特許第6353806号(P6353806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353806
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート系樹脂発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/228 20060101AFI20180625BHJP
   C08J 9/16 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08J9/228CFD
   C08J9/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-69166(P2015-69166)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188320(P2016-188320A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年6月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】権藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】道畑 直起
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−182938(JP,A)
【文献】 特開平11−287277(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019057(WO,A1)
【文献】 特開平06−100724(JP,A)
【文献】 特開2016−151116(JP,A)
【文献】 特開2016−188341(JP,A)
【文献】 特開2016−188317(JP,A)
【文献】 特開2016−188321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
B29C 44/00−60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発泡粒子から構成される発泡成形体であって、
前記発泡粒子が、基材樹脂を含み、
前記基材樹脂が、ビスフェノールA由来成分を含むポリカーボネート樹脂のみからなり、
前記発泡成形体は、キャリアーガスとしてヘリウムを使用し、キャリアーガス流量を34mL/分とする条件下、反応試薬としての水酸化トリメチルアンモニウムにより前記ポリカーボネート系樹脂に含まれるエステル結合を加水分解させてメチルエーテル化させる反応を利用した反応熱分解GC/MS法により測定することで得られたリテンションタイムを横軸とするGC/MSチャートにおいて、290〜320の分子量に由来するピークを示し、
前記290〜320の分子量に由来するピークが、前記ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークのリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムで確認され、
前記ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークと前記290〜320の分子量に由来するピークとが、1:0.005〜0.04の面積比を有することを特徴とするポリカーボネート系樹脂発泡成形体。
【請求項2】
前記発泡成形体が、0.08g/cm3以下の密度を有する請求項に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂発泡成形体に関する。更に詳しくは、本発明は、発泡性、成形性及び外観の良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡成形体は、軽いことに加え、加工性及び形状保持性がよく、比較的強度も強いため、食品トレーや自動車用部材を始め、建材、土木資材、照明器具等のさまざまな分野で使用されている。特に耐熱性が要求されない場合にはポリスチレン系樹脂製の発泡成形体が用いられ、緩衝特性、回復性、柔軟性等が必要な場合にはポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂製の発泡成形体が用いられる傾向にある。
これらポリスチレン系樹脂及びオレフィン系樹脂よりも一般的に耐熱性が高い樹脂として、ポリカーボネート系樹脂がある。これは、乾燥地帯や熱帯地帯等の過酷な気候の場所でも利用可能な樹脂素材である。このポリカーボネート系樹脂は、耐熱性に優れているだけでなく、耐水性、電気特性、機械的強度、耐老化性及び耐薬品性にも優れている。そのため、ポリカーボネート系樹脂は、これまで建造物の内装材として用いられてきたが、近年その優れた特性を活用した自動車部材、包装材、各種容器等への用途展開も期待されている。
【0003】
