特許第6353912号(P6353912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6353912Ta−Nb合金粉末および固体電解コンデンサ用陽極素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353912
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】Ta−Nb合金粉末および固体電解コンデンサ用陽極素子
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20180625BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20180625BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20180625BHJP
   C23C 16/06 20060101ALI20180625BHJP
   B22F 9/28 20060101ALI20180625BHJP
   H01G 9/042 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B22F1/00 R
   C22C27/02 102Z
   C22C27/02 103
   C22C1/04 E
   C23C16/06
   B22F9/28 Z
   H01G9/042
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-547312(P2016-547312)
(86)(22)【出願日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2014074018
(87)【国際公開番号】WO2016038711
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前島 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一生
(72)【発明者】
【氏名】坂井 寿和
(72)【発明者】
【氏名】古谷 淳
(72)【発明者】
【氏名】高田 善彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 司
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−073009(JP,A)
【文献】 特開2008−101274(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/062234(WO,A1)
【文献】 特開2009−007675(JP,A)
【文献】 特開2000−226607(JP,A)
【文献】 特開2010−265549(JP,A)
【文献】 特開2004−360043(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0041819(US,A1)
【文献】 M. Krehl et al.,SINTERING OF PREALLOYED Nb-Ta POWDERS FOR USE IN ELECTROLYTIC CAPACITORS,Mod Dev Powder Metall,1985年,Vol.17,Page.629-640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
B22F 9/00− 9/30
C23C 16/00−16/56
C22C 1/04
C22C 27/02
H01G 9/04− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱CVD法で製造したTa−Nb合金粉末であって、
Nbの含有量が1〜40mass%で、一次粒子の平均粒径が30〜200nmであるTa−Nb合金粉末。
【請求項2】
陽極素子としたときの単位質量当たりのCV値(μF・V/g)が250kμF・V/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のTa−Nb合金粉末。
【請求項3】
陽極素子としたときの単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)が900μF・V/mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のTa−Nb合金粉末。ここで、上記CV値は、成形密度ρ(g/cm)を下記(1)式で定義されるρの陽極素子としたときの値である。

ρ(g/cm)=−0.012RNb+3.57 ・・・(1)
ここで、RNb:合金中のNb含有量(mass%)
