特許第6354021号(P6354021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354021
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】水産物養殖装置と水産物養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/13 20170101AFI20180702BHJP
【FI】
   A01K61/13
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-513727(P2016-513727)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2015060828
(87)【国際公開番号】WO2015159757
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-82720(P2014-82720)
(32)【優先日】2014年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】唐木 智明
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋八
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 弘樹
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−113694(JP,A)
【文献】 特許第4637922(JP,B2)
【文献】 特許第4910188(JP,B2)
【文献】 特開2000−41526(JP,A)
【文献】 特開平2−308741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 − 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水産物が養殖されている水の、水面または水中に、移動可能に位置する容器と、前記容器に取り付けられた複数の超音波振動子が設けられ、前記各超音波振動子は超音波放射方向が互いに異なり、上記容器は水面または水中で移動しながら前記水産物に超音波を放射することを特徴とする水産物養殖装置。
【請求項2】
前記超音波振動子は、その共振周波数が0.3MHz以上、10MHz以下である請求項1記載の水産物養殖装置。
【請求項3】
前記超音波振動子は、圧電振動子であり、その厚み振動を用いる請求項1または2記載の水産物養殖装置。
【請求項4】
前記容器に、20Hz〜2000Hzの可聴音を発生する音波装置が設けられている請求項1記載の水産物養殖装置。
【請求項6】
前記超音波は、パルス状に駆動される請求項1または2記載の水産物養殖装置。
【請求項7】
前記超音波の音響強度は、Isata(Intensity of spatial−averagetemporal−average)で30mW/cm〜1000mW/cmである請求項1または2記載の水産物養殖装置。
【請求項8】
0.2m〜10mの高さ、及び底面の直径又は1辺の長さが0.2m〜30m以内で、音響インピーダンスが3MRayls以上、50MRayls以下の材質からなる材質の側面を持つ水槽を用い、前記水槽で水産物を養殖する水産物養殖方法であって、注水された前記水槽中に、水面または水中を浮遊する容器と、前記容器に取り付けられた超音波振動子を有する水産物養殖装置を入れ、前記超音波振動子から超音波を発生させ、水中の前記水産物に超音波を放射することを特徴とする水産物養殖方法。
【請求項9】
液面の高さが底面から20cm〜10mである水の中に位置した前記水産物に、水面上部から超音波刺激を与える請求項8記載の水産物養殖方法。
【請求項10】
前記水産物養殖装置により、10分/日〜60分/日で、2日/週〜7日/週の超音波放射を、2週間〜40週間連続して前記水産物に施す請求項8記載の水産物養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚類、甲殻類、貝類等の水産物の養殖を行う水産物養殖装置と水産物養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚類、甲殻類、貝類等の水産物の養殖による生産が行われている。一方、2100年には世界人口が110億人になると予想され、22世紀の大きな課題の一つは食糧不足である。特に養殖漁業から得られる魚類タンパク質の安定的な生産は重要な課題であり、大幅な食糧増産が期待されている。アジアでは過去30年間で特に水産物消費量が増えており、特に日本は、人口が5000万人を超える国の中では一人当たりの水産物消費量は世界一である。しかし、これまでの養殖漁業における水産物の増産方法の改善は、餌の開発と、水温・水流の改善が主体であり、大幅な生産性の向上を期待できるものではなかった。
【0003】
