(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  スパイラル型膜エレメントの集水管に巻回された第1分離膜と第2分離膜との間に挟み込まれ、前記集水管と平行な方向に対して互いに反対方向に傾斜する第1糸列および第2糸列からなる2層構造の原水流路スペーサであって、
  前記第1糸列および前記第2糸列により前記第2糸列の延在方向に連なって構成された第1メッシュ構造と、
  前記第1糸列および前記第2糸列により前記第2糸列の延在方向に連なって構成され、前記第1メッシュ構造を構成する前記第2糸列の間隔よりも前記第2糸列の間隔が狭くなるよう構成された第2メッシュ構造と、
  を交互に備えることを特徴とする、
  原水流路スペーサ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
  以下、本発明の一実施形態であるスパイラル型膜エレメントを備える濾過装置について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、「X」方向は集水管の軸方向に平行な方向を示し、「Y」方向および「Z」方向は互いに直交する集水管の径方向を示すものとする。
 
【0017】
  図1に示すように、濾過装置10は、水道水等の原水を貯留する原水タンク12と、原水に対して濾過処理を行うスパイラル型膜エレメント20とを備える。原水タンク12には、例えば、供給管L1を介して原水が供給される。そして、原水タンク12には、スパイラル型膜エレメント20へ原水を送り出す送水管L2が接続されている。この送水管L2には、原水タンク12から原水を汲み上げるためのポンプ14と、原水に含まれる濁質成分を除去する前処理ユニット16とが設置されている。前処理ユニット16で処理された原水は、送水管L2を経由してスパイラル型膜エレメント20へ送り出される。また、送水管L2におけるポンプ14の下流側にバイパス配管L2‐Bが接続されている。このバイパス配管L2‐Bは送水管L2を流れる原水の一部を原水タンク12に戻すことにより前処理ユニット16に送り出される原水流量を調整する役割を有する。
 
【0018】
  このスパイラル型膜エレメント20は、イオンや塩類を原水から除去した透過水と、除去されたイオンや塩類を含む濃縮水とを生成する機能を有する。スパイラル型膜エレメント20によって生成された透過水は透過水配管L3を経由して透過水タンク18に貯留され、濃縮水は濃縮水配管L4を経由して外部に排出される。
 
【0019】
  図2は、スパイラル型膜エレメント20の一部を展開状態で示す斜視図と、同エレメントに含まれる第1分離膜および第2分離膜に挟み込まれた原水流路スペーサの構成を示す図である。
 
【0020】
  図2に示すように、スパイラル型膜エレメント20は、透過水が流れる集水管22と、集水管22の周囲に重ね合わせた状態で巻回される第1分離膜24および第2分離膜28とを備える。また、スパイラル型膜エレメント20は、両分離膜24,28の間に挟み込まれ、両分離膜24,28の間に原水流路を形成する原水流路スペーサ40を備える。第1分離膜24および第2分離膜28は同一の構成を備えるため、第1分離膜24の構成についてのみ以下において説明する。
 
【0021】
  第1分離膜24は、透過水スペーサ26を間に挟んで両面に、例えば、逆浸透膜、限外ろ過膜、または、精密ろ過膜からなる分離膜24a,24bを各々重ね合わせて袋状に構成され、開口端が集水管22に接続される。この透過水スペーサ26は、集水管22に連通する流路を形成しており、この流路に沿って分離膜24a,24bを透過した透過水が集水管22へ流れ込む。
 
【0022】
  この集水管22には、複数の連通孔22a,22b,22cが軸方向に沿って所定ピッチで設けられており、両分離膜24,28を透過した透過水は連通孔22a〜22cから集水管22へ流入する。また、第1分離膜24の開口端を除く他の3辺は、透過水と濃縮水の混合を防止するため接着剤等により封止されている。
 
【0023】
  図2に示すように、原水流路を流れる原水の一部は、両分離膜24,28のいずれか一方を透過することによってイオンや塩類等の濁質成分が除去された透過水となり、透過水スペーサ26に沿って集水管22へと導かれる。また、残余の原水は、原水流路に沿って流れるのに伴い透過水から除去された濁質成分を多く含む濃縮水となり、下流側の濃縮水配管L4(
図1参照)へ排出される。
 
【0024】
  スパイラル型膜エレメント20は、上流側キャップ材32と、下流側キャップ材34とを軸方向両端面に各々取り付けるようにしてもよい。上流側キャップ材32には、原水がスパイラル型膜エレメント20内部へ流れ込むための隙間が設けられている。また、下流側キャップ材34には、集水管22を流れる透過水と、原水流路から排出される濃縮水が混ざり合わないように2つの流路が設けられている。
 
【0025】
  続いて、
図2および
図3を用いて、原水流路スペーサ40の構成について説明する。
図3は、第1分離膜24および第2分離膜28の間に挟み込まれた原水流路スペーサ40の構成を示す斜視図である。
 
【0026】
  図2および
図3に示すように、原水流路スペーサ40は、第1糸列Mおよび第2糸列Nを互いに重ね合わせた2層構造の原水流路スペーサであり、各糸列M,Nを積層状態で固着して形成されている。なお、原水流路スペーサは、各糸列M,Nを互いに編み込んだ状態としてもよい。原水流路スペーサ40は、第1メッシュ構造51,52,53および第2メッシュ構造61,62,63を交互に備える。第1メッシュ構造51〜53は同一の構成を備えるため、以下の説明では第1メッシュ構造52についてのみ説明する。
 
【0027】
  図3に示すように、第1メッシュ構造52は、第1の四角形状メッシュ52a,52b,52cが第2糸N2,N3の延在方向に連なって形成される。第1の四角形状メッシュ52a〜52cの構成は同一であるため、第1の四角形状メッシュ52aについてのみ以下において説明する。
 
