特許第6354067号(P6354067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354067
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】円周方向補強要素の層を有するタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20180702BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20180702BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20180702BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   C08L 7/00 20060101ALN20180702BHJP
   C08K 3/36 20060101ALN20180702BHJP
   C08K 3/04 20060101ALN20180702BHJP
   C08K 3/22 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   B60C9/18 M
   B60C9/18 G
   B60C9/22 G
   B60C9/20 G
   B60C9/20 E
   B60C9/20 J
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 C
   !C08L7/00
   !C08K3/36
   !C08K3/04
   !C08K3/22
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-545148(P2014-545148)
(86)(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公表番号】特表2015-505766(P2015-505766A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012071826
(87)【国際公開番号】WO2013083340
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】1161364
(32)【優先日】2011年12月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】ベッソン ジャック
(72)【発明者】
【氏名】バルバラン フランソワ
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−526311(JP,A)
【文献】 特表2008−544914(JP,A)
【文献】 特開2006−348149(JP,A)
【文献】 特開2006−143821(JP,A)
【文献】 特表2008−544908(JP,A)
【文献】 特開平05−104678(JP,A)
【文献】 特開2008−189048(JP,A)
【文献】 特開平08−230411(JP,A)
【文献】 特開2005−290024(JP,A)
【文献】 特開2008−062893(JP,A)
【文献】 特表2008−508446(JP,A)
【文献】 特開2011−225678(JP,A)
【文献】 特開2008−006889(JP,A)
【文献】 特開2008−001264(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0133794(US,A1)
【文献】 特開2010−184992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向カーカス補強材を備えたタイヤであって、前記タイヤは、補強要素の少なくとも2つの実働クラウン層で作られたクラウン補強材を有し、1つの実働クラウン層は、円周方向と10°から45°までの角度をなして次の実働クラウン層とクロス掛け関係をなし、ゴム混合物の層Cが、少なくとも、前記少なくとも2つの実働クラウン層の端相互間に配置され、前記クラウン補強材には半径方向にトレッドが被せられ、前記トレッドは、2つのサイドウォールを経て2つのビードに接合され、前記クラウン補強材は、円周方向補強要素の少なくとも1つの層を有する、タイヤにおいて、前記層Cの10%伸び率における引張り弾性率は、9MPaを超え、前記層Cのtan(δ)maxで表される、100℃の温度下で測定されるtan(δ)値の最大値は、0.100未満であり、前記円周方向補強要素の層は、2つの実働クラウン層相互間に半径方向に配置されている、タイヤ。
【請求項2】
前記ゴム混合物の層Cは、天然ゴムを主成分とし又は大部分がシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンを主成分とし且つ場合によっては少なくとも1つの他のジエンエラストマー(天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、配合の場合、用いられる他の1つ又は複数のジエンエラストマーの比率に対して大部分の比率で存在する)及び
a)構造指数がどのようなものであれ、40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が60m2/g未満のカーボンブラックか、
b)40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が30〜260m2/gの沈降シリカ、熱分解法シリカ、アルミナ又はアルミノシリケートから成る群から選択されたSiOH及び/又はAlOH表面官能基を含むシリカ及び/又はアルミナ系の白色充填剤(ホワイトフィラー)又は合成中又は合成後にSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックか、
c)又は、a)に記載されたカーボンブラックとb)に記載された白色充填剤(ホワイトフィラー)及び/又は改質されたカーボンブラックとのブレンド(充填剤の全体的比率は、40〜100phr、好ましくは60〜90phrである)かのいずれかで構成された補強用充填剤を主成分とするエラストマー混合物である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記少なくとも2つの実働クラウン層は、互いに等しくない軸方向幅を有し、軸方向に幅の最も狭い実働層の端とゴム混合物の前記層Cによって前記軸方向に幅の最も狭い実働層から隔てられた実働層との間の距離dは、1.1φ<d<2.2φであるようなものであり、φは、前記円周方向補強要素の少なくとも1つの層の前記補強要素の直径であり、子午線平面で見て、前記ゴム混合物の層Cの厚さは、前記層Cの軸方向内端と前記軸方向に幅の最も狭い実働層の前記端との間の軸方向幅にわたって実質的に一様である、請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記少なくとも2つの実働クラウン層は各々、ゴム混合物の2つのスキムコート相互間に挿入された補強要素で形成され、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートの10%伸び率における引張り弾性率は、9MPaを超え、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートのtan(δ)maxで表される、100℃の温度下で測定されるtan(δ)値の最大値は、0.100未満である、請求項1乃至3の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートは、天然ゴムを主成分とし又は大部分がシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンを主成分とし且つ場合によっては少なくとも1つの他のジエンエラストマー(天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、配合の場合、用いられる他の1つ又は複数のジエンエラストマーの比率に対して大部分の比率で存在する)及び
a)構造指数がどのようなものであれ、40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が60m2/g未満のカーボンブラックか、
b)40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が30〜260m2/gの沈降シリカ、熱分解法シリカ、アルミナ又はアルミノシリケートから成る群から選択されたSiOH及び/又はAlOH表面官能基を含むシリカ及び/又はアルミナ系の白色充填剤(ホワイトフィラー)又は合成中又は合成後にSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックか、
c)又は、a)に記載されたカーボンブラックとb)に記載された白色充填剤(ホワイトフィラー)及び/又は改質されたカーボンブラックとのブレンド(充填剤の全体的比率は、40〜100phr、好ましくは60〜90phrである)かのいずれかで構成された補強用充填剤を主成分とするエラストマー混合物である、請求項4記載のタイヤ。
【請求項6】
