特許第6354219号(P6354219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6354219-細胞培養装置 図000002
  • 特許6354219-細胞培養装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354219
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20180702BHJP
   C12M 1/08 20060101ALI20180702BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   C12M1/00 D
   C12M1/08
   !C12M3/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-47247(P2014-47247)
(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2015-167550(P2015-167550A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】福永 栄
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩介
【審査官】 小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0187546(US,A1)
【文献】 特表2009−533042(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/192221(WO,A1)
【文献】 Janssen, F. W. et al.,A perfusion bioreactor system capable of producing clinically relevant volumes of tissue-engineered bone: In vivo bone formation showing proof of concept,Biomaterials,2006年,Vol. 27,pp. 315-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を潅流培養する細胞培養装置であって、
培養液が連続供給可能な培養槽と、
前記培養槽内に設けられた細胞培養用の足場とを備え、
前記足場は、
内部を通路が貫通した複数の中空管体と、
前記培養槽における培養液の流れ方向に前記通路の貫通方向を沿わせ、かつ、該貫通方向と直交する方向に並列に並べて、前記複数の中空管体を支持する支持体とを有し、
前記支持体は、前記培養槽に出し入れ可能に設置されて前記流れ方向と直交する方向に展開される網体を含んでおり、該網体の前記流れ方向に貫通する複数の網目に前記中空管体がそれぞれ挿通されている、
ことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記支持体は、前記貫通方向と直交する方向において隣り合う2つの前記中空管体同士を接着する接着剤を含んでいることを特徴とする請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記流れ方向は前記培養槽の下部から上部に向かう方向であり、前記支持体で支持された前記複数の中空管体は、前記貫通方向を前記培養槽の上下方向に沿わせて該培養槽に設置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液が連続供給される培養槽内の足場の表面において細胞を潅流培養する細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬や再生医療の分野等においては、動物細胞の大量培養に対するニーズが高まっている。多くの動物細胞は固体表面に付着する性質が強いため、シャーレ内の足場を付着面とした培養が一般的に行われている。しかし、大量培養のためにシャーレを大型化することは難しく、一般的な動物細胞の培養方法では大量培養が期待できない。
【0003】
そこで、液体培養により動物細胞を大量培養することが志向されている。液体培養により動物細胞を培養する方法としては、例えば、懸濁培養、(微小)担体培養、潅流培養等がある。
【0004】
このうち、懸濁培養は、動物細胞の固体表面に付着しやすい性質を培養液に添加した薬品によって失わせ、培養液中で動物細胞が懸濁状態となるようにするものである(例えば、非特許文献1)。また、(微小)担体培養は、細胞を付着させた微小な担体ごと培養液中で流動させるものである(例えば、非特許文献2)。さらに、潅流培養は、固定した足場の表面に付着させた動物細胞に培養液を潅流させるものである(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Olmer、R. et al. (2010) Long term expansion of undifferentiated human iPS and ES cells in suspention culture using a defined medium. Stem Cell Research, Vol.5, p.51-64.
【非特許文献2】Phillips, B.W., Horne, R., Lay, T.S., Rust, W.L., Teck, T.T., Crook, J.M. (2008) Attachment and growth of human embryonic stem cells on microcarriers. Journal of Biotechnology, Vol.138, p.24-32.
