特許第6354322号(P6354322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354322
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】制御弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 11/076 20060101AFI20180702BHJP
   F16K 5/04 20060101ALI20180702BHJP
   F16K 3/22 20060101ALI20180702BHJP
   F16K 3/26 20060101ALI20180702BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20180702BHJP
   F16K 27/04 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   F16K11/076 Z
   F16K5/04 E
   F16K3/22 Z
   F16K3/26 Z
   F01P7/16 A
   !F16K27/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-104424(P2014-104424)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-218853(P2015-218853A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】弓指 直人
(72)【発明者】
【氏名】松坂 正宣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 浩一
【審査官】 加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−024126(JP,A)
【文献】 実公平06−023803(JP,Y2)
【文献】 特開2003−343746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/00−11/24
F16K 3/00− 5/22
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングと、
前記ハウジングの軸方向一方の端面に設けられ、ポンプと連通するポンプ連通孔と、
前記ハウジングの内周壁に設けられる第1連通孔と、
前記第1連通孔と前記ハウジングにおける周方向において一致し、前記軸方向に異なる位置の前記内周壁に設けられる第2連通孔と、
前記ハウジング内に前記ハウジングと同軸上に収容され、拡径方向に広がり特性を有する筒状のロータと、
前記ロータの軸心を回転中心として前記ロータを前記ハウジングの内周壁に沿って回転させるロータ回転機構と、
前記ロータに形成され、前記ロータの回転に応じて前記第1連通孔と前記ロータの径方向内側の中央空間との連通状態を切り換える第1開口部と、
前記ロータに形成され、前記ロータの回転に応じて前記第2連通孔と前記中央空間との連通状態を切り換える第2開口部と、
前記ハウジングの内周壁のうち、前記ロータが回転した場合でも前記第1開口部及び前記第2開口部が対向しない領域に、少なくとも前記ロータの軸方向の長さに亘って形成された複数の溝部と、を備え、
前記ハウジングの内周壁のうち、前記ロータが回転した場合に前記第1開口部及び前記第2開口部が対向する領域に、前記ロータに当接し流体の浸入を防止するシール面が形成されている制御弁。
【請求項2】
前記溝部の断面形状が三角形である請求項1に記載の制御弁。
【請求項3】
前記溝部は、前記ハウジングの内周壁に沿って流通する流体の流通方向下流側ほど断面積が狭く形成されている請求項1又は2に記載の制御弁。
【請求項4】
前記溝部は、前記ハウジングの軸心と平行に形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の制御弁。
【請求項5】
前記ロータは、高温時に前記拡径方向への広がり特性が低減するよう構成されている請求項1からのいずれか一項に記載の制御弁。
【請求項6】
前記ロータは、内周面側と外周面側とに夫々異なる熱膨張率を有する材料を貼り合わせて構成される請求項に記載の制御弁。
【請求項7】