【0028】
  第1の四角形状メッシュ52aにおける第1辺部52a‐1および第2辺部52a‐2は、第1糸M1,M2によって各々形成され、第3辺部52a‐3および第4辺部52a‐4は第2糸N2,N3によって形成される。第1の四角形状メッシュ52aは、一例として各辺部52a‐1〜52a‐4の寸法が3mmとなるように構成された正方形状の外観形状を有する。各糸列M,Nは、X方向に対して、例えば、45°それぞれ反対方向に傾斜するよう配置される。また、各糸列M,Nは、ポリエステル、ポリエチレン、または、ポリプロピレン等の樹脂材によって、例えば、直径Dが0.4mmである円柱状に形成される。そして、原水流路スペーサ40によって形成される原水流路の幅Eは、一例として0.8mmである。また、各糸列M,Nの形状は円柱状に限らず、例えば、平板状等に形成してもよい。
 
【0029】
  第2メッシュ構造61〜63は同一の構成を備えるため、第2メッシュ構造61についてのみ説明を行い、第2メッシュ構造62,63については適宜説明を省略する。第2メッシュ構造61は、同一の構成を有する第2の四角形状メッシュ61a,61b,61cが第2糸N1,N2の延在方向に連なって形成される。
 
【0030】
  第2の四角形状メッシュ61aの第1辺部61a‐1および第2辺部61a‐2は第1糸M1、M2によって各々形成され、第2の四角形状メッシュ61aにおける第3辺部61a‐3は第2糸N1によって形成される。また、第2の四角形状メッシュ61aの第4辺部は、上述した第1の四角形状メッシュ52aにおける第3辺部52a‐3によって構成される。第2の四角形状メッシュ61aは、例えば、各辺部61a‐1,61a‐2,61a‐3の寸法を3mmとし、平行四辺形状に形成してもよい。
 
【0031】
  ここで、第1辺部61a‐1および第2辺部61a‐2のX方向に対する傾斜角α1は、第1の四角形状メッシュ52aの第1辺部52a‐1および第2辺部52a‐2のX方向に対する傾斜角α2よりも大きくなるよう第1糸M1,M2を屈曲させて構成される。一例として、傾斜角α1は90°とし、傾斜角α2を45°とすればよい。そして、第2の四角形状メッシュ61aにおける両辺部61a‐1,61a‐2の間隔R1は、第1の四角形状メッシュ52aにおける両辺部52a‐1,52a‐2の間隔(すなわち、第3辺部52a‐3の長さ)よりも狭くなるよう形成される。
 
【0032】
  同様に、第2の四角形状メッシュ61aにおける両辺部52a‐3,61a‐3の間隔R2は、第1の四角形状メッシュ52aにおける両辺部52a‐3,52a‐4の間隔(すなわち、第1辺部52a‐1の長さ)よりも狭くなるように形成される。
 
【0033】
  これにより、第2の四角形状メッシュ61aの方が第1の四角形状メッシュ52aよりも目が細かく(すなわち、囲繞面積が小さく)構成され、X方向に流れる原水が流路から受ける抵抗(以下、流路抵抗と表記)が大きくなるよう設けられる。従って、第2の四角形状メッシュ61aと同一構成のメッシュが連なって構成される第2メッシュ構造61の方が、第1の四角形状メッシュ52aと同一構成のメッシュが連なって構成される第1メッシュ構造52よりも流路抵抗が大きくなる。
 
【0034】
  ここで、各メッシュ構造52,61,62における原水流れについて
図4を用いて説明する。
図4は原水流路スペーサ40によって形成される原水流れ、および、シミュレーション領域Tを
図3と同様に示す図である。このシミュレーション領域Tは、仮想線T1〜T4によって囲まれた領域であり、仮想線T1は第2の四角形状メッシュ61aの中心点と、第2の四角形状メッシュ61bの中心点との間を結ぶ第2糸N1及び第2糸N2の中間線である。仮想線T3は、第2の四角形状メッシュ62aの中心点と、第2の四角形状メッシュ62bの中心点との間を結ぶ第2糸N3および第2糸N4の中間線である。また、仮想線T2は、第2の四角形状メッシュ61bの中心点と、第2の四角形状メッシュ62bの中心点とを結ぶ第1糸M2および第1糸M3の中間線である。仮想線T4は、第2の四角形状メッシュ61aの中心点と、第2の四角形状メッシュ62aの中心点とを結ぶ第1糸M1および第1糸M2の中間線である。
 
【0035】
  各メッシュ構造52,61,62の延在方向は、
図4に示すようにX方向に対して傾斜している。このため、第2メッシュ構造61、第1メッシュ構造52、第2メッシュ構造62をこの順に通過しながら原水は下流側へ流れることとなる。この点について、各メッシュ構造52,61,62の一部を構成する各四角形状メッシュ52a,61a,62aにおける原水流れを例に挙げて説明する。
 
【0036】
  各四角形状メッシュ52a,61a,62aは、X方向における上流側から第2の四角形状メッシュ61a、第1の四角形状メッシュ52a、第2の四角形状メッシュ62aの順に隣接配置される。この第2の四角形状メッシュ61aにおいて、原水の一部は流れC1に沿って第2分離膜28の方へ蛇行しつつ第1の四角形状メッシュ52aに流入する。これにより、第2分離膜28に近接した領域における原水の流速を高め、第2分離膜28に近接した領域に滞留する残留イオンや塩類を下流側へ押し流すことができる。
 
【0037】
  また、同様に、第1の四角形状メッシュ52aにおいて、原水の一部は流れC2に沿って第2分離膜28の方へ蛇行しつつ第2の四角形状メッシュ62aに流入する。これにより、第2分離膜28に近接した領域に滞留する残留イオンや塩類を下流側へ押し流すことができる。
 
【0038】
  また、上述したように第2メッシュ構造61,62の一部をそれぞれ構成する第2の四角形状メッシュ61a,62aの方が、第1メッシュ構造52の一部を構成する第1の四角形状メッシュ52aよりも流路抵抗が大きい。このため、
図4に示すように、第2の四角形状メッシュ61aから流れC1に沿って第1の四角形状メッシュ52aに流入する流量Q1の方が、第1の四角形状メッシュ52aから流れC2に沿って第2の四角形状メッシュ62aへ流出する流量Q2よりも多くなる。そして、流量Q1と流量Q2との差分である流量Q3だけ第1の四角形状メッシュ52aから下流側の第1の四角形状メッシュ52bへ流れる原水の流量が増加することとなる。このようにして第1メッシュ構造52における原水流量が増加するとともに、第2メッシュ構造61,62における原水流量が減少する。
 
