特許第6354211号(P6354211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354211-動力伝達装置 図000002
  • 特許6354211-動力伝達装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354211
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/023 20120101AFI20180702BHJP
【FI】
   F16H57/023
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-40744(P2014-40744)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166606(P2015-166606A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】野村 啓太
(72)【発明者】
【氏名】繁田 良平
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 義直
(72)【発明者】
【氏名】久保 亮一
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−203999(JP,A)
【文献】 実開平05−008120(JP,U)
【文献】 実開昭62−045464(JP,U)
【文献】 特開平10−259860(JP,A)
【文献】 特開昭59−164454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の動力を伝達する伝達機構と、
前記伝達機構を収容するハウジングとを備えた動力伝達装置において、
前記伝達機構は、前記ハウジング内に平行に並置された複数の回転軸、及び前記各回転軸間で回転を伝達する伝達部材を有し、
前記ハウジングは、少なくとも第1分割ハウジング及び該第1分割ハウジングに組み付けられる第2分割ハウジングと含む複数の分割ハウジングを前記各回転軸の軸方向に組み付けることにより構成され、
前記各分割ハウジングには、複数の支持穴が形成され、
前記各支持穴には、該各支持穴内の予め決められた固定位置にて前記軸方向の位置が規定された軸受が設けられ、
前記各回転軸は、前記軸受を介して前記各分割ハウジングに回転可能に支持されるものであり、
少なくとも前記第2分割ハウジングは、前記各支持穴における挿入された前記軸受の径方向への移動が規制される開口位置から前記固定位置までの距離がそれぞれ異なるように形成され
前記第2分割ハウジングには、前記各支持穴の少なくとも1つの内面に開口し、該支持穴の内外を連通する通路が設けられ、
前記通路は、前記第2分割ハウジングを組み付ける際に、該通路が設けられた前記支持穴内の空気が外部に放出されるように形成されたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置において、
前記第2分割ハウジングは、該第2分割ハウジングの重心に最も近接した前記支持穴での前記距離が最も長くなるように形成されたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の動力伝達装置において、
前記通路は、少なくとも前記距離が最も長い支持穴に設けられたことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ等の駆動源の動力を伝達する動力伝達装置として、複数の歯車や、ベルト及びプーリ等の伝達機構を用いるものが広く知られている。こうした動力伝達装置では、複数の回転軸がハウジング内に平行に配置されており、各回転軸に歯車やプーリ等の伝達部材が一体に回転して伝達可能に連結されている。
【0003】
