特許第6354299号(P6354299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354299耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
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  • 特許6354299-耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354299
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180702BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20180702BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20180702BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C18/00
   C22C38/14
   C21D9/46 J
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-94661(P2014-94661)
(22)【出願日】2014年5月1日
(65)【公開番号】特開2015-212405(P2015-212405A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2017年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】岡 正春
(72)【発明者】
【氏名】岡本 力
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−028998(JP,A)
【文献】 特開平06−179943(JP,A)
【文献】 特開平05−263189(JP,A)
【文献】 特開平06−057372(JP,A)
【文献】 特開2004−256893(JP,A)
【文献】 特開2009−114473(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0149230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0040%未満、
Si:0.7%以下、
Mn:1.0〜2.5%、
P:0.05〜0.13%、
S:0.025%以下、
Al:0.005〜0.20%、
N:0.010%以下、
Ti:0.005〜0.035%、
Nb:0.005%未満、
B:0.0005〜0.0030%、
に制限し、
25×P+4×Si≦3.2
B*≧0.0005
ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕
〔右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕
C*≧0.0002
ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕
〔右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕
110×Si+48×Mn+550×P≧150
を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の表面に、Feを7〜15質量%含有する溶融亜鉛めっき層を有し、
平均r値≧1.5であり、−0.5≦Δr値≦0.5であることを特徴とする、耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C:0.0040%未満、
Si:0.7%以下、
Mn:1.0〜2.5%、
P:0.05〜0.13%、
S:0.025%以下、
Al:0.005〜0.20%、
N:0.010%以下、
Ti:0.005〜0.035%、
Nb:0.005%未満、
B:0.0005〜0.0030%、
に制限し、
25×P+4×Si≦3.2
B*≧0.0005
ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕
〔右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕
C*≧0.0002
ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕
〔右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕
110×Si+48×Mn+550×P≧150
を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋳片を熱間圧延し、更に、酸洗、冷間圧延及び焼鈍を施した後、Niプレめっきを行い、その後、溶融亜鉛めっき後、合金化処理を行い、鋼板の表面に、Feを7〜15質量%含有する溶融亜鉛めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延の仕上げ温度を800〜860℃とし、巻き取り温度を650〜760℃として熱間圧延を行うことを特徴とする、請求項1に記載の耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品などに用いられる耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への対応のため炭酸ガス排出低減や燃費低減を目的に自動車の軽量化が望まれている。また、衝突安全性向上に対する要求はますます高くなっている。