【非特許文献3】Janssen, F.W., Oostra, J., van Ooschot, A, and van Blitterswijk, C.A. (2006) A perfusion bioreactor system capable of producing clinically relevant volumes of tissue-engineered bone: In vivo bone formation showing proof of concept. Biomaterials, Vol.27, p.315-323.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、懸濁培養は、培養液の組成や培養液に添加する薬品の選定について高度な技術が必要であるため実施が容易でない。また、担体培養は、担体が培養液中で沈降しないように培養液を攪拌することで、せん断力に弱い動物細胞に強いせん断力が加わるので、これを解消するための工夫が必要となり、やはり実施が容易でない。これに対し、潅流培養は、培養液に対する薬品添加や攪拌を必要としないので、懸濁培養や担体培養に比べると、実施に際しての技術的障害は低いと言える。
【0007】
ここで、動物細胞を潅流培養によって培養する際には、懸濁液を潅流させる環境において足場を固定状態に保つ必要があり、そのためには、懸濁液の潅流に耐え得る強度を足場に持たせる必要がある。また、動物細胞の大量培養を図るには足場の比表面積を大きくすることが重要である。その上、培養槽から培養した動物細胞を回収する作業も、容易である必要がある。
【0008】
このように、実施に際しての技術的障害が低い潅流培養においても、実際には、足場の強度維持と、培養槽の容積に対する動物細胞が繁殖できる足場の表面積の割合(比表面積)の増加とは、両立することが難しい。このため、潅流培養で動物細胞を大量培養することは容易でなかった。また、動物細胞以外の細胞を培養する場合にも同様に、潅流培養により細胞を大量培養するのは容易でなかった。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、潅流培養方式により細胞を大量培養し、培養した細胞を短時間で回収することができる細胞培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1に記載した本発明の細胞培養装置は、
細胞を潅流培養する細胞培養装置であって、
培養液が連続供給可能な培養槽と、
前記培養槽内に設けられた細胞培養用の足場とを備え、
前記足場は、
内部を通路が貫通した複数の中空管体と、
前記培養槽における培養液の流れ方向に前記通路の貫通方向を沿わせ、かつ、該貫通方向と直交する方向に並列に並べて、前記複数の中空管体を支持する支持体と、
を有している、
ことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載した本発明の細胞培養装置によれば、支持体で支持された各中空管体の通路の貫通方向が、培養槽に連続供給される培養液の流れ方向に沿っているので、中空管体内部の通路を通って培養液が培養槽内を流れる。このため、各中空管体の内周面を細胞の足場として機能させて、足場の表面積を効率よく増やすことができる。また、足場に用いる中空管体が管状構造であるため、足場の強度を高く維持することができる。したがって、足場の強度維持と足場の比表面積の増加とを両立させることができる。
【0012】
また、培養液の流速を上げることで、中空管体に付着して培養された細胞を剥離させることができる。あるいは、支持体と共に中空管体を培養槽から一体に抜き出して、中空管体を培養槽の外に出すことができる。このため、培養槽から細胞を短時間で回収することができる。
【0013】
よって、足場の比表面積を高めて潅流培養方式により細胞を大量培養することができ、かつ、培養した細胞を短時間で回収することができる。
【0014】
また、請求項2に記載した本発明の細胞培養装置は、請求項1に記載した本発明の細胞培養装置において、前記支持体は、前記貫通方向と直交する方向において隣り合う2つの前記中空管体同士を接着する接着剤を含んでいることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載した本発明の細胞培養装置によれば、請求項1に記載した本発明の細胞培養装置において、隣り合う中空管体同士を接着剤によって接着することで、複数の中空管体を一体として培養槽から抜き出せる構造を実現することができる。
【0016】
さらに、請求項1に記載した本発明の細胞培養装置は、前記支持体、前記培養槽に出し入れ可能に設置されて前記流れ方向と直交する方向に展開される網体を含んでおり、該網体の前記流れ方向に貫通する複数の網目に前記中空管体がそれぞれ挿通されていることを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載した本発明の細胞培養装置によれば、網体の網目によって中空管体同士の間隔が確保されるので、各網目に中空管体をそれぞれ挿通することで、中空管体の外周面も細胞の足場として機能させることができる。これにより、足場の比表面積をさらに増加させることができる。
【0018】
しかも、網目に中空管体を挿通した網体をかご状とすることで、網体と共に複数の中空管体を培養槽から一体に抜き出して、中空管体を培養槽の外に出すことができる。このため、培養槽から細胞を短時間で回収することができる。
