特許第6353925号(P6353925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353925
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】電力変換装置および電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20180625BHJP
   H02P 3/18 20060101ALI20180625BHJP
   H02P 3/22 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   H02P27/06
   H02P3/18 101A
   H02P3/22 B
   H02P3/18 C
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-557412(P2016-557412)
(86)(22)【出願日】2014年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2014079519
(87)【国際公開番号】WO2016072003
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 祐介
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188000(JP,A)
【文献】 特開昭62−261398(JP,A)
【文献】 特開2008−220100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 3/18
H02P 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を所望の交流電力に変換する交流変換部と、
前記交流変換部に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記交流変換部の出力を制御する制御部と、
を備える電力変換装置であって、
前記制御部は、前記電力変換装置に接続された交流電動機が減速モードの間に、前記交流電動機に回転力を与えないような条件の交流電流を流すことで制動を行う交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記制御部にて行う交流制動は、前記交流電動機の回転周波数よりも高い周波数の交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2記載の電力変換装置であって、
前記制御部における前記交流電圧の印は、任意の軸方向に位相を固定し、一軸方向に交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2記載の電力変換装置であって、
前記制御部は、前記電流検出器にて検出した電流を変換して得た出力電流値と予め定めた所定の値との比較に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記制御部は、前記交流変換部の素子に起因して決まる所定の電圧値に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記制御部は、三相を短絡して制動をかける短絡制動を行い、所定の速度以下になった場合に前記交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記制御部は、予め設定した所定の時間、前記交流制動を行い、制動を終了することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1記載の電力変換装置であって、
前記制御部は、予め定めた交流平均電流値に基づき制動動作を終了することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
直流電力を所望の交流電力に変換する交流変換工程と、
前記交流変換工程により変換され流れる電流を検出する電流検出工程と、
前記交流変換工程への出力を制御する制御工程と、
を備える電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程では、前記電力変換装置に接続された交流電動機が減速モードの間に、前記交流電動機に回転力を与えないような条件の交流電流を流すことで制動を行う交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項10】
請求項9記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程にて行う交流制動は、前記交流電動機の回転周波数よりも高い周波数の交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項11】
請求項10記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程における前記交流電圧の印は、任意の軸方向に位相を固定し、一軸方向に交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項12】
