(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6354042
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】変圧器劣化状況表示装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/00 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
H01F41/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-17667(P2018-17667)
(22)【出願日】2018年1月18日
【審査請求日】2018年2月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513014123
【氏名又は名称】寺上 義和
(72)【発明者】
【氏名】寺上 義和
【審査官】
田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6251861(JP,B1)
【文献】
特許第3516962(JP,B1)
【文献】
特開2008−124146(JP,A)
【文献】
特開2012−160670(JP,A)
【文献】
特開2012−182245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00−19/10
G01R 31/08−31/11
H01F 27/00
27/02−27/04
27/06
27/08−27/22
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の劣化状況を絶縁紙の平均重合度(以下重合度と省略記載)の低下推移によって示す変圧器の劣化状況表示装置であって、重合度低下基準勾配Kcを変圧器の基準使用条件(設置場所基準温度Tac(6〜18℃のうちの一つ)、基準運転負荷率Uc(10〜70%のうちの一つ))における絶縁紙温度を絶縁紙基準温度Tzc、基準使用条件で連続運転されるとした場合の重合度の勾配が、変圧器運転開始時の重合度(800〜1000のうちの一つ)から10/年〜60/年のうちのいずれか一つの勾配で低下するとした重合度低下直線の勾配を重合度低下基準勾配Kcとし、運転状態が変化する被診断変圧器においては、運転条件に関連して算出される重合度低下勾配補正係数R(以下勾配補正係数R)に前記重合度低下基準勾配Kcを乗じた重合度低下実勾配Kにて低下するとし、前記勾配補正係数Rを、運転時における絶縁紙温度Tzと、基準条件における絶縁紙基準温度Tzcとの差である絶縁紙温度差Tzsに関する計算式R=1/exp(−H×Tzs)、(ここに、Hは0.06〜0.14(1/℃)のうちの一つ)により算出する手段と、被診断変圧器の絶縁油温度Toを取得する第1のデータ取得手段と、被診断変圧器の設置場所温度Taと運転電流Iを取得する第2のデータ手段のいずれか、または両方のデータ取得手段と、前記第1のデータ取得手段を有するものにおいて、負荷率Uに関する絶縁紙温度Tzの第1−aの近似式 Tz≒Ta+Tm+Uy×(A+Tp―Tm)、(ここに、Taは変圧器設置場所の温度、Tmは無負荷時における絶縁油の温度上昇値、Aは定格運転時における絶縁油の温度上昇値、Tpは定格運転時における絶縁紙と絶縁油との温度差)に絶縁油温度Toをもたらす仮想負荷率算出式 Ui≒((To―Ta―Tm)/(A−Tm))(1/x)による負荷率を代入して絶縁油温度Toにおける絶縁紙温度Tzを算出する第1−aの絶縁紙温度算出手段と、絶縁油温度Toに関する絶縁紙温度Tzの第1−bの近似式 