そこで、養殖漁業の生産性をさらに向上させる増産方法として、これまでとは異なるものもいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、魚等の水生動物に対して化合物の薬剤を、超音波を媒介して投与するための方法が開示されている。この方法は、短時間の超音波処理により、養殖している魚類の病気を予防し、感染を防止するもので、例えば、ウイルス性疾病を、浸漬ワクチンを用いて治療する際に、ワクチンを入れたビーカ中で1MHz、1.7W/cmの強度の超音波を10〜15分間放射するものである。その結果、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体を、水を介して投与した場合に、魚の皮膚を通過したゴナドトロピン放出ホルモン類似体の吸収が大幅に改善した。
【0004】
また、特許文献2の魚介類の養殖方法は、10〜30MHzの超音波を放射し、旋回式気泡発生装置を用いて20ミクロン以下のマイクロバブルを発生させ、これを養殖魚に適用することで成長率及び試料効率が改善するものである。
【0005】
また、特許文献3に開示された超音波処理による養殖業の病気を予防し感染を防止する方法は、短時間の超音波処理により、養殖している魚類の病気を予防し感染を防止する疾病治療装置及び方法であり、高濃度溶存酸素水中で周波数が28KHzで超音波強度が200mW/cm〜850mW/cmの超音波を30秒間、養殖魚に放射することでウイルス病予防の浸漬ワクチンを吸収させ、死亡率の改善が出来るものである。
【0006】
その他の実施されている方法として、30mm〜50mmのリング状円板振動子(20〜70KHzの共振周波数)の円周方向への広がり振動を用いて、養殖魚に放射することで、養殖魚の魚卵、稚魚の成長を促進する方法もある。この装置は、水中に支持棒に固定して浸漬させ、超音波を発生させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平6−503951号公報
【特許文献2】特開2002−119号公報
【特許文献3】特開2007−215475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景技術の特許文献1に開示された方法の場合、使用する治療用超音波発生器は、超音波の放射方向を適宜変えて制御するものではなく、大形の養殖水槽中で超音波を均一に放射することができないという問題がある。特許文献2に開示された方法の場合、旋回式気泡発生装置を用いて20ミクロン以下のマイクロバブルを発生させるものであるが、10〜30MHzの超音波を安定して発生させることは困難である。また、超音波の放射方向を制御することが出来ず、更に10MHz以上の超音波は酸素の多い水中では容易に減衰し、その音響強度を保持することが難しいという問題もある。特許文献3に開示された方法の場合も、特許文献1と同様に、超音波の放射方向を容易に制御することは出来ず、大形の養殖水槽中で超音波を均一に放射することが出来ないという問題がある。
【0009】
その他のリング状円板振動子を用いて養殖魚に放射する方法の場合、水中に支持棒に固定して浸漬させ超音波を発生させるもので、その超音波の方向を容易に変えることは出来ない。このために水槽内の魚に均一に超音波を放射することは困難であり、水槽に超音波放射装置を複数台設置する必要性があるので、経済性が劣る。さらに、池や水槽の底部に集積する傾向の水産物であるヒラメ、エビ、貝類ではその効果が小さいという問題点がある。また、重要な超音波振動回路部品が水中にあるために浸水の恐れがあり、装置の点検及び維持管理が困難である。
【0010】
以上述べたように、これまで知られている超音波放射による養殖装置や疾病予防装置は、1m〜100mの量産用の大形水槽や池、網で仕切られた海中に適応する場合には種々の問題があった。例えば水槽の側面や底面に振動子や装置を固定して使用する場合は、超音波の音響強度を水槽内で均一にすることが出来ず、特に水槽の隅や底部に集積した魚に対して、有効に且つ、均一に超音波を放射することが出来ない。集積した他の魚の影になって超音波が届かないこともある。その他、これまでに報告されている養殖漁業に用いられている超音波は、その周波数が20KHz〜200KHzであり、水中における波長は0.8cm〜8cmと大きく、魚の胴体部の平均直径が15cm以下の養殖魚や甲殻類の小形水産物を、超音波刺激を用いて効率よく増産するには適していない。
【0011】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造の装置により、超音波を均一に放射して、養殖している魚類、甲殻類、貝類の抵抗力を高めて生存率を向上させ、生産性を向上させることができる水産物養殖装置とその養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水産物が養殖されている水の水面または水中に、移動可能に位置する容器と、前記容器に取り付けられた超音波振動子が設けられ、上記容器は水面または水中で移動しながら前記水産物に超音波を放射する水産物養殖装置である。
【0013】
前記超音波振動子は、圧電振動子であり、その厚み振動を用い、その共振周波数が0.3MHz以上、10MHz以下である。圧電振動子は、チタン酸バリウム(BT)系セラミクス、ジルコンチタン酸鉛(PZT)系セラミクス、マグネシウムニオブ酸鉛系単結晶、非鉛系圧電材料及び有機圧電材料で作られている。
【0014】
前記水産物養殖装置には、一つの前記容器に前記超音波振動子が複数設けられ、前記各超音波振動子の超音波放射方向は互いに異なるものであり、超音波放射面が水面に対して3°〜45°傾斜しているものである。前記超音波振動子が発生する超音波は、パルス状に間欠駆動され放射されるものである。
