【実施例】
【0039】
次に、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法の実施例について、以下に説明する。まず、第1実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。とらふぐは、魚年齢が32週で平均体重120gの人工養殖とらふぐを用いた。水槽は、160cm×110cmで深さが60cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。
【0040】
角形水槽は3個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。次に、超音波刺激群(I)と同じ超音波振動子を用いて、角形水槽の側面中央部に、超音波振動子の厚み振動の放射面を垂直な方向に固定して使用した従来の水産物養殖方法として使用されているものを比較の超音波刺激群(II)とし、
図6にその概要を示す。さらに、超音波刺激群(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽にはとらふぐ20匹を入れ、各角形水槽は屋外に置いた。角形水槽内の海水は、ポンプにより10トン/日を供給し、余分な海水はオーバーフローさせた。更に、圧縮空気を用いて5m
3/日の空気を角形水槽の中央部に供給した。餌は通常の魚用配合飼料を3g/匹を毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。海水の撹拌や未消化餌の回収、魚糞の除去は行わなかった。
【0041】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2台の超音波振動子を配置した
図1に示すような構造のものである。超音波振動子は、PZT系圧電セラミクス超音波振動子の厚み振動を用いた。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して5°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は1MHzと2MHzのものを各1個ずつ用いた。また、水産物養殖装置は40%dutyのパルス状発信の超音波を9分発生した後、1分停止するサイクルで1日約30分間、3回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で500mW/cm
2である。
【0042】
超音波刺激の実験開始は10月1日であり、水温は22℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表1に示した。
【表1】
【0043】
表1から明らかなように超音波刺激群(I)、比較の超音波刺激群(II)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が90%、(II)が75%、(III)が45%と、生存率に大きな差がみられた。更に、16週間後では(I)が50%、(II)が30%、(III)が0%と、その差が更に拡大した。また、魚の体重を測定して平均値を出したところ、16週間後では未刺激比較群(III)が125gであるのに対して本発明の超音波刺激群(I)は130gとなり、体重の増加が見られた。
【0044】
次に、第2実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、ヒラメの大形水槽による養殖に利用する実験を行った。ヒラメは、魚齢が56週で平均体重210gの人工養殖ヒラメを用いた。水槽は、直径600cmで深さが90cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の円形水槽であり、天然海水を60cmの深さまで入れた。この円形水槽は、容量17トンの大形水槽である。
【0045】
円形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の円形水槽にはヒラメ1000匹を入れ、円形水槽は屋根のある屋内に置いた。円形水槽内の海水は、ポンプにより30トン/日を供給し、余分な海水はオーバーフローさせた。更に、圧縮空気を用いて20m
3/日の空気を円形水槽の中央部と周辺部に供給した。餌は通常の魚用配合飼料を6g/匹を毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。海水の撹拌は供給ポンプを用いて、4回/分を行った。また、魚糞と未消化餌の掃除回収も定期的に行った。
【0046】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの4個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して3°〜30°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は0.5MHzのものを2個、1MHzのものを2個用いた。また、水産物養殖装置は30%dutyのパルス状超音波を9分発生した後、1分停止するサイクルで1日約30分間、5回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で800mW/cm
2である。
【0047】
超音波刺激の実験開始は11月1日であり、平均水温は18℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表2に示した。
【表2】
【0048】
表2から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が98.8%、(III)が97.25%と、生存率に大きな差がみられた。更に、16週間後では(I)が97%、(III)が94%と、その差が更に拡大した。また、30匹の魚の体重を測定して平均値を出したところ、16週間後では未刺激比較群(III)が302gであるのに対して本発明の超音波刺激群(I)は315gと4.3%の増加が見られた。
【0049】
次に、第3実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、しらすうなぎの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。しらすうなぎは、体長が約6cmの天然しらすうなぎを捕獲したものを用いた。水槽は、40cm×30cmで深さが25cmのガラス製の角形水槽であり、天然河口水を20cmの深さまで入れた。
【0050】
角形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には超音波刺激群(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽にはしらすうなぎ20匹を入れ、角形水槽は2重水槽を用いて外周水槽にヒータを入れ、温度調整器を用いて内部の水槽温度が22℃〜25℃になるように調整して空調設備のある室内に置いた。角形水槽内の天然河口水は、循環ポンプによりフィルターを通して清浄化して供給した。更に、酸素ボンベを用いて0.5m
