(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態に係る水素ガス製造設備について説明する。
図1に示すように本実施形態に係る水素ガス製造設備は、当該水素ガス製造設備を構成する複数の装置や機器が筐体に収納されてなるものである。
即ち、本実施形態の水素ガス製造設備100は、複数の装置類を収容する筐体1を備えている。
本実施形態の前記筐体1は、直方体形状を有している。
本実施形態の前記筐体1は、奥行方向の寸法が高さ方向の寸法よりも小さく、且つ、奥行方向の寸法が横幅方向の寸法よりも小さい扁平形状を有している。
【0011】
図2、3に示すように本実施形態の水素ガス製造設備100の前記筐体1に収容されている機器類としては、例えば、水を電気分解して陰極側に水素ガスを発生させる電解セル2、該電解セル2に直流電力を供給するための整流器3、該整流器3や前記電解セル2などの運転を制御するための制御盤4、電解セル2に供給する純水を製造する純水製造装置5、該純水製造装置5で作製された純水を貯留する純水タンク6などが挙げられる。
本実施形態の純水製造装置5は、外部から供給された水から不純物を除去するための逆浸透膜ろ過装置51と、活性炭ろ過装置52とを有している。
【0012】
尚、本実施形態における前記電解セル2は、陰極と陽極とを有し、水を電気分解して陰極側に水素ガスを発生させるとともに陽極側に酸素ガスを発生させるものであり、陽極側に純水を流通させ、電解により酸素ガスと水素イオンとを生成し、水素イオンを当該陽極側から陰極側へと移動させ、陰極側にて水素ガスを発生させるものである。
従って、本実施形態における前記電解セル2は、陽極側から相対的に大量の水とともに酸素ガスを排出し、陰極側から相対的に少量の水とともに水素ガスを排出するものとなっている。
【0013】
上記のようなことから、本実施形態の水素ガス製造設備100の前記筐体1には、前記純水を陽極側で循環させるためのポンプ7と、前記電解セル2の陽極側から排出される酸素ガスと純水との気液混合液を気液分離するための気液分離装置8と、前記ポンプ7によって循環される純水をろ過するためのフィルター9と、前記フィルター9を通過した後の水に含まれているイオンを除去するためのポリッシャー10と、これらを通るように純水の循環経路を形成するための配管11などがさらに収容されている。
さらに、本実施形態の水素ガス製造設備100の前記筐体1には、前記電解セルで製造された水素ガスから水分を除去するための装置類が収容されており、前記電解セル2の陰極側から排出される水素ガスを冷却して水蒸気の状態で含まれている水分を凝縮水とするための熱交換器12と、該熱交換器12で冷却された後の水素ガスから前記凝縮水などの水分を除去するための気液分離装置13と、該気液分離装置13で水分が除去された後の水素ガスからさらに水分を除去すべく吸着剤を使った除湿処理が行われる除湿器14と、が収容されている。
本実施形態の水素ガス製造設備100には、除湿器14を通過した後の水素ガスの流量を測定するための流量計15と、前記電解セル2などからの水素ガスの漏えいを検知するためのガス検知器16とがさらに備えられている。
【0014】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、前記整流器3と前記電解セル2とを電気的に接続し、前記電気分解のための電力を前記電解セルに供給するための複数本の電線が更に備えられており、該電線も前記筐体1に収容されている。
本実施形態の水素ガス製造設備100では、前記整流器3が前記電解セル2の上方に配置されており、前記電線は上下方向に延在するように配されている。
そして、本実施形態の水素ガス製造設備100は、この電線を流れる電流を監視するための監視装置Aと、前記電線と前記電解セル2との接続部分の温度を測定する測温体(図示せず)が前記筐体1に収容されている。
【0015】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、優れたメンテナンス性を発揮すべく構成されている。
具体的には、前記筐体1がいくつかのパーツに分解可能であるとともに前記の装置類の配置がこれらへのアクセスを考慮したものになっている。
前記筐体1は、前面側に開口部1xを有する筐体本体110と、該筐体本体110の開口部を開閉するための前扉120とを有する。