【請求項4】
陽極素子とした後、Ar雰囲気下で260℃×30分間保持するリフロー処理を施したときの漏れ電流が、リフロー処理前の8倍以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のTa−Nb合金粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のTa−Nb合金粉末を用いた固体電解コンデンサ用陽極素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてパソコンや携帯電話等の電子機器に使用される小型・大容量の固体電解コンデンサの陽極素子に用いて好適なTa−Nb合金粉末と、その合金粉末を用いた固体電解コンデンサ用陽極素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、パソコンや携帯電話等の様々な電子機器に使用される電子部品の一種であり、基本的に2枚の対向する電極板の間に誘電体を挟んだ構造をしており、ここに電圧をかけると、誘電体の分極作用によってそれぞれの電極に電荷が蓄えられるものである。コンデンサには、多種多様なものがあるが、現在ではアルミ電解コンデンサ、積層セラミックコンデンサ、タンタル電解コンデンサおよびフィルムコンデンサが主に用いられている。
【0003】
近年、上記コンデンサは、電子機器の小型・軽量化、高機能化に伴い、小型で高容量のものが求められるようになってきている。そこで、やや高価ではあるが、小型・大容量で、高周波特性に優れ、電圧や温度に対しても安定で、長寿命である等の優れた特性を有するタンタル固体電解コンデンサ(以降、単に「Taコンデンサ」ともいう。)に対する需要が大きくなっている。
【0004】
このTaコンデンサは、Taの陽極酸化皮膜である五酸化タンタル(Ta)が誘電体として優れていることを利用したもので、陽極原料となるTa粉末を圧縮成形し、高真空中で焼結して、多孔質の素子を作製した後、化成処理(陽極酸化処理)を施して、上記Ta粉末表面に耐食性、絶縁性に優れる酸化皮膜(非晶質のTa皮膜)、すなわち、誘電体皮膜を形成して陽極とし、次いで、上記多孔質の素子中に硝酸マンガン溶液を含侵させ、熱分解してMnO層(電解質)を陽極酸化皮膜上に形成して陰極とし、最後に、グラファイト、銀ペースト等でリード線を接続した後、樹脂等で外装する、という一連のプロセスで製造されるのが一般的である。なお、最近では、上記MnOの代わりに、ポリピロール、ポリアニリン等の高導電性高分子材料を用いることで、高周波特性や大電流特性を改善したものも開発・実用化されている。
【0005】
コンデンサ用タンタル粉末の電気特性を評価する指標としては、一般的に、静電容量と化成電圧の積であるCV値(μF・V/g)が用いられている。現在、市販されているTa粉末のCV値は50〜100kμF・V/g程度であり、高容量品でも100〜200kμF・V/g程度でしかない。そこで、CV値がそれよりも高い、具体的には、250kμF・V/g以上のコンデンサ用タンタル粉末の開発が強く望まれている。
【0006】
ところで、コンデンサが蓄えることができる単位電圧当たりの電荷容量Cは、
C=(ε・S)/t
ここで、S:電極面積(m)、t:電極間距離(m)、ε:誘電率(F/m)、ε=ε・ε、ε:誘電体の比誘電率(Taの酸化皮膜:約25)、ε:真空誘導率(8.855×10−12F/m)
で表わされ、電極面積Sが大きいほど、電極間距離tが小さいほど、また、誘電率εが高いほど、大きくなる。したがって、CV値を高めるためには、陽極面積S、即ち、陽極を構成しているTa粉末の表面積を大きくするか、電極間距離t、即ち、陽極酸化皮膜Taの膜厚を薄くするか、誘電率εの高い材料を利用する必要がある。
【0007】
Ta粉末の表面積を大きくしてやるためには、Ta粉末の一次粒子径を小さくすることが有効である。そのため、Ta粉末の一次粒子径は、近年における大容量化に伴い、微細化が進行している。しかし、一次粒子径を小さくすると、焼結したときの金属粒子の結合部(ネック部)が小さくなり、化成処理による酸化皮膜によって結合部が断絶され、静電容量の低下を招くという問題がある。また、一次粒子の微細化は、表面に吸着する酸素、窒素、水素等のガス成分や、その他の不純物成分の含有量の増大を招くため、コンデンサとしての特性に悪影響を及ぼすようになる。したがって、Ta粉末は、ある程度以上、具体的には30nm以上の大きさであることが望ましい。
【0008】
現在、上記Taコンデンサに用いるTa粉末を工業的に製造する方法としては、KTaFをNaで還元するNa還元法(特許文献1参照)、TaをMgで還元するMg還元法(特許文献2参照)、Taインゴットを水素化し、粉砕する粉砕法(特許文献3参照)、TaClを蒸気化し、Hで還元する熱CVD法(気相還元法)(特許文献4,5参照)などが知られている。上記方法の中で、特許文献4や5に記載された熱CVD法は、微細なTa粉末を容易に得られるという利点を有する。しかし、現在用いられているコンデンサ用Ta粉末の多くは、Na還元法で製造されている(特許文献6参照)。ただし、このNa還元法は、微細で高容量のTa粉末を効率良く製造するのが難しいという問題がある。
