【文献】
小椋一郎,常識破りの最新鋭エポキシ樹脂,DIC Technical Review,日本,2005年,No.11,第21−28頁,URL,http://www.dic-global.com/ja/r_and_d/review/pdf/dic_r_and_d_2005_review02.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硬化物のガラス転移温度が220℃以上であるエポキシ化合物の含有量が、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して2.5〜15質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の保護膜形成用シート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の保護膜形成用フィルムの詳細を説明する。
【0021】
[保護膜形成用フィルム]
本発明に係る保護膜形成用フィルムは、半導体チップを保護する保護膜を形成するためのフィルムであって、少なくとも、硬化物のガラス転移温度が200℃以上であるエポキシ化合物を含むエポキシ系熱硬化性成分を含有する。
【0022】
エポキシ系熱硬化性成分
エポキシ系熱硬化性成分は、少なくとも特定の物性を有するエポキシ化合物を含み、該エポキシ化合物と熱硬化剤を組み合わせたものを用いることが好ましい。また、エポキシ系熱硬化性成分として、該エポキシ化合物以外のエポキシ基を有する化合物(以下、単に「他のエポキシ化合物」と記載することがある。)を用いることもできる。
【0023】
本発明において、特定の物性を有するエポキシ化合物とは、その硬化物のガラス転移温度が220℃以上、好ましくは220〜350℃、より好ましくは240〜345℃、特に好ましくは300〜330℃であるエポキシ化合物をいう。エポキシ化合物の硬化物のガラス転移温度を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムを短時間で硬化でき、また、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の高強度化を図ることができる。つまり、上記物性を有するエポキシ化合物を用いることで、保護膜形成用フィルムの硬化性に優れる。その結果、本発明に係る保護膜形成用フィルムを用いて製造される保護膜付チップの信頼性及び生産性が向上する。エポキシ化合物の硬化物のガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0024】
本発明における特定の物性を有するエポキシ化合物の軟化点は、好ましくは60〜110℃、より好ましくは70〜100℃、さらに好ましくは80〜97℃、特に好ましくは90〜95℃である。エポキシ化合物の軟化点を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムの硬化性を向上できる。エポキシ化合物の軟化点は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0025】
本発明における特定の物性を有するエポキシ化合物の溶融粘度は、好ましくは1.0〜25.0dPa・s、より好ましくは2.0dPa・sを超え15.0dPa・s以下、さらに好ましくは2.5〜7.0dPa・sである。エポキシ化合物の溶融粘度を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムの硬化性を向上できる。エポキシ化合物の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(例えば、島津製作所製 CFT−100D)により、測定温度150℃、測定周波数1Hzの条件で測定される粘度である。
【0026】
また、本発明における特定の物性を有するエポキシ化合物の数平均分子量(Mn)は、好ましくは200〜1000、より好ましくは300〜900、さらに好ましくは400〜800、特に好ましくは450〜750である。エポキシ化合物の数平均分子量(Mn)を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムの硬化性を向上できる。エポキシ化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0027】
本発明における特定の物性を有するエポキシ化合物の具体例としては、上記物性を満たすエポキシ化合物であれば特に限定されないが、例えば、エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物が挙げられる。
【0028】
エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物
本発明において、エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物とは、縮合環かつ芳香環から構成される縮合環式芳香族炭化水素に、エポキシ基が直接またはアルコキシ基を介して結合している化合物をいう。縮合環式芳香族炭化水素の炭素数は特に限定されないが、好ましくは8〜55、より好ましくは12〜45、さらに好ましくは16〜35である。
エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物を含むことで、保護膜形成用フィルムの硬化性に優れ、本発明に係る保護膜形成用フィルムを用いて製造される保護膜付チップの信頼性及び生産性を向上できる。
【0029】
エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物としては、縮合環(Condensed Ring)にグリシジルエーテル基が結合(メトキシ基を介してエポキシ基が結合)したものとして、例えば、下記一般式(I)または(II)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
(ただし、一般式(I)において、CRは縮合環式芳香族炭化水素基を示し、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは2〜6の整数を示す。R
1がアルキル基の場合、その炭素数は1〜6が好ましい。また、mは2〜4が好ましい。)
【化2】
(ただし、一般式(II)において、CR
1およびCR
2は縮合環式芳香族炭化水素基を示し、これらの縮合環式芳香族炭化水素基は同一でも異なっていてもよく、R
2は二価の炭化水素基を示し、該炭化水素基は置換基aを有していてもよく、R
3は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、またはグリシジルエーテル基を示し、nは1〜3の整数を示し、pは0〜10の整数であり、pが0の場合にはR
2は単結合を示し、qは1〜3の整数を示す。R
2の炭素数は1〜6が好ましい。また、R
3がアルキル基の場合、その炭素数は1〜6が好ましい。nは1〜2が好ましく、pは0〜4が好ましく、qは1〜2が好ましい。)
【0030】
一般式(II)におけるR
2の置換基aとしては、フェニル基または置換基bを有するフェニル基などが挙げられる。置換基bとしては、炭素数1〜6のアルキル基、またはグリシジルエーテル基などが挙げられ、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0031】
上記の縮合環式芳香族化合物の縮合環としては、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環または3,4−ベンゾピレン環などが挙げられ、これらの中でも保護膜形成用フィルムの硬化性の観点からナフタレン環が好ましい。
【0032】