前記筐体1は、前記筐体本体110の下側に移動用のキャスター130を備えている。
【0016】
前記筐体本体110は、前後に開口した矩形枠状の枠体111と、該枠体111の奥側の開口を閉塞する奥壁112とで構成され、該枠体111の前側が前記前扉120によって閉塞される開口部1xとなっている。
前記奥壁112は、枠体111に対して着脱自在となって枠体111の後方側に固定されている。
前記前扉120は、枠体111に対して開閉自在となって枠体111の前側に設けられている。
【0017】
前記枠体111は、平面視における形状が横長な長方形となる輪郭形状を有する底壁111aと、該底壁111aと共通する形状を有し、且つ、底壁111aと対向するように底壁111aの垂直方向上方に配された天井壁111bと、該天井壁111bと前記底壁111aとを正面視左側において接続する第1の側壁111cと右側において接続する第2の側壁111dとで構成されている。
本実施形態の前記装置類は、全て前記筐体本体110の内部に収容されている。
前記筐体1に収容されている装置類は、該枠体111及び前記奥壁112に固定されて筐体本体110の内部に収容されている。
【0018】
前記電解セル2は、監視装置Aや測温体で異常が検知された際に点検容易であることが好ましい。
そのため、本実施形態の電解セル2は、筐体1の底壁111aの上に配された低い台21の上に固定されており、前記台21は、係止具によって底壁111aに固定されているとともに、前記係止具を外して前方に引き出し可能になっている。
即ち、本実施形態の電解セル2は、前記整流器3の下方において固定された第1の状態と、前後にスライド可能となる第2の状態とに切り替え可能に配されており、前記台21とともに前方にスライド移動させて点検作業ができるようになっている。
該電解セル2は、点検作業を容易に実施し得るように前記筐体1の開口部1xとなっている前方に向かって移動する際に遮るものが無いように配されている。
そして、本実施形態の水素ガス製造設備100は、筐体2に収容されている他の装置類に対してもメンテナンス性を考慮した配置がなされている。
【0019】
具体的には、前記筐体本体110の内部では、前記整流器3、前記制御盤4、及び、前記ガス検知器16が相対的に上方に配され、前記電解セル2、前記ポンプ7、前記フィルター9、前記ポリッシャー10、及び、前記除湿器14が相対的に下方に配されており、且つ、該下方に配されたものの内、前記電解セル2、前記フィルター9、及び、前記ポリッシャー10は相対的に前方に配され、前記ポンプ7、及び、前記除湿器14は相対的に後方に配されている。
【0020】
水素ガス製造設備100は、前扉120を開けた際に前記整流器3と前記制御盤4とに直接アクセスできるように構成されている。
本実施形態の前記制御盤4は、水素ガス製造設備100の一日の運転開始時刻や運転終了時刻を設定したり、電解セル2での電気分解に先だってポンプ7による水の循環を開始させるタイミングを設定したり、水素ガスの消費量などに基づく電解セル2の運転状況を調整したりするためのプログラミングがされたシーケンサを有しており、プログラミングを変更する必要が生じたときに前扉120を開けて操作することが容易な位置に配されている。
また、水素ガス製造設備100は、前記前扉120を開けるだけで前記フィルター9や前記ポリッシャー10に対しても直接アクセスできるように構成されている。
即ち、前記電解セル2が筐体1の開口部1xとなっている前方に向かって移動するのに遮るものが無いように配されているのと同様に内部のろ材の交換頻度が高いフィルター9も前方に遮るものが無いように配されている。
また、内部のイオン交換樹脂の交換頻度が高いポリッシャー10も同様に配されており、前方への移動において他の装置類によって移動が妨げられないように配されている。
このようなメンテナンス性をさらに向上させるべく、純水の流通経路やガスの流通経路を構成する配管の少なくとも一部は、コルゲート管のような可とう性を有する管材で構成させてもよい。
【0021】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、上記のようにメンテナンス性に優れるとともに何等かの異常が生じた際にいち早く検知し得るように構成されている。
以下にこの点について詳述する。