請求項10記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程は、前記電流検出工程にて検出した電流を変換して得た出力電流値と予め定めた所定の値との比較に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項13】
請求項9記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程は、交流変換部の素子に起因して決まる所定の電圧値に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項14】
請求項9記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程は、三相を短絡して制動をかける短絡制動を行い、所定の速度以下になった場合に前記交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項15】
請求項9記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記制御工程は、予め設定した所定の時間、前記交流制動を行い、制動を終了することを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2013−188000号公報(特許文献1)がある。
【0003】
この公報には、「制御部16は、スイッチ4からモータ3の回転指示を受け付けていない場合であって、速度検出部14が検出した回転速度が所定値未満であるときに、FET31,33,35夫々をオンにすることによってモータ3の端子間を短絡する。また、制御部16は、スイッチ4からモータ3の回転指示を受け付けていない場合であって、速度検出部14が検出した回転速度が所定値以上であるときに、モータ3の回転を妨げる方向にトルクが発生する交流電圧に対応するパルス電圧をインバータ13からモータ3の端子間に印加させる。」と記載されている(要約参照)。
【0004】
また、本技術分野の背景技術として、特開2000−217388号公報(特許文献2)がある。
【0005】
この公報には、「減速開始時点の回転速度から制動方式切り替え速度まで減速する間は、減速効率は低いが発熱は伴わないショートブレーキ方式により制動が行われ、制動方式切り替え速度から減速目標速度まではトランジスタQ1〜Q6の発熱は伴うものの減速率の高い逆転ブレーキ方式により制動が行われる。ショートブレーキ期間と逆転ブレーキ期間は、必ずしも同じ長さの期間になるとは限らないが、制動期間の前後半でショートブレーキ方式と逆転ブレーキ方式を使い分けたことで、両方式の長所を活かすことができ、発熱を抑制しかつ減速期間を短縮することができる。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−188000号公報
【特許文献2】特開2000−217388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1には、誘起電圧の位相に対して遅れた位相でモータ3の端子間に電圧を印することによって、モータ3の回転を妨げる方向にトルクを発生させて、モータ3の回転の制動を行う遅れ位相制御から、低速になるとモータ3の端子間を短絡する短絡制動に切り替えて行う方法が示されている。この方法では、低速において磁石モータの発生する電圧を利用する短絡制動を行うため、回転数が低くなり発生電圧が低下した時、電力変換装置の素子の電圧降下分よりも磁石モータの発生電圧が低くなると、制動力に寄与する電流が極端に小さくなってしまい、制動力が極端に低下してしまう、という課題がある。モータの負荷慣性が大きいと、停止せずにいつまでも止まらない、という課題がある。これを改善する方法として、素子を介さずに三相を短絡させる方法があるが、電力変換装置の他に物理的な装置が必要となり、コストが高くなってしまう、という課題がある。また、前記特許文献1の方法では、遅れ位相制御が誘起電圧とほぼ同じ周波数で制動されるため、停止まで続けた場合、磁石が遅れ位相に引きずられ、停止間際に逆転現象が出てしまう場合がある、という課題がある。
【0008】
前記特許文献2には、界磁コイルL1〜L3を同電位にするショートブレーキ方式により制動を実行し、モータが所定の速度を下回った場合に、界磁コイルL1〜L3を逆転方向に励磁する逆転ブレーキ方式に切り替える方法が示されている。この方法では、誘起電圧の位相と同周期の逆転の電圧を印可するため、低速域では、誘起電圧が小さくなり、逆転方向の電圧が印されると、その電圧によって逆回転してしまう場合がある、という課題がある。
【0009】
ここで、モータと電動機は同義であり、インバータと電力変換装置は同義である。
【0010】
そこで、本発明は、慣性が大きい負荷が接続されている電動機を逆転させずに素早く制動させる電力変換装置および電力変換装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、直流電力を所望の交流電力に変換する交流変換部と、前記交流変換部に流れる電流を検出する電流検出器と、前記交流変換部の出力を制御する制御部と、を備える電力変換装置であって、前記制御部は、前記電力変換装置に接続された交流電動機が減速モードの間に、前記交流電動機に回転力を与えないような条件の交流電流を流すことで制動を行う交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、惰性回転方向と逆方向に戻ることなく停止させる電力変換装置を提供することができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1および2および3における電力変換装置の構成図の例である。
