特許第6353939号(P6353939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6353939油状組成物、その製法、油性基剤および皮膚外用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6353939
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】油状組成物、その製法、油性基剤および皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20180625BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20180625BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20180625BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20180625BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   A61K8/63
   A61Q1/04
   A61Q1/06
   A61Q5/06
   A61Q19/00
   A61P17/00
   A61K47/28
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-25668(P2017-25668)
(22)【出願日】2017年2月15日
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】597173130
【氏名又は名称】横関油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 実
(72)【発明者】
【氏名】尾花 知里
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 麻美子
【審査官】 田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−133313(JP,A)
【文献】 特開2016−190792(JP,A)
【文献】 特開2005−239556(JP,A)
【文献】 特開2001−048728(JP,A)
【文献】 特開2014−024904(JP,A)
【文献】 特開2007−302789(JP,A)
【文献】 特表2005−518407(JP,A)
【文献】 特表2003−521444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 38/00−38/58
A61K 31/33−33/44
A61K 31/00−31/327
C07J 1/00−75/00
B01J 13/00
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィトステロールの3位の水酸基を脱水して3,5−共役ジエン構造に変換した構造を有するステラジエンの含有率が60質量%以上であり、フィトステロールの含有率が20質量%以下であり、フィトステロール二量体の含有率が30質量%以下であり、かつ、25℃で液状である油状組成物。
【請求項2】
ステラジエンが、シトステラジエンを40〜80質量%の割合で含むものである請求項1記載の油状組成物。
【請求項3】
フィトステロール脂肪酸エステルの含有率が30質量%以下である請求項1または2記載の油状組成物。
【請求項4】
25℃における粘度が20,000〜60,000mPa・sである請求項1〜のいずれかに記載の油状組成物。
【請求項5】
40℃における屈折率が1.5000以上である請求項1〜のいずれかに記載の油状組成物。
【請求項6】
フィトステロールを脱水触媒の存在下または不存在下に加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油状組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の油状組成物からなる皮膚外用剤用油性基剤。
【請求項8】
請求項7記載の油性基剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項9】
皮膚外用剤が、化粧料である請求項8記載の皮膚外用剤。
【請求項10】
