(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冷凍車の輸送効率を更に向上させるには、電動コンプレッサを冷凍機に利用することと共に、ボックス(荷室)を更に拡大することが効果的である。ボックス(荷室)の床面積は通常、積載可能なパレットの最大枚数で評価される。「パレット」とは、荷物の積み下ろし、運搬、保管を行う際にその荷物を載せる台をいう。一般にパレットは正方形の板状部材であり、そのサイズは日本標準規格(JIS)により1100mm×1100mm×144mmに統一されている。すでに製品化されている冷凍車のうち、電動コンプレッサを冷凍機に利用する車種(以下、「電動式冷凍車(CHV)」という。)では、積載可能なパレットが最大16枚である。一方、機械式コンプレッサを冷凍機に利用する車種(以下、「機械式冷凍車」という。)では、積載可能なパレットが最大18枚である。したがって、CHVにおいても、積載可能なパレットの最大枚数を“18”に増やすことが望ましい。しかし、これは以下の理由により難しい。
【0007】
ボックスの全幅(冷凍車の進行方向、すなわち前後方向に対して垂直な水平方向、すなわち左右方向における長さ)を拡げることは、冷凍車の小回り等、操作性を高く維持することが難しいので、好ましくない。したがって、ボックス(荷室)の床面積を増やすには、ボックスの全長(前後方向における長さ)を伸ばすしかない。自動車の全長は12mを超えることができない(国土交通省令、道路運送車両の保安基準第2条の規定による。)一方、すでに製品化されているCHVの全長はボックスとキャブとを合わせてほぼ12mである。それ故、ボックスの全長を伸ばすにはキャブの全長を縮めねばならない。このCHVに搭載されているキャブはフルキャブ、すなわち運転席、助手席の後ろにベッドを備えたタイプであるので、これをショートキャブ、すなわちベッドの無いタイプに変更することにより、ボックスの全長を伸ばす余地を生み出すことは可能である。しかし、この余地の長さは、積載可能なパレットを2枚増やすには足りない。パレットを2枚増やすのに必要なボックスの長さを無理に確保しても、カバーとキャブとの間隙には余裕を残すことができないので、エンジン、トランスミッション等のメンテナンスを目的としてキャブを前傾させる際にその後面がカバーに接触する危険性が高い。ボックスの他の部分とキャブ、またはシャーシの他の部分との間隙からも余裕が失われる箇所が現れるので、それらの箇所では対向する構造物が、冷凍車の走行中における振動・衝撃によって互いに衝突する危険性が生じる。これらの危険性により、このCHVにおいて積載可能なパレットを増やすことは困難である。
【0008】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、カバーとキャブとの間隙に十分な余裕を残したまま、ボックス(荷室)の全長を更に伸ばすことが可能なCHVを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点による冷凍冷蔵自動車は、シャーシと、キャブと、ボックスとを備えている。シャーシは、車輪、これらの車輪を駆動するエンジン、このエンジンの駆動力を利用して電力を生成する発電機、およびこの発電機の生成した電力を蓄積するバッテリを含む。キャブはシャーシの前部に搭載され、ボックスはシャーシの後部に搭載されている。ボックスは、気密に囲われた荷室、およびこの荷室内を冷却する冷凍機を含む。この冷凍機は、電動コンプレッサと、コンデンサと、エバポレータと、カバーと、配管とを含む。電動コンプレッサは、発電機の生成した電力、またはバッテリに蓄積された電力を利用して冷媒を加圧する。コンデンサは、電動コンプレッサで加圧された冷媒を外気で冷却して液化させる。エバポレータは、コンデンサで液化した冷媒を気化させることにより荷室内を冷却する。カバーは、ボックスの前面からキャブの上方へ張り出した筐体である。配管はボックスの天井に埋め込まれており、カバーとボックスの後部との間で冷媒を循環させる。エバポレータは、フロントエバポレータとリアエバポレータとに2分割されている。フロントエバポレータは、電動コンプレッサとコンデンサと共にカバー内に収容されて、そのカバー内で冷媒を循環させ、ボックス(荷室)内の前側を冷却する。リアエバポレータはボックスの後部に設置され、電動コンプレッサとコンデンサとは天井配管を通じて冷媒を循環させ、ボックス(荷室)内の後側を冷却する。
【0010】