一般式(I)または(II)で表され、縮合環としてナフタレン環を有する具体的な化合物の例としては、下記一般式(III)で表される1,1−ビス(2,7−ジグリシジルオキシ−1−ナフチル)アルカン、下記一般式(IV)で表される1−(2,7−ジグリシジルオキシ−1−ナフチル)−1−(2−グリシジルオキシ−1−ナフチル)アルカン、または下記一般式(V)で表される1,1−ビス(2−グリシジルオキシ−1−ナフチル)アルカンを挙げることができる。
【化3】
【化4】
【化5】
(ただし、R
4は、単結合または二価の炭化水素基を示し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。なお、前記一般式(III)〜(V)の化合物を併用する場合、R
4は同一でも異なっていてもよい。)
【0033】
一般式(III)〜(V)のR
4は、下記式にて示される置換基を有していてもよい二価の炭化水素基であることがさらに好ましい。
【化6】
(上記式中、炭素に結合する上下方向の結合手は、それぞれナフタレン環に結合し、R
5およびR
6は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基または置換基cを有するフェニル基を示す。R
5およびR
6が置換基cを有するフェニル基の場合、その置換基cとしては、炭素数1〜10のアルキル基、またはグリシジルエーテル基などが挙げられ、好ましくは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。R
5およびR
6としては、保護膜形成用フィルムの硬化性の観点から水素原子が特に好ましい。上記式中、nは0〜4、好ましくは0〜3の整数であり、さらに好ましくは1である。なお、nが0の場合、上記式の構造は単結合を示す。)
【0034】
一般式(III)〜(V)で表される化合物の中でも、保護膜形成用フィルムの硬化性の観点から、一般式(III)で表される化合物が好ましく、特に一般式(III)中のR
4がメチレン(−CH
2−)である化合物が好ましい。
【0035】
また、エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物のエポキシ当量は、好ましくは150〜180g/eqであり、より好ましくは160〜170g/eqである。エポキシ当量を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムの硬化性に優れる。
【0036】
エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜18質量部、さらに好ましくは2.5〜15質量部である。エポキシ基を有する縮合環式芳香族化合物の含有量を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムの硬化性を向上できる。
【0037】
本発明の保護膜形成用フィルムにおいては、特定の物性を有するエポキシ化合物と共に他のエポキシ化合物を併用することもできる。
【0038】
他のエポキシ化合物
他のエポキシ化合物としては、上述した特定の物性を有しない従来公知の各種エポキシ化合物を用いることができる。具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
他のエポキシ化合物を用いる場合には、その含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは10〜35質量部、さらに好ましくは15〜30質量部である。他のエポキシ化合物の含有量を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の半導体チップに対する接着性が向上する。また、保護膜形成用フィルムを支持シート上に積層する場合には、保護膜形成用フィルムと支持シートとの剥離力を制御でき、その結果、保護膜形成用フィルムの転写不良が防止される。
【0040】
熱硬化剤
熱硬化剤は、特定の物性を有するエポキシ化合物や他のエポキシ化合物に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基または酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基または酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基またはアミノ基が挙げられる。
【0041】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、またはアラルキルフェノール樹脂が挙げられる。
アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。
これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0042】
熱硬化剤の含有量は、特定の物性を有するエポキシ化合物と他のエポキシ化合物の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜500質量部、より好ましくは1〜200質量部、さらに好ましくは2〜10質量部である。熱硬化剤の含有量を上記範囲とすることで、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の半導体チップに対する接着性や、保護膜形成用フィルムの半導体ウエハへの貼付適性に優れる。
【0043】
硬化促進剤
保護膜形成用フィルムの熱硬化の速度を調整するために、硬化促進剤を用いてもよい。好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0044】
硬化促進剤は、特定の物性を有するエポキシ化合物、他のエポキシ化合物および熱硬化剤の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部の量で含まれる。硬化促進剤の含有量を上記範囲とすることにより、高温度高湿度下に曝されても、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の半導体チップに対する接着性に優れ、また、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高い信頼性を達成することができる。
【0045】
エネルギー線硬化性成分
本発明の保護膜形成用フィルムは、上述したエポキシ系熱硬化性成分の他に、エネルギー線硬化性成分を含有してもよい。保護膜形成用フィルムがエネルギー線硬化性成分を含有する場合には、エネルギー線照射により保護膜形成用フィルムを予備的に硬化することができるため、後述する保護膜付チップの製造工程において、保護膜形成用フィルムの凝集力を上げ、保護膜形成用フィルムと支持シートとの間の接着力を低下できる。その結果、保護膜形成用フィルム付チップを支持シートから分離しやすくなり、保護膜形成用フィルム付チップのピックアップ性に優れる。エネルギー線硬化性成分は、反応性二重結合基を有する化合物としてエネルギー線反応性化合物を単独で用いてもよいが、エネルギー線反応性化合物と光重合開始剤を組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0046】
エネルギー線反応性化合物
エネルギー線反応性化合物としては、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンタジエン骨格含有多官能アクリレート等のアクリレート系化合物が挙げられ、また、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物等の重合構造を有するアクリレート化合物であって、比較的低分子量のものが挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性の炭素−炭素二重結合を有する。