ところで、動力伝達装置のハウジングには、複数の分割ハウジングを回転軸の軸方向に組み付けることにより構成されるものがある(例えば、特許文献1)。このようなハウジング内において、回転軸は、各分割ハウジングの支持穴に設けられた軸受を介して該各分割ハウジングに回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−75155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような動力伝達装置を組み立てる際には、一の分割ハウジングの各支持穴に対して、各回転軸を軸受とともに組み付けた後に、他の分割ハウジングを組み付けることが考えられる。しかし、この場合、作業者は他の分割ハウジングの各支持穴と各回転軸との軸心を合わせつつ、他の分割ハウジングを平行に移動させることにより、該他の分割ハウジングを組み付けなければならず、その作業が煩雑なものとなり易いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、組み立ての容易な動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する動力伝達装置は、駆動源の動力を伝達する伝達機構と、前記伝達機構を収容するハウジングとを備えたものにおいて、前記伝達機構は、前記ハウジング内に平行に並置された複数の回転軸、及び前記各回転軸間で回転を伝達する伝達部材を有し、前記ハウジングは、少なくとも第1分割ハウジング及び該第1分割ハウジングに組み付けられる第2分割ハウジングと含む複数の分割ハウジングを前記各回転軸の軸方向に組み付けることにより構成され、前記各分割ハウジングには、複数の支持穴が形成され、前記各支持穴には、該各支持穴内の予め決められた固定位置にて前記軸方向の位置が規定された軸受が設けられ、前記各回転軸は、前記軸受を介して前記各分割ハウジングに回転可能に支持されるものであり、少なくとも前記第2分割ハウジングは、前記各支持穴における挿入された前記軸受の径方向への移動が規制される開口位置から前記固定位置までの距離がそれぞれ異なるように形成されたことを要旨とする。
【0008】
ここで、第2分割ハウジングを平行に移動させることにより、第1分割ハウジングに組み付けられた各回転軸を軸受とともに該第2分割ハウジングの支持穴に組み付ける場合、各軸受は対応する支持穴の固定位置に略同時に到達することになる。そのため、上記構成のように各支持穴の開口位置から軸受の固定位置までの距離をそれぞれ異ならせると、各軸受が対応する支持穴に対して同時には嵌合し始めず、前記距離に応じて順番に嵌合し始める。これにより、第2分割ハウジングの支持穴と回転軸との軸心を1つずつ合わせながら、第2分割ハウジングを組み付けることができる。
【0009】
上記動力伝達装置において、前記第2分割ハウジングは、該第2分割ハウジングの重心に最も近接した前記支持穴での前記距離が最も長くなるように形成されることが好ましい。
【0010】
上記構成では、第2分割ハウジングの重心に最も近い支持穴での前記距離が最も長いため、該第2分割ハウジングを組み付ける途中で、重心に最も近い支持穴にのみ回転軸及び軸受が組み付けられた状態となる。したがって、第2分割ハウジングを組み付ける途中で、重心から離れた支持穴にのみ回転軸及び軸受が組み付けられた状態となる場合に比べ、容易に平行に移動させることができる。
【0011】
上記動力伝達装置において、前記第2分割ハウジングには、前記各支持穴の少なくとも1つの内面に開口し、該支持穴の内外を連通する通路が設けられることが好ましい。
上記構成によれば、第2分割ハウジングを組み付ける際に、通路が設けられた支持穴から通路を介して空気が外部に放出されるため、該支持穴内の圧力が高くなることを抑制できる。これにより、第2分割ハウジングをより容易に組み付けることができる。
【0012】
上記動力伝達装置において、前記通路は、少なくとも前記距離が最も長い支持穴に設けられることが好ましい。
上記構成によれば、開口位置から前記固定位置までの距離が最も長い支持穴では、第2分割ハウジングを組み付ける際に支持穴内の圧力が高くなり易いため、該支持穴に通路を設けることの効果は大である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動力伝達装置を容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】動力伝達装置の断面図。
図2】(a)〜(c)は動力伝達装置の組み立ての様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、動力伝達装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1は、伝達機構2と、伝達機構2を収容するハウジング3とを備えており、車両に搭載されたモータ4の動力(回転)を伝達機構2で減速して左右の車輪5L,5Rに伝達するものである。
【0016】