カバーの前面は、キャブが傾く際にキャブの後面が描く軌跡から所定の間隔を空けて位置していてもよい。シャーシは、フレームと、リアアーチと、アーチカバーとを更に含んでいてもよい。フレームは梯子型であり、前後方向に伸びている1対のサイドレールを含む。リアアーチは、これらサイドレールの間を接続するアーチ状部材であり、キャブの後端を支持する。アーチカバーは、リアアーチが囲む空間を覆う板状部材である。キャブの後面とリアアーチの付属物とは、アーチカバーの後面よりも前方に位置していてもよい。シャーシは、発電機からリアエバポレータへ電力を伝送するケーブルを更に含んでいてもよい。ボックスは、1対のサブフレームと、複数本のクロスメンバーとを更に含んでいてもよい。1対のサブフレームは前後方向に伸びている。複数本のクロスメンバーはこれら1対のサブフレームの間を接続する。複数本のクロスメンバーのうち最前方に位置する1本は、ケーブルとの接触を避けるための切り欠きを含んでいてもよい。ボックスは、リアドアと、このリアドアをボックスの側壁に開閉可能に接続する平行2軸ヒンジとを更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明による上記の冷凍冷蔵自動車では、エバポレータが2分割されており、一方が電動コンプレッサとコンデンサと共にカバー内に一体化され、他方がボックスの後部に設置されている。これにより、カバー内の構造が縮小可能であるので、カバーとキャブとの間隙に十分な余裕を残したまま、ボックス(荷室)の全長を更に伸ばすことが可能である。さらに、カバー内の電動コンプレッサやコンデンサとリアエバポレータとの間で冷媒を循環させる配管はボックスの天井に通せばよく、ボックスの側面、床下には引き回す必要がない。したがって、配管の新設に伴う製造コストの増加は、ボックスの伸長に伴う積載可能なパレットの最大枚数の増加に比べれば問題にならない。
【0012】
この冷凍冷蔵自動車では、キャブの後面とリアアーチの付属物とが、アーチカバーの後面よりも前方に位置していてもよい。付属物にはオイルリザーバーホースまたはボルトが含まれる。これらの付属物がキャブの後面と共に、アーチカバーの後面よりも前方に位置するので、ボックスの前面とアーチカバーの後面との間隙にも十分な余裕が残る。したがって、対向する構造物が冷凍車の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに衝突する危険性がない。
【0013】
この冷凍冷蔵自動車では、シャーシは、発電機からリアエバポレータへ電力を伝送するケーブルを更に含んでいてもよい。この場合、複数本のクロスメンバーのうち最前方に位置する1本は、そのケーブルとの接触を避けるための切り欠きを含んでいてもよい。このクロスメンバーとケーブルとの間隙にも十分な余裕が残るので、それらが冷凍車の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに接触する危険性がない。
【0014】
ボックスのリアドアはボックスの側壁に平行2軸ヒンジで接続されていてもよい。これにより、リアドアは、外面がボックスの側壁に接触するほどの角度(たとえば270°)まで回転可能である一方、ボックスの後面から突出するヒンジの高さが抑えられる。こうして、リアドアの開きを狭めることなく、ヒンジが冷凍車の全長に与える影響を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[冷凍冷蔵自動車の外観]
【0017】
図1の(a)は従来の大型冷凍冷蔵自動車(CHV)100の側面図であり、(b)は本発明の実施形態による大型CHV200の側面図である。いずれのCHV100、200も全長が11.990m(<12m)である。従来のCHV(以下、「旧CHV」という。)100ではキャブ110がフルキャブである。それに対し、実施形態によるCHV(以下、「新CHV」という。)200ではキャブ210がショートキャブである。これにより、新CHV200のキャブ210では旧CHV100のキャブ110よりも、後面が290mm前方に位置する(
図1の(a)の示す矢印AR1参照)。一方、新CHV200のボックス220では旧CHV100のボックス120よりも、前面が595mm前方に位置する(
図1の(b)の示す矢印AR2参照)。これは、積載可能なパレットの最大枚数が、旧CHV100では16枚であるのに対し、新CHV200では18枚であることによる。
【0018】
図1の(c)は、ボックス120の荷室内におけるパレットPLTの配置を示す模式図である。パレットPLTは一般に1100mm四方の板である。ボックス120に荷物を積載する際、それらの荷物はまずパレットPLTの上に載せられ、パレットPLT単位でボックス120の荷室内に収められる。いずれのCHV100、200でもボックス(荷室)の幅が2200mm強であるので、パレットPLTが2列に並べられる。一方、ボックス(荷室)の奥行方向においてはパレットPLTが、旧CHV100では8枚配置可能であり、新CHV200では9枚配置可能である。