化粧料が、ヘアワックス、口紅またはリップグロスである請求項9記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィトステロールの水酸基を脱水することにより得られるステラジエンを主成分とする油状組成物、その製法、該油状物からなる皮膚外用剤用油性基剤および該油性基剤を含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フィトステロール(植物ステロールともいう)は、大豆油や菜種油などの植物油に微量含まれている成分であり、ステロール(ステロイドアルコール)に分類される一群の化合物である。フィトステロールは、一般に特有の臭気を有する白色固体であり、食品添加物、医薬品または化粧品用の配合剤として有用であることが知られている。例えば、特許文献1には、大豆リン脂質のようなリン脂質とフィトステロールを配合した化粧料が開示されている。また、特許文献2には、フィトステロールを含むアルコール成分とダイマー酸から合成される融点30〜70℃のエステル化物を含む化粧料用または皮膚外用剤用の組成物が開示されている。このように、フィトステロールおよびその誘導体の有用性は従来から知られているものの、それらは一般に常温で固形もしくはペースト状であるため、化粧料の成分として使用するに際して液状物に比べて取扱い難いという問題がある。最近では、常温で液状を呈するフィトステロール誘導体が市販されるようになってきたが、その数はいまだ限られている。
【0003】
また、フィトステロールエステルは、化粧料の分野で光沢付与剤として賞用されているラノリンと同等もしくはそれ以上の光沢付与性を有するが、昨今の化粧料の分野ではより光沢付与性に優れた材料の開発が望まれている。さらに、フィトステロールエステルには着色しているものが多く、透明性を要求される用途には適さないという問題がある。
【0004】
一方、非特許文献1には、植物油の精製工程において、そのときの精製条件によっては3位の水酸基が脱離し、3,5−共役ジエン構造に変換することがあること、およびその反応によって生成した反応物をスジエンと称することが記載されている。しかし、ステラジエンについての報告はほとんどなく、ステラジエンの物性や化粧料用の成分としての適性についてはほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5576028号公報
【特許文献2】特許第3826057号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bailey’s Industrial Oil and Fat Products, Sixth Edition, Six Volume Set. (第319〜359頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景の下で完成されたものであり、その目的は、安全性について定評のある植物油由来のフィトステロールから皮膚外用剤用の配合剤として好適な油性材料を創出することであり、とくに光沢付与性に優れた透明な油状物を提供することである。また、他の目的は、該油状物を効率よく製造する方法、該油状物からなる油性基材、該油性基材を含有する皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工業的に入手可能はフィトステロールの3位の水酸基を脱水して3,5−共役ジエン構造に変換した構造を有するステラジエンは、複数種のステラジエンの混合物であり、その混合物は常温で油状を呈すること、およびその油状物を皮膚外用剤の油性基材として使用すると優れた光沢付与性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、第一の発明として、フィトステロールの3位の水酸基を脱水して3,5−共役ジエン構造に変換した構造を有するステラジエンを主成分としてなり、フィトステロールの含有率が20質量%以下であり、かつ、25℃で液状である油状組成物が提供される。また、第二の発明としてフィトステロールを脱水触媒の存在下または不存在下に加熱する該油状組成物の製造方法が提供され、第三の発明として該油状組成物からなる皮膚外用剤用油性基剤が提供され、第四の発明として該油性基剤を含有する皮膚外用剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のステラジエンを主成分とする油状組成物は、安全性について定評のある植物油由来のフィトステロールを改変したものであることから安全性に優れている。この油状組成物は淡色で透明性に優れており、既知のフィトステロール誘導体に比較して大きな屈折率を有していることから光沢付与性に優れている。また、この油状組成物は短波長のUV−Cの吸収能にも優れている。かかる油状組成物を皮膚外用剤の油性基剤として使用すると、皮膚外用剤を調製する際の取扱いが容易であり、得られる皮膚外用剤は優れた光沢を有するとともに密着性、水分保持性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ステラジエンからなる油状組成物>
