(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来は、帯電と除電とを別々の装置で行っていたので、次のような問題があった。
帯電装置と除電装置とを別々にした場合には、帯電する領域と除電する領域とが一致するように、両装置をセッティングしなければならない。
もし、これら帯電する領域と除電する領域とが一致しない場合には、帯電した領域を完全に除電できないだけでなく、除電すべき領域と関係のない領域を逆に帯電させてしまうこともある。このようなことが起こらないようにするために、両装置のセッティングには手間と時間とコストがかかるという問題があった。
また、両装置が離れている場合には、帯電した対象物を移動する過程で、チリなどの異物が対象物に静電付着することもあった。さらに、移動過程に、電荷の影響を受けやすいものがある場合には、それらのものに悪影響を及ぼしてしまうという問題もあった。
なお、帯電状態を利用した表面物性装置においても、上記と同じような問題があった。
【0005】
この発明の目的は、対象物を一時的に帯電状態にするとともに、帯電状態が不要になったときには簡単かつ確実に除電できる帯除電装
置を用いた
塗料の乾燥度測定装
置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明
の塗料の乾燥度測定装置は、帯除電装置とこれに連結された表面電位センサとからなる。
上記帯除電装置は、放電電極針と、この放電電極針の電位を、正又は負の高電位に保つとともに、その極性を切り換える高電位切換手段と、上記放電電極針と対象物との間に設けた多孔電極板と、上記多孔電極板の電位を、上記放電電極針と同極性の低電位又は接地電位に切り換える低電位切換手段とを備えている。
そして、上記高電位切換手段で上記放電電極針を一方の極性の高電位にするとともに、上記低電位切換手段で上記多孔電極板を上記放電電極針と同極性の低電位にして、この多孔電極板と対象物表面との間に形成される電界の作用によって上記放電電極針で生成されたイオンを導いて上記対象物表面の所定の領域を帯電させる一方、上記高電位切換手段を切り換えて、上記放電電極針を、上記帯電時の電位とは逆極性の高電位にするとともに、上記低電位切換手段を切り換えて、上記多孔電極板を接地電
位にし、この多孔電極板と上記帯電した対象物表面との間に形成される電界の作用によって上記放電電極針で生成されたイオンを導いて上記帯電した対象物表面を除電することを特徴とする。
また、上記表面電位センサは、上記帯除電装置の放電電極針から所定の距離を保った位置で、上記対象物の表面に対向した検出電極板と、この検出電極板に接続された演算部とを備え、上記検出電極板は、上記帯除電装置が上記対象物表面を帯電する過程、あるいは除電する過程のいずれか一方あるいは双方において、上記検出電極板と対向する測定領域の表面電位の変化を検出し、上記演算部は、上記検出電極板で検出された表面電位の変化に基づいて上記対象物表面の塗料の乾燥度を算出することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、上記多孔電極板が、対象物との対向間隔が最小となる最接近位置を有する曲面で構成され、上記放電電極針によって生成されたイオンで上記対象物を帯電させる過程で、上記対象物表面において上記最接近位置に対向する位置に集中してイオンを導く構成にしたことを特徴とする。
【0009】
第
3の発明は、上記表面電位センサが、上記検出電極板を保持するセンサケースを備えている。そして、このセンサケースが、対象物との対向間隔が最小となる最接近位置を有する曲面で構成され、上記最接近位置に対応させて上記検出電極を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、
帯除電装置で帯電する過程あるいは除電する過程において、放電電極針から離れた測定領域の表面電位の変化を測定し、表面電位の変化に基づいて、非接触で塗料の乾燥度を測定することができる。
しかも、高電位切換手段と低電位切換手段とを備えているので、これら高電位切換手段及び低電位切換手段を切り換えるだけで、対象物表面を帯電させたり除電したりすることができる。