Tz≒C×To(ここにCは基準使用条件における前記第1−aの近似式による絶縁紙温度Tzcの、絶縁油温度の近似式To≒Ta+Tm+Ux×(A―Tm)による絶縁油温度Tocに対する比)により絶縁油温度Toにおける絶縁紙温度Tzを算出する第1−bの絶縁紙温度算出手段と、前記第2のデータ取得手段を有するものにおいて、取得した被診断変圧器の運転電流を定格電流で除した負荷率Uを前記絶縁紙温度の第1−aの近似式に代入して絶縁紙温度Tzを算出する第2の絶縁紙温度算出手段と、前記第1―a、第1―b、または第2の絶縁紙温度算出手段のうちのいずれかによって算出した絶縁紙温度Tzと基準使用条件における絶縁紙基準温度Tzcとの差として絶縁紙温度差Tzsを算出し、算出した絶縁紙温度差Tzsを前記勾配補正係数Rの算出式に代入して前記勾配補正係数Rを算出し、算出した勾配補正係数Rを前記基準勾配Kcに乗じて勾配低下の実勾配Kを算出する手段と、前記実勾配Kによって低下する重合度の時間別重合度と期日別重合度を重合度記憶部に格納する手段と、現時刻以前の複数の重合度算出に用いた複数の重合度低下勾配の平均値として現時刻以後の未来分重合度低下予想勾配を算出する手段と、入力部より入力した試算条件(変圧器の試算用設置場所温度と試算用負荷率)により、前述の重合度低下勾配算出手段に準じて試算条件における未来分重合度低下試算勾配を算出する手段と、前記重合度記憶部から読み出した、被診断変圧器の使用開始から現時刻までの重合度推移と、前記現時刻以後の未来分重合度低下予想勾配に沿った重合度予想推移及び、前記重合度低下試算勾配に沿った現時刻以後の未来分重合度試算推移を、被診断変圧器の使用開始から数十年までの長期重合度推移グラフに表示する手段もしくは、前記長期間重合度推移グラフに表示する手段もしくは、前記長期間重合度推移グラフと現時点を起点とした数日前後の短期間重合度推移グラフを同時表示または交互表示する手段、を備えたことを特徴とする変圧器劣化状況表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の劣化状況を変圧器巻線間等に装着される絶縁紙(以下絶縁紙と省略表記)の平均重合度(以下重合度と省略表記)の低下推移で表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁紙の重合度低下状況によって余寿命を推定し、変圧器の寿命に至る前に変圧器を更新し劣化による事故を防止することが進められている。
【0003】
絶縁紙劣化状況を調べる手段として、変圧器停電時に絶縁紙の一部を取り出して重合度を測定する公知の方法や、運転状態のままで重合度を推定する下記文献1及び文献2等の方法がとられている。
【特許文献1】特許第4323396号
【特許文献2】特許第5387877号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁紙の一部を取り出して重合度を測定する公知の方法は定期点検時にしか実施できず、変圧器運転再開後に変圧器使用条件の急激な悪化があった場合でも次の定期点検までは確認できないため重合度の加速的な低下兆候を見逃すこととなり、変圧器使用条件改善等の事故防止対策が遅れてしまうという欠点が有った。
【0005】
変圧器運転時でも重合度を把握することができる特許文献1の方法は、被診断変圧器の負荷履歴と気象情報と点検時に測定した絶縁油温度とによる絶縁紙温度の推定熱履歴を、撤去変圧器絶縁紙の重合度測定値等より作成した絶縁紙の熱履歴と重合度の関係を示すマスターカーブと突き合わせて余寿命を求める方法をとっている。
【0006】
変圧器運転時でも重合度を把握することができる別の方法である特許文献2の方法は、被診断変圧器の定期点検時等に採取した絶縁油に含まれるCO、CO2、フルフラール等の劣化指標成分量と被診断変圧器の稼働年数、負荷率等の運転環境データを基にして重合度を推定し余寿命を求める方法をとっている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1や特許文献2の方法は、絶縁紙や絶縁油からの絶縁劣化指標データ取得がなされる特定の変圧器に対する評価法であり、絶縁劣化指標データを取得しない変圧器には適用できないことと、点検時毎の断続的な評価法であることから、点検後に変圧器使用条件の急激な悪化があった場合の重合度の加速的低下兆候を見逃すこととなり、事故防止対策を適時に実施できないという欠点が有った。