【0047】
エネルギー線反応性化合物の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは2〜4質量部である。
【0048】
光重合開始剤
エネルギー線反応性化合物に光重合開始剤を組み合わせることで、重合硬化時間を短くし、ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0049】
このような光重合開始剤として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
光重合開始剤の含有量は、エネルギー線反応性化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜7質量部である。
光重合開始剤の含有量が0.1質量部未満であると光重合の不足で満足な硬化性が得られないことがあり、10質量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、不具合の原因となることがある。
【0051】
重合体成分
保護膜形成用フィルムは、重合体成分を含有してもよい。重合体成分は、保護膜形成用フィルムにシート形状維持性を付与することを主目的として保護膜形成用フィルムに添加される。
【0052】
上記の目的を達成するため、重合体成分の重量平均分子量(Mw)は、通常20,000以上であり、20,000〜3,000,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)の値は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC)法(ポリスチレン標準)により測定される場合の値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column H
XL−H」、「TSK Gel GMH
XL」、「TSK Gel G2000 H
XL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
なお、後述する硬化性重合体と区別する便宜上、重合体成分は後述する硬化機能官能基を有しない。
【0053】
重合体成分としては、アクリル重合体、ポリエステル、フェノキシ樹脂(後述する硬化性重合体と区別する便宜上、エポキシ基を有しないものに限る。)、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体等を用いることができる。また、これらの2種以上が結合したもの、たとえば、水酸基を有するアクリル重合体であるアクリルポリオールに、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを反応させることにより得られるアクリルウレタン樹脂等であってもよい。さらに、2種以上が結合した重合体を含め、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
重合体成分の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは15〜40質量部、さらに好ましくは15〜30質量部である。保護膜形成用フィルムにおける重合体成分の含有量を上記範囲とすることで、重合体成分を種々組み合わせた場合には、保護膜形成用フィルムの被着体への貼付適性を安定して得ることが容易となる。
【0055】
アクリル重合体
重合体成分としては、アクリル重合体が好ましく用いられる。アクリル重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、より好ましくは−50〜40℃、さらに好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリル重合体のガラス転移温度が高いと保護膜形成用フィルムの被着体(半導体ウエハ等)に対する接着性が低下し、被着体に転写できなくなることや、転写後に被着体から保護膜形成用フィルムまたは該保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜が剥離する等の不具合を生じることがある。また、アクリル重合体のガラス転移温度が低いと保護膜形成用フィルムと支持シートとの剥離力が大きくなって保護膜形成用フィルムの転写不良が起こることがある。
なお、アクリル重合体のTgは、FOXの式から求めた値である。
【0056】
アクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、100,000〜1,500,000であることが好ましい。アクリル重合体の重量平均分子量が高いと保護膜形成用フィルムの初期接着性が低下し、被着体に転写できなくなることがある。また、アクリル重合体の重量平均分子量が低いと保護膜形成用フィルムと支持シートとの接着性が高くなり、保護膜形成用フィルムの転写不良が起こることがある。
【0057】
アクリル重合体は、少なくとも構成する単量体に、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体を含む。なお、本明細書で(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの両者を包含する意味で用いることがある。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体としては、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0059】
アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。
【0060】
環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0061】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばモノエチルアミノ(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート等が挙げられる。
【0064】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
アクリル重合体を構成する単量体として、水酸基を有する単量体を用いることが好ましい。このような単量体を用いることで、アクリル重合体に水酸基が導入され、保護膜形成用フィルムがエネルギー線硬化性成分を含有する場合に、これとアクリル重合体との相溶性が向上する。水酸基を有する単量体としては、上記の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの他に、ビニルアルコール、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0066】
アクリル重合体を構成する単量体として、カルボキシル基を有する単量体を用いてもよい。このような単量体を用いることで、アクリル重合体にカルボキシル基が導入され、保護膜形成用フィルムが、エネルギー線硬化性成分を含有する場合に、これとアクリル重合体との相溶性が向上する。カルボキシル基を有する単量体としては、上記のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの他に、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。ただし、当該カルボキシル基とエポキシ系熱硬化性成分中のエポキシ基が反応してしまうため、カルボキシル基を有する単量体の使用量は少ないことが好ましい。
【0067】