また、上記高電位切換手段及び低電位切換手段を切り換えたときには、帯電時にイオンを照射した領域と、逆極性のイオンを照射して除電する領域とを一致させることができる。
したがって、従来のような帯電装置や除電装置を個別にセッティングしなくてもよくなり、その手間とコストを省くことができる。
【0011】
さらに、第1の発明では、所定の低電位に保った多孔電極板を放電電極と対象物との間に介在させたので、多孔電極板の電位によって帯電電位を制御することできる。また、除電時には多孔電極板を接地電位に
して逆帯電を防止して完全な除電ができるようになる。
したがって、測定時に帯電させた領域を簡単かつ確実に除電することができ、測定のために与えた帯電によって何らかの二次的な現象を生じさせることなく測定を完了することができる。
また、帯電時の表面電位の変化と除電時の表面電位の変化とを測定できるので、同じ対象物について表面電位の変化を帯電時と除電時と2回測定でき、その分測定の信頼性を上げることができる。
【0012】
第2の発明によれば、多孔電極板は、対象物との対向間隔が最小となる最接近位置を有する曲面で構成されているので、多孔電極板において対象物との対向間隔が最短となる最接近位置に電気力線を集中させ、その電界によって対象物へ導かれるイオンを集中させることができる。このように電荷を集中させることができるので、狭い範囲を集中的に帯電、除電したいときに有用である。
【0014】
第
3の発明によれば、センサケースが対象物との対向間隔が最小となる最接近位置を有する曲面で構成されているので、対象物とセンサケースとの対向間隔が最小になる最接近位置に電気力線が集中する。電気力線を集中させられるので、検出電極板へ電荷を集めやすくなり、検出時間を短縮させながら検出精度を上げることができる。
また、多孔電極板が、対象物との対向間隔が最小となる最接近位置を有する曲面で構成されていれば、帯電領域ともに電荷の拡散を防ぐことができる。このように集中した電荷は、検出電極板に向かって移動する過程でも広がり難くなり、センサケースの最接近位置に集められる。その電荷を検出電極板が検出するので、さらなる検出時間の短縮と検出精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜3に示す第1実施形態の帯除電装置は、放電電極針1と平板状にした多孔電極板2とを備えたイオン発生部3と、このイオン発生部3に対して電圧を出力する電源部6とからなる。そして、上記多孔電極板2は、金属板などの導電性材に多数の貫通孔を形成したもので、この第1実施形態では金属メッシュを用いている。
さらに、上記電源部6は、放電電極針1に接続した高電位切換手段4及び多孔電極板2に接続した低圧電位切換手段5とを備えている。
上記放電電極針1に接続した高電位切換手段4は、帯電時と除電時とで高電圧の極性を切り換えるとともに、その高電圧を放電電極針1に印加し、この放電電極針1を高電位に保つものである。
【0017】
また、上記低電位切換手段5は、
図2に示すように低圧電源あるいは接地電位部に接続されている。そして、この低電位切換手段5は、帯電時に上記放電電極針1と同極性の低電圧を多孔電極板2に導くとともに、除電時には、上記多孔電極板2を上記接地電位部に接続して接地電位にするか、あるいはこの多孔電極板2に帯電時とは逆の極性に切り換えた低電圧を導くためのものである。
なお、上記高電圧電源は、例えば±数[kV]〜10[kV]程度の高電圧を出力し、低電圧電源は、±数10[V]〜数[kV]程度の低電圧を出力する。
【0018】
この第1実施形態の帯除電装置は、上記多孔電極板2を介して放電電極針1と対向した対象物7の表面を帯電させたり除電したりするものであるが、その作用を、
図2,3を用いて説明する。
図2は、帯電時の概念図であり、
図3は除電時の概念図である。なお、上記対象物7は、接地に対して電気的に絶縁された状態におかれている。
上記対象物7の帯電時には、上記平板状の多孔電極板2を対象物7の表面に平行に保つ。この状態で、上記高電位切換手段4を
図2に示すように切り換えて放電電極針1に高電圧、例えば+5[kV]を印加し、多孔電極板2には正の低電圧、例えば+20[V]を印加する。
【0019】
図2に示すように、放電電極針1に正の高電圧が印加されると、放電電極針1の周囲には正イオンが生成される。