図2】実施例1における制動指令部のフローチャートである。
図3】実施例1における制動力と制動電流の関係を示した図の例である。
図4】短絡制動をかけた際の制動力と電流の流路の例を示した図である。
図5】交流制動をかけた際の制動力と電流の流路の例を示した図である。
図6】実施例2における制動指令部の制御切り替えに関するフローチャートである。
図7】実施例2における制動電流の関係を示した図の例である。
図8】実施例3における出力制御部の時間による終了判定に関するフローチャートである。
図9】実施例3における制動の様子と時間の関係を示した図の例である。
図10】実施例4における出力制御部の平均電流による終了判定に関するフローチャートである。
図11】実施例4における制動の様子と時間の関係を示した図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例では、交流電動機の負荷慣性が大きい場合に、交流電動機が減速モードに入った際、交流電動機の軸を回転していた方向とは逆に回転することなく停止することのできる交流制動を行う電力変換装置の例を説明する。
【0017】
減速モードとは、交流電動機を止める場合に、交流電動機の回転速度が減少していくモードであって、電力変換装置に交流電動機を減速させる指令が与えられた状態である。減速モードには、電力変換装置が減速するための三相交流電圧出力を行う場合の他に、直流制動、短絡制動等の動作がある。
【0018】
短絡制動は、例えば交流変換部104のNラインに接続された素子をオン状態にし、交流電動機の3線を短絡させることで制動を行うものである。直流制動は、交流電動機の決めた位相方向に直流を印して制動を行うものである。交流制動は交流電圧を印することに特徴があるため、本発明では交流制動と呼称する。すなわち、交流制動とは、交流電動機に高周波数の交流電圧を印することで制動をかける動作である。交流制動の動作は、図3で具体的に示す。
【0019】
図1は、実施例1および2および3における電力変換装置の構成図の例である。本実施例の電力変換装置に、三相交流電源101、交流電動機105が接続された構成図を示す。
【0020】
電力変換装置は、直流変換部102、平滑コンデンサ103、交流変換部104、電流検出器106、制御演算部107、電流検出部108、出力制御部110、制動指令部109、出力生成部111、記憶部112、操作部113、駆動部114を有する。
【0021】
三相交流電源101は、例えば電力会社から供給される三相交流電圧や発電機から供給される交流電圧であり、直流変換部102に出力する。
【0022】
直流変換部102は、例えばダイオードで構成された直流変換回路やIGBTとフライホイールダイオードを用いた直流変換回路で構成され、三相交流電源101から入力された交流電圧を、直流電圧に変換し、平滑コンデンサ103に出力する。図1では、ダイオードで構成された直流変換部を示している。
【0023】
平滑コンデンサ103は、直流変換部102から入力された直流電圧を平滑化し、交流変換部104に直流電圧を出力する。例えば発電機の出力が直流電圧の場合、平滑コンデンサ103は、直流変換部106を介さず、直接発電機から直流電圧を入力されても構わない。
【0024】
交流変換部104は、例えばIGBTとフライホイールダイオードを用いた交流変換回路で構成され、平滑コンデンサ103の直流電圧を入力とし、駆動部114から入力されたPWM出力波形により、直流電圧をPWMにより交流電圧に変換し、交流電動機105に出力する。
【0025】
交流電動機105は、交流変換部104が出力したPWM出力を入力とし、負荷を駆動する。実施例1では、特に同期電動機の場合について説明する。
【0026】
電流検出器106は、例えばホールCTやシャント抵抗で構成され、交流変換部104と交流電動機105の間に流れる電流を検出し、電流検出部108に出力する。
【0027】
制御演算部107は、例えばマイクロコンピュータやASIC、メモリなどで構成され、電流検出器106の電流信号や操作部113からの操作指令を入力し、各種演算を行い、演算結果を操作部113や交流変換器104に出力する。
【0028】
電流検出部108は、電流検出器106が出力した各相の電流データを入力とし、取得した各相の交流電流値から実効値である実効電流値への変換を行い、また、取得した各相それぞれの交流電流値を平均化あるいはフィルタを通して交流平均電流値とし、交流平均電流値から実効値である平均実効電流値への変換を行い、出力制御部110へそれぞれの電流データを出力する。
【0029】
出力制御部110は、電流検出部108から各相の交流電流値、実効電流値、各相の交流平均電流値および平均実効電流値と、制動指令部109からの制動指令とを入力とし、出力指令あるいは交流制動指令を演算して、出力生成部111へ出力する。また、出力制御部110は、電動機を駆動する際、出力周波数指令、取得した電流と種々の電動機定数から出力指令として出力位相指令および出力電圧指令を演算する。また、出力制御部110は、交流制動の際、電流検出部108から入力した各相の交流電流の位相および、交流制動中は各相の交流平均電流の位相変化から、電動機の回転数を検出し、交流制動の開始および停止動作判定に用いる。