本発明の油状組成物は、2種以上のステラジエンを含み、且つ、25℃で液状を呈する混合物である。ここで、ステラジエンとは、フィトステロールの3位の水酸基を脱離することによって3,5−ジエン構造に変換した構造を有する脱水フィトステロールを意味している。フィトステロールは、下記式(1)で示されるコレステロールの構造式に類似する構造を有している。相違点は5位と6位の炭素原子で二重結合を形成している点、24位の炭素原子に置換基を有する点、および22位と23位の炭素原子で二重結合を形成することがある点である。
【0012】
(式1)コレステロール
【化1】
【0013】
フィトステロールの代表例は、式(2)で示されるシトステロール(スチグマスタ−5−エン−3β−オール)であり、これはコレステロールの24位に炭素が2つ加えられた形である。シトステロールから24位の炭素をひとつ取り除くと式(3)で示されるカンペステロール(カンペスタ−5−エン−3β−オール)になる。シトステロールから22位と23位の水素原子を取り除き、C=C二重結合にすると式(4)で示されるスチグマステロール((22E)-スチグマスタ−5,22−ジエン−3β−オール)となる。さらに、24位の炭素および22位と23位の水素原子を取り除くと式(5)で示されるブラシカステロール((22E)-エルゴスタ−5,22−ジエン−3β−オール)となる。
【0014】
(式2) シトステロール
【化2】
【0015】
(式3) カンペステロール
【化3】
【0016】
(式4) スチグマステロール
【化4】
【0017】
(式5) ブラシカステロール
【化5】
【0018】
本発明におけるステラジエンは、前記のようにフィトステロールの3位の水酸基を脱離することによって3,5−ジエン構造に変換した構造を有する脱水フィトステロールであり、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールおよびブラシカステロールに対応するステラジエンは、それぞれシトステラジエン、カンペステラジエン、スチグマステラジエンおよびブラシカステラジエンと称される。これらの構造式は、3位と4位の炭素原子で二重結合を形成していること以外は(式2)〜(式5)と同じである。
【0019】
なお、本明細書における「フィトステロール」および「ステラジエン」の文言には、化合物の総称として用いられている場合と、単一の化合物を意味する場合とがある。また、以下の説明において、本発明の油状組成物を「ステラジエン油」と称することがある。
【0020】
フィトステロールは、通常、植物油から所望の脂肪酸を取得する工程において、副生物として分離される。植物油の種類によって、含まれるフィトステロールの成分および組成は異なっている。フィトステロールの各成分は、分子量および沸点が極めて近似しているため単一成分として単離することは困難であり、通常は複数のフィトステロールを含む混合物として取得される。
【0021】
たとえば、大豆油から得られるフィトステロールは、通常、β−シトステロール40〜60質量%、カンペステロール10〜20質量%、スチグマステロール20〜30質量%、ブラシカステロール0〜3質量%を含む個体油脂であり、菜種油から得られるフィトステロールは、通常、β−シトステロール40〜60質量%、カンペステロール20〜30質量%、スチグマステロール0〜3質量%、ブラシカステロール10〜20質量%含む個体油脂であり、ヒマワリ油から得られるフィトステロールは、通常、β−シトステロール70〜80質量%、カンペステロール10〜20質量%、スチグマステロール10〜20質量%、ブラシカステロール0〜5質量%含む個体油脂である。各種植物油から得られるフィトステロールの組成については、非特許文献1の第324頁の表4に記載されている。また、フィトステロールの市販品としては、たとえば、タマ生化学株式会社製のフィトステロール、フィトステロール−S、フィトステロール−F、エーザイフード・ケミカル株式会社製のフィトステロール−FKP、理研ビタミン株式会社製の理研植物ステロール、オリザ油化株式会社製のオリザステロールPおよびPC、Matrix Fine Sciences Pvt. Ltd.製のNatural Phytosterols(Non GMO Sunflower)、AOM社製のADVASTEROL 90S(Prill)などが挙げられる。
【0022】
本発明の油状組成物はステラジエンを主成分とし、フィトステロールの含有量が20質量%以下に制御されており、かつ、25℃で液状を呈するものである。ステラジエンの含有量は、通常、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、とくに好ましくは95質量%以上である。油状組成物のなかに原料として用いるフィトステロールが残存すると透明性が低下する傾向を示すので、油状組成物中のフィトステロールの量を20質量%以下とすることが必要であり、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下に抑制することが適切である。また、かかる油状組成物の25℃での粘度は、通常、20,000〜60,000mPa・s、好ましくは35,000〜50,000mPa・sであり、その外観は淡黄色で透明な液体である。