アクリル重合体を構成する単量体として、このほか(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、エチレン、α−オレフィン等を用いてもよい。
【0068】
また、アクリル重合体は架橋されていてもよい。架橋は、架橋される前のアクリル重合体が水酸基等の架橋性官能基を有しており、保護膜形成用フィルムを形成するための組成物中に架橋剤を添加することで架橋性官能基と架橋剤の有する官能基が反応することにより行われる。アクリル重合体を架橋することにより、保護膜形成用フィルムの凝集力を調節することが可能となる。また、アクリル重合体の架橋密度を調整することで、保護膜形成用フィルムの熱硬化後のガラス転移温度を制御することができる。架橋密度は後述する架橋剤の添加量で制御できる。
【0069】
架橋剤としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0070】
有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0071】
有機多価イソシアネート化合物として、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、リジンイソシアネート、およびこれらの多価アルコールアダクト体が挙げられる。
【0072】
有機多価イミン化合物として、具体的には、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0073】
架橋剤は架橋する前のアクリル重合体100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の比率で用いられる。
【0074】
本発明において、保護膜形成用フィルムを構成する成分の含有量の態様について、重合体成分の含有量を基準として定める場合、重合体成分が架橋されたアクリル重合体であるときは、その基準とする含有量は、架橋される前のアクリル重合体の含有量である。
【0075】
非アクリル系樹脂
また、重合体成分として、ポリエステル、フェノキシ樹脂(後述する硬化性重合体と区別する便宜上、エポキシ基を有しないものに限る。)、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体またはこれらの2種以上が結合したものから選ばれる非アクリル系樹脂を用いてもよい。非アクリル系樹脂は1種単独または2種以上を組み合わせて用いることもできる。このような樹脂としては、重量平均分子量が20,000〜100,000のものが好ましく、20,000〜80,000のものがさらに好ましい。
【0076】
非アクリル系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−30〜150℃、さらに好ましくは−20〜120℃の範囲にある。
【0077】
非アクリル系樹脂を、上述のアクリル重合体と併用した場合には、保護膜形成用シートを用いて被着体へ保護膜形成用フィルムを転写する際に、支持シートと保護膜形成用フィルムとの層間剥離をさらに容易に行うことができ、さらに転写面に保護膜形成用フィルムが追従しボイドなどの発生を抑えることができる。
【0078】
非アクリル系樹脂を、上述のアクリル重合体と併用する場合には、非アクリル系樹脂の含有量は、非アクリル系樹脂とアクリル重合体との質量比(非アクリル系樹脂:アクリル重合体)において、好ましくは1:99〜70:30、より好ましくは1:99〜60:40の範囲にある。非アクリル系樹脂の含有量がこの範囲にあることにより、上記の効果を得ることができる。
【0079】
硬化性重合体成分
保護膜形成用フィルムには、硬化性重合体成分を添加することもできる。硬化性重合体成分は、エポキシ系熱硬化性成分またはエネルギー線硬化性成分の性質と、重合体成分の性質とを兼ね備えている。
【0080】
硬化性重合体成分は、硬化機能官能基を有する重合体である。硬化機能官能基は、互いに反応して三次元網目構造を構成しうる官能基であり、加熱により反応する官能基や、エネルギー線により反応する官能基が挙げられる。硬化機能官能基は、硬化性重合体成分の骨格となる連続構造の単位中に付加していてもよいし、末端に付加していてもよい。硬化機能官能基が硬化性重合体成分の骨格となる連続構造の単位中に付加している場合、硬化機能官能基は側鎖に付加していてもよいし、主鎖に直接付加していてもよい。硬化性重合体成分の重量平均分子量(Mw)は、保護膜形成用フィルムにシート形状維持性を付与する目的を達成する観点から、通常20,000以上である。
【0081】
加熱により反応する官能基としてはエポキシ基が挙げられる。エポキシ基を有する硬化性重合体成分としては、高分子量のエポキシ基含有化合物や、エポキシ基を有するフェノキシ樹脂が挙げられる。高分子量のエポキシ基含有化合物は、たとえば、特開2001−261789に開示されている。
また、上述のアクリル重合体と同様の重合体であって、単量体として、エポキシ基を有する単量体を用いて重合したもの(エポキシ基含有アクリル重合体)であってもよい。エポキシ基を有する単量体としては、たとえばグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
エポキシ基含有アクリル重合体を用いる場合、その好ましい態様はエポキシ基以外についてアクリル重合体と同様である。
【0082】
エポキシ基を有する硬化性重合体成分を用いる場合には、上述した熱硬化剤や、硬化促進剤を併用してもよい。
【0083】
エネルギー線により反応する官能基としては、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。エネルギー線により反応する官能基を有する硬化性重合体成分としては、ポリエーテルアクリレートなどの重合構造を有するアクリレート系化合物等であって、高分子量のものを用いることができる。
また、たとえば側鎖に水酸基等の官能基Xを有する原料重合体に、官能基Xと反応しうる官能基Y(たとえば、官能基Xが水酸基である場合にはイソシアネート基等)およびエネルギー線照射により反応する官能基を有する低分子化合物を反応させて調製した重合体を用いてもよい。
この場合において、原料重合体が上述のアクリル重合体に該当するときは、その原料重合体の好ましい態様は、アクリル重合体と同様である。
【0084】
エネルギー線により反応する官能基を有する硬化性重合体成分を用いる場合には、エネルギー線硬化性成分を用いる場合と同様、光重合開始剤を併用してもよい。
【0085】
無機フィラー
保護膜形成用フィルムは、無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーを保護膜形成用フィルムに配合することにより、硬化後の保護膜における熱膨張係数を調整することが容易になり、被着体に対して硬化後の保護膜の熱膨張係数を最適化することで保護膜付チップの信頼性を向上させることができる。また、硬化後の保護膜の吸湿率を低減させることも可能となる。
さらに、保護膜にレーザーマーキングを施すことにより、レーザー光により削り取られた部分に無機フィラーが露出して、反射光が拡散するために白色に近い色を呈する。これにより、保護膜形成用フィルムが後述する着色剤を含有する場合、レーザーマーキング部分と他の部分にコントラスト差が得られ、印字が明瞭になるという効果がある。
【0086】
好ましい無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。上記無機フィラーは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
上述の効果をより確実に得るための、無機フィラーの含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは10〜70質量部、より好ましくは40〜70質量部、特に好ましくは50〜65質量部である。
