【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
[試験A]
試験Aでは、次のようにして紫外線吸収剤の濃度と光透過率との関係を評価した。まず、下記に示す成分からなる樹脂組成物で構成された樹脂プレートA1〜A4(10mm×40mm×1mm)を準備した。そして、紫外・可視分光光度計(日本分光社製の“V−650”)を用いて全光線透過率を測定した。測定結果を
図2に示した。なお、紫外線吸収剤として添加した各成分の含有量は、樹脂組成物全体に対する各成分の含有量を示したものである(以下の試験においても同様)。
【0047】
樹脂プレートA1:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(4−tert−ブチル−4´−メトキシジベンゾイルメタン(以下、アボベンゾンともいう)、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートA2:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(アボベンゾン、含有量:0.68重量%)
樹脂プレートA3:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(酸化亜鉛、堺化学工業社製、商品名“NANOFINE 50A”、含有量:0.68重量%)
樹脂プレートA4:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)
【0048】
図2に示す結果から、紫外線吸収剤が添加された樹脂プレートA1〜A3では、波長領域220〜380nmの光(紫外線)を略遮断できていることが確認された。
また、アボベンゾンの含有量が少ない樹脂プレートA1は、アボベンゾンの含有量が多い樹脂プレートA2と略同じ紫外線遮光性を示していた。つまり、アボベンゾンは少量であっても紫外線吸収性に優れることが分かった。
紫外線吸収剤としてアボベンゾンが添加された樹脂プレートA1及びA2では、紫外線吸収剤として酸化亜鉛が添加された樹脂プレートA3に比べて波長領域(380〜780nm)における光(可視光)の透過率が高いことが確認され、透明性に優れていることが分かった。
【0049】
[試験B]
試験Bでは、次のようにして各種紫外線吸収剤による紫外線遮光効果について検討した。まず、下記に示す成分からなる樹脂組成物で構成された樹脂プレートB1〜B14(厚さ:1mm)を準備した。そして、各樹脂プレートB1〜B14の中央部を10mm×40mmの大きさに切り出した。そして、紫外・可視分光光度計(日本分光社製の“V−650”)を用いて全光線透過率を測定した。樹脂プレートB1〜B7についての波長220〜440nmにおける光透過率を
図3に示した。また、樹脂プレートB8〜B14についての波長220〜440nmにおける光透過率を
図4に示した。そして、
図3及び
図4において、波長220〜380nmにおける樹脂プレートB1〜B6、B8〜B13のピーク面積を求め、表1に示した。
【0050】
樹脂プレートB1:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(アボベンゾン、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB2:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(BASF社製、“Chimassorb81”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB3:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+ベンゾエート系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin120”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB4:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin326”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB5:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+トリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin1577ED”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB6:環状オレフィン系樹脂(COP,日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(BASF社製、“Uvinul3049”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB7:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)
樹脂プレートB8:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+紫外線吸収剤(アボベンゾン、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB9:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(BASF社製、“Chimassorb81”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB10:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+ベンゾエート系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin120”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB11:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin326”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB12:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+トリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製、“Tinuvin1577ED”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB13:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)+ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(BASF製、“Uvinul3049”、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートB14:環状オレフィン系樹脂(COC、ポリプラスチックス社製、商品名“TOPAS6013S−04”)