ところで、ポリカーボネート系樹脂の発泡体の製法としては、例えば特許文献1(特開平9−076332号公報)のような押出発泡法がよく知られている。しかしながら、この方法で得られる発泡体は、ボード状であるため、単純な建材を得ることしかできなかった。従って、押出発泡法では、自動車部材のような複雑な形状をした発泡体を得ることは困難であった。
複雑な成形を可能にする方法としては、発泡粒子を金型内で発泡及び融着させる型内発泡成型法が知られている。この方法は、所望の形状に対応する空間を有する金型を用意し、その空間内に発泡粒子を充填し、加熱により発泡粒子を発泡及び融着させることで、複雑な形状を有する発泡成形体を得ることができる。ポリカーボネート系樹脂からなる発泡粒子から型内発泡成型法により発泡成形体を得る方法が、例えば、特許文献2(特開平6−100724号公報)、特許文献3(特開平11−287277号公報)、特許文献4(国際公開WO2011/019057号)に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−076332号公報
【特許文献2】特開平6−100724号公報
【特許文献3】特開平11−287277号公報
【特許文献4】国際公開WO2011/019057号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2、3及び4では、高発泡化させることが困難であることや成形性が劣ると共に、発泡成形体の外観が悪いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、上記課題を鑑み、使用するポリカーボネート系樹脂について検討した結果、反応熱分解GC/MS法により測定することで得られたGC/MSチャートにおいて、特定の位置に290〜320の分子量に由来するピークを有するポリカーボネート系樹脂を使用すれば、発泡性、成形性及び外観の良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体を提供可能であることを意外にも見い出し本発明に至った。
かくして本発明によれば、複数の発泡粒子から構成される発泡成形体であって、
前記発泡粒子が、基材樹脂を含み、
前記基材樹脂が、ビスフェノールA由来成分を含むポリカーボネート樹脂のみからなり、
前記発泡成形体は、キャリアーガスとしてヘリウムを使用し、キャリアーガス流量を34mL/分とする条件下、反応試薬としての水酸化トリメチルアンモニウムにより前記ポリカーボネート系樹脂に含まれるエステル結合を加水分解させてメチルエーテル化させる反応を利用した反応熱分解GC/MS法により測定することで得られたリテンションタイムを横軸とするGC/MSチャートにおいて、290〜320の分子量に由来するピークを示し、
前記290〜320の分子量に由来するピークが、前記ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークのリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムで確認され、
前記ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークと前記290〜320の分子量に由来するピークとが、1:0.005〜0.04の面積比を有することを特徴とするポリカーボネート系樹脂発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発泡性、成形性及び外観の良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体を提供できる。
以下のいずれかの場合、発泡性、成形性及び外観のより良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体、及びこのポリカーボネート系樹脂発泡成形体を与え得るポリカーボネート系樹脂発泡粒子を提供できる。
(1)ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークと290〜320の分子量に由来するピークとが、1:0.005〜0.04の面積比を有する。
(2)発泡成形体が、0.08g/cm3以下の密度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を示すグラフである。
図2】比較例1の発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を示すグラフである。
図3】比較例2の発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を示すグラフである。
図4】比較例3の発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ポリカーボネート系樹脂発泡成形体)
ポリカーボネート系樹脂発泡成形体(以下、単に発泡成形体ともいう)は、基材樹脂としてビスフェノールA由来成分を含むポリカーボネート系樹脂を含んでいる。