自動車の軽量化や衝突安全性向上のためには鋼材の高強度化が有効な手段である。自動車部品のうち厳しいプレス成形性が要求されるパネル部品には加工性の良好な軟質鋼板が使用されてきたが、近年では特許文献1〜3などに記載されているように深絞り性に優れた平均r値r〔r=(r+2×r45+r)/4・・・(式1)〕(r、r45、rはそれぞれ圧延方向に平行、45°、垂直な方向のr値)の高い高強度冷延鋼板が開発されてきている。パネル部品の中でもサイドフレームアウターのような形状の部品には平均r値が高いことに加えてr値の面内異方性(Δr値)〔Δr値=(r+r)/2−r45・・・(式2)〕が小さいことも要求される。これはサイドフレームアウターの各部位においてドアが収まる部位の四隅部分には45°方向のr値が高いことが要求され、ドアのヒンジ取付け部では圧延方向のr値が高いことが要求されるためである。このような部品に適用可能な鋼板として、特許文献4には平均r値とr値の面内異方性に優れた深絞り用高強度冷延鋼板及びその製造方法が記載されている。
また、自動車用高強度鋼板は適用される部品によっては耐食性が必要とされ、そのような場合には溶融亜鉛めっき鋼板が適用されている。また、溶融亜鉛めっきを行った後に合金化処理をした(合金化)溶融亜鉛めっき鋼板も適用されている。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、ゼンジマー法で製造されるが、焼鈍設備とめっき設備が連続化されており、高深絞り性高強度鋼板においては、強度確保のためにSiが添加されるが、Si含有量が高いとSiが鋼板表面に濃縮し酸化するため、溶融亜鉛めっき時に不めっきが発生し易いという問題があった。
【0004】
一方、特許文献5及び6において、Si添加高強度鋼板につき、Niプレめっき後、430〜500℃まで急速加熱し、亜鉛めっき後に470〜550℃に加熱して合金化処理を行うという合金化溶融亜鉛めっき高強度鋼板の製造方法が記載されている。合金化処理時の保持時間が短い場合には最高到達温度が620℃程度でも適用可能と考えられる。この方法の場合、原板としてすでに材質を造り込んでいる冷延−焼鈍プロセスで製造した冷延鋼板を使用することが可能であり、最高到達温度が620℃程度であることから、原板の加工性をあまり損なわずに合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができると考えられる。また、Niプレめっきなどの処理により、Si含有量が高くても不めっきが生じにくい。
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載されている深絞り用高強度冷延鋼板に特許文献5及び6に記載されている方法を適用して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造すると粒界にめっきが浸透するため粒界が脆化し耐二次加工脆性が低下するという問題があった。二次加工脆性とは深絞り加工後の成形品端部に新たに張力や衝撃力が作用する場合に絞り方向に沿った脆性破壊現象が起こる特性のことである。
【0006】
従って、これらの技術を使って耐二次加工脆性に優れた深絞り用高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平8−30217号公報
【特許文献2】特公平8−26412号公報
【特許文献3】特開2001−131695号公報
【特許文献4】特許第4094498号公報
【特許文献5】特許第2526320号公報
【特許文献6】特許第2526322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような問題点を解決しようとするものであって、自動車部品などに用いられる耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献4に記載された平均r値とr値の面内異方性に優れた深絞り用高強度冷延鋼板の技術と特許文献5及び6に記載されたNiプレめっき法による溶融亜鉛めっき鋼板を製造する技術をベースとし、実験室で溶解、熱延、冷延、焼鈍、Niプレめっき、溶融亜鉛めっき及び合金化処理を行い、所要の強度、延性、平均r値、Δr値、めっき性を確保したうえで、良好な耐二次加工脆性を得るための方法を種々検討した。
【0010】
耐二次加工脆性は、板厚0.7mm、直径45mmのブランクをポンチ直径20.64mmの球頭ポンチを用いて絞り成形(絞り比:2.2)した後、−40℃のエタノールに側面が水平になるように浸漬し、プレスで押しつぶし、発生した脆性亀裂の長さを測定することで評価した。その結果、引張強度440MPa以上を確保しつつ良好な耐二次加工性を得るためには、従来から粒界に偏析して耐二次加工脆性を劣化させることが指摘されているPのみではなくSiも耐二次加工脆性への悪影響が大きく、PとSiの量を制御する必要があることがわかった。また、PとSiの耐二次加工脆性に及ぼす効果は25×P+4×Siというパラメータで表せることを知見した。さらに、粒界強度を高めるために固溶Bと固溶Cを適切な量確保する必要があることを知見した。すなわち、B*≧0.0005〔ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕、右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕及びC*≧0.0002〔ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕、右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕を満たすようにB、N、Ti、C、Nb量を制御した上で、25×P+4×Si≦3.2とすることで、耐二次加工脆性を大幅に向上できることがわかった。図1に25×P+4×Siと脆性亀裂長さの関係を示す。図1よりB*≧0.0005及びC*≧0.0002を満たしたうえで、25×P+4×Si≦3.2とすることで、耐二次加工脆性を大幅に向上できることが明らかである。