また、多孔電極板2には、放電電極針1よりも低い正の電圧を印加されるとともに、電源部6は多孔電極板2の電位を低い正の電位を保つように制御する。
したがって、上記放電電極針1と低電位に保たれた多孔電極板2との間には電位差が発生する。この電位差によって上記正イオンは多孔電極板2に引き付けられるように移動する。多孔電極板2に引き付けられた正イオンのうち、多孔電極板2に接触した正イオンはそのまま多孔電極板2を介して接地に吸収されてしまう。しかし、多孔電極板2で吸収されずに多孔電極板2を通過する正イオンもあり、このような正イオンが、後で説明する電界E1に導かれて上記対象物7に到達する。
【0020】
一方、上記多孔電極板2は低電位切換手段5によって、上記のように正の電位20[V]に保たれているので、上記多孔電極板2と帯電していない初期状態の対象物7の表面との間には電界E1が形成される。このように電界E1が形成されるので、上記多孔電極板2を通過した正イオンが、対象物7に向かって導かれ、対象物7の表面を帯電させる。
【0021】
このようにして対象物7に帯電し続けると、その表面電位が高くなるので、対象物7の表面と上記多孔電極板2との電位差が小さくなる。上記対象物7の表面電位が上記多孔電極板2の電位である上記20[V]に達すると、上記対象物7の表面電位と上記多孔電極板2の電位とが同電位になる。このように両者の電位が同じになれば、当然のこととしてこれらの電位差が0[V]になる。このとき、上記正イオンを対象物7に向かって導く電界E1の作用がなくなって、これ以上対象物7の表面電位は上がらない。
つまり、この帯除電装置によれば、上記対象物7の表面であって、上記多孔電極板2との間に上記電界E1が形成される領域aを、上記多孔電極板2の電位とほぼ同電位になるまで帯電させることができる。
【0022】
次に、上記のようにして帯電した対象物7の除電時について説明する。
除電時には、上記帯電時におけるイオン生成部3と対象物7との位置関係を保ったまま、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を同時に切り換える。具体的には、上記高電位切換手段4によって放電電極針1に印加する高電圧の極性を、帯電時とは逆極性の負に切り換えるとともに、低電位切換手段5を切り換えて多孔電極板2を接地し、
図3に示す状態にする。
【0023】
負の高電圧が印加された放電電極針1は負イオンを生成し、生成された負イオンは、放電電極針1と多孔電極板2との電位差によって多孔電極板2へ引き付けられるように移動する。この除電時にも、上記負イオンの一部は、多孔電極板2を介して吸収される。
また、除電時には、正に帯電している対象物7の領域aと接地された多孔電極板2との間に電界E2が形成される。この電界E2によって上記多孔電極板2に吸収されずに通過した負イオンが対象物7の領域aへ導かれる。
【0024】
上記多孔電極板2を通過した負イオンが対象物7の領域aに到達すると、領域aは除電されてその表面電位が下がるが、それにともなって領域aと多孔電極板2との間の電位差が小さくなる。上記電位差が0[V]、すなわち対象物7の表面電位が0[V]になると、上記電界E2による負イオンを導く作用がなくなる。つまり、領域aの表面電位が0[V]になれば、負イオンを過剰に供給して対象物7を逆帯電させてしまうことはない。
以上のように、第1実施形態の帯除電装置を用いれば、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えるだけで、この装置で帯電させた領域aを逆帯電させることなく完全に除電することができる。
【0025】
なお、対象物7の表面抵抗が低い場合には、領域aから電荷が拡散して、帯電した領域の広がりが相対的に大きくなることが想定できる。しかし、帯電時に領域aが拡散するということは、除電時における逆極性のイオンも同様に拡散するので、帯電時の領域と除電時の領域とがほとんど一致する。このように両領域がほとんど一致するので、帯電領域が広がたっとしても、問題は発生しない。
【0026】
また、上記の説明では、低電圧電源を備えている電源部6について説明したが、低電圧電源を必要としない構成も考えられる。例えば、多孔電極板2に導かれたイオンによって多孔電極板2上に生成された電荷を、抵抗を介して接地電位部に流すか、あるいは直接接地電位部に流すかによって、当該多孔電極板2の電位を低電位あるいは接地電位に保つことができる。