【0022】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、前記電線として、前記陰極に接続された陰極用電線C1と、前記陽極に接続された陽極用電線C2とを有し、前記陰極に対して互いに並列となるように接続された第1陰極用電線C11と第2陰極用電線C12とを含む複数の前記陰極用電線C1と、前記陽極に対して互いに並列となるように接続された第1陽極用電線C21と第2陽極用電線C22とを含む複数の前記陽極用電線C2と、が備えられている。
【0023】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、前記電解セル2によって前記電気分解が行われる際に、前記第1陰極用電線C11、前記第2陰極用電線C12、前記第1陽極用電線C21、及び、前記第2陽極用電線C22のそれぞれの電線に対して、理論的に流れるべき電流値と実際に流れる電流値との乖離状況を監視する監視装置Aが備えられている。
前記監視装置Aは、上記のように各電線(C11,C12,C21,C22)を実際に流れる電流値と、理論的に流れるべき電流値との差を監視するという第1の機能とは別の第2の機能を有するものであってもよい。
より詳しくは、前記監視装置Aは、前記電解セル2によって前記電気分解が行われる際に、前記第1陰極用電線C11に流れる電流値と前記第2陰極用電線C12に流れる電流値との差である陰極側電流値差、及び、前記第1陽極用電線C21に流れる電流値と前記第2陽極用電線C22に流れる電流値との差である陽極側電流値差、の少なくとも一方を監視するという第2の機能を有するものであってもよい。
即ち、前記監視装置Aは、第1の機能と第2の機能との内、少なくとも、一方の機能を有していればよい。
前記監視装置Aは、第1の機能と第2の機能との両方の機能を有していることが好ましい。
前記監視装置Aは、前記第2の機能を有する場合、陰極側電流値差と陽極側電流値差との両方を監視する機能を有していることが好ましい。
【0024】
本実施形態での前記監視装置Aは、上記のような機能を発揮させるべく、各電線(C11,C12,C21,C22)を流れる電流値を測定するための4つの電流計A1と、該電流計A1で得られた電流値に基づいて各種制御を行う制御器A2とを備えている。
即ち、前記制御器A2では、各電線(C11,C12,C21,C22)に実際に流れる電流値と理論的に流れるべき電流値との差がモニタリングされるとともに陰極側電流値差、及び、陽極側電流値差がモニタリングされる。
尚、本実施形態において用いられる電流計としては、非接触型のものが好ましく、ホール素子を備えたクランプメータなどが好適である。
【0025】
本実施形態における前記監視装置Aは、前記陰極側電流値差及び前記陽極側電流値差の内の少なくとも一方に対し、前記電気分解が行われる際に計測されるべき理論値とは乖離した設定値を設定できるように構成されており、且つ、前記陰極側電流値差及び前記陽極側電流値差の内の少なくとも一方が前記設定値に達した際に前記制御器A2から警告信号を発するように構成されている。
【0026】
本実施形態における前記監視装置Aは、前記設定値を第1段設定値として設定でき、且つ、該第1段設定値よりも前記理論値と乖離した第2段設定値を設定できるように構成されており、前記陰極側電流値差及び前記陽極側電流値差の内の少なくとも一方が前記第2段設定値に達した際に前記電解セル2への電力供給を停止する停止信号を前記制御器A2から発するように構成されている。
【0027】
本実施形態における前記監視装置Aは、各電線(C11,C12,C21,C22)に流れる電流値についても、理論的に流れるべき電流値とは乖離した第1段設定値を各電線ごとに設定できるように構成されており、且つ、各電線(C11,C12,C21,C22)の内の1つの電線の電流値が第1段設定値に達した際に前記制御器A2から警告信号を発するように構成されている。
【0028】
本実施形態における前記監視装置Aは、各電線(C11,C12,C21,C22)に流れる電流値についても、前記第1段設定値と、該第1段設定値よりも前記理論電流値と乖離した第2段設定値とを各電線ごとに設定できるように構成されており、且つ、各電線(C11,C12,C21,C22)の内の1つの電線の電流値が第2段設定値に達した際に前記電解セル2への電力供給を停止する停止信号を前記制御器A2から発するように構成されている。