【0030】
制動指令部109は、操作部113が出力した停止指令と、電流検出部108からの各相の交流電流値、実効電流値、各相の交流平均電流値および平均実効電流値と、記憶部112に記憶された制動時間を入力とし、制動指令を演算し、出力制御部110に指令を出力する。
【0031】
出力生成部111は、出力制御部110が出力した出力指令情報を入力とし、PWM出力波形データを生成し、駆動部114に出力する。
【0032】
記憶部112は、例えば磁気ディスク、光学ディスク、フラッシュメモリやEEPROMで構成され、例えば操作部113からの種々のデータを入力とし、データを記憶しておく。また、記憶部112は、出力制御部110あるいは制動指令部109からのデータ取得要求を入力とし、取得要求に応じたデータを各要求元に出力する。
【0033】
操作部113は、例えば外部に信号を与える出力端子部を有し、制動指令部109の制動指令情報を入力とし、接続された外部デバイスに信号を出力する。また、操作部113は、例えば外部からの信号を入力する入力端子部を有し、入力端子部に信号が入力された場合、制動指令部109に制動指令を出力する。
【0034】
駆動部114は、出力生成部111が出力したPWMデータを入力とし、PWM出力波形を交流変換部104のそれぞれの素子に出力する。
【0035】
図2は、実施例1における出力制御部110の交流制動を指令するフローチャートである。
【0036】
出力制御部110は、接続された同期電動機を駆動する指令を出力すると同時に、制動指令部109から入力される制動指令を監視しておく(S201)。
【0037】
出力制御部110は、交流制動指令の有無を判断し(S202)、交流制動指令の許可信号がない場合には、同期電動機を駆動する指令をし続け、ある場合には、交流制動指令を出力生成部111に出力する(S203)。
【0038】
さらに、出力制御部110は、電力監視装置の異常、例えば、電流検出部108が検出した電流実効値に異常がないか、例えば保護の必要となる電流値を予め設定し、監視し(S204)、異常がなければ、交流制動指令をし続け、異常がある場合には、一旦出力遮断を行い、交流制動を再起動する(S205)。
【0039】
交流制動の再起動は、予め再起動を行うかどうかの閾値を記憶部112に記憶しておき、再起動時にそのデータを読み出し、再起動を行うかどうかを判断しても良い。また、出力制御部110は、電流検出部から入力した各相の交流平均電流の位相から電動機の回転数を求め、求めた回転周波数が予め停止と判断できる周波数、例えば電力変換装置の始動周波数として設定されている値、あるいは0.1Hzという低い回転の固定値、を下回ったかを判断し(S206)、下回っていなければ、交流制動を継続し、下回っていれば電動機の回転が停止したと判断して交流制動を終了させる(S207)。電力変換装置は、交流制動が終了した後、再起動をしても良いし、停止しても良い。
【0040】
図3は、実施例1の交流制動における制動力と制動電流の関係を示した図の例である。
【0041】
図3には、同期電動機の軸回転周波数よりも高い周波数で交流単軸電圧を印した際の制動時に流れる電流の例を示している。制動電流は、同期電動機の回転によって発生した誘起電圧によって流れる電流(破線)と電力変換装置の交流電圧出力によって流れる電流(点線)があり、合成された電流(実線)が実際に交流変換部に流れる。図3上部には、制動時の電流の一部を拡大した図が示されている。同期電動機の回転によって発生した誘起電圧によって流れる電流(破線)は、一般的なフレミング左手の法則によって、同
期電動機の磁石が発する磁界の方向と、磁石の回転方向との関係性によって流れる。磁石の回転による制動力は、フレミング左手の法則によって、流れた電流と磁石が発する磁界の方向とから、磁石の回転方向とは真逆にかかる。電力変換装置の交流電圧出力によって流れる電流(点線)は、同期電動機の回転周波数よりも高い周波数で交流電圧を印するため、交流電流となる。出力制御部110は、同期電動機を駆動する最高周波数を記憶部112に記憶しておき、例えば慣性負荷から計算される機械時定数の5倍の周期、あるいは最高周波数の5倍の周波数を単軸交流電圧出力の周波数とすることで、同期電動機を故意に脱調させるような、回転力の発生しない交流電圧を印する。印する交流電圧の周波数は、同期電動機の現在周波数を基準にしても良く、同期電動機が脱調し、回転を継続できない周波数であれば良い。回転力の発生しない交流電圧は、同期電動機の回転周波数よりも高い周波数で印されるため、例えば図3の(A)と(E)、あるいは(B)と(D)で、瞬時的に同期電動機にかかる力が相殺され、モータ軸の回転による制動力だけが残る。また、制動電流の合成電流は、各相の交流電流に相当し、平均化あるいはローパスフィルタを使用することで、モータ軸の回転による制動電流だけ、すなわち交流平均電流を検出可能である。電動機の回転数は、モータ軸の回転による制動電流である交流平均電流の周期から検出することができる。これにより、電力変換装置は、同期電動機の制動を行っている。
【0042】
図4は、短絡制動をかけた際の制動力と電流の流路の例を示した図である。
【0043】
