(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を示す図面を参照して本発明を説明する。なお、以下の説明では、左右、前後、上下などの記載は、着用者にとっての方向を意味する。従って、
図1における上、下、左、右は着用者にとっての上、下、左、右であり、紙面の表側を前、紙面の裏側を後とする。
【0012】
[陰嚢冷却用パンツ1の全体構成について]
図1は、本実施形態に係る陰嚢冷却用パンツ1を着用者が着用した状態を前方から見た外観図である。
図1においては、陰嚢支持部3の外形線(仮想線)を陰嚢冷却用パンツ1の前方から透視した二点鎖線によって表している。
【0013】
図1に示すように、陰嚢冷却用パンツ1は、パンツ本体2と、陰嚢支持部3とを備える。
【0014】
[パンツ本体2の構成について]
パンツ本体2は伸縮性を有する綿、絹、ウール、あるいは合成繊維などの布で形成されたトランクスタイプのパンツ本体である。
【0015】
図2は、陰嚢冷却用パンツ1を斜め上方から見た斜視図である。
図2においては図面を分かりやすくするために、陰嚢支持部3を網掛けによるハッチングで示している。
【0016】
図2に示すように、パンツ本体2は、胴部が挿通される胴部開口部20、左右脚部が挿通される一対の脚部開口部21L、21R及び前記一対の脚部開口部21L、21Rの間に形成された股下部22を有している。
【0017】
(胴部開口部20の構成について)
図2に示すように、胴部開口部20には縁部20Eが設けられる。この縁部20Eは着用者の腰位置に相当する部分であり、パンツ本体2の最上部に設けられている。この縁部20Eはゴム状部材から構成される。この縁部20Eの弾性力によって腰にフィットさせるようにして着用後のズレ落ちが防止されている。
【0018】
(脚部開口部21L、21Rの構成について)
図3は、陰嚢冷却用パンツ1を下方から見た平面図である。
図3においては図面を分かりやすくするために、陰嚢支持部3を網掛けで示している。
【0019】
なお以下では一対で構成されていて特別に区別して説明する必要がない脚部開口部21L、21Rは、説明を簡単にするために、一方の脚部開口部21Rについてのみ構成を説明し、もう一方の脚部開口部21Lについては、構成の説明を適宜省略することがあることを予め断っておく。
【0020】
図2に示すように、脚部開口部21Lの縁部には、略楕円状の太線で囲まれた挿通穴21LHが左脚部を挿通させるために設けられている。脚部開口部21Rの縁部にも同様の挿通穴21RHが右脚部を挿通させるために設けられている。
【0021】
図1に示すように、一対の脚部開口部21L、21Rに左右脚部がそれぞれ挿通された状態において、挿通穴21LHの開口面積は、パンツ本体2の内部と外部とを連通させるための通気用隙間S1の分だけ左脚部の断面積よりも大きくなっている。
【0022】
同様に、挿通穴21RHの開口面積も通気用隙間S2の分だけ右脚部の断面積よりも大きくなっている。
【0023】
図1に破線で示す矢印A1はパンツ本体2の外部から内部に流れ込んだ空気流の一例を示している。この例では、矢印A1に示すように、通気用隙間S2を介して外部から内部に空気が流れ込んでいく。流れ込んだ空気は、陰嚢が当たる部位30の周辺を通過した後、外部に向けて流れる。このような空気流A1の確保によって、空気と陰嚢周辺との間の熱交換が促進され、陰嚢周辺を効果的に冷却することができる。
【0024】
(股下部22の構成について)
股下部22に形成した通気用開口部22Aを
図1においては斜線によるハッチングで示し、
図3においては斜め格子によるハッチングで示している。
【0025】
図1及び
図3に示すように、股下部22には、パンツ本体2の内部と外部とを連通させる通気用開口部22Aが形成される。通気用開口部22Aはメッシュ素材を用いて形成され、
図1に示すように、陰嚢支持部3のうち陰嚢が当たる部位30の直下に配置される。つまり、この実施形態の陰嚢冷却用パンツ1は、陰嚢を支持する部位30を冷感素材によって構成し、更にその下側に通気用開口部22Aを設けた二重構造を有して構成される。このような二重構造によれば、冷感素材による陰嚢への冷感作用によって、陰嚢の独立性を高めることができるので、陰嚢への冷却作用を高めつつ、臀部などその他の部位への冷却作用を低くすることができる。また、通気用開口部22Aによる陰嚢から外部への放熱作用によって、陰嚢と股下部22との密着による温度上昇を防ぐことができるので、陰嚢に対してのみ冷却作用を高めることができる。
【0026】
図1に実線で示す矢印A2は通気用開口部22Aを介してパンツ本体2の内部から外部に流れる空気流の一例を示している。このような空気流A2の確保によって、外気と陰嚢との間における熱交換が促進される。この結果、陰嚢から外気に吸収される熱量を効率的に増加させることができる。
【0027】
[陰嚢支持部3の構成について]
図1中の二点鎖線に示すように、陰嚢支持部3は、パンツ本体2の内部に形成され、少なくとも着用者の陰嚢を股下部22から吊り上げるように支持する部位である。本実施形態では、陰嚢支持部3によって陰嚢が股下部22から浮いた状態で保持されるので、陰嚢の独立性を高めることができる。
【0028】
図4は、陰嚢支持部3を陰嚢冷却用パンツ1の外側から透視した透視図である。