【0015】
前記水産物養殖装置の音響強度は、Isata(Intensity of spatial-average temporal-average)で30mW/cm〜1000mW/cmである。
【0016】
前記水産物養殖装置に、20Hz〜2000Hzの可聴音を発生する音波装置が設けられていても良い。
【0017】
前記水産物養殖装置に、餌自動投入装置または集魚用ランプ、電気刺激装置、または熱を与える赤外線ランプ等が設けられていてもよい。
【0018】
またこの発明は、水産物が養殖されている水槽に、水に浮く容器と、前記容器に取り付けられた超音波振動子を有する水産物養殖装置を、前記水槽の水に入れ、前記超音波振動子から超音波を発生し、水中の前記水産物に超音波を放射する水産物養殖方法である。
【0019】
前記水産物養殖方法は、液面の高さが底面から20cm〜10mである水中に置かれた前記水産物に水面上部から超音波刺激を与えるものである。
【0020】
前記水産物養殖方法は、前記水産物養殖装置を、10分/日〜60分/日で、2日/週〜7日/週の超音波放射を、2週間〜40週間連続して水産物に超音波を放射するものである。
【0021】
前記水産物養殖方法は、前記水槽が0.2m〜10mの高さ、及び底面の直径又は1辺の長さが0.2mから30m以内で、音響インピーダンスが3MRayls以上、50MRayls以下の材質からなる材質の側面を持つものを用いて行うものである。
【0022】
前記水産物は、養殖されている魚類、甲殻類、軟体水生動物、貝類等に適応可能であるが、特に小形魚種のフグ、ヒラメ、マス、ウナギ、金魚、イセエビ、エビ、鮑、とこぶし、牡蠣、ホタテ貝、真珠貝である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水産物養殖装置とその養殖方法は、水槽や池、海で量産的に養殖している魚類、甲殻類、貝類の抵抗力を向上させ、生存率を向上させることにより、養殖における歩留まりを向上させるものである。特に、水面に浮揚、揺動、移動可能な容器に取り付けた超音波振動子を用い水面上部から水産物に超音波刺激を与えることで水槽中の全ての水産物に均一に超音波刺激をあたえることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の一実施形態の超音波振動子が2個設けられた水産物養殖装置とその養殖方法の概略図である。
図2】この発明の一実施形態の超音波振動子が1個設けられた水産物養殖装置とその養殖方法の概略図である。
図3図2の水産物養殖装置において、対象とする水産物の種類が複数種類である概略図である。
図4図2の水産物養殖装置において、対象とする水産物が鮑類である概略図である。
図5】この発明の一実施形態の対象とする水産物がヒラメである場合の生存率の時間依存性を示したグラフである。
図6】従来の、超音波を利用した水産物養殖装置と水産物養殖方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1図4はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の水産物養殖装置10は、後述する種々の水産物26が養殖されている海水や淡水である水30の水面に、移動可能に浮かべられて位置する容器12と、容器12に取り付けられた超音波振動子14が設けられている。
【0026】
超音波振動子14は、電圧を加えると超音波16を発生する圧電振動子であり、その厚み振動を用い、超音波16の共振周波数は、0.3MHz以上、10MHz以下である。圧電素子は、チタン酸バリウム(BT)系セラミクス、ジルコンチタン酸鉛(PZT)系セラミクス、マグネシウムニオブ酸鉛系単結晶、非鉛系圧電材料、及び有機圧電材料のいずれかの材料で作られている。
【0027】
超音波振動子14は、放射方向とは反対側の面には、支持部材18側への余分な振動を抑えるための音響バッキング層20が設けられ、音響バッキング層20の外側に任意の形状の支持部材18が取り付けられ、支持部材18が容器12に固定されている。超音波振動子14の、支持部材18と反対側の面に、音響整合層22が設けられ、音響整合層22の外側に防水シール24が設けられている。超音波振動子14は、図1に示すように、異なる向きに2個等の複数個設けられていることが好ましい。また、図2図4に示すように、底面に対して斜めに放射するように設けられた単体の超音波振動子14でも良い。超音波振動子14の超音波放射面14aは、水面に対して3°〜45°の傾きをもつように、容器12の重心が調節されている。
【0028】
なお、この水産物養殖装置10による超音波の放射範囲を規制するために、医療用超音波装置の超音波プローブに用いられるような音響レンズ等を用いても良い。超音波16は、連続波でも良いが、放射を間欠的にパルス状の発振時間で駆動することがより好ましい。パルス状の駆動は、例えば周期0.001秒から2秒で、dutyが5%〜50%で超音波放射を行う。ここでdutyとは、全体時間の内で実際に超音波を発信している時間の比であり、例えば0.2秒を発信し、0.8秒を停止している場合のdutyは20%となる。超音波の波形は、サイン波や矩形波など各種の波形の超音波を用いることができる。
【0029】
超音波16の音響強度は、Isata(Intensity of spatial-average
