、類似するかのように見える構成として、上述の通り、特許文献1及び特許文献2に記載の構成があるが、本発明とは解決すべき課題および作用・効果が全く異なる。また、本発明は上記の2つの構成の単なる組み合わせとは異なる。以下でそれについて詳細に述べる。
【0035】
図16は特許文献1に記載されている従来構造の断面図の一例を示す。
図16は特許文献1から引用しているが、本発明との違いを明確にするため、各部の名称、番号は元文献から変更している。特許文献1はオン電圧を下げるためにnバリア層を形成する構成をベースとし、更に以下に記すような特徴を有する。すなわち閾値電圧のバラツキを抑制するために、n
+ソース111の形成されているチャネル領域直下にキャリア濃度の低いnバリア層114が形成され、チャネル領域直下以外の領域にキャリア濃度の高い第2のnバリア層401が形成されている。
図16からも明らかなように、特許文献1は寄生サイリスタの存在する第1領域のみで構成されている。対して本発明は、セル間電流集中によるラッチアップを抑制するために、寄生サイリスタの無い第2領域を形成し、第1領域とトレンチで分離することを特徴としており、特許文献1とは目的と構成が異なる。
【0036】
更に本発明の一部の実施例において、上記とは別の顕著な違いを見ることができる。特許文献1に示される構造においてはn
+ソース111の下にキャリア濃度の低いnバリア層114が形成され、それ以外の領域にnバリア層114より高濃度の第2のnバリア層401が形成されるのに対し、例えば
図6に示されるような本発明の実施例4のIGBTでは第1領域内においてn
+ソース111の下にキャリア濃度の高い第2のnバリア層401が形成され、それ以外の領域に低濃度のnバリア層114が形成されている。すなわち、特許文献1とは真逆の構成になっている。
【0037】
図17は特許文献2に記載されている従来構造の断面図の一例を示す。
図17は特許文献2から引用しているが、本発明との違いを明確にするため、各部の名称、番号は元文献から変更している。特許文献2は短絡時の安全動作領域(Short Circuit Safe Operating Area:以下、SCSOA)およびRBSOAの改善に関するものである。本発明の対象もRBSOAの改善であり、広義な意味での目的は一部同じであるが、それを実現するための構成および原理が異なる。特許文献2はn
+ソース111の形成されるIGBT構造と、形成されないバイポーラ・トランジスタ(BJT)構造から構成される。このような構成により、n+ソース111の密度が減少し、全てがIGBT構造で形成された場合に比べて飽和電流が減少するためにSCSOAを向上することができる。また、特許文献2のRBSOA向上は、トレンチ底部に形成された浅いp層130によってトレンチ酸化物(本発明のゲート絶縁層108に相当)の電界を緩和することで実現される。対して本発明においては、セル間電流集中によるラッチアップを抑制することによってRBSOAの向上が実現されるため、原理が異なる。
【0038】
更に、特許文献2においてIGBT構造は本発明の第1領域に相当するが、BJT構造は本発明の第2領域とは明確に異なる。その違いは、本発明の第2領域には第1領域のnバリア層114よりキャリア濃度の高いn電界集中層115が形成されるのに対し、特許文献2のBJT構造には第1領域(IGBT構造)と同じnバリア層114が形成されることである。従って、特許文献2と本発明は構成においても異なる。
【0039】
図18aは、特許文献1に記載されている従来構造と、特許文献2に記載されている従来構造とを仮に組み合わせた場合に想定される構造を示す。
図16に示される構造の第1領域間に
図17に示されるBJT構造を挿入した構成である。
図18aに示される従来の組み合わせ構造と本発明との違いは
図18(b)に示されるような、
図18(a)におけるBB’断面のキャリア濃度から明らかになる。
図6(b)に示される本発明のキャリア濃度分布においては、第2領域のn電界集中層の濃度が第1領域のnバリア層114と第2のnバリア層401より高い。一方、
図18(b)に示される従来の組み合わせ構造においてはBJT構造と第1領域に同じ濃度を有する第2のnバリア層114が形成される。BJT構造と第1領域に濃度差がないため、
図18aの構成では本発明で実現されるような、第2領域にセル間電流集中を発生させることによるラッチアップの抑制と同等の効果を得ることができない。従って、特許文献1及び特許文献2に記載されている従来構造を互いに組み合わせても本発明には至らない。
【実施例2】
【0040】
図2は実施例2の半導体装置2000の断面の構成の例を示す。既に説明した
図1に示された符号と同一の機能を有する部分については説明を省略する。実施例3以降の説明についても同様とする。
【0041】
実施例2の特徴は1セル内に第1領域、第2領域とは別にフローティング領域を形成していることである。その他の特徴点については、上記実施例1と同様に構成するか、もしくは後述する実施例3以降の各実施例のように変形例として構成することが可能である。例えば、
図2に示す構成においては、フローティング領域にはトレンチ105間の全面にpウェル201(第10半導体層)が形成され、pウェル201とエミッタ電極104の間は絶縁層107で分離されているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、後述する
図7に示すように、pウェル201(第10半導体層)を有することを特に必須要件としない構成や、その他の変形例が可能である。このようにフローティング領域を形成することによってエミッタ開口部の幅W