【0023】
また、本発明の油状組成物の40℃における屈折率は、通常、1.500以上であり、好ましくは1.510以上、さらに好ましくは1.520以上である。このように大きな屈折率を有することによって光沢付与性が顕著に改善される。屈折率もフィトステロールの含有量が多くなるにつれて低下する傾向を有している。そのため、屈折率の値を高く保つうえでも、油状組成物中のフィトステロールの量は20質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下に抑制することが適切である。なお、屈折率の測定法はアッベ屈折率計(ATAGO社製、Model:NAR-2T)を用いて医薬部外品原料規格に準じたものである。
【0024】
本発明の油状組成物において主成分として含まれるステラジエン成分は、単一のステラジエンであってもよいが、2種以上のステラジエンの混合物であってもよい。植物油の中には、フィトステロールとしてシトステロールを主成分とするものが多いことから、シトステロールに対応するシトステラジエンを主成分とするもの、たとえば、その成分を40〜80質量%の割合で含むものが入手の容易性、経済性の見地から賞用される。
【0025】
本発明の油状組成物は、ステラジエン成分および未反応の原料であるフィトステロールのほかに、原料に含まれる他の化合物やフィトステロールの脱水反応において副生する化合物を含むことがある。植物油由来のフィトステロールは、精製工程においてフィトステロール脂肪酸エステルのようなフィトステロール誘導体を完全に分離することが困難であり、市販のフィトステロールの製品には10質量%程度までのフィトステロール誘導体を含むものが多い。たとえば、植物油由来のオレイン酸とフィトステロールのエステルが原料フィトステロール中に含まれていると、フィトステロールの精製工程において完全に除去することが難しく、不純分として精製フィトステロール中に残存する。そして、このようなフィトステロール脂肪酸エステルは脱水反応に関与しないので脱水反応後に得られる油状組成物中にそのまま残存することになる。
【0026】
また、フィトステロールの脱水反応によってステラジエンを合成する際に、2分子のフィトステロールが3位の水酸基同士でエーテル結合を形成することによってフィトステロール二量体を副生することがある。フィトステロール脂肪酸エステルやフィトステロール二量体は本発明の効果を本質的に損なわない範囲で含まれていてもよいが、その量が過度に多くなると結晶が析出したり、ペースト状になったりするので、それらの化合物を含む場合には、それぞれの上限をフィトステロール脂肪酸エステルについては30質量%以下とするのが好ましく、さらには15質量%以下、とくに5%質量以下とすることが適切であり、また、フィトステロール二量体についても同様に30質量%以下とするのが好ましく、さらには15質量%以下、とくに5%質量以下とすることが適切である。
【0027】
<ステラジエン油の製造法>
本発明の油状物は、植物油由来のフィトステロールを原料として、その3位に存在する水酸基を脱水反応によって脱離し、3,5−ジエン構造に変換することによって得ることができる。脱水反応は触媒の不存在下もしくは存在下にフィトステロールを加熱することによって行うことができる。反応温度は、通常、200〜300℃、好ましくは220〜250℃であり、反応時間は1〜24時間である。反応は、脱水反応により生成する水を系外に除去しながら行うことが好ましい。反応は無触媒でも進行するが、反応を効率的に進めるには触媒を使用することが好ましい。触媒の具体例としては、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体などの有機酸などが挙げられる。また、反応に際してヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの適当な溶剤を用いることもできる。
【0028】
脱水反応を行った後、反応液に活性白土、活性炭、シリカアルミナなどの吸着剤を加えて触媒を吸着させ、次いで、処理液をろ過して触媒残渣を除去した後、適宜、減圧下に揮発性成分を除去することにより目的とする油状組成物を得ることができる。また、触媒を用いずに脱水反応を行う場合には、触媒除去操作を経ずに反応液を必要に応じて乾燥することにより油状組成物を得ることができる。
【0029】
<ステラジエン油の用途>
本発明のステラジエン油は、25℃で液状を呈する透明性に優れた油状物であることから、フィトステロールやフィトステロールエステルが用いられている分野において、新たな植物油由来の油性材料として有用である。とくに、皮膚外用剤の調製において油性基剤として配合すると、フィトステロールエステルを配合する場合に得られる保湿性、使用感を損なわずに、より優れた光沢付与性を得ることができる。また、該ステラジエン油を使用することによって、透明性、光沢および水分保持性(皮膚外用剤を塗布した後に経表皮水分蒸散量が少ないという性質)に優れた皮膚外用剤を調製することができる。したがって、該ステラジエン油は、皮膚外用剤用の油性基剤として好適である。
