【文献】
P. BERA et al.,Studies on Cu/CeO2: A New NO Reduction Catalyst,Journal of Catalysis,1999年,186,36-44.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
触媒カチオンが結合されたセリア基質表面を含む触媒およびこの触媒の製造方法が提供される。この触媒の製造方法は、基質を、触媒カチオンを含有する溶液および助触媒カチオンを含有する溶液に接触させることを含み得る。特定の変形例において、触媒カチオンを含有する溶液は、キレート化された触媒カチオンを含み得る。触媒は、遷移金属、ポスト遷移金属、またはこれら双方の触媒カチオン、および、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれら双方の助触媒カチオンと結合された、セリアベースの基質を含み得る。
【0014】
触媒の製造方法は、基質を、触媒カチオンを含有する溶液に接触させるステップを含む。この溶液は代わりに触媒カチオン溶液とも呼ばれる。基質はセリアを含む。「セリア」は、セリウムの酸化物を指す。さまざまな変形例において、基質は、任意で、セリアと混合される、さまざまなセラミックまたは金属の酸化物、たとえば、ジルコニウム、アルミニウム、またはシリコンの酸化物を含み得る。
【0015】
基質は、いずれかの物理的構成の固相材料を含み得る。いくつかの局面において、基質は表面積/質量比が高いセリアを含み得る。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約20m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約50m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約75m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約100m
2・g
−1より高くてもよい。
【0016】
高い表面積/質量比を有する基質の適切な物理的構成は、ハニカム構造、いずれかの多孔構造、粉体、または、高い表面積/質量比を有するその他のいずれかの構成を含み得る。いくつかの例において、基質は、粒径25nm〜200μmの粉末形態で存在する。いくつかの例において、基質は、表面積/質量比が約100m
2・g
−1の粉末形態で存在する。
【0017】
上記方法に使用する適切な触媒カチオンは、遷移金属カチオンおよびポスト遷移金属カチオンを含む群から得ることができる。いくつかの局面において、触媒カチオンは、いずれかの遷移金属カチオンまたはポスト遷移金属カチオンを含み得る。本明細書で使用する遷移金属は、第4〜13族のいずれかのDブロック金属であってもよい。ポスト遷移金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、またはビスマスを含む群からのいずれかの金属であってもよい。いくつかの局面において、適切な触媒カチオンは、1つ以上の第4周期遷移金属、すなわちスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛を含む群の遷移金属のカチオンを含み得る。いくつかの例において、適切な触媒カチオンは、鉄、銅、またはコバルト、またはその組合わせのカチオンを含む。
【0018】
いくつかの局面において、触媒カチオンを含有する溶液は、少なくとも1つのキレート化剤を含み得る。本明細書で使用するキレート化剤は、中心の金属カチオンと2つ以上の配位結合を形成できる可溶性の多座配位子である。使用できるキレート剤の、非限定的な例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、クエン酸、エチレンジアミン、2,3−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸、ジメルカプトコハク酸、デフェロキサミンメシル酸塩、シュウ酸、酒石酸、またはアスコルビン酸を含む。キレート化剤は共役酸−塩基対のいずれかまたは双方を含み得ることが理解されねばならない。
【0019】
意図されているのは、キレート化剤が使用される方法の変形例において、キレート化剤と触媒カチオンとの間のキレート化錯体を、触媒カチオン溶液に触媒カチオンを含める前に予め形成し得ることである。本明細書で使用するキレート化錯体は、少なくとも1つのキレート化剤分子と触媒カチオンとを含む配位体であってもよい。他の例において、キレート化剤および触媒カチオンを、触媒カチオンを含有する溶液に、別々に導入してもよい。
【0020】
上記方法において使用できる適切なキレート化剤は、熱力学的に安定したキレート化錯体を触媒カチオンとともに形成することができるいずれかのキレート化剤を含み得る。たとえば、キレート化剤として、標準条件(中性pHの水溶液、25℃、および1大気圧)の下で、触媒カチオンと1μM未満の解離定数(Kd)を有するキレート化錯体を形成するキレート化剤を選択してもよい。キレート化剤として、標準条件の下で約0.1μM未満のKdを有するキレート化錯体を形成するキレート化剤を選択してもよい。キレート化剤として、標準条件の下で約0.01μM未満のKdを有するキレート化錯体を形成するキレート化剤を選択してもよい。キレート化剤として、標準条件下で約0.001μM未満のKdを有するキレート化錯体を形成するキレート化剤を選択してもよい。本明細書で使用する解離定数は、自由触媒カチオン濃度と自由キレート化剤濃度との積を、完全に配位した錯体と部分的に配位した錯体を含むすべてのキレート化錯体種の合計で除したものであると、定義される。
【0021】
キレート化剤を使用する触媒製造方法の変形例において、触媒カチオンは、「保護された触媒カチオン」として説明することができる。特定の理論に縛られるわけではないが、
図1に概略的に示されるように、この方法を実施することにより、触媒カチオンを、1つ以上の異なる構成で、基質表面に結合させることができると考えられる。これらの構成は、分離されたイオンまたは小さなクラスタ、二次元シート、および三次元結晶を含む。また、特定の理論に縛られるわけではないが、キレート化剤を利用することによって、特に分離されたイオンまたは小さなクラスタの形成を阻止することにより、基質表面における触媒カチオンの分布に影響を与えることができると考えられる。
【0022】
意図されているのは、キレート化剤を使用する例において、キレート化剤が、触媒カチオン溶液中に、触媒カチオンとほぼ等モルの量、存在し得ることである。これに代えて、触媒カチオンよりも多いモルのキレート化剤が存在していてもよい。いくつかの例において、適切なキレート化剤は、触媒金属カチオンとともに、正味の負電荷を有するキレート化錯体を形成することができるキレート化剤である。いくつかの例において、適切なキレート化剤は四座配位子である。いくつかの例において、適切なキレート化剤はEDTAである。
【0023】