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、絶縁劣化指標の取得がなされないことが多い小容量の変圧器も含めた変圧器全般にわたり、変圧器の使用開始から現在までの重合度低下状況を連続的に示すことで、変圧器運転条件の急激な変化による重合度低下兆候も見逃さず監視することを可能にし、変圧器運転条件の改善を適時に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の装置は、変圧器の劣化状況を重合度の低下推移によって示す変圧器の劣化状況表示装置であって、重合度低下基準勾配Kcを変圧器の基準使用条件(設置場所基準温度Tac(6〜18℃のうちの一つ)、基準運転負荷率Uc(10〜70%のうちの一つ))における絶縁紙温度を絶縁紙基準温度Tzc、基準使用条件で連続運転されるとした場合の重合度の勾配が、変圧器使用開始時の重合度(800〜1000のうちの一つ)から10/年〜60/年のうちのいずれか一つの勾配で低下するとした重合度低下直線の勾配を重合度低下基準勾配Kcとし、運転状態が変化する被診断変圧器においては、運転条件に関連して算出される重合度低下勾配補正係数R(以下勾配補正係数R)に前記重合度低下基準勾配Kcを乗じた重合度低下実勾配Kにて低下するとし、前記勾配補正係数Rを、運転時における絶縁紙温度Tzと、基準条件における前記絶縁紙基準温度Tzcとの差である絶縁紙温度差Tzsに関する計算式
R=1/exp(−H×Tzs)・・・・・(式1)
(ここに、Hは0.06〜0.14(1/℃)のうちの一つ)
により算出する手段と、被診断変圧器の絶縁油温度Toを取得する第1のデータ取得手段と、被診断変圧器の設置場所温度Taと運転電流Iを取得する第2のデータ手段のいずれか、または両方のデータ取得手段と、
前記第1のデータ取得手段を有するものにおいて、
絶縁油の温度Toを、負荷率Uに関する絶縁油温度Toの近似式
To≒Ta+Tm+U
x×(A―Tm)・・・・・(式2)
(ここに、Taは変圧器設置場所の温度、Tmは無負荷時における絶縁油の温度上昇値、Aは定格運転時における絶縁油の温度上昇値)より算出する手段と、
負荷率Uに関する絶縁紙温度Tzの
第1−aの近似式
Tz≒Ta+Tm+U
y×(A+Tp−Tm)・・・・・(式3)
(ここに、Tpは定格運転時における絶縁紙と絶縁油との温度差)
に、前記(式2)より導かれる絶縁油温度Toをもたらす仮想負荷率Uiの算出式、
Ui≒((To−Ta−Tm)/(A−Tm))(1/x)・・・・(式4)
による負荷率を代入して、絶縁油温度Toにおける絶縁紙温度Tzを算出する第1−aの絶縁紙温度算出手段と、
絶縁油温度Toに関する絶縁紙温度Tzの第1−bの近似式
Tz≒C×To ・・・・・(式4)
(ここにCは基準使用条件における前記(式3)による絶縁紙温度Tzcの前記(式2)による絶縁油温度Tocに対する比)
により絶縁油温度Toにおける絶縁紙温度Tzを算出する第1−bの絶縁紙温度算出手段と、
前記第2のデータ取得手段を有するものにおいて、取得した運転電流を定格電流で除した負荷率Uを前記(式3)に代入して
負荷率Uにおける絶縁紙温度Tzを算出する第2の絶縁紙温度算出手段と、
前記第1
−a、第1−bまたは第2の絶縁紙温度算出手段のいずれかによって算出した絶縁紙温度Tzと
基準使用条件における絶縁紙基凖温度Tzcとの差として絶縁紙温度差Tzsを算出し、算出した絶縁紙温度差Tzsを前記(式1)に代入して前記勾配補正係数Rを算出し、算出した勾配補正係数Rを前記基準勾配Kcに乗じて勾配低下の実勾配Kを算出する手段と、前記実勾配Kによって低下する重合度の時間別重合度と期日別重合度を重合度記憶部に格納する手段と、現時刻以前の複数の重合度算出に用いた複数の重合度低下勾配の平均値として現時刻以後の未来分重合度低下予想勾配を算出する手段と、入力部より入力した試算条件(変圧器の試算用設置場所温度と試算用負荷率)により、前述の重合度低下勾配算出手段に準じて試算条件における未来分重合度低下勾配を算出する手段と、前記重合度記憶部から読み出した、被診断変圧器の使用開始から現時刻までの重合度推移と、前記現時