前記ロータは、前記ロータが予め規定されている使用温度範囲より高温の状態となった場合に、前記ハウジングの内周壁から離間状態に変形するよう構成されている請求項5又は6に記載の制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流通を制御する制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流通を制御するために制御弁が利用されてきた。このような制御弁の一例として下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、流体入口と、少なくとも2つの流体出口とを備えた本体を含む流体循環回路用の制御弁に関して記載されている。この制御弁は、摩擦係数の低い材料で構成された環状のシールリングを回転させて流体出口を通る流体の分配を行う。シールリングの表面には、ハウジングの側壁との接触面積を減少させる互いに離間した複数の穴が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−512547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術を例えば車両に搭載されたエンジンの冷却通路に用いたとすると、例えばエンジンがアイドル回転のような低回転の状態ではウォータポンプの回転速度が低下して流体の圧力が低くなり、シールリングとハウジングとの間に流体がリークすることが考えられる。また、シールリングの表面に形成された穴とハウジングの側壁との間に形成される隙間から流体がリークすることも考えられる。この結果、例えばエンジン始動時にあってはエンジンの暖機が遅れ、燃費が悪化する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、ハウジング内におけるリークを低減しつつ、円滑に作動することが可能な制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る制御弁の特徴構成は、筒状のハウジングと、前記ハウジングの軸方向一方の端面に設けられ、ポンプと連通するポンプ連通孔と、前記ハウジングの内周壁に設けられる第1連通孔と、前記第1連通孔と前記ハウジングにおける周方向において一致し、前記軸方向に異なる位置の前記内周壁に設けられる第2連通孔と、前記ハウジング内に前記ハウジングと同軸上に収容され、拡径方向に広がり特性を有する筒状のロータと、前記ロータの軸心を回転中心として前記ロータを前記ハウジングの内周壁に沿って回転させるロータ回転機構と、前記ロータに形成され、前記ロータの回転に応じて前記第1連通孔と前記ロータの径方向内側の中央空間との連通状態を切り換える第1開口部と、前記ロータに形成され、前記ロータの回転に応じて前記第2連通孔と前記中央空間との連通状態を切り換える第2開口部と、前記ハウジングの内周壁のうち、前記ロータが回転した場合でも前記第1開口部及び前記第2開口部が対向しない領域に、少なくとも前記ロータの軸方向の長さに亘って形成された複数の溝部と、を備え、前記ハウジングの内周壁のうち、前記ロータが回転した場合に前記第1開口部及び前記第2開口部が対向する領域に、前記ロータに当接し流体の浸入を防止するシール面が形成されている点にある。
【0008】
このようにハウジングの内周壁に複数の壁部を設けることにより、ハウジングの内周壁のうち、ロータが回転された際に第1開口部及び第2開口部が対向しない領域におけるロータとハウジングの内周壁との接触面積を少なくすることができる。したがって、ロータをハウジングの内周壁に沿って摺動回転させ易くできる。一方、ハウジングの内周壁のうち、第1連通孔及び第2連通孔の近傍は、第1開口部及び第2開口部がロータの回転に応じて対向する領域であるので、溝部が形成されない。したがって、第1連通孔及び第2連通孔の近傍においては、ロータの広がり特性によりロータとハウジングの内周壁との密着性を高めることができるので、ロータとハウジングとの間に流体がリークすることを防止できる。したがって、ハウジング内における流体のリークを低減することが可能となる。
また、このような構成とすれば、第1開口部及び第2開口部の移動範囲内において、ロータの外周面とハウジングの内周壁との間における流体のリーク(浸入)を防止することができる。
【0009】
また、前記溝部の断面形状が三角形であると好適である。
【0010】
一般に、2枚の平板が平行な状態から僅かに傾いて狭い隙間を有して配置され、この隙間が流体で満たされている場合、2枚の平板が相対移動すると、それにつられて流体が狭い隙間に引きずり込まれ、隙間における圧力が高くなることが知られている。上記構成とすれば、このような圧力を利用してハウジングからロータを浮かせて、摩擦力を減らすことができる。したがって、ロータの回転時にロータとハウジングの内周壁とを非接触にすることができるので、ロータの回転時に摺動抵抗を低減し、ロータを回転し易くできる。
【0011】
また、前記溝部は、前記ハウジングの内周壁に沿って流通する流体の流通方向下流側ほど断面積が狭く形成されていると好適である。
【0012】