触媒カチオン溶液の触媒カチオンは、いずれかの正の酸化状態の金属原子を含み得る。適切な酸化状態は、いくつかの例において、使用する触媒カチオンが、使用するいずれかのキレート化剤とともに、熱力学的に安定したキレート化錯体を形成できる酸化状態を含み得る。
【0024】
触媒製造方法は、さらに、基質を、助触媒カチオンを含有する溶液に接触させるステップを含み得る。この溶液は代わりに助触媒カチオン溶液とも呼ばれる。助触媒カチオンは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群からのいずれか1つまたは複数の元素のカチオンを含み得る。いくつかの例において、助触媒カチオンは、以下の元素、すなわちリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムのうちの少なくとも1つのカチオンであってもよい。
【0025】
上記方法のいくつかの局面において、基質を、触媒カチオンを含有する溶液、助触媒カチオンを含有する溶液、またはこれら双方の溶液に、インシピエントウェットネス含浸(incipient wetness impregnation(IWI))によって、接触させてもよい。IWIでは、基質を、インシピエントウェットネス体積で湿潤させる。これは、粒子内および粒子間容量を充填するのに必要な溶液の最小体積である。インシピエントウェットネス体積はいずれか適切な手段で求めることができる。基質のインシピエントウェットネス体積を求めるための適切な手段の一例は、N
2の物理吸着中の総体積取り込みによるものである。
【0026】
触媒カチオンを含有する溶液および助触媒カチオンを含有する溶液は各々溶媒を含み得る。意図されているのは、適切な溶媒が、基質表面を溶媒和することができ、助触媒カチオンまたはその塩を溶媒和することができ、触媒カチオンまたはその塩またはそのキレート化錯体を、またはこれらを組合わせたものを溶媒和することができる、いずれかの溶媒を含み得ることである。いくつかの例において、溶媒は水であってもよい。いくつかの例において、溶媒は、水/メタノール等の水/有機物の混合物であってもよい。いくつかの例において、溶媒は極性有機溶媒であってもよい。触媒カチオンを含有する溶液および助触媒カチオンを含有する溶液は、同一のまたは異なる溶媒を含み得る。
【0027】
基質を助触媒カチオン溶液に接触させるステップを含む触媒製造方法のいくつかの例において、触媒カチオン溶液と助触媒カチオン溶液とは別個のものであってもよい。このような例のさまざまな変形例において、基質を、触媒カチオン溶液との接触前にまたは接触中に、助触媒カチオン溶液に接触させてもよい。その他の例において、触媒カチオン溶液および助触媒カチオン溶液は、同一の溶液であってもよい、すなわち、助触媒カチオンおよび触媒カチオン双方を含有する1つの溶液を使用してもよい。
【0028】
基質を触媒カチオン溶液に接触させる前に助触媒カチオン溶液に接触させる例において、助触媒カチオン溶液の溶媒を、基質を触媒カチオン溶液に接触させる前に、基質から除去してもよい。このような触媒除去は、たとえば、基質を加熱するまたは基質に真空を適用することによって行なうことができる。
【0029】
いくつかの他の局面において、基質を触媒カチオン溶液に接触させ、その直後にまたはその後間を置いてから、触媒カチオン溶液の溶媒を除去してもよい。その他の局面において、基質を触媒カチオンに接触させ、その直後にまたはその後間を置いてから、酸化条件下で触媒を加熱してもよい。さらに他の局面において、基質に触媒カチオン溶液を接触させ、その直後にまたはその後間を置いてから、溶媒を除去し、酸化条件下で触媒を加熱してもよい。本明細書で使用する「酸化条件下」という表現は、触媒に吸着される有機物を酸化させるのに十分な条件下を意味し得る。このような有機物は、たとえばキレート化剤を含み得る。基質を酸化条件下で加熱することは、IWIステップから残っているいずれかの有機残渣を焼いて除去する、および/または組成物内に残っているいずれかの揮発性成分を蒸発させる役割を果たし得る。いくつかの変形例において、酸化条件下で加熱することは、触媒を周囲空気の下で約550℃に加熱することを含み得る。
【0030】
基質を触媒カチオン溶液に接触させた後に溶媒を除去する方法の局面において、これらのステップを含むシーケンスを少なくとも1度繰返してもよい。このような繰返しは、たとえば、触媒カチオン溶液が、基質に結合する触媒カチオンの所望のローティング密度を得るのに不十分な濃度の場合に、役立ち得る。
【0031】
図2Aは、本開示に従う触媒を製造するための方法100の1つの可能なフォーマットの概略図を示す。ステップ102において、基質を、IWIにより、助触媒カチオンを含有する溶液、たとえばNaHCO
3の溶液で修飾してもよい。ステップ104において、溶媒を、たとえば、基質をある期間真空下に置くことによって除去する。ステップ106は、基質を、IWIにより、触媒カチオンを含有する溶液、たとえばNH
4FeEDTAの溶液で修飾することを含む。ステップ108において、溶媒を、たとえば基質をある期間真空下に置くことによって除去する。ステップ110において、基質を酸化条件下で加熱する。
【0032】
図2Bは、本開示に従う触媒を製造するための方法112の別の可能なフォーマットを示す。ステップ114において、基質を、IWIにより、助触媒カチオンおよび触媒カチオンを含有する溶液、たとえばNaFeEDTAの溶液で修飾する。ステップ116において、溶媒を、たとえば、基質をある期間真空下に置くことによって除去する。ステップ118において、基質を酸化条件下で加熱する。
【0033】
基質と基質表面に結合された触媒カチオンとを含む触媒も開示される。基質はセリアを含む。「セリア」は、セリウムの酸化物を指す。さまざまな変形例において、基質は、任意で、セリアと混合される、さまざまなセラミックまたは金属の酸化物、たとえば、ジルコニウム、アルミニウム、またはシリコンの酸化物を含み得る。触媒カチオンは、基質表面に、
図1に概略的に示される、分離されたイオンもしくは小さなクラスタ、二次元シート、または三次元結晶を含む形状で、結合し得る。いくつかの変形例において、触媒カチオンは、主として二次元シートとして基質表面に結合されてもよい。
【0034】
基質は、いずれかの物理構成の固相セリアを含み得る。いくつかの局面において、基質は表面積/質量比が高いセリアを含み得る。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約20m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約50m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約75m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約100m
2・g
−1より高くてもよい。
【0035】
