(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の実施形態に係る通信機器収納箱は、
(1) 通信機器を収納して屋外に設置される通信機器収納箱であって、
前記通信機器を収納するための開口部を有する樹脂製の収納箱本体と、前記開口部を開閉自在な蓋体と、を備え、
少なくとも前記収納箱本体は、基準太陽光の照射を受けた時に波長範囲が380nmから1350nmの光から吸収するエネルギー量と、基準太陽光の放射照度の合計エネルギー量との比である吸収率が4.4%以下である。
【0011】
通信機器収納箱において、少なくとも収納箱本体は樹脂製であるので電波を遮蔽することがなく、通信機器のアンテナを内部に収納することができる。これにより、アンテナを箱の外に出して屋外暴露環境に耐えるだけの機能を付加する必要がなくなる。
ところが、この場合でも、太陽光の照射による温度上昇により、内部温度を通信機器の使用環境温度範囲の上限以下に抑えることが難しくなり、換気装置や冷却装置等を内蔵する必要が生じる。一方、地表まで届く太陽光に含まれる各波長の照度の占有率は、波長範囲が380nmから1350nmの領域が大半を占める。収納箱本体を、上記波長範囲の光に対する吸収率を4.4%以下とすることにより、収納箱本体に吸収された熱エネルギーによる内部温度の上昇を低く抑えることができる。これにより、樹脂製の箱を用いて、換気装置や冷却装置等を内蔵せずに、内部温度を通信機器の使用環境温度範囲の上限以下に抑えることができる。
【0012】
(2) (1)の通信機器収納箱において、前記収納箱本体は、酸化チタンを含む樹脂で形成されており、前記酸化チタンの含有重量濃度が5%以上25%以下である。
収納箱本体を酸化チタンの含有重量濃度が5%以上25%以下の樹脂で形成することにより、収納箱本体における、波長範囲が380nmから1350nmの光に対する吸収率を4.4%以下とすることができる。
(3) (2)の通信機器収納箱において、前記収納箱本体は、酸化チタンを含む樹脂で形成されており、前記酸化チタンの含有重量濃度が10%以上25%以下である。
収納箱本体を酸化チタンの含有重量濃度が10%以上25%以下の樹脂で形成することにより、収納箱本体における、波長範囲が380nmから1350nmの光に対する吸収率を3.4%以下とすることができる。
【0013】
(4) (1)から(3)のいずれか一の通信機器収納箱において、前記収納箱本体内に支持部が設けられ、前記支持部に回動自在に保持されている通信機器固定用の収納板を有し、
前記収納板には、複数の開口部が設けられ、前記開口部に紐体を通して前記通信機器を包縛固定可能であり、
前記収納板を前記収納箱本体内に収容した際に、複数の前記開口部を通して空気の流通が可能なように、前記収納箱本体の奥側の内壁と前記収納板との間に隙間を開けて固定可能である。
【0014】
上記のように、通信機器収納箱において、収納箱本体の奥側の内壁との間に隙間を開けて固定される収納板に通信機器が包縛固定されるので、外部からの直接的な熱伝導から隔離できる。また、収納板を収納箱本体内に収容した際に、複数の開口部を通して、通信機器収納箱内の空気の流通が可能であるので、通電により通信機器から発生した熱を、複数の開口部を通して、収納板の表裏と収納箱本体との間に生じる空間に対して放熱することができる。
【0015】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る通信機器収納箱の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
図1は、本実施形態に係る通信機器収納箱1の外観を示す斜視図である。
図2は、通信機器収納箱1の蓋体3を開けた場合の外観を示す斜視図である。
図1に示すように、通信機器収納箱1は、収納箱本体2と、蓋体3とを備えている。さらに、収納箱本体2内には、
図2に示すように、通信機器固定用の収納板5を備えている。
【0017】
通信機器収納箱1は、通信機器6をその内部に収納して、屋外に設置される。収納箱本体2は、略直方体の容器であり、その一面が通信機器6を入れるための開口面2aとなっている。また、収納箱本体2は、通信機器のアンテナを内部に収納する場合に、電波を遮蔽することがない樹脂製とする。
【0018】
収納箱本体2を形成する樹脂としては、PC(ポリカーボネイト)、ABS(アクリルニトリル、ブタジエン、スチレン共重合樹脂)、PS(ポリスチレン)、AAS(アクリルニトリル、アクリルニトリルゴム、スチレン共重合樹脂)およびこれらを混合したアロイ樹脂(PC/ABS、PC/PBT、PC/PS)もしくはガラス繊維などで強化したPP(ポロプロピレン)などが挙げられる。