【0009】
また、陽極酸化皮膜の膜厚は、化成処理電圧によって調整することができるが、この膜厚を薄くすることは、種々の問題を引き起こす。たとえば、Ta粉末の表面には、粉末製造時に形成された厚さが数nmの結晶質の自然酸化膜が存在している。この酸化膜は、不純物を多く含むことが多く、誘電層としての品質や密着性に劣るため、電気的特性を低下させる。この問題は、高電圧で化成処理を施す場合には、厚い陽極酸化皮膜中に埋もれてしまうため特に顕在化することはない。しかし、陽極酸化皮膜が薄くなると、結晶質の酸化皮膜が表面に露出するようになる。さらに、酸化皮膜の膜厚低減は、粉末の表面に吸着した不純物や、それに起因する皮膜欠陥をより顕在化させる。その結果、漏れ電流(LC)を増大したり、コンデンサの寿命に悪影響を及ぼしたりするようになる。そのため、陽極酸化皮膜Taの膜厚を薄くして大容量化するには限界がある。
【0010】
また、Taは、埋蔵量が少ない希少金属であるため、安定供給に難があり、高価で価格変動も大きい。そのため、Ta以外の金属を用いた固体電解コンデンサに対するニーズが高まっている。そこで、Taと化学的、物理的特性が類似しており、埋蔵量が豊富で安価なNbを用いたニオブ固体電解コンデンサの開発・研究が進められ、一部、実用化されている(例えば、特許文献7〜10、非特許文献1,2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−206105号公報
【特許文献2】特表2002−544375号公報
【特許文献3】特開平02−310301号公報
【特許文献4】特公昭64−073009号公報
【特許文献5】特開平06−025701号公報
【特許文献6】特開2007−335883号公報
【特許文献7】特許第3624898号
【特許文献8】特許第4213222号
【特許文献9】特許第4527332号
【特許文献10】特許第4202609号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「コンデンサ用ニオブ粉末」;金属,vol.72(2002)No.3,p.221−226
【非特許文献2】「電解コンデンサ用Nb粉末」;JFE技報,No.8(2005年6月)p.63−65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ニオブ固体電解コンデンサ(以降、「Nbコンデンサ」ともいう)の誘電体は、タンタル固体電解コンデンサ(Taコンデンサ)と同様、酸化物(五酸化ニオブNb)であり、その誘電率は、タンタル酸化物Taの約1.5倍の41であるため、Taコンデンサよりも高CV値が得られる。しかしながら、上記ニオブ酸化膜は、熱的安定性が低く、例えば部品実装(リフロー実装)における熱ストレスによって、実装後の容量変化や漏れ電流LCの劣化が起こる等の問題があるため、Nbコンデンサの実用化後も広く採用されるには至っていない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、Taコンデンサよりも高容量で、かつ、酸化被膜の熱的安定性がNbコンデンサよりも優れるTa−Nb合金粉末と、その合金粉末を用いた固体電解コンデンサ用陽極素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、熱CVD法で製造し、Nb含有量を適正範囲に制御したTa−Nb合金粉末を陽極原料として用いることで、Taコンデンサよりも単位質量当たりのCV値(μF・V/g)が高く、かつ、酸化被膜の熱的安定性にも優れる固体電解コンデンサ用の陽極素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
上記知見に基づく本発明は、熱CVD法で製造したTa−Nb合金粉末であって、Nbの含有量が1〜50mass%で、一次粒子の平均粒径が30〜200nmであるTa−Nb合金粉末である。
【0017】
本発明の上記Ta−Nb合金粉末は、陽極素子としたときの単位質量当たりのCV値(μF・V/g)が250kμF・V/g以上であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の上記Ta−Nb合金粉末は、陽極素子としたときの単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)が900μF・V/mm以上であることを特徴とする。ここで、上記CV値は、成形密度ρ(g/cm)を下記(1)式;