高い表面積/質量比を有する基質は、ハニカム構造を有する基質、多孔構造を有する基質、粉体、または、高い表面積/質量比を有するその他のいずれかの構成を有する基質を含み得ることが理解されねばならない。いくつかの例において、基質は、粒径25nm〜200μmの粉末形態で存在する。いくつかの例において、基質は、表面積/質量比が約100m
2・g
−1の粉末形態で存在する。
【0036】
さまざまな局面において、基質表面に結合される触媒カチオンは、遷移金属カチオンまたはポスト遷移金属カチオンを含み得る。本明細書で使用する遷移金属は、第4〜13族のいずれかのDブロック金属であってもよい。ポスト遷移金属は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、またはビスマスを含む群からのいずれかの金属であってもよい。適切な触媒カチオンの非限定的な例は、カドミウム、コバルト、銅、クロム、鉄、マンガン、金、銀、白金、チタン、ニッケル、ニオブ、モリブデン、ロジウム、パラジウム、スカンジウム、バナジウム、または亜鉛のカチオンを含み得る。いくつかの局面において、適切な触媒カチオンは、キレート剤とともに安定したキレート化錯体を形成することができるものであってもよい。
【0037】
いくつかの局面において、触媒カチオンは、第4周期遷移金属カチオン、すなわち、スカンジウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、または亜鉛のうちのいずれかのカチオンを含む群の遷移金属のカチオンであってもよい。いくつかの変形例において、触媒カチオンは、1つの元素のカチオンからなるものであってもよい。その他の変形例において、触媒カチオンは、2つ以上の元素のカチオンを含み得る。意図されているのは、触媒カチオンが配位結合によって基質表面に結合し得ることである。このような配位結合は酸化物結合であってもよい。
【0038】
触媒カチオンは、いずれかのローディング密度で触媒内に存在し得る。本明細書で使用する「ローディング密度」という表現は、触媒カチオンからなる触媒の割合を指す。ローディング密度は、ある場合では、重量パーセントという単位で説明してもよく、その他の場合では、触媒の質量当たりの触媒カチオンのモルという単位で説明してもよく、さらに他の場合では、触媒の表面積当たりの触媒カチオンの数という単位で説明してもよい。ある局面において、触媒カチオンは、0.1wt%以上のローディング密度で存在し得る。他の局面において、触媒カチオンは、2.0wt%未満のローディング密度で存在し得る。
【0039】
ある局面において、触媒カチオンは、基質表面の単層被覆を上回るのに十分な量で触媒内に存在し得る。他の局面において、触媒カチオンは、基質表面の単層被覆に十分であるがそれを上回らない量で触媒内に存在し得る。ある局面において、触媒カチオンは、基質表面の単層被覆に不十分な量で触媒内に存在し得る。
【0040】
触媒は、基質表面に結合された助触媒カチオンをさらに含み得る。助触媒カチオンは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオンを含み得る。いくつかの例において、適切な助触媒カチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群からのいずれかの元素のカチオンを含み得る。助触媒カチオンは酸化物結合を含む配位結合によって基質表面に結合し得ることが理解されねばならない。助触媒カチオンを基質に結合させることができる酸化物は、セリウムの酸化物および触媒カチオンの酸化物を含む。
【0041】
助触媒カチオンは、触媒カチオンに対するいずれかの化学量論比で触媒内に存在し得る。いくつかの例において、配位された助触媒カチオンの、触媒カチオンに対する化学量論比は、1:2、6:1、またはその中間のいずれかの比を含む範囲に含まれていてもよい。
【0042】
いくつかの局面において、触媒は、燃焼排気内に存在し得る気体、特に、内燃機関の燃焼排気流内に存在し得る気体の反応を触媒することができる。いくつかの例において、触媒は、窒素の酸化物の還元を触媒することができる。いくつかの例において、触媒は、酸化窒素の特定の還元を触媒することができる。
【0043】
さまざまな例において、触媒は、反応I、反応II、または反応Iと反応II双方を触媒することができる。
【0044】
2NO+2H
2 → N
2+H
2O I
2NO+3H
2 →2NH
3+O
2 II
触媒が反応Iと反応II双方を触媒する例において、触媒は、式Aによって定義されるパーセントN
2選択率を有するものとして特徴付けることができる。
【0046】
いくつかの例において、触媒は、反応Iおよび反応IIを、約67%に等しいかまたはそれよりも高い%N
2選択率で触媒することができる。いくつかの例において、N
2選択率は、約90%に等しいかまたはそれよりも高くてもよい。
図3Aは、反応Iおよび反応IIを約67%のN
2選択率で触媒する触媒の一例を示す。触媒は、NOとH
2を含む450℃の気体流に晒され、流出物のN
2およびNH
3含有量が質量分析によってモニタリングされ、その結果が、活性触媒カチオン量に基づいてターンオーバー頻度(TOF、時間当たりの触媒の1モル当たりの生成物のモル数)に変換された。TOFは反応ごとのNO消費量に比例するので、この結果は、反応IによるNO消費がおよそ2:1で優先すること、またはN
2選択率がおよそ67%であることを示している。
【0047】
他の例において、触媒は、反応IIIまたは反応IVを触媒することができる。
2NO+2CO → N
2+2CO
2 III
18NO+2C
3H
6 →9N
2+6H
2O+6CO
2 IV
このような例において、触媒は、これに加えてまたはこれに代えて、酸化窒素と一酸化炭素またはプロピレンとの不完全な酸化還元反応を触媒することができる。不完全な反応では、さまざまな硝酸塩またはニトリル等の生成物が生じ得る。
【0048】
いくつかの局面において、触媒は、水に安定で、水への露出後に触媒活性を保持するものであってもよい。生成物の形成中以外でも、このような水への露出は、たとえば、触媒が晒される燃焼排気流内の水蒸気の存在によって、生じ得る。このような局面は
図3Bに示される。
図3Bに示される実験は、
図3Aの実験と同様であるが、追加された特徴は、縦方向の点線で示されるように、水蒸気を1時間ずつ3回一時的に追加したことであり、H
2入口流はH
2Oバブラーによって進路が変更された。図示のように、触媒は、水パルスの間〜90%の活性を保ち、水パルスが終了すると全活性に戻っている。各水パルス中のNH
3生成における明らかなスパイクは、一部には、質量分析計がアンモニアから水を区別できないことが原因である。
【0049】
いくつかの局面において、基質に結合された触媒カチオンの少なくとも30%は、還元反応温度が550℃を超えない条件の下で少なくとも2つの還元/酸化サイクルを経ることができる。触媒のこれらの局面については以下の実施例41〜44においてより詳細に説明する。
【0050】