前記円周方向補強要素の少なくとも1つの層の前記補強要素は、10〜120GPaの0.7%伸び率における割線モジュラス及び150GPa未満の最大接線モジュラスを示す金属補強要素である、請求項1乃至の何れか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半径方向カーカス補強材を備えたタイヤ、特に、重い積み荷を運搬すると共に持続速度で走行する車両、例えばローリ、トラクタ、トレーラ又はバスに取り付けられるようになったタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
重量物運搬車両のタイヤでは、カーカス補強材は、一般に、各側がビードの領域内に固定され、半径方向上側には、少なくとも2つの重ね合わされた層により構成されるクラウン補強材が設けられ、これら層は、各層内では互いに平行な細線又はコードで形成され、各層は、円周方向と10°から45°までの角度をなして次の層とクロス掛け関係をなしている。実働補強材を形成する実働層は、保護層と呼ばれていて補強要素によって形成された少なくとも1つの層で更に覆われるのが良く、これら補強要素は、有利には、金属製であり且つ伸長性であり、弾性であると呼ばれている。保護層は、円周方向と45°〜90°の角度をなす伸長性の低い金属細線又はコードの層を更に含むのが良く、この層は、三角形構造形成(triangulation 層と呼ばれており、カーカス補強材と絶対値で45°以下の角度をなして互いに平行な細線又はコードで形成された第1のクラウンプライとの間に半径方向に位置する。三角形構造形成プライは、少なくとも実働プライと一緒になって、三角形構造形成補強材を形成し、この三角形構造形成補強材は、これが受ける種々の応力下において、極めて僅かに変形し、三角形構造形成プライは、本質的に、タイヤのクラウンの領域中の補強要素の全てに作用する横方向圧縮力を吸収するのに役立つ。
【0003】
コードは、かかるコードが破断荷重の10%に等しい引張り荷重を受けたとき、0.2%以下の相対伸び率を示す場合に非伸長性であると呼ばれる。
【0004】
コードは、かかるコードが破断荷重に等しい引張り荷重を受けたとき、150GPa未満の最大接線モジュラスの状態で少なくとも3%の相対伸び率を示す場合に弾性であると呼ばれる。
【0005】
円周方向補強要素は、円周方向と約0°±2.5°の角度をなす補強要素である。
【0006】
タイヤの円周方向又は長手方向は、タイヤの周囲に対応すると共にタイヤの転動方向によって定められる方向である。
【0007】
タイヤの横方向又は軸方向は、タイヤの回転軸線に平行である。
【0008】
半径方向は、タイヤの回転軸線を切断し且つこれに垂直な方向である。
【0009】
タイヤの回転軸線は、タイヤが通常の使用中に回転する中心となる軸線である。
【0010】
半径方向平面又は子午線平面は、タイヤの回転軸線を含む平面である。
【0011】
円周方向中間平面又は赤道面は、タイヤの回転軸線に垂直であり且つタイヤを2つの半部に区分する平面である。
【0012】
ゴム混合物の「弾性率(modulus of elasticity )」という用語は、10%変形率(伸び率)及び周囲温度における割線伸びモジュラスを意味していると理解されたい。
【0013】
ゴム配合物に関し、弾性率の測定は、1988年9月の規格AFNOR‐NFT‐46002に従って引張り下で実施され、公称割線モジュラス(又は見掛けの応力であり、MPaで表される)は、10%伸び率において2回目の伸び(即ち、適応サイクル後)で測定される(1979年12月の規格AFNOR‐NFT‐40101による通常の温度及び湿度測定条件)。
【0014】
「ロード」タイヤと呼ばれている現行のタイヤの中には、世界中で道路網の改良が行われていると共に自動車専用道路網が広がっているので、高速で且つますます長距離にわたって走行するようになっているものがある。疑いもなく、この種のタイヤが転動するのに要求される条件の組により、走行可能距離の増大が可能であるが、タイヤの耐久性、特にクラウン補強材の耐久性が悪影響を受けている。
【0015】
これは、クラウン補強材のところに応力が存在し、特にクラウン層相互間に剪断応力が生じ、かかる剪断応力が軸方向に最も短いクラウン層の端部のところの動作温度の無視できないほどの上昇と組み合わさり、その結果、亀裂がかかる端部のところ生じてゴム中に広がるからである。
【0016】
問題の形式のタイヤのクラウン補強材の耐久性を向上させるため、プライの端部、特に軸方向に最も短いプライの端部相互間及び/又はこれらの周りに配置されたゴム混合物の層及び/又は異形要素の構造及び品質に関する解決策が既に提案されている。
【0017】
特に、剪断応力を制限することを目的として実働層の端相互間にゴム混合物の層を導入してこれら端相互の結合解除部を作ることが知られている。しかしながら、これら結合解除層は、極めて高い粘着度を備えなければならない。ゴム混合物のかかる層は、例えば、国際公開第2004/076204号パンフレットに記載されている。
【0018】
クラウン補強材の縁部の近くに位置するゴム混合物の耐劣化性を向上させるため、仏国特許第1389428号明細書は、低ヒステリシストレッドと組み合わせて、クラウン補強材の少なくとも側部及び辺縁部を覆い、低ヒステリシスゴム混合物から成るゴム異形材を使用することを推奨している。
【0019】
クラウン補強材プライ相互間の分離を回避するため、仏国特許第2222232号明細書は、ショアAスケール硬度が、クラウン補強材の上に載っているトレッドのショアAスケール硬度とは異なり、しかもクラウン補強材プライの縁部とカーカス補強材プライとの間に配位置するゴム混合物の異形要素のショアAスケール硬度よりも高いゴムのクッションで補強材の端部を被覆することを教示している。
【0020】
このようにして作られたタイヤにより、特に耐久性の面で性能を効果的に向上させることができる。
【0021】
さらに、極めて幅広のトレッドを有するタイヤを製作するため又は所与の寸法のタイヤに高い荷重容量を与えるために、円周方向補強要素の層を導入することが知られている。国際公開第99/24269号パンフレットは、例えば、この種の円周方向補強要素の層の存在を記載している。
【0022】
円周方向補強要素の層は、通常、ターンを形成するために巻かれた少なくとも1本の金属コードで構成され、円周方向に対するこのターンの布設角度は、2.5°未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2004/076204号パンフレット
【特許文献2】仏国特許第1389428号明細書
【特許文献3】仏国特許第2222232号明細書
【特許文献4】国際公開第99/24269号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、特に耐久性及び耐摩耗性という特性が使用の仕方とは無関係に保たれ、転がり抵抗の面での性能が向上したタイヤを備えた車両の燃料消費量を減少するのに役立つようにするためにかかるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的は、本発明によれば、半径方向カーカス補強材を備えたタイヤであって、タイヤは、補強要素の少なくとも2つの実働クラウン層で作られたクラウン補強材を有し、1つの実働クラウン層は、円周方向と10°から45°までの角度をなして次の実働クラウン層とクロス掛け関係をなし、ゴム混合物の層Cが、少なくとも、少なくとも2つの実働クラウン層の端相互間に配置され、クラウン補強材には半径方向にトレッドが被せられ、トレッドは、2つのサイドウォールを経て2つのビードに接合され、クラウン補強材は、円周方向補強要素の少なくとも1つの層を有する、タイヤにおいて、層Cの10%伸び率における引張り弾性率は、9MPaを超え、層Cのtan(δ)maxで表されるtan(δ)値の最大値は、0.100未満であることを特徴とするタイヤによって達成される。
【0026】
損失係数(ロスファクタ)であるtan(δ)は、ゴム混合物の層の動的性質である。これは、規格ASTM・D5992‐96に従ってMetravib VA4000という商標名で知られている粘度分析装置で測定される。10Hzの周波数、100℃の温度で単純な交番正弦剪断応力を受けた加硫済みゴム配合物のサンプル(厚さ4mm、断面積400mm2の円筒形試験片)の応答を記録する。ピークトゥピーク変形振幅スキャンを0.1%から50%まで実施し(外方サイクル)、次に50%から1%まで実施する(戻りサイクル)。戻りサイクルに関し、tan(δ)maxで表されるtan(δ)の観察される最大値が示される。
【0027】
転がり抵抗は、タイヤが転動しているときに現れる抵抗である。これは、一回転中、タイヤの変形と関連したヒステリシスロスによって表される。タイヤの回転と関連した周波数の値は、30〜100℃で測定されるtan(δ)値に対応している。かくして、100℃におけるtan(δ)値は、タイヤが転動しているときのタイヤの転がり抵抗の指標に対応している。
【0028】
また、60℃の温度での設定エネルギーレベルでのサンプルのリバウンドによって百分率として表されるエネルギーの損失を測定することによって転がり抵抗を推定することが可能である。
【0029】
有利には、本発明によれば、ゴム混合物の層CのP60で示される60℃における損失は、20%未満である。
【0030】
ゴム混合物の層Cにより、上述の実働クラウン層を結合解除するために使用でき、その目的は、厚い厚さにわたって剪断応力を分布させることにある。
【0031】
本発明の目的上、結合層は、それぞれの補強要素が1.5mm以下だけ半径方向に隔てられた層であり、ゴムの厚さは、かかる補強要素のそれぞれの上側母線と下側母線との間で半径方向に測定される。