【0019】
また、請求項3に記載した本発明の細胞培養装置は、請求項1又は2に記載した本発明の細胞培養装置において、前記流れ方向は前記培養槽の下部から上部に向かう方向であり、前記支持体で支持された前記複数の中空管体は、前記貫通方向を前記培養槽の上下方向に沿わせて該培養槽に設置されていることを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載した本発明の細胞培養装置によれば、請求項1又は2に記載した本発明の細胞培養装置において、細胞の培養中に発生したガスの気泡を中空管体同士の間や中空管体の内部の培養液中で浮上させて、培養槽内に滞留させず培養槽の上部から外部に排出させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、潅流培養方式により細胞を大量培養し、培養した細胞を短時間で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明の参考例に係る細胞培養装置の概略構成を示す正断面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の概略構成を示す正断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照して本発明の参考例に係る細胞培養装置について説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の参考例に係る細胞培養装置の概略構成を示す正断面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本参考例の細胞培養装置1は、培養液20が連続供給される円筒形状の培養槽10の内部に、複数の中空管体30,30,…を水平方向に並べて収容して構成されている。
【0026】
前記培養槽10の下端には、培養槽10内に培養液20を導入する流入口11が漏斗状の中継管13を介して接続されている。また、培養槽10の上端には、開口15を塞ぐ蓋体17が着脱可能に取り付けられている。さらに、培養槽10の上端付近の側壁には、培養槽10内の培養液20をオーバーフローさせて槽外に排出する流出口19が、蓋体17と干渉しないように接続されている。
【0027】
また、培養槽10と中継管13との境界部分には網体40が配置されている。網体40は、中空管体30の外形よりも小さい目開きの網目41を有している。流入口11から導入された培養液20は、網体40の網目41を通過して培養槽10に導入される。
【0028】
培養液20は、動物細胞や植物細胞、酸素を必要とする好気性微生物細胞(以下、「細胞」と総称する。)の液体培地とするものである。そして、流入口11から培養液20の導入を継続し、流出口19からオーバーフローした培養液20を回収することで、培養槽10内の培養液20を入れ替えることができる。また、流入口11から培養液20を槽外に排出することで、培養槽10から培養液20を回収することができる。
【0029】
各中空管体30は、内部を通路31が貫通した中空の円筒状を呈しており、その貫通方向を、流入口11から流出口19へと向かう培養槽10内の培養液20の流れ方向(上下方向)に沿わせて培養槽10内に収容されている。各中空管体30の下端は網体40によって支持されている。
【0030】
図1(b)に示すように、各中空管体30は、水平方向において例えば格子状に並べて配置されている。そして、隣り合う2つの中空管体30,30の間は接着剤50によって接着されている。したがって、本実施形態では、接着剤50が請求項中の支持体に相当している。
【0031】
中空管体30としては、例えば、市販のプラスチックストローを用いることができる。また、細胞が付着しやすいように、中空管体30の外周面33や内周面35に梨地等の凹凸加工を施してもよい。
【0032】
接着剤50としては、例えば、動物や魚類の皮や骨から抽出したコラーゲンやゼラチン等を母体とする膠(にかわ)や、血液中の凝固成分であるフィブリノゲンを母体とするフィブリングルー(フィブリン糊)等、生体親和性に優れたものを用いることが望ましい。
【0033】
また、接着成分としてのコラーゲン等の高分子を、クエン酸を活性化した硬化成分により架橋して接着強度を高めたものを、接着剤50として用いてもよい。クエン酸は生体のエネルギー代謝におけるクエン酸回路の反応系の一つであるため、架橋剤として用いても生体親和性の面で何ら問題はない。
【0034】
なお、培養槽10の内周壁とこれに対向する中空管体30との間は、図1(b)に示すように接着剤50で接着してもよく、接着剤50により接着せず単に中空管体30の外周面を培養槽10の内周壁に当接させてもよい。中空管体30を培養槽10の内周壁に接着すれば、培養槽10内で各中空管体30,30を強固に固定することができる。一方、中空管体30を培養槽10の内周壁に接着せず当接させるようにすれば、水平方向に並べた複数の中空管体30,30,…をまとめて培養槽10に対し出し入れすることができる。
【0035】
このように構成された本参考例の細胞培養装置1では、流入口11から培養槽10に培養液20が連続供給され、中空管体30同士の間や各中空管体30の内部を通って培養液20が、培養槽10内を下方から上方に向けて流れる。図1(a)中の符号Xは、培養槽10内における培養液20の流れ方向を示す。培養槽10内のオーバーフローした培養液20は、流出口19から培養槽10の外に排出される。