セリア基質を助触媒カチオンを含有する溶液に接触させることと、この基質を触媒カチオンを含有する溶液に接触させることとを含む方法によって製造される、基質と触媒カチオンとを含む触媒も開示される。上記基質は、セリアの調整物を含み、いくつかの変形例においてはセリアと混合されたセラミックまたは金属酸化物を含み得る。
【0051】
さまざまな局面において、基質は、いずれかの物理構成の固相セリアを含み得る。いくつかの局面において、基質は表面積/質量比が高いセリアを含み得る。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約20m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約50m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約75m
2・g
−1より高くてもよい。いくつかの変形例において、高い表面積/質量比は、約100m
2・g
−1より高くてもよい。
【0052】
高い表面積/質量比を有するセリアを含むセリア担持体は、ハニカム構造を有するセリア基質、多孔構造を有するセリア基質、セリア紛体、または、表面積/質量比が高いその他いずれかの構成を有するセリア基質を含み得ることが、理解されねばならない。いくつかの例において、セリア担持体は、粒径25nm〜200μmの粉末形態で存在する。いくつかの例において、セリア担持体は、表面積が約100m
2・g
−1の粉末形態で存在する。
【0053】
触媒カチオンは、基質表面に結合された遷移金属またはポスト遷移金属カチオンを含み得る。いくつかの変形例において、触媒カチオンは、第4周期遷移金属を含み得る。触媒カチオンは、触媒カチオンを含有する溶液に基質が接触したときに基質の表面に配位されることができる。触媒カチオンは、酸化物結合を介して基質の表面に配位されてもよい。触媒カチオンは、分離されたイオンもしくは小さなクラスタ、二次元シート、三次元シート、またはこれらを組合わせたものにおいて、基質の表面上に配列されてもよい。
【0054】
触媒カチオンを含有する溶液は、触媒カチオンを含む塩を含み得る。いくつかの例において、触媒カチオンを含有する溶液は、キレート化剤を含み得る。上記のように、キレート化剤によって配位された触媒カチオンを、キレート化された触媒カチオンまたは保護された触媒カチオンと呼ぶことができる。
【0055】
助触媒カチオンを含有する溶液において使用することができる適切な助触媒カチオンは、アルカリ金属のカチオン、アルカリ土類金属のカチオン、またはこれら双方のカチオンを含み得る。いくつかの例において、助触媒カチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群からの少なくとも1つの元素のカチオンであってもよい。
【0056】
いくつかの局面において、触媒は、燃焼排気内に存在し得る気体、特に、内燃機関の燃焼排気流内に存在し得る気体の反応を触媒することができる。いくつかの例において、触媒は、窒素の酸化物の還元を触媒することができる。いくつかの例において、触媒は、酸化窒素の特定の還元を触媒することができる。
【0057】
以下の実施例によって示されるように、本開示に従う、触媒カチオンを含有する溶液がキレート化された触媒カチオンを含む方法によって製造される、触媒の触媒特性は、キレート化された触媒カチオンが使用されない方法によって製造される、触媒の触媒特性とは異なり得る。特定の理論に縛られるわけではないが、触媒カチオンを含有する溶液において保護された触媒カチオンを用いる方法は、おそらくは、基質表面上の孤立した部位に触媒カチオンが吸着されることを、立体的におよび/または電子的に阻止することによって、二次元シートの形成を向上させることができる。この局面では、立体的な嵩が高いキレート化剤、および/または触媒カチオンとのキレート化錯体が正味の負電荷を有するキレート化剤が、役立ち得る。
【0058】
実施例
以下の実施例は専ら例示のために示され、本発明の範囲を限定すると解釈されてはならない。これらの実施例により、本発明の特徴および利点をより明確に理解することができるであろう。
【0059】
実施例1〜33は、
図3Aおよび
図3Bの方法に従うさまざまな触媒の製造を示す。実施例1〜19において、基質はセリアであり触媒カチオンは第二鉄であった。触媒カチオンを含有する溶液は、保護された(NaFeEDTAもしくはNH
4FeEDTA)または保護されていない(Fe(NO
3)
3)カチオンいずれかを含んでいた。その製造がNaFeEDTAの使用を含む実施例は、
図3Bの方法に従って製造された。その製造がNH
4FeEDTAまたはFe(NO
3)
3を含む実施例は、
図3Aの方法に従って製造され、ステップ106および108はこのような実施例すべてではないがそのうちのいくつかに含まれていた。
【0060】
特に指定されない限り、基質は、C.I. Kasei Co., Ltd.から得た、表面積/質量比が101m
2・g
−1のNanoTek CeO
2粉末であった。基質は、使用前に、120℃で、周囲雰囲気において、12時間を上回る時間、乾燥させた。その他すべての試薬は、Sigma-Aldrich社から得てそのまま使用した。N
2物理吸着等温線を、Micromeritics社のASAP2010アナライザを用いて得た。助触媒で修飾された担持体および助触媒で修飾されていない担持体を、6時間、5mTorrを超える圧力で、120℃で脱ガス処理し、物理吸着前に、吸収された水を放出させた。触媒組成の元素分析は、Varian社のMPX ICP−OES装置を用いて行なった。
【0061】
実施例34〜58は、実施例1〜33の触媒に適用されてこれらの化学的特性、構造的特性、および触媒特性を調べる、さまざまな解析技術を示す。
【0062】
実施例1〜3
NaFeEDTAおよびNH
4FeEDTAを、25mLのH
2O中の10mmolのH
4EDTAと10mmolのFe(NO
3)
3・9H
2Oを、60℃で、すべての固体が溶解するまで撹拌することにより、調製した。溶解後、40mmolのNaHCO
3またはNH
4HCO
3をゆっくりと加え、得られた溶液を、回転蒸発によって5mLに濃縮し、−20℃で一晩保存した。得られた結晶を、濾過によって分離し、アセトン中で洗浄し、20mTorrで12時間乾燥させた。熱重量分析は、鉄(III)キレートの純度が99%を上回ることを示した。
【0063】
(NH
4)
2CoEDTAを、25mLのH
2O中の10mmolのH
4EDTAと10mmolのCo(NO
3)
3・6H
2Oを、60℃で、すべての固体が溶解するまで撹拌することにより、調製した。溶解後、40mmolのNH
4HCO
3をゆっくりと加え、得られた溶液を、回転蒸発によって完全に濃縮した。錯体を、真空化で加熱して残余のNH
4NO
3を除去することによって精製した。
【0064】
実施例4〜6
触媒を、触媒カチオンと助触媒カチオンの化学量論比が1:1である、保護されていない鉄(III)触媒カチオンとナトリウム助触媒カチオンが結合したセリア基質を用いて製造した。セリア粉末を、IWI体積の、濃度200、400、または600mMのNaHCO