【0019】
蓋体3は、ヒンジ等により収納箱本体2を開閉可能に取り付けられている。蓋体3を閉めて収納箱本体2の開口面2aを塞ぐことにより、雨水や塵などが入らないように通信機器収納箱1が密閉される。
蓋体3も収納箱本体2と同様に電波を遮蔽することがない樹脂製としてもよく、収納箱本体2と同じ種類の樹脂であるとよい。
【0020】
また、通信機器収納箱1を屋外に設置する際に、上から落ちてくる雨水等や上部からの日射を遮るように、屋根となる遮蔽板4を設置してもよい。この遮蔽板4は、通信機器収納箱1と離した状態で、図示しない支柱等を使用して通信機器収納箱1の上部に取り付ければよい。遮蔽板4も収納箱本体2と同様に電波を遮蔽することがない樹脂製としてもよく、収納箱本体2と同じ種類の樹脂であるとよい。
【0021】
通信機器固定用の収納板5は、収納箱本体2に設けられた支持部2bに回動自在に保持されている。収納板5には、複数の開口部5aが格子状に設けられており、
図2のように収納板5を収納箱本体2の外側に回動させて、開口部5aに紐体7を通して、通信機器6を収納板5に包縛固定することができる。通信機器6を包縛固定した収納板5を収納箱本体2の内側に回動させて、収納箱本体2内に設けられた係止部2cによって固定できる。そして、収納板5を収納箱本体2内に固定した後、蓋体3を閉めることで、通信機器収納箱1を屋外に設置した際に、雨水や塵などが入らないように収納箱本体2の開口面2aを密閉できる。
このように、収納板5を収納箱本体2内に固定した状態において、複数の開口部5aを通して空気の流通が可能なように、収納箱本体2の奥側の内壁2dと収納板5との間に隙間がある。
【0022】
上記のように、蓋体3を閉めた状態で、収納箱本体2の奥側の内壁2dとの間に隙間を開けて固定される収納板5に通信機器6が包縛固定されるので、通信機器収納箱1の外部から通信機器6への直接的な熱伝導から隔離できる。
また、収納板5を収納箱本体2内に収容した際に、複数の開口部5aを通して、通信機器収納箱1内の空気の流通が可能である。これにより、通電により通信機器6から発生した熱を、複数の開口部5aを通して、収納板5の表裏と収納箱本体2との間に生じる空間に対して放熱することができる。
【0023】
通信機器などの電子機器を収納して、屋外に設置する樹脂製の収納容器は、換気装置や冷却装置等を内蔵しない場合、使用環境温度範囲(例えば、0℃〜60℃)の上限よりも高くなるおそれがある。換気装置や冷却装置等を内蔵するとコストがかかるため、本発明者らは、換気装置や冷却装置等を内蔵せずに、内部温度を通信機器の使用環境温度範囲の上限以下に抑える方法について鋭意検討した。以下に、その検討について詳細に説明する。
【0024】
本発明者らが考察したところ、地表まで届く太陽光に含まれる各波長の照度の占有率と熱エネルギーに変化しやすい領域(赤外領域など)とを考慮すると、輻射伝熱に支配的な領域は、波長範囲が380nmから1350nmの領域であることがわかった。この考察に基づき、収納容器の内部温度の上昇を抑えることを考えた。
一方、本発明者らは、樹脂に添加する酸化チタンの濃度を変えると、光の吸収率が変化することにも着目した。そして、樹脂に添加する酸化チタンの濃度を調整して光の吸収率が低い樹脂を得ることを考えた。
【0025】
以上の考察に基づき、本発明者らは、樹脂に添加する酸化チタンの濃度の最適な値を実験により検討した。
以下、実験およびその結果について説明する。
この実験では、酸化チタンの含有率(含有重量濃度)が異なる樹脂サンプルに対して、波長範囲が380nmから1350nmの光の吸収率を測定した。測定対象の樹脂サンプルとして、酸化チタンの含有重量濃度が0,1,3,10,20%である板厚3mmのポリカーボネイト樹脂をそれぞれ用意した。
【0026】
最初に、基準太陽光の分光放射照度としてASTM G173-03 Reference Spectra Derived from SMARTS v. 2.9.2の“Global tilt”で規定されるものを使用する。これはASTM International(米国試験材料協会)が策定・発行する規格の一つであり、赤道に向かって37°で傾斜する傾斜面を受光面とするものである。そして、各樹脂サンプルに対して光学的測定を行って全光反射率および全光透過率を求めた。次に、上記基準太陽光分光放射照度から各波長毎の放射照度を求め、各波長毎の吸収率(100−(反射率+透過率)を乗じて、380nmから1350nmの波長帯で合計したものを吸収量(太陽光エネルギーの吸収量)として算出した。