[290〜320の分子量に由来するピーク]
発泡成形体は、GC/MSチャートにおいて、290〜320の分子量に由来するピークを示す。このピークは、ポリカーボネート系樹脂を構成するビスフェノールA由来成分を示す最大ピーク(以下、最大ピークと称する)のリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムで確認される。ここで、GC/MSチャートは、キャリアーガスとしてヘリウムを使用し、キャリアーガス流量を34mL/分とする条件下、反応試薬としての水酸化トリメチルアンモニウムによりポリカーボネート系樹脂に含まれるエステル結合を加水分解させてメチルエーテル化させる反応を利用した反応熱分解GC/MS法により測定することで得られる。
【0010】
290〜320の分子量に由来するピークが、最大ピークのリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムで確認されることで、驚くべきことに発明者等は、成形性及び外観の良好な発泡成形体を提供できることを見出している。成形性及び外観の良好な発泡成形体を与え得る理由について、発明者等は次のように推測している。
即ち、上記290〜320の分子量に由来するピークはポリカーボネート系樹脂の特有の構造を示している。このピークに対応する特有の構造を有するポリカーボネート系樹脂が、実施例において、成形性及び外観の良好な発泡成形体を与えていることを発明者等は確認している。このピークは、ポリカーボネート系樹脂の分岐構造に起因していると推察される。分岐構造がポリカーボネート系樹脂を構成する高分子鎖を絡み合わさせて、複数の高分子鎖からなる隙間を備えたポリカーボネート系樹脂となる。この隙間は、発泡剤の保持性を向上させ高分子鎖を延伸させること、及び発泡剤の逸散性に寄与する。
【0011】
得られるGC/MSチャートに由来するMSスペクトルにおいて、ビスフェノールA由来成分を示す最大ピークと290〜320の分子量に由来するピークとが、1:0.005〜0.04の面積比を有することが好ましい。これらのピーク面積比は、分岐数と主鎖骨格の繰り返し単位の数に起因するものであり、ポリマーの動きやすさや硬さ等に影響する値である。290〜320の分子量に由来するピークのピーク面積比が0.005未満の場合、分岐構造が少ないことにより発泡時にポリマーの絡み合いが少なくなることから、良好に成形体を得ることができないことがある。また、290〜320の分子量に由来するピークのピーク面積比が0.04より大きい場合、分岐構造が多くなり発泡時のポリマーが動きがたくなることにより、気泡が破泡してしまい収縮してしまうこと等から、良好に発泡できないことや、成形体が得られないことがある。
ピーク面積比の上限としては、0.03が好ましく、0.02がより好ましく、更には0.015が更に好ましい。
【0012】
[ポリカーボネート系樹脂]
ポリカーボネート系樹脂は、炭酸とグリコール又は2価のフェノールとのポリエステル構造を有することが好ましい。耐熱性をより一層高める観点からは、ポリカーボネート系樹脂は、芳香族骨格を有することが好ましい。ポリカーボネート系樹脂の具体例としては、2,2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−オキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)イソブタン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)エタン等のビスフェノールから誘導されるポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂としては、分岐状ポリカーボネート樹脂が好ましい。
これらの中でも、2,2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)から誘導される成分を基本骨格とし、分岐構造を有する樹脂が好ましい。
【0013】
ポリカーボネート系樹脂は、ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、アクリル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ABS系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びポリフェニレンオキサイド系樹脂等が挙げられる。ポリカーボネート系樹脂には、ポリカーボネート樹脂を50重量%以上含むことが好ましい。
また、ポリカーボネート系樹脂は1〜20g/10分のMFRを有していることが好ましい。この範囲の樹脂は発泡に適しており、より高発泡化させやすい。より好ましいMFRの範囲は、2〜15g/10分である。
【0014】
[発泡成形体の形状]
発泡成形体は、種々の密度をとり得る。密度は、0.4g/cm3以下であることが好ましい。より好ましくは、0.12〜0.010g/cm3であり、更に好ましくは0.08〜0.012g/cm3である。