【0019】
図1の(a)、(b)が示すように、積載可能なパレットを16枚から18枚へ、2枚増やすのに必要なボックスの長さの増分AR2は、フルキャブ110をショートキャブ210に変更することで生み出される余裕AR1よりも大きい。したがって、仮に、旧CHV100の搭載する冷凍機のカバー130内の構造をそのまま新CHV200に搭載すれば、カバー130とキャブ210との間隙に余裕を残すことができないので、キャブ210を前傾させる際にその後面がカバー130に接触する危険性が高い。実際には、新CHV200の搭載する冷凍機のカバー230内の構造は、旧CHV100のものよりも長さが縮小されている。主にこの縮小により、カバー230とキャブ210との間隙には十分な余裕が確保されている。詳細については後述する。
[冷凍車の構造]
【0020】
図2の(a)は、CHV200の車体構造を示す分解図である。この構造はキャブ210とボックス220とに加えてシャーシ240を備えている。「シャーシ」とは、キャブとボックスとを除く、フレームに装備された構造の全体をいう。
図2の(b)はシャーシ240の上面図である。シャーシ240は、フレーム241、車輪242、エンジン243、パワートレイン244、および電力制御部(PCU)245を含む。フレーム241は梯子型の骨組みであり、特に、前後方向に伸びている1対のサイドレール(縦材)を含む。フレーム241の最前部にはキャブ210が搭載され、後部にはボックス220が搭載されている。車輪242は、たとえば全体の構成が(全輪数)×(駆動輪数)=6×2である。フレーム241のうち、キャブ210の直下に位置する部分には1軸2輪が装備され、ボックス220の中央部の下方に位置する部分には2軸4輪が装備されている。エンジン243は、キャブ210の直下に位置するフレーム241の部分に搭載され、後続のパワートレイン244に対して駆動力(トルク)を与える。パワートレイン244はこの駆動力を、ボックス220の下に位置する2軸の車輪242のうち前側の1軸、すなわち駆動輪へ伝達する。
【0021】
パワートレイン244はエンジン243に近い順に、発電機246、トランスミッション(変速機)247、プロペラシャフト248、およびアクスル249を含む。発電機246はクラッチと一体化されており、そのクラッチに接続されたシャフトの回転力を利用して電力を生成する。具体的には、発電機246はたとえば、シャフトと共に回転する永久磁石がコイルに誘導する起電力をPCU245に対して印加する。トランスミッション247はエンジン243の駆動力を走行条件に合わせて段階的に変化させ、プロペラシャフト248へ伝える。プロペラシャフト248はこの駆動力をアクスル249へ伝える。アクスル249は差動ギアと車軸とを含み(図は示していない。)、これらを利用してプロペラシャフト248からの駆動力で駆動輪を回転させる。
【0022】
PCU245は、発電機246が生成した電力で冷凍機を駆動する。具体的には、PCU245は、一般的なハイブリッド車に搭載されたPCUと実質的には同じ構成であり、インバータとバッテリとを含む(図は示していない)。インバータは、発電機246が交流電力を生成する場合はコンバータとして機能し、その交流電力を利用して、冷凍機の駆動に適した直流電力を生成し、またはバッテリを充電する。バッテリはリチウムイオン二次電池またはニッケル水素二次電池であり、発電機246が生成した電力を蓄積する。PCU245は一般的なハイブリッド車のPCUとは異なり、発電機246の生成した電力とバッテリに蓄積された電力とを専ら冷凍機の駆動に利用し、エンジン243の駆動力の補助(走行アシスト)には利用しない。
【0023】
シャーシ240は更にリアアーチ250とアーチカバー251とを含む。リアアーチ250は、フレーム241の含む1対のサイドレールの間を接続するアーチ状部材である。リアアーチ250は特にキャブ210の後端を分離可能に支持する。アーチカバー251はたとえば繊維強化樹脂(FRP)製または金属製の薄板状部材であり、リアアーチ250が囲む空間を覆ってエンジン243を外部から隔離する。
【0024】