3に接触させた。修飾された基質を、部分的に覆われた容器内で、周囲条件下で24時間乾燥させた後、120℃で12時間加熱した。次に、修飾された基質各々を、IWI体積の、同じ濃度(それぞれ200、400、または600mM)のFe(NO
3)
3の中に置いた。触媒を、部分的に覆われた容器内で、周囲雰囲気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0065】
実施例7〜13
触媒を、単一溶液内の保護された鉄(III)触媒カチオンとナトリウム助触媒カチオンを用いて製造した。表面積が101m
2・g
−1であるCeO
2粉末を、N
2物理吸着によって決まるインシピエントウェットネス体積の、濃度100、200、または300mMの、実施例1において調製されたNaFeEDTAの中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で周囲大気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。NaFeEDTAの溶解度のために一回の含浸によるローディング密度が約0.6Fe・nm
−2に制限されたので、含浸と乾燥を複数回繰返すことによってより高い密度を得た。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0066】
実施例14〜15
触媒を、保護された鉄(III)触媒カチオンを用い助触媒カチオンは用いずに製造した。セリア粉末を、100または200mMの、実施例2において調製されたNH
4FeEDTAを含む、N
2物理吸着によって決まるインシピエントウェットネス体積の中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で24時間周囲大気下で乾燥させた後、12時間動的真空(〜20mTorr)下で乾燥させた。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0067】
実施例16〜19
触媒を、化学量論比が1:1である、保護された鉄(III)触媒カチオンと一連のアルカリ金属助触媒カチオンを用いて製造した。セリア粉末を、インシピエントウェットネス体積の、濃度100mMのLiOH、NaHCO
3、KHCO
3、またはCsHCO
3の中に置いた。修飾された材料を、部分的に覆われた容器内で、周囲条件下で24時間乾燥させた後、120℃で12時間加熱することにより、一連のアルカリ修飾担体を生成した。次に、修飾され乾燥させた材料を、IWI体積の、濃度100mMの、実施例2において調製したNH
4FeEDTAの中に置いた。含浸させた触媒を、部分的に覆われた容器内で、周囲雰囲気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0068】
実施例20〜22
触媒を、〜0.5Fe・nm
−2の保護された鉄(III)触媒カチオンおよびローディング密度を変化させたナトリウム助触媒カチオンを用いて製造した。セリア粉末を、IWI体積の、濃度100、200、または300mMのNaHCCO
3の中に置き、修飾された基質を、部分的に覆われた容器内で、周囲条件下で24時間乾燥させた後、120℃で12時間加熱した。次に、修飾された基質を、IWI体積の、濃度200mMの、実施例2で調製されたNH
4FeEDTAの中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で周囲大気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0069】
実施例23〜30
触媒を、単一溶液内の保護された銅(III)触媒カチオンとナトリウム助触媒カチオンを用いて製造した。表面積が101m
2・g
−1であるセリア粉末を、100、200、または300mMの、Sigmaから購入したNa
2CuEDTAを含む、N
2物理吸着によって決まるインシピエントウェットネス体積の中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で周囲大気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。Na
2CuEDTAの溶解度のために一回の含浸によるローディング密度が約0.6Cu・nm
−2に制限されたので、含浸と乾燥を複数回繰返すことによってより高い密度を得た。乾燥させた触媒を、周囲の静止空気下で、温度傾斜率10℃/分で、室温から550℃まで加熱した。
【0070】
実施例31〜33
表面積が108m
2・g
−1であるCeO
2/ZrO
2粉末を、IWI体積のKHCO
3の中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で、周囲条件下で24時間乾燥させた後、120℃で12時間加熱することにより、アルカリ修飾基質を生成した。助触媒カチオン修飾基質を、インシピエントウェットネス体積の、濃度200mMの(NH
4)
2CoEDTAの中に置いた。含浸させた材料を、部分的に覆われた容器内で、周囲大気下で24時間乾燥させた後、動的真空(〜20mTorr)下で12時間乾燥させた。それ以外は、同等の触媒を、保護された、コバルト(II)ではなく鉄(III)または銅(II)触媒カチオンを用いて製造した。触媒カチオンに対する助触媒カチオンの化学量論比は、鉄(III)およびコバルト(II)を含有する触媒の場合、1:1であり、銅(II)を含有する触媒の場合、2:1であった。触媒カチオンのローディング密度は、約0.4重量%と同等である、〜0.4カチオン/nm
2であった。
【0072】
実施例34〜35 紫外・可視領域の拡散反射測定
実施例4〜13に従って製造された触媒を、基質表面上の触媒カチオンの配位の形状を、触媒カチオンローディング密度の関数として、触媒カチオンの保護または非保護の性質について、評価するために、紫外・可視領域の拡散反射測定(diffuse reflectance UV-visible(DRUV−vis))によって解析した。分離されたFe
3+イオンは300nm未満を吸収すると予測され、二次元シートは300nmと500nmの間を吸収すると予測され、三次元結晶が吸収するのは500nmを上回ると予測される。分離されたFe
3+に対応する帯域は、350nm未満のCeO
2の吸収が優勢なので不明瞭になり、一方、二次元シートおよび三次元結晶に対応する帯域は、それぞれ、CeO
2帯域上の肩、および、λ>500nmを中心とするピークに現われる可能性がある。
【0073】
DRUV−vis実験は、Shimadzu社の3600UV可視近赤外分光計を、Harrick社のプレイングマンティス(Praying Mantis)拡散反射アタッチメントとともに用い、PTFEをベースライン標準として、行なった。スペクトルを収集する前に、すべての材料を、1:5でPTFEにおいて希釈し、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。拡散反射スペクトルを、クベルカムンク(Kubelka Munk)変換(Kubelka et al. Z. Tech. Phys. 12, 593-6011 (1931))を用いて疑似吸収スペクトルに変換した。