発泡成形体は、特に限定されず、用途に応じて種々の形状をとり得る。例えば、発泡成形体は、建材(土木関係、住宅関係等)、自動車構造部材、風車等の構造部材、梱包材、複合部材としてのFRPの芯材等の用途に応じて種々の形状をとり得る。
【0015】
[発泡成形体の製造方法]
発泡成形体は、例えば、樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性粒子を得、発泡性粒子を成形工程に付すことで得ることができる。ここで、上記分岐構造部分を有するポリカーボネート系樹脂は、発泡性粒子からの発泡力が大きいことを発明者等は見い出している。そのため、上記分岐構造部分を有するポリカーボネート系樹脂は、発泡性粒子から、発泡粒子を経て、発泡成形体を得る一般的な成形に加えて、発泡性粒子から直接発泡成形体を得る、所謂原粒成形に適している。
(1)発泡性粒子の製造
発泡性粒子は、ポリカーボネート系樹脂製の樹脂粒子に発泡剤を含浸させることにより得ることができる。
樹脂粒子は、公知の方法により得ることができる。例えば、ポリカーボネート系樹脂を、必要に応じて他の添加剤と共に、押出機中で溶融混練して押出すことでストランドを得、得られたストランドを、空気中でカット、水中でカット、加熱しつつカットすることで、造粒する方法が挙げられる。樹脂粒子には、市販の樹脂粒子を使用してもよい。樹脂粒子には、必要に応じて、樹脂以外に他の添加剤が含まれていてもよい。他の添加剤としては、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、展着剤、気泡調整剤、充填剤、着色剤、耐候剤、老化防止剤、滑剤、防曇剤、香料等が挙げられる。
【0016】
次に、樹脂粒子に含浸される発泡剤としては、既知の揮発性発泡剤や無機発泡剤を使用できる。揮発性発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素や、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族アルコール等が挙げられる。無機発泡剤としては、炭酸ガス、窒素ガス、エアー(空気)等が挙げられる。これら発泡剤は2種以上併用してもよい。これら発泡剤の内、無機発泡剤が好ましく、炭酸ガスがより好ましい。
発泡剤の含有量(含浸量)は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、3〜15重量部であることが好ましい。発泡剤の含有量が3重量部未満であると、発泡力が低くなり、良好に発泡させ難いことがある。含有量が15重量部を超えると、可塑化効果が大きくなり、発泡時に収縮が起こりやすく、生産性が悪くなると共に、安定して所望の発泡倍数を得難くなることがある。より好ましい発泡剤の含有量は、4〜12重量部である。
【0017】
含浸方法としては、樹脂粒子を水系に分散させ撹拌させながら発泡剤を圧入することで含浸させる湿式含浸法や、密閉可能な容器に樹脂粒子を投入し、発泡剤を圧入して含浸させる実質的に水を使用しない乾式含浸法(気相含浸法)等が挙げられる。特に水を使用せずに含浸できる乾式含浸法が好ましい。樹脂粒子に発泡剤を含浸させる際の含浸圧、含浸時間及び含浸温度は特に限定されない。
含浸を効率的に行い、より一層良好な発泡粒子及び発泡成形体を得る観点からは、含浸圧は1〜4.5MPaであることが好ましい。
【0018】
含浸時間は、0.5〜200時間以下であることが好ましい。0.5時間未満の場合、発泡剤の樹脂粒子への含浸量が低下するため、十分な発泡力が得られ難いことがある。200時間より長い場合、生産性が低下することがある。より好ましい含浸時間は、1〜100時間である。
含浸温度は、0〜60℃であることが好ましい。0℃未満の場合、所望の時間内に十分な含浸量を確保できないため十分な発泡力(1次発泡力)が得られ難いことがある。60℃より高い場合、生産性が悪くなることがある。より好ましい含浸温度は、5〜50℃である。
【0019】
(2)成形工程
発泡成形機の成形金型内に形成された成形空間に発泡性粒子を供給した後、加熱媒体を導入することで、所望の発泡成形体に型内成形できる。発泡成形機としては、ポリスチレン系樹脂製の発泡粒子から発泡成形体を製造する際に用いられるEPS成形機やポリプロピレン系樹脂製の発泡粒子から発泡成形体を製造する際に用いられる高圧仕様の成形機等を用いることができる。加熱媒体は、短時間に高エネルギーを与えうる加熱媒体が望まれるから、そのような加熱媒体としては水蒸気が好適である。
水蒸気の圧力は、0.2〜0.5MPaであることが好ましい。また、加熱時間は、10〜300秒であることが好ましく、60〜200秒であることがより好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。まず実施例における各種物性の測定法を下記する。
[反応熱分解GC/MS法による測定]
