(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
船舶の推進性能を向上するためには、船体抵抗を低下させる手法と、推進効率を向上させる手法とがある。特に船体抵抗の低減は、推進性能の向上に大きく寄与する。
船舶の全抵抗は、摩擦抵抗と剰余抵抗という大きく2つの抵抗成分に分類することができる。さらに剰余抵抗は、造波抵抗と粘性抵抗に分類できる。造波抵抗の低減には、船首形状を改良する技術が知られている。
【0003】
上述した造波抵抗を低減するための船首形状としては、例えば、バルバスバウが挙げられる。このバルバスバウは、主船体が作る波と逆位相の波を意図的に発生させる。このバルバスバウが作る波は、主船体が作る波を打ち消す方向に作用するため、合成船首波高が低減されて造波抵抗を低減させることができる。しかし、その効果は限定的であるため、更なる造波抵抗の低減が望まれていた。
【0004】
一方で、剰余抵抗は、全抵抗から摩擦抵抗を除いた抵抗成分であって、船舶の幅寸法に対する長さ寸法の比率が大きくなるほど低減される傾向がある。これは、船舶の長さが長くなることで船体が痩せることによる粘性抵抗の低下や、船舶の水線長が長くなることによる造波抵抗の低減によるものである。しかしながら、船舶の全長は、岸壁設備等の条件に応じて制限されるため、水線長を延長することには限界があった。
【0005】
特許文献1においては、フルード数が0.18から0.23の船舶における船首造波抵抗の低減を目的として、船首最先端ラインを、計画速力において計画満載喫水線の少し下方付近から水面の盛り上がりにより水に接する部分の水線面を含む高さまで略垂直上方に延ばし(アップライトステム)、当該範囲の水線面形状を先鋭にする技術が記載されている。この特許文献1に記載の技術によれば、全長制限をクリアして輸送効率の良い大きなホールドを確保しつつ、設計速力における船首端の水面の盛り上がりを小さくし、船首波崩れをなくすことが可能となっている。
【0006】
特許文献2においては、満載喫水線下に船首バルブと満載喫水線の近傍の船舶前端とを略同一位置に配置することでフルード数を低減させて、造波抵抗を軽減する技術が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1においては、比較的フルード数の小さい船舶を前提としている。一方で、離島航路のフェリーなど、高速化が要求される船舶においては、フルード数が0.25を超えることが想定される。このようにフルード数が0.25を超えると造波抵抗の増加が顕著となり、フルード数が0.38を超えたところで極大値(以下、ラストハンプと称する)となる。ここで、ラストハンプを超えると、造波抵抗は低下する。例えば、水中翼船などは、このラストハンプを超えた領域で航走している。しかし、上述した排水量型の船舶は、一般にラストハンプを超えることはない。そのため、速力の増加に伴って造波抵抗が急激に増加して推進効率が低下してしまう。
また、船舶の全長を変えずに、速力の増加に伴う推進性能の低下を抑制するためには、船舶の全長を変えずに全幅を小さくして痩せさせることが考えられる。しかし、全幅が小さくなるため居住区や貨物積載部が縮小してしまうと共に、復原性能を確保することが困難になるという課題がある。
【0009】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フルード数が0.25から0.38の場合に、船舶(船体)の全長を増加させることなく、居住区や貨物積載部の縮小を抑制すると共に推進性能を向上することができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の第一態様によれば、船舶は、フルード数が0.25から0.38
、方形係数Cbが0.6以下の船舶であって、満載喫水線よりも下方に配されて上端部が最軽荷喫水線以上に配される船首バルブと、前記船首バルブの前端部から鉛直上方に向かって延びる前縁部を具備するステムと、を備え、計画満載喫水線の高さをHとした場合に、船首端から船体の全長の1%後方に於ける断面における前記上端部が、0.7H以上の位置に配され
、前記ステムは、前記前縁部に向かうにしたがって、前記船体の幅寸法が小さくなるように、その水線面形状が先鋭に形成され、前記ステムを構成する一対の舷側は、船首バルブの直上において平行に近い形状で形成され、上方に向かうに従って、互いに離間する凹状の曲面とされ、上部同士が上甲板により接続される。