【0032】
弾性率が9MPa以上であり、tan(δ)maxの値が0.100未満のかかる混合物を使用することにより、転がり抵抗に関してタイヤの性質を向上させる一方で、満足の行く耐久性を保つことができる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、ゴム混合物の層Cは、天然ゴムを主成分とし又は大部分がシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンを主成分とし且つ場合によっては少なくとも1つの他のジエンエラストマー(天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、配合の場合、用いられる他の1つ又は複数のジエンエラストマーの比率に対して大部分の比率で存在する)及び
a)構造指数がどのようなものであれ、40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が60m2/g未満のカーボンブラックか、
b)40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が30〜260m2/gの沈降シリカ、熱分解法シリカ、アルミナ又はアルミノシリケートから成る群から選択されたSiOH及び/又はAlOH表面官能基を含むシリカ及び/又はアルミナ系の白色充填剤(ホワイトフィラー)又は合成中又は合成後にSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックか、
c)又は、a)に記載されたカーボンブラックとb)に記載された白色充填剤(ホワイトフィラー)及び/又は改質されたカーボンブラックとのブレンド(充填剤の全体的比率は、40〜100phr、好ましくは60〜90phrである)かのいずれかで構成された補強用充填剤を主成分とするエラストマー混合物である。
【0034】
BET比表面積は、1987年11月の規格NFT45007に対応した1938年2月の「ザ・ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(The Journal of the American Chemical Society)」,第60巻,第309頁に記載された“BRUNAUER, EMMET and TELLER”方法を用いて測定される。
【0035】
透明な充填剤又は白色充填剤が使用される場合、当業者に知られた作用剤から選択された結合剤及び/又は被覆剤を用いることが必要である。好ましい結合剤の例としては、ビス‐(3‐トリアルコキシルイルプロピル)ポリスルフィニド型の硫黄含有アルコキシシラン及び純粋な液体製品の場合、商標名Si69及び固体製品の場合、商標名X50S(ブラックN330を含む重量で50/50ブレンド)でデグサ・コーポレーション(DEGUSSA Corporation )により市販されているビス‐(3‐トリエトキシルイルプロピル)テトラスルヒドが挙げられる。被覆剤の例として、脂肪族アルコール、アルキルアルコキシシラン、例えば商標名Si116及びSi216でデグサ・カンパニーによってそれぞれ市販されているヘキサデシルトリメトキシ又はトリエトキシシラン、ジフェニルグアニジン、ポリエチレングリコール、場合によってはOH若しくはアルコキシ官能基で改質されたシリコーン油が挙げられる。被覆剤及び/又は結合剤は、充填剤≧1/100且つ≦20/100に対して重量を基準とした比率で、好ましくは、透明な充填剤が補強充填剤の全てである場合、2/100〜15/100、補強充填剤がカーボンブラックのブレンド及び透明な充填剤から成る場合、1/100〜20/100で用いられる。
【0036】
上述したシリカ及び/又はアルミナ型の材料のモルフォロジー並びにSiOH及び/又はAlOH表面官能基を有し、これら材料の完全代替物又は部分代替物として本発明に従って使用できる補強充填剤の他の例として、合成中、炉原料油へのシリコン及び/又はアルミニウムの化合物の添加により或いは合成後、珪酸ナトリウム及び/又はアルミネートの溶液に溶けたカーボンブラックの水性懸濁液に酸を添加してカーボンブラックの表面をSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックを挙げることができる。表面のところのSiOH及び/又はAlOH官能基を含むこの種の炭素含有充填剤の非限定的な例として、1997年5月6〜9日カリフォルニア州アナハイムで開催されたエーシーエス・ミーティング,ラバー・ディビジョン(ACS Meeting,Rubber Division )」の会議番号24に記載されると共に欧州特許出願公開第0799854号明細書に記載されたCSDP型充填剤を挙げることができる。
【0037】
透明な充填剤が唯一の補強充填剤として用いられる場合、ヒステリシス及び粘着特性は、沈降若しくは熱分解シリカ又は変形例として沈降アルミナ又は変形例として30〜260m2/gのBET比表面積を有するアルミノシリケートを用いることによって得られる。この種の充填剤の非限定的な例としては、アクゾー・コーポレーション(Akzo Corporation)によって市販されているsilicasKS404、デグサ・コーポレーションによって市販されているUltrasil VN2又はVN3 及びBW3370GR、ヒューバー・コーポレーション(Huber Corporation )によって市販されているZeopol 8745 、ローディア・コーポレーション(Rhodia Corporation)によって市販されているZeosil 175MP又はZeosil 1165MP 、ピーピージー・コーポレーション(PPG Corporation )によって市販されているHI-SIL 2000 等が挙げられる。
【0038】
天然ゴムを含むブレンド又は主としてシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンとして用いることができるジエンエラストマーのうち、好ましくは主としてシス‐1,4鎖を含むポリブタジエン(BR)、スチレン‐ブタジエンコポリマー(SBR)溶液又は乳濁液、ブタジエン‐イソプレンコポリマー(BIR)又は変形例としてスチレン‐ブタジエン‐イソプレン(SBIR)ターポリマーを挙げることができる。これらエラストマーは、重合プロセス中又は重合プロセス後、分岐剤、例えばジビニルベンゼン又は星形成剤、例えばカルボネート、ハロゲン‐錫化合物、ハロゲン‐ケイ素化合物又は変形例として酸素化カルボニル、カルボニル官能基の鎖若しくは鎖の端又は変形例としてアミン官能基の鎖又は鎖の端へのジメチル又はジエチルアミノベンゾフェノンの作用によるグラフトをもたらす官能化剤を用いて改質されたエラストマーであるのが良い。天然ゴム又は上述したように1つ又は2つ以上のジエンエラストマーを含む主としてシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンのブレンドの場合、天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、好ましくは、主要な比率で、より好ましくは70phrを超える比率で用いられる。
【0039】
層Cを形成するゴム混合物中に用いられる補強充填剤の選択は、10%伸び率における引張り弾性率の値を得ると共にtan(δ)maxの値を得る際の一要因である。しかしながら、補強用充填剤に関する値の上述の範囲内において、当業者であれば、他の通常の成分、例えば顆粒剤又はコバルト誘導体の量を適合させることができ又は混合方法を改造して引張り弾性率及びtan(δ)maxの上述の値を得ることも又可能であろう。
【0040】
より通常用いられるタイヤ設計例は、実働クラウン層の端相互間に配置され、本発明の層Cの10%伸び率における引張り弾性率と実質的に等価な10%伸び率における引張り弾性率を有するが、0.130を超える層Cのtan(δ)maxで示されたtan(δ)の最大値を有するゴム混合物の層を含む。
【0041】
本発明の目的上、粘着性ゴム混合物は、特に亀裂に対して耐性のあるゴム混合物である。かくして、混合物の粘着性は、試験片“PS”(純粋剪断)について行われる疲労亀裂試験によって評価される。この疲労試験では、試験片を切り欠いた後、エネルギー解除レベル“E”(J/m2)の関数として亀裂伝搬速度“Vp(nm/サイクル)を求める。測定によりカバーされる実験ドメインは、空気又は窒素雰囲気中で温度が−20℃〜+150℃の範囲内にある。試験片に加えられる荷重は、振幅が0.1mm〜10mmであり、パルス型荷重(正接「ヘイバーサイン(haversine)」信号)の形態をしており、このパルスの持続時間に等しい休止間隔の状態で加えられる動的変位であり、信号の周波数は、平均で10Hzのオーダーのものである。
【0042】
測定は、3つの部分を含み、即ち、
・27%変形率における1000サイクルに関する試験片“PS”の適応、
・関係式“E”=f(変形率)を求めるためのエネルギー特徴付け。エネルギー解除率“E”は、W0・h0に等しく、W0=単位サイクル当たり且つ単位体積当たりの材料に供給されるエネルギー、h0=試験片の初期高さである。かくして、力/変位の読みを利用することにより、“E”と荷重の振幅の関係が与えられる。
・試験片“PS”を切り欠いた後の亀裂の測定。得られた情報を利用すると、加えられた荷重レベル“E”の関数として亀裂伝搬速度“Vpを求めることができる。
【0043】
本発明者は、本発明の層Cの粘着性が満足の行く状態のままであるということを実証することができた。