発泡粒子又は発泡成形体から試料0.05〜0.3mgを採取し、熱分解温度445℃のパイロホイル中で秤量する。試料に水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH、反応試薬)を20重量%含むメタノール溶液5μLを滴下した後、乾燥させてから試料をパイロホイルで包みこむことで熱分解用試料を作製する。
熱分解用試料を、測定装置としてのキューリーポイントパイロライザーJHP−5型(日本分析工業社製)及びガスクロマトグラフ質量分析計JMS−AX505H(日本電子社製:GC(HP−5890II)による下記測定条件にて熱分解測定に付すことでGC/MSチャート(トータルイオンクロマトグラム=TIC)を得る。GC/MSチャートの横軸はリテンションタイム(単位:分)、縦軸は強度(アバンダンス)を示す。
カラム:ZB−5(0.25μm×0.25mmφ×30m:phenomenex社製)
測定条件:パイロホイル(445℃で5秒間加熱)、オーブン温度(280℃)、ニードル温度(250℃)、カラム温度(50℃(3分)→10℃/分→280℃→40℃/分→320℃(3分))
測定時間(30min)、キャリアーガス(He)、He流量(34mL/分)、注入口温度(300℃)、SEP温度(280℃)、RSV温度(80℃)、IONIZAION CUR(100μA)
CD VOLTAGE(−10kV)
得られたGC/MSチャートから、最大強度ピークのリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムであり、電子衝撃イオン化(EI)法によるフラグメントイオン分子量で一番強度の大きい分子量が290〜320であるピークを確認する。
フラグメントイオン分子量の確認はマススペクトルにて行い、最大強度ピークのリテンションタイムを基準として5分以内の範囲のピークに関して、マススペクトルを出現させてフラグメントイオン分子量を確認する。また、最大強度ピークはビスフェノールAメチル化成分であることをフラグメントイオンより確認する。
また、得られたマススペクトルを備え付けられているライブラリを用いてサーチ検索をかけることで構造を同定することが可能となる。例えば、NIST(質量スペクトルデータベース)等のライブラリが挙げられる。
得られたGC/MSチャートから、最大強度ピーク及び分子量290〜320に由来するピークそれぞれのピーク面積(TICピーク面積)を求める。得られたピーク面積から下記式を用いてピーク面積比を算出する。
ピーク面積比=(分子量290〜320に由来するピーク面積)/(ビスフェノールAメチル化物由来成分のピーク面積)
【0021】
[MFRの測定]
メルトフローレイト(MFR)は、東洋精機製作所社製「セミオートメルトインデクサー2A」を用いて測定し、JIS K7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」B法に記載のb)ピストンが所定の距離を移動する時間を測定する方法に準拠して測定される。具体的には、測定条件は、試料3〜8g、予熱270秒、ロードホールド30秒、試験温度300℃、試験荷重11.77N、ピストン移動距離(インターバル)25mmとする。試料の試験回数は3回とし、その平均をメルトフローレイト(g/10分)の値とする。なお、測定試料は、真空乾燥機にて120℃で、100kPaの減圧下、5時間の条件で乾燥をしたものを測定で用いる。
【0022】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径とはD50で表現される値である。
具体的には、ロータップ型篩振とう機(飯田製作所社製)を用いて、篩目開き26.5mm、22.4mm、19.0mm、16.0mm、13.2mm、11.20mm、9.50mm、8.80mm、6.70mm、5.66mm、4.76mm、4.00mm、3.35mm、2.80mm、2.36mm、2.00mm、1.70mm、1.40mm、1.18mm、1.00mm、0.85mm、0.71mm、0.60mm、0.50mm、0.425mm、0.355mm、0.300mm、0.250mm、0.212mm及び0.180mmのJIS標準篩(JIS Z8801:2006)で試料約25gを10分間分級し、篩網上の試料重量を測定する。得られた結果から累積重量分布曲線を作成し、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)を平均粒子径とする。
【0023】
[発泡成形体の密度の測定]
発泡成形体(成形後、40℃で20時間以上乾燥させたもの)から切り出した試験片(例30×50×25mm)の質量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(a)/(b)により発泡成形体の密度(g/cm3)を求める。
倍数は密度の逆数にポリカーボネート系樹脂の密度(g/cm3)を積算した値である。
[発泡性の評価]
発泡粒子の嵩倍数が20倍以上に到達できる場合、○とする。
[発泡粒子の嵩密度の測定]