temporal-average、以下単にIsataと称す。)で30mW/cm〜1000mW/cmである。30mW/cm以下では、魚卵、稚魚、成魚の成長や生存率に与える効果が数カ月経過後でもほとんど見られず、1000mW/cm以上では、体調10cm以下の魚卵、稚魚などが死亡する確率が高い。
【0030】
水産物養殖装置10に、更に20Hz〜2000Hzの可聴音を発生する音波装置が設けられてもよい。魚類の可聴音を制御することで魚の集散を意図的に行い、運動量を増加出来るために食餌効率が良くなり、脂肪分の少ない筋肉質の魚を養殖することが出来る。また、水産物養殖装置10に、餌自動投入装置や集魚用ランプ、電気刺激装置、発熱する赤外線ランプが設けられてもよい。魚集ランプは、LED等を用いると良い。
【0031】
次に、この実施形態の水産物養殖方法について説明する。この水産物養殖方法は、図1図4に示すように、各種の水産物26が養殖されている水槽28に、水に浮く容器12と、容器12に取り付けられた超音波振動子14を有する水産物養殖装置10を、水槽28中の水30に浮かべ、超音波振動子14から水30中に向けて超音波を発生し、水30の中の水産物26に超音波を放射するものである。
【0032】
この実施形態では、水槽28の底面28aから水30の水面30aまでの高さが20cm〜10mの水中に、水産物26が生息し、水面30aから超音波刺激を与えるものである。水面30aまでの高さが20cm以下では水産物26を養殖するための十分な容積がとれず、10m以上では5MHz以上の高周波が、酸素の多い水中での減衰が大きくなり、必要な音響強度を得ることが困難となる。よって使用する水槽28は、水槽28の底面28aから水30の水面30aまでの高さが20cm〜10mとなる深さを有するものが良い。また、水槽28は、音響インピーダンスが3MRayls以上、50MRayls以下の材質からなる側面を持ち、高さが20cm〜10mで底面28aの直径が30m以内の水槽28が好ましい。これにより、水槽28の底面28a及び側面28bからの超音波の反射を利用して、均一な超音波強度を得ることができる。特に好ましいのは側面28bの高さが0.3m〜1.0mの水槽28で、底面28aが直径が10m以内の円形水槽である。水槽28の材質は、音響インピーダンスが高いステンレス金属製水槽やガラス水槽が超音波16の反射効率の観点からは望ましいが、繊維強化プラスチック(FRP)製やアクリル樹脂でも良い。
【0033】
ここで、水産物26は養殖されている魚類、甲殻類、軟体水生動物、貝類等に適応可能であるが、特に小形魚種のふぐ、ヒラメ、マス、ウナギ、金魚、イセエビ、エビ、鮑、とこぶし、牡蠣、ホタテ貝、真珠貝であることが経済性の観点から好ましい。養殖されている魚類、甲殻類、貝類であれば特に限定されるものではない。例えば、サケ類のサクラマス、ヤマメ、サツキマス、アマゴ、カラフトマス、サケ(白サケ)、ギンザケ、マスノスケ、サーモントラウト、ニジマス、ベニザケ、ヒメマス、ビワマス、その他のアユ、ブリ、マダイ、クロダイ、スズキ、クエ、マアジ、シマアジ、マハタ、トラフグ、ウナギ、フナ、イトウ、カレイ、ナマズ、カジカ、カンパチ、イシダイ、ヒラマサ、ドジョウ、チョウザメ、蟹類等が挙げられる。また、これらの魚卵や稚魚、仔魚(レプトセファルス幼生)等に用いても同様な結果が得られることが予想される。これらの中で胴体部の平均直径が10cm以下の魚類に有効であるが、特に胴体部の平均直径が1cm以下の小形の水産物に対しては超音波刺激の効果が大きく、特に好ましい。
【0034】
水産物養殖装置10の超音波16を発生する間隔は、例えば、10分/日〜60分/日で、2日/週〜7日/週の超音波放射を、2週間〜40週間連続して行う。1日に10分以下の短時間では長期生存率の向上に与える効果が小さく、一つの水槽に1日に60分以上放射しても効果は大きく変わらない。放射頻度は2回/週〜7回/週、更に好ましくは3回/週〜5回/週である。また放射期間は50週間以上の長期間でも問題ないが、4週間〜20週間の放射が費用対効果の経済性の観点からさらに望ましい。以上のように、1日または1週間の内の一定時間に超音波を放射するようにすると、水槽28の数が多くても効率的に超音波の放射を行うことができる。
【0035】
水産物養殖装置10は、循環ポンプ等による水30の流れ等に影響されて水平方向に前後左右に移動したり、揺動して傾きが変わったりして、超音波振動子14の位置と角度が絶えず変化して、水産物26に対してまんべんなく超音波16を放射することができる。
【0036】
この実施形態の水産物養殖装置10と水産物養殖方法によれば、水上で移動するための動力を使用することなく簡単な構造の水産物養殖装置10により、超音波16の放射方向を水流により自由に変化させることができる。そして、養殖されている複数の水産物26に水面30aから超音波刺激を均一に与え、更に水槽28の底面28a及び側面28bからの超音波の乱反射を利用して水槽28中の全ての水産物26に均一に超音波刺激を与えることが可能となる。この水産物養殖装置10を用いて養殖した実験結果を図5に示す。この例では、魚令56週のヒラメに超音波放照射による刺激を与えて、屋外で冬季に養殖した。この結果、過密な状態や屋外での養殖などの養殖環境が良くない環境下で大量の水産物養殖を行う際でも、高い生存率を保持し、養殖業の製造コストを下げることが可能となった。また、大形の水槽28内でも均一に超音波刺激を行うことが可能となる。さらに水産物養殖装置10の維持管理コストが小さいので、生産コストを低減させることができ、各種の水産物の量産も容易に可能である。