刻以後の未来分重合度低下予想勾配に沿った重合度予想推移及び、前記重合度低下試算勾配に沿った現時刻以後の重合度推移を、被診断変圧器の使用開始から数十年までの長期重合度推移グラフに表示する手段もしくは、前記長期重合度推移グラフと現時点を起点とした数日前後の短期重合度推移グラフを同時表示または交互表示する手段、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、日本国内で使用される変圧器全般にわたり、変圧器の使用開始から現在までの重合度劣化状況を連続的に示すことで使用条件の急激な悪化による重合度の加速的低下状況を見逃すこと無く重合度低下経緯と変圧器運転条件の良否評価を常時行うことが可能となり、変圧器運転条件の改善を適時に行って変圧器劣化に起因する事故発生の未然防止ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】 本発明における重合度低下の基準勾配を示すグラフである。
【
図2】 本発明による負荷率に対する変圧器絶縁油と絶縁紙の温度を示すグラフである。
【
図3】 本発明による変圧器劣化表示装置の長期短期重合度推移複合表示グラフの例である。
【
図4】 本発明の実施例による変圧器劣化表示装置の構成を示す構成図である。
【
図5】 本発明の実施例による変圧器劣化表示装置の処理過程を示すフロー図である。
【
図6】 JEM1463に記載の運転年数と平均重合度の関係を示すグラフである。
【
図7】 変圧器メーカ技術資料記載に記載の運転年数と重合度の関係を示すグラフである。
【
図8】 日本電機工業会にて公表されている変圧器負荷率の業種別調査表である。
【
図9】 特開2001−291626に記載されている負荷率に対する絶縁油と絶縁紙の温度上昇グラフの一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明に係る変圧器選定を実施するための最良の形態について詳説する。
【0013】
図1は、変圧器絶縁紙重合度の経時的低下推移グラフとして日本国内で公表されている
図6及び
図7を基にして、本発明に係る重合度低下基準勾配の例を示したもので、直線1aを前記重合度低下推移グラフのうち最小勾配を表示している
図7の重合度上限側の直線(運転開始時の重合度が900で、低下勾配が12.5/年)とし、直線1bを前記重合度低下推移グラフのうち最大勾配を表示している
図8の重合度下限側の直線(運転開始時の重合度が900で、低下勾配が50/年)とし、前記最小勾配直線1aと最大勾配直線1bの中間の直線1cを中間の勾配(運転開始時の重合度が900で、低下勾配が前記基準勾配K(25/年))とし、前記1a、1b、1cの
うちのいずれか一つの直線の勾配を重合度低下基準勾配Kcとしている。
【0014】
変圧器設置場所基準温度Tacは、気象庁公表データによる過去40年間の年間平均気温の、北海道地区における8℃と、九州地区における16℃と、両地区平均12℃より、基準勾配Kcを
図1の1aとする場合は設置場所基準温度Tacを8℃、基準勾配Kcを
図1の1cとする場合は前記変圧器設置場所の基準温度Tacを12℃、基準勾配Kcを
図1の1bとする場合は前記変圧器設置場所の基準温度Tacを16℃、としている。
【0015】
変圧器運転基準負荷率Ucは、
図8に示す変圧器負荷率の産業別調査表に1日当たりとして記載されている290例の負荷率の分布が正規分布であるとした場合の平均負荷率37.3%と標準偏差値σ=8.93%より平均値±2σで算出した、最低負荷率19.5%と、最大負荷率55.2%より、基準勾配Kcを
図1の1aとする場合の基準負荷率Ucを19.5%、基準勾配Kcを
図1の1cとする場合の基準負荷率Ucを
前記最低負荷率19.5%時の絶縁油温度と前記最大負荷率55.2%時の絶縁油温度の中間となる温度をもたらす(式4)による仮想負荷率、基準勾配Kcを
図1の1bとする場合の基準負荷率Ucを55.2%、として適用している。
【0016】
絶縁紙基準温度Tzcは、(式3)に前記設置場所基準温度Tac
と、前記基準負荷率Ucを適用した場合の絶縁紙温度を適用している。