【0036】
以上に説明した培養槽10(蓋体17を含む)は、例えば、通常の蒸気滅菌条件である121℃、2気圧で変質しないガラス、金属、シリコンゴム等で構成するのが望ましい。あるいは、蒸気滅菌以外の滅菌手段を用いる場合は、滅菌手段であるガンマ線、電子線、過酢酸、オゾン等の照射で変質しない材料で構成するのが好ましい。なお、培養槽10の要部を透明材料で構成すれば、槽内の様子を槽外から確認できるのでさらに好ましい。
【0037】
また、網体40は培養槽10内の培養液20中に静置することから、培養液20中で浮力を上回る重力が作用する比重(重量)の材料で構成するのが好ましい。中空管体30を培養槽10の内周壁に接着せず当接させる場合は、隣り合う中空管体30,30同士を接着した複数の中空管体30,30,…と接着剤50との全体が、培養液20中で浮力を上回る重力が作用する比重(重量)となるようにするのが好ましい。
【0038】
上述した構成の細胞培養装置1で細胞培養を行う場合は、無菌環境下において、接着剤50で接着された複数の中空管体30,30,…や網体40を開口15から培養槽10に収容し、蓋体17で開口15を閉じた培養槽10に流入口11から培養液20を導入する。そして、培養槽10に培養液20が充填されたら、蓋体17を外して開口15から、あるいは、流入口11から培養槽10に連続供給される培養液20と共に、培養槽10に培養する細胞を接種する。
【0039】
以後、流入口11から培養槽10に培養液20を連続供給し、オーバーフローした培養液20を流出口19から回収する状態を継続する。回収した培養液20は流入口11から再び培養槽10に導入してもよい。これにより、培養液20の通り道である中空管体30の内周面35が細胞の足場として機能し、接種した細胞が内周面35に付着して培養される。
【0040】
培養された細胞は、流入口11から流出口19に向かう培養槽10内の培養液20の流速を上げて中空管体30の内周面35から剥離させ、オーバーフローした培養液20と共に流出口19から回収してもよい。あるいは、無菌環境下において、無菌ピンセット等の器具(図示せず)を用いる等して、蓋体17を外した開口15を通じて培養槽10から複数の中空管体30,30,…を取り出し、培養槽10の外で各中空管体30の内周面35から剥離させて、細胞を回収してもよい。
【0041】
このように、本参考例の細胞培養装置1によれば、接着剤50によって隣り合う同士が接着された各中空管体30の貫通方向を、培養槽10に連続供給される培養液20の流れ方向Xに沿った上下方向として、培養槽10に複数の中空管体30,30,…を設置した。このため、各中空管体30の内部を通って培養液20が培養槽10内を流れる。よって、各中空管体30の内周面35を細胞の足場として機能させて、足場の表面積を効率よく増やすことができる。また、足場に用いる中空管体30が管状構造であるため、足場の強度を高く維持することができる。したがって、足場の強度維持と足場の比表面積の増加とを両立させることができる。
【0042】
また、流入口11から流出口19に向かう培養槽10内の培養液20の流速を上げたり、各中空管体30を培養槽10から取り出すことで、中空管体30の内周面35から培養された細胞を剥離させることができるので、培養された細胞を培養槽10から短時間で回収することができる。
【0043】
よって、本参考例の細胞培養装置1によれば、足場の比表面積を高めて潅流培養方式により細胞を大量培養することができ、かつ、培養した細胞を短時間で回収することができる。
【0044】
また、本参考例の細胞培養装置1によれば、各中空管体30が貫通方向を上下方向に沿わせて培養槽10に設置したので、図1(a)に示すように、細胞の培養中に発生したガスの気泡60を中空管体30,30同士の間や各中空管体30の内部の培養液20中で浮上させて、培養槽10内に滞留させず培養槽10の上部の流出口19から、オーバーフローした培養液20と共にガスを培養槽10の外に排出させることができる。
【0045】
次に、図2を参照して本発明の一実施形態に係る細胞培養装置について説明する。
【0046】
図2(a)は本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の概略構成を示す正断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【0047】
図2(a)に示す本実施形態の細胞培養装置1Aは、培養槽10内において複数の中空管体30,30,…を、網体70,80を用いて水平方向に並べている点で、図1(a)に示す第1実施形態の細胞培養装置1とは異なり、その他の点については、第1実施形態の細胞培養装置1と同様に構成されている。
【0048】
網体70,80は、図2(a)に示すように、培養槽10の網体40と流出口19との間の上下に間隔をおいた2箇所に、培養液20の流れ方向と直交する水平方向に展開してそれぞれ配置されている。網体40,70,80の上下間隔は、網体40,70,80の相互間に介設されたスペーサ75,85によって一定に保持されている。
【0049】
上方の網体70は、図2(b)に示すように、中空管体30の外形よりも若干大きい目開きの網目71を有している。図2(a)に示すように、上方の網体70と同寸に形成された下方の網体80も、中空管体30の外形よりも若干大きい目開きの網目81を有している。網体70,80は、それぞれの網目71,81の位置が水平方向において揃うように、培養槽10にそれぞれ配置されている。