【0037】
さらに、水産物養殖装置10と水産物養殖方法は、ほとんど全ての水産物の養殖に利用でき、水産物の生産性向上に大きく寄与する。また水産物養殖装置10は、水面30aに浮遊しているので、監視、維持管理が極めて容易であり、例えば台風などの強風、暴風雨が予想される場合には、容易に移動回収して安全に保管することが出来る。水産物養殖装置10は、200g〜10kg程度に構成することが可能であり、軽量で容易に移動が可能であり、手軽に利用することが出来る。特に2個の超音波振動子14を設けた水産物養殖装置10は、1台の水産物養殖装置10で異なる2方向に超音波を放射することが可能であり、水槽28内で均一に超音波16を放射し、必要な水産物養殖装置10の台数を低減させることが出来る。また、複数個の超音波振動子14は周波数や音響効果を互いに変えてもよい。
【0038】
なお、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法は、上記の実施形態に限定されず、適宜変更可能である。水産物養殖装置は、水面に浮かぶもの以外に、水中の任意の深さに沈んだ状態で移動しながら超音波を発生するものでも良く、水流により浮上したり潜水したりするものでも良い。水産物養殖装置の容器は、構造と材料は自由に選択可能であり、確実に超音波振動子を保持して移動するものであればよい。使用する水槽の大きさや形状も変更可能であり、水槽の大きさや形状に合わせて、水産物養殖装置の超音波振動子の数や、水槽に入れる個数を適宜調整して、その水槽や水産物に好適な超音波強度にする。また、水産物養殖装置にモータを付けて、自走式にしてもよい。
【実施例】
【0039】
次に、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法の実施例について、以下に説明する。まず、第1実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。とらふぐは、魚年齢が32週で平均体重120gの人工養殖とらふぐを用いた。水槽は、160cm×110cmで深さが60cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。
【0040】
角形水槽は3個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。次に、超音波刺激群(I)と同じ超音波振動子を用いて、角形水槽の側面中央部に、超音波振動子の厚み振動の放射面を垂直な方向に固定して使用した従来の水産物養殖方法として使用されているものを比較の超音波刺激群(II)とし、図6にその概要を示す。さらに、超音波刺激群(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽にはとらふぐ20匹を入れ、各角形水槽は屋外に置いた。角形水槽内の海水は、ポンプにより10トン/日を供給し、余分な海水はオーバーフローさせた。更に、圧縮空気を用いて5m/日の空気を角形水槽の中央部に供給した。餌は通常の魚用配合飼料を3g/匹を毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。海水の撹拌や未消化餌の回収、魚糞の除去は行わなかった。
【0041】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2台の超音波振動子を配置した図1に示すような構造のものである。超音波振動子は、PZT系圧電セラミクス超音波振動子の厚み振動を用いた。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して5°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は1MHzと2MHzのものを各1個ずつ用いた。また、水産物養殖装置は40%dutyのパルス状発信の超音波を9分発生した後、1分停止するサイクルで1日約30分間、3回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で500mW/cmである。
【0042】
超音波刺激の実験開始は10月1日であり、水温は22℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表1に示した。
【表1】
【0043】
表1から明らかなように超音波刺激群(I)、比較の超音波刺激群(II)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が90%、(II)が75%、(III)が45%と、生存率に大きな差がみられた。更に、16週間後では(I)が50%、(II)が30%、(III)が0%と、その差が更に拡大した。また、魚の体重を測定して平均値を出したところ、16週間後では未刺激比較群(III)が125gであるのに対して本発明の超音波刺激群(I)は130gとなり、体重の増加が見られた。
【0044】
次に、第2実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、ヒラメの大形水槽による養殖に利用する実験を行った。ヒラメは、魚齢が56週で平均体重210gの人工養殖ヒラメを用いた。水槽は、直径600cmで深さが90cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の円形水槽であり、天然海水を60cmの深さまで入れた。この円形水槽は、容量17トンの大形水槽である。