この吸収量の算出式を次の式(1)に示す。
【0027】
【数1】
ここで、Pは基準太陽光の分光放射照度(W/m
2)、Rは樹脂サンプルの全光反射率(%)、Tは樹脂サンプルの全光透過率(%)、lは、光の波長(nm)である。
【0028】
そして、各波長帯における吸収率(%)は、上記の式(1)によって算出した吸収量を基準太陽光の放射照度の合計で除したものとした。吸収率の算出式を以下の式(2)に示す。
【0030】
各樹脂サンプルに対して得られた各波長帯における吸収率は、次の表1の通りである。
【0032】
図3に、樹脂サンプルにおける酸化チタンの含有重量濃度と、上記表1に示す380nmから1350nmの波長帯で合計した吸収率との関係をグラフで示す。
図3のグラフから、樹脂サンプルおける酸化チタンの含有重量濃度が高くなるにしたがって、吸収率が低下し、酸化チタンの含有重量濃度が5%以上になった時点で吸収率は4.4%以下となりほぼ一定となっている。この結果、基準太陽光の照射を受けた時に380nmから1350nmの波長帯の光から吸収するエネルギー量と、基準太陽光の放射照度の合計エネルギー量との比である吸収率が4.4%以下の樹脂を得るには、酸化チタンの含有重量濃度を5%以上とすることが好ましい。更には吸収率が3.4%以下の樹脂を得るには、酸化チタンの含有重量濃度を10%以上とすることが好ましい。
【0033】
ところが、樹脂における酸化チタンの含有重量濃度が25%を超えると、機械的特性の低下が生じる。また、樹脂に対する酸化チタンの含有重量濃度が高すぎると成形する際に固まらなくなってしまい製造が困難になる。このため、樹脂に対する酸化チタンの含有重量濃度の上限は25%とすることが好ましい。
また、ポリカーボネイト樹脂は比較的安価であり、収納容器に使用した場合、製造コストを下げることができる。
なお、酸化チタン含有樹脂の板厚は1〜4mm程度が好ましく、前記厚みの範囲では吸収率は板厚には特に依存しないものと考えられる。
【0034】
以上の考察に基づく実験およびその結果から、本実施形態における通信機器収納箱1の少なくとも収納箱本体2は、波長範囲が380nmから1350nmの光に対する吸収率が4.4%以下のものとする。
さらに、少なくとも収納箱本体2は、酸化チタンを含む樹脂で形成され、この酸化チタンの含有重量濃度が5%以上25%以下であるものとすることが好ましい。より好ましくは10%以上25%以下、更には10%以上20%以下であるものとすることが好ましい。
【0035】
(検証試験)
次に、通信機器収納箱1に通信機器6を収納して、屋外に設置した場合の環境を模した検証試験を行った。本検証試験では、蓋体3も収納箱本体2と同じ材質の樹脂(ポリカーボネイト樹脂に酸化チタンを重量濃度で20%含有させたもの)によって形成した板厚3.5mmのものを使用した。収納箱本体2の大きさは、幅500mm、高さ400mm、奥行180mm、有効放熱面積は0.724m
2である。
以下、その試験方法および試験結果について説明する。
図4は、通信機器収納箱1に対する試験方法の検証系を示す模式図であり、(a)は横方向から検証系を見た模式図、(b)は上方向から検証系を見た模式図である。
図5は、
図4の試験方法における温度の測定箇所を示す通信機器収納箱1内部の模式図である。
【0036】
図4に示す検証系は、屋外設置の環境を模したものである。恒温槽21の中に設置された台座22に載せられた支持部23に、通信機器収納箱1が水平面Hおよび垂直面Vに対して傾くように取り付けられている。通信機器収納箱1の取り付け角度は、
図4の(a)に示すように、水平面Hに対してはθ
1=45°であり、かつ、
図4の(b)に示すように、垂直面Vに対してθ
2=45°である。
そして、恒温槽21の外部には、JIS C8912 クラスCに準拠した光源24が設置されている。この光源24は、垂直に設置された支持部25の上下左右に複数のランプ26が並べて取り付けられている。
【0037】
通信機器収納箱1の上端部A(通信機器収納箱1において最も光源24に近い箇所)と光源24との距離Dは1mである。そして、この上端部Aにおける照度が917W/m
2となるように、ランプ26の照度が調整されている。なおこの照度は、過酷な環境を模擬する例として、日本最南端の有人島である波照間島における、ある夏の測定値に合わせている。
通信機器収納箱1内には、
図5に示すように、10Wの熱源11が設置されている。この熱源11は、通信機器収納箱1内に収容した通信機器(例えば、