ボックス220は、天井(屋根)221、側壁222、床(図は示していない)、リアドア223、1対のサブフレーム(縦根太)224、および複数本のクロスメンバー(横根太)225を含む。天井(屋根)221、側壁222、床はそれぞれ長方形状の板状部材であり、断熱材を含む。これら221、222は互いに組み合わされて直方体形状の筐体を構成し、その内部空間を気密に囲い、特に外部から断熱する。この空間が荷室として利用される。リアドア223はボックス(荷室)の後側の開口部を塞いでいる。リアドア223は複数のヒンジ226により、側壁222に開閉可能に接続されている。サブフレーム224はボックス220の床下を前後方向に伸びており、それらの間をクロスメンバー225が接続している。これにより、サブフレーム224とクロスメンバー225とはボックス220に対する梯子状の台(荷台)を構成し、ボックス220をシャーシ240のフレーム241に接続して安定化させている。ボックス220は更に冷凍機を含む。その構造については後述する。
[冷凍機]
【0025】
図3は、新CHV200の搭載する冷凍機の構造を示す模式図である。冷凍機は、カバー230に加えて、1対の電動コンプレッサ411、421、1対のコンデンサ412、422、フロントエバポレータ413、配管430、およびリアエバポレータ423を含む。カバー230は、ボックス220の前面からキャブ210の上方へ張り出した筐体であり、電動コンプレッサ411、421、コンデンサ412、422、およびフロントエバポレータ413を一体的に収納している。電動コンプレッサ411、421は、左右方向におけるカバー230の各端部に1つずつ設置され、コンデンサ412、422は、カバー230の前面近傍に左右対称に配置されている。フロントエバポレータ413は、カバー230の後面近傍の中央部に配置されている。配管430はボックス220の天井221に埋め込まれ、カバー230内のコンデンサの一方422と電動コンプレッサの一方421をリアエバポレータ423に接続している。リアエバポレータ423はボックス220の後部においてボックス(荷室)内の天井に設置されている。電動コンプレッサ411、コンデンサ412を始めとするカバー230内の電動機器とリアエバポレータ423とは、ボックス220の側壁222とシャーシ240のフレーム241とにわたって敷設された電力ケーブル440により、PCU245と発電機246とに接続されている。
−冷凍サイクル−
【0026】
図4の(a)は、CHV200が搭載する冷凍サイクルの一例のブロック図である。冷凍サイクルは、冷凍機内部における冷媒の循環を表す。電動コンプレッサ400は、発電機246の生成した電力PW1、またはPCU245内のバッテリに蓄積された電力PW2を利用してガス状の冷媒LVMを加圧する。コンデンサ401は、高圧ガスと化した冷媒HVMを外気EAFで冷却して液化させる。膨張弁(キャピラリ)402は、液化した高圧の冷媒HLMの流量を制限してその圧力を下げる。エバポレータ403は、圧力の下がった液状の冷媒LLMに、ボックス(荷室)内の空気から熱を吸収させて気化させる。気化した冷媒LVMは電動コンプレッサ400に戻され、再利用される。一方、熱を奪われて温度の下がった空気CAFはファン404によってボックス(荷室)内へ送られる。これによりボックス(荷室)内が冷却される。
図4には、一般的な膨張弁タイプの冷凍サイクルを示したが、これ以外の「エジェクター式」や「ガスインジェクション式」のサイクルを用いてもよい(図は示していない)。
−電動式冷凍機の利点−
【0027】
電動式冷凍機は機械式冷凍機よりも一般的に燃費が良く、冷凍性能の安定性が高い。これは次の理由に因る。機械式コンプレッサはエンジンからベルト等によって駆動力を直に受ける。このエンジンが走行用のものと兼用される場合(直結式)、走行状態に応じてエンジンの回転数が変わるとコンプレッサの動作状態(回転数)も変わる。これにより、冷凍サイクルを循環する冷媒の量が変動し、特にボックス内を冷却する能力が変動する。これに対し、電動コンプレッサは、発電機の生成した電力をその発電機またはバッテリから受ける。
図4の(a)が示すように、発電機246はエンジン243からの駆動力EGTだけでなく、車輪242からの制動力BRTを電力に変換する。この制動力BRTが電力として回収される分、電動コンプレッサ400は機械式コンプレッサよりも効率が高い。また、発電機246から電動コンプレッサ400へ供給される電力PW1が低い場合、PCU245は不足分をバッテリに蓄積された電力PW2で補う。これにより、電動コンプレッサ400の動作状態はエンジン243の回転数に実質的には左右されない。したがって、電動式冷凍機は機械式冷凍機とは異なり、冷凍車の走行状態にかかわらず、ボックス内の温度(室温)を安定に維持することができる。
【0028】