【0050】
そして、各中空管体30,30,…が、網体70,80の水平方向における位置が同じ網目71,81にそれぞれ挿通されており、各中空管体30の下端は網体40により支持されている。
【0051】
したがって、本実施形態の細胞培養装置1Aでは、網体70,80が、図2(b)に示すように、各中空管体30を水平方向において格子状に並べて支持している。なお、隣り合う2つの中空管体30,30の間には、網体70,80の網目71,81のピッチと中空管体30の管径との差に応じた隙間が生じ、この隙間にも培養液20が流れる。そして、本実施形態では、網体70,80が請求項中の支持体に相当している。
【0052】
なお、網体70,80は培養槽10内の培養液20中に静置することから、網体40と同じく、培養液20中で浮力を上回る重力が作用する比重(重量)の材料で構成するのが好ましい。また、本実施形態では、中空管体30を網体70,80で支持しているので、中空管体30自身を、培養液20中で浮力を上回る重力が作用する比重(重量)となるようにするのが好ましい。あるいは、網体70,80の網目71,81と中空管体30の外周面33との間に、培養液20中の中空管体30に働く浮力を上回る摩擦力が作用するように、網目71,81の目開きを中空管体30の外径に合わせた寸法とするのが好ましい。
【0053】
上述した構成の細胞培養装置1Aでは、網体70,80の各網目71,81に挿通された中空管体30がそれぞれ分離しているため、中空管体30の内周面35に加えて外周面33も培養液20の通り道となり、細胞の足場として機能する。このため、本実施形態の細胞培養装置1Aでは、接種した細胞が外周面33や内周面35に付着して培養される。
【0054】
なお、培養された細胞は、流入口11から流出口19に向かう培養槽10内の培養液20の流速を上げて中空管体30の外周面33や内周面35から剥離させ、オーバーフローした培養液20と共に流出口19から回収してもよい。あるいは、無菌環境下において、蓋体17を外した開口15を通じて培養槽10から、器具等(図示せず)を用いて網体70,80(あるいは網体40,70,80)と共に各中空管体30を取り出し、培養槽10の外で各中空管体30の外周面33や内周面35から剥離させて、細胞を回収してもよい。
【0055】
このように構成した本実施形態の細胞培養装置1Aによれば、各中空管体30の外周面33と内周面35とをそれぞれ細胞の足場として機能させて、足場の比表面積を参考例の細胞培養装置1よりもさらに増加させることができる。また、培養液20の流速増加や培養槽10からの中空管体30の取り出しにより、中空管体30の外周面33と内周面35から培養された細胞を剥離させて短時間で回収することができる。さらに、細胞の培養中に発生したガスの気泡60を培養液20中で浮上させて、培養槽10内に滞留させず流出口19から培養槽10の外に排出させることができる。
【0056】
このため、本実施形態の細胞培養装置1Aでも、参考例の細胞培養装置1と同様の効果を得ることができる。
【0057】
なお、上述した参考例及び実施形態の細胞培養装置1,1Aにおいて、培養液20を流出口19から培養槽10に供給し、供給した培養液20を流入口11から培養槽10の外に排出してもよい。この場合、流出口19を蓋体17に設けて培養液20の供給口としてもよい。
【0058】
このようにすれば、培養液20を排出する流入口11に培養液20が常に充填されるので、蒸発により培養液20の嵩が減っても空気を吸い込むことなく培養液20を培養槽10から排出させて再び流出口19から培養槽10に循環させることができる。
【0059】
また、流出口19から培養液20を培養槽10に供給することで、培養液20の上部液面付近に細胞を接種し、流出口19から流入口11に向かう培養槽10内の培養液20の下降流に乗せて細胞を各中空管体30に拡散させることができる。
【0060】
さらに、上述した参考例及び実施形態の細胞培養装置1,1Aでは、培養槽10内における培養液20の流れ方向Xを上下方向とし、これに合わせて、複数の中空管体30,30,…を、それぞれの貫通方向を上下方向に沿わせて設置する場合について説明した。
【0061】
しかし、例えば、培養槽10内における培養液20の流れ方向を水平方向とし、これに合わせて、複数の中空管体30,30,…を、それぞれの貫通方向を水平方向に沿わせて、上下方向に並べて設置してもよい。即ち、培養槽10内における中空管体30の設置方向は、培養槽10内における培養液20の流れ方向に沿っている限り、上下方向に限らず任意である。
【0062】
また、複数の中空管体30,30,…を貫通方向と直交する方向に並列に並べて支持する方法として、図1(a),(b)に示す接着剤50による中空管体30同士の接着と、図2(a),(b)に示す網体70,80による中空管体30の支持とを、併用してもよい。
【0063】
さらに、中空管体30の形状は円筒状に限らず、内部を通路が貫通した筒状のものであれば、矩形筒状等の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,1A 細胞培養装置
10 培養槽
11 流入口
13 中継管
15 開口
17 蓋体
19 流出口
20 培養液
30 中空管体
31 通路
33 中空管体外周面
35 中空管体内周面
40 網体
41,71,81 網目
50 接着剤(支持体)
60 気泡
70,80 網体(支持体)
75,85 スペーサ
X 培養液流れ方向
図1
図2