【0045】
円形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の円形水槽にはヒラメ1000匹を入れ、円形水槽は屋根のある屋内に置いた。円形水槽内の海水は、ポンプにより30トン/日を供給し、余分な海水はオーバーフローさせた。更に、圧縮空気を用いて20m/日の空気を円形水槽の中央部と周辺部に供給した。餌は通常の魚用配合飼料を6g/匹を毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。海水の撹拌は供給ポンプを用いて、4回/分を行った。また、魚糞と未消化餌の掃除回収も定期的に行った。
【0046】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの4個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して3°〜30°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は0.5MHzのものを2個、1MHzのものを2個用いた。また、水産物養殖装置は30%dutyのパルス状超音波を9分発生した後、1分停止するサイクルで1日約30分間、5回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で800mW/cmである。
【0047】
超音波刺激の実験開始は11月1日であり、平均水温は18℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表2に示した。
【表2】
【0048】
表2から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が98.8%、(III)が97.25%と、生存率に大きな差がみられた。更に、16週間後では(I)が97%、(III)が94%と、その差が更に拡大した。また、30匹の魚の体重を測定して平均値を出したところ、16週間後では未刺激比較群(III)が302gであるのに対して本発明の超音波刺激群(I)は315gと4.3%の増加が見られた。
【0049】
次に、第3実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、しらすうなぎの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。しらすうなぎは、体長が約6cmの天然しらすうなぎを捕獲したものを用いた。水槽は、40cm×30cmで深さが25cmのガラス製の角形水槽であり、天然河口水を20cmの深さまで入れた。
【0050】
角形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には超音波刺激群(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽にはしらすうなぎ20匹を入れ、角形水槽は2重水槽を用いて外周水槽にヒータを入れ、温度調整器を用いて内部の水槽温度が22℃〜25℃になるように調整して空調設備のある室内に置いた。角形水槽内の天然河口水は、循環ポンプによりフィルターを通して清浄化して供給した。更に、酸素ボンベを用いて0.5m/日の酸素を角形水槽の側面部に供給した。餌は、1〜2週目は糸ミミズを毎日、朝、夕の2回に分けて与えた。3週目からは通常のうなぎ用配合飼料を与えた。天然河口水の撹拌は供給ポンプを用いて行った。
【0051】
水産物養殖装置は直径が10cm、深さが5cmのアルミ製の容器に、直径が3cmの1個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して0°〜40°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は8MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状超音波を4.5分発生した後、0.5分停止するサイクルで1日約20分間、5回/週、で8週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深20cmの超音波振動子直下で80mW/cmである。
【0052】
超音波刺激の実験開始は1月30日であり、平均水温は24℃であった。この実験の、生存率の経過時間依存性を、表3に示した。
【表3】
【0053】
表3から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、8週間後では(I)が90%、(III)が75%と、生存率に大きな差がみられた。
【0054】
次に、第4実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、鮑の小形水槽による養殖に利用する実験を行った。鮑は、体長が3.5cmの天然くろ鮑を用いた。水槽は、60cm×60cmで深さが50cmのガラス製の角形水槽であり、人工海水を35cmの深さまで入れた。角形水槽内に片面を粗面処理を行った50×50×0.3cmアクリル板を30°の角度で4枚配置した。鮑はアクリル板の上部に位置しており、超音波刺激が上面及びアクリル板を通じて下面からも出来る構造とし、この実施例の構成の概要を図4に示す。