さらに検討を加えた結果、下記の条件を満たす成分としたうえで、熱間圧延の仕上げ温度を800〜860℃とし、巻き取り温度を650〜760℃として熱間圧延を行うことで、冷間圧延・焼鈍・溶融亜鉛めっき及び合金化処理後の鋼板において所要の深絞り性を確保しつつ耐二次加工性を大幅に向上させることができ、耐二次加工性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができることを見出した。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1)質量%で、
C:0.0040%未満、
Si:0.7%以下、
Mn:1.0〜2.5%、
P:0.05〜0.13%、
S:0.025%以下、
Al:0.005〜0.20%、
N:0.010%以下、
Ti:0.005〜0.035%、
Nb:0.005%未満、
B:0.0005〜0.0030%、
に制限し、
25×P+4×Si≦3.2
B*≧0.0005
ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕
〔右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕
C*≧0.0002
ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕
〔右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕
110×Si+48×Mn+550×P≧150
を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板の表面に、Feを7〜15質量%含有する溶融亜鉛めっき層を有し、
平均r値≧1.5であり、−0.5≦Δr値≦0.5であることを特徴とする、耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2)質量%で、
C:0.0040%未満、
Si:0.7%以下、
Mn:1.0〜2.5%、
P:0.05〜0.13%、
S:0.025%以下、
Al:0.005〜0.20%、
N:0.010%以下、
Ti:0.005〜0.035%、
Nb:0.005%未満、
B:0.0005〜0.0030%、
に制限し、
25×P+4×Si≦3.2
B*≧0.0005
ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕
〔右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕
C*≧0.0002
ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕
〔右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕
110×Si+48×Mn+550×P≧150
を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋳片を熱間圧延し、更に、酸洗、冷間圧延及び焼鈍を施した後、Niプレめっきを行い、その後、溶融亜鉛めっき後、合金化処理を行い、鋼板の表面に、Feを7〜15質量%含有する溶融亜鉛めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延の仕上げ温度を800〜860℃とし、巻き取り温度を650〜760℃として熱間圧延を行うことを特徴とする、上記(1)に記載の耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができ、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】[25×P(質量%)+4×Si(質量%)]と脆性亀裂長さとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明における耐二次加工脆性に優れた440MPa級高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の成分限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は単に%と記す。
【0015】
C:Cは深絞り性を低下させる元素であり、低減させることが望ましい。0.0040%以上ではTiCやNbC等の析出物が多量に析出し、Δr値が劣化するのみならず、焼鈍時の粒成長性も阻害し、平均r値も低下するため、Cの含有量を0.0040%未満とした。
【0016】
Si:Siは固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。0.7%を超える過剰の添加は耐二次加工脆性を低下させ、熱間圧延で生じるスケールの剥離性や化成処理性を劣化させ、また、フラッシュバット溶接性を劣化させるため、Si含有量は0.7%以下とした。
【0017】
Mn:Mnは固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。また、Ar3変態点を低下させる元素で、その効果を活用し、熱間圧延の仕上げ温度(FT)を低下させることで、熱延板の粒径を微細でかつファインなフェライト粒にするための不可欠な元素である。1.0%未満ではそれらの効果が発現されず、2.5%を超える過剰の添加は靭性を劣化させる。従って、Mn含有量は1.0〜2.5%とした。