【0044】
本発明者は、特に、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の存在が層Cの粘着性の変化の減少に寄与していることを実証した。事実、実働クラウン層の端相互間に配置され、0.130を超えるtan(δ)maxの値を有するゴム混合物の層を含む最も一般的に用いられているタイヤ設計例により、実働クラウン層の端相互間に配置されたゴム混合物の層の粘着性が変化し、かかる変化は、この粘着性を弱くする傾向がある。本発明者は、実働クラウン層の端相互間の剪断応力を制限し、更に温度の減少を制限する円周方向補強要素の少なくとも1つの層の存在の結果として、層Cの粘着性のわずかな変化が生じることを発見した。したがって、本発明者は、最も一般的に用いられているタイヤ設計例で見受けられた粘着性よりも低い層Cの粘着性が本発明のタイヤ設計例において満足の行くものであると考えている。
【0045】
本発明者は又、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の存在により、9MPaを超える層Cの10%伸び率における引張り弾性率と0.100未満の層Cのtan(δ)maxの値の組み合わせで、特に耐久性の面で、しかしながら耐摩耗性の面においても、満足の行く性能を維持することができるということを実証することができた。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも2つの実働クラウン層は、互いに等しくない軸方向幅を有し、軸方向に幅の最も狭い実働層の端とゴム混合物の層Cによって軸方向に幅の最も狭い実働層から隔てられた実働層との間の距離dは、1.1φ<d<2.2φであるようなものであり、φは、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の補強要素の直径であり、子午線平面で見て、ゴム混合物の層Cの厚さは、層Cの軸方向内端と軸方向に幅の最も狭い実働層の端との間の軸方向幅にわたって実質的に一様である。
【0047】
本発明の目的上、距離dは、層Cの表面に実質的に垂直な方向においてコードからコードまで、即ち、第1の実働層のコードと第2の実働層のコードとの間で測定される。換言すると、この距離dは、第1の層の厚さ並びに半径方向内側の実働層のコードの半径方向外側に位置するゴムスキム混合物及び半径方向外側の実働層のコードの半径方向内側に位置したゴムスキム混合物のそれぞれの厚さを含む。
【0048】
本発明の目的上、ゴム混合物の層Cの厚さは、一方の表面の一点の他方の面上への正投影像に沿う層Cの2つの表面相互間で測定される。
【0049】
本発明の目的上、ゴム混合物への層Cの厚さが実質的に一定であるという表現は、これが0.3mmを超えるばらつきを持たないことを意味している。厚さのこれらばらつきは、タイヤの成型及び硬化中におけるクリープ現象にのみ起因している。半完成品の形態、即ち、いつでもタイヤ製造のために使用できる要素の形態をした層Cは、かくして、有利には、一定の厚さを有する。
【0050】
厚さの種々の測定は、タイヤの横断面について実施され、かくして、タイヤは、非インフレート状態にある。
【0051】
最も一般的に用いられているタイヤ設計例は、特に幅の最も狭い実働層の端のところに厚い厚さを備えると共に幅の最も狭い実働層をタイヤの子午線断面に沿って見たときに非一様な厚さプロフィールを備えた実働クラウン層の端相互間に配置されたゴム混合物の層を含み、その目的は、かかる厚さの実現を可能にすると共に幅の最も狭い実働層の端の環境の過度の外乱を阻止することにある。上述したように、このゴム混合物の存在により、特に、実働クラウン層の端相互間の剪断応力を制限することができ、これら実働クラウン層の円周方向剛性は、これらの端のところではゼロである。上記dの定義に従って測定した軸方向に幅の最も狭い実働層の端とゴム混合物の層によって軸方向に最も幅の狭い実働層から隔てられた実働層との間の距離は、通常、3.3mmを超える。これは、少なくとも2.5mmのゴム混合物の層の厚さに対応しており、これに対し、一般に、その厚さは、その端の各々のところで、0.5mm未満の値に近づく傾向がある。
【0052】
本発明者は、厚さが層Cが層Cの軸方向内端と軸方向に最も幅の狭い実働層の端との間の軸方向幅にわたり実質的に一様であり且つ距離dが1.1φ〜2.2φであるようなゴム混合物と共に円周方向補強要素の少なくとも1つの層を設けることにより、特に耐久性の面で、しかしながら耐摩耗性の面においても満足の行く性能を保持することができるということを実証することができた。事実、円周方向補強要素の層の存在が特にフットプリントの通過中、実働クラウン層の端相互間の剪断応力を減少させるほど十分に円周方向張力の少なくとも何割かの吸収に寄与するように思われる。
【0053】
加うるに、ゴム混合物の層Cは、半完成品の状態にあるとき、かくして、有利には、製造するのが容易であり、しかも容易に貯蔵することができる一定厚さの層の形態を取る。事実、上述したように、断面で見て厚さのばらつきを有する形状の通常用いられる層は、一方において、製造するのが困難であり、他方において、貯蔵するのが困難である。事実、厚さのばらつきにより、貯蔵の問題が生じ、これら半完成品は、通常、リールに巻き取られた形態で貯蔵される。本発明の層Cは、半完成品の状態にあるとき、半完成品の状態にあるときに実質的に丸形のプロフィールを備えた断面を有する通常用いられるタイヤと比較して実質的に平べったいプロフィールを備えた断面を有する。
【0054】
半完成品の形態をした本発明のゴム混合物の層の製造及び貯蔵は、この上にかかる程度まで単純化されているので、その結果として、タイヤが通常のタイヤと比較して円周方向補強要素の追加の層を有する場合があるとしてもタイヤの製造費を減少させることができる。
【0055】
本発明の有利な実施形態では、軸方向に幅の最も広い実働クラウン層は、他の実働クラウン層の半径方向内側に位置する。
【0056】
また、好ましくは、ゴム混合物の上記層Cの軸方向最も内側の端と軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の端との間に位置するゴム混合物の層Cの軸方向幅Dは、
3φ2≦D≦25φ2
であるようなものであり、上式において、φ2は、軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の補強要素の直径である。この関係式は、ゴム混合物の層Cと軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層との係合面積を定める。かかる係合面積の大きさが軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の補強要素の直径の3倍未満である場合、特に軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の端のところの応力の減少を得る目的上、実働クラウン層の結合解除をもたらすには不十分である場合がある。かかる係合面積の大きさが軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の補強要素の直径の20倍を超える場合、これによりタイヤのクラウン補強材のドリフト剛性(コーナリング剛性)の過度の減少が生じる場合がある。
【0057】
好ましくは、ゴム混合物の層Cの軸方向最も内側の端と軸方向に幅の最も狭い実働クラウン層の端との間のゴム混合物の層Cの軸方向幅Dは、5mmを超える。
【0058】
厚さの種々の測定は、タイヤの横断面について実施され、かくして、タイヤは、非インフレート状態にある。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、ゴム混合物の少なくとも1つの層が実働クラウン層の端を境界付けた状態で、実働クラウン層の端を境界付けているゴム混合物の少なくとも1つの層の10%伸び率における引張り弾性率は、9MPa超であり、実働クラウン層の端を境界付けているゴム混合物の層のtan(δ)maxで表されるtan(δ)の最大値は、0.100未満である。
【0060】
本発明の目的上、「〜を境界付ける」という表現は、実働クラウン層の端を境界付けているゴム混合物の層が実働クラウン層の軸方向外端に対して軸方向且つ/或いは半径方向に隣接して位置していることを意味するものと理解されるべきである。
【0061】
この場合も又、有利には、本発明のこの変形実施形態によれば、実働クラウン層の端を境界付けているゴム混合物の層は、ゴム混合物の層Cと同様、天然ゴムを主成分とし又は大部分がシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンを主成分とし且つ場合によっては少なくとも1つの他のジエンエラストマー(天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、配合の場合、用いられる他の1つ又は複数のジエンエラストマーの比率に対して大部分の比率で存在する)及び
a)構造指数がどのようなものであれ、40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が60m2/g未満のカーボンブラックか、
b)40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が30〜260m2/gの沈降シリカ、熱分解法シリカ、アルミナ又はアルミノシリケートから成る群から選択されたSiOH及び/又はAlOH表面官能基を含むシリカ及び/又はアルミナ系の白色充填剤(ホワイトフィラー)又は合成中又は合成後にSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックか、