図4では、同期電動機の回転数が下がった際、一定の電圧レベルを下回ると制動力が下がるという様子が示されている。短絡制動では、図4下部のように、同期電動機の三相を短絡するために、例えば、平滑コンデンサ103のNラインと同電位になるように交流変換部104の素子をスイッチングさせることで、同期電動機の発生した電圧に従って電流が流れる。ただし、このような短絡制動では、交流変換部104の各素子、例えばIGBTやダイオード、の電圧降下により、同期電動機の発生した電圧が、各素子よって決まる電圧降下を下回る電圧となった場合に、電流が流れなくなり、制動力が消失してしまう。特に慣性負荷が大きい場合には、慣性によって同期電動機が回り続けてしまう。
【0044】
本実施例では、電圧降下による制動力の低下を回避するために、交流制動を行う。
【0045】
図5は、交流制動をかけた際の制動力と電流の流路の例を示した図である。
【0046】
図5では、同期電動機の回転数が下がった際、一定の電圧レベルを下回っても制動力が同期電動機の回転数に追従する様子が示されている。交流制動では、図5下部のように、平滑コンデンサ103に蓄えられた直流電圧が瞬時的にかかるため、交流変換部104の各素子、例えばIGBTやダイオード、の電圧降下の影響が小さくなり、電流が流れ続け、制動力を保つことができる。交流制動では、同期電動機に回転を与えない高い周波数で交流を印するため、長期的に見ると制動力は相殺され、制動時は、図5中の実線で示された実際の制動力がかかることとなる。
【0047】
本実施例の電力変換装置は、上記のような方法で、慣性負荷が大きい場合でも、停止まで停止させる方向にのみ制動力をかけ、停止させることができる仕組みを提供する。
【実施例2】
【0048】
本実施例では実施例1の変形例を説明する。本実施例では、実施例1と共通する部分については、同様の符号を用い、異なる部分について詳細に説明するものとする。
【0049】
実施例2では、実施例1の構成図1の構成を使用する。
【0050】
図6は、実施例2における制動指令部の制御切り替えに関するフローチャートである。
【0051】
制動指令部109は、電流検出部108から入力される平均実効電流値を監視しておき(S601)、平均実効電流値が、予め設定した交流制動閾値以下かどうかを判断する(S602)。
【0052】
平均実効電流値が、交流制動閾値以下でないならば、従来の制動制御、例えば短絡制動や位相軸を固定して直流を印する直流制動を行い(S604)、交流制動閾値以下ならば、交流制動を行う(S605)。
【0053】
交流制動閾値は、例えば、同期電動機の抵抗値とインダクタンスと、回転によって発生する誘起電圧から交流変換器104の素子の電圧降下を差し引いた電圧とから、同期電動機の定格電流の例えば10%相当以上の電流が出力として流れるよう設定する。このように、交流制動閾値を設定しておけば、同期電動機の回転数が下がり、誘起電圧が小さくなったとしても、高周波数の交流電圧を印することで、瞬時的には電圧降下以上の電圧が各素子に掛かっているため、電流が流れ続ける。交流電圧印による交流電流には、回転による制動電流も含まれるため、制動力を保持することができる。
【0054】
図7は、交流制動閾値によって、交流制動が開始される様子を示している。図7では、制動電流の一例として、同期電動機のU相に流れる交流電流を示している。また、図7では、3相交流電流から計算した電流実効値が示されている。電流実効値は例えば以下の数1および数2を用いて計算される。
【0055】
【数1】
【0056】
数1は、三相交流電流のうちU相電流(Iu)とW相電流(Iw)を、U相方向(Iα)とU相と直交する軸方向(Iβ)に設定された電流値への変換を表している。
【0057】
【数2】
【0058】
数2は、数1で演算された二軸方向の電流から、実効電流Ioutputとしてその大きさを求めている。平均実効電流は、(数1)(数2)の交流電流を交流平均電流に置き換えることで、実効電流の計算と同様の方法で計算することができる。
【0059】
図7では、制動電流が小さくなり過ぎないように、同期電動機の回転数低下に伴い、実効電流が一定となるよう、交流制動で印する交流電圧の大きさを制御している。
【0060】
本実施例の電力変換装置は、上記のような方法で、慣性負荷が大きい場合でも、停止まで停止させる方向にのみ制動力をかけ、停止させることができる仕組みを提供する。
【実施例3】
【0061】
本実施例では実施例2の変形例を説明する。本実施例では、実施例1と共通する部分については、同様の符号を用い、異なる部分について詳細に説明するものとする。
【0062】
実施例3では、実施例1の構成図1の構成を使用する。
【0063】
図8は、出力制御部110の時間による終了判定に関するフローチャートである。
【0064】
実施例3では、実施例1で示した図2の終了判断(S207)(S208)の部分を図8に示した(S801)から(S803)に変化させた1例である。
【0065】
出力制御部110は、交流制動を開始した際、交流制動の制動時間を更新する(S801)。出力制御部110は、予め記憶部112に記憶された制動停止時間と更新した制動時間を比較し(S802)、制動停止時間内であれば、制動を続け、制動停止時間外となった場合、交流制動を終了させる(S803)。電力変換装置は、交流制動が終了した後、再起動をしても良いし、停止しても良い。制動停止時間を設定することは、交流電動機の停止以降も、制動が必要な場合に有効である。