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す結果から、アボベンゾンが添加された樹脂プレートB1、B8は、他の紫外線吸収剤が添加された樹脂プレートB2〜B6、B9〜B13に比べて、波長220〜380nmにおけるピーク面積が少なかった。このことから、アボベンゾンは、他の紫外線吸収剤に比べて紫外線吸収性に優れていることが分かった。
また、
図3、
図4に示すように、アボベンゾンは、他の紫外線吸収剤に比べて、波長380〜400nm付近における透過率の傾きが垂直に近いことが確認された。また、アボベンゾンは、他の紫外線吸収剤に比べて、400nm以上の可視光領域の光はほとんど吸収しないことが確認された。つまり、樹脂プレートの透明性をほとんど低下させないことが分かった。
【0053】
以上のことから、医薬品容器を構成する樹脂組成物に紫外線吸収剤としてアボベンゾンを添加した場合、医薬品容器の透明性を低下させずに、医薬品容器注射筒に紫外線遮光性を付与できることが分かった。
【0054】
[溶出物試験]
医薬品容器、特に注射剤容器には、該容器内に充填される薬剤の安全性、安定性に影響を与えないように、日本薬局方の「プラスチック製水性注射剤容器の規格」に適合することが求められる。そのため、下記に示す溶出物試験を行い、「プラスチック製水性注射剤容器の規格」を満たしているかを評価した。
【0055】
<サンプルの調整>
まず、下記に示す成分からなる樹脂組成物で構成された樹脂プレートC1〜C4(80.0mm×50.0mm×1.0mm)を準備し、それぞれの樹脂プレートのできるだけ厚さが均一な部分をとって切断した。厚さは約1mmであった。
【0056】
樹脂プレートC1:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(アボベンゾン、含有量:0.1重量%)
樹脂プレートC2:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(酸化亜鉛、堺化学工業社製、商品名“NANOFINE 50A”、含有量:0.68重量%)
樹脂プレートC3:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)
樹脂プレートC4:環状オレフィン系樹脂(COP、日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX 690R”)+紫外線吸収剤(アボベンゾン、含有量:0.6重量%)
【0057】
次に、各樹脂プレートC1〜C4のそれぞれについて、表裏の表面積の合計が約600cm
2になるように切断片を集め、さらにこれらを長さ約5cm、幅0.5cmの大きさに細断し、水で洗浄した後、室温で乾燥させて各試験片とした。そして、各試験片をフラスコ(容量:約300mL)内に入れ、さらに精製水200mLを正確に加え、フラスコを密栓した。そして、高圧蒸気滅菌器を用いて121℃で1時間加熱した後、室温になるまで放置し、この内容液を各試験液とした。
【0058】
また、水について、同様の方法で操作し空試験液を調製した。そして、各試験液及び空試験液について下記の試験を行った。
【0059】
<泡立ち試験>
試験液5mLを、内径約15mm、長さ約200mmの共栓試験管に入れ、3分間激しく振り混ぜ、生じた泡がほとんど消失するまでの時間を測定した。測定時間が3分以内であれば、適正と判定した。泡立ち試験の結果を表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
<pH試験>
試験液及び空試験液を20mLずつ採り、それぞれに濃度0.1%の塩化カリウム1.0mLを加えた。そして、pHメータを使用して、試験液と空試験液のpHを測定し、その差を算出した。算出した差が1.5以下であれば、適正と判定した。pH試験の結果を表3を示した。
【0062】
【表3】
【0063】
<過マンガン酸カリウム還元性物質検出試験>
試験液20mLを共栓三角フラスコに採り、0.002moL/Lの過マンガン酸カリウム液20.0mL及び希硫酸1mLを加えた後、栓をして3分間煮沸した。フラスコを水で冷却した後、ヨウ化カリウム液0.10gを加えて密栓し、よく混合してから10分間静置した。その後、指示薬としてデンプン試薬5滴を加え、0.01moL/Lのチオ硫酸ナトリウム液で滴定した。
また、空試験液20mLについても、試験液と同様に操作した。
そして、試験液と空試験液の0.002moL/Lの過マンガン酸カリウム液の消費量の差を算出した。消費量の差が1.0mL以下であれば適正と判定した。過マンガン酸カリウム還元性物質検出試験の結果を表4に示した。
【0064】
【表4】
【0065】
<紫外吸収スペクトル吸収物質検出試験>
試験液の吸光度について、空試験液を対照として分光光度計を用いて測定した。ここでは、220nm、240nm、241nm、350nmの4波長の固定波長測定を行った。そして、波長220nm以上241nm未満における吸光度が0.08abs以下で、かつ、波長241nm以上350nm以下における吸光度が0.05abs以下であれば、適正と判定した。紫外吸収スペクトル吸収物質検出試験の結果を表5に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
<蒸発残留物検出試験>
蒸発皿を感熱し、室温まで徐冷した後、空重量を測定した。そして、試験液10mLを蒸発皿に採り、水浴上で蒸発乾固した。そして、残留物を105℃に設定した恒温槽内で1時間乾燥した。その後、蒸発皿を取り出して室温まで徐冷し、重量を測定した。測定した重量と空重量との差から、蒸発残留物の重量を求めた。試験液10mL中における蒸発残留物の重量が1.0mg以下であれば適正と判定した。蒸発残留物検出試験の結果を表6に示した。
【0068】
【表6】
【0069】
表2〜6に示すように、樹脂プレートC1〜C4は、上記各試験の判定結果が全て適正であることが確認された。また、上記した試験Bで用いた樹脂プレートB2〜B6についても、上記樹脂プレートC1〜C4と同様にして溶出物試験を行ったところ、いずれも適正であることが確認された。
【0070】
以上のことから、医薬品容器を構成する樹脂組成物に紫外線吸収剤としてアボベンゾンを採用することで、医薬品容器の透明性を低下させずに医薬品容器に紫外線遮光性を付与できるだけでなく、医薬品容器としての安全性を確保できることが分かった。