【0087】
また、無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.02〜20μm、より好ましくは0.05〜10μmである。無機フィラーの平均粒子径は、電子顕微鏡で無作為に選んだ無機フィラー20個の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径とする。
【0088】
着色剤
保護膜形成用フィルムには、着色剤を配合することができる。着色剤を配合することで、赤外線等を遮断することができるため、周囲の装置から発生する赤外線等による半導体装置の誤作動を防止することができる。また、レーザーマーキング等の手段により保護膜に刻印を行った場合に、文字、記号等のマークが認識しやすくなるという効果がある。すなわち、保護膜が形成された半導体チップでは、保護膜の表面に品番等が通常レーザーマーキング法(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)により印字されるが、保護膜が着色剤を含有することで、保護膜のレーザー光により削り取られた部分とそうでない部分のコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。
【0089】
着色剤としては、有機または無機の顔料および染料が用いられる。これらの中でも電磁波や赤外線遮蔽性の点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。保護膜付チップが組み込まれた半導体装置の信頼性を高める観点から、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
着色剤の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.1〜35質量部、さらに好ましくは0.5〜25質量部、特に好ましくは1〜15質量部である。
【0090】
カップリング剤
無機物と反応する官能基および有機官能基と反応する官能基を有するカップリング剤を、保護膜形成用フィルムの被着体に対する接着性、密着性および/または保護膜の凝集性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤を使用することで、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上させることができる。このようなカップリング剤としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これらのうちでも、シランカップリング剤が好ましい。
【0091】
シランカップリング剤としては、その有機官能基と反応する官能基が、エポキシ系熱硬化性成分、重合体成分または硬化性重合体成分などが有する官能基と反応する基であるシランカップリング剤が好ましく使用される。
このようなシランカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0092】
シランカップリング剤の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0093】
汎用添加剤
保護膜形成用フィルムには、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤、剥離剤などが挙げられる。
【0094】
保護膜形成用フィルムは、特定の物性を有するエポキシ化合物を含むエポキシ系熱硬化性成分と、必要に応じて配合される上記各成分とを適宜の割合で混合して得られる組成物(保護膜形成用組成物)を用いて得られる。保護膜形成用組成物は予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒に加えてもよい。また、保護膜形成用組成物の使用時に、溶媒で希釈してもよい。
かかる溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ヘプタンなどが挙げられる。
【0095】
保護膜形成用フィルムは、初期接着性と硬化性とを有し、未硬化状態では常温または加熱下で被着体に押圧することで容易に接着する。また押圧する際に保護膜形成用フィルムを加熱してもよい。そして硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い保護膜を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な信頼性を保持し得る。なお、保護膜形成用フィルムは単層構造であってもよく、また多層構造であってもよい。
【0096】
保護膜形成用フィルムの厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜90μm、特に好ましくは3〜80μmである。
【0097】
[保護膜形成用シート]
本発明に係る保護膜形成用シートは、上述した保護膜形成用フィルムが支持シート上に積層されてなる。保護膜形成用シートは、各種の被着体に貼付され、場合によっては、保護膜形成用シート上で被着体にダイシング等の所要の加工が施される。その後、保護膜形成用フィルムを被着体に固着残存させて支持シートを剥離する。すなわち、保護膜形成用フィルムを、支持シートから被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。
【0098】
保護膜形成用シートの形状は、枚葉のものに限られず、長尺の帯状のものであってもよく、これを巻収してもよい。保護膜形成用フィルムは、支持シートと同形状とすることができる。また、保護膜形成用シートは、保護膜形成用フィルムが、ウエハと略同形状又はウエハの形状をそっくり含むことのできる形状に調製されたものであり、保護膜形成用フィルムよりも大きなサイズの支持シート上に積層されている、事前成形構成をとっていてもよい。
【0099】
支持シートとしては、剥離シートが挙げられ、また、後述する粘着シートを用いることもできる。
【0100】
剥離シートとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。
【0101】
剥離シートの保護膜形成用フィルムに接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が比較的低い剥離シートは、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また剥離シートの表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0102】
剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0103】
上記の剥離剤を用いて剥離シートの基体となるフィルム等の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、剥離剤が塗布された剥離シートを常温下または加熱下に供するか、または電子線により硬化させて剥離剤層を形成させればよい。
【0104】
また、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などによりフィルムの積層を行うことにより剥離シートの表面張力を調整してもよい。すなわち、少なくとも一方の面の表面張力が、上述した剥離シートの保護膜形成用フィルムと接する面のものとして好ましい範囲内にあるフィルムを、当該面が保護膜形成用フィルムと接する面となるように、他のフィルムと積層した積層体を製造し、剥離シートとしてもよい。
【0105】