【0074】
ナトリウム助触媒カチオンが組込まれ、ローディング密度を変化させた鉄(III)触媒カチオンが組込まれた触媒の、代表的なDRUV−visスペクトルが
図4Aおよび
図4Bに示される。細い線は触媒であり太い線は基準としてのセリア基質である。
図4Aに示される触媒は実施例4〜6に従って製造されたものであり、
図4Bに示される触媒は、実施例7〜13に従って製造されたものである。
図4Aのスペクトルの最小の肩は、500nm未満のセリアピークにあり、たとえ鉄(III)ローディング密度が最高であっても、500nmを超えるところには事実上ない。このことは、保護されていない触媒カチオンが、触媒内に、優先的に、分離されたイオンまたは小さなクラスタとして、組込まれていることを示唆する。
【0075】
図4Bのスペクトルの肩は、最小触媒カチオンローディング密度でも、500nmを下回っている。最大ローディング密度、特に0.6/nm
2を超える触媒カチオンのローディング密度では、
図4Bのスペクトルは、500nmを下回る波長において大きな肩を有し、500nmを超える波長の吸収が大きい。このことは、触媒製造方法において、保護された触媒カチオンを使用することにより、触媒カチオンの二次元シートへの導入および高いローディング密度での三次元結晶への導入が向上することを、示唆している。
【0076】
実施例36〜40 温度がプログラムされた還元
温度がプログラムされた還元(temperature-programmed reduction)(TPR)の実験を、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒と、保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒とを対比させて、触媒カチオン還元(H
2O放出)を評価するために、実施例4〜13に従って製造された触媒に対して行なった。基質酸化物担体と強く反応する単量体触媒カチオン構造は、触媒カチオンのバルク酸化物により似ている凝集体よりも、高い温度で還元すると予測される。たとえば、分離された鉄(III)カチオンは、600℃と700℃の間で還元すると予測されるのに対し、二次元シートおよび三次元結晶は、それぞれ、400〜500℃および300〜400℃で還元するはずである。
【0077】
TPR実験を、Pfeiffer社のサーモスター(Thermostar)Q200プロセス質量分析計を備えたTA Instruments社のQ500 TGAで行なった。組成物を、100標準立方センチメートル/分(sccm)で90%のO
2/10%のH
2を流し、温度勾配10℃・min
−1で、550℃まで徐々に加熱し、15分間保持した。熱処理された試料を、100sccmのHeの中で、周囲温度近くまで冷却した後、100sccmの4.5%のH2、4.5%のAr、91%のHeの中で、10℃・min
−1で550℃まで加熱した。発生した水信号を一定のアルゴン信号に対して正規化し、酸化銅(II)基準規格に基づいて較正した。
【0078】
代表的なTPRスキャンは
図5Aおよび
図5Bにおいて見ることができる。
図5AのTPRスキャンは、実施例4〜6に従って製造された触媒のものであり、
図5BのTPRスキャンは、実施例7〜13に従って製造された触媒のものである。
図5Aおよび
図5Bにおいて、太線は基質のみのスキャンを示し、細線は触媒カチオンのローディング密度を変化させたときの触媒のスキャンを示す。触媒のスキャンは、明確にするために基質のスキャンからオフセットさせている。
図5Bに示されるように、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒は、触媒カチオンローディング密度を高めたとき、特に300〜400℃あたりで、水の発生が大幅に増している。
図5Aに示されるように、保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒は、ローディング密度が高くても、酸素の発生が遥かに少ない。
【0079】
図6Aおよび
図6Bはそれぞれ、実施例9および12に従って製造された触媒の、TPRピークデコンボリューションと対応付けを示す。細い実線は触媒について得られたデータを示し、点線はセリア基質のバックグラウンドTPRスキャンを示す。鎖線は、触媒のTPRと基質のTPRの相違を表わす、新たなデコンボリュートされたピークを示す。太い実線は、計算された背景のスペクトルプラス400℃のピークを示し、これは得られたスペクトルに対する一致度が高い。
図6Aは、約400℃を中心とする1つのデコンボリュートされたピークのみを示しており、
図6Bは、約400℃を中心とする遥かに大きなデコンボリュートされたピークと、約325℃を中心とする第2のデコンボリュートされたピークを示す。低温であり、かつ、高いローディング密度で製造された触媒内にしか存在しないので、約325℃を中心とする還元イベントは、三次元凝集体における鉄(III)触媒カチオンの還元に対応付けられる。約400℃を中心とする還元イベントは、二次元シートにおける鉄(III)触媒カチオンの還元に対応付けられる。
【0080】
図7は、保護されたカチオン(実線)および保護されていない触媒カチオン(点線)を用いて製造された触媒について、Fe
3+触媒カチオンローディング密度の関数としての、発生した総酸素量のグラフである。実線の傾斜、Fe
3+触媒カチオン1モル当たり0.23モルのH
2Oは、TPRの温度範囲において保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒における触媒カチオンの45%の還元に相当する(生成されたH
2O分子ごとに、2個のFe
3+カチオンが還元するはずであるため)。これに対し、点線の傾斜、Fe
3+触媒カチオン1モル当たり0.11モルのH
2Oは、TPRの温度範囲において保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒における触媒カチオンのわずか22%の還元に相当する。
【0081】
まとめると、これらの結果は、この方法において、保護された触媒カチオンを使用すると、分離されたイオンとしては、結合された触媒カチオンの比率がより低い触媒となり、二次元シートにおいては、結合された触媒カチオンの比率がより高い触媒となることを、示唆している。これらの結果はさらに、二次元シートの数が増えれば、テストされた温度範囲内で還元に利用できる触媒カチオンの割合が増すことを示唆している。
【0084】
TPRの複数サイクル(すなわち酸化還元サイクル)を、実施例4〜13に従って製造された触媒に対して行なった。これにより、触媒カチオンの、特に、異なる形状で基質表面に結合された触媒カチオンの、酸化還元サイクリング能力を評価することができた。
【0085】