伝達機構2は、互いに平行に配置された回転軸としての入力軸11と、回転軸としての中間軸12と、第1出力軸13と、第2出力軸14とを備えている。また、伝達機構2は、入力軸11と一体回転可能に連結された入力歯車15と、中間軸12と一体回転可能に連結された第1及び第2中間歯車16,17と、第1及び第2出力軸13,14の相対回転を許容しつつこれら第1及び第2出力軸13,14に中間軸12の回転を伝達するディファレンシャル18とを備えている。ハウジング3は、入力軸11及び中間軸12の軸方向一端側(図1中、左側)から組み付けられた第1分割ハウジング21と、入力軸11及び中間軸12の軸方向他端側(図1中、右側)から組み付けられた第2分割ハウジング22とを備えている。なお、第1分割ハウジング21と第2分割ハウジング22とは、ボルト23によって互いに締結されている。また、第2分割ハウジング22は、第1分割ハウジング21よりも軽量となるように構成されている。
【0017】
先ず、伝達機構の構成について詳細に説明する。
入力軸11は、丸棒状に形成されている。入力軸11には、その本体部11aから軸方向両端側に突出した嵌合部11b,11cが形成されている。嵌合部11b,11cの外径は、それぞれ本体部11aの外径よりも小さく設定されている。また、入力軸11には、嵌合部11cからさらに軸方向に突出し、モータ4に連結される連結部11dが形成されている。入力歯車15は、本体部11aにおける嵌合部11b寄りの位置に一体回転可能に連結されている。
【0018】
中間軸12は、丸棒状に形成されている。中間軸12には、その本体部12aから軸方向両端側に突出した嵌合部12b,12cが形成されている。嵌合部12b,12cの外径は、それぞれ本体部12aの外径よりも小さく設定されている。第1中間歯車16は、中間軸12における嵌合部12b寄りの位置に一体回転可能に連結されており、入力歯車15と噛合している。第2中間歯車17は、中間軸12における嵌合部12c寄りの位置に一体回転可能に連結されている。
【0019】
第1及び第2出力軸13,14は、それぞれ丸棒状に形成されている。ディファレンシャル18には、ベベルギヤ式のディファレンシャルが用いられている。ディファレンシャル18は、キャリヤ31と、キャリヤ31と一体回転可能に連結されたリングギヤ32と、キャリヤ31内で該キャリヤ31の軸線と直交する軸線周りに回転可能な一対のピニオンギヤ33,34と、各ピニオンギヤ33,34と噛合する一対のサイドギヤ35,36とを備えている。キャリヤ31は、円筒状の収容筒部31aと、収容筒部31aから軸方向一端側に突出した回転軸としての中空軸状の第1支持筒部31bと、収容筒部31aから軸方向他端側に突出した回転軸としての中空軸状の第2支持筒部31cとを有している。なお、第1支持筒部31bと第2支持筒部31cとは、互いに同軸上に形成されている。リングギヤ32は、収容筒部31aの外周に一体回転可能に嵌合されて第2中間歯車17と噛合している。また、サイドギヤ35には、第1支持筒部31b内に回転可能に挿通された第1出力軸13の軸端部がセレーション嵌合されることにより、該第1出力軸13と一体回転可能に連結されている。サイドギヤ36には、第2支持筒部31c内に回転可能に挿通された第2出力軸14の軸端部がセレーション嵌合されることにより、該第2出力軸14が一体回転可能に連結されている。
【0020】
次に、ハウジングの構成について詳細に説明する。
第1分割ハウジング21は、軸方向他端側(第2分割ハウジング22側)が開口した直方体の箱状に形成されている。第1分割ハウジング21の底面における長手方向一端部(図1中、上端部)には丸穴状の入力軸用支持穴41が形成され、長手方向中央部には丸穴状の中間軸用支持穴42が形成され、長手方向他端部(図1中、下端部)には丸穴状の第1キャリヤ用支持穴43が形成されている。第1キャリヤ用支持穴43の底面には、第1出力軸13の軸方向に貫通した貫通孔44が形成されている。
【0021】
入力軸用支持穴41の内周には、ボールベアリング等の軸受45が設けられており、軸受45の内輪には、入力軸11の軸方向一端側の嵌合部11bが圧入されている。中間軸用支持穴42の内周には、軸受46が嵌合されており、軸受46の内輪には、中間軸12の軸方向一端側の嵌合部12bが圧入されている。第1キャリヤ用支持穴43の内周には、軸受47が嵌合されており、軸受47の内輪には、キャリヤ31の第1支持筒部31bが圧入されている。これにより、入力軸11、中間軸12及び第1支持筒部31b(キャリヤ31)は、それぞれ第1分割ハウジング21に回転可能に支持されている。なお、第1出力軸13は、貫通孔44を介してハウジング3の外部に突出しており、車輪5Lに連結されるようになっている。