【0029】
尚、各電線(C11,C12,C21,C22)に流れるべき理論的な電流値は、通常、整流器3の陰極から、陰極用電線C1、電解セル2、及び、陽極用電線C2を通って整流器3の陽極へと至る経路の全体の電気抵抗値(R
0)と整流器3によって陽極−陰極間に印加される電圧(V)とによって求められる総電流値(I
0=V/R
0)に基づいて求めることができる。
即ち、陰極用電線C1では、前記第1陰極用電線C11の電気抵抗値を「R
11」、前記第1陰極用電線C11の理論電流値を「I
i11」、前記第2陰極用電線C12の電気抵抗値を「R
12」、前記第2陰極用電線C12の理論電流値を「I
i12」とした場合、第1陰極用電線C11と第2陰極用電線C12の長さが同等であれば、それぞれの電気抵抗値も同等なので、これらの間には次の関係が成り立つ。
R
11×I
i11 = R
12×I
i12 ・・・・(1)
I
i11+I
i12 = I
0 ・・・・(2)
同様に、前記第1陽極用電線C21の電気抵抗値を「R
21」、前記第1陽極用電線C21の理論電流値を「I
i21」、前記第2陽極用電線C22の電気抵抗値を「R
22」、前記第2陽極用電線C22の理論電流値を「I
i22」とした場合、第1陽極用電線C21と第2陽極用電線C22に異常がなく、各電線の長さが同等であれば、それぞれの電気抵抗値も同等なので、これらの間には次の関係が成り立つ。
R
21×I
i21 = R
22×I
i22 ・・・・(3)
I
i21+I
i22 = I
0 ・・・・(4)
【0030】
ここで前記第1陰極用電線C11にキンクが生じたり、端子部における屈曲などで素線が何本か断線したりして前記第1陰極用電線C11の電気抵抗値が「R’
11(=R
11+ΔR)」に変化したとすると、全体的な電気抵抗値が上がり、総電流値は低下する。
そして、第1陰極用電線C11の抵抗値が変化した後の第1陰極用電線C11、第2陰極用電線C12、第1陽極用電線C21、及び、第2陽極用電線C22のそれぞれの電流値を「I
r11」、「I
r12」、「I
r21」、及び、「I
r22」とすると、それぞれの変化は下記のようになる。
第1陰極用電線C11 : 「I
r11」<<「I
i11」
第2陰極用電線C12 : 「I
r12」>>「I
i12」
第1陽極用電線C21 : 「I
r21」 < 「I
i21」
第2陽極用電線C22 : 「I
r22」 < 「I
i22」
【0031】
尚、第1陰極用電線C11の抵抗値の変化が僅かであれば、陽極用電線C2における電流値の変化も小さくなるとみられる。
この場合、陰極側電流値差(ΔI
1)は、「I
i11−I
i12」から「I
r11−I
r12」へと大きく変化するのに対し、陽極側電流値差(ΔI
2)の変化は小さい。
具体的には、第1陰極用電線C11の抵抗値が変化した事で総電流値が「I
0」から「I’
0」に変化したとすると変化後の陽極用電線C2のそれぞれの電流値は、元の電流値に「I’
0/I
0」を乗じた値となる。
即ち、陽極側電流値差(ΔI
2)は、「I’
0/I
0」倍に変化するだけである。
このとき、第1陽極用電線C21と第2陽極用電線C22との電気抵抗値が殆ど同じ値で陽極側電流値差(ΔI
2)が実質的にゼロであれば、第1陰極用電線C11の抵抗値が変化したとしても陽極側電流値差はゼロのままである。
【0032】
上記のような事態とは別に、第1陰極用電線C11の絶縁被覆に傷付きが生じるなどして、僅かな漏電が生じた場合、第1陰極用電線C11以外の電線を流れる電流値は実質的に変化しないが、第1陰極用電線C11にセットされた電流計により測定される電流値が増大する分だけ総電流値は、値が増大する。
また、陽極側電流値差(ΔI
2)は、変化しないが、陰極側電流値差(ΔI
1)は、変化することになる。
【0033】
このようにして、総電流値の変化などから断線や漏電といった異常のモードをある程度把握することができ、理論的な電流値と実際の電流値との乖離状況などによってどの電線に異常が生じているかを把握することができる。
また、陰極側電流値差や陽極側電流値差についても理論値との乖離状況を把握することでどの電線に異常が生じているかを把握することができる。
【0034】