試料を、以下のステップを加えて、TPR実験(実施例31〜35)と同様に解析した。最初のTPRスキャン後に、試料を、100sccmのヘリウム内で周囲温度近くまで冷却し、その後、最初のTPR実験と同様に、1回目に、酸化させ、冷却し、徐々に還元した。
【0086】
図8Aおよび
図8Bは、それぞれ、保護されていない触媒カチオンおよび保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒について、2つの触媒カチオンローディング密度における、1回目の還元と2回目の還元のTPRスキャンを示す。
図8Aに示されるように、2回目の還元は、約400℃を中心とする還元特徴が約380℃にシフトしたことを除いて、保護されていない触媒カチオンを用いて製造されたカチオンの1回目の還元と同一であった。
図8Bに示されるように、2回目の還元は、触媒カチオンが低いローディング密度で組込まれたときの、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒についての1回目の還元と実質的に同じである。しかしながら、ローディング密度が高いとき、三次元結晶に組込まれた触媒カチオンの還元に対応付けられた、約325℃を中心とする還元イベントは、完全に消失した。このことは、三次元結晶に組込まれた触媒カチオンには、バルク酸化物の場合に起こり得るように、相対的に、酸化還元サイクルを受ける能力が欠けている。
【0087】
また、
図8Bにおいて観察できるように、実施例12に従って製造された触媒の場合、2回目のTPRでは、400/380℃の還元イベントが、約42%減少した。
図9Aおよび
図9Bは、高いローディング密度の保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒における、2回目の還元を受けることができる触媒カチオンの、部分損失を示す。なお、実施例7、10、および11に従い、低〜中程度のローディング密度の保護された触媒カチオンを用いて製造された
図9Bの触媒は、還元温度が550℃を超えない条件下で、複数の酸化/還元サイクルを受けることができる、触媒カチオンの約45%の部分を有している。
【0088】
実施例45〜49 X線分光法
X線吸収分光実験を、実施例4、9、10、および12に従って製造された触媒に対して、温度と、ローディング密度を変化させた触媒カチオンの表面形状の関数として、かつ、保護されたまたは保護されていない触媒カチオンについて、酸化状態を評価するために、行なった。
【0089】
X線吸収端近傍構造(x-ray absorption near edge structure)(XANES)分光実験を、Advanced Photon Source, Argonne National LaboratoryのSector 5において、Dupont-Northwestern Collaborative Access Team(DND−CAT)の曲げ磁石Dビームラインで行なった。入射強度および透過強度を、Canberra社のイオン化チャンバを用いて測定した、ビームエネルギを、透過率で測定したFe金属箔に対して較正し、そのKエッジを7112eVに設定した。FeOおよびFe
2O
3標準をカプトン(登録商標)テープ上に払い落とし、これらのスペクトルをこの場合も透過率で測定した。
【0090】
担持されたFe材料をプレスして直径2.5cmの50mgのペレットにした。単体のペレットを、横断ガス流用に設計されBeバックウィンドウおよびカプトンフロントウィンドウで封止されたステンレス鋼加熱セル上に置いた。2つのウィンドウ間の隙間を、ペレットを置く前に石英ウールで塞ぐことにより、実験中これが確実にフロントカプトンシートに残るようにした。ペレットのFe含有量が少ないので、スペクトルは、4チャネルのSII Vortex−ME4検出器を用いて蛍光強度として測定した。試料を、互いに垂直であるビームと検出器に対する入射角度Θ=45Xで置いた。温度プログラムの開始前に、試料ホルダに置いたペレットのスペクトルを、カプトンテープ上に払い落としこれも蛍光強度として測定された対応する粉末材料のものと比較した。
【0091】
これに続いて、50sccmの3.5%のH
2と残りのH
2の横断流を開始した。加熱されたフローセルを、周囲温度、150℃、250℃、340℃、および430℃で、各々2時間保持し、一方で、スペクトルを収集した。温度は、セル内の測定値である。保持と保持の間の温度勾配を、約10℃・min
−1とした。
【0092】
図10は、各々20〜430℃の温度範囲にわたって解析した、4つの異なる解析の代表的なXANESスペクトルを示す。黒の点線は、鉄(III)および酸化鉄(III)の基準スペクトルを示す。テストしたすべての材料は、配位不足の鉄種の特徴である、バルク酸化物のより強いプリエッジ特徴を示した。このプリエッジ特徴はまた、同様のローディング密度の保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒(
図10B)と比較して、保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒について、より強い(
図10D)。
【0093】
図11は、保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒について、および、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒について、さまざまな温度における、鉄(III)または鉄(II)カチオンとして存在するFe種の割合を示す。この、各条件下において鉄(III)または鉄(II)カチオンとして存在するFe種の割合は、酸化鉄(II)および酸化鉄(III)の基準スペクトル間の、
図10のスペクトルの線形補間によって求めた。この結果は、TPRによって求めた割合減少とほぼ一致している。特に、この結果は、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒における還元可能な鉄種の割合が大幅に減じていることを示している。
【0094】
実施例50〜55 H
2によるNOの触媒還元
水素ガスを還元剤とし、実施例4〜30に従って製造された触媒の存在下で、酸化窒素還元反応を動的に測定した。これは、触媒の触媒効率を、触媒カチオンの個性、触媒カチオンが保護されているか保護されていないかの性質、助触媒カチオンの個性、およびローディング密度の関数として、評価するために行なった。
【0095】
H
2によるNO還元を、事前に600℃で焼成し石英ウール床間のダウンフローにおいて圧縮した非多孔性の石英砂0.50gにおいて希釈した触媒25mgで充填した石英Uチューブ反応炉(OD1/4インチ、ID1/8インチ)において、大気圧で行なった。このUチューブ反応炉を、直立型のチューブ路(ID2.5インチ)の中まで降ろし、触媒床上の熱電対を用いて、床温度を制御および記録した。熱電対および石英希釈剤は、制御実験において触媒活性を示さなかった。反応炉の入口はガスマニホールドに接続し、出口はPfeiffer社のサーモスター質量分析計に接続した。次に、この反応炉に、50sccmの、3.3%のNO、3.3%のH