【0039】
  このため、各四角形状メッシュ52a,61a,62aの各辺部52a‐2,61a‐2,62a‐2(
図3参照)周辺で流れS1,S2,S3に沿って第1分離膜24の方へ各々蛇行しながら流れる原水流れのうち第1メッシュ構造52における原水の流れS1の水勢を増大させることができる。これにより、第1メッシュ構造52により囲繞された第1分離膜24の近接領域における原水の流速を高め、同領域に滞留する残留イオンや塩類を下流側へ押し流すことが可能となる。
 
【0040】
  一方、第2の四角形状メッシュ61a,62aにおける原水の流れS2,S3の流量は流れS1の流量よりもそれぞれ減少する。しかしながら、第2の四角形状メッシュ61a,62aにおける第1糸M1,M2の間隔R1(
図3参照)は、第1の四角形状メッシュ52aにおける第1糸M1,M2の間隔、すなわち、第3辺部52a‐3の長さ(
図3参照)よりも狭く構成される。このため、上述したように原水の流れS2,S3における原水流量が原水の流れS1より各々減少しても同流れS2,S3は流速の速い状態に維持され、第1の四角形状メッシュ52aと同程度の水勢が保たれる。このため、第2メッシュ構造61,62により囲繞された第1分離膜24の近接領域における原水の流速を高め、同領域に滞留する残留イオンや塩類を下流側へ押し流すことができる。
 
【0041】
  図5(a)は、
図3に示す領域Tにおいて原水が第1分離膜24に作用させるせん断応力の大きさを流体解析シミュレーションによって求めた結果を示す等値線図である。
図5(b)は、
図5(a)と同様に領域Tにおいて第2分離膜28に作用するせん断応力の大きさを流体解析シミュレーションによって求めた結果を示す等値線図である。ここで、各分離膜24,28に作用するせん断応力の大きさが大きいほど、各分離膜24,28に近接する領域から原水が残留イオンや塩類を押し流す作用が大きいことを意味する。また、反対に、各分離膜24,28に作用するせん断応力が小さいほど、各分離膜24,28に近接する領域から原水が残留イオンや塩類を押し流す作用が小さいことを意味する。上記流体解析シミュレーションでは、X方向に沿って領域Tに流入する原水の流速は0.162m/sとしている。
 
【0042】
  図5(a)に示すように第1の四角形状メッシュ52a,52bで囲まれた第1分離膜24の領域において、第2辺部52a‐2(
図3参照)の周辺で蛇行した原水により第2の四角形状メッシュ61a,61b,62a,62bで囲まれた第1分離膜24の領域と同程度の強いせん断応力が広範囲に作用していることが分かる。
 
【0043】
  また、各分離膜24,28に作用するせん断応力の大きさが0.75Pa以下となる領域、すなわち各分離膜24,28の近接領域における原水の流れが緩やかで残留イオンや塩類を原水が押し流す作用が小さい領域が両分離膜24,28の表面に占める面積の割合は16%であった。以下の説明において、上述したせん断応力の大きさが0.75Pa以下となる領域を易分極領域と呼称する。さらに、
図5(a)および
図5(b)に示す両分離膜24,28に作用するせん断応力の平均値は3.3Paである。
 
【0044】
  図6(a)は比較例である原水流路スペーサ300の構成を示す図である。
図6(b)は同図(a)に示す領域Uにおいて第1分離膜24に作用するせん断応力の大きさを流体解析シミュレーションによって求めた結果を示す等値線図である。
図6(c)は同図(a)に示す領域Uにおける第2分離膜28に作用するせん断応力の分布状態を示す等値線図である。
図6(b)及び
図6(c)では、X方向に沿って領域Uに流入する原水の流速は0.162m/sとしている。
 
【0045】
  図6(a)に示すように、原水流路スペーサ300は、糸V1,V2,V3を含む糸列Vと、糸W1,W2,W3を含む糸列Wとを互いに直交するように積層させてなるメッシュ構造310を有する。このメッシュ構造310は、第1の四角形状メッシュ52aと同一の構成を有する四角形状メッシュ310a,310b,310c,310dを含む。なお、領域Uは、四角形状メッシュ310a〜310dにおける中心点を結ぶ仮想線によって囲まれた領域である。
 
【0046】
  図6(b)および
図6(c)に示すように、両分離膜24,28の領域Uで囲まれた領域に作用するせん断応力は最大で約8Pa程度である。また、両分離膜24,28に形成される易分極領域が両分離膜24,28の表面に占める面積の割合は20%である。
 
【0047】
  このように、比較例の原水流路スぺーサ300では、本実施形態の原水流路スペーサ40のように両分離膜24,28に大きなせん断応力が作用しておらず、両分離膜24,28に形成される易分極領域の面積割合も20%と比較的高くなる。このため、両分離膜24,28に近接した領域に残留するイオンや塩類を充分に押し流すことができない。
 
【0048】
  また、第2メッシュ構造61,62,63のみで構成された原水流路スペーサを用いることも考えられるが、この場合には、原水流路スぺーサによって生じる圧力損失が過大となる。このため、原水流路スペーサが下流側に押し流されてしまいテレスコープ現象が生じるという問題もある。
 
【0049】
  これに対し、本実施形態の原水流路スペーサ40では、第1メッシュ構造51,52,53と、第1メッシュ構造51〜53よりもX方向に流れる原水が通過し難い第2メッシュ構造61,62,63とを交互に配置している。このため、例えば、第2メッシュ構造61における第2の四角形状メッシュ61aから第1メッシュ構造52における第1の四角形状メッシュ52aへ流れ込む原水の流量を増加させることができる。これにより、第1の四角形状メッシュ52aで囲まれた領域の両分離膜24,28に第2の四角形状メッシュ61aで囲まれた領域の両分離膜24,28と同等のせん断応力を作用させることができる。
 
【0050】
  この結果、原水流路スペーサ40によれば、圧力損失の増大を防ぎつつ、両分離膜24,28の近傍領域に残留するイオンや塩類を押し流して濃度分極層の形成を抑制できる。
 
【0051】
  また、原水流路スペーサ40によれば、大きなせん断応力を両分離膜24,28に作用させることができるため、バイオフィルム等の菌体に由来する物質によって両分離膜24,28が目詰まりした状態となるバイオファウリングの発生を抑制することもできる。
 