ここで、電解セル2への給電は、一般的な電気機器に比べて低電圧で高電流なものとなっているため、僅かな抵抗値の変化であっても測定誤差と呼べるレベルを超えた電流値の変化を観測することができる。
即ち、本実施形態の水素ガス製造設備100では、一般的な電線の使用状況から考えると無視できるような僅かな劣化でも、いち早く見つけることができ、問題が顕在化する前に電線を取り替えるなどして問題が発生することを未然に防ぐことができる。
【0035】
尚、本実施形態の水素ガス製造設備100では、電線の異常検知にダブルチェックを加える意味において、電解セル2の端子の温度を測定する測温体がさらに備えられている。
本実施形態の水素ガス製造設備100の前記電解セル2には、
図3に示すように前記第1陰極用電線C11が接続される第1陰極端子T11と、前記第2陰極用電線C12が接続される第2陰極端子T12と、前記第1陽極用電線C21が接続される第1陽極端子T21と、前記第2陽極用電線C22が接続される第2陽極端子T22と、が備えられている。
本実施形態の水素ガス製造設備100は、前記第1陰極端子T11、前記第2陰極端子T12、前記第1陽極端子T21、及び、前記第2陽極端子T22のそれぞれの温度を測定する測温体が備えられている。
該測温体としては、例えば、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタなどが挙げられる。
前記測温体は、サーモラベルなどと称される温度によって色調が変化するラベルであってもよい。
また、前記測温体としては、サーモグラフのような非接触式のものであってもよく赤外線センサーなどを利用したものであってもよい。
【0036】
本実施形態の水素ガス製造設備100は、前記第1陰極端子T11と、前記第2陰極端子T12と、が電解セル2の中心部を間に挟んで対向する位置にそれぞれ設けられている。
また、前記第1陽極端子T21と、前記第2陽極端子T22と、が電解セル2の中心部を間に挟んで対向する位置にそれぞれ設けられている。
前記のように第1陰極用電線C11の素線が断線し、該第1陰極用電線C11の導体抵抗が増大したとすると、電線の電流値が変化する。
特に、陰極用電線C1においては、第1陰極用電線C11と第2陰極用電線C12に流れる電流値に偏りが生じる。
そのため、端子部におけるジュール熱による発熱状況も変化を生じる。
そして、本実施形態においてはこのようにして生じる端子の温度変化からも電線の異常を検知することができる。
即ち、上記のような状況下では、第1陰極端子T11の温度が低下して第2陰極端子T12の温度が上昇することになるため、第1陰極端子T11の温度低下から第1陰極用電線C11に異常が生じたことを検知することができる。
本実施形態においては、前記第1陰極端子T11と、前記第2陰極端子T12とが互いに離れた位置にそれぞれ設けられているため、熱伝達によって温度差が低下することが防止され得る。
前記第1陰極用電線C11とは別の電線において異常が生じた場合においても上記と同様の現象が起きるため、異常が生じたと思われる電線と異常のモードとが特定され得る。
ここでは、電線の本数として、陰極用が2本、陽極用が2本の事例を挙げているが、水素ガス製造設備の仕様に応じて、電線の本数を増減させることができる。
【0037】
本実施形態の電解セル2は、前記のように筐体1に収容されるため、設置スペースが過大なものとならないことが好ましい。
そこで、本実施形態の電解セル2は、第1陰極端子T11と第2陰極端子T12とを結ぶ線分L1と、第1陽極端子T21と第2陽極端子T22とを結ぶ線分L2とがなす角度θが90度未満(例えば、30度〜60度)になるように構成されている。
即ち、本実施形態の電解セル2は、外向きに突出する端子が前後左右の全ての方向に突出した状態にならないように構成されており、筐体内での設置スペースが過大にならないように構成されている。
【0038】
尚、本実施形態の水素ガス製造設備100では、前記ガス検知器16が前記電解セル2からの水素ガスのリークを感度よく検知し得るように配されている。
本実施形態における前記整流器3は、冷却ファンを備えた強制空冷式整流器であり、前記冷却ファンは、前記整流器3の内部に吸引される空気による第1の気流W1と、前記整流器3から排出される空気による第2の気流W2とを形成すべく配され、前記整流器3が 、前記電解セル2の上方に配されており、前記第1の気流W1及び前記第2の気流W2の内の少なくとも一方の気流が通過する位置に水素ガスを検知するための前記ガス検知器16が設けられている。