このように構成することで、フルード数が0.25から0.38の排水量型の船舶において、船舶(船体)の全長を増加させることなく水線長を延長して、フルード数を低下させることができる。そのため、剰余抵抗の内、特に造波抵抗を低減できる。さらに、水線長が延長されることで、プリズマチック曲線をなだらかにすることができるため、造波抵抗を低減できる。また、水線長の延長により方形係数Cbを小さくすることができるため、粘性抵抗を低減できる。更には、フルード数が0.25から0.38の船舶で、計画速力が遅い船舶、即ち、船舶の水線長が比較的短い船舶については、針路安定性をも向上させることができる。また、船首バルブの上端部が最軽荷喫水線以上に配されることで、船首付近の波高位置を船首側に移動させることができるとともに、波高を抑制することができる。そのため、アンカー位置をより船首側に移動させて、これに合わせて上甲板のウインドラス等を船首側に移動できる。その結果、船舶(船体)の全長を増加させることなく、居住区や貨物積載部の縮小を抑制すると共に、推進性能を向上することができる。
【0011】
さらに、アンカーをより船首側に配置することができるため、ウインドラス等を船首側に配置させた場合には、その分だけ居住区や貨物積載部を拡大することができる。
【0012】
さらに、方形係数Cbが0.6以下で喫水差の少ない、いわゆる痩せ形の船舶において、効率よく剰余抵抗を低減させて推進性能を向上することが出来ると共に、針路安定性の向上も図ることが出来る。
【0013】
この発明の第
二態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が300m以下であっても良い。
【0014】
この発明の第
三態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が250m以下であっても良い。
【0015】
この発明の第
四態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が200m以下であっても良い。
【0016】
この発明の第
五態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が150m以下であっても良い。
【0017】
この発明の第
六態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が120m以下であっても良い。
【0018】
この発明の第
七態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が100m以下であっても良い。
【0019】
この発明の第
八態様によれば、船舶は、第
一態様において、船体の全長が80m以下であっても良い。
【0020】
この発明の第
九態様によれば、船舶は、第一から第
八態様の何れか一つの態様において、方形係数Cbが0.6以下の旅客船であってもよい。
【0021】
この発明の第
十態様によれば、船舶は、第一から第
八態様の何れか一つの態様において、方形係数Cbが0.6以下の貨物船であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
上記船舶によれば、フルード数が0.25から0.38の場合に、船体の全長を増加させることなく、居住区や貨物積載部の縮小を抑制すると共に推進性能を向上することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、この発明の一実施形態に係る船舶を図面に基づき説明する。
図1は、この発明の実施形態における船舶の全体構成を示す側面図である。
図2は、
図1における船舶の船首近傍の拡大図である。
この実施形態の船舶1は、速力が比較的速いフルード数が0.25から0.38程度までの船舶であって、例えば、客船、車両を運搬可能なフェリー、貨物を運搬可能な貨客船等の旅客船、RORO船(Roll−on/Roll−off船)、コンテナ船、および、自動車運搬船等の乾貨物船である。ここで、「旅客船」には、海洋調査を行う「調査船」を含めても良い。旅客船や貨物船は、は、方形係数Cbが0.6以下の比較的痩せ形の船舶に分類される。
【0025】