【0017】
図2は、本発明による負荷率Uに対する絶縁油温度Toと絶縁紙温度Tzの近似特性図で、(式2)及び(式3)に、設置場所温度Taを12℃、無負荷時の絶縁紙温度上昇値Tmを6℃、定格運転時の絶縁油温度上昇値Aを30℃、xを2乗、yを1.8乗、定格運転時の絶縁湯と絶縁紙の温度差Tpを15℃、とした、
To≒12+6+U
2×(30−6) ・・・・(式5)
Tz≒12+6+U
1.8×(30+15−
6)・・・・(式6)
を適用して、公表されている(
図9)の試験データに近似させた例を示している。
【0018】
勾配補正係数Rの算出式である前記(式1)中のHは、絶縁物の熱劣化に関するアレニウスの半減則によるもので、A種絶縁材料への適合性が高いとされる8℃半減則の場合のH=0.08664を採択した
R=1/exp(−0.8664×Tzs)・・・・・(式7)
を適用している。
【0017】
第2のデータ取得手段における変圧器設置場所の温度Taの取得は、設置場所近辺温度の測定もしくは、設置地域の気象庁気温データに気温と設置場所温度との差を加算する方法によるものとしている。
【0018】
図3は、本発明による変圧器劣化状況の長期間表示グラフ30と短期間表示グラフ31を重ねた複合表示グラフの例で、実線21は被診断変圧器の使用開始時から現時刻までの重合度推移を示しており、現時刻の時間別重合度Jh
2を、
Jh
2=Jh
1―Δh ・・・・(式8)
(ただし、Jh
1は現時刻より1時間前の時間別重合度、Δhは後述の(式9)に示す1時間前から現時刻までの重合度低下分)
Δh=Kcj×R ・・・・(式9)
(ただし、Kcjは後述の(式10)に示す1時間あたりの基準勾配)
Kcj=
Kc/8760=0.002854 ・・・(式10)
によって算出し、算出した時間別重合度の日別最終値である期日別重合度を基にした期間代表重合度(例えば10日毎最終値や月毎最終値等)による経緯で示している。
【0019】
図3中の現時刻以後の重合度低下予想推移を示す破線22の勾配Kyは、当日と数日前の複数の勾配の平均値としている。
【0020】
図3中の現時刻以後の重合度低下試算勾配を示す2点鎖線23の勾配Ktは、前述の第2の絶縁紙温度算出手段以降の手段より算出している。
【0021】
前記予想勾配Kyや試算勾配Ktにより低下する重合度が寿命判断値に達するまでの年数は、予想勾配Kyや試算勾配Ktを年あたりの勾配とする場合、現在の重合度と寿命判断重合度との差を予想勾配Ky、または試算勾配Ktで除したものとなる。
【0022】
既に運転中の変圧器の運転途中から劣化表示を行う場合、運転開始から現時刻までの絶縁油温度履歴が有る場合は、前記第1の絶縁紙温度算出手段によって絶縁紙温度Tzを逐次演算し、前記絶縁油温度履歴が無い場合は、設置場所温度履歴と運転負荷率履歴より、前記第2の絶縁紙温度算出手段以降の算出手段によって現時刻の時間別重合度を算出し、以後、
図5における時間別重合度記憶部への格納や次なる時間別重合度演算以降の処理過程フローに入る。
【0023】
被診断変圧器について、別の寿命診断方法による重合度や過大電流通電経緯等による見直し重合度が示され、その値が妥当と判断される場合は、現時点の期日別重合度を前記提示による重合度に置き換え、以後、
図5における時間別重合度記憶部への格納や次なる時間別重合度演算以降の処理過程フローに入る。
【0024】
図4は、本発明の実施例による変圧器劣化状況表示装置の構成を示す構成図で、変圧器絶縁油温度を収集するデータ収集部51と、重合度演算部52aと、未来分重合度演算部52bや余寿命演算部52cを持つ演算処理部52と、重合度記憶部53と、重合度経緯グラフを作成するグラフ作成処理部54と、重合度経緯グラフを表示する表示部55と、被診断変圧器の定格電流や試算条件等を与える設定部56と、期日や時刻等を与える制御部57等により構成される。
【0025】