流体が溝部に流通された場合には、溝部の幅が広い程、圧力が高くなり、溝部の幅が狭い程、圧力が低くなる。したがって、流体の流通方向に沿って溝部の溝幅を徐々に狭くすることで圧力差により溝部内に流体の流れが形成され、仮に流体に異物が混入している場合であっても、溝部に異物が詰まることを防止できる。
【0013】
また、前記溝部は、前記ハウジングの軸心と平行に形成されていると好適である。
【0014】
このような構成とすれば、溝部がロータの軸方向一方の端部から他方の端部に達するまでの長さを最短にすることができる。したがって、流体に混入していた異物が溝部に進入した場合でも、当該異物を溝部から排出し易くできる。
【0015】
【0016】
【0017】
また、前記ロータは、高温時に前記拡径方向への広がり特性が低減するよう構成されていると好適である。
【0018】
例えば、ロータの回転はモータを用いて行うことが考えられる。このようなモータは、高温時にはモータが有するコイルの巻線抵抗が増加し、電流が流せなくなるので、モータの出力トルクが低下する。このため、モータを使用する環境温度が変化する場合には、一般的に、高温時に必要な出力トルクを考慮して定格出力の大きいモータを選定することになり、コストアップの要因となる。本構成によれば、高温時には、ロータの広がり特性が低減されるので、ロータのハウジングの内周壁に対する摺動抵抗を低減することができ、定格出力の小さい安価なモータを用いることが可能となる。
【0019】
また、前記ロータは、内周面側と外周面側とに夫々異なる熱膨張率を有する材料を貼り合わせて構成されると好適である。
【0020】
このような構成とすれば、高温時に外周面側の材料が周方向に膨張することで、内周面側の材料が縮径方向に荷重を受け、ロータを縮径させることができる。このため、高温時のロータの変形を促進することができるので、ロータのハウジングの内周壁に対する摺動抵抗を低減することができる。したがって、ロータを回転させ易くすることが可能となる。
【0021】
また、前記ロータは、前記ロータが予め規定されている使用温度範囲より高温の状態となった場合に、前記ハウジングの内周壁から離間状態に変形するよう構成されていると好適である。
【0022】
このような構成とすれば、ロータが過度に温められた場合には、ロータが縮径し、ハウジングの内周壁に対するロータの押圧力がゼロとなる。この場合、ロータに流体の圧力が作用してロータがハウジングの内周壁から離間する。したがって、第1開口部及び第2開口部の位置に拘らず、第1連通孔及び第2連通孔と中央空間とを連通状態にすることができるので、制御弁で流体が遮断されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】制御弁を備えた冷却回路の一例である。
図2】制御弁の斜視図である。
図3】ロータの斜視図である。
図4図3に示されるロータを平板状に延ばした状態を示す図である。
図5図2のV−V線における断面図である。
図6図5のVI−VI線における断面図である。
図7】隙間の圧力分布の説明に用いる図である。
図8】ロータの温度依存性及び所定の温度による制御弁の状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る制御弁は、ハウジング内における流体のリークを低減しつつ、流体の流通を制御可能に構成される。以下、本実施形態の制御弁1について説明する。図1には車両のエンジンを冷却する冷却回路100に制御弁1を採用した例が示され、図2には、制御弁1の斜視図が示される。
【0025】
図1に示される車両の冷却回路100では第1経路2と第2経路3とを有する。第1経路2は、エンジン4からの冷媒(流体)がラジエータ5を介して循環する経路であり、第2経路3は、エンジン4からの冷媒がヒータコア6を介して循環する経路である。いずれの経路も、冷媒はポンプ7により循環される。ポンプ7の上流側には制御弁1が設けられ、当該制御弁1にはラジエータ5及びヒータコア6の夫々から冷媒が流通可能に構成される。
【0026】
図2に示されるように、制御弁1は、ハウジング10、ポンプ連通孔20、第1連通孔30、第2連通孔40、ロータ50、ロータ回転機構60、第1開口部70、第2開口部80、溝部90(図5参照)を備えて構成される。ハウジング10は筒状に構成される。本実施形態では、ハウジング10は円筒状に構成される。詳細は後述するが、ハウジング10の天面11にはポンプ連通孔20が付設され、底面14にはロータ回転機構60が付設される。ハウジング10は、金属を用いて構成することも可能であるし、樹脂を用いて構成することも可能である。
【0027】
ポンプ連通孔20は、ハウジング10の軸方向一方の端面に設けられ、ポンプ7と連通する。ハウジング10の軸方向一方の端面とは、筒状のハウジング10が有する面のうち、筒の軸心方向に直交する2つの面(天面11及び底面14)の一方である。図2の例では、天面11が相当する。ポンプ連通孔20は、図1に示されるように、第1経路2及び第2経路3として用いられ、ポンプ7に接続される。