具体的には、CHV200(車両重量11,650kg)と、積載可能なパレットの最大枚数が同じ18枚である機械式(直結式)冷凍車(車両重量11,420kg)とについて、1年間にわたって実際の燃費を記録した実験では、1l当たりの走行距離がCHV200では3.89km/lであったのに対し、機械式冷凍車では3.73km/lに留まった。すなわち、CHV200は機械式冷凍車よりも1l当たりの走行距離が約5%伸びた。
【0029】
図4の(b)は、CHV200と、積載可能なパレットの最大枚数が同じ18枚である機械式(直結式)冷凍車とについて、気温35℃の真夏の日射条件下でのアイドリング中における同一仕様ボックス内の温度(室温)変化をシミュレーションした結果を示すグラフである。太い実線のグラフGR1はCHV200における温度変化を示し、細い実線のグラフGR2は機械式冷凍車においてエンジンの回転数が700rpmであるときの温度変化を示し、破線のグラフGR3は同じ機械式冷凍車においてエンジンの回転数が500rpmであるときの温度変化を示す。各グラフの含むピークは除霜に伴う温度変化を示す。これらのグラフを比較すれば明らかなとおり、温度降下はCHV200が最も速い。具体的には、外気温と同じ35℃から−20℃までの到達時間はCHV200では235分であるのに対し、機械式冷凍車では265分(エンジン回転数700rpm)、330分(エンジン回転数500rpm)である。このように、CHV200は機械式冷凍車よりも冷凍能力が高く、特にその能力がエンジンの回転数にかかわらず安定である。
−カバー−
【0030】
図5の(a)、(b)、(c)はそれぞれ、カバー230の上面図、側面図、正面図である。カバー230の上面231はほぼ水平であり、後端から前端へ(図ではx軸の正方向へ)進むにつれてやや下方(図ではz軸の負方向)に湾曲している。前後方向(x軸方向)における上面231の中央部には排気口232が開いており、その中に排気ファン233が4つ並んでいる。カバー230の前面234は垂直方向(z軸方向)から前方(x軸の正方向)へ傾斜しており、前端から後端へ(x軸の負方向へ)進むにつれて降下(z軸の負方向へ変位)している。前面234の上部には吸気口235が開いている。
−カバーの内部−
【0031】
図6の(a)は、カバー230を取り外したときに現れるその内部構造の斜め前方からの外観を表す斜視図であり、(b)は、その内部構造のうち断熱パネル236よりも内側の部分の外観を表す斜視図であり、(c)は、(a)の示す線分c−cに沿ったその内部構造の縦断面図である。カバー230の内側の空間は断熱パネル236により、その内側と外側とに二分されている。断熱パネル236の外側には電動コンプレッサ411、421とコンデンサ412、422とが配置されている。電動コンプレッサ411、421は断熱パネル236とカバー230の各側面の上部との間に1つずつ位置する。コンデンサ412、422は、
図5の(c)が示す吸気口235の裏側に、
図6の(a)が示すように左右対称に配置された熱交換器414、424を含む。CHV200の前方から見て左側(図でも左側)の電動コンプレッサ411は、同じく左側のコンデンサ412の熱交換器414へ、
図4の(a)が示す高圧ガス状の冷媒HVMを送る。右側の電動コンプレッサ412は、同じく右側のコンデンサ422の熱交換器424へ高圧ガス状の冷媒HVMを送る。各コンデンサ412、422は熱交換器414、424の裏側に排気ファン233を2つずつ含む。これらは、
図5の(a)が示す排気口232から覗いていたファンである。CHV200の走行中、これらのファン233が駆動することにより、カバー230の前面に当たる風は吸気口235からコンデンサ412、422の熱交換器414、424を吹き抜け、排気口232からカバー230の上方へ排気される。この風により、コンデンサ412、422の熱交換器414、424を流れる高圧ガス状の冷媒HVMが冷却されて液化する。左側のコンデンサ412の熱交換器414で液化した冷媒HLMは断熱壁236の内側へ進入する。右側のコンデンサ422の熱交換器424で液化した冷媒HLMはカバー230の内部から、
図3が示すボックス220の天井221に埋め込まれた配管430へ送られる。
【0032】
図6の(b)、(c)が示すように、断熱パネル236で囲まれた空間の内側はフロントエバポレータ413が占める。フロントエバポレータ413はその空間の中に下から順に、吸込口415、熱交換器416、4つの送風ファン417、および吹出口418を含む。吸込口415と吹出口418とはボックス220の荷室の前壁227に設けられている。左側のコンデンサ412の熱交換器414で液化した冷媒HLMは、膨張弁(図は示していない。)で減圧された後に熱交換器416を流れる。送風ファン417が駆動することにより、ボックス(荷室)内の空気は吸込口415から熱交換器416を吹き抜け、吹出口418からボックス(荷室)内へ戻される。このとき、熱交換器416を流れる液状の冷媒LLMに気化熱を奪われるので、熱交換器416を吹き抜ける気流の温度が下がる。この気流がボックス(荷室)内へ戻されることによりボックス(荷室)内、特にその前部が冷却される。一方、熱交換器416で気化した低圧低温の冷媒LVMは左側の電動コンプレッサ411へ戻る。