図4においては、図をわかりやすくするために、陰嚢支持部3のうち陰嚢が当たる部位30を斜線で示している。
図4に示すように、陰嚢支持部3は、一端が胴部の前部側に取り付けられ、他端が胴部の後部側に取り付けられた帯状のサポート部材を有している。陰嚢が当たる部位30は、当該サポート部材の最下点となる位置に設けられている。また、当該部位30は冷感素材によって構成される。その他の部位は綿、絹、ウール、あるいは合成繊維などの布製の素材を用いて構成される。
【0029】
図5は、陰嚢冷却用パンツ1を上方から見た平面図である。
図5においては、図をわかりやすくするために、陰嚢支持部3を網掛けによるハッチングで示し、部位30を構成する冷感素材を斜線によるハッチングで示している。このハッチングに示すように、本実施形態の部位30は股下部前寄りの位置にくるように配置されているが、部位30が陰嚢に接触する確率をより高めるという効果を得るには、部位30を股下部前後方向の全域に亘って設けることが好ましい。
【0030】
以下の表1は、部位30を構成する冷感素材の種類を示している。表1中の項目「メーカー」は各素材のメーカーを示し、項目「Q-Max」は各素材の接触冷湿感測定値(W/cm2)を示している。なお、接触冷湿感測定値が非公表の冷感素材については、項目「Q-Max」中に「―」で示している。
【0031】
部位30を構成する冷感素材は、Q-Maxが高い素材を用いることが好ましく、具体的には、Q-Maxが0.3(W/cm2)以上の素材を用いることが好ましい。
【表1】
【0032】
本実施形態に係る陰嚢冷却用パンツ1は、
図1に示すように、陰嚢を支持する陰嚢支持部3を冷感素材によって構成し、更にその外側の股下部22に通気用開口部22Aを設けた二重構造を有して構成される。このような二重構造によれば、冷感素材による陰嚢への冷感作用によって、陰嚢の独立性を高めることができるので、陰嚢への冷却作用を高めつつ、臀部などその他の部位への冷却作用を低くすることができる。また、通気用開口部22Aによる陰嚢から外部への放熱作用によって、陰嚢と股下部22との密着による温度上昇を防ぐことができるので、陰嚢に対してのみ冷却作用を高めることができる。そのため、冬場であっても臀部など他の部位の温度低下を抑制しつつ、陰嚢の温度上昇を効果的に抑制することができる。この結果、冬場でも着用時の快適性を保持することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないことは言うまでもない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲を逸脱しない限りで類似の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0034】
例えば、上記実施形態では、陰嚢支持部3のうち、部位30を冷感素材によって構成し、その他の部位を布製素材で構成する例について述べたが、陰嚢支持部3は陰嚢を股下部22から吊り上げるように支持できる形状でありさえすれば良く、必ずしもその他の部位を布製素材で構成する必要はなく、部位30を紐状の吊り具で股下部22から吊り上げてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、陰嚢支持部3のうち部位30を構成する冷感素材を
図5中の斜線によるハッチングで示すような形状に形成する例について述べたが、陰嚢への冷感作用がありさえすれば必ずしもこの形状に限定されず、矩形状、円形状又は楕円形状など種々の形状に形成できる。また、部位30を構成する冷感素材の種類は、陰嚢支持部3に部位30を設ける位置に応じて変更してもよい。また、陰嚢支持部3のうち、陰嚢が当たる部位30だけでなく、例えば陰茎の付根部分など男性不妊の改善に有効な部位が当たる部位も冷感素材で構成してもよい。
【0036】
また、陰嚢が当たる部位30に抗菌加工を施してもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、通気用開口部22Aをメッシュ素材で形成する例について述べたが、陰嚢への冷却作用を高めることさえできれば必ずしもメッシュ素材に限定されず、通気用開口部22Aを弾性伸縮不織布やネット状の弾性伸縮部材で形成してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、パンツ本体2をトランクスタイプのパンツ本体として構成する例にについて述べたが、陰嚢を支持する部位30を冷感素材によって構成し、更にその下側に通気用開口部22Aを設けた二重構造を有して構成することさえできれば必ずしもトランクスタイプに限定されず、パンツ本体2をブリーフタイプのパンツ本体として構成してもよい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明に関して、実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。ここでは、従来の普通下着との比較により、夫々のテスト品を用いて、陰嚢冷却用パンツ1(
図1参照)の冷却効果を評価するための実験を行った。
【0040】
(実験対象)
本発明者らは、12名の被験者A〜Lを実験対象とした。
【0041】