保護膜形成用シート上で被着体にダイシング等の所要の加工が施される場合には、基材上に粘着剤層を形成した粘着シートを支持シートとして用いることが好ましい。この態様においては、保護膜形成用フィルムは、支持シートに設けられた粘着剤層上に積層される。粘着シートの基材としては、剥離シートとして例示した上記のフィルムが挙げられる。粘着剤層は、保護膜形成用フィルムを剥離できる程度の粘着力を有する弱粘着性のものを使用してもよいし、エネルギー線照射により粘着力が低下するエネルギー線硬化性のものを使用してもよい。粘着剤層は、従来より公知の種々の粘着剤(例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系などの汎用粘着剤、表面凹凸のある粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、熱膨張成分含有粘着剤等)により形成できる。
【0106】
保護膜形成用シートの構成がかかる構成であると、保護膜形成用シートが、ダイシング工程において被着体を支持するためのダイシングシートとして機能する場合に支持シートと保護膜形成用フィルムの間の密着性が保たれ、ダイシング工程において保護膜形成用フィルム付チップが支持シートから剥がれることを抑制するという効果が得られる。保護膜形成用シートが、ダイシング工程において被着体を支持するためのダイシングシートとして機能する場合、ダイシング工程において保護膜形成用フィルム付ウエハに別途ダイシングシートを貼り合せてダイシングをする必要がなくなり、半導体装置の製造工程を簡略化できる。
【0107】
保護膜形成用シートが事前成形構成をとる場合においては、保護膜形成用シートを次の第1、第2または第3の構成としてもよい。以下、保護膜形成用シート10の各構成について
図1〜3を用いて説明する。なお、
図1〜3では、支持シートとして粘着シートを用いる構成を示す。
【0108】
第1の構成は、
図1に示すように、保護膜形成用フィルム4の片面に、基材1上に粘着剤層2が形成された粘着シート3が剥離可能に形成された構成である。第1の構成を採用する場合には、保護膜形成用シート10は、その外周部において粘着シート3の粘着剤層2により治具7に貼付される。
【0109】
第1の構成を採用する場合には、該粘着剤層をエネルギー線硬化型粘着剤で構成し、保護膜形成用フィルムが積層される領域に予めエネルギー線照射を行い、粘着性を低減させておく一方、他の領域はエネルギー線照射を行わず、粘着力を高いまま維持しておいてもよい。他の領域のみにエネルギー線照射を行わないようにするには、たとえば粘着シートの他の領域に対応する領域に印刷等によりエネルギー線遮蔽層を設け、粘着シートの基材側からエネルギー線照射を行えばよい。また、この構成を採用する場合、粘着剤層を未硬化の状態で使用し、後述する分離工程(工程(3))の前に、粘着剤層にエネルギー線照射を行い、粘着性を低減してもよい。粘着性を低減することで分離工程を円滑に実施できるようになる。
【0110】
第2の構成は、
図2に示すように、保護膜形成用シート10の粘着剤層2上に、保護膜形成用フィルム4と重ならない領域に別途治具接着層5を設けた構成である。治具接着層としては、粘着剤層単体からなる粘着部材、基材と粘着剤層から構成される粘着部材や、芯材の両面に粘着剤層を有する両面粘着部材を採用することができる。
【0111】
治具接着層は、環状(リング状)であり、空洞部(内部開口)を有し、リングフレーム等の治具7に固定可能な大きさを有する。
【0112】
治具接着層の粘着剤層を形成する粘着剤としては、特に制限されないが、たとえばアクリル粘着剤、ゴム系粘着剤、またはシリコーン粘着剤からなることが好ましい。
芯材の両面に粘着剤層を有する両面粘着部材を治具接着層として用いる場合には、治具接着層の一方の粘着剤層(粘着シートと積層される粘着剤層、以下において「積層用粘着剤層」と記載することがある。)と、他方の粘着剤層(治具に貼付される粘着剤層、以下において「固定用粘着剤層」と記載することがある。)は同種の粘着剤を用いてもよいし、異なる粘着剤を用いてもよい。
これらのうちで、リングフレーム等の治具からの再剥離性の観点からはアクリル粘着剤が好ましい。なお、上記粘着剤は、単独で用いても、二種以上混合して用いてもよい。
【0113】
治具接着層の基材や芯材としては、上述した基材と同様のものを用いることができる。
【0114】
治具接着層の粘着剤層の厚さは、好ましくは2〜20μm、より好ましくは3〜15μm、さらに好ましくは4〜10μmであり、基材や芯材の厚さは、好ましくは15〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは40〜100μmである。
【0115】
第3の構成は、
図3に示すように、保護膜形成用フィルム4と粘着剤層2の間に、さらに保護膜形成用フィルムの形状をそっくり含むことのできる形状の界面接着調整層6を設けた構成である。界面接着調整層は、所定のフィルムであってもよいし、界面接着調整粘着剤層であってもよい。界面接着調整粘着剤層は、エネルギー線硬化性の粘着剤に予めエネルギー線照射を行い硬化させたものであることが好ましい。
【0116】
保護膜形成用シートを、これらの第1から第3の構成とすることで、保護膜形成用フィルムを取り囲む領域においては、粘着剤層または治具接着層の十分な接着性により、保護膜形成用シートを治具に接着することができる。それとともに、保護膜形成用フィルムと粘着剤層または界面接着調整層との界面における接着性を制御し、保護膜形成用フィルムまたは保護膜の固着したチップのピックアップを容易とすることができる。
【0117】
保護膜形成用シートが事前成形構成をとらない場合、すなわち、
図4に示すように、保護膜形成用フィルム4と支持シート(
図4においては、基材1上に粘着剤層2が形成された粘着シート3)とを同形状とした場合において、保護膜形成用フィルム4の表面の外周部には、治具接着層5が設けられていてもよい。治具接着層としては、第2の構成で説明したものと同じものを用いることができる。なお、芯材の両面に粘着剤層を有する両面粘着部材を治具接着層とする場合には、積層用粘着剤層は保護膜形成用フィルムと積層される。
【0118】
支持シートの厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μmである。支持シートが基材上に粘着剤層を形成した粘着シートの場合には、支持シート中3〜50μmが粘着剤層の厚さである。
【0119】
保護膜形成用フィルムの支持シートに貼付される面とは反対面には、カバーフィルムを仮着しておいてもよい。カバーフィルムは、支持シートが粘着シートである場合の粘着剤層や、治具接着層を覆っていてもよい。カバーフィルムは、上述の剥離シートと同じものを用いることができる。
【0120】
カバーフィルムの膜厚は、通常は5〜300μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜150μm程度である。
【0121】
このような保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムは、被着体の保護膜とすることができる。保護膜形成用フィルムはフェースダウン方式のチップ用半導体ウエハまたは半導体チップの裏面に貼付され、適当な手段により硬化されて封止樹脂の代替として半導体ウエハまたは半導体チップを保護する機能を有する。半導体ウエハに貼付した場合には、保護膜がウエハを補強する機能を有するためにウエハの破損等を防止しうる。
【0122】
[保護膜形成用シートの製造方法]
保護膜形成用シートの製造方法について、
図1に示す保護膜形成用シートを例に具体的に説明するが、本発明の保護膜形成用シートは、このような製造方法により得られるものに限定されない。
【0123】
まず、基材の表面に粘着剤層を形成し、粘着シートを得る。基材の表面に粘着剤層を設ける方法は特に限定されない。