図1に示すように、この船舶1の船体2は、船尾2b側に、プロペラ5と、舵6とを備えている。プロペラ5は、船体2内に設けられた主機(図示せず)によって駆動され、船舶1を推進させる推進力を発生させる。舵6は、プロペラ5の後方に設けられ、船体2の進行方向を制御する。なお、プロペラ5及び舵6については、これらに限定されず、同様の推進・操舵効果が得られるもの、例えばアジマス推進器、ポッド推進器、アジマス推進器とプロペラ、ポッド推進器とプロペラ等から構成される推進装置であっても良い。
【0026】
一方で、
図1、
図2に示すように、船体2の船首2aには、バルバスバウ(船首バルブ)7と、ステム(舳先)8とが形成されている。
バルバスバウ7は、船舶1が航行する際に船体2が作る波と逆位相の波を意図的に発生させる。このバルバスバウ7が作る波は、船体2が作る波を打ち消す方向に作用する。そのため、合成船首波高が低減されて造波抵抗が低減される。ここで、
図1においては、計画満載喫水線(D.L.W.L)まで船体2が沈んでいる場合を示している。
図1中、「F.P.」は、船体2の前部垂線、「A.P.」は、船体2の後部垂線である。この
図1の場合、水線長L1は、後部垂線(A.P.)よりも僅かに船尾2b側の位置から前部垂線(F.P.)までの長さである。
【0027】
ステム8は、船首2aの先端部を形成している。このステム8は、バルバスバウ7の前端部7aから鉛直上方に延びる前縁部8aを有している。言い換えれば、ステム8の前縁部8aは、前部垂線F.P.上に配されるように形成されている。この前縁部8aは、少なくとも船首2aによる造波の高さよりも上方まで形成されている。
【0028】
図3は、
図2のIII−III線(船首端から船体の全長の1%後方に於ける断面線)に沿う断面図である。
図4は、
図2のIV−IV線に沿う断面図である。
図3、
図4に示すように、ステム8は、一対の舷側2cと、上甲板9とを備えている。このステム8は、前縁部8aに向かうに従って一対の舷側2c同士が近づくように、言い換えれば船体2の幅寸法が小さくなるように、その水線面形状が先鋭に形成されている。また、
図4に示すように、ステム8を構成する舷側2cは、それぞれ船首尾方向で僅かに湾曲した凹状の曲面とされている。さらに、
図3に示すように、ステム8を構成する一対の舷側2cは、バルバスバウ7の直ぐ上において平行に近い形状で形成されている。さらに、これら一対の舷側2cは、上方に向かうに従って互いに離間する凹状の曲面とされている。
【0029】
これら一対の舷側2cは、上部同士が上甲板9により接続されている。上甲板9には、例えば、アンカー(図示せず)を投錨、揚錨するためのウインドラス等の係船装置が配置されている。ここで、アンカーは、船首2aの造波との接触を避けるために、船首尾方向における造波の波高位置よりも船尾側に配置される。
【0030】
図2、
図3に示すように、上下方向における船底位置B.Lから計画満載喫水線(D.L.W.L)までの高さをHとした場合、上下方向における船底位置B.Lから上述したバルバスバウ7の上端の高さ位置hは、0.7H以上(h≧0.7H)とされている。ここで、
図3に示すバルバスバウ7の横断面は、縦方向に長い円形状に形成されている。このバルバスバウ7の上端は、例えば、
図3に示すバルバスバウ7の上部を形成する一対の舷側2c同士の距離が最も小さくなり、かつ船底位置B.Lに最も近い箇所である。また、バルバスバウ7の上端の高さは、最軽荷喫水線WL以上に配される。ここで、最軽荷喫水線WLは、損傷時復原性の要件により決定される。この実施形態における船舶1の最軽荷喫水線WLの高さは、計画満載喫水線の高さの70%以上となっている。
【0031】
つまり、フェリー、RORO船等の喫水差があまり大きくない痩せ型の船においては、航走時の船首沈下や船首波の盛り上がりを考慮すると、満載から軽荷状態までの全ての積み付け状態においてバルバスバウ7を没水させることができる。
【0032】
次に、上述した実施形態の船舶1における作用を説明する。
図5は、第一比較例における船舶の
図1に相当する側面図である。
図5に示すように、船舶100は、バルバスバウ107の前端部107aよりも船尾102b側から船首102aの前端部に向かって傾斜するようにステム108の前縁部108aが形成されている。これにより、
図5に示す、第一比較例の船舶100は、一般的な船舶の船首形状となっている。つまり、この実施形態における船舶1が、バルバスバウ7の前端部7aから鉛直上方に延びるように前縁部8aを備えていることで、船舶1の水線長L1を、第一比較例の船舶100の水線長L2よりも長くすることができる。