c)又は、a)に記載されたカーボンブラックとb)に記載された白色充填剤(ホワイトフィラー)及び/又は改質されたカーボンブラックとのブレンド(充填剤の全体的比率は、40〜100phr、好ましくは60〜90phrである)かのいずれかで構成された補強用充填剤を主成分とするエラストマー混合物である。
【0062】
層Cの場合のように、ゴム混合物の層Bを形成するゴム混合物中に用いられる補強用充填剤の選択は、10%伸び率における引張り弾性率の値を得ると共にtan(δ)maxの値を得る際の一要因である。しかしながら、補強用充填剤に関する値の上述の範囲内において、当業者であれば、他の通常の成分、例えば顆粒剤又はコバルト誘導体の量を適合させることができ又は混合方法を改造して引張り弾性率及びtan(δ)maxの上述の値を得ることも又可能であろう。
【0063】
本発明のこの実施形態によれば、一般的に用いられているタイヤの設計例とは対照的に、実働クラウン層の端を境界付ける少なくとも1つの層及び有利には実働クラウン層の端を境界付ける層の全ては、9MPaを超える弾性率及び0.100未満のtan(δ)maxの値を有し、かくして、タイヤの設計例においてこれらの場所で通常用いられるゴム混合物の層よりも粘着性が低い。
【0064】
本発明の変形実施形態によれば、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコート(圧延層)の10%伸び率における引張り弾性率は、9MPa超であり、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートのtan(δ)maxで表されるtan(δ)の最大値は、0.100未満である。
【0065】
実働クラウン層のスキムコートのtan(δ)maxの値は、通常、0.120MPaを超え、スキムコートは、良好な粘着性を有する。
【0066】
層Cの場合のように、本発明者は、実働クラウン層のスキムコートが9MPa超の実働クラウン層のスキムコートの10%伸び率における引張り弾性率及び0.100未満のtan(δ)maxの値を有する場合、実働クラウン層のスキムコートの粘着性が満足の行くままであるということを実証した。
【0067】
本発明者は又、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の存在が実働クラウン層のスキムコートの粘着性の変化を減少させるのに役立つことを実証した。事実、本発明者は、特に温度の上昇を制限しながら車両が曲がりくねった道筋を辿るとき、実働クラウン層の補強要素を圧縮下に置く度合いを制限するのに役立つ円周方向補強要素の少なくとも1つの層の存在の結果として、かくして、スキムコートの粘着性の変化は僅かであることを発見した。したがって、本発明者は、最も一般的に用いられているタイヤ設計例に見受けられる粘着性よりも低い実働クラウン層のスキムコートの粘着性が本発明のタイヤ設計例では満足の行くものであると考えている。
【0068】
ゴム混合物の層Cの場合と同様、弾性率が9MPa超であり、tan(δ)max値が0.100未満である少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートの使用により、転がり抵抗に関してタイヤの特性を向上させる一方で、満足の行く耐久性を保つことが可能である。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートは、天然ゴムを主成分とし又は大部分がシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンを主成分とし且つ場合によっては少なくとも1つの他のジエンエラストマー(天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、配合の場合、用いられる他の1つ又は複数のジエンエラストマーの比率に対して大部分の比率で存在する)及び
a)構造指数がどのようなものであれ、40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が60m2/g未満のカーボンブラックか、
b)40〜100phr、好ましくは60〜90phrの比率で用いられるBET比表面積が30〜260m2/gの沈降シリカ、熱分解法シリカ、アルミナ又はアルミノシリケートから成る群から選択されたSiOH及び/又はAlOH表面官能基を含むシリカ及び/又はアルミナ系の白色充填剤(ホワイトフィラー)又は合成中又は合成後にSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックか、
c)又は、a)に記載されたカーボンブラックとb)に記載された白色充填剤(ホワイトフィラー)及び/又は改質されたカーボンブラックとのブレンド(充填剤の全体的比率は、40〜100phr、好ましくは60〜90phrである)かのいずれかで構成された補強用充填剤を主成分とするエラストマー混合物である。
【0070】
透明な充填剤又は白色充填剤が使用される場合、当業者に知られた作用剤から選択された結合剤及び/又は被覆剤を用いることが必要である。好ましい結合剤の例としては、ビス‐(3‐トリアルコキシルイルプロピル)ポリスルフィニド型の硫黄含有アルコキシシラン及び純粋な液体製品の場合、商標名Si69及び固体製品の場合、商標名X50S(ブラックN330を含む重量で50/50ブレンド)でデグサ・コーポレーション(DEGUSSA Corporation )により市販されているビス‐(3‐トリエトキシルイルプロピル)テトラスルヒドが挙げられる。被覆剤の例として、脂肪族アルコール、アルキルアルコキシシラン、例えば商標名Si116及びSi216でデグサ・カンパニーによってそれぞれ市販されているヘキサデシルトリメトキシ又はトリエトキシシラン、ジフェニルグアニジン、ポリエチレングリコール、場合によってはOH若しくはアルコキシ官能基で改質されたシリコーン油が挙げられる。被覆剤及び/又は結合剤は、充填剤≧1/100且つ≦20/100に対して重量を基準とした比率で、好ましくは、透明な充填剤が補強充填剤の全てである場合、2/100〜15/100、補強充填剤がカーボンブラックのブレンド及び透明な充填剤から成る場合、1/100〜20/100で用いられる。
【0071】
上述したシリカ及び/又はアルミナ型の材料のモルフォロジー並びにSiOH及び/又はAlOH表面官能基を有し、これら材料の完全代替物又は部分代替物として本発明に従って使用できる補強充填剤の他の例として、合成中、炉原料油へのシリコン及び/又はアルミニウムの化合物の添加により或いは合成後、珪酸ナトリウム及び/又はアルミネートの溶液に溶けたカーボンブラックの水性懸濁液に酸を添加してカーボンブラックの表面をSiOH及び/又はAlOH官能基で少なくとも部分的に覆うことによって改質されたカーボンブラックを挙げることができる。表面のところのSiOH及び/又はAlOH官能基を含むこの種の炭素含有充填剤の非限定的な例として、1997年5月6〜9日,「エーシーエス・ラバー・ディビジョン・ミーティング(ACS Rubber Division Meeting)」,文献番号24,カリフォルニア州アナハイムに記載されると共に欧州特許出願公開第0799854号明細書に記載されたCSDP型充填剤を挙げることができる。
【0072】
透明な充填剤が唯一の補強充填剤として用いられる場合、ヒステリシス及び粘着特性は、沈降若しくは熱分解シリカ又は変形例として沈降アルミナ又は変形例として30〜260m2/gのBET比表面積を有するアルミノシリケートを用いることによって得られる。この種の充填剤の非限定的な例としては、アクゾー・コーポレーション(Akzo Corporation)によって市販されているsilicasKS404、デグサ・コーポレーションによって市販されているUltrasil VN2又はVN3 及びBW3370GR、ヒューバー・コーポレーション(Huber Corporation )によって市販されているZeopol 8745 、ローディア・コーポレーション(Rhodia Corporation)によって市販されているZeosil 175MP又はZeosil 1165MP 、ピーピージー・コーポレーション(PPG Corporation )によって市販されているHI-SIL 2000 等が挙げられる。
【0073】
天然ゴムを含むブレンド又は主としてシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンとして用いることができるジエンエラストマーのうち、好ましくは主としてシス‐1,4鎖を含むポリブタジエン(BR)、スチレン‐ブタジエンコポリマー(SPR)溶液又は乳濁液、ブタジエン‐イソプレンコポリマー(BIR)又は変形例としてスチレン‐ブタジエン‐イソプレン(SBIR)ターポリマーを挙げることができる。これらエラストマーは、重合プロセス中又は重合プロセス後、分岐剤、例えばジビニルベンゼン又は星形成剤、例えばカルボネート、ハロゲン‐錫化合物、ハロゲン‐ケイ素化合物又は変形例として酸素化カルボニル、カルボニル官能基の鎖若しくは鎖の端又は変形例としてアミン官能基の鎖又は鎖の端へのジメチル又はジエチルアミノベンゾフェノンの作用によるグラフトをもたらす官能化剤を用いて改質されたエラストマーであるのが良い。天然ゴム又は上述したように1つ又は2つ以上のジエンエラストマーを含む主としてシス‐1,4鎖を含む合成ポリイソプレンのブレンドの場合、天然ゴム又は合成ポリイソプレンは、好ましくは、主要な比率で、より好ましくは70phrを超える比率で用いられる。