【0022】
第2分割ハウジング22は、長方形板状に形成されている。第2分割ハウジング22の第1分割ハウジング21との対向面には、丸穴状の入力軸用支持穴51が第1分割ハウジング21の入力軸用支持穴41と軸方向において対向する位置に形成されている。つまり、入力軸用支持穴51は、第2分割ハウジング22の長手方向一端部に形成されている。また、入力軸用支持穴51は、第2分割ハウジング22の短手方向中央部に形成されている。入力軸用支持穴51の内径は、その軸方向の全体に亘って略一定に形成されている。そして、入力軸用支持穴51の底面には、入力軸11の軸方向に貫通した貫通孔52が形成されている。
【0023】
第2分割ハウジング22の対向面における入力軸用支持穴51よりも長手方向他端側の領域には、長手方向に延びた浅溝53が形成されている。浅溝53の底面における長手方向一端部には、丸穴状の中間軸用支持穴54が第1分割ハウジング21の中間軸用支持穴42と軸方向において対向する位置に形成されている。つまり、中間軸用支持穴54は、第2分割ハウジング22の長手方向中央部に形成されている。また、中間軸用支持穴54は、第2分割ハウジング22の短手方向中央部に形成されている。そして、中間軸用支持穴54の深さ(軸方向に沿った長さ、図1における「L2」)は、入力軸用支持穴51の深さ(図1における「L1」)よりも深く設定されている。中間軸用支持穴54の内径は、その軸方向の全体に亘って略一定に形成されている。また、浅溝53の底面には、長手方向に延びた深溝55が形成されている。なお、本実施形態では、中間軸用支持穴54が設けられた領域と深溝55が設けられた領域とが一部重複しており、深溝55の長手方向一端部は、中間軸用支持穴54内に開口している。
【0024】
深溝55の底面には、軸方向他端側(第1分割ハウジング21と反対側)に突出する有底円筒状の膨出部56が形成されている。膨出部56の底面には、第2キャリヤ用支持穴57が第1分割ハウジング21の第1キャリヤ用支持穴43と軸方向において対向する位置に形成されている。つまり、第2キャリヤ用支持穴57は、第2分割ハウジング22の長手方向他端部に形成されている。また、第2キャリヤ用支持穴57は、第2分割ハウジング22の短手方向中央部に形成されている。そして、第2キャリヤ用支持穴57の深さ(図1における「L3」)は、入力軸用支持穴51の深さ(図1における「L1」)よりも浅く設定されている。第2キャリヤ用支持穴57の内径は、その軸方向の全体に亘って略一定に形成されている。また、第2キャリヤ用支持穴57の底面には、軸方向に貫通した貫通孔58が形成されている。さらに、膨出部56の内周面には、長手方向に延び、中間軸用支持穴54の内面としての内周面における底面寄りの位置に開口する管状の通路59が形成されている。
【0025】
このように入力軸用支持穴51、中間軸用支持穴54及び第2キャリヤ用支持穴57は、それぞれ第2分割ハウジングの短手方向中央部に位置されており、中間軸用支持穴54が第2分割ハウジング22の長手方向中央部に位置している。したがって、本実施形態では、中間軸用支持穴54が第2分割ハウジング22の重心に最も近接している。
【0026】
入力軸用支持穴51の内周には、ボールベアリング等の軸受61が嵌合されており、軸受61の内輪には、入力軸11の軸方向他端側の嵌合部11cが圧入されている。なお、軸受61の外径は、入力軸用支持穴51の内径と略等しく設定されており、軸受61は、入力軸用支持穴51の開口に挿入されると径方向への移動が規制されるようになる。中間軸用支持穴54の内周には、軸受62が嵌合されており、軸受62の内輪には、中間軸12の軸方向他端側の嵌合部12cが圧入されている。なお、軸受62の外径は、中間軸用支持穴54の内径と略等しく設定されており、軸受62は、中間軸用支持穴54の開口に挿入されると径方向への移動が規制されるようになる。第2キャリヤ用支持穴57の内周には、軸受63が嵌合されており、軸受63の内輪には、キャリヤ31の第2支持筒部31cが圧入されている。なお、軸受63の外径は、第2キャリヤ用支持穴57の内径と略等しく設定されており、軸受63は、第2キャリヤ用支持穴57の開口に挿入されると径方向への移動が規制されるようになる。これにより、入力軸11、中間軸12及び第2支持筒部31c(キャリヤ31)は、それぞれ第2分割ハウジング22に回転可能に支持されている。なお、第2出力軸14は、貫通孔58を介してハウジング3の外部に突出しており、車輪5Rに連結されるようになっている。