【0052】
  続いて、
図7〜
図14を用いて、本実施形態における原水流路スペーサの変形例について説明する。以下の説明において、上記実施形態における原水流路スペーサ40と構成が共通する部分については上記実施形態と同一の符号を付して適宜説明を省略し、構成の異なる部分についてのみ説明を行うものとする。
 
【0053】
  図7に示す表1では、第1メッシュ構造における傾斜角α1の大きさを変化させた変形例1〜4の原水流路スペーサにおいて、易分極領域が両分離膜24,28に占める面積の割合を流体解析シミュレーションによって求めた結果を示している。
図8(a)〜
図8(d)は、変形例1〜変形例4の各原水流路スペーサにおいて、第1メッシュ構造における第1の四角形状メッシュおよび第2メッシュ構造における第2の四角形状メッシュの形状を模式的に示す図である。なお、
図8(a)〜
図8(d)においてX方向に沿って領域T(
図3参照)に流入する原水の流速は0.162m/sに設定している。
図8(a)〜
図8(d)に示す各原水流路スペーサ70,80,90,100は、上記実施形態の原水流路スペーサ40と第2の四角形状メッシュの構成が相違する点を除いて同一の構成を備える。
 
【0054】
  図8(a)に示すように、変形例1の原水流路スペーサ70は、第2メッシュ構造71を構成する第2の四角形状メッシュ71aの傾斜角α1が50°となるよう設けられている点で、上記実施形態における原水流路スペーサ40の構成と相違する。また、
図7に示すように原水流路スペーサ70によれば易分極領域が両分離膜24,28表面に占める面積割合は19%である。
 
【0055】
  図8(b)に示すように、変形例2の原水流路スペーサ80は、第2メッシュ構造81を構成する第2の四角形状メッシュ81aの傾斜角α1が85°となるよう設けられている点で、上記実施形態における原水流路スペーサ40の構成と相違する。また、
図7に示すように原水流路スペーサ80によれば易分極領域が両分離膜24,28表面に占める面積割合は17%である。
 
【0056】
  図8(c)に示すように、変形例3の原水流路スペーサ90は、第2メッシュ構造91を構成する第2の四角形状メッシュ91aの傾斜角α1が95°となるよう設けられている点で、上記原水流路スペーサ40の構成と相違する。また、
図7に示すように原水流路スペーサ90によれば易分極領域が両分離膜24,28表面に占める面積割合は15%である。
 
【0057】
  図8(d)に示すように、変形例4の原水流路スぺーサ100は、第2メッシュ構造101を構成する第2の四角形状メッシュ101aの傾斜角α1が120°となるよう設けられている点で、上記原水流路スペーサ40の構成と相違する。また、
図7に示すように原水流路スペーサ100によれば易分極領域が両分離膜24,28表面に占める面積割合は10%である。
 
【0058】
  また、変形例4に示す原水流路スペーサの傾斜角α1よりも傾斜角を大きくすると、第1メッシュ構造と第2メッシュ構造とが互いに干渉するため製作が困難となる。このため、傾斜角α1は120°以下の大きさに設定することが好適である。
 
【0059】
  上記のように、変形例1〜4の構成においても、上記実施形態における原水流路スペーサ40と同様に濃度分極層の形成を抑制することができる。
 
【0060】
  図9に示す表2は、第1メッシュ構造51および第2メッシュ構造61の構成比率を変更した変形例5〜変形例9の原水流路スペーサにおいて、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合を上記実施形態の原水流路スペーサ40と同様に流体解析シミュレーションによって求めた結果を示している。同図に示す流体解析シミュレーションにおいて、X方向に沿って流れる原水の流速は0.162m/sに設定している。
図10(a)〜
図10(e)は、変形例5〜9の場合における原水流路スペーサの構成を模式的に示す図である。
 
【0061】
  変形例5の原水流路スペーサ110は、
図10(a)に示す第1メッシュ構造112および第2メッシュ構造114を交互に備える。第1メッシュ構造112は、第1糸列M10を構成する第1糸M11,M12の延在方向に第1の四角形状のメッシュ112a,112bを2つ並べて構成される。第1の四角形状のメッシュ112a,112bは、第1の四角形状メッシュ52aと同一の構成を有する。また、第2メッシュ構造114は、第2メッシュ構造61と同一の構成を有する。
図9に示すように、原水流路スペーサ110において、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は18%である。
 
【0062】
  変形例6の原水流路スペーサ120は、
図10(b)に示す第1メッシュ構造122および第2メッシュ構造124を交互に備える。第1メッシュ構造122は第1糸列M20を構成する第1糸M21,M22の延在方向に第1の四角形状のメッシュ122a,122b,122cを3つ並べて構成される。第1の四角形状のメッシュ122a〜122cは、第1の四角形状メッシュ52aと同一の構成を有する。第2メッシュ構造124は、第2メッシュ構造61と同一の構成を有する。
図9に示すように、原水流路スペーサ120において、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は19%である。
 
【0063】
  変形例7の原水流路スペーサ130は、
図10(c)に示す第1メッシュ構造132および第2メッシュ構造134を交互に備える。第1メッシュ構造132は、第1糸列M30を構成する糸M31,M32の延在方向に第1の四角形状のメッシュ132a,132bを2つ並べて構成される。第1の四角形状のメッシュ132a,132bは、第1の四角形状メッシュ52aと同一の構成を有する。そして、第2メッシュ構造134は、第1糸列M30を構成する第1糸M31,M32の延在方向に2つの第2の四角形状メッシュ134a,134bを並べて構成される。
図9に示すように、原水流路スペーサ130において、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は16%である。
 
【0064】
  変形例8の原水流路スペーサ140は、
図10(d)に示す第1メッシュ構造142および第2メッシュ構造144を交互に備える。第1メッシュ構造142は、第1メッシュ構造51と同一の構成を有する。第2メッシュ構造144は、第1糸列M40を構成する第1糸M41,M42の延在方向に第2の四角形状メッシュ144a,144bを2つ並べて構成される。第2の四角形状メッシュ144a,144bの構成は、第2の四角形状メッシュ61aと同一の構成を有する。
図9に示すように、原水流路スペーサ140において、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は15%である。
 