例えば、剥離シート(第1剥離シート)上に所定の膜厚になるように、粘着剤を塗布し乾燥して、粘着剤層を形成する。次いで、粘着剤層を基材の表面に転写することで、粘着シートを得ることができる。また、基材の表面に粘着剤を直接塗布、乾燥して粘着剤層を形成し、粘着シートを得ることもできる。
剥離シートとしては、上述した基材として例示したフィルムを用いることができる。
【0124】
また、別の剥離シート(第2剥離シート)上に保護膜形成用組成物を塗布し保護膜形成用フィルムを形成する。次いで、別の剥離シート(第3剥離シート)を保護膜形成用フィルム上に積層し、第2剥離シート/保護膜形成用フィルム/第3剥離シートの積層体を得る。
【0125】
次いで、保護膜形成用フィルムに貼付される被着体と略同形状あるいは被着体の形状をそっくり含むことのできる形状に、保護膜形成用フィルムを切込み、残余の部分を除去する。第2剥離シート/保護膜形成用フィルム/第3剥離シートの積層体が長尺の帯状体である場合には、第3剥離シートを切り込まずにおくことで、長尺の第3剥離シートに連続的に保持された複数の第2剥離シート/保護膜形成用フィルム/第3剥離シートの積層体を得ることができる。
【0126】
そして、上記で得られた粘着シートの粘着剤層上に、第2剥離シート/保護膜形成用フィルム/第3剥離シートの積層体から第2剥離シートを剥離しながら、保護膜形成用フィルムを積層し、基材/粘着剤層/保護膜形成用フィルム/第3剥離シートからなる積層体を得る。その後、第3剥離シートを除去することで、本発明の
図1の態様に係る保護膜形成用シートを得る。なお、第3剥離シートは、上述のカバーフィルムとして機能する。
【0127】
[半導体装置の製造方法]
次に本発明に係る保護膜形成用シートの利用方法について、
図1に示す第1の構成の保護膜形成用シートを半導体装置の製造方法に適用した場合を例にとって説明する。
【0128】
保護膜形成用フィルムに貼付される被着体は、シリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハや、ガラス基板、セラミック基板、FPC等の有機材料基板、又は精密部品等の金属材料など種々の物品を挙げることができる。以下の説明においては、保護膜形成用フィルムに貼付される被着体としてシリコンウエハを用いた例で説明する。
【0129】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを半導体ウエハに貼付し、保護膜を有する半導体チップ(保護膜付チップ)を得る工程を含み。具体的には、以下の工程(1)〜(4)を含む。
工程(1):表面に回路が形成されたシリコンウエハの裏面に、保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付する工程、
工程(2):保護膜形成用フィルムを加熱硬化して保護膜を得る工程
工程(3):保護膜形成用フィルムまたは保護膜と、支持シートとを分離する工程、および、
工程(4):シリコンウエハと、保護膜形成用フィルムまたは保護膜とをダイシングする工程。
なお、上述したように、保護膜形成用シートを、ダイシング工程においてシリコンウエハを支持するためのダイシングシートとして機能させる場合には、半導体装置の製造工程を簡略化する観点から、工程(4)を工程(3)の前に行うことが好ましい。
【0130】
また、本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記工程(1)〜(4)の他に、下記の工程(5)をさらに含んでいてもよい。
工程(5):保護膜形成用フィルムまたは保護膜にレーザー印字する工程。
【0131】
シリコンウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は50〜500μm程度である。
【0132】
その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0133】
次いで、ウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付する(工程(1))。その後、工程(2)〜(4)を行う。工程(2)〜(4)の順序は特に限定されないが、例えば、工程(2)、(3)、(4)の順、工程(3)、(2)、(4)の順または工程(2)、(4)、(3)の順のいずれかの順序で行うことが好ましい。このプロセスの詳細については、特開2002−280329号公報に詳述されている。一例として、工程(3)、(2)、(4)の順で行う場合について説明する。なお、工程(5)は任意の順で行うことができるが、以下の説明においては、工程(4)の後に行っている。
【0134】
まず、表面に回路が形成されたウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付する。次いで保護膜形成用フィルムから支持シートを剥離し、ウエハと保護膜形成用フィルムとの積層体を得る。次いで保護膜形成用フィルムを硬化し、ウエハの全面に保護膜を形成する。具体的には、熱硬化により保護膜形成用フィルムを硬化する。この結果、ウエハ裏面に硬化樹脂からなる保護膜が形成され、ウエハ単独の場合と比べて強度が向上するので、薄くなったウエハの取扱い時の破損を低減できる。また、ウエハやチップの裏面に直接保護膜用の塗布液を塗布・被膜化するコーティング法と比較して、保護膜の厚さの均一性に優れる。
【0135】
次いで、ウエハと保護膜との積層体を、ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングする。ダイシングは、ウエハと保護膜をともに切断するように行われる。ウエハのダイシングは、ダイシングシートを用いた常法により行われる。この結果、ダイシングシート上に個片化された、裏面に保護膜を有するチップ群が得られる。
【0136】
次いで、保護膜にレーザー印字する。レーザー印字はレーザーマーキング法により行われ、レーザー光の照射により保護膜の表面を削り取ることで保護膜に品番等をマーキングする。
【0137】
最後に、裏面に保護膜を有するチップ(保護膜付チップ)をコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、保護膜付チップが得られる。そして、保護膜付チップをフェースダウン方式で所定の基台上に実装することで半導体装置を製造することができる。また、裏面に保護膜を有する半導体チップを、ダイパッド部または別の半導体チップなどの他の部材上(チップ搭載部上)に接着することで、半導体装置を製造することもできる。このような本発明によれば、厚みの均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成でき、ダイシング工程やパッケージングの後のクラックが発生しにくくなる。
【0138】
なお、ウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付した後、工程(4)を工程(3)の前に行う場合(例えば、工程(2)、(4)、(3)の順で行う場合)、保護膜形成用シートがダイシングシートとしての役割を果たすことができる。つまり、ダイシング工程の最中にウエハを支持するためのシートとして用いることができる。この場合、保護膜形成用シートの内周部に保護膜形成用フィルムを介してウエハが貼着され、保護膜形成用シートの外周部がリングフレーム等の他の治具と接合することで、ウエハに貼付された保護膜形成用シートが装置に固定され、ダイシングが行われる。
【実施例】
【0139】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例または比較例において、<エポキシ化合物の硬化物のガラス転移温度測定>、<エポキシ化合物の軟化点測定>および<保護膜付チップの信頼性評価>は以下のように行った。
【0140】