【0027】
ここで、軸受61は、その内輪が入力軸11の本体部11aと嵌合部11cとの間の段差面に当接するとともに、その外輪が入力軸用支持穴51の底面に当接した状態で、該支持穴51内に固定されている。つまり、軸受61が固定される入力軸用支持穴51内での予め決められた固定位置は、外輪の軸方向位置を規定している入力軸用支持穴51の底面となる。また、軸受62は、その内輪が中間軸12の本体部12aと嵌合部12cとの間の段差面に当接するとともに、その外輪が中間軸用支持穴54の底面に当接した状態で、該支持穴54内に固定されている。つまり、軸受62が固定される中間軸用支持穴54内での予め決められた固定位置は、外輪の軸方向位置を規定している中間軸用支持穴54の底面となる。また、軸受63は、その内輪が第2支持筒部31cに設けられた段差面に当接するとともに、その外輪が第2キャリヤ用支持穴57の底面に当接した状態で、該支持穴57内に固定されている。つまり、軸受63が固定される第2キャリヤ用支持穴57内での予め決められた固定位置は、外輪の軸方向位置を規定している第2キャリヤ用支持穴57の底面となる。
【0028】
そして、上記のように第2キャリヤ用支持穴57、入力軸用支持穴51、中間軸用支持穴54は、この順に深くなるように設定されていることから、各支持穴51,54,57における挿入された軸受61〜63の径方向への移動が規制される開口位置から軸受61〜63の固定位置までの距離L1〜L3は、距離L3、距離L1、距離L2の順で長くなっている。すなわち、第2分割ハウジング22の重心に最も近接して配置された中間軸用支持穴54での距離L2が最も長くなっている。
【0029】
次に、動力伝達装置の組み立てについて説明する。
先ず、軸受45,61が圧入された入力軸11、軸受46,62が圧入された中間軸12、及び軸受47が第1支持筒部31bに圧入されたキャリヤ31を第1分割ハウジング21の入力軸用支持穴41、中間軸用支持穴42及び第1キャリヤ用支持穴43にそれぞれ挿入する。そして、入力軸11、中間軸12、キャリヤ31の第1及び第2支持筒部31b,31cが鉛直方向(重力方向)に略沿う直立姿勢とした状態で、鉛直方向上側から第2分割ハウジング22を鉛直方向に沿って平行に移動させることにより組み付ける。
【0030】
ここで、入力軸11、中間軸12、キャリヤ31の第1及び第2支持筒部31b,31cは、ハウジング3内に平行に並置されるものであり、軸受61〜63の固定位置は予め決められているため、第2分割ハウジング22を鉛直方向上側から平行に移動させることにより、第1分割ハウジング21に直立姿勢で組み付けられた入力軸11、中間軸12、キャリヤ31の第1及び第2支持筒部31b,31cを軸受61〜63とともに各支持穴51,54,57に組み付ける場合、各軸受61〜63は固定位置に略同時に到達することになる。そのため、図2(a)〜(c)に示すように、本実施形態のように距離L1〜L3がそれぞれ異なると、軸受61〜63が各支持穴51,54,57に対して同時には嵌合し始めず、距離L1〜L3に応じて順番に嵌合し始める。なお、図2(a)は中間軸用支持穴54に中間軸12に圧入された軸受62が嵌合し始める状態、図2(b)は入力軸用支持穴51に入力軸11に圧入された軸受61が嵌合し始める状態、図2(c)は第2キャリヤ用支持穴57に第2出力軸14に圧入された軸受63が嵌合し始める状態をそれぞれ示す。
【0031】
すなわち、第2分割ハウジング22の組み付け過程においては、図2(a)に示すように、中間軸用支持穴54での距離L2が最も長いことから、最初に中間軸用支持穴54に中間軸12に圧入された軸受62が嵌合し始める。続いて、図2(b)に示すように、入力軸用支持穴51での距離L1が距離L2に次いで長いことから、入力軸用支持穴51に入力軸11に圧入された軸受61が嵌合し始める。そして、図2(c)に示すように、第2キャリヤ用支持穴57にキャリヤ31の第2支持筒部31cに圧入された軸受63が嵌合し始める。その後、各軸受61〜63が固定位置に位置するまで第2分割ハウジング22を移動させ、ボルト23によって第1分割ハウジング21に締結することで、動力伝達装置1が組み立てられる。
【0032】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)各支持穴51,54,57の開口位置から軸受61〜63の固定位置までの距離L1〜L3がそれぞれ異なるように第2分割ハウジング22を形成したため、各支持穴51,54,57と入力軸11、中間軸12及びキャリヤ31の第2支持筒部31cとの軸心を1つずつ合わせながら第2分割ハウジング22を組み付けることができる。