【0027】
図4の第2実施形態は、第1実施形態における平板状の上記多孔電極板2を、半球状の金属メッシュからなる多孔電極板8に代えたもので、他の構成は上記第1実施形態と同じである。すなわち、帯電時には、放電電極針1に例えば正の高電圧を印加するとともに、多孔電極板8には正の低電圧を印加し、除電時には放電電極針1の極性を負に切り換えるとともに多孔電極板8を接地する。
【0028】
ただし、この半球状の多孔電極板8は、半球の曲面に応じて対象物7との対向間隔が一律にはならない点が上記第1実施形態と相違する。上記放電電極針1の先端の真下に位置する点P1が、対象物7との対向間隔が最小となる最接近位置となり、この点P1から曲面に沿って離れるにしたがって、多孔電極板8と対象物7との間隔が大きくなる。そのため、多孔電極板8と対象物7との間の静電容量は、上記点P1に対応する位置において最も大きくなり、点P1から離れるほど小さくなる。したがって、電源から供給されて多孔電極板8に分布する電荷は、静電容量の大きな点P1で最も多くなり、そこから離れるにしたがって徐々に少なくなる。このように電荷が不均一に分布するので、多孔電極板8と対象物7との間に形成される電界E1の電気力線は、
図4に破線の矢印で示すように上記点P1で最も密度が高くなる。
【0029】
したがって、帯電時に放電電極針1で生成された正イオンは、対象物7の表面において上記点P1に対向する点を中心とした狭い領域bに優先的に導かれる。上記正イオンが導かれる領域bは第1実施形態の領域aよりも狭くなる。
また、除電時にも同様に、電気力線が上記点P1に集中するので、帯電された領域bを効率的に除電できる。
【0030】
図5は、第3実施形態の多孔電極板9を示したものである。この多孔電極板9は金属製のメッシュを半円筒形に形成したもので、対象物7に対向する側における多孔電極板9の底部に沿った直線L1が対象物7との対向間隔が最小となる最接近位置である。このような多孔電極板9を、上記第1実施形態の多孔電極板2の代わりに用いることができる。
この第3実施形態では、多孔電極板9と対象物7との間に形成される電界の電気力線の密度は、上記第2実施形態で説明したのと同様の原理によって上記直線L1に対応した多孔電極板9の最接近位置で最も高くなる。
【0031】
したがって、対象物7の表面において、上記直線L1と対向する直線L2上に電荷が集中的に導かれ、この直線L2に沿った狭い領域cに帯電を集中させることができる。
また、除電時に上記高電位切換手段4で放電電極針1の極性を逆極性に切り換え、低電位切換手段5で多孔電極板9を接地すれば、帯電時と同様に上記最接近位置に集中した電気力線によって、上記帯電領域cに除電用のイオンを導くことができる。したがって、この第3実施形態においても、
図1に示す第1実施形態と同様に、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えるだけで、この装置で帯電させた領域を逆帯電させることなく完全に除電することができる。
【0032】
上記のようにした第1〜3実施形態の帯除電装置によれば、従来のような帯電装置や除電装置を個別にセッティングしなくてもよくなり、その手間とコストを省くことができる。
なお、上記第1〜3実施形態の帯除電装置では、除電時に多孔電極板2、8、9を接地しているが、装置等の条件によって確実に接地できないような場合に、多孔電極板2、8、9の電位は、放電電極針1の極性と同極性であって接地電位に近い低電位にしてもよい。その場合にも,上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えるだけで、帯電させた領域を簡単に除電することができる。
【0033】
図6〜9に示す第4実施形態は、上記第1実施形態の帯除電装置を用いた塗料の乾燥度測定装置の実施形態である。
この第4実施形態の
塗料の乾燥度測定装置は、
図1に示す第1実施形態の帯除電装置のイオン生成部3に、表面電位センサ10を連結した装置で、対象物7の表面
に塗布された塗料の乾燥度を
、表面抵抗に基づいて特定するための装置である。ここでは
初めに対象物7の表面抵抗を測定する方法
を説明する。