【0065】
  変形例9の原水流路スペーサ150は、
図10(e)に示す第1メッシュ構造152および第2メッシュ構造154を交互に備える。第1メッシュ構造152は、第1メッシュ構造51と同一の構成を有する。第2メッシュ構造154は、第1糸列M50を構成する第1糸M51,M52の延在方向に第2の四角形状メッシュ154a,154b,154cを3つ並べて構成される。この原水流路スペーサ150において、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は14%である。
 
【0066】
  上記のように、変形例5〜9の構成においても、上記実施形態における原水流路スペーサ40と同様に濃度分極層の形成を抑制することができる。
 
【0067】
  図11は、変形例10の原水流路スペーサ160の構成を示す図である。
図12は、
図11に示す原水流路スペーサ160に含まれる第1メッシュ構造および第2メッシュ構造の構成を示す拡大図である。
 
【0068】
  図11および
図12に示すように、原水流路スペーサ160は、第1糸列Aおよび第2糸列Bを互いに重ね合わせた2層構造の原水流路スペーサであり、各糸列A,Bを積層状態で固着して形成される。各糸列A,Bは、上記実施形態における各糸列M,Nと同様に、X方向に対して互いに反対方向に例えば45°それぞれ傾斜している。また、第1糸列Aを構成する第1糸A1,A2の間隔と第1糸A2,A3の間隔は同じ大きさとなるよう設けられており、一例として4mmに設定される。そして、第1糸A3,A4の間隔および第1糸A4,A5の間隔は、それぞれ第1糸A1,A2の間隔の半分の大きさとなるよう設けられている。同様に、第2糸列Bを構成する第2糸B1,B2の間隔および第2糸B2,B3の間隔は、同じ大きさとなるように設けられており、一例として4mmに設定される。そして、第2糸B3,B4の間隔と第2糸B4,B5の間隔は各々第2糸B1,B2の間隔の半分の大きさとなるよう設けられている。各糸A1〜A5,B1〜B5は、例えば、円柱状に形成されており、その直径は0.4mmである。
 
【0069】
  図11に示すように、原水流路スペーサ160は、上述した第1糸列Aおよび第2糸列Bにより第2糸列Bの延在方向に連なって構成された第1メッシュ構造171,172,173と、第2メッシュ構造181,182,183とを交互に備える。第1メッシュ構造171〜173は同一の構成を備え、第2メッシュ構造181〜183も同一の構成を備えるため、以下の説明では、第1メッシュ構造172、第2メッシュ構造182を例に挙げて説明を行う。
 
【0070】
  第1メッシュ構造172は、第1糸A1〜A3および第2糸B1〜B3により形成される第1のメッシュ172a‐1と、第1糸A3〜A5および第2糸B3〜B5により形成される中間メッシュ172a‐2とを第2糸列Bの延在方向に沿って交互に配置して構成される。この第1のメッシュ172a‐1は、例えば、正方形状の外観形状を有する。一方、中間メッシュ172a‐2は、例えば、長方形状の外観形状を有し、第1のメッシュ172a‐1よりも目が細かくなるように構成される。このため、第1のメッシュ172a‐1と中間メッシュ172a‐2とを比較すると、第1のメッシュ172a‐1の方が中間メッシュ172a‐2よりも流路抵抗が小さくなる。
 
【0071】
  第2メッシュ構造182は、第1糸A1〜A3および第2糸B3〜B5により形成される中間メッシュ182a‐1と、第1糸A3〜A5および第2糸B3〜B5により形成される第2のメッシュ182a‐2とを第2糸列Bの延在方向に沿って交互に配置して構成される。中間メッシュ182a‐1は、中間メッシュ172a‐2と同様に、例えば、長方形状の外観形状を有し、同メッシュ172a‐2と同じ目の粗さとなるよう構成される。また、第2のメッシュ182a‐2は、例えば、正方形状の外観形状を有し、中間メッシュ182a‐1よりも目が細かく形成される。このため、第2のメッシュ182a‐2と中間メッシュ182a‐1とを比較すると、第2のメッシュ182a‐2の方が中間メッシュ182a‐1よりも流路抵抗が大きくなる。
 
【0072】
  図12に示すように、第2メッシュ構造182において、原水の一部は流れC11,C12に沿って中間メッシュ182a‐1から下流側の第1メッシュ構造172における第1のメッシュ172a‐1に流入する。そして、第1のメッシュ172a‐1において、原水の一部は流れC21,C22に沿って第1のメッシュ172a‐1から下流側の第2メッシュ構造183の中間メッシュ183a‐1に流入する。
 
【0073】
  ここで、中間メッシュ182a‐1の原水流れにおける下流側には第2のメッシュ182a‐2および第1のメッシュ172a‐1が隣接している。そして、第2のメッシュ182a‐2は第1のメッシュ172a‐1よりも流路抵抗が大きいため、中間メッシュ182a‐1から流れC11,C12に沿って第1のメッシュ172a‐1に流れ込む原水の流量Q11の方が第2のメッシュ182a‐2に流れ込む原水の流量Q12よりも多くなる。
 
【0074】
  一方、第1のメッシュ172a‐1の下流側には、中間メッシュ172a‐2,183a‐1がそれぞれ隣接している。両メッシュ172a‐2,183a‐1は、目の粗さが同等であるため流路抵抗の大きさも同等程度の大きさとなる。このため、流れC21,C22に沿って中間メッシュ183a‐1に流出する原水の流量Q12と、流れS11,12に沿って中間メッシュ172a‐2に流出する原水の流量Q13とは同程度の流量となる。
 
【0075】
  従って、流れC11,C12に沿って第2メッシュ構造182から第1メッシュ構造172における第1のメッシュ172a‐1に流入する流量Q11と、同メッシュ172a‐1から流れC21,22に沿って第2メッシュ構造183に流出する流量Q12との差分流量ΔQ
11-12だけ第1メッシュ構造172における第1のメッシュ172a‐1から流れS11,12に沿って下流側の中間メッシュ172a‐2に流れ込む原水の流量Q13が増大する。このように原水流路スペーサ160においても、第1メッシュ構造172を流れる原水の水勢を増すことができ、上記実施形態における原水流路スペーサ40と同様の効果を得ることができる。
 