より詳しくは、本実施形態における前記整流器3は、全波整流を行うように構成された回路基板と、該回路基板を覆うカバーとを有し、前記回路基板に備えられた半導体素子からの発熱を外部に排出するための冷却ファン(以下「排気ファン」ともいう)を備えている。
前記カバーは前記奥壁112と平行するように設けられた回路基板との間に一定の距離を設けて回路基板よりも前方に配され、前記回路基板の前面側と両側面との3方を覆うように配されている。
前記整流器3は、前記回路基板の上方側と下方側とに開口を有し、下方に吸気口を有するとともに上部に排気口を有しており、該排気口に前記排気ファンが装着されている。
【0039】
上記のように前記整流器3は、内部を上昇気流となって空気が通過するように構成されており、当該整流器3よりも下方から前記排気ファンへと至るまでの間に前記第1の気流W1を形成させるとともに前記排気ファンから当該整流器3よりも上方の地点に至るまでの間に前記第2の気流W2を形成し得るように構成されている。
このことにより、前記整流器3の内部には煙突効果によって加勢された上昇気流が形成され前記半導体素子が発する熱が素早く取り除かれる環境が形成されている。
しかも、この気流は、電解セル2の上方の空気を吸引することによって形成されるものである。
この前記第1の気流W1や前記第2の気流W2は、電解セル2の上部の空気を排気ファンで捕集することによって形成されるため、これらの気流が通過する位置に前記ガス検知器16が設けられることで電解セル2から水素ガスが漏えいした際に感度良く水素ガスを検知することができる。
【0040】
前記ガス検知器16は、内蔵する水素ガスセンサーが、熱線型半導体タイプのものでも、気体熱伝導タイプのものでも、接触燃焼タイプのものでもよい。
これらの中では感度に優れる点で熱線型半導体タイプのものが好ましい。
前記ガス検知器16は、吸気側となる整流器3の下方に配されても、排気側となる整流器3の上方に配されてもよく、要すれば、整流器3に内蔵されるように配されてもよい。
前記ガス検知器16は、吸気側に配された方が、排気側に配されるよりも水素ガスの漏えいを早期に検知することができる。
その一方で、前記のような水素ガスセンサーは、センサー部の温度を200℃以上の高温に維持しなければならないものが多く、センサー部の温度を適切な温度に維持させ易いという意味においては吸気側よりも温度の高い空気が排出される排気側に配置されることが好ましい。
【0041】
本実施形態における前記筐体1は、ルーバーやスリットなどによって内外を連通する1以上の連通箇所が設けられていてもよいが、この連通箇所から誘引された外気が前記第1の気流W1や前記第2の気流W2に混入するとガス検知器16による検知感度を鈍化させるおそれがある。
従って、第1の側壁111cにルーバーやスリットなどの通気口が形成されているような場合は、このような連通箇所を閉塞部材を使って閉塞させることが好ましく、例えば、アルミテープなどの閉塞部材で目張りを施すことが好ましい。
また、本実施形態における前記筐体1は、枠体111や奥壁112などの複数の部材で構成されているため、必要に応じて奥壁112を取り外して後方側から内部の点検を行うことが可能であるが、その分、枠体111と奥壁112との間に隙間ができて連通箇所が形成されるおそれがある。
そのため、第1の側壁111cと奥壁112との間に隙間が形成されているような場合も上記と同じ理由からアルミテープなどの閉塞部材を使って当該連通箇所(隙間)を閉塞させることが好ましい。
即ち、本実施形態の水素ガス製造設備は、前記内外を連通する1以上の連通箇所が前記筐体1に設けられていてもよいが、その場合は、前記連通箇所を閉塞する閉塞部材を更に備えさせ、前記ガス検知器16の周囲における前記連通箇所の1以上を前記閉塞部材で閉塞させることが好ましい。
前記閉塞部材での連通箇所の閉塞は、少なくとも前記電解セル2から前記整流器3の吸気口までの間に設けられた連通箇所に対して実施されることが好ましい。