【0028】
第1連通孔30及び第2連通孔40は、ハウジング10の内周壁12に設けられる。ハウジング10の内周壁12とは、筒状のハウジング10が有する内壁のうち、筒状のハウジング10の軸心に平行な内壁である。本実施形態では、図2に示されるように、第1連通孔30と第2連通孔40とは、ハウジング10における周方向において一致し、軸方向に異なる位置に設けられる。すなわち、ハウジング10を軸方向外側から見た場合には、第1連通孔30と第2連通孔40とが軸方向に重複し、ハウジング10を径方向外側から見た場合には、第1連通孔30と第2連通孔40とが互いに離間しているように設けられる。なお、理解を容易にするために、図2では第1連通孔30が天面11の側に設けられ、第2連通孔40が底面14の側に設けられているとして説明する。
【0029】
ロータ50は、ハウジング10内に当該ハウジング10と同軸上に収容される。ロータ50は、ハウジング10の径方向内側に形成される筒状空間の形状に合わせて構成される。筒状空間とは、筒状のハウジング10の内周壁12で囲まれた空間である。本実施形態では、ハウジング10は円筒状に形成されることから、ロータ50も円筒状に形成される。このようなロータ50は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の摺動性に優れたグレード(摺動グレード)の板状の樹脂を円筒状に丸めて形成され、ロータ50の軸心をハウジング10の軸心に一致させて、ハウジング10がロータ50を内包するよう筒状空間に収容される。
【0030】
また、ロータ50は、拡径方向に広がり特性を有する筒状で構成される。このような筒状のロータ50が図3に示される。拡径方向とは、円筒状のロータ50の内径が大きくなる方向をいう。このため、拡径方向に広がり特性を有するとは、円筒状のロータ50の内径が大きくなるような特性を有することを意味する。
【0031】
このような広がり特性を有するロータ50は、軸方向一方の端部から他方の端部に亘って開口する軸方向開口部53を有して構成すると好適である。軸方向一方の端部から他方の端部に亘って開口するとは、ロータ50が軸方向に沿って一様にギャップを有することを意味する。すなわち、ロータ50は、軸方向に交差するロータ50の断面が「C字状」で構成されていることを意味する。したがって、軸方向開口部53は、ロータ50の軸方向の長さと同一の長さを有して構成される。これにより、板状の材料を筒状に丸めることで、広がり特性を有するロータ50を構成し易くできる。
【0032】
ロータ50には、第1開口部70及び第2開口部80が形成される。第1開口部70はロータ50の回転に応じて第1連通孔30と中央空間13とを連通状態に切り替え、第2開口部80はロータ50の回転に応じて第2連通孔40と中央空間13とを連通状態に切り替える。第1開口部70は、ロータ50に形成された孔部が相当し、中央空間13とはロータ50の径方向内側の空間が相当する。第1開口部70は、ロータ50の回転に応じて第1連通孔30と中央空間13とを連通状態又は遮断状態に切り替える。また、第2開口部80は、ロータ50に形成された孔部が相当し、ロータ50の回転に応じて第2連通孔40と中央空間13とを連通状態又は遮断状態に切り替える。
【0033】
本実施形態では、第1開口部70及び第2開口部80により3つの状態が設定できるよう構成されている。図4には、このような3つの状態を理解し易いよう、ロータ50を平板状にした状態の図が示される。3つの状態とは、第1連通孔30と中央空間13とを連通状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを連通状態する状態Aと、第1連通孔30と中央空間13とを遮断状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを連通状態する状態Bと、第1連通孔30と中央空間13とを遮断状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを遮断状態する状態Cとのいずれかに切り替え可能に構成されている。
【0034】
したがって、図4に示されるように状態Aでは第1開口部70及び第2開口部80が共に開口する状態となり、状態Bでは第2開口部80のみが開口する状態となる。また、状態Cでは第1開口部70及び第2開口部80が共に開口しない状態となる。このため、ロータ50は、当該ロータ50を軸方向に見て、第1開口部70及び第2開口部80が重複する部分と、第2開口部80のみが設けられた部分と、第1開口部70及び第2開口部80の双方が設けられていない部分と、を有して構成される。これにより、ロータ50を回転させて、第1経路2及び第2経路3の夫々における流体の流通を制御することが可能となる。
【0035】