発泡粒子約500cm3を、メスシリンダー内に500cm3の目盛りまで充填する。なお、メスシリンダーを水平方向から目視し、発泡粒子が1つでも500cm3の目盛りに達していれば、その時点で発泡粒子のメスシリンダー内への充填を終了する。次に、メスシリンダー内に充填した発泡粒子の重量を小数点以下2位の有効数字で秤量し、その質量をWgとする。そして、下記式により発泡粒子の嵩密度は求められる。
嵩密度(g/cm3)=W/500
嵩倍数は嵩密度の逆数にポリカーボネート系樹脂の密度(g/cm3)を積算した値である。
ポリカーボネート系樹脂の密度はISO1183:2004)に規定した方法で測定できる。
【0024】
<実施例1>
(含浸工程)
ポリカーボネート系樹脂としてノバレックスM7027U(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、MFR5g/10分、平均粒子径3mm)100重量部(1000g)を密閉可能な10Lの圧力容器に投入し、炭酸ガスを用いて圧力容器内をゲージ圧4MPaまで昇圧させ、室温(約20℃)の環境下で24時間保持して発泡性粒子を得た。
(発泡性確認工程)
含浸終了後、圧力容器内の炭酸ガスをゆっくりと除圧し内部の発泡性粒子を取出した。直ちに結合防止剤としての0.3重量部(3g)の炭酸カルシウムと発泡性粒子100重量部(1000g)とを混合した。その後、高圧の蒸気を導入及び排出できる発泡機に発泡性粒子を投入し0.30MPaの水蒸気を用いて120秒間加熱して発泡させた。得られた発泡粒子の嵩倍数は30倍(嵩密度0.04g/cm3)であった。得られた発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定して得たGC/MSチャートを図1(a)に示す。図1(a)中、Aは290〜320の分子量に由来するピークであり、BはビスフェノールA由来成分を示す最大ピークである。GC/MSチャートに由来するMSスペクトルを図1(b)〜(d)に示す。図1(b)は290〜320の分子量に由来するピークに対応し、図1(c)はビスフェノールA由来成分を示す最大ピークに対応する。図1(d)は図1(c)をライブラリを用いて検索をかけた結果を表している。
【0025】
(成形工程)
上記発泡性粒子を、縦40mm×横80mm×厚さ25mm、容積80cm3の金型に4.8g投入し、0.30〜0.35MPaの水蒸気を120秒導入して加熱し、冷却することで倍数20倍(密度0.06/cm3)の自立する発泡成形体を得た。得られた発泡成形体を30℃の乾燥室で8時間程度乾燥させた。発泡成形体を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果は、図1(a)〜(d)とほぼ同じであった。
【0026】
<比較例1>
ポリカーボネート系樹脂をWB1439(バイエル社製、密度1.2g/cm3、MFR3g/10分)に変更すること以外は実施例1と同様にして発泡粒子(嵩倍数16倍:嵩密度0.075g/cm3)を得た。
なお、発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を図2(a)〜(c)に示す。発泡成形体を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果は、図2(a)〜(c)とほぼ同じであった。
実施例1と同様に成形を実施したが、自立する成形体は得られなかった。
<比較例2>
ポリカーボネート系樹脂パンライトX0730(帝人社製、密度1.2g/cm3、MFR 3.5g/10分)に変更すること以外は実施例1と同様にして発泡粒子(嵩倍数16倍:嵩密度0.075g/cm3)を得た。
なお、発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を図3(a)〜(c)に示す。発泡成形体を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果は、図3(a)〜(c)とほぼ同じであった。
実施例1と同様に成形を実施したが、自立する成形体は得られなかった。
<比較例3>
ポリカーボネート系樹脂をパンライトL−1250Y(帝人社製、密度1.2g/cm3、MFR7g/10分)に変更すること以外は実施例1と同様にして発泡粒子(嵩倍数15倍:嵩密度0.08g/cm3)を得た。
なお、発泡粒子を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果を図4(a)〜(c)に示す。発泡成形体を反応熱分解GC/MSを用いて測定した結果は、図4(a)〜(c)とほぼ同じであった。
実施例1と同様に成形を実施したが、自立する成形体は得られなかった。
【0027】
【表1】
【0028】
上記表1から、ビスフェノールA最大ピークのリテンションタイムを基準として、5分以内の範囲のリテンションタイムで確認される290〜320の分子量に由来するピークを示す発泡成形体は、成形性及び発泡性(外観)が良好であることが分かる。
図1
図2
図3
図4