なお、ここでは例えば電解セル2の上方に純水タンク6が配置されているが、配置位置は逆になっても良い。また、今回のように垂直方向の配置でなくても、例えば水平方向の配置であっても良い。その他の機器についても、配置位置は上記例示に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態に係る水素ガス製造設備100は、前記監視装置Aや前記測温体については、当該水素ガス製造設備100の運転を停止するレベルよりも低いレベルでの異常が検知された際に警告信号が発せられるように設定されるが前記ガス検知器16によって水素ガスが検知された場合には、直ちに運転を停止して点検を行うことが好ましい。
尚、前記監視装置Aや前記測温体での異常検知については、警告信号レベルでは経過状況を観察し、停止信号レベルに発展しないようであれば、水素ガス製造設備100の一日の運転が終了した後に点検することができる。
このことにより、本実施形態に係る水素ガス製造設備100では、予定外の運転停止が生じることを抑制し得る。
【0043】
尚、電線については、連続的に流すことができる許容電流値が定められており、一般社団法人日本電線工業会によって定められた規格であるJCS 0168−1:2004「33kV以下電力ケーブルの許容電流計算 第1部:計算式および定数」によって許容電流値が定められている。
例えば、同規格の考え方が反映された内線規程などでは、公称断面積60mm
2(2mm×19本)のより線を導体として備えた一般的なIV線であれば周囲温度30℃以下での許容電流値が217Aなどに定められたりしている。
本実施形態における水素ガス製造設備も、陰極用電線や陽極用電線の個々の電線を流れる電流が当該許容電流値内となるように運転されることが好ましい。
従って、本実施形態における水素ガス製造設備は、1以上の電線に「許容電流値×120%」以上の電流が流れた際に警報(軽故障)を発報し、「許容電流値×130%」以上の電流が流れた際に重故障を発報して電解セルへの通電を即座に停止するよう構成されていることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態においては、複数の陰極用電線や複数の陽極用電線を、少なくとも一方において、長さや導体径を揃えることで流れる電流値が互いに共通する状態(例えば、電流値の差が1%以下)となるようにし、本来電流値が共通するはずである電線の間で電流値の差が生じたときに警報を発生させることが好ましい。
例えば、電流値の差が生じて低い側の電流値(I
L)と高い側の電流値(I
H)とが下記関係式(5)を満たすときに警報(軽故障)を発報させることが好ましい。
I
L×110% ≦ I
H ≦ I
L×150% ・・・(5)
そして、本実施形態における水素ガス製造設備は、関係式(5)を満たす状態が10秒以上継続する場合には重故障を発報し、電解セルへの通電を即座に安全停止するよう構成されていることが好ましい。
また、本実施形態における水素ガス製造設備は、高い側の電流値(I
H)が低い側の電流値(I
L)の1.5倍を超えるようなとき(I
L×150%<I
H)にも重故障を発報し、電解セルへの通電を即座に安全停止するよう構成されていることが好ましい。
【0045】
さらに本実施形態における水素ガス製造設備は、前記測温体によって測定される端子の温度に一定以上の開きが生じた際に警報を発生するように構成されていることが好ましい。
具体的には、本実施形態における水素ガス製造設備は、複数の陰極端子及び複数の陽極端子の内の少なくとも一方において、端子間の温度差が20℃以上に達すると警報(軽故障)を発報し、30℃以上に達すれば重故障を発報し、電解セルへの通電を即座に安全停止するよう構成されていることが好ましい。
また、本実施形態における水素ガス製造設備は、各端子の少なくとも1箇所の温度が、例えば60℃以上になった際に軽故障を発報し、75℃以上になった際に重故障を発報し、電解セルへの通電を即座に安全停止するよう構成されていることが好ましい。
【0046】
尚、ここではこれ以上の詳述を行わないが、水素ガス製造設備に係る技術事項で、従来公知の事項については、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において本発明に採用が可能である。
即ち、本発明の水素ガス製造設備は、上記例示に何等限定されるものではなく、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において上記例示に対して各種変更を加え得るものである。