ロータ回転機構60は、ロータ50の軸心を回転中心としてロータ50をハウジング10の内周壁12に沿って回転させる。図5には、図2のV−V線における断面図が示される。本実施形態では、ロータ回転機構60は、ロータ支持部61とモータ62とを備えて構成される。ロータ支持部61はロータ50を支持する。本実施形態では、上述したロータ支持部61は、ロータ50のうち軸方向開口部53に対向する部分を支持する。モータ62は、ロータ支持部61をロータ50の軸心を回転中心として回転させる。また、上述のように、ロータ50はハウジング10と同軸上に設けられ、拡径方向に広がる特性を有している。したがって、ロータ50は、ロータ回転機構60によりロータ50の外周面がハウジング10の内周壁12を摺動回転する。
【0036】
ここで、図5に示されるように、ハウジング10の内周壁12のうち、ロータ50が回転した場合でも第1開口部70及び第2開口部80が対向しない領域には、少なくともロータ50の軸方向の長さに亘って複数の溝部90が形成されている。上述したように、制御弁1は、ロータ回転機構60がロータ50をハウジング10の内周壁12に沿って摺動回転させることにより中央空間13と第1連通孔30及び第2連通孔40との連通状態を切り換える。このため、ロータ50はロータ50の軸心を基準として所定の角度でしか回転しない。このような所定の角度でロータ50をハウジング10の内周壁12に沿って摺動回転させた際、ハウジング10の内周壁12のうち、第1開口部70及び第2開口部80と全く対向しない部分が、上述のハウジング10の内周壁12のうち、ロータ50が回転した場合でも第1開口部70及び第2開口部80が対向しない領域にあたる。このような領域は、図5における符号Rを付した領域が相当する。
【0037】
このような領域Rには、ロータ50の軸方向一方の端部から他方の端部に亘って、溝部90が周方向に亘って複数、形成される。ロータ50の軸方向一方の端部から他方の端部に亘って形成されるとは、溝部90がロータ50の軸方向長さ以上の長さで設けられることを意味する。
【0038】
本実施形態では、図5に示されるように溝部90は、ロータ50の軸方向に直交する断面形状が三角形で形成される。図5の一点鎖線で囲んだ領域には、溝部90とロータ50とが径方向に重複している状態を拡大した図が示される。ここで、2枚の平板が平行な状態から僅かに傾いて狭い隙間を有して配置され、この隙間が流体で満たされている場合、2枚の平板が相対移動すると、それにつられて流体が狭い隙間に引きずり込まれ当該隙間の圧力が高くなる。この圧力で2枚の平板を互いに浮かせて、摩擦力を減らすことができることが知られている。このような効果は「くさび効果」と称される。上述したように、溝部90の断面形状を三角形とすることで、ロータ50の回転時にくさび効果によりロータ50とハウジング10の内周壁12とを非接触にすることができる。したがって、ロータ50の回転時に摺動抵抗を低減し、ロータ50を回転し易くできる。
【0039】
また、溝部90は、ハウジング10の内周壁12に沿って流通する流体の流通方向下流側ほど断面積が狭く形成すると良い。ハウジング10の内周壁12に沿って流通する流体とは、第1連通孔30及び第2連通孔40を介して中央空間13に導入された流体である。図6には、図5のVI−VI線における断面図が示される。ただし、ロータ50は省略している。図1に示されるように、本実施形態では、流体は制御弁1からポンプ7に向って流通する。したがって、中央空間13に導入された流体は、図6において下から上に向って流通する。
【0040】
ここで、図7に示されるようなくさび状の隙間の圧力分布は、(1)式で示される。
【0041】
【数1】

ただし、Uはロータ50の回転速度、Bは溝部90の周方向に沿った幅の1/2、hはハウジング10とロータ50との距離、μは流体の粘度、Pは流体の圧力、P0はx=0における圧力である。
【0042】
(1)式に示されるように、溝部90の幅が広い程、圧力が高くなり、溝部90の幅が狭い程、圧力が低くなる。したがって、流体の流通方向に沿って溝部90の溝幅を徐々に狭くすることで圧力差により溝部90内に流体の流れが形成され、仮に流体に異物が混入している場合であっても、溝部90に詰まることを防止できる。
【0043】
また、図6に示されるように、溝部90はハウジング10の軸心と平行に形成されるので、溝部90がロータ50の軸方向一方の端部から他方の端部に達するまでの長さを最短にすることができる。したがって、流体に混入していた異物が溝部90に進入した場合でも、当該異物を溝部90から排出し易くできる。
【0044】