【0076】
  また、原水流路スペーサ160について、上述した原水流路スペーサ40と同条件で流体解析シミュレーションを実行した場合に、両分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は17%である。
 
【0077】
  また、上記流体解析シミュレーションにおいて、原水流路スペーサ160を用いた場合に両分離膜24,28に原水流れが作用させるせん断応力の平均値は2.6Paであるのに対し、上述した原水流路スぺーサ40のせん断応力の平均値は3.3Paであった。
 
【0078】
  従って、原水流路スペーサ160を用いた場合、両分離膜24,28に作用する平均せん断応力が上述した原水流路スペーサ40よりも約20%低下する。このため、原水流路スペーサ40と比較して圧力損失を抑制できるという効果も得ることができる。
 
【0079】
  図13は、変形例11の原水流路スペーサ200の構成を示す図である。
図13に示すように、原水流路スペーサ200は、上述した原水流路スペーサ160の変形例である。以下の説明では、原水流路スペーサ160と構成の異なる部分についてのみ説明を行い、構成の共通する部分については適宜説明を省略する。
 
【0080】
  図13に示すように、原水流路スペーサ200は、第1糸列A10および第2糸列B10を互いに重ね合わせた2層構造の原水流路スペーサであり、各糸列A10,B10を積層状態で固着して形成される。第1糸列A10を構成する各糸A11,A12,A13が等間隔に配置される点で上記原水流路スペーサ160の構成と相違する。一方、第2糸列B10を構成する第2糸B11〜B15の構成は、上述した原水流路スペーサ160における第2糸B1〜B5と同一である。
 
【0081】
  図13に示すように、原水流路スペーサ200は、上述した第1糸列A10および第2糸列B10により第2糸列B10に沿って構成された第1メッシュ構造201,202,203と、第2メッシュ構造211,212,213とを交互に備える。第1メッシュ構造201〜203は同一の構成を備え、第2メッシュ構造211〜213も同一の構成を備える。このため、以下の説明では、第1メッシュ構造202および第2メッシュ構造212を例に挙げて説明する。
 
【0082】
  第1メッシュ構造202は、第1糸A11,A12および第2糸B11〜B13により形成される第1のメッシュ202aを含み、この第1のメッシュ202aと同一構成からなる多数のメッシュが第2糸列B10の延在方向に多数連なって構成される。
 
【0083】
  第2メッシュ構造212は、第1糸A11,A12および第2糸B13〜B15により形成される第2のメッシュ212aを含み、この第2のメッシュ212aと同一構成からなる多数のメッシュが第2糸列B10の延在方向に多数連なって構成される。この第2のメッシュ212aは、第1のメッシュ202aよりも目が細かく形成される。このため、第1のメッシュ202aよりも流路抵抗が大きくなる。
 
【0084】
  原水流路スペーサ200について、上記実施形態における原水流路スペーサ40と同条件で流体解析シミュレーションを行ったところ、各分離膜24,28表面に占める易分極領域の面積割合は17%であった。この変形例11の原水流路スペーサ200においても上述した原水流路スペーサ160と同様の効果を得ることができる。
 
【0085】
  図14は、変形例12の原水流路スペーサ230の構成を示す図である。原水流路スペーサ230は、糸列M,Nを重ね合わせて形成された第1メッシュ構造231,232,233と第2メッシュ構造241,242,243とを交互に備える。ここで、第1メッシュ構造231,232,233は同一構成をそれぞれ有し、第2メッシュ構造241,242,243も同一構成をそれぞれ有するため、以下の説明では、第1メッシュ構造232および第2メッシュ構造241を例に挙げて原水流路スペーサ230の説明を行う。
 
【0086】
  原水流路スペーサ230は、糸列Nの間隔が等間隔となる点で上述した原水流路スペーサ40の構成と相違する。一方、糸列Mの間隔は、第1メッシュ構造232を構成する糸M1,M2の間隔R3よりも第2メッシュ構造241を構成する糸M1,M2の間隔R4の方が狭く設けられている。このように糸列Mだけ第1メッシュ構造231よりも第2メッシュ構造241における間隔が狭くなるように構成してもよい。但し、この場合には、糸列Mが第2糸列に相当し、糸列Nが第1糸列に相当する。
 
【0087】
  続いて、上述した原水流路スペーサ40による濃度分極抑制効果の評価試験に用いる評価用セル400の使用方法、および、当該セル400を用いた評価試験について
図15(a)〜
図15(c)を用いて説明を行う。
図15(a)は、評価用セル400を当該セルの一部構成を省略して示すとともに、一部に断面図を含む斜視図である。
図15(b)は、評価用セル400の内部に設置される原水流路スペーサ40の試験体の構成を示す図である。
図15(c)は、評価用セル400内部の流路構成を示すため外形を仮想線で示すとともに流路構成部分を実線で示す図である。
図15(a)において、原水流路スペーサ40における試験体40‐Tの断面は、便宜上「×」マークのハッチングを付して示している。
 
【0088】
  図15(a)〜
図15(c)に示すように、評価用セル400は、雄型410および雌型420を嵌め合わせてなる略直方体状の濃度測定ユニットである。この評価用セル400は、
図1に示す濾過装置10に含まれるスパイラル型膜エレメント20を置き換えて用いられる。
図15(a)に示すように、雄型410は中央部に凸部412が設けられた金属または樹脂製部材である。この凸部412は、突き出し面412aが角丸長方形状に形成される。角丸長方形とは、長方形を構成する短辺と長辺のうち、短辺が半円状に外側に向かって突き出す曲線に置換された外形をなす形状を意味する。また、突き出し面412aの周縁部は面取り加工が施されており、傾斜面412bが形成されている。
 
【0089】
  雌型420は、上記雄型410の凸部412に嵌合する凹部422が中央部に設けられた金属または樹脂製部材である。そして、評価用セル400は、両型410,420を嵌合させることにより、凸部412および凹部422の間に評価用流路430が形成される。この評価用流路430は、
図15(c)に示すように角丸長方形状の外形を有し、一例として、全長D1が167mmであり、両端に形成される半円部の直径、すなわち幅D2が35mmであり、流路の厚みは約1mmである。
 