【0030】
<ステラジエン油を含む皮膚外用剤>
本発明の皮膚外用剤は、ステラジエン油を含むこと以外は、常法に従って調製することができる。皮膚外用剤の形態はとくに限定されず、油性、水性、乳化系のいずれでもよい。皮膚外用剤の具体例としては、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料等のスキンケア化粧料、口紅、メーキャップ化粧料等の化粧品や、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、整髪剤、染毛剤等の毛髪用化粧剤、軟膏剤、分散液、クリーム剤、外用液剤等の医薬部外品などとすることができる。また、その剤型についてもとくに制限はなく、固形状、ペースト状、ムース状、ジェル状、粉末状、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、多層状などとすることができる。
【0031】
乳液やクリームのような乳化系の皮膚外用剤を調製する場合の乳化剤型は、とくに限定されるものではなく、たとえば、O/W(水中油型)、W/O(油中水型)、W/O/W(水中油中水型)、O/W/O(油中水中油型)などが挙げられる。
【0032】
本発明の皮膚外用剤におけるステラジエン油の配合量(含有量)は、皮膚外用剤の種類や剤形によって必ずしも一様ではないが、通常は0.1〜60質量%であり、好ましくは0.5〜50質量%、とくに好ましくは1〜40質量%である。ステラジエン油の含有量が過度に少ないと、光沢、透明性、水分保持性の改良効果を得にくくなる。
【0033】
本発明の皮膚外用剤には、油性基剤として用いられるステラジエン油の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、化粧料や医薬部外品等の製剤に使用される成分、すなわち、水(精製水、温泉水、深層水等)、ステラジエン油以外の油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、PH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等を適宜一種又は二種以上添加することができる。
【0034】
ステラジエン油以外の油剤としては、通常の化粧料に使用されるものであれば、天然系油であるか、合成油であるか、或いは、固体、半固体、液体であるか等の性状は問わず、炭化水素類、ロウ類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル油、シリコーン油類、フッ素系油類等、いずれの油剤も使用することができる。また、界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性及び両性の活性剤が用いられる。粉体としては、通常の化粧料に使用されるものであれば、その形状(球状、針状、板状等)や粒子径(煙霧状、微粒子、顔料級等)、粒子構造(多孔質、無孔質等)を問わず、無機粉体、有機粉体、顔料などいずれのものも使用することができる。
【0035】
本発明の皮膚外用剤は常法にしたがって調製可能である。例えば、口紅を調製する場合は、ローラーミルを用いて着色料を油剤に分散させた後、その他の成分を加温して溶解した溶液中にその分散液を加えてよく混合して、その混合物をろ過し、高温で型に流し込み、冷却して成形したものを容器に充填することによって製品が得られる。また、リップグロスを調製する場合は、全成分を加温溶解してよく混合した後、ろ過し、高温で型に流し込み、冷却して成形したものを容器に充填することによって製品が得られる。
【0036】
さらに、ヘアワックスを調製する場合は、油性成分と界面活性剤を含む油相および中和剤を含む水相をそれぞれ加熱した後、撹拌下に水相を油相に徐々に加え、次いで増粘剤を含む水相を加えて撹拌し、さらに中和剤を含む水相を加えて撹拌した後、冷却することによって製品が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例における「部」および「%」は特記しない限り「質量部」および「質量%」を表す。
【0038】
また、以下の実施例および比較例における油状物の物性の測定条件、および化粧料の評価方法は以下のとおりである。
(1)組成分析:GC2010(島津製作所社製)を用いるガスクロマトグラフィー分析によって測定した。
(2)透明性:目視で観察した。
(3)屈折率:アッベ屈折率計(ATAGO社製、Model:NAR-2T)を用いて、医薬部外品原料規格の屈折率測定法に従って40℃での屈折率を測定した。
(4)水酸基価:医薬部外品原料規格2006に従って測定した。
(5)粘度:BM型粘度計(BROOKFIELD社製 Model:DV3T)を用いて医薬部外品原料規格2006の粘度測定法(第2法)に従って測定した。