ρ(g/cm)=−0.012RNb+3.57 ・・・(1)
ここで、RNb:合金中のNb含有量(mass%)
で定義されるρの陽極素子としたときの値である。
【0019】
また、本発明の上記Ta−Nb合金粉末は、陽極素子とした後、Ar雰囲気下で260℃×30分間保持するリフロー処理を施したときの漏れ電流が、リフロー処理前の8倍以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記のいずれかに記載のTa−Nb合金粉末を用いた固体電解コンデンサ用陽極素子である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Nbコンデンサよりも単位体積当たりのCV値が高くかつ酸化被膜特性に優れる固体電解コンデンサに用いて好適なTa−Nb合金粉末を提供することが可能となるので、電子機器の小型化、大容量化に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】Ta−Nb合金粉末の単位質量当たりのCV値(μF・V/g)に及ぼすNb含有量の影響を示すグラフである。
図2】Ta−Nb合金粉末の単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)に及ぼすNb含有量の影響を示すグラフである。
図3】Ta−Nb合金粉末の漏れ電流に及ぼすNb含有量の影響を示すグラフである。
図4】Ta−Nb合金粉末の単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)に及ぼすリフロー処理の影響を示すグラフである。
図5】Ta−Nb合金粉末の漏れ電流に及ぼすリフロー処理の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明のTa−Nb合金粉末は、熱CVD法(気相還元法)で製造したものであることが重要である。先述したように、熱CVD法は、微細な金属粉末を製造するのに適しており、現時点において、微細なTa−Nb合金粉末を安定して製造できる唯一の方法であり、合金成分の調整も容易でかつ組成幅の狭い合金を製造することができるからである。なお、上記熱CVD法の具体的方法、条件については特に制限しないが、例えば、特開2004−52026号公報に開示の方法であれば好適に用いることができる。
【0024】
また、本発明の上記Ta−Nb合金粉末(一次粒子)は、その平均粒径が30〜200nmの範囲のものであることが必要である。平均粒径が30nm未満では、Ta−Nb合金粉末を焼結した時に形成される粒子同士の結合部(ネック部)の強度が弱く、化成処理で形成される陽極酸化皮膜によって上記結合部が断裂し、導電性の低下や、静電容量の低下を招く。一方、平均粒径が200nmを超えると、一次粒子径が大き過ぎるため、Ta−Nb合金粉末の表面積が減少し、目標とするCV値(250kμF・V/g以上)を安定して確保することが難しくなるからである。なお、250kμF・V/g以上の高容量を安定して実現するためには、Ta−Nb合金粉末の一次粒子は、平均粒径が50〜150nmの範囲であることが好ましく、60〜120nmの範囲であることがより好ましい。ここで、上記Ta−Nb合金粉末(一次粒子)の平均粒径は、走査型電子顕微鏡SEM等で撮像した粒子画像から1000個以上の粒子径を画像解析式粒度分布ソフトウエア(マウンテック社製Mac−View)を用いて実測したときの個数基準平均粒子径のことである。
【0025】
次に、本発明の上記Ta−Nb合金粉末は、Nb含有量が1〜50mass%の範囲のものであることが必要である。以下、その限定の根拠となった実験について説明する。
<実験1>
熱CVD法で、Ta粉末、Nb粉末およびNb含有量を種々に変えたTa−Nb合金粉末(以降、上記3種類の粉末を「金属粉末」と総称する)を製造した。なお、上記金属粉末の製造するに際しては、一次粒子の平均粒径が60〜120nmの範囲内となるよう製造条件を調整した。次いで、上記金属粉末を加圧成形して直径3mmφ×長さ4mmのペレットとした。この際、上記加圧成形後のペレットの成形密度ρ(g/cm)は、Ta−Nb合金中のNbの含有量RNb(mass%)に応じて、下記(1)式;
ρ=−0.012RNb+3.57 ・・・(1)
から求められるρに対して±0.10g/cmの範囲に収まるよう調整した。なお、上記成形密度は、ワイヤを除いた値である。
【0026】
ここで、成形密度を上記のように調整した理由は、TaとNbの真密度は、Ta=16.69g/cm、Nb=8.57g/cmと大きく異なるため、Ta−Nb合金粉末の真密度は、組成によって変化する。そのため、Ta−Nb合金の適正な成形密度(単位体積当たりの質量)も組成によって変化し、Nbの含有量が増加すればするほど、適正な成形密度は低下するからである。