【0090】
  また、
図15(a)および
図15(c)に示すように、雄型410には、原水入口を構成する管端414と、濃縮水出口を構成する管端416とが設けられる。この原水入口を構成する管端414には原水を供給する送水管L2(
図1参照)が接続され、濃縮水出口を構成する管端416には濃縮水配管L4(
図1参照)が接続される。そして、両管端414,416は、雄型410内部に設けられた連絡流路414a,416aにより評価用流路430とそれぞれ連通している。雌型420にも、雄型410の管端414,416と対向する位置に各々透過水出口を構成する管端424,426が取り付けられている。そして、両管端424,426と評価用流路430は、雌型420内部に形成された連絡流路424a,426aにより連通している。また、透過水出口を構成する管端424,426は、各々透過水配管L3(
図1参照)に接続される。
 
【0091】
  次に、評価用セル400の使用方法について説明する。評価用セル400の内部に形成される評価用流路430には、透過水スペーサ26の試験体26‐T、分離膜24aの試験体24‐T、および、原水流路スペーサ40の試験体40‐Tが積層状態で格納される。各試験体26‐T,24‐T,40‐Tは、雌型420の凹部422に隙間なく収まるように角丸長方形状に予め加工されている。この際、
図15(a)に示すように、雌型420の方から見て、透過水スペーサの試験体26‐T、分離膜の試験体24‐T、原水流路スペーサの試験体40‐Tの順に凹部422に設置される。このように各試験体26‐T,24‐T,40‐Tを設置することで、分離膜である試験体24‐Tを透過した透過水が試験体26‐Tの内部を通過して連絡流路424a,426aのいずれかから透過水配管L3(
図1参照)へ流出することとなる。一方で、分離膜である試験体24‐Tを透過しなかった原水は濃縮水として連絡流路416aを経由して濃縮水配管L4(
図1参照)へ排出される。
 
【0092】
  そして、
図15(a)に示すように、試験体40‐Tを凹部422に設置してから凹部422の側壁422aに沿わせるようにOリング432を取り付ける。このOリング432は、外周が角丸長方形状をなす環状部材であり、その断面が円状に構成されたゴム製パッキンである。このOリング432は雄型410の凸部412に形成された傾斜面412bに押圧されることにより、雄型410の凸部412と雌型420の凹部422との隙間を塞ぎ評価用流路430からの漏水を防止するシール材としての機能を有する。また、変形例の原水流路スぺーサ160、および、比較例の原水流路スペーサ300についても、上記原水流路スペーサ40の試験体40‐Tと同様に、試験体160‐T,300‐Tを製作し評価を行う。
 
【0093】
  上記のように、各試験体24‐T,26‐T,40‐Tと、Oリング432を雌型420の凹部422に設置した上で、雄型410の凸部412を凹部422に嵌め込み、複数のボルトBL1〜BL4(
図15(a)参照)等により両型410,420を固定する。この際、雄型410の凸部412とOリング432との間に隙間が残る場合には、透過水スペーサ26‐Tを複数枚重ねることにより、Oリング432が凸部412の傾斜面412bと凹部422の側壁との間で圧接されるよう調整する。これにより、原水流路スペーサ40の試験体40‐Tの評価用セル400への取り付け作業が完了する。
 
【0094】
  本評価試験において、試験体300‐Tは、糸列V(
図6(a)参照)の間隔および糸列W(
図6(b)参照)の間隔が各々2mmとなるように製作した。各糸列V,Wを構成する各糸V1〜V3,W1〜W3の直径は0.2mmである。
 
【0095】
  また、試験体40‐Tは、第1糸列M(
図3参照)の間隔および第2糸列N(
図3参照)の間隔が各々2mmとなるように製作した。(従って、試験体40-Tにおいて、上述した第1の四角形状メッシュ52aは1辺が2mmの正方形状の外観形状をなし、第2の四角形状メッシュ61aは1辺が2mmの菱形状の外観形状を呈する)各糸列M,Nを構成する各糸M1〜M3,N1〜N4の直径Dは0.2mmである。
 
【0096】
  試験体160‐Tは、第1糸列A(
図11参照)を構成する第1糸A1,A2の間隔と第1糸A2,A3の間隔が各々3mmであり、第1糸A3,A4の間隔と第1糸A4,A5の間隔が各々1.5mmとなるように製作した。また、第2糸列B(
図11参照)は、第2糸B1,B2の間隔と第2糸B2,B3の間隔が各々3mmであり、第2糸B3,B4の間隔と第2糸B4,B5の間隔が各々1.5mmとなるように製作した。各糸列A,Bを構成する各糸A1〜A5,B1〜B5の直径は0.2mmである。
 
【0097】
  続いて、上記評価用セル400を用いた原水流路スペーサの評価試験について説明する。なお、この評価試験は気温25℃の条件下で実施している。
 
【0098】
  最初に、純水透過係数Aを算出する。この「純水」透過係数は、評価用セル400に管端414より供給される原水が塩等の不純物を含まない純水である場合において以下の式(1)の関係より求められる透過係数である。
 
【0099】
    J
W=A×P
out・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
上記式(1)において、J
Wは純水体積流束[m
3/(m
2s)]であり、P
outは濃縮水配管L4に設置された水圧計(不図示)の測定値である。純水透過係数Aの算出方法としては、濃縮水配管L4の流量調整バルブ(不図示)およびバイパス配管L2‐Bの流量調整弁を調整することにより、P
out=0.5MPa、濃縮水配管L4における濃縮水流量Q
L4を14.5cc/min.とした場合における透過水配管L3の透過水流量Q
L3[m
3/s]を測定する。そして、この透過水流量Q
L3を分離膜24aの試験体24‐Tの面積で除算することにより純水体積流束J
W1を求める。
 
【0100】
  同様に、P
out=2.0MPa,濃縮水流量Q
L4を14.5cc/min.とした場合において、透過水流量Q
L3[m
3/s]を測定し、当該測定値を上記試験体24‐Tの面積で除算することにより純水体積流束J
W2を測定する。
 