3/日の酸素を角形水槽の側面部に供給した。餌は、1〜2週目は糸ミミズを毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。3週目からは通常のうなぎ用配合飼料を与えた。天然河口水の撹拌は供給ポンプを用いて行った。
【0051】
水産物養殖装置は直径が10cm、深さが5cmのアルミ製の容器に、直径が3cmの1個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して0°〜40°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は8MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状超音波を4.5分発生した後、0.5分停止するサイクルで1日約20分間、5回/週、で8週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深20cmの超音波振動子直下で80mW/cm
2である。
【0052】
超音波刺激の実験開始は1月30日であり、平均水温は24℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表3に示した。
【表3】
【0053】
表3から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が90%、(III)が75%と、生存率に大きな差がみられた。
【0054】
次に、第4実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、鮑の小形水槽による養殖に利用する実験を行った。鮑は、体長が3.5cmの天然くろ鮑を用いた。水槽は、60cm×60cmで深さが50cmのガラス製の角形水槽であり、人工海水を35cmの深さまで入れた。角形水槽内に片面を粗面処理を行った50×50×0.3cmアクリル板を30°の角度で4枚配置した。鮑はアクリル板の上部に位置しており、超音波刺激が上面及びアクリル板を通じて下面からも出来る構造とし、この実施例の構成の概要を
図4に示す。
【0055】
角形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽には鮑20個を入れた。角形水槽は2重水槽を用いて外周水槽にヒータを入れ、温度調整器を用いて内部の水槽温度が18℃〜22℃になるように調整して空調設備のある室内に置いた。角形水槽内の人工海水は、循環ポンプによりフィルターを通して清浄化して供給した。更に、圧縮空気を用いて1m
3/日の空気を角形水槽の側面部に供給した。餌は、わかめ、のり、ナガマタ、アカメの海藻を配合して乾燥したものを毎日、夕刻に与えた。
【0056】
水産物養殖装置は、直径が10cm、深さが5cmのアルミ製の容器に、直径が3cmの1台の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して0°〜40°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は1MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状超音波を4.5分発生した後、0.5分停止したサイクルで1日約50分間、5回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で250mW/cm
2である。
【0057】
角形水槽の平均水温は20℃であった。この実験の生存率の経過時間依存性を、表4に示した。
【表4】
【0058】
表4から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、16週間後では(I)が90%、(III)が70%と、生存率に大きな差がみられた。
【0059】
なお、エビの1種であるレッドビーシュリンプバンドを用いて、同様な実験を行った結果、表4と同様の値であった。
【0060】
次に、第5実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。トラフグは、魚年齢が32週で平均体重120gの人工養殖トラフグを用いた。水槽は、80×56cmで深さが50cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。角形水槽は3個を使用し、この発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射した。
【0061】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して5°の傾きをもつものである。その他の条件は、第1実施例と同じである。超音波振動子の共振周波数は100kHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は100%dutyの連続波超音波を9分発生した後、1分停止したサイクルで1日約60分間超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で2000mW/cm
2である。
【0062】
この実験の結果、とらふぐは2日目には全て死亡した。
【0063】
次に、第6実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。トラフグは、魚齢が32週で平均体重120gの人工養殖トラフグを用いた。水槽は、80×56cmで深さが50cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。角形水槽に、この発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射した。
【0064】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2台の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して3°の傾きをもつものである。その他の条件は、第1実施例と同じである。超音波振動子の共振周波数は12MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状波超音波を9分発生した後、1分停止したサイクルで1日約30分間超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で15mW/cm
2である。
【0065】
この実験の結果、実施例1の未刺激比較群(III)と同様な結果であった。
【0066】
実施例1〜6に示した結果及びその他の実験結果から、本発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法は、超音波の共振周波数が0.3MHz以上10MHz以下で、更に音響強度Isataが30mW/cm
2から1000mW/cm
2である条件を選ぶことで水産物の生存率を大幅に向上出来ることが分かった。