図5は、本発明における変圧器劣化状況表示装置の処理過程を示すフロー図で、被診断変圧器の絶縁油温度や運転電流等を取得するデータ取得部51から、収集データを基に時間別重合や期日別重合度を算出する重合度演算部52aを経て、算出した前記時間別重合度を時刻毎に、前記期日別重合度を期日毎に格納する記憶部53から、未来分重合度演算部52bへの複数の時間別重合度や複数の期日別重合度の転送、重合度推移グラフ作成処理部54を経て表示部55に至るまでの処理フロー等を示している。
【0026】
図6は、JEM1463−1993「変圧器用絶縁紙の平均重合度評価基準」解説
図4に記載の運転年数と平均重合度の関係を示すグラフで、グラフ中に示されたデータ群包絡線のうち、重合度が高い側の実線を本発明における最良使用条件における重合度経緯に相当するものとしている。
【0027】
図7は、メーカ技術資料(平成9年1月、日立製作所テクニカルノート、変圧器編「油入変圧器の経年劣化について」に記載の運転年数と重合度の関係を示すグラフで、グラフ中に示された線のうち、最大勾配の直線を本発明における最悪使用条件における重合度経緯に相当するものとしている。
【0028】
図8は、日本国内で公表されている変圧器負荷率の業種別調査表(平成14年4月、日本電機工業会、総合エネルギー調査会、変圧器判断基準小委員会調査結果)で、表中に1日あたりとして記載されている負荷率290データを本発明における重合度算出用負荷率範囲に引用している。
【0029】
図9は、変圧器の使用負荷率に対する絶縁油と巻線の温度上昇に関する公表データの一例で、特開2001−291626、
図10に示されたグラフの例である。
【符号の説明】
【0030】
A ・・・定格運転時の絶縁油温度
上昇値
C ・・・基準条件における絶縁紙温度の絶縁油温度に対する比
Ta・・・被診断変圧器設置場所の温度
Tac・・・変圧器設置場所の基準温度
Tp・・・定格運転時の絶縁紙と絶縁油との温度差
Tat・・・試算用変圧器設置場所温度
Tm・・・無負荷時の絶縁油温度上昇値
To・・・運転時の絶縁油温度
Toc・・・基準使用条件における絶縁油温度
Tz・・・運転時の絶縁紙温度
Tzc・・・基準使用条件における絶縁紙基準温度
Tzs・・・運転時の絶縁紙温度と絶縁紙基準温度との絶縁紙温度差
Tzst・・・試算条件における絶縁紙温度と基準絶縁紙温度との絶縁紙温度差
I ・・・被診断変圧器の運転電流
U ・・・負荷率
Uc・・・基準負荷率
Ui・・・仮想負荷率
Ut・・・試算用負荷率
K ・・・重合度低下実勾配
Kc・・・重合度低下基準勾配
Kcj・・・1時間当たり重合度低下基準勾配
Ky・・・重合度低下予想勾配
Kt・・・重合度低下試算勾配
R ・・・勾配補正係数
Jh
2・・・現時刻の重合度
Jh
1・・・現時刻より1時間前の重合度
1a・・・最小勾配重合度低下直線
1b・・・最大勾配重合度低下直線
1c・・・
中間勾配重合度低下直線
21・・・現時刻までの重合度低下推移
22・・・現時刻以後の重合度低下予想推移
23・・・試算条件における現時刻以後の重合度低下推移
30・・・変圧器劣化状況の長期間表示グラフ
31・・・変圧器劣化状況の短期間表示グラフ
50・・・変圧器劣化状況表示装置
51・・・データ取得部
52・・・演算処理部、
52a・・・重合度演算部
52c・・・余寿命演算部
52b・・・未来分重合度演算部
53・・・記憶部
54・・・グラフ作成処理部
55・・・表示部
56・・・設定部
57・・・制御部
【要約】 (修正有)
【課題】変圧器の劣化状況を連続的に表示することが可能な変圧器劣化状況表示装置を提供する。
【解決手段】変圧器絶縁紙の重合度経時低下グラフ群の低下勾配の一つを重合度低下基準勾配Kcとし、変圧器の負荷率に対する絶縁油温度の近似式を利用して、被診断変圧器の絶縁油温度または設置場所温度と運転電流より基準使用条件と実使用状態における被診断変圧器の絶縁紙の温度を算出し、基準使用条件における絶縁紙温度と実使用状態における絶縁紙温度との絶縁紙温度差Tzsから重合度低下勾配補正係数Rを、R=1/exp(−H×Tzs)にて算出し、算出した重合度補正係数Rを基準勾配Kcに乗じて重合度低下の実勾配Kを導き、実勾配Kにより低下する過去から現時点までの重合度推移と、将来の重合度推移をグラフ表示30する。
【選択図】
図3