【0034】
上記イオン生成部3に接続した電源部6は、上記した第1実施形態の電源部6と同じである。したがって、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えることによって、第1実施形態と同様に多孔電極板2と対向する領域aを帯電したり除電したりすることができる。
【0035】
一方、上記イオン生成部3に連結した表面電位センサ10は、
図7に示すように円筒形のセンサケース11を備え、このセンサケース11内に検出電極板12を保持している。この検出電極板12はそれと対向する面の表面電位を計測する電極で、センサケース11の図示しない検出窓を介して、対象物7と対向する位置に保持されている。
また、上記検出窓には一対のチョッパ13が設けられ、このチョッパ13が検出電極板12と対象物7との間を開閉するようにしている。このチョッパ13には、所定の振動数で振動して上記チョッパを開閉動作させるための振動子が設けられるとともに、振動子駆動回路14が接続されている。
【0036】
さらに、検出電極板12には計測回路15が接続され、この計測回路15が、上記検出電極板12によって検出された表面電位を電圧信号として出力する。
この表面電位センサ10の検出原理は、一般的な表面電位測定装置と同じである。すなわち、振動子によって繰り返し開閉する上記チョッパ13が開いたときに、対向する対象物7の表面電荷によって検出電極板12の電位が変化するとともに、この電位の変化によって検出電極板12に、電荷が誘導される。この検出電極板12に誘導される電荷は、対象物7の表面電位に依存している。したがって、上記検出電極板12に誘導された電荷量から計測回路15が、対象物7の表面電位を算出する。
なお、上記チョッパ13の開閉で検出電極板12に間欠的に誘導される電荷に基づいて、上記計測回路15が表面電位を求めるのが一般的である。
ただし、上記検出電極板12に間欠的に電荷を誘導する手段としては、チョッパ13に限定されない。例えば、上記放電電極針1にパルス状の高電圧を印加すれば、チョッパ13がなくても検出電極板12に間欠的に電荷を誘導させることができる。
【0037】
また、この第4実施形態では、上記センサケース11を円筒形にしているので、
対象物7に対向する側に対象物7との対向間隔が最小となる最接近位置を備えている。この最接近位置は、上記センサケース11の円筒側面に直線として現れる。そして、このセンサケース11には、上記最接近位置に対応させて上記検出電極板12を設けている。これにより、対象物7の表面の電荷とセンサケース11との間に形成される電気力線の密度が上記最接近位置において最も高くなる。このように、電気力線の密度が高い最接近位置に検出電極板12を設けたので、表面電位を検出しやすいというメリットがある。
【0038】
また、上記計測回路15には演算部16を接続し、この演算部16は、上記計測回路15から表面電位の検出信号が入力されたとき、それを
、対象物7表面の塗料の乾燥度に換算する演算処理などを実行する回路である。
さらに、この演算部16には、上記電源部6を接続し、この電源部6から、帯電や除電の開始タイミングなどが入力されるようにしている。このタイミングに基づいて、上記表面電位センサ10の測定開始や終了を制御することができる。
なお、上記イオン生成部3、表面電位センサ10及び上記演算部16のそれぞれは、図示していない筐体に一体的に組み込まれている。
【0039】
また、上記放電電極針1と検出電極板12とは所定の距離を保ち、放電電極針1及び多孔電極板2を帯電時の電位に設定したとき帯電する対象物7の領域aから測定領域dまで移動した電荷量によって
決まる測定領域dの表面電位を計測する。
【0040】
上記測定領域dの表面電位は
図8に示すように領域aの帯電開始時から上昇し、十分な時間が経過すると飽和電位V
satに達する。上記領域aから測定領域dまでの電荷の移動速度は対象物7の表面抵抗に依存するため、測定した表面電位Vの変化の傾き及び飽和電位V
satは電荷が移動する部分の表面抵抗によって異なる。したがって、
図8に示すような表面電位Vの経時変化を測定することによって対象物7の表面抵抗値を特定することができる。具体的には、上記計測回路15が、上記検出電極板12を介して帯電開始時からの表面電位Vを計測して演算部16へ入力すると、演算部16が入力された表面電位Vの経時変化から表面抵抗を算出する。このような表面抵抗の測定原理は、特許文献1に記載の装置と同じである。