【0033】
(2)第2分割ハウジング22の重心に最も近い中間軸用支持穴54での距離L2を最も長くしたため、第2分割ハウジング22を鉛直方向上側から組み付ける途中で、該中間軸用支持穴54にのみ中間軸12及び軸受62が組み付けられた状態となる。したがって、第2分割ハウジング22を組み付ける途中で、例えば入力軸用支持穴51にのみ入力軸11及び軸受61が組み付けられた状態となる場合に比べ、該第2分割ハウジング22が傾き難く、容易に平行に移動させることができる。これにより、動力伝達装置1を容易に組み立てることができる。
【0034】
(3)第2分割ハウジング22に、中間軸用支持穴54の内周面に開口し、その内外を連通する通路59を形成したため、第2分割ハウジング22を組み付ける際に、中間軸用支持穴54から通路59を介して空気が外部に放出される。これにより、中間軸用支持穴54内の圧力が高くなることを抑制でき、第2分割ハウジング22をより容易に組み付けることができる。
【0035】
(4)中間軸用支持穴54は、その開口位置から固定位置までの距離L2が最も長いことから、第2分割ハウジング22を組み付ける際に該支持穴54内の圧力が高くなり易いため、該支持穴54に通路59を設けることの効果は大である。
【0036】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、第1分割ハウジング21に対して、第2分割ハウジング22を鉛直方向上側から組み付けたが、これに限らず、例えば水平方向から組み付けてもよい。
【0037】
・上記実施形態では、通路59を長手方向に延びる管状に形成したが、これに限らず、例えば中間軸用支持穴54の内周面に開口し、軸方向に延びる溝状に形成してもよい。また、中間軸用支持穴54に限らず、例えば入力軸用支持穴51に通路を形成してもよい。さらに、例えば通路59が中間軸用支持穴54の内面としての底面に開口してもよい。なお、第2分割ハウジング22に通路を形成しなくてもよい。
【0038】
・上記実施形態において、例えば中間軸12に対し、本体部12aの外周面及び嵌合部12cの軸端面に開口する通路を形成してもよい。このように構成しても、上記実施形態の(2)に準じた作用効果を奏することができる。
【0039】
・上記実施形態では、軸受61〜63が固定された状態の入力軸11、中間軸12及びキャリヤ31の第2支持筒部31cに対し、第2分割ハウジング22を組み付けた。しかし、これに限らず、軸受61〜63が固定される前の入力軸11、中間軸12及びキャリヤ31の第2支持筒部31cに対し、各支持穴51,54,57内の固定位置に軸受61〜63を固定した状態の第2分割ハウジング22を組み付けてもよい。この場合でも、上記実施形態と同様に容易に動力伝達装置1を組み立てることができる。
【0040】
・上記実施形態では、入力軸用支持穴51、中間軸用支持穴54及び第2キャリヤ用支持穴57の開口位置から軸受61〜63の固定位置までの距離L1〜L3が、距離L3、距離L1、距離L2の順で長くなるようにした。しかし、これに限らず、距離L1〜L3がそれぞれ異なっていればよく、例えば距離L3、距離L2、距離L1の順で長くなるようにしてもよい。
【0041】
・上記実施形態では、複数の歯車を用いて伝達機構2を構成したが、これに限らず、例えばプーリ及びベルト用いて構成してもよい。
・上記実施形態において、伝達機構2が、例えば2本だけ回転軸を有する構成としてもよく、その数は適宜変更可能である。また、ハウジング3が、例えば軸方向に組み付けられる3つの分割ハウジングを有する構成としてもよく、その数は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…動力伝達装置、2…伝達機構、3…ハウジング、11…入力軸(回転軸)、12…中間軸(回転軸)、13…第1出力軸、14…第2出力軸、15…入力歯車(伝達部材)、16…第1中間歯車(伝達部材)、17…第2中間歯車(伝達部材)、18…ディファレンシャル(伝達部材)、21…第1分割ハウジング、22…第2分割ハウジング、31…キャリヤ、31b…第1支持筒部(回転軸)、31c…第2支持筒部(回転軸)、41,51…入力軸用支持穴、42,54…中間軸用支持穴、43…第1キャリヤ用支持穴、57…第2キャリヤ用支持穴、45〜47,61〜63…軸受、59…通路、L1〜L3…距離。
図1
図2