【0039】
(透明性の評価)
80℃に加温した試料を100mlのビーカーに入れて常温で1日放置した後、その外観を4段階で評価する。
A:透明である
B:わずかに濁りがある
C:濁りがある
D:不透明である
【0040】
(リップグロスの評価)
艶: リップグロスの艶の指標として屈折率を測定し、下記の4段階で評価する。
A:屈折率が1.445以上である
B:屈折率が1.440〜1.445である
C:屈折率が1.435〜1.440である
D:屈折率が1.435未満である
密着性: 一定量の試料を左手の甲に塗布し、下記の4段階で評価する。パネラーは5名であり、評価はその平均である。
評価基準
4点 非常によい
3点 よい
2点 ややよい
1点 悪い
評価
A 3.5以上
B 2.5〜3.5
C 1.5〜2.5
D 1.5未満
【0041】
(ヘアワックスの評価)
試料5gを手のひらにとり広げた後、髪になでつけてセットし、髪の艶、髪全体のまとまり具合、および試料を塗布した毛束のまとまり具合(毛束感)を下記の4段階で評価する。パネラーは5名であり、評価はその平均である。
評価基準
4点 非常によい
3点 よい
2点 ややよい
1点 悪い
評価
A 3.5以上
B 2.5〜3.5
C 1.5〜2.5
D 1.5未満
【0042】
(クリームの肌評価:TEWL:Trans Epidermal Water Loss)
試料0.1gを内腕に滴下し、3cm×3cm(縦横)の面積中に人差し指で左右各10往復して塗布する。その状態で温度20℃、湿度50%の部屋に30分間とどまり、Cutometer DUAL MPA580(Courage+Khazaka社製)を用いて経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定する。さらに、そのままの状態で4時間経過した時点および8時間経過した時点でのTEWLを測定する。TEWLの評価は、塗布前の値を100としたときの指数で表す。
【0043】
実施例1
原料のフィトステロールとして、大豆油および菜種油から得られた、β-シトステロール44.8%、カンペステロール27.6%、スチグマステロール17.2%およびブラシカステロール6.4%を含み、不純分としてフィトステロール脂肪酸エステル1%および水3%を含む常温で固体状のフィトステロールを用意した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管を備えた500mLの反応器に上記のフィトステロール400g(1.0モル)、パラトルエンスルホン酸・一水和物0.4gを仕込み、窒素気流下220〜240℃に加熱し、留出する水を分離しながら8時間反応させた。冷却後、活性白土を加えてパラトルエンスルホン酸・一水和物を吸着させた後、反応液をろ過することにより淡黄色、透明な液状の生成物351gを得た。液状物の収率は87.8%であり、ステラジエンの生成量は331gであった。この生成物の組成は、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールおよびブラシカステロールの脱水反応により生成したステラジエンの混合物96%、残存フィトステロール3%、原料由来のフィトステロールエステル1%であり、水酸基価5.2、屈折率(40℃)1.5230、25℃での粘度は41,300 mPa・sであった。また、この油状物のUV−Cの吸収能(波長235nmにおける極大吸収)を島津製作所社製のUV−1800を用いて測定したところ、モル吸光係数εは34,000であり、きわめて高い吸収能を有していた。この油状組成物を油性基剤1とする。
【0044】
実施例2
反応時間を6時間に短縮すること以外は実施例1と同様にして、淡黄色で透明な液状の生成物355gを得た。液状物の収率は88.8%であり、ステラジエンの生成量は320gであった。この油状組成物を油性基剤2とし、その性状を表1に示す。
【0045】
実施例3
パラトルエンスルホン酸・一水和物の使用量を1.2gに増量すること以外は実施例1と同様にして、淡黄色で透明な液状の生成物350gを得た。液状物の収率は88.8%であり、ステラジエンの生成量は320gであった。この油状組成物を油性基剤3とし、その性状を表1に示す。
【0046】
実施例4
実施例1で得た油性基剤1 67部とフィトステロール脂肪酸エステル(ヒマワリ油由来のフィトステロールと脂肪酸のエステル、純度90%)15部を混合して、ステラジエン82%、残存フィトステロール4%、フィトステロールエステル14%の淡黄色で透明な油状混合物を調製した。この油状組成物を油性基剤4とし、その性状を表1に示す。
【0047】
比較例1
パラトルエンスルホン酸・一水和物の使用量を2gに増量すること以外は実施例1と同様にして、ペースト状の生成物348gを得た。ペースト状物の収率は87.0%であり、ステラジエンの生成量は205gであった。この油状組成物を比較油性基剤1とし、その性状を表1に示す。