<エポキシ化合物の硬化物のガラス転移温度測定>
エポキシ化合物100gに対して、硬化剤として2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業製 キュアゾール2PHZ)2gを添加し、硬化温度160℃、硬化時間120分にてエポキシ化合物を硬化させた。
【0141】
エポキシ化合物の硬化物を幅4.5mm、長さ20.0mm、厚み0.18mmの短冊状に切断して試験片を作製した。次いで、粘弾性測定装置(TA instruments社製 DMA Q800)を用いて、引張モードにて、試験片のtanδ(損失弾性率と貯蔵弾性率との比)を、周波数11Hz、昇温速度3℃/分、大気雰囲気下で0〜350℃にて測定した。この温度範囲においてtanδが最大値を示す温度を読み取り、エポキシ化合物の硬化物のガラス転移温度(Tg)とした。
【0142】
<エポキシ化合物の軟化点測定>
エポキシ化合物の軟化点は、JIS K 2207:2006に準拠して測定した(環球法)。水又はグリセリンの浴中の支え環中央に一定重量の球を置き、浴温を規定の速さで上昇させた後、球の重みによって試料が垂れ下がった温度を測定した。
【0143】
<保護膜付チップの信頼性評価>
(1)保護膜付チップの製造
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、実施例および比較例の保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムをテープマウンター(リンテック社製 Adwill RAD-3600F/12)により70℃に加熱しながら貼付した。次いで、加熱(130℃、2時間)により保護膜形成用フィルムの硬化を行い、保護膜形成用フィルムと支持シートとを分離し、シリコンウエハと保護膜との積層体を得た。
【0144】
シリコンウエハの保護膜側をダイシングテープ(リンテック社製 Adwill D-676H)に貼付し、ダイシング装置(ディスコ社製 DFD651)を使用して、シリコンウエハと保護膜との積層体を3mm×3mmサイズにダイシングすることで、信頼性評価用の保護膜付チップを得た。
【0145】
(2)評価
そして、保護膜付チップが実際に実装されるプロセスを模倣したプレコンディションに投入した。プレコンディションの条件として、保護膜付チップをベイキング(125℃、20時間)し、85℃、85%RHの条件下で168時間吸湿させ、取り出し直後にプレヒート160℃、ピーク温度260℃のIRリフロー炉に3回通した。
【0146】
この保護膜付チップ25個を冷熱衝撃装置(ESPEC製 TSE-11-A)内に投入し、−65℃(保持時間:10分)と150℃(保持時間:10分)のサイクルを1000回繰り返した。
【0147】
その後、冷熱衝撃装置から取り出した保護膜付チップについて、チップと保護膜との接合部での浮き・剥がれ、クラックの有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック製 Hye-Focus)及び断面観察により評価した。チップと保護膜との接合部に、0.5mm以上の幅の剥離が観察された場合を剥離している(接合部の浮き・剥がれ、クラックあり)と判断して、剥離しているチップの個数(不良品数)を数えた。結果を表2に示す(不良品数/試験数)。不良品数が2以下であれば、高信頼性の保護膜付チップが得られていると評価した。
【0148】
<保護膜形成用組成物>
保護膜形成用フィルムを構成する各成分を下記に示す。
・エポキシ化合物A:1,1−ビス(2,7−ジグリシジルオキシ−1−ナフチル)メタン(硬化物のガラス転移温度:326℃、軟化点:92℃、溶融粘度:4.5dPa・s、数平均分子量:550)
・エポキシ化合物B:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学製 jER828、硬化物のガラス転移温度:180℃、数平均分子量:370)
・エポキシ化合物C:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC製 エピクロンHP−7200HH、硬化物のガラス転移温度:210℃、軟化点:88℃、溶融粘度:8dPa・s、数平均分子量:760)
・熱硬化剤:ジシアンジアミド(旭電化製 アデカバードナー3636AS)
・硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業製 キュアゾール2PHZ)
・アクリル重合体A:アクリル酸ブチル10質量部、メタクリル酸メチル70質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部、及びメタクリル酸グリシジル5質量部からなるアクリル重合体(重量平均分子量:27万、ガラス転移温度:−1℃)
・アクリル重合体B:アクリル酸ブチル15質量部、メタクリル酸メチル65質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部、及びメタクリル酸グリシジル5質量部からなるアクリル重合体(重量平均分子量:44万、ガラス転移温度:−4℃)
・無機フィラー:シリカフィラー(溶融石英フィラー、平均粒径8μm)
・着色剤:カーボンブラック(三菱化学製 MA600B)
・カップリング剤A:シランカップリング剤(信越化学工業製 X-41-1056)
・カップリング剤B:シランカップリング剤(信越化学工業製 KBE-403)
・カップリング剤C:シランカップリング剤(信越化学工業製 KBM-403)
【0149】
(実施例および比較例)
上記各成分を表1に記載の量で配合し、保護膜形成用組成物を得た。また、剥離シートとして、片面に剥離処理を行ったポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック社製 SP−PET381031、厚さ38μm、表面張力30mN/m未満、融点200℃以上)を用意した。
上記保護膜形成層用組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61重量%)を、上記剥離シートの剥離処理面上に乾燥後25μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて120℃、3分間)して、剥離シート上に保護膜形成用フィルムを形成した。次いで、別の剥離シートを保護膜形成用フィルム上に積層し、剥離シートに保護膜形成用フィルムが挟持された積層体を得た。その後、一方の剥離シートは完全に型抜きせず、他方の剥離シートと保護膜形成用フィルムは完全に型抜きするように、積層体をシリコンウエハと同サイズ(直径200mm)に型抜きし、一方の剥離シート上に円形に型抜きされた保護膜形成用フィルムを残し、残余の保護膜形成用フィルムと他方の剥離シートは除去した。
【0150】
また、支持シートとして粘着シート(リンテック社製 Adwill D-676H)を用意した。
【0151】
上記粘着シートの粘着剤層上に上記の保護膜形成用フィルムを貼付し、リングフレームに対する糊しろの外径(直径260mm)に合わせて同心円状に型抜きした。その後、保護膜形成用フィルム上の剥離シートを剥離し、
図1の態様の保護膜形成用シートを得た。
【0152】
【表1】
【0153】
得られた保護膜形成用シートを用いて<保護膜付チップの信頼性評価>を行った。結果を表2に示す。
【0154】
【表2】
【0155】
実施例の保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを硬化した保護膜は優れた信頼性を示した。この結果から、本発明に係る保護膜形成用フィルムあるいは保護膜形成用シートを用いることで、高信頼性の保護膜付チップが得られることが確認された。したがって、該保護膜付チップを用いることで、信頼性に優れる半導体装置を製造できる。