【0018】
P:Pは固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。0.05%未満では440MPa級の強度を得ることが困難であり、0.13%を超えると粒界に偏析して粒界強度を低下させ、耐二次加工脆性を劣化させる。従って、P含有量は0.05〜0.13%とした。
なお、上述のように、PとSiの添加量について、良好な耐二次加工脆性を確保するためには、25×P+4×Si≦3.2の条件を満たすことが必須である。
また、C、Ti、Nbを過剰に添加することなく440MPa以上の引張強度を確保するためには、110×Si+48×Mn+550×P≧150、の条件を確保することが必須である。
【0019】
S:Sは、熱間加工性及び靭性を劣化させる不純物元素であり、低減させることが望ましい。Sの含有量の上限は、現状の精錬技術と製造コストを考慮し、0.025%に制限した。
【0020】
Al:Alは脱酸剤として、またAlNを形成し結晶粒粗大化を抑制する効果がある。また、Siと同様にフェライト安定化元素であり、Siの代替として使用することもできる。0.005%未満ではそれらの効果が発現されず、0.20%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Alの含有量を0.005〜0.20%とした。
【0021】
N:Nは窒化物を形成し結晶粒粗大化を抑制する効果があるが、0.01%を超えて添加すると靭性が劣化するため、N含有量の上限は0.01%とした。
【0022】
Ti:Tiは微細な炭窒化物を形成する元素であり、結晶粒の粗大化の抑制に有効であり、また、TiNを析出することで固溶Nを低減してBNの析出を抑制し固溶Bによる耐二次加工脆性向上効果を発揮させるのに有効である。0.005%未満ではそれらの効果が発現されず、0.035%を超えて過剰に添加するとTiPを析出しr値を低下させたり、TiNが粗大化し靭性が劣化することがある。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.035%とした。
【0023】
Nb:Nbは微細な炭窒化物を形成する元素であり、結晶粒の粗大化の抑制に有効であるが、0.005%以上添加すると粒界に析出したNbCにより耐二次加工脆性が低下するので、Nbの含有量を0.005%未満とした。
なお、上述のように、CとNbとTiとNの添加量について、良好な耐二次加工脆性を確保するためには、C*≧0.0002、ただし、C*=C−(12/93)×Nb−(12/48)〔Ti−(48/14)×N〕〔右辺第三項はTi−(48/14)×N>0のときのみ有効〕、の条件を確保することが必要である。C*の上限については特に規制するものではないが、0.0025%を超えるとr値や時効性が劣化するため、0.0025%以下とすることが望ましい。
【0024】
B:Bは粒界に偏析し、P及びSの粒界偏析を抑制する元素であり、二次加工脆性の改善に有効な元素である。0.0005%未満ではその効果が発現されず、0.003%を超えて過剰に添加すると、粒界に粗大な析出物を生じて、熱間加工性や靭性を損なうことがある。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.003%とした。
なお、上述のように、BとNとTiの添加量について、良好な耐二次加工脆性を確保するためには、B*≧0.0005、ただし、B*=B−(11/14)〔N−(14/48)×Ti〕〔右辺第二項はN−(14/48)×Ti>0のときのみ有効〕、の条件を確保することが必要である。
【0025】
次に、本発明の鋼板の特性について説明する。
平均r値については自動車用鋼板として必要な特性を考慮して、1.5以上であることが必要である。1.5未満であればサイドフレームアウターなどの自動車部品への適用が困難である。なお、平均r値は上記式1により求める。
【0026】
Δr値については自動車用鋼板として必要な特性を考慮して、−0.5≦Δr値≦0.5であることが必要である。Δr<−0.5またはΔr>0.5であればサイドフレームアウターなどの自動車部品への適用が困難である。なお、Δr値は上記式2により求める。
【0027】
また、本発明の鋼板は、引っ張り強度が440MPa以上のものが好ましい。
【0028】
次に製造条件の限定理由について述べる。
本発明においては、上記の成分からなる鋼を常法で溶製し、鋳造する。得られた鋳片を
熱間圧延する。更に、酸洗、冷間圧延及び焼鈍を施した後、Niプレめっきを行い、その
後、溶融亜鉛めっき及び合金化処理を行う。
【0029】
熱間圧延においては、仕上げ温度を800〜860℃とし、巻き取り温度を650〜760℃とする。
【0030】
仕上げ温度を800〜860℃とすることで熱延板の組織が微細でかつファインなフェライト粒となり、平均r値の向上とr値の面内異方性の低減を両立させることができる。仕上げ温度が800℃未満または860℃超であれば熱延板の組織が粗大になったり歪が大きくなったりして、微細でかつファインなフェライト組織は得られない。
【0031】
巻き取り温度を650〜760℃とすることで、TiやNbの炭窒化物の析出を促進し、固溶Cや固溶Nの量を適切に制御することで、耐二次加工脆性を確保しつつ、r値を向上させることができる。巻き取り温度が650℃未満または760℃超であればこの効果は得られない。
【0032】
なお、熱間圧延時の鋳片の加熱温度は上記の仕上げ温度を確保できる範囲で、低い温度にするほうがより良好な平均r値を得られるので望ましい。
【0033】
冷間圧延の圧延率は、75〜83%と高めたほうが、平均r値やΔr値をより優れたものにできるので好ましいが、通常用いられる冷延条件であれば本発明の鋼板が得られるので、特に限定する必要はない。