【0033】
図6は、縦軸を船体中央断面積に対する船首尾方向任意位置に於ける横断面積の比率であるプリズマチック係数(Cp)、横軸を船首尾方向の任意位置としたグラフである。ここで、1S.Sは前部垂線(F.P.)と後部水線(A.P.)との間の距離である垂線間長Lpp×0.1を示し、「0」が船体中央、「5」が前部垂線(F.P.)、「−5」が後部垂線(A.P.)を示す。また、
図6において、実線は、この実施形態における船体2のプリズマチック曲線の変化の一例を示すグラフである。一方で、破線は、第一比較例の船体102におけるプリズマチック曲線の変化の一例を示すグラフである。
【0034】
図6に示すように、上述した実施形態における船体2は、船首2a側に水線長が延長される分だけ、第一比較例によりも、船首2a側におけるプリズマチック曲線の傾斜が緩やかになっている。これは、船体2の幅、排水量が一定の場合に、船体2の船首尾方向の中央部における横断面積に対して、中央部の船首側における横断面積の比率を減少させることができるからである。これにより船体2のいわゆる肩部と称される部位で生じる造波を小さくすることが可能となる。また、船体2の幅、排水量を一定としたまま、船体2を相対的に痩せさせることができる。そのため、粘性抵抗を低減することができる。
【0035】
図7は、縦軸を造波抵抗係数(Cw)、横軸をフルード(Fn)数としたグラフである。
図8は、
図7において二点鎖線で囲まれた部分を拡大したグラフである。このグラフにおいて、黒塗りの四角形で示す点は第一比較例であり、白抜きの四角形で示す点は上述した実施形態の船舶1の場合を示している(以下、
図8から
図12も同様)。ここで、「Vs」を計画速力、「g」を重力加速度、「L」を計画満載喫水線における水線長とすると、フルード数Fnは、Fn=(Vs/(gL)^0.5)と表される。つまり、フルード数は、計画速力Vsを一定とした場合、水線長Lが長いほど小さくなる。
【0036】
図7に示すように、造波抵抗係数は、フルード数の増加に伴って、フルード数が0.25よりも上、とりわけフルード数が0.28よりも上の領域において増加している。この造波抵抗係数の増加率は、フルード数が0.25から上昇するに従って、徐々に大きくなり、フルード数が0.32付近で一定となる。さらに、造波抵抗係数の増加率は、フルード数が0.35を超える辺りから徐々に小さくなっている。この造波抵抗係数は、フルード数が0.38を超えたところで極大値となり、その後、減少に転ずる。この造波抵抗係数の増減は、いわゆるラストハンプと称されるものである。
【0037】
この実施形態の船舶1が対象とするフルード数が0.25から0.35の造波抵抗の増加率が正となる領域では、ラストハンプにより造波抵抗係数が増加する領域となる。この領域においては、フルード数の少しの増減によっても、造波抵抗係数が大きく変化する。ここで、この実施形態における船舶1の計画満載喫水線の長さは、例えば100mの場合であり、第一比較例における船舶100の水線の長さに対して例えば、4m程度長くすることが可能となっている。
【0038】
図8に示すように、この実施形態における船舶1のフルード数は、0.340と0.341との間の値となる。一方で、第一比較例における船舶100のフルード数は、0.345と0.346との間の値となる。つまり、この実施形態における船舶1のフルード数は、第一比較例のフルード数よりも0.008だけ小さな値となる。これらフルード数の違いは、上述した水線長の違いによるものである。実施形態と第一比較例とにおける各フルード数の差は僅かではあるが、このフルード数の差分により、実施形態における船舶は第一比較例の船舶100に対して造波抵抗係数が約8%低減される。
【0039】
図9は、縦軸を剰余抵抗係数(Cr)、横軸をフルード(Fn)数としたグラフである。
図10は、
図9の二点鎖線で囲まれた部分を拡大したグラフである。
図9に示すように、全抵抗から摩擦抵抗を除いた剰余抵抗の大きさを示す剰余抵抗係数は、フルード数の増加に伴ってフルード数が0.31の近傍から増加する。より具体的には、剰余抵抗係数の増加率は、フルード数の増加に伴って徐々に大きくなっている。
【0040】
図10において、この実施形態における船舶1のフルード数、および、第一比較例における船舶100のフルード数は、何れも上述した