ハウジング10の内周壁12のうち、ロータ50が回転した場合に第1開口部70及び第2開口部80が対向する領域に、ロータ50と液密的に当接するシール面15が形成される。ハウジング10の内周壁12のうち、ロータ50が回転した場合に第1開口部70及び第2開口部80が対向する領域とは、図5において領域Rを除く符号Sが付された領域である。シール面15とは、ロータ50の外周面がハウジング10の内周壁12に対して密着するように処理が施された面である。ハウジング10の内周壁12は、このような領域Sに亘ってシール面15が設けられることにより、第1開口部70及び第2開口部80において、ロータ50の外周面とハウジング10の内周壁12との間における流体のリーク(浸入)を防止することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では制御弁1は車両の冷却回路100に設けられる。このような用途において、制御弁1により流体の流通を制御してエンジン4に流体を循環させて、エンジン4を冷却するが、エンジン4からの熱を受けて制御弁1の温度も上昇する。一方、高温時にはモータが有するコイルの巻線抵抗が増加し、電流が流せなくなるので、モータの出力トルクが低下する。このため、一般的には、高温時に必要な出力トルクを考慮してモータを選定する必要があるので、定格出力の大きいモータを用いる必要があり、コストアップの要因となる。
【0046】
そこで、本実施形態に係るロータ50は、高温時に拡径方向への広がり特性が低減するよう構成されている。上述したように、ロータ50は、拡径方向に広がり特性を有し、ハウジング10の内周壁12と密着するよう構成されている。ロータ回転機構60がロータ50を回転させようとしているにも拘らず、ロータ50が回転しなくなった場合には、エンジン4からの熱量が増加し、制御弁1が温められる。ロータ50は、この熱により、拡径方向への広がりを緩和する。このような特性は、低温時よりも高温時の方が収縮する特性を有する材料を用いてロータ50を構成することにより実現できる。このように構成することにより、高温時には、ロータ50の広がり特性が低減されるので、ロータ50のハウジング10の内周壁12に対する摺動抵抗を低減することができ、定格出力の小さい安価なモータを用いることが可能となる。
【0047】
更に、何らかの理由でロータ50がハウジング10内で相対回転することができなくなった場合、第1連通孔30及び第2連通孔40の少なくとも一方が中央空間13と連通状態にあればエンジン4に流体を循環させることができるのでエンジン4を冷却することができるが、第1連通孔30及び第2連通孔40の双方が中央空間13と遮断状態にあればエンジン4がオーバーヒートする可能性がある。
【0048】
そこで、ロータ50は、ロータ50が予め規定されている使用温度範囲より高温の状態となった場合に、ハウジング10の内周壁12から離間状態に変形するよう構成されている。これにより、ロータ50が過度に温められた場合には、ロータ50が縮径し、ハウジング10の内周壁12に対するロータ50の押圧力がゼロとなる。この場合、ロータ50に流体の圧力が作用してロータ50がハウジング10の内周壁12から離間する。したがって、第1開口部70及び第2開口部80の位置に拘らず、第1連通孔30及び第2連通孔40と中央空間13とを連通状態にすることができるので、エンジン4に流体を循環させることが可能となる。
【0049】
このようなロータ50の温度特性が図7に示される。図8(a)の縦軸にはロータ50が径方向外側に広がろうとする力Fが示され、横軸にはロータ50の温度Tが示される。図8(a)に示されるように、温度がT1未満であれば、ロータ50の広がり特性は大きく変化しない。したがって、図8(b)に示されるように、ロータ50はハウジング10の内周壁12に密着した状態で回転される。なお、図8(b)−図8(d)においては、理解を容易にするために、力Fを矢印で示し、力Fの強度を矢印の数で示している。また、破線の矢印は流体の流れを示している。
【0050】
ロータ50の温度が次第に高くなれば(例えば温度がT1以上T2未満となれば)、図8(c)に示されるように、ロータ50の力Fは温度がT1未満の場合に比べて小さくなる(すなわち、図8(b)よりも矢印の数が減っている)。このため、ロータ50とハウジング10の内周壁12との密着性は上記温度がT1未満の場合に比べて弱くなるが、ロータ50とハウジング10との間に流体がリークするほどでもない。これより、ロータ50を回転させるのに必要なモータ62のトルクは小さくなる。したがって、温度が上昇し、巻線抵抗が大きくなっても、巻線抵抗に流す電流は小さくできるので、適切にロータ50を回転させることができる。
【0051】
更に、図8(a)に示されるように、ロータ50の温度が高くなれば(例えば温度がT2以上となれば)、ロータ50の力Fは温度がT2未満の場合に比べて小さくなる。この場合には図8(d)に示されるように、ロータ50が縮径し、第1連通孔30及び第2連通孔40からの流体によりロータ50が押圧され、ロータ50とハウジング10の内周壁12との間に隙間が形成される。破線の矢印で示したように、この隙間に流体が流れ込み、第1開口部70や第2開口部80を介して中央空間13に流体を流通するので、流体を循環させることが可能となる。