実際、上記実験における成形において、上記(1)式から得られるρに対して+0.20g/cmを超えると、成形後や焼結後にクラック(割れ)が発生し易くなり、逆に、上記(1)式から得られるρに対して−0.20g/cmを下回ると、成形体としての強度を確保することが困難であった。また、より好ましい成形密度は、(1)式から得られるρに対して±0.10g/cmの範囲であった。
【0027】
次いで、上記成形後のペレットを真空雰囲気下、900〜1200℃の温度で焼結して陽極素子とした。
次いで、上記素子に、温度が80℃の0.05mass%のリン酸溶液中で、電圧10Vで2hrの化成処理を施して金属粒子表面に誘電体となる陽極酸化被膜を形成した後、EIAJ RC−2361Aに記載の方法に準拠して、静電容量CVおよび漏れ電流LCを測定した。なお、静電容量CVの測定は、40mass%の硫酸溶液中で、電圧1V,バイアス電圧1.5Vdc、周波数120Hzで測定した。また、漏れ電流LCの測定は、7V電圧を印加し、2min経過後の漏れ電流を測定した。
また、参考として、Ta粉末およびNb粉末をNb含有量が30mass%となるよう配合したTa−Nb混合粉末についても、上記と同じ条件で、静電容量CVおよび漏れ電流LCを測定した。
上記の測定結果を、表1に示した。なお、漏れ電流は、単位容量当たりの漏れ電流(nA/μF・V)で示した。
【0028】
【表1】
【0029】
図1は、上記金属粉末におけるNb含有量と単位質量当たりのCV値(μF・V/g)との関係を示したものである。この図から、Nb粉末を用いた素子(「Nb粉末素子」ともいう)のCV値は、Ta粉末(「Ta粉末素子」ともいう)を用いた素子のCV値の約1.6倍であること、また、Ta粉末中にNb粉末を30mass%配合したTa−Nb混合粉末を用いた素子(「Ta−Nb混合粉末素子」ともいう)のCV値は、上記Nb粉末素子およびTa粉末素子のCV値から内挿して得られるCV値(「内挿値」ともいう)とほぼ同じであるのに対して、Ta−Nb合金粉末を用いた素子(「Ta−Nb合金粉末素子」ともいう)のCV値は、上記内挿して得られるCV値よりも高いことがわかる。従って、Ta−Nb合金粉末素子の静電容量は、Ta粉末素子やTa粉末素子、Ta粉末とNb粉末を混合しただけのTa−Nb混合粉末素子とは異なる容量特性を示すことがわかる。しかし、上記Ta−Nb合金粉末素子の単位質量当たりのCV値(μF・V/g)は、Nb粉末素子と比較して良好とは言い難い。
【0030】
一方、図2は、上記図1の単位質量当たりのCV値(μF・V/g)を、単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)に換算して示したものである。
この図から、単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)では、Ta粉末素子とNb粉末素子の差は大きく縮まり、9%弱の差しかない。この差は、体積サイズが一定としてTa粉末およびNb粉末をそれぞれ同条件で充填して素子を作製したときの静電容量の差に相当し、実用上、コンデンサを設計する上で重要な指標となる。また、この場合でも、Ta−Nb混合粉末素子のCV値は、Ta粉末素子とNb粉末素子のCV値を結ぶ直線上にあり、Nb粉末素子およびTa粉末素子のCV値から得られる内挿値と同じである。
【0031】
これに対して、Nb含有量が14〜62mass%の範囲にあるTa−Nb合金粉末素子のCV値は、Nb粉末素子およびTa粉末素子のCV値から得られる内挿値よりも約17〜30%高く、また、Nbを僅か1.7mass%しか含有していないTa−Nb合金でも、内挿値と比較し、約8%も高いCV値が得られている。これらのことから、熱CVD法で製造したTa−Nb合金は、TaおよびNb単体の粉末、および単純にTa粉末およびNb粉末を混合しただけのTa−Nb混合粉末とは異なる容量特性を示し、従来よりも高容量のコンデンサを作製できる材料であることがわかる。
【0032】
また、従来技術の特許文献10には、Mg還元法で製造したNb含有量が約75mass%で一次粒子径が約400nmのTa−Nb合金が開示されているが、その単位質量あたりのCV値は290kμF・V/gである。この値は、250kμF・V/g以上であるが、図1に示した同一組成のTa−Nb混合粉末の内挿値より低い値でしかない。これから、CVD法以外の方法で高容量のTa−Nb合金粉末を製造するのは困難であると考えられる。
なお、熱CVD法で製造したTa−Nb合金粉末は、微粉であるが故に、流動性が悪いという問題点を有するが、この点については、後述する造粒技術の改善によって解決可能である。
【0033】