(テスト品)
本実験では、従来の普通下着を比較例に係るテスト品に使用し、陰嚢冷却用パンツ1(
図1参照)を実施例に係るテスト品に使用した。
【0042】
(温度測定対象)
本実験では、被験者A〜Lの「精索右」、「精索左」、「精巣右上」、「精巣左上」、「精巣右下」、「精巣左下」の各部位を温度測定の対象とした。
【0043】
(実験方法)
ここでは、比較例に係るテスト品を着用した状態にある被験者A〜Lの各部位における温度[℃]と、実施例に係るテスト品を着用後から2時間が経過した状態にある被験者A〜Lの各部位における温度[℃]と、の比較により、陰嚢冷却用パンツ1(
図1参照)の冷却効果を実験した。その実験結果をまとめて以下の表2、3に示す。
【表2】
【表3】
【0044】
上記表2、3を考察すると、比較例に係るテスト品と比較することで、実施例に係るテスト品の優れた冷却性能が明らかになった。
【0045】
上記表2の項目「精巣平均」は、「精索右」、「精索左」、「精巣右上」、「精巣左上」、「精巣右下」、「精巣左下」の各温度を平均した平均温度[℃]を示す。各平均温度[℃]は、小数点以下2桁を四捨五入した値である。項目「精巣平均」から明らかなように、被験者A〜Lの各部位の全てにおいて、比較例の平均温度よりも実施例の平均温度の方が低くなるという好結果が得られた。
【0046】
上記表3の項目「精巣平均」は、「精索右」、「精索左」、「精巣右上」、「精巣左上」、「精巣右下」、「精巣左下」の各温度差を平均した平均温度差[℃]を示す。各平均温度差[℃]は、小数点以下3桁を四捨五入した値である。この項目「精巣平均」から明らかなように、全ての被験者A〜Lにおいて、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より0.85℃以上低くなるという好結果が得られた。特に、被験者Bにおいては、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より1.92℃も下回るという好結果が得られた。
【0047】
上記表3の項目「部位平均」は、被験者A〜Lの各部位における温度差を平均した平均温度差[℃]を示す。各平均温度差[℃]は、小数点以下3桁を四捨五入した値である。この項目「部位平均」から明らかなように、被験者A〜Lの「精索右」、「精索左」、「精巣右上」、「精巣左上」、「精巣右下」、「精巣左下」の全てにおいて、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より1.07℃以上低くなるという好結果が得られた。特に、「精巣右上」においては、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より1.44℃も下回るという好結果が得られた。
【0048】
上記表3の項目「部位平均」中の被験者平均値「−1.25」は、部位ごとの平均温度差を合計した値を部位の数で除すことにより得られた温度差[℃]である。なお、項目「精巣平均」に示す各平均温度差[℃]の合計値を被験者数で除した値も被験者平均値「−1.25」と同等であった。この被験者平均値「−1.25」が示すように、全ての被験者A〜Lにおいて、実施例に係るテスト品の優れた冷却性能が明らかになった。
【0049】
以下では、被験者A〜Lのうち、特定の被験者A〜Cに着目した実験結果について説明する。
【0050】
(被験者Aの場合)
上記表2に示すように、被験者Aの場合、比較例に係るテスト品を着用時の精索右の温度が35.2℃であった。これに対し、実施例に係るテスト品を着用後から2時間が経過した状態にある精索右の温度は33.0℃であった。
【0051】
すなわち、上記表3に示すように、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より2.2℃も下回るという好結果が得られた。
【0052】
(被験者Bの場合)
上記表2に示すように、被験者Bの場合、比較例に係るテスト品を着用時の精索右の温度が34.7℃であった。これに対し、実施例に係るテスト品を着用後から2時間が経過した状態にある精索右の温度は、32.3℃であった。
【0053】
すなわち、上記表3に示すように、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より2.4℃も下回るという好結果が得られた。同様に、上記表3に示すように、精索右下の温度においても比較例より2.6℃下回るという好結果が得られた。
【0054】
(被験者Cの場合)
上記表2に示すように、被験者Cの場合、比較例に係るテスト品を着用時の精索右下の温度が33.4℃であった。これに対し、実施例に係るテスト品を着用後から2時間が経過した状態にある精索右下の温度は、30.8℃であった。
【0055】
すなわち、上記表3に示すように、実施例に係るテスト品は、比較例に係るテスト品より2.6℃も下回るという好結果が得られた。同様に、上記表3に示すように、精索左下の温度においても比較例より2.3℃下回るという好結果が得られた。
【0056】
本出願は、2016年2月5日に日本国特許庁に出願された特願2016−021251号に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。