−配管−
【0033】
図7の(a)は、ボックス220の天井221のうちリアエバポレータ423が設置された後部の縦断面図であり、(b)は、(a)が示す線分b−bに沿った天井221の横断面図である。天井221の中には配管430が埋め込まれている。配管430は2種類431、432である。一方431は周囲が断熱材で覆われており、
図6の(a)が示す右側のコンデンサ422で液化した高圧高温の冷媒HLMをリアエバポレータ423へ送る。他方432は、リアエバポレータ423で気化した低圧低温の冷媒LVMを、
図6の(a)が示す右側の電動コンプレッサ412へ戻す。
−リアエバポレータ−
【0034】
図7の(c)、(d)はそれぞれ、リアエバポレータ423の底面図、側面図である。説明の便宜上、(c)、(d)では筐体があたかも透明であって内部構造が見えているように描かれている。
図7の(a)が示すようにリアエバポレータ423は薄い矩形板状であり、ボックス220の荷室の天井228の後端に設置されている。リアエバポレータ423の底面425には吸気ファン426が3つ露出しており、ボックス(荷室)内の空気を筐体内に吸い込む。リアエバポレータ423の前面には送風口427が開いている。吸気ファン426から送風口427にわたる空間には熱交換器428が設置されている。カバー230内の右側のコンデンサ422で液化した冷媒HLMは配管430からリアエバポレータ423の内部へ進入し、膨張弁(図は示していない。)で減圧された後に熱交換器428を流れる。吸気ファン426が駆動することによりボックス(荷室)内の空気は吸気ファン426から熱交換器428を吹き抜け、送風口427からボックス(荷室)内へ戻される。このとき、熱交換器428を流れる液状の冷媒LLMに気化熱を奪われるので気流の温度が下がり、この気流がボックス(荷室)内へ戻されることによりボックス(荷室)内、特にその後部が冷却される。一方、熱交換器428で気化した低圧低温の冷媒LVMは配管430を通してカバー230内の右側の電動コンプレッサ421へ戻る。
[カバー内の構造の変更点]
【0035】
図8の(a)は、
図1の(a)が示す旧CHV100のカバー130内の構造のうち断熱パネルよりも内側の部分の外観を表す斜視図である。断熱パネルとその外側の構造とは旧CHV100と新CHV200との間で実質的に共通であり、特に要素の配置と全体のサイズとに違いがない。一方、断熱パネルよりも内側の構造には旧CHV100と新CHV200との間で次の違いがある。
図8の(a)が破線で示すように、旧CHV100のカバー130内にはリアエバポレータの熱交換器123が組み込まれている。これに対し、新CHV200のカバー230内では、
図6の(b)が破線で示すように、対応する領域が実質的に空いている。
【0036】
図8の(b)、(c)はそれぞれ、旧CHV100のカバー130内の構造と新CHV200のカバー230内の構造とについて、
図6の(a)の示す線分c−cと同様、前後方向に沿った縦断面を示す図である。
図8の(b)が示すように、旧CHV100のカバー130内では断熱パネル136の内側にリアエバポレータの熱交換器123が組み込まれている。これに対し、新CHV200のカバー230内では、
図8の(c)が破線で示すように、断熱パネル236の内側の対応する領域が空いている。この空きにより新CHV200のカバー230の長さCL2は旧CHV100のカバー130の長さCL1よりも37mm短縮している。
【0037】
機械式冷凍車に対するCHVの大きな利点の1つは、電動コンプレッサ、コンデンサ、エバポレータがカバーの中に一体的に収容可能であるので、冷媒の配管がカバー内に限定されることにある。新CHV200ではこの利点を敢えて損ねてリアエバポレータ423を分離することにより、カバー230内の構造の長さCL2を短縮することができる。
[車体の変更点]
−キャブの前後−
【0038】
図9の(a)は、新CHV200のキャブ210の側面図である。
図1の(a)が示すフルキャブ110からショートキャブ210への変更で生じる余裕AR1を可能な限り増加させる目的で、ショートキャブ210には設計に次の変更が加えられている。
【0039】