2、3.3%のAr、90%のHeを供給し、10℃・min
−1で、150℃、250℃、350℃、450℃、および550℃まで加熱し、各温度で一時間保持した。150℃で、20分以内に、大気のN
2、O
2、H
2O、およびCO
2に対応する信号の完全な消失ならびに表面のH
2Oが観察された。
【0096】
図12は、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒および保護されていない触媒カチオンを用いて製造された触媒によって生成されたNH
3およびN
2生成物の量を示す。反応温度450℃は、N
2生成に対する高い特異性を示し、保護されていないカチオンを用いて製造された触媒と保護されたカチオンを用いて製造された触媒の大きな差を示し、したがって、将来の触媒還元実験に使用された。
【0097】
図13Aは、実施例4〜13に従って製造された触媒のNO還元の反応速度を示す。1nm
2当たり0、0.25、0.5、または0.75のナトリウム助触媒カチオンがローディングされたが触媒カチオンはローディングされていない基質も調べた。結果は、TPR実験と一致しており、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒は一般的に、保護されていない触媒カチオンを用いて製造された類似する触媒よりも高い速度でNO還元を触媒することを示す。加えて、保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒のローディング密度が高いときの活性の平坦域は、TPR結果と一致する。助触媒カチオンがローディングされているが触媒カチオンはローディングされていない基質はすべて、ニートセリアと同一の活性を有しており、触媒カチオンが存在しなければ助触媒カチオンの効果はないことを示す。
図13Aのy軸上の星印は、アルミナ上に1重量%の白金(Pt)からなる基準触媒によって触媒された対応する反応速度を示す。
【0098】
図13Bにおいて、ターンオーバー周期は、TPRによって求められる、還元が可能な鉄(III)種の割合に基づいて計算される。白金系触媒における触媒部位のターンオーバー周期は、欲し印によって示される。結果は、ターンオーバー周期が、ローディング密度すべてについて安定しており、白金ベースの触媒のものに匹敵することを、示している。
【0099】
図14は、保護された触媒カチオンを用いて製造されたさまざまな触媒の反応速度を示し、数種類のアルカリ金属が助触媒カチオンとして用いられている。この結果は、使用されたアルカリ金属が助触媒カチオンとして同等に有効であることを示している。これらアルカリ助触媒カチオンはすべて、保護された触媒カチオンに対する比率を1:1として使用したとき、任意の助触媒カチオンなしで保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒と比較して、反応速度を約30%増加させている。この類似性は、助触媒カチオンの効果が電子的ではない可能性が最も高く、むしろ立体的であり得ることを、示唆している。特定の理論に縛られるわけではないが、さまざまな助触媒カチオンの効果が均一であることの説明として可能な説明は、助触媒カチオンが基質表面上の孤立した部位を占有してこのような孤立した部位を効果的に閉鎖し、触媒カチオンによる無効な占有を抑制することが挙げられる。このようなモデルでは、触媒カチオンが次に基質表面上で合体して二次元シートになるか、または、ローディング密度が高い場合は三次元結晶になるであろう。
【0100】
図15は、実施例14および19〜21に従って製造された触媒によって触媒されたときの反応速度を示す。これらの触媒は、〜0.5Fe・nm
−2でローディングされた保護された鉄(III)触媒カチオンと、ローディング密度を0から〜0.75Na・nm
−2に変化させたナトリウム助触媒カチオンを用いて、製造された。この結果は、調べた密度範囲における助触媒カチオンローディング密度に対する、反応速度の線形依存性を示している。
【0101】
図16には、一組の類似する触媒についての反応速度が示される。
図16の触媒は、保護された銅(II)触媒カチオンを用いて製造された。
図16を
図12と比較するとわかるように、保護された銅(II)触媒カチオンを用いて製造された触媒は、保護された鉄(III)触媒カチオンを用いて製造された触媒よりも、幾分優れている。いかなる理論にも縛られることを望むわけではないが、この原因はおそらく、銅(II)カチオンの方が本質的に機能が優れていることにある、または、使用された前駆体のために助触媒カチオンの使用量が多いことにある。
図17に示されるように、平坦部は、保護された鉄(III)触媒カチオンを用いて製造された同様の触媒と比較して、より低い密度で生じているものの(
図17を
図13Aと比較)、保護された銅(II)触媒カチオンを用いて製造された触媒も、高いローディング密度において速度の平坦部がある。
【0102】
実施例56〜58 コバルトとの比較
3つの触媒の3つの温度におけるNO還元反応率測定の結果が、
図18に示される。
図18に示されるように、コバルト(III)である保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒は、鉄(III)または銅(II)である保護された触媒カチオンを用いて製造された触媒と同様の速度で、反応を触媒した。
【0103】
実施例59−63 還元剤としての一酸化炭素およびプロピレン
一酸化炭素を還元剤として使用したときのNO還元の活性を、実質的に実施例10、11、および13に従って調製された触媒について、測定した。ただし、実施例10、11、および13との相違点は、ローディング密度がわずかに異なっていたこと(それぞれ0.54、0.89、および1.32wt%)と、基質が修飾されていないCeO
2基質であったことである。反応およびモニタリングの条件は、実施例50〜55の条件と同様であったが、ガス流は、1000ppmのNO、1000ppmのCO、残りがHeであり、流量は100sccmであった。GHSV(gas hourly space velocity(一時間当たりのガス空間速度))は〜30,000h
−1に保たれた。反応物は、250℃、350℃、450℃、および550℃に加熱され、各温度で〜1時間保持された。同様の反応が、実施例13に従い、1200ppmのNO、133ppmのC
3H
6、残りHeを用いて調製された触媒を用いて実行された。一酸化炭素とプロピレンの実験の結果を表2に示す。
【0105】
上記説明は、最も実用的な実施形態であると現在みなされるものに関連している。しかしながら、本開示は、これらの実施形態に限定されるのではなく、逆に、以下の請求項の精神および範囲に含まれるさまざまな変形および均等の特徴をカバーすることを意図していることが、理解されねばならず、以下の請求項の範囲は、法の下で認められるこのような変形および均等構造をすべて包含すべく、最も広い解釈に従う。