【0048】
比較例2
反応温度を160〜180℃にすること以外は実施例1と同様にして、固体状の生成物357gを得た。固体状物の収率は89.3%であり、ステラジエンの生成量は204gであった。この油状組成物を比較油性基剤2とし、その性状を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例5〜8および比較例3〜8
<リップグロス>
表2に示す処方のリップグロスを下記の製造手順に従って調製し、屈折率、艶、および密着性について評価した。比較のため、ステラジエン油を含まないリップグロス、ステラジエン油に代えて市販のフィトステロール脂肪酸エステルを用いるリップグロスについても同様にして評価した。その結果を表2に示す。
(製造手順)
(1)表2に示す(A)相の成分を約90℃に加熱し、均一に混合する。
(2)上記(1)で調製した混合液を容器に充填してリップグロスとする。
【0051】
【表2】
【0052】
本発明の油性基剤1〜4を使用するリップクロスは屈折率が大きく光沢に優れており、密着性においても良好な性能を有している(実施例5〜8)。これに対して、比較油性基剤1〜2を用いるリップクロスおよび市販のフィトステロール脂肪酸エステルを用いるリップグロスは、無添加の場合(比較例8)に比較して密着性の点で改良されているが、本発明例に比較すると屈折率が小さく光沢が十分とはいえない(比較例3〜7)。
【0053】
実施例9〜12および比較例9〜14
<ヘアワックス>
表3に示す処方のヘアワックスを下記の製造手順に従って調製し、艶、髪のまとまり具合、および毛束感について評価した。比較のため、市販のフィトステロール誘導体を用いるヘアワックスについても同様にして評価した。その結果を表1に示す。
(製造手順)
(1)表2に示す(A)相および(B)相の成分を約70℃に加熱し、均一に混合する。
(2)上記(1)で得た混合液に表3に示す(C)相および(D)相の成分を添加し、均一に混合する。
(3)上記(2)で混合液を、撹拌しながら35℃まで冷却する。
(4)上記(3)で調製した混合液を容器に充填してヘアワックスとする。
【0054】
【表3】
【0055】
本発明の油性基剤1〜4を使用するヘアワックスは光沢に優れており、毛束感においても良好な性能を有している(実施例9〜12)。これに対して、比較油性基剤1〜2を用いるヘアワックスおよび市販のフィトステロール脂肪酸エステルを用いるヘアワックスは、無添加の場合(比較例14)に比較して髪のまとまり性や毛束感の点で改良される傾向を示しているが、本発明例に比較すると光沢が十分とはいえない(比較例9〜14)。
【0056】
実施例13〜16および比較例15〜20
<クリーム>
表4に示す処方の水中油型クリームを下記の製造手順に従って調製し、塗布前、塗布直後(塗布してから30分経過後)、4時間経過後、および8時間経過後の経皮水分蒸散量を測定した。比較のため、市販のフィトステロール誘導体を用いるクリームについても同様にして評価した。その結果を表3に示す。
(製造手順)
(1)表4に示す(A)相の成分を約70℃に加熱し、(B)相を添加し均一に混合する。
(2)上記(1)で得た混合液に表4に示す(C)相および(D)相の成分を添加し、均一に混合する。
(3)上記(2)で調製した混合液を容器に充填してクリームとする。
【0057】
【表4】
【0058】
本発明の油性基剤1〜4を使用するクリームは、無添加の場合(比較例20)、市販のフィトステロール脂肪酸エステルを用いる場合(比較例17〜19)に比べて、塗布8時間後における水分保持性が良好である(実施例13〜16)。光沢に優れており、毛束感においても良好な性能を有している(実施例9〜12)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、安全性、色相、透明性および光沢不溶性に優れた、皮膚外用剤用の液状油性基剤として好適な油状組成物が提供される。この油状組成物を皮膚外用剤の油性基剤として使用すると、皮膚外用剤を調製する際の取扱いが容易であり、また、得られる皮膚外用剤は優れた光沢を有するとともに密着性、水分保持性に優れている。
【要約】      (修正有)
【課題】安全性について定評のある植物油由来のフィトステロールから皮膚外用剤用の配合剤として好適な、とくに光沢付与性に優れた透明な油状物、及び該油状物を効率よく製造する方法、該油状物からなる油性基材、該油性基材を含有する皮膚外用剤の提供。
【解決手段】フィトステロールの3位の水酸基を脱水して3,5−共役ジエン構造に変換した構造を有するステラジエンを主成分としてなり、フィトステロールの含有率が20質量%以下であり、かつ、25℃で液状である油状組成物。油状組成物中のステラジエンの含有量は、通常、60質量%以上、とくに好ましくは95質量%以上である、油状組成物。
【効果】前記油状組成物は透明性及び光沢付与性に優れており、皮膚外用剤用の油性基剤として有用である。
【選択図】なし