【0074】
層Cの場合のように、少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートを形成するゴム混合物中に用いられる補強充填剤の選択は、10%伸び率における引張り弾性率の値を得ると共にtan(δ)maxの値を得る際の一要因である。しかしながら、補強用充填剤に関する値の上述の範囲内において、当業者であれば、他の通常の成分、例えば顆粒剤又はコバルト誘導体の量を適合させることができ又は混合方法を改造して引張り弾性率及びtan(δ)maxの上述の値を得ることも又可能であろう。
【0075】
また、有利には、本発明によれば、層Cの10%伸び率における引張り弾性率と少なくとも1つの実働クラウン層の少なくとも1つのスキムコートの10%伸び率における引張り弾性率の差は、2MPa未満である。
【0076】
第1の実施形態によれば、少なくとも、幅の最も狭い実働クラウン層のスキムコートの弾性率は、ゴム混合物の層Cの弾性率よりも大きく、その結果、これらの層のスタックは、幅の最も狭い実働クラウン層の端のところの亀裂の開始の抑制に望ましい弾性率の勾配を示すようになっている。
【0077】
第2の実施形態によれば、実働クラウン層のスキムコートの弾性率とゴム混合物の層Cのスキムコートの弾性率は、同一であり、この場合も又有利には、ゴム混合物は、タイヤの製造にとっての工業的条件を単純化するために同一である。
【0078】
本発明の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの実働クラウン層の補強要素は、飽和層状コードであり、少なくとも1つのインナーライナは、少なくとも1つのジエンエラストマーを主成分とするポリマー配合物、例えば架橋不能な、架橋可能な又は架橋済みのゴム配合物から成る層で外装されている。
【0079】
「層状」(「層状コード」)又は「多層」と呼ばれるコードは、中央コアと、この中央コアの周りに配置された撚り線又は細線の1つ又は2つ以上の事実上同心の層とで形成されたコードである。
【0080】
本発明の目的上、層状コードの飽和層は、少なくとも1本の補充の細線を追加するのに十分なスペースが存在しない細線から成る層である。
【0081】
本発明者は、実働クラウン層の補強要素として作用する上述のコードの存在が、耐久性の面で良好な性能に寄与することができるということを実証できた。
【0082】
事実、上述したように、実働クラウン層のスキムコートのゴム混合物により、タイヤの転がり抵抗を減少させることができるように思われる。これは、タイヤの使用中にこれらゴム混合物の温度が低下することによって明らかであり、その結果、タイヤを使用する幾つかの場合において酸化現象からの補強要素の保護が軽減される場合がある。これは、酸素の遮断に関連したゴム混合物の性質が熱で劣化し、酸素の存在の結果として、最も過酷な走行条件においてコードの機械的性質の漸次劣化が生じる場合があり、しかもこれらコードの寿命に悪影響が生じる場合があるからである。
【0083】
上述したコード内におけるゴムシースの存在は、シースが酸素の遮断に寄与するので補強要素の酸化のこの考えられる恐れを補償する。
【0084】
「少なくとも1つ(1種類)のジエンエラストマーを主成分とする配合物」という表現は、公知のように、かかる配合物が主として(即ち、50%を超える重量%)ジエンエラストマーを含んでいるということを意味するものと理解されたい。
【0085】
本発明によるシースは、有利にはほぼ円形の断面を有する連続スリーブを形成するようシースが覆っている層の周りに連続的に延びている(即ち、このシースは、コードの半径方向に垂直なコードの「正放線(orthoradial)」方向に連続している)ことに注目されるべきである。
【0086】
また、このシースのゴム配合物は架橋可能であり又は架橋済みであり、即ち、かかるゴム配合物は、定義上、これが硬化された状態でゴム配合物が架橋状態になることができる(即ち、これが溶融しないで硬化することができる)よう設計された適当な架橋系を含むことに注目されるべきであり、かくして、このゴム配合物を非溶融性と呼ぶことができる。というのは、このゴム配合物をどのような温度に加熱してもかかるゴム配合物を溶融することができないからである。
【0087】
「ジエン」エラストマー又はゴムという用語は、公知のように、少なくとも一部(即ち、ホモポリマー又はコポリマー)がジエンモノマー(共役であるか否かを問わず、2つの炭素‐炭素2重結合を備えたモノマー)から得られるエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0088】
好ましくは、ゴムシースの架橋系は、「加硫」系であり、即ち、硫黄(又は硫黄供与体)及び第一加硫促進剤を主成分とする系である。種々の公知の第二促進剤又は加硫活性剤をこの主成分としての加硫系に添加するのが良い。
【0089】
本発明によるシースのゴム配合物は、上記架橋系に加え、タイヤ用ゴム配合物に使用できる全ての通常成分、例えば、カーボンブラックを主成分とする補強充填剤及び/又は無機補強充填剤、例えば、シリカ、アンチエージング剤(例えば老化防止剤)、エキステンダー油、可塑剤又は未硬化状態の配合物を加工しやすくする加工助剤、メチレン受容体、メチレン供与体、樹脂、ビスマレイミド、「RFS」(レゾルシノール/ホルムアルデヒド/シリカ)形式の公知の接着促進剤系又は金属塩、特にコバルト塩を含む。
【0090】
好ましくは、ゴムシースの配合物は、本発明のコードが補強用のものである場合のゴムマトリックスに使用される配合物と同一のものが選択される。かくして、シース及びゴムマトリックスのそれぞれの材料間に潜在的不適合性の問題は生じない。
【0091】
本発明の変形形態によれば、少なくとも1つの実働クラウン層の上述のコードは、[L+M]構造の層を備えたコードであり、このコードは、ピッチ1で螺旋の状態に一緒に巻かれた直径d1のL(Lは、1〜4である)本の細線から成る第1の層C1をピッチp2で螺旋の状態に一緒に巻かれた直径d2のM(Mは、3〜12である)本の細線から成る外側層C2によって包囲したものであり、少なくとも1つのジエンエラストマーを主成分とする架橋不能であり、架橋可能であり或いは架橋済みであるゴム配合物によって構成されたシースが、構造中、第1の層C1を覆っている。
【0092】
好ましくは、第1の層又は内側層(C1)の細線の直径は、0.10〜0.5mmであり、外側層(C2)の細線の直径は、0.10〜0.5mmである。
【0093】
より好ましくは、外側層(C2)の細線の螺旋巻きピッチは、8〜25mmである。
【0094】
本発明の目的上、螺旋ピッチは、コードの軸線に平行に測定された長さを表し、その後、このピッチの細線は、コードの軸線回りに丸一回転し、かくして、軸線がこの軸線に垂直であり且つコードの構成層の細線のピッチに等しい長さだけ隔てられた2つの平面によって区分された場合、これら2つの平面内に位置するこの細線の軸線は、問題の細線の層に相当する2つの円上に同一の位置を占める。
【0095】
有利には、コードは、次の特性のうちの1つ、より好ましくは全てを有する。
‐層C2は飽和層であり、このことは、この層中には、少なくとも直径d2の第(N+1)番目の細線をこれに追加するには十分なスペースが存在せず、この場合、Nは、層C1の回りに層として巻回できる細線の最大本数を表す。
‐ゴムシースは更に、内側層C1を覆うと共に/或いは外側層C2の隣り合う細線を互いに隔てる。
‐ゴムシースは、事実上、このゴムシースがこの層C2の隣り合う細線を互いに隔てるよう層C2の各細線の半径方向内方の周囲半分を覆う。
【0096】
好ましくは、ゴムシースの平均厚さは、0.010mm〜0.040mmである。
【0097】
一般に、本発明のコードは、任意の種類の金属ワイヤ、特にスチール(鋼)ワイヤ、例えば炭素鋼ワイヤ及び/又はステンレス鋼ワイヤを用いて製作可能である。炭素鋼を使用することが好ましいが、当然のことながら、他のスチール又は他の合金を使用することが可能である。
【0098】
炭素鋼を用いる場合、その炭素含有量(スチールの重量%)は、好ましくは、0.1%〜1.2%、特に0.4%〜1.0%であり、これら含有量は、タイヤに必要な機械的性質とワイヤの加工性との良好な妥協点となっている。注目されるべきこととして、0.5%〜0.6%の炭素含有量は、最終的に、安価である。というのは、これらは、引き抜き加工が容易だからである。また、本発明の別の有利な実施形態では、標的用途に応じて、特にコストが安く且つ引き抜き加工性が非常に良好なので、低炭素含有量、例えば0.2%〜0.5%の炭素含有量のスチールを用いることができる。
【0099】
本発明のコードは、当業者に知られている種々の技術によって、例えば2つのステップで、即ち、まず最初に、押出ヘッドを用いてコア又は層C1を外装し、第2ステップにおいて、次にこのようにして外装された層C1周りにM本の残りのワイヤ(層C2)をケーブリング又はツイスティングする最終作業によって得ることができる。中間巻回作業及び巻出し作業中にゴムのシースにより引き起こされる未硬化状態におけるくっつきの問題は、例えば差し込みプラスチックフィルムを用いることによって当業者には知られている仕方で解決可能である。
【0100】
少なくとも1つの実働クラウン層のかかるコードは、例えば、国際公開第2006/013077号パンフレット及び同第2009/083212号パンフレットに記載されたコードから選択される。