【0041】
そして、この第4実施形態も、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えることによって、帯電させた領域aを簡単かつ確実に除電することができる。
さらに、除電時に、イオン生成部3が帯電時と反対極性の除電用のイオンを生成すると、この除電用イオンが領域aに導かれて除電が開始するが、この除電用イオンも帯電時と同様に対象物7の表面を移動して測定領域dまで移動する。そのため、領域aが除電されるとともに測定領域dも除電される。
このように、表面抵抗の測定後に、領域a及び測定領域dを簡単かつ確実に除電ができる。したがって、表面抵抗測定後の対象物7を帯電状態で放置することがなく、対象物7に、チリなどの異物が静電付着するなどの問題も起こらない。
【0042】
また、
図8の実線は、帯電開始からの時間と測定領域dにおける表面電位Vの変化を示したグラフであるが、帯電開始と同時に表面電位の測定を開始し、経過時間T1において除電に切り換えた場合、測定領域dの除電過程における表面電位は破線で示すように低下する。
上記のような除電過程においても、帯電時と同様に上記放電電極針1から対象物7に導かれた除電用のイオンは、領域aから測定領域dへ移動するが、その移動速度は対象物7の表面抵抗に依存する。そのため、除電時にも、表面電荷Vの経時変化を測定し、表面抵抗値を算出することができる。
【0043】
したがって、この第4実施形態の
塗料の乾燥度測定装置を用いれば、帯電時と除電時の2回の測定が簡単にできる。このように、帯電時と除電時の両方で、表面抵抗を測定した場合には、1回の測定に比べて測定の信頼性を上げることができる。
しかも、第4実施形態では、センサケース11を円筒形にして、対象物7との対向間隔が最小となる最接近位置に検出電極板12を設けているため、検出電極板12がより多くの電荷を検出でき、検出時間の短縮と検出精度の向上を図ることができる。
【0044】
また、上記多孔電極板2に換えて、
図5に示す第3実施形態の多孔電極板9、すなわち半円筒形にした多孔電極板9を用いれば、電荷の集中によって更なる検出時間の短縮と検出精度の向上ができる。
なお、
図5に示すような上記半円筒形の多孔電極板9を用いる場合には、上記センサケース11の円筒と、多孔電極板9の円筒とをほぼ等しい半径にして、多孔電極板9の最接近位置となる直線L1とセンサケース11の最接近位置とが連続するように、多孔電極板9の表面とセンサケース11の表面とを連続させるようにする。このようにした表面物性測定装置では、上記多孔電極板9の最接近位置に対応する領域c(
図5参照)を集中的に帯電させながら、この領域cに連続するセンサケース11の最接近位置に集中する電気力線によって、検出電極板12がより効率的に電荷を検出でき、精度よく表面抵抗測定ができることになる。
【0045】
この第4実施形態の
塗料の乾燥度測定装置は、上記のように表面抵抗を測定する
ことができるが、この表面抵抗に基づいて塗料の乾燥度を特定すること
ができる。
以下に、上記
塗料の乾燥度測定装置を用い、対象物7に塗装し
た水性塗料の乾燥過程における
乾燥度を測定する方法を説明する。
上記対象物7表面の水性塗
料は、乾燥するにしたがって固くなるが、その際には塗料中の水分が蒸発して含水量が少なくなる。このように、乾燥が進んで含水量が少なくなるので、塗膜の電気抵抗は高くなるはずである。そこで、本発明者らは、塗膜の表面抵抗あるいは、表面抵抗に関連して変化する表面電位を計測することによって塗膜の表面硬度に係る指標を得ることができると考え、以下に示す表面硬度の指標値Dcを設定した。この指標値Dcは、後で説明するように、塗膜の乾燥が進んで表面硬度が高くなると大きくなる値であり、帯電過程あるいは除電過程に測定するものである。
【0046】
上記表面硬度の指標値Dcは、下記の演算式(1)、(2)によって算出される値である。
そして、演算式(1)は、塗膜の帯電過程で測定される指標値Dcを求める演算式である。
【数1】
上記演算式中のV