【0034】
焼鈍条件は再結晶が完了すればよく、特に限定する必要はない。なお、より優れた平均r値の鋼板を得るには焼鈍温度を800℃以上とすることが望ましい。また、連続焼鈍での炉内通板時の「板絞り」というトラブル発生を防ぐには焼鈍温度を830℃以下とすることが望ましい。
【0035】
焼鈍時に生成したスケールを除去するために焼鈍後に酸洗を行ってもよい。また、焼鈍後に形状矯正及び降伏点伸びの消失のために調質圧延を行ってもよい。
【0036】
伸び率が0.6%未満ではその効果が十分でなく、伸び率が2%を超えると伸びが劣化する。従って、調質圧延を行う場合は伸び率を0.6〜2%とすることが望ましい。
【0037】
焼鈍した後、Niをプレめっきする必要がある。Niプレめっきの方法は電気めっき、浸漬めっき、スプレーめっきのいずれでもよく、めっき量は0.2〜2g/m程度が望ましい。
【0038】
Niをプレめっきした後、20℃/秒以上の加熱速度で430〜480℃まで加熱後、亜鉛めっき浴中で亜鉛めっきを行い、470〜620℃で10〜40秒の合金化処理を行う。加熱速度が20℃/秒未満では、合金化促進効果が得られなくなる。加熱温度が430℃未満ではめっき時に不めっきを生じやすく、480℃を超えるとめっき密着性が劣化する。合金化処理が470℃未満では合金化が不十分であり、620℃を超えると延性が劣化する。合金化時間については、合金化温度とのバランスで決まるが、10〜40秒の範囲が適当である。10秒未満では合金化が進みにくく、40秒を超えると延性が劣化する。
【0039】
亜鉛めっき及び合金化処理の後は、最終的な形状矯正及び降伏点伸びの消失のために調質圧延を行ってもよい。伸び率が0.6%未満ではその効果が十分でなく、伸び率が1%を超えると伸びが劣化する。従って、調質圧延を行う場合は伸び率を0.6〜1%とすることが望ましい。
【0040】
次にめっき層について説明する。
スポット溶接性や塗装性を向上させるために本発明では溶融亜鉛めっきを行った後に合金化処理を行う。具体的には溶融亜鉛めっき浴に浸漬した後、合金化処理を施すことで、めっき層中にFeが取り込まれ、塗装性やスポット溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。合金化処理後のFe量が7質量%未満ではスポット溶接性が不十分となる。一方、Fe量が15質量%を超えるとめっき層自体の密着性を損ない、加工の際めっき層が破壊・脱落し金型に付着することで、成形時の疵の原因となる。したがって、合金化処理後のめっき層中Fe量の範囲は7%以上、15%以下とする。なお、溶融亜鉛めっき層はFe以外にNiプレめっきに由来するNi、溶融亜鉛めっき浴中に含まれているZn、Al及び不可避的不純物を含有している。
【0041】
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面付着量で5g/m以上であることが望ましい。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板上に塗装性、溶接性を改善する目的で上層めっきを施すことや、各種の処理、例えば、クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等を施しても、本発明を逸脱するものではない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。
表1に示す組成の鋼を鋳造し、表2に示す条件で熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行った後、めっき量0.5g/mのNiプレめっきを行い、20℃/秒の加熱速度で460℃まで加熱後、亜鉛めっき浴中で亜鉛めっきを行い、表2に示す条件で合金化加熱処理を行い、調質圧延を1.0%の伸び率で行った。冷間圧延率は80%、板厚は0.7mmとした。
【0043】
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の機械的特性、平均r値、Δr値、めっき外観、合金化度、めっき密着性、耐二次加工脆性を評価した。機械的特性は引張試験を、JIS Z 2241に準拠して行って評価した。引張試験の応力−歪曲線より、降伏応力(YP)、引張強度(TS)、全伸び(EL)を求めた。平均r値及びΔrは、塑性ひずみ比試験をJIS Z 2254に準拠して行って評価し、平均r値≧1.5、−0.5≦Δr≦0.5を合格とした。めっき外観は目視観察により不めっきの有無を判定した。合金化Fe%とは、めっき層中のFeの質量%を示している。合金化処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、7〜15%が合金化がうまく進んだことを示している。めっき密着性は、25mmカップ絞り試験を行い、テープテストによる黒化度を測定し、黒化度30%未満を合格とした。耐二次加工脆性は直径45mmのブランクをポンチ直径20.64mmの球頭ポンチを用いて絞り成形(絞り比:2.2)した後、−40℃のエタノールに側面が水平になるように浸漬し、プレスで押しつぶして脆性破壊が発生しなければ合格とした。
【0044】
表3に降伏応力、引張強度、全伸び、平均r値、Δr値、めっき外観(不めっき有無)、合金化Fe%、めっき密着性、耐二次加工脆性の評価結果を示す。評価項目については不合格の場合に下線を付けた。No.1〜5は本発明例であり、いずれの特性も合格となり、目標とする特性の鋼板が得られている。一方、成分または製造方法が本発明の範囲外であるNo.6〜10は、いずれかの特性が不合格となっている。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
図1