1の1セル内に占める比率が小さくなり、オン状態で裏面から注入される正孔がエミッタ電極104に抜けにくくなる。それによりトレンチゲートを介したエミッタ電極104からの電子の注入効率を高くすることができ、オン電圧を低減することができる。
【0042】
上記のオン電圧低減効果を十分に発揮させるためには、エミッタ開口部の幅W
1とフローティング領域の幅W
2はW
1<W
2であることが望ましい。典型的にはW
1:W
2=1:2〜1:40である。
【0043】
実施例2は
図3に示される半導体装置2001のように、pウェル201の深さがトレンチ105より深くても良い。このような構成により、トレンチ下部周辺の電界を
図2に示される構造より緩和し、ゲート絶縁層108及びダミートレンチ絶縁層110の信頼性を向上する効果がある。
【0044】
実施例2のpウェル201は、
図4に示される半導体装置2002のように、トレンチから離れていてもよい。このような構成により、電力変換装置において対アームに接続したダイオードのリカバリー時に過電圧が低減する効果がある。その原理の詳細は特許文献3に記載されている。
【0045】
上記の通り、
図2〜4のいずれの実施態様も、第1領域とフローティング領域とが互いに隣接して形成された構成となっている。
【0046】
なお、本発明においては便宜上フローティング領域と呼称しているが、pウェル201は
図2〜4の紙面奥行き方向の一部において、エミッタ電極と抵抗を介して電気的に接続されていても良い。
【実施例5】
【0049】
図7は実施例5の半導体装置5000の断面の構成の例を示す。実施例5は上記実施例2〜4の変形例であり、その特徴は、上記実施例2〜4のフローティング領域に形成した幅広トレンチ501の内側にサイドウォールゲート502とフィールドプレート503が形成されていることである。その他の特徴点については、上記実施例1〜4と同様に構成することが可能である。例えば、
図7においては、特に第2領域とフローティング領域とが互いに隣接して形成された構成を示しているが、本実施例はこの構成に限定されるものではなく、例えば、上記実施例2のように、第1領域とフローティング領域とが互いに隣接して形成された構成(図示せず)をも含む。以下は上記実施例2〜4のいずれの態様の変形例であるかに関わらず共通に成り立つ事項である。すなわち、サイドウォールゲート502とフィールドプレート503は、通常はポリシリコンで形成される。サイドウォールゲート502と幅広トレンチ501の側壁及び下面の間にサイドウォールゲート絶縁層504が形成されている。サイドウォールゲート502とフィールドプレート503の間に、サイドウォールゲート絶縁層504より厚く、且つゲート絶縁層108より厚い第1層間絶縁層505が形成されている。フィールドプレート503とn
−基板103の間には第2層間絶縁層506が形成されている。後述のように、サイドウォールゲート絶縁層504、ゲート絶縁層108は、通常、同じ製造プロセスで形成されるため、両者はほぼ同じ厚みで形成される。このようにサイドウォールゲートの片側が厚い絶縁層で覆われているため、通常のトレンチゲートで形成した場合に比べて帰還容量が低減し、高速化により損失が低減する効果がある。
【0050】
更に、フィールドプレート503がサイドウォールゲート下部周辺の電界を緩和するため、サイドウォールゲート絶縁層504の信頼性を向上する効果がある。更に、ターンオン時のdV/dtの制御性を向上する効果がある。なお、その原理の詳細は特許文献4に記載されている。
【0051】
実施例5は
図7に示されるように、エミッタ電極104とp
+コンタクト層112a、112bの接触面の一部にコンタクト溝507が形成されていてもよい。
【0052】
実施例5のサイドウォールゲート502、またはフィールドプレート503は、電気的にエミッタ電極と接続されていてもよいし、ゲート電極と接続されていてもよい。あるいはゲート電極、エミッタ電極とは異なる電位に接続されていてもよい。
【0053】
図8a〜
図8iは実施例5の製造工程の一例を示す。実施例5のIGBTは
図8(a)に示される様に、シリコンのn
−基板103が用いられる。
図8(b)においてホトレジストがパターニングされ、エッチングによりトレンチ105と幅広トレンチ501が同時に形成される。
図8(c)において熱処理により50〜100nm程度の熱酸化膜が形成される。
図8(d)においてポリシリコンが堆積される。その後、ホトレジストのパターニングとエッチング工程によりポリシリコンが分割され、
図8(e)に示されるようなゲート電極106、サイドウォールゲート502、フィールドプレート503が形成される。
図8(f)において一般的なホトリソ工程、イオン注入、およびアニールによる不純物の活性化工程を複数回繰り返すことにより、n
+ソース111、pベース層113a、113b、nバリア層114、第2のnバリア層401、n電界集中層115が形成される。
図8(g)において酸化膜の堆積によって絶縁層107、第1層間絶縁層505が形成される。
図8(h)においてホトリソ工程の後、酸化膜とシリコンのエッチングによりコンタクト溝507が形成される。更にその後、イオン注入とアニールによりp
+コンタクト層112a、112bが形成される。
図8(i)においてエミッタ電極104が堆積され、エミッタ電極とは反対側のn
−基板表面にnバッファ層116とpコレクタ層102がイオン注入とアニールによって形成され、コレクタ電極101が堆積され、IGBTが完成する。
【0054】
実施例5は
図8(b)に示されるように、トレンチ105と幅広トレンチ501を同時に形成することによって、特許文献4に示される従来構造から工程数を大幅に増加させることなく製作することができる。