図8と同様である。つまり、この実施形態における船舶1のフルード数が、第一比較例のフルード数よりも0.008だけ小さな値となる。これにより、剰余抵抗係数は、10%低減される。
【0041】
図11は、縦軸をBHP(Brake Horse Power)、横軸をフルード(Fn)数としたグラフである。
図12は、
図11の二点鎖線で囲まれた部分を拡大したグラフである。
図11、および、
図12において、実線はこの実施形態における船舶1のBHP、破線は第一比較例における船舶100のBHPである。BHPは制動馬力であって、主機関の外部に取り出すことのできる馬力である。
【0042】
図11に示すように、BHPは、フルード数の増加に伴って増加する。このBHPの増加率は、フルード数の増加に伴って徐々に大きくなる。ここで、この実施形態における船舶1のBHPと、第一比較例における船舶100のBHPとは異なる曲線となる。これは、要するに、それぞれ船舶1、船舶100における剰余抵抗が異なるからである。
図11、および、
図12において、この実施形態における船舶1のフルード数、および、第一比較例における船舶100のフルード数は、何れも上述した
図8と同様である。つまり、この実施形態における船舶1のフルード数が、第一比較例のフルード数よりも0.008だけ小さな値となる。これにより、水線長が長くなることで、同一速力に於ける所要BHPは4%低減される。
【0043】
図13は、縦軸を波高(wave height)、横軸を前部垂線(F.P.)と後部水線(A.P.)との間の距離である垂線間長Lppに対する船首尾方向の位置xの比(x/Lpp)としたグラフである。すなわち横軸において、右側に行くほど船首2aの先端部に近づくこととなる。また、縦軸の波高は、船首による造波の波高である。
図13において、線の長い破線(長破線)は、上述したステム108を備える第一比較例における波高を示している。一方で、一点鎖線、線の短い波線(短破線)は、第二比較例の船舶200(
図14参照)における波高を示している。この第二比較例の船舶200は、この実施形態における船舶1と、バルバスバウの上端の位置が異なるだけである。より具体的には、この第二比較例は、バルバスバウ207の上端の高さ位置hを、0.5H(一点鎖線)、および、0.6H(二点鎖線)としている。
【0044】
図14は、第二比較例における船舶の
図3に相当する断面図である。この
図14は、h=0.5Hの場合を示している。この第二比較例の船舶200の船体202は、一対の舷側202cと、上甲板209と、バルバスバウ7とをそれぞれ備えている。この第二比較例の船舶200におけるバルバスバウ7の上端の高さ位置hは、計画満載喫水線(D.L.W.L)の高さ位置Hの半分である0.5Hとされている。
【0045】
一方で、
図13における二点鎖線、および、実線は、この実施形態の実施例における船舶1における波高を示している。すなわち、バルバスバウ7の上端の高さ位置hを、0.7H(二点鎖線)、および、0.8H(実線)としている。
このようにバルバスバウ7の上端の高さ位置hを大きくするに従って、バルバスバウ7の上端は、計画満載喫水線(D.L.W.L)により近づくことになる。
【0046】
図13に示すように、まず、第一比較例の船舶100の場合、造波による波高の位置が最も高く、且つ、船首(船首端)から最も離れた位置となる。船舶100におけるアンカーは、この波高の位置よりも船尾側に設ける必要がある。そのため、居住区や貨物積載部が、上甲板109に設けられるウインドラスなどによってその前端位置が制限されてしまう。
【0047】
一方で、第二比較例の船舶200や、実施例における船舶1のように、ステム8の前縁部8a(
図14では図示せず)を、バルバスバウ7の前端部7a(
図14では図示せず)から鉛直上方に延びるように形成することで、造波による波高の位置を船首2a側へと移動させることができる。この波高の位置を船首2a側へと移動した分だけ、アンカーを位置A1から位置A2へと船首側に移動させることができる。そのため、ウインドラス等の係船装置の位置も船首側に移動でき、上述した第一比較例の船舶100よりも居住区や貨物積載部の前端位置を船首側まで拡大することができる。
【0048】