【0101】
  そして、P
out=0.5MPa,純水体積流束J
W1と、P
out=2.0MPa,純水体積流束J
W2とを用いて、最小二乗法による直線近似により上記式(1)における純水透過係数Aを求める。
 
【0102】
  次に、評価用セル400に管端414より供給する原水を、例えば、塩濃度が250ppm前後となるように調整された塩化ナトリウム(NaCl)溶液に変更して、P
out=0.5MPa、濃縮水流量Q
L4を14.5±0.5[cc/min]とし、この場合における透過水の流量Q
L3[m
3/s]を測定する。そして、透過水の流量Q
L3を試験体24‐Tの面積で除算することにより溶液体積流束J
Vを算出し、算出された溶液体積流束J
Vを以下の式(2)に代入して試験体24‐Tの膜面における浸透圧P
fを算出する。以下の式(2)において、P
out=0.5MPaである。
 
【0103】
  P
f=P
out‐(J
V/A)・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
そして、以下に示す式(3)により分離膜である試験体24‐Tの膜面近傍における原水の塩濃度を意味する膜面濃度C
mを算出する。
 
【0104】
  C
m=B×P
f・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
上記式(3)において換算係数Bは、原水に含有されるNaCl,MgSO
4,CaCl
2等の塩濃度と浸透圧の関係により定まる定数であり、本実施形態のように原水に含まれる塩が塩化ナトリウムである場合には換算係数B=1.2294となる。
 
【0105】
  次に、式(4)の関係から、バルク(bulk)濃度Cbを算出する。
 
【0106】
  C
b=(C
in+C
out)/2・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
上記式(4)におけるC
inは送水管L2を流れる原水の塩濃度、C
outは濃縮水配管L4を流れる濃縮水の塩濃度である。本実施形態では、原水に含まれる塩化ナトリウムの塩濃度は上述のように250ppm前後に予め調整されているので、濃縮水配管L4を流れる濃縮水の塩濃度C
outのみ測定すればよい。また、濃縮水や原水における塩濃度の測定は、一例として、電気伝導度(率)を測定することにより行えばよい。
 
【0107】
  そして、式(4)で算出されたC
bと、式(3)で算出されたC
mの比である式(5)に示す濃度比C
rを算出する。
 
【0108】
  C
r=C
m/C
b・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ここで、
図16(a)は上述した濃度比Crを縦軸に、純水体積流束J
Wの測定値を横軸として各分離膜の測定結果を示すグラフである。同図(a)において、「△」マークは比較例である原水流路スペーサ300の試験体300‐Tの測定値を示し、「◇」は原水流路スペーサ40の試験体40‐Tの測定値を示し、「十」は変形例10の原水流路スペーサ160の試験体160‐Tの測定値を示す。
図16(b)は、同図(a)に示す各試験体40-T,160-T,300-Tの濃度比C
rの測定値を測定時の純水体積流束J
wとともに示す表である。
 
【0109】
  また、
図3に示すように、原水流路スペーサ40の第1糸列Mおよび第2糸列Nは非対称に構成されている。このため、原水流路スペーサ40を間に挟んで対向する分離膜24aと分離膜28aとにおける膜面近傍の原水流れは大きく異なる。このため、両分離膜24a,28a近傍における塩濃度の分布状態も大きく異なる。従って、原水流路スペーサ40の試験体40‐Tを用いた評価試験では、分離膜24の試験体24‐Tに第1糸列Mが接するように設置する場合と、同試験体24‐Tに第2糸列Nが接するように設置する場合とにおける濃度比C
rをそれぞれ測定し、その平均値に基づいて濃度分極の大きさを評価する必要がある。
 
【0110】
  そのため、
図16(b)では、試験体24‐Tに第1糸列Mが接するように設置した場合を「B」とし、試験体24‐Tに第2糸列Nが接するように設置した場合を「A」としてそれぞれ示している。
 
【0111】
  また、以下の説明では、上記「A」の設置状態における原水流路スペーサ40の試験体40‐Tを試験体40‐TAと表記し、上記「B」の設置状態を示す場合の試験体40‐Tを試験体40‐TBと適宜表記する。
 
【0112】
  図16(a)に示すように、試験体40‐TAを用いた評価試験では、純水体積流束J
w=0.91×10
-5[m
3/(m
2s)]において、濃度比C
r=2.1である。また、試験体40‐TBを用いた評価試験では、純水体積流束J
w=1.13×10
-5[m
3/(m
2s)]において、濃度比C
r=3.1である。従って、試験体40‐TA,40‐TBにおける濃度比Crの平均値は2.6となり、比較例である試験体300‐Tの濃度比Crの最小値2.7よりも低い値となる。従って、原水流路スペーサ40によれば、従来の原水流路スペーサ300よりも濃度分極を低減できることが確認できた。
 
【0113】
  図16(a)に示すように、原水流路スペーサ160の試験体160‐Tを用いた評価試験では、純水体積流束J
w=1.03×10
-5[m
3/(m
2s)]の場合の濃度比C
rが1.6であり、純水体積流束J
w=1.51×10
-5[m
3/(m
2s)]の場合の濃度比C
rが2.4である。このように試験体160‐Tを用いた評価試験では、いずれの場合においても比較例である試験体300‐Tにおける濃度比C
rの最小値である2.7を大きく下回っていることが分かる。従って、原水流路スペーサ160によれば、従来の原水流路スぺーサ300よりも濃度分極を低減できることが確認できた。
 
【0114】
  また、試験体160-Tを用いた上記評価試験において、濃縮水配管L4における濃縮水流量Q
L4を14.5cc/min.としたときの圧力損失P
Lを測定したところ6.4kPaであった。この圧力損失P
Lは、管端414より評価用セル400の評価用流路430に供給される原水の水圧P
inと、上述したP
outとの差圧である。
 
【0115】
  同様に、試験体300-Tを用いた上記評価試験において、上述した濃縮水流量Q
L4を14.5cc/min.としたときの圧力損失P
Lを測定したところ測定値は8.6kPaであった。
 
【0116】
  上記のように、試験体160‐Tを用いた場合には、従来の試験体300‐Tよりも圧力損失を低減できることが確認できた。このため、原水流路スペーサ160によれば、濃度分極および圧力損失双方の低減を図ることが可能である。
 
【0117】
  本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。