【0101】
本発明の有利な変形実施形態によれば、円周方向補強要素の層は、0.5×Sを超える軸方向幅を備える。
【0102】
Sは、タイヤがその常用リムに取り付けられてその推奨圧力までインフレートされたときのタイヤの軸方向最大幅である。
【0103】
補強要素の層の軸方向幅は、タイヤの横断面について測定され、かくして、タイヤは、非インフレート状態にある。
【0104】
本発明の好ましい具体化例によれば、少なくとも2つの実働クラウン層が互いに異なる軸方向幅を備える場合、軸方向に幅の最も広い実働クラウン層の軸方向幅と軸方向に最も幅の狭い実働クラウン層の軸方向幅の差は、10〜30mmである。
【0105】
本発明の好ましい実施形態では、円周方向補強要素の層は、2つの実働クラウン層相互間に半径方向に配置される。
【0106】
本発明の実施形態では、円周方向補強要素の層は、実働層の半径方向外側に配置された類似の層よりもカーカス補強材の補強要素の圧縮を大きく制限することができる。円周方向補強要素の層は、好ましくは、かかる円周方向補強要素に加わる応力を制限すると共にこれらの過度の疲労を阻止するよう少なくとも1つの実働層によってカーカス補強材から半径方向に隔てられる。
【0107】
また有利には、本発明によれば、円周方向補強要素の層に半径方向に隣接して位置する実働クラウン層の軸方向幅は、円周方向補強要素の層の軸方向幅よりも大きく、好ましくは、円周方向補強要素の層に隣接して位置する実働クラウン層は、赤道面の各側に位置し、その後、少なくとも2つの実働層に共通の幅の残部にわたってゴム混合物の層Cによって結合解除されるために、円周方向補強要素の層のすぐ隣りの軸方向延長部において軸方向幅にわたって互いに結合されている。
【0108】
円周方向補強要素の層に隣接して位置する実働クラウン層相互間におけるかかる結合部の存在により、この結合部の最も近くに位置する軸方向最も外側の円周方向要素に作用する引張り応力を減少させることができる。
【0109】
本発明の有利な一実施形態によれば、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の補強要素は、10〜120GPaの0.7%伸び率における割線モジュラス及び150GPa未満の最大接線モジュラスを示す金属補強要素である。
【0110】
好ましい実施形態によれば、補強要素の0.7%伸び率における割線モジュラスは、100GPa未満であり且つ20GPaを超え、好ましくは30〜90GPa、より好ましくは80GPa未満である。
【0111】
この場合も又、好ましくは、補強要素の最大接線モジュラスは、130GPa未満、好ましくは120GPa未満である。
【0112】
上述のモジュラスは、20MPaの予荷重を補強要素の金属の断面に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率曲線に基づいて測定され、引張り応力は、張力の測定値を補強要素の金属の断面積で除算して得られた値に対応している。
【0113】
同一の補強要素に関するモジュラスは、10MPaの予荷重を補強要素の金属の断面全体に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率曲線に基づいて測定され、引張り応力は、張力の測定値を補強要素の全断面積で除算して得られた値に対応している。補強要素の全断面は、金属及びゴムで作られた複合要素の断面であり、ゴムは、特に、タイヤ硬化段階の際、補強要素に侵入する。
【0114】
補強要素の断面全体に関するこの構成によれば、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の軸方向外側部分及び中央部分の補強要素は、0.7%伸び率における割線モジュラスが5〜60GPaであり、最大接線モジュラスが75GPa未満の金属補強要素である。
【0115】
好ましい実施形態によれば、0.7%伸び率における補強要素の割線モジュラスは、50GPa未満であり且つ10GPaを超え、好ましくは15〜45GPaであり、より好ましくは40GPa未満である。
【0116】
また、好ましくは、補強要素の最大接線モジュラスは、65GPa未満であり、より好ましくは60GPa未満である。
【0117】
好ましい実施形態によれば、円周方向補強要素の少なくとも1つの層の2つの軸方向外側部分の補強要素は、低い伸び率については緩やかな勾配を有し、高い伸び率については実質的に一定で且つ急な勾配を有する引張り応力‐歪曲線を有する金属補強要素である。追加のプライのかかる補強要素は、「バイモジュラス(bi-modulus)」要素と通称されている。
【0118】
本発明の好ましい実施形態によれば、実質的に一定で且つ急な勾配は、0.1%〜0.5%の相対伸び率から現われる。
【0119】
補強要素の種々の上記特性は、タイヤから取り出された補強要素について測定される。
【0120】
本発明の円周方向補強要素の少なくとも1つの層を作るのに特に適した補強要素は、例えば規格21.23の集成体であり、その構成は3×(0.26+6×0.23)4.4/6.6SSであり、この撚りコードは、規格3×(1+6)の21本の単位細線で構成され、3本の撚り合わせストランドは各々、7本の細線で構成され、1本の細線は、直径が26/100mmに等しい中央コアを形成し、6本の巻き細線の直径は、23/100mmに等しい。かかるコードは、20MPaの予荷重を補強要素の金属の断面に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率曲線に基づいて測定して、0.7%伸び率における割線モジュラスが45GPaに等しく、最大接線モジュラスが98GPaに等しく、なお、引張り応力は、張力の測定値を補強要素の金属の全断面積で十算して得られた値に対応している。10MPaの予荷重を補強要素の金属の断面全体に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率曲線に基づいて測定して、規格21.23のこのコードは、23GPaに等しい0.7%伸び率における割線モジュラス及び49GPaに等しい最大接線モジュラスを有する。
【0121】
同様に、補強要素の別の例は、例えば規格21.28の集成体であり、その構成は3×(0.32+6×0.28)6.2/9.3SSである。このコードは、両方とも20MPaの予荷重を補強要素の金属の断面に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率曲線に基づいて測定して、0.7%伸び率における割線モジュラスが56GPaに等しく、最大接線モジュラスが102GPaに等しく、なお、引張り応力は、張力の測定値を補強要素の金属の断面積で除算して得られた値に対応している。10MPaの予荷重を補強要素の金属の断面全体に加えた状態で求められた引張り応力‐伸び率の曲線に基づいて測定して、規格21.28のこのコードは、27GPaに等しい0.7%伸び率における割線モジュラス及び49GPaに等しい最大接線モジュラスを有する。
【0122】
かかる補強要素を円周方向補強要素の少なくとも1つの層中に用いることにより、特に、従来の製造方法における付形又は膨らませ(シェーピング)及び硬化ステップ後であっても、満足の行く層の剛性を維持することができる。
【0123】
本発明の第2の実施形態によれば、円周方向補強要素は、最も短い層の周長よりも極めて短いが、周長の0.1倍を超える長さの部分を形成するよう切断された金属補強要素で形成されるのが良く、部分相互間の切れ目は、互いに軸方向にオフセットしている。また、好ましくは、追加の層の単位幅当たりの引張り弾性率は、同一条件下で測定した最も伸長性の高い実働クラウン層の引張り弾性率よりも低い。かかる実施形態により、簡単な仕方で、円周方向補強要素の層に合わせるために容易に調節できる(同一の列の部分相互間の間隔を選択することによって)が、あらゆる場合において、連続である同一の金属要素で構成された層のモジュラスよりも低いモジュラスを与えることができ、追加の層のモジュラスは、タイヤから取られた切断要素の加硫済み層について測定される。
【0124】
本発明の第3の実施形態によれば、円周方向補強要素は、波形金属補強要素であり、波の振幅と波長の比a/λは、せいぜい0.09に等しい。好ましくは、追加の層の単位幅当たりの引張り弾性率は、同一条件下で測定した最も伸長性の高い実働クラウン層の引張り弾性率よりも低い。
【0125】
金属要素は、好ましくは、スチールコードである。
【0126】
本発明の好ましい実施形態によれば、実働クラウン層の補強要素は、非伸長性である。
【0127】
また、有利には、本発明によれば、軸方向最も外側の円周方向要素に作用する引張り応力を減少するため、実働クラウン層の補強要素と円周方向とのなす角度は、30°未満、好ましくは25°未満である。
【0128】
本発明の好ましい一実施形態では、クラウン補強材の半径方向外側には、「弾性」補強要素の少なくとも1つの追加の層(これは、保護層と呼ばれている)が設けられ、弾性補強要素は、円周方向と10°〜45°の角度をなすと共に保護プライに半径方向に隣接して位置する実働プライの非伸長性要素のなす角度と同一の方向に差し向けられている。
【0129】