また、図3は、上記Ta粉末素子、Nb粉末素子およびTa−Nb合金粉末素子における単位体積当たりのNb含有量と漏れ電流LCとの関係を示したものである。この図から、Nb粉末素子の漏れ電流は、Ta粉末素子の約2倍以上、すなわち、2.0nA/μF・V以上あり、コンデンサ用としては好ましくない。しかし、Nb含有量が62mass%以下であれば、Nb含有量の影響は殆どなく、同程度であることがわかる。なお、参考として、Ta−Nb混合粉末素子の漏れ電流も図中に示したが、Ta−Nb合金粉末素子と同程度である。
【0034】
以上の結果から、熱CVD法で製造した、Nb含有量が1〜62mass%の範囲のTa−Nb合金粉末は、Ta粉末やNb粉末、Ta−Nb混合粉末より単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)が優れており、コンデンサの小型化、大容量化に適した陽極材料であることがわかる。
【0035】
<実験2>
次に、発明者らは、Ta−Nb合金粉末の熱的安定性を調査するため、上記実験に用いた化成処理後の素子に、実装時のリフロー処理を模擬して、260℃×30分の熱処理をアルゴンガス雰囲気中で施し、CV値(μF・V/mm)および漏れ電流LCの変化を調査した。なお、CV値および漏れ電流LCの測定は、前述した<実験1>と同条件で行った。なお、参考として、Ta−Nb混合粉末についても同様の調査を行った。
【0036】
図4は、リフロー処理前後の単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)を比較して示したものである。この図から、リフロー処理後の単位体積当たりのCV値は、Nbの含有量の増加に伴って上昇し、リフロー処理前のCV値に対する増加率(%)は、Nb含有量が47mass%以下では20%程度である。しかし、Nbの含有量が62mass%では、Nb粉末と同じ40%近くまで上昇しており、熱的安定性に劣ることがわかる。なお、Ta−Nb混合粉末素子のリフロー処理後のCV値は、やはり、Ta粉末素子とNb粉末素子のCV値を結ぶ直線上にあり、Nb粉末素子およびTa粉末素子のCV値から得られる内挿値と同じである。
【0037】
同様に、図5は、リフロー処理前後の漏れ電流LCを比較して示したものである。前述したように、リフロー処理前の漏れ電流では、Nb含有量の影響は殆ど認められていないが、リフロー処理後の漏れ電流は、Nb含有量の増加に伴い大きく上昇し、Nb含有量が47mass%以下では、(リフロー処理後のLC/リフロー処理前のLC)で定義する増大比が8以下であるが、Nb含有量が62mass%以上では10以上となり、Nb粉末と同程度まで劣化することがわかる。なお、Ta−Nb混合粉末素子のリフロー処理後の漏れ電流は、Ta−Nb合金粉末素子と比較して大きく増大し、増大比がNb粉末素子と同レベルまで劣化している。
【0038】
上記<実験1>および<実験2>の結果から、本発明のTa−Nb合金粉末は、単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)をNb粉末およびTa粉末のCV値から得られる内挿値よりも高くする観点から、Nb含有量を1mass%以上とし、また、リフロー処理による静電容量CVおよび漏れ電流LCの劣化をNb粉末より小さくする観点から、Nb含有量を50mass%以下に制限することとした。好ましいNb含有量は1〜40mass%の範囲である。
【0039】
上記のようにNb含有量が増加することで静電容量CVや漏れ電流LCが増加する理由は、現時点ではまだ十分に明らかとなっていないが、ニオブ酸化被膜Nbは熱的安定性が低く、リフロー処理によって、ニオブ酸化被膜中の酸素が拡散して消失し、誘電体を形成する酸化被膜の厚さが薄くなること、および、上記酸素の消失によって、酸化被膜が薄くなり、被膜欠陥が顕在化するようになったり、絶縁性のNbが導電性のNbOに変質したりすること等によるものと考えている。
【0040】
なお、Ta−Nb合金粉末をコンデンサの陽極材料として用いる場合には、Ta−Nb合金粉末を自動成形機等で陽極素子の形状に圧縮成形するのが一般的である。しかし、熱CVD法で製造したTa−Nb合金粉末(一次粒子)は、そのままでは粒子径が微細で、嵩密度が低く、押し代が大きいため、陽極素子となる成形体の密度が不均一になり易い。また、そのままでは流動性に劣るため、成形金型への自動装入が困難である。そこで、Ta−Nb合金粉末は、陽極材料として使用する前に、造粒して流動性を改善しておくことが重要となる。
【0041】
上記造粒後の粒子は、JIS Z2502に準じて測定した流動性が0.5〜5g/秒の範囲内であることが望ましい。上記流動性が0.5g/秒未満では、流動性が悪く、成形機金型への投入量が安定しないため、圧縮成形後の陽極素子重量のばらつきが大きくなる。一方、流動性が5g/秒を超えると、粒径が大きくなり過ぎて、圧縮成形で、均一な密度を有する陽極素子を得ることが難しくなるからである。好ましくは1〜4g/秒の範囲である。なお、本発明における上記流動性は、2.63mmのオリフィス径を有する漏斗で測定した落下時間(秒)を、測定に用いた粉末質量(g)で割った値である。