【0055】
角形水槽は2個を使用し、1個にはこの発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射する超音波刺激群(I)とした。他方には(I)と同じ水産物養殖装置を入れ、超音波を発生させないで同一時間浮遊させた未刺激比較群(III)とした。各々の角形水槽には鮑20個を入れた。角形水槽は2重水槽を用いて外周水槽にヒータを入れ、温度調整器を用いて内部の水槽温度が18℃〜22℃になるように調整して空調設備のある室内に置いた。角形水槽内の人工海水は、循環ポンプによりフィルターを通して清浄化して供給した。更に、圧縮空気を用いて1m/日の空気を角形水槽の側面部に供給した。餌は、わかめ、のり、ナガマタ、アカメの海藻を配合して乾燥したものを毎日、夕刻に与えた。
【0056】
水産物養殖装置は、直径が10cm、深さが5cmのアルミ製の容器に、直径が3cmの1台の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して0°〜40°の傾きをもつものである。超音波振動子の共振周波数は1MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状超音波を4.5分発生した後、0.5分停止したサイクルで1日約50分間、5回/週、で16週間を継続して超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で250mW/cmである。
【0057】
角形水槽の平均水温は20℃であった。この実験の生存率の経過時間依存性を、表4に示した。
【表4】
【0058】
表4から明らかなように超音波刺激群(I)、未刺激比較群(III)の生存率は実験開始の4週間ではほとんど差が見られない。しかし、16週間後では(I)が90%、(III)が70%と、生存率に大きな差がみられた。
【0059】
なお、エビの1種であるレッドビーシュリンプバンドを用いて、同様な実験を行った結果、表4と同様の値であった。
【0060】
次に、第5実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。トラフグは、魚年齢が32週で平均体重120gの人工養殖トラフグを用いた。水槽は、80×56cmで深さが50cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。角形水槽は3個を使用し、この発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射した。
【0061】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2個の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して5°の傾きをもつものである。その他の条件は、第1実施例と同じである。超音波振動子の共振周波数は100kHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は100%dutyの連続波超音波を9分発生した後、1分停止したサイクルで1日約60分間超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で2000mW/cmである。
【0062】
この実験の結果、とらふぐは2日目には全て死亡した。
【0063】
次に、第6実施例として、この発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法を、とらふぐの小形水槽による養殖に利用する実験を行った。トラフグは、魚齢が32週で平均体重120gの人工養殖トラフグを用いた。水槽は、80×56cmで深さが50cmの繊維強化プラスチック(FRP)製の角形水槽であり、海水を40cmの深さまで入れた。角形水槽に、この発明の水産物養殖装置を入れて移動させながら超音波を放射した。
【0064】
水産物養殖装置は、直径が33cm、深さが14cmのアルミ製の容器に、直径が4cmの2台の超音波振動子を配置したものである。超音波振動子の超音波放射面は、水面に対して3°の傾きをもつものである。その他の条件は、第1実施例と同じである。超音波振動子の共振周波数は12MHzのものを用いた。また、水産物養殖装置は20%dutyのパルス状波超音波を9分発生した後、1分停止したサイクルで1日約30分間超音波刺激した。超音波強度Isataは水深30cmの超音波振動子直下で15mW/cmである。
【0065】
この実験の結果、実施例1の未刺激比較群(III)と同様な結果であった。
【0066】
実施例1〜6に示した結果及びその他の実験結果から、本発明の水産物養殖装置と水産物養殖方法は、超音波の共振周波数が0.3MHz以上10MHz以下で、更に音響強度Isataが30mW/cmから1000mW/cmである条件を選ぶことで水産物の生存率を大幅に向上出来ることが分かった。
【符号の説明】
【0067】
10 水産物養殖装置
12 容器
14 超音波振動子
14a 超音波放射面
16 超音波
26 水産物
28 水槽
30 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6