図9の(b)、(c)はそれぞれ、ショートキャブ210の前面211とフルキャブ110の前面111との下部の側面図である。ショートキャブ210のバンパ212はフルキャブ110のバンパ112よりも前端が10mm後退している。これは、バンパ212の裏側に位置する取付部の突出量を10mm削ったことによる。
【0040】
図9の(d)はショートキャブ210の後面213の下部の側面図である。ショートキャブ210ではフルキャブ110よりもアーチカバー251の後面が15mm前進している。これは、アーチカバー251の厚みを15mmカットしたことによる。
【0041】
図9の(e)、(f)はそれぞれショートキャブ210の後面213とフルキャブ110の後面113との各下部の斜視図である。ショートキャブ210のアーチカバー251はフルキャブ110のアーチカバー151よりも後面が前進しているので、リアアーチの付属物の中には、フルキャブ110と同じ配置のままではアーチカバー251の後面よりも前方に位置することのできないものが現れる。たとえば、リアアーチに設置されたパワーステアリング用オイルタンク114、214から伸びるオイルリザーバホース115、215がアーチカバー151、251の上を通過している。
図9の(f)が示すフルキャブ110におけるホース115の経路と同じままでは、ショートキャブ210ではホースがアーチカバー251の後面よりも前方に位置することはできない。そこで、ショートキャブ210ではホースの経路が変更され、
図9の(e)が示すように、ホース215はアーチカバー251の上端に沿って伸びる。これにより、ホース215はアーチカバー251の後面よりも前方に位置する。その他に、リアアーチに付属する部材のうち後方へ張り出す部分がカットされ、ボルトの向きが逆にされて後方への突出長が短縮している。その結果、
図9の(d)が示すように、ショートキャブ210の後面213とリアアーチの付属物とは、アーチカバー251の後面よりも前方に位置する。こうして、ボックス220の前面とアーチカバー251の後面との間隙には十分な余裕が残るので、対向する構造物がCHV200の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに衝突する危険性がない。
−ボックスの下−
【0042】
図10の(a)はCHV200のキャブ210とボックス220の前部との側面図であり、(b)、(c)はそれぞれ、(a)の示す破線で囲まれた領域の縦断面図、斜視図である。ボックス220の下には、
図2の(a)が示すように、サブフレーム224とクロスメンバー225とが構成する梯子状の荷台がある。この更に下のシャーシ140には、
図3の示す電力ケーブル440が敷設されている。特にクロスメンバー225のうち最前方に位置する1本(以下、「第1クロスメンバー」という。)25Fの直下には、
図10の(b)、(c)が示すようにケーブル端子台441が位置する。ケーブル端子台441は特に発電機246とリアエバポレータ423との間におけるケーブル440の接続部である。第1クロスメンバー25Fは、ケーブル端子台441と対向する部分に切り欠き252を含む。この切り欠き252により第1クロスメンバー25Fとケーブル端子台441との間隙には十分な余裕が残るので、それらがCHV200の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに接触する危険性がない。
−リアドアのヒンジ−
【0043】
図11の(a)は、ボックス220の側壁222とリアドア223との接続部の水平面に沿った横断面図であり、(b)は、(a)の示す破線で囲まれた部分の拡大図である。
図11の(a)、(b)が示すように、リアドア223を側壁222に開閉可能に接続するヒンジ226は、互いに平行な1対の回転軸261、262を含む平行2軸型である。リアドア223は、ボックス220の後部を閉じている位置から開かれる際、ヒンジ226の2つの回転軸261、262のまわりを順番に回転することにより、回転角を2段階に変化させる。具体的には、リアドア223は閉じた位置(回転角θ=0)からまず、ヒンジ226の外側の回転軸261のまわりに180°回転する。最初の回転を終えたときの位置(回転角θ=180°)からリアドア223は次に、ヒンジ226の内側の回転軸262のまわりに90°回転する。2回目の回転を終えたときの位置(回転角θ=270°)では、
図11の(a)が示すように、リアドア223は外面(より正確には、取っ手23L)がボックス220の側壁222に接触する。一方、ボックス220の側壁222の後面22Rから突出するヒンジ226の高さは、