0は、この実施形態の測定装置において、放電電極針1の直下における帯電電位であり、上記多孔電極板2に対向する領域aの帯電時の帯電電位である。また、V
Tは、帯電開始から設定時間T経過した時点に上記検出電極板12と対向する測定領域dの表面電位として検出される値であり、塗膜の含水量が多いほど高く検出される値である。
【0047】
上記演算式(1)から明らかなように、設定時間T後に測定される表面電位V
Tが小さいと、上記指標値Dcは大きくなる。
また、帯電過程において計測される測定領域dの表面電位の経時変化の傾きは表面抵抗に依存し、表面抵抗が大きいほどその傾きは小さくなる。したがって、設定時間T後に測定される表面電位V
Tは、表面抵抗が大きいほど小さくなる値である。つまり、塗膜の乾燥が進んで表面硬度が高くなれば、表面抵抗が大きくなり、上記指標値Dcも大きくなる。
なお、上記設定時間Tは、数秒〜1分程度であり、測定領域dの表面電位が飽和電位に達していなくてもかまわない。
【0048】
また、以下の演算式(2)は、塗膜の除電過程で測定される指標値Dcを求める演算式である。
【数2】
上記演算式(2)中のV
Pは、この実施形態の測定装置において、上記多孔電極板2に対向する領域aを除電する前の、上記測定領域dの表面電位である。また、V
Tは、除電開始から設定時間T経過した時点に上記検出電極板12と対向する測定領域dの表面電位として検出される値である。
【0049】
上記演算式(2)から明らかなように、設定時間T後に測定される表面電位V
Tが大きいと、上記指標値Dcも大きくなる。
また、除電過程において計測される測定領域dの表面電位の経時変化の傾きは表面抵抗に依存し、表面抵抗が大きいほどその傾きは小さくなる。したがって、設定時間T後に測定される表面電位V
Tは、表面抵抗が大きいほど大きくなる値である。つまり、塗膜の乾燥が進んで表面硬度が高くなれば、表面抵抗が大きくなり、上記指標値Dcも大きくなる。
なお、上記設定時間Tは、数秒〜1分程度である。
【0050】
そして、実験により、上記演算式で算出した指標値Dcと塗膜表面の鉛筆硬度とが相関し、鉛筆硬度に換えて指標値Dcを用いることが可能であることを確認している。
そこで、この実施形態の
塗料の乾燥度測定装置では、上記演算部16に上記演算式(1)、(2)を設定し、対象物7表面の塗膜の硬度を表す指標値Dcを算出することで、塗膜の表面硬度を測定できる。
【0051】
なお、演算式のV
0すなわち帯電時における上記放電電極針1の直下の電位V
0は、上記第1実施形態で説明したように、帯電時に上記低電位切換手段5によって多孔電極板2に設定した電位と等しくなる。そこで、帯電過程で上記指標
値Dcを求めるときには、多孔電極板2に設定した電位V
0を、上記電源部6から上記演算部16に入力するようにしている。
したがって、
図9に示すように、演算部16には、電源部6からは放電電極針1の直下電位V
0が入力され、上記計測回路15からは設定時Tにおける表面電位V
Tが入力される。
一方、除電過程で指標地Dcを求めるときには、上記計測回路15から上記除電前の表面電位V
Pが演算部16に入力されるようにしている。
これらの入力値に基づいて、演算部16は上記表面硬度の指標値Dcを算
出する。
【0052】
上記のようにして、この第4実施形態の
塗料の乾燥度測定装置は、乾燥過程における塗膜の表面硬度を非接触で測定することができ
、この表面硬度によって、塗膜の乾燥度を推定すること
が可能である。演算部16に適当な演算式を設定
し、演算部16が上記表面硬度の指標値Dcを
塗料の乾燥度に変換して出力すること
ができる。
また、この実施形態の
塗料の乾燥度測定装置も、上記高電位切換手段4及び低電位切換手段5を切り換えるだけで、帯電させた領域を簡単かつ確実に除電することができる。したがって、従来のように、上記塗膜を除電するために、測定装置とは別の除電装置をセッティングする必要はない。
さらに、乾燥中の塗膜などが帯電状態のまま放置され、異物が静電付着するようなこともない。
【0053】
なお、上記計測回路15や、演算部16にノイズフィルタ回路を接続すれば、外部の電気ノイズの影響を取り除いてより正確な物性測定ができる。
また、上記では、放電電極針1を、帯電時に正極性にし、除電時に負極性にした例を説明しているが、帯電時に負極性とし、除電時に正極性としてもよいことは当然である。