【0052】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、ロータ50が板状の材料を筒状に丸め、高温時に拡径方向への広がり特性が低減するよう構成されているとして説明したが、例えばロータ50の内周面側と外周面側とに夫々異なる熱膨張率を有する材料を貼り合わせて構成することも可能である。具体的には、異なる熱膨張率を有する材料を重ねてバイメタルのように構成することが可能である。このような構造は、例えば、異なる熱膨張率を有する2枚の板状部材を積層した後、筒状に丸めることにより構成することが可能である。もちろん、予め筒状に丸めておいた2つの筒状部材の一方を他方の外周面又は内周面に装着して構成することも可能である。このようなロータ50によれば、外周面側の材料が高温時に周方向に膨張することで、内周面側の材料が縮径方向に荷重を受け、高温時のロータ50の変形を促進することができる。したがって、ロータ50のハウジング10の内周壁12に対する摺動抵抗を低減することができるので、ロータ50を回転させ易くすることが可能となる。
【0053】
上記実施形態では、溝部90の断面形状が三角形であるとして説明したが、溝部90の断面形状を四角形やその他の多角形で構成することも可能であるし、U字形で形成することも可能である。もちろん、他の形状で構成することも可能である。
【0054】
上記実施形態では、溝部90は、ハウジング10の内周壁12に沿って流通する流体の流通方向下流側ほど断面積が狭く形成されているとして説明したが、溝部90は、ハウジング10の内周壁12に沿って流通する流体の流通方向上流側ほど断面積が狭く形成することも可能であるし、流体の流通方向に拘らず、断面積を一様に形成することも可能である。
【0055】
上記実施形態では、溝部90は、ハウジング10の軸心と平行に形成されているとして説明したが、溝部90をハウジング10の内周壁12において螺旋状に形成することも可能である。
【0056】
上記実施形態では、ロータ50は、高温時に拡径方向への広がり特性が低減するよう構成されているとして説明したが、ロータ50は温度に拘らず拡径方向への広がり特性が変化しないように構成することも可能である。
【0057】
上記実施形態では、ロータ50は、ロータ50が予め規定されている使用温度範囲より高温の状態となった場合に、ハウジング10の内周壁12から離間状態に変形するよう構成されているとして説明したが、ロータ50は使用温度範囲より高温となった場合であっても、ハウジング10の内周壁12から離間しないように構成することも可能である。
【0058】
上記実施形態では、第1連通孔30が天面11の側に設けられ、第2連通孔40が底面14の側に設けられているとして説明したが、第1連通孔30が底面14の側に設けられ、第2連通孔40が天面11の側に設けられていても良い。
【0059】
上記実施形態では、制御弁1は、第1開口部70及び第2開口部80により、第1連通孔30と中央空間13とを連通状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを連通状態する状態Aと、第1連通孔30と中央空間13とを遮断状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを連通状態する状態Bと、第1連通孔30と中央空間13とを遮断状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを遮断状態する状態Cとのいずれかに切り替え可能に構成されているとして説明した。しかしながら、所定の2つの状態に切り替え可能に構成することも可能であるし、上記3つの状態と、第1連通孔30と中央空間13とを連通状態にすると共に、第2連通孔40と中央空間13とを遮断状態にする状態とからなる4つの状態に切り替え可能に構成することも可能である。
【0060】
上記実施形態では、制御弁1は、ラジエータ5及びヒータコア6を介して流体が流入してくるとして説明したが、制御弁1からラジエータ5及びヒータコア6に向けて流体が流通するように構成することも可能である。
【0061】
本発明は、流体の流通を制御する制御弁に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:制御弁
7:ポンプ
10:ハウジング
12:内周壁
13:中央空間
15:シール面
20:ポンプ連通孔
30:第1連通孔
40:第2連通孔
50:ロータ
60:ロータ回転機構
70:第1開口部
80:第2開口部
90:溝部
R:領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8