図11の(b)が示すように高々25mmに過ぎず、特にリアドア223が閉じた位置(回転角θ=0)にあるときの取っ手23Lよりも低い。
−キャブとカバーとの間隙−
【0044】
図12はCHV200のキャブ210とボックス220の前部との側面図である。
図1の(a)が示すように、積載可能なパレットを2枚増やすのに必要なボックスの長さの増分AR2は、フルキャブ110をショートキャブ210に変更することで生み出される余裕AR1よりも大きい。しかし、
図8の(b)、(c)が示すとおり、新CHV200のカバー230の長さCL2は旧CHV100のカバー130の長さCL1よりも37mm短縮している。この縮小により、カバー230とキャブ210との間隙には十分な余裕が確保されている。さらに、ショートキャブ210ではフルキャブ110よりも、
図9の(b)、(c)が示すようにバンパ212の前端が10mm後退し、アーチカバー251の後面が15mm前進している。これらの設計変更により、カバー230とキャブ210との間隙には更に余裕が与えられる。こうして、
図12が示すように、カバー230の前面は、キャブ210が傾く際にキャブ210の後面が描く軌跡TRCから十分な間隔GAPを空けて位置するので、キャブ210が前傾しても、その後面がカバー230に接触する危険性はない。
[実施形態の利点]
【0045】
本発明の上記の実施形態による新CHV200では、旧CHV100と同様に、電動コンプレッサ411、421、コンデンサ412、422、およびフロントエバポレータ413がカバー230内に一体化されている。一方、旧CHV100とは異なり、リアエバポレータ423がカバー230内の構造から分離されてボックス220の後部に設置されている。本来は、電動コンプレッサ、コンデンサ、エバポレータがカバーの中に一体的に収容され、冷媒の配管がカバー内に限定されることがCHVの大きな利点の1つである。新CHV200ではこの利点を敢えて損ねることにより、カバー230内の構造の長さCL2を十分に短縮することができる。その結果、カバー230とキャブ210との間隙に十分な余裕を残したまま、ボックスの全長を更に伸ばすことができる。さらに、コンデンサ422で液化した冷媒をリアエバポレータ423へ伝搬させる配管440はボックス220の天井221に通せばよく、ボックス220の側面、床下には引き回す必要がない。したがって、配管440の新設に伴う製造コストの増加は、ボックスの伸長に伴う積載可能なパレットの最大枚数の増加に比べれば問題にならない。
【0046】
CHV200では、キャブ210の後面213とリアアーチの付属物とがアーチカバー251の後面よりも前方に位置する。付属物にはオイルリザーバーホース215またはボルトが含まれる。これらの付属物がキャブ210の後面213と共に、アーチカバー251の後面よりも前方に位置するので、ボックス220の前面とアーチカバー251の後面との間隙にも十分な余裕が残る。したがって、対向する構造物がCHV200の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに衝突する危険性がない。
【0047】
CHV200ではまた、第1クロスメンバー25Fが、ケーブル端子台441と対向する部分に切り欠き252を含む。この切り欠き252により第1クロスメンバー25Fとケーブル端子台441との間隙には十分な余裕が残るので、それらがCHV200の走行中に振動・衝撃を受けても、互いに接触する危険性がない。さらに、リアドア223をボックス220の側壁222に開閉可能に接続するヒンジ226は平行2軸型である。これによりリアドア223は、外面(より正確には、取っ手23L)がボックス220の側壁222に接触するほどの角度θ=270°まで回転可能である一方、ボックス220の後面22Rから突出するヒンジ226の高さが抑えられる。こうして、リアドア223の開きを狭めることなく、ヒンジ226がCHV200の全長に与える影響を除去することができる。
【解決手段】カバー(230)はボックス(220)の前面からキャブ(210)の上方へ張り出している。ボックスの天井(221)には配管(430)が埋め込まれており、カバーとボックスの後部との間で冷媒を循環させる。エバポレータはフロントエバポレータ(413)とリアエバポレータ(423)とに2分割されている。フロントエバポレータは電動コンプレッサ(411、421)とコンデンサ(412、422)と共にカバー内に収容されてカバー内で冷媒を循環させ、ボックス(荷室)内の前側を冷却する。リアエバポレータはボックスの後部に設置され、電動コンプレッサとコンデンサとは配管を通じて冷媒を循環させ、ボックス(荷室)内の後側を冷却する。