さらに、この発明の実施例においては、h=0.7H以上としている。これにより、船首2aによる造波の波高をさらに低くすることが可能となる。そのため、アンカーを位置A2から更に船首側の位置A3へと移動させて、ウインドラス等の係船装置の位置を、更に船首2a側へ移動させることができる。その結果、上述した第二比較例の船舶200よりも、更に居住区や貨物積載部の前端位置を船首2a側まで拡大することができる。
【0049】
ここで、フェリーやRORO船等においては、h=0.8Hを超えると、航行中にバルバスバウ7が水面よりも上方に出る場合がある。そのため、このバルバスバウ7により造波抵抗が増大しないように、バルバスバウ7の上端の高さ位置hを、計画満載喫水線(D.L.W.L.)よりも下方で、更に、0.8H程度までに収めるようにしても良い。
【0050】
以下に示すテーブルは、この発明の実施例における船(船体)の長さに応じたフルード数の低下量を示している。このテーブルにおいては、300mから150mまで50m間隔で、また、150m以下は、120m、100m、および、80mの場合を例示している。
【0052】
このテーブルに示すように、船の長さが300mで速力を25kn一定と仮定した場合、第一比較例(速力25knにおけるFn数=0.2371)に対して、上述した実施形態のステム8を採用して水線長が5m延長されたとすると、Fn数は、「0.2351」となり、Fn数の低下量は「0.0020」となる。
【0053】
同様に、船の長さが150mで速力を25kn一定と仮定した場合、第一比較例(速力25knにおけるFn数=0.3353)に対して、上述した実施形態のステム8を採用して水線長が5m延長されたとすると、Fn数の低下量は「0.0055」となる。
さらに、船の長さが80mで速力を25kn一定と仮定した場合、第一比較例(速力25knにおけるFn数=0.4591)に対して、上述した実施形態のステム8を採用して水線長が5m延長されたとすると、Fn数の低下量は「0.0137」となる。
【0054】
すなわち、速力一定の場合、船の長さが短くなるほどFn数が高くなるため、上述した実施形態のステム8を採用して水線長が延長された際のFn数の低減効果が増すこととなる。
【0055】
したがって、上述した実施形態によれば、フルード数が0.25から0.38の排水量型の船舶において、船体2の全長を増加させることなく水線長L1を延長して、フルード数を低下させることができる。そのため、剰余抵抗のうち特に造波抵抗を低減できる。さらに、水線長L1が延長されることで、プリズマチック曲線をなだらかにすることができるため、造波抵抗を低減できる。
【0056】
また、水線長L1を延長できることで、方形係数Cbを小さくすることができるため、粘性抵抗を低減できる。更には、フルード数が0.25から0.38の船舶1で、その計画速力が遅い船舶、即ち、船舶の水線長が比較的短い船舶については、針路安定性をも向上させることができる。また、バルバスバウ7の上端部が最軽荷喫水線(W.L)以上に配されることで、船首2a付近の波高位置を船首2a側に移動させることができるとともに、波高を抑制することができる。そのため、アンカー位置をより船首2a側に移動させて、これに合わせて上甲板9のウインドラス等を船首2a側に移動できる。その結果、船舶(船体)の全長を増加させることなく、居住区や貨物積載部の縮小を抑制すると共に、推進性能を向上することができる。
【0057】
さらに、バルバスバウ7の上端の高さ位置hを0.7H以上とすることで、アンカーをさらに船首2a側に配置することができる。そのため、ウインドラス等を船首2a側に配置させることができ、その分だけ居住区や貨物積載部を拡大することができる。また、全ての積み付け状態においてバルバスバウ7を全て没水させることができる。そのため、バルバスバウ7による造波抵抗低減効果を有効に得ることができる。さらに、バルバスバウ7の横断面積を必要以上に大きくする必要がなくなるため、低速航行時の推進性能の悪化を抑制することができる。
【0058】
また、方形係数Cbが0.6以下の、喫水差の少ないいわゆる痩せ形の船舶においても効率よく剰余抵抗の低減および、針路安定性の向上を図り、推進性能を向上することができる。
【0059】
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0060】
例えば、上述した各実施形態においては、フェリーやRORO船等を例示したが、これらに限られない。例えば、喫水差が小さく、痩せ形で、且つ、フルード数が0.25から0.38程度の船舶であれば適用可能である。