【0042】
また、造粒後のTa−Nb合金粉末(二次粒子)は、その大きさが体積基準メディアン径d50で10〜500μmの範囲内にあることが好ましい。d50が10μm未満では、流動性および成形性が悪化して成形することが困難となる。一方、d50が500μmを超えると、成形金型に均一に充填することが難しくなるため、成形体密度が不均一になるからである。より好ましいメディアン径d50は15〜300μmの範囲である。なお、上記体積基準メディアン径d50は、走査型電子顕微鏡を用いて100倍で撮像した粒子画像を、一次粒子と同様、画像解析式粒度分布ソフトウエアを用いて測定した値である。
【0043】
また、造粒後のTa−Nb合金粉末(二次粒子)は、粉体嵩密度が1.00〜4.00g/cmの範囲にあることが好ましい。粉体嵩密度が1.00g/cm未満では、成形体の密度を上げることが困難になり、陽極素子としたときの単位体積当りの静電容量が低下してしまう。一方、粉体嵩密度が4.00g/cmを超えると、焼結後、陰極となる二酸化マンガンMnOや導電性高分子材料を含浸させることが難しくなるからである。より好ましい嵩密度は1.50〜3.80g/cmの範囲である。ここで、本発明における上記粉体嵩密度は、JIS Z2504に準拠して測定した「ゆるめ嵩密度」のことをいう。
【0044】
なお、熱CVD法で製造したTa−Nb合金粉末(一次粒子)からTa−Nb造粒粉(二次粒子)を得る方法としては、上記条件を満たす造粒粉が得られれば特に制限はないが、例えば、Ta−Nb合金粒子に造粒剤(バインダ)として、アクリル系、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、メチルセルロース、およびカルボキシルセルロース等を添加した後、回転ドラム等で転動造粒する方法や、高速回転造粒法、流動層造粒法および噴霧乾燥法などを用いることができる。
また、バインダとして水、リン酸水などの無機物を使用して造粒した後、加熱して焼結し、粉砕し、その後、酸素等の不純物を除去する熱造粒法も適宜用いることができる。
【0045】
上記の各種造粒法により、嵩密度、粒度分布、メディアン径を適正範囲に調整したTa−Nb合金粉末の造粒粉は、通常、乾式成形し、脱バインダし、焼成した後、化成処理を施して陽極素子とする。この時、乾式成形する際の成形密度は、要求される静電特性に応じて適宜選定すればよい。
また、陽極素子の作製には、上記の乾式成形プロセスを用いずに、一次粉末から直接成形する方法を採用してもよい。例えば、一次粉末にバインダや水等の溶媒を添加し、混練して練土とし、押し出し成形機でシートに成形した後、該シートを脱バインダし、真空焼成し、その後、ワイヤを溶接等で接合して陽極素子としてもよい。
【実施例】
【0046】
表2に示したように、Nb含有量が30mass%で、平均粒径を20〜250nmの範囲で種々に変化させたTa−Nb合金粉末(一次粒子)を熱CVD法で製造した後、上記合金粉末を水洗し、乾燥し、セルロース系のバインダを添加した後、回転ドラムを用いて造粒し、メディアン径d50で30〜50μmの造粒粒子(二次粒子)とした。
次いで、上記造粒粒子を、日本電子機械工業会規格EIAJ RC−2361A「タンタル電解コンデンサ用タンタル焼結素子の試験方法」附属書の表1に規定された100kCV粉末の試験条件に準拠して焼結素子を作製した。この際、素子(ペレット)の成形密度は、前述した(1)式で得られるρに対して±0.10g/cm以内に収まるように調整し、また、一般に、素子の最適焼結温度は粒径に依存し、粒径が大きくなるほど高くなるため、950〜1150℃の温度範囲で予備実験し、最も高い静電容量が得られる温度を採用した。
【0047】
次いで、上記素子に、温度が80℃の0.05mass%のリン酸溶液中で、電圧10Vで2hrの化成処理を施して金属粒子表面に陽極酸化被膜を形成した後、EIAJ RC−2361Aに記載の方法に準拠して、静電容量CVおよび漏れ電流LCを測定した。なお、静電容量CVは、40mass%の硫酸溶液中で、電圧1V,バイアス電圧1.5Vdc、周波数120Hzで測定した。また、漏れ電流LCは、7V電圧を印加し、2min経過後の漏れ電流を測定した。
さらに、上記測定後の素子に対して、Arガス雰囲気中で、260℃×30minのリフロー処理を模した熱処理を施し、上記と同条件で、静電容量CVおよび漏れ電流LCを測定した。
【0048】
上記測定の結果を表2中に併記した。この結果から、Ta−Nb合金粉末の一次粒子の平均径を30〜200nmの範囲に制御することで、単位体積当たりのCV値(μF・V/mm)900μF・V/mm以上を安定して達成することができることがわかる。
【0049】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5