図2で示した通信機器6等)を模したものである。さらに、通信機器収納箱1内には、
図5に示すように、収納箱本体2の天面,左面,前面(蓋体3の内面近傍の空間)の三箇所に、それぞれ温度センサ12,13,14が設置されている。
【0038】
(試験およびその結果)
恒温槽21内の温度を40℃に保ち、10Wの熱源11に対して通電しながら、通信機器収納箱1に対して、JIS−C−8912クラスCに準拠した光源24から光を照射した。そして、温度センサ12,13,14により、収納箱本体2の天面,左面,前面の三箇所の温度測定を続けた。各箇所の温度は、それぞれ上昇し試験中、次の温度でほぼ安定した。
天面:54.7℃、左面:55.2℃、前面:53.1℃。
したがって、通信機器収納箱1は、その内部温度を使用環境温度範囲の上限である60℃以下に保つことができた。
また、酸化チタンの含有重量濃度が10%のポリカーボネイト樹脂で同様に試験した結果は、
天面:55.7℃、左面:54.3℃、前面:53.4℃
であり、
酸化チタンの含有重量濃度が5%のもので同様に試験した結果は、
天面:58.9℃、左面:58.8℃、前面:57.6℃
となった。
【0039】
収納箱本体2の大きさが、幅400mm、高さ400mm、奥行180mm、有効放熱面積が0.49m
2である前記と同じ材料を用いた他の通信機器収納箱1(酸化チタンの含有重量濃度が20%)にて同様の試験を行った結果、
天面:56.3℃、左面:56.2℃、前面:54.3℃
であった。
収納箱本体2の大きさが、幅300mm、高さ300mm、奥行180mm、有効放熱面積が0.40m
2である前記と同じ材料を用いた他の通信機器収納箱1(酸化チタンの含有重量濃度が20%)にて同様の試験を行った結果、
天面:56.4℃、左面:56.7℃、前面:54.8℃であった。
箱内で内部気体の対流が発生することを考慮すると箱上部が最も高温となることが想定されることから、これらの結果については天面部の温度を代表値として評価する。
また、有効放熱面積が0.40m
2であって酸化チタンの含有重量濃度が5%のものでは天面:61.2℃、酸化チタンの含有重量濃度が10%のものでは、天面:57.7℃、である。
これらの結果をまとめたものを
図6にグラフで示す。
通信機器収納箱1の内部温度は、収納箱本体2の有効放熱面積にも影響され、有効放熱面積が大きいほど内部温度は低くなる。これらの結果から、有効放熱面積0.55m
2より大であれば、波長範囲が380nmから1350nmの光に対する吸収率が4.4%以下、酸化チタンの含有重量濃度が5%以上25%以下であることが好ましい。
更には、有効放熱面積は0.55m
2以下であれば、波長範囲が380nmから1350nmの光に対する吸収率が3.4%以下、酸化チタンの含有重量濃度が10%以上25%以下であることが好ましい。
【0040】
以上詳述したように、本実施形態における通信機器収納箱1によれば、少なくとも収納箱本体2は樹脂製であるので電波を遮蔽することがなく、通信機器6のアンテナを内部に収納することができる。これにより、アンテナを箱の外に出して屋外暴露環境に耐えるだけの機能を付加する必要がなくなる。
【0041】
また、少なくとも収納箱本体2に対して、基準太陽光の照射を受けた時に波長範囲が380nmから1350nmの光から吸収するエネルギー量と、基準太陽光の放射照度の合計エネルギー量との比である吸収率が4.4%以下とすることにより、収納箱本体2に吸収された熱エネルギーによる内部温度の上昇を低く抑えることができる。これにより、通信機器収納箱1は、換気装置や冷却装置等を内蔵せずに、内部温度を通信機器6等の使用環境温度範囲の上限以下に抑えることができる。
【0042】
また、収納箱本体2を酸化チタンの含有重量濃度が5%以上25%以下の樹脂で形成することにより、収納箱本体2において、基準太陽光の照射を受けた時に波長範囲が380nmから1350nmの光から吸収するエネルギー量と、基準太陽光の放射照度の合計エネルギー量との比である吸収率を4.4%以下とすることができる。
【0043】
また、通信機器収納箱1の構造は、前述のように、収納箱本体2内に収容した際に、複数の開口部5aを通して空気の流通が可能な構造であり、かつ、収納箱本体2の奥側の内壁2dと収納板5との間に隙間がある構造となっている。
これにより、通信機器収納箱1の外部からの直接的な熱伝導から、通信機器6を隔離できる。また、通信機器6の通電による発熱があっても、複数の開口部5aを通して、収納板5の表裏と収納箱本体2との間に生じる空間に対して放熱することができる。