【0066】
図9は、制動の様子と時間の関係を示した図の例である。図9では、図7同様、制動電流の一例として、同期電動機のU相に流れる交流電流と、実効電流が示されている。
【0067】
図9では、図8で説明したように交流制動が開始されてから、一定時間経過後、に出力を遮断する様子を示している。交流制動を行う時間は、交流制動によって完全に停止する制動時間を予め設定しておく。
【0068】
本実施例の電力変換装置は、上記のような方法で、慣性負荷が大きい場合でも、停止まで停止させる方向にのみ制動力をかけ、時間を監視して停止させることができる仕組みを提供する。
【実施例4】
【0069】
本実施例では実施例2の変形例を説明する。本実施例では、実施例1と共通する部分については、同様の符号を用い、異なる部分について詳細に説明するものとする。
【0070】
実施例4では、実施例1の構成図1の構成を使用する。
【0071】
図10は、出力制御部110の平均電流による終了判定に関するフローチャートである。
【0072】
実施例3では、実施例1で示した図2の終了判断(S207)(S208)の部分を図8に示した(S1001)から(S1003)に変化させた1例である。
【0073】
出力制御部110は、交流制動を開始した際、平均実効電流値を取得する(S1001)。出力制御部110は、予め記憶部112に記憶された停止判断電流の規定値と取得した平均実効電流値を比較し(S1002)、規定値以上であれば、制動を続け、規定値以下となった場合、交流制動を終了させる(S803)。電力変換装置は、交流制動が終了した後、再起動をしても良いし、停止しても良い。停止判断電流を設定することは、回転によって流れる平均実効電流値を用いて停止と判断できるため、不要に長時間交流電圧を印することを防ぎ、交流変換部104の構成素子の劣化を軽減することができる。
【0074】
図11は、制動の様子と時間の関係を示した図の例である。図11では、図7同様、制動電流の一例として、同期電動機のU相に流れる電流と、平均実効電流値が示されている。
【0075】
図11では、図10で説明したように交流制動が開始されてから、平均実効電流値が終了判断閾値を下回った後、に出力を遮断する様子を示している。交流制動の終了判断閾値は、同期電動機が停止したとみなせる電流値を予め設定しておく。
【0076】
本実施例の電力変換装置は、上記のような方法で、慣性負荷が大きい場合でも、停止まで停止させる方向にのみ制動力をかけ、出力電流を監視して停止させることができる仕組みを提供する。
【0077】
以上の通り、本実施例では下記に記載の電力変換装置とこれらの電力変換装置の制御方法の実施形態を開示した。
【0078】
直流電力を所望の交流電力に変換する交流変換部と、前記交流変換部に流れる電流を検出する電流検出器と、前記交流変換部の出力を制御する制御部と、を備える電力変換装置であって、前記制御部は、前記電力変換装置に接続された交流電動機が減速モードの間に、前記交流電動機に回転力を与えないような条件の交流電流を流すことで制動を行う交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置である。
【0079】
また、前記制御部にて行う交流制動は、前記交流電動機の回転周波数よりも高い周波数の交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置である。
【0080】
また、前記制御部における前記交流電圧の印は、任意の軸方向に位相を固定し、一軸方向に交流電圧を印することにより行われることを特徴とする電力変換装置である。
【0081】
また、前記制御部は、前記電流検出器にて検出した電流を変換して得た出力電流値と予め定めた所定の値との比較に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置である。
【0082】
また、前記制御部は、前記交流変換部の素子に起因して決まる所定の電圧値に基づき交流電圧の制御を行うことを特徴とする電力変換装置である。
【0083】
また、前記制御部は、三相を短絡して制動をかける短絡制動を行い、所定の速度以下になった場合に前記交流制動を行うことを特徴とする電力変換装置である。
【0084】
また、前記制御部は、予め設定した所定の時間、前記交流制動を行い、制動を終了することを特徴とする電力変換装置である。
【0085】
また、前記制御部は、予め定めた交流平均電流値に基づき制動動作を終了することを特徴とする電力変換装置である。
【0086】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0087】
101・・・三相交流電源、102・・・直流変換部、103・・・平滑コンデンサ、104・・・交流変換部、105・・・交流電動機、106・・・電流検出器、107・・・制御演算部、108・・・電流検出部、109・・・出力制御部、110・・・制動指令部、111・・・出力生成部、112・・・記憶部、113・・・操作部、114・・・駆動部
図1
図2
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図4
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図10
図11