保護層は、幅の最も狭い実働層の軸方向幅よりも小さな軸方向幅を有するのが良い。かかる保護層は、幅の最も狭い実働層の軸方向幅よりも大きな軸方向幅を有しても良く、その結果、保護層は、幅の最も狭い実働層の縁とオーバーラップし、この保護層が、幅の最も狭い半径方向最も内側の層である場合、保護層は、追加の補強材の軸方向連続部として、軸方向幅にわたって幅の最も広い実働クラウン層に結合され、その後、厚さが少なくとも2mmの異形要素によりこの幅の最も広い実働層から軸方向外部が分離されるようになる。弾性補強要素で形成された保護層は、上述の場合、一方において、2つの実働層の縁を互いに分離する異形要素の厚さよりもかなり小さい厚さの異形要素により上述の幅の最も狭い実働層の縁部から潜在的に分離される場合があり、他方、幅の最も広いクラウン層の軸方向幅よりも小さな又は大きな軸方向幅を有する。
【0130】
本発明の上述の実施形態のうちのいずれか1つによれば、カーカス補強材の半径方向内側には、カーカス補強材とこのカーカス補強材の最も近くに位置する半径方向内側実働層との間で、半径方向に最も近いカーカス補強層の補強要素相互間のなす角度と同一の方向で円周方向と60°よりも大きな角度をなすスチールで作られた金属補強要素の三角形構造形成層が更に設けられるのが良い。
【0131】
かくして、変形実施形態として説明したばかりの本発明のタイヤは、従来型タイヤと比較して転がり抵抗の構造を示す一方で、耐久性及び耐摩耗性の面で同等な性能を保つ。
【0132】
本発明のこの有利な細部及び特徴は、図1図3を参照して行われる本発明の具体的な実施例の説明から以下において明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0133】
図1】本発明の実施形態としてのタイヤ構成例の概略子午線断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態としてのタイヤ構成例の概略子午線断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態としてのタイヤ構成例の子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0134】
図の理解を容易にするために、図は、縮尺通りには示されていない。これらの図は、タイヤの半分しか示しておらず、タイヤの他方の半分は、タイヤの円周方向中間平面又は赤道面を表すXX′軸線に関して対称に連続している。
【0135】
図1では、サイズ315/70R22.5のタイヤ1は、0.70に等しいアスペクト比H/Sを有し、Hは、タイヤ1の取り付けリム上におけるタイヤ1の高さであり、Sは、最大軸方向幅である。タイヤ1は、図1には示されていない2つのビード内に繋留された半径方向カーカス補強材2を有している。カーカス補強材は、金属コードの単一の層で形成されている。このカーカス補強材2は、クラウン補強材4でたが掛けされており、このクラウン補強材4は、次のように内側から外側に半径方向に、
‐プライの幅全体にわたって連続し且つ24°に等しい角度をなして差し向けられた非たが掛け非伸長性金属コード9.28で形成された第1の実働層41と、
‐スチール21×23で作られている「バイモジュラス」型の金属コードで形成された円周方向補強要素の層42と、
‐プライの幅全体にわたって連続し且つ24°に等しい角度をなして差し向けられた非たが掛け非伸長性金属コード9.28で形成されると共に層41の金属コードとクロス掛け関係をなしている非たが掛け非伸長性金属コード9.28で形成された第2の実働層43と
‐弾性金属コード6.35で作られた保護層44とで形成されている。
【0136】
クラウン補強材それ自体には、トレッド5が載せられている。
【0137】
タイヤの最大軸方向幅Sは、317mmに等しい。
【0138】
第1の実働層41の軸方向幅L41は、252mmに等しい。
【0139】
第2の実働層43の軸方向幅L43は、232mmに等しい。
【0140】
円周方向補強要素の層42の軸方向幅L42に関し、これは、194mmに等しい。
【0141】
保護層と呼ばれる最後のクラウン層44は、124mmに等しい幅L44を有する。
【0142】
本発明によれば、ゴム混合物の層Cは、実働クラウン層41,43の端を互いに隔て又は結合解除する。
【0143】
2つの実働クラウン層41,43相互間の層Cの係合領域は、その厚さ、より具体的に言えば、層43の端と層41との間の半径方向距離d及び層Cの軸方向内端と実働クラウン層43の半径方向外端との間の層Cの軸方向幅Dによって定められる。半径方向距離dは、3.5mmに等しい。軸方向距離Dは、20mmに等しい。
【0144】
図2では、タイヤ1は、実質的に平べったい層Cの形状であるという点で図1のタイヤとは異なっている。半径方向距離dは、2mmに等しく、これは、1.2mmに等しい層Cの厚さに対応している。図2に示された本発明の変形例によれば、層Cの厚さは、層Cの軸方向内端と軸方向に幅の最も狭い実働層の端との間の軸方向幅にわたり子午線図で見て実質的に同一である。
【0145】
層42の円周方向補強要素の直径は、1.35mmに等しい。したがって、距離dは、これら要素の直径Φの1.48倍に等しい。
【0146】
図3では、タイヤ1は、2つの実働層41,43が赤道面の各側で且つ円周方向補強要素の層42の連続部で軸方向において、軸方向幅lにわたって互いに結合されているという点で図1に示されているタイヤとは異なっており、第1の実働層41のコードと第2の実働層43のコードは、これら2つの層の軸方向結合幅lにわたり、ゴム層によって互いに隔てられており、このゴム層の厚さは、最小限であり且つ各実働層41,43を形成している非たが掛け金属コード9.28のゴムスキムコートの厚さの2倍に一致し、即ち、0.8mmである。2つの実働層41,43は、これら2つの実働層が共通して有する幅の残りにわたり、ゴム混合物の層Cによって互いに隔てられており、この層Cの厚さは、結合領域の軸方向端から幅の最も狭い実働層43の端に進むにつれて増大している。層Cは、有利には、幅の最も広い実働層41の端部と半径方向にオーバーラップするのに十分な幅を有し、この幅の最も広い実働層は、この場合、カーカス補強材に対して半径方向最も近くに位置する実働層である。
【0147】
図1及び図2に示されている本発明に従って製造された互いに異なるタイヤ及びコントロール(比較対照)タイヤについて試験を実施した。
【0148】
層Cを形成するためにこれらタイヤで用いられている互いに異なる混合物及び実働層のスキムコート混合物が以下に一覧表示されており、10%伸び率における引張り弾性率及びtan(δ)max及びP60値が各々について表されている。

【0149】
成分の値は、phr(エラストマーの百部当たりの重量部)で表されている。
【0150】
コントロールタイヤT1に関し、このコントロールタイヤT1は、円周方向補強要素を備えておらず、層Cは、混合物R2で作られ、実働層のスキムコートは、混合物R1で作られている。
【0151】
図1に示されているような本発明の第1のタイヤP1を混合物1で構成されると共に丸形断面プロフィールを有する層Cを用いて製造し、実働層のスキムコートは、混合物R1で作られていた。
【0152】
図1に示されているような本発明の第2のタイヤP2を混合物1で構成されると共に丸形断面プロフィールを有する層Cを用いて製造し、実働層のスキムコートはこれ又、混合物R1で作られていた。
【0153】
本発明の第3のタイヤP3は、層Cが混合物1で作られ、実働層のスキムコートが混合物R1で作られ、ゴム混合物の層Cが3.5mmに等しい距離dを有すると共に図2に示されているような平べったい断面プロフィールを有する状態で製造された。
【0154】
本発明の第4のタイヤP4は、層Cが混合物1で作られ、実働層のスキムコートが混合物R1で作られ、ゴム混合物の層Cが3.5mmに等しい距離dを有すると共に図2に示されているような平べったい断面プロフィールを有する状態で製造された。
【0155】
第1の耐久性試験は、タイヤの各々を走行全体にわたって次第に増大させた4000kgの初期荷重下でこのタイヤについて規定された最大速度定格(最大速度指数)に等しい速度において直線で転動させる試験機械で実施された。
【0156】
横力及び動的過荷重をタイヤに周期的に及ぼした試験機械を用いて他の耐久性試験を実施した。かかる試験を、コントロールタイヤに加えられた条件と同一の条件下で本発明のタイヤについて実施した。
【0157】
このようにして実施された試験結果の示すところによれば、これら試験の各々の実施中に走行した距離は、本発明のタイヤに関し、コントロールタイヤと少なくとも同じほど長く、それどころかこれよりも一層長かった。かくして、本発明のタイヤは、耐久性の面でコントロールタイヤと少なくとも同じほど良好な同等の性能を有していることは明らかである。
【0158】
これら試験の実証することころによれば、特に、本発明のタイヤの設計により、場合によっては平べったいプロフィールを有し、場合によっては実働クラウン層のスキムコートと関連した層Cを用いることができ、層C及びスキムコートの混合物は、円周方向補強要素の層が存在している場合、耐久性の面での性能を損なわないで、9MPaを超える10%伸び率における引張り弾性率と0.100未満のtan(δ)maxの値を組み合わせたものである。
【0159】
また、転がり抵抗の試験を行った。これら試験を上述した第1のコントロールタイヤT1、コントロールタイヤT1とほぼ同じであるが、本発明のタイヤの円周方向補強要素と同一の円周方向補強要素の層を更に含む第2のコントロールタイヤT2及び本発明のタイヤP1,P2,P3,P4について実施した。
【0160】
試験結果は、以下の表に示されており、これら結果は、kg/tで表され、100の値がタイヤT1に割り当てられている。
【表1】
図1
図2
図3