特許第6354325号(P6354325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354325窒化物蛍光体粉末の製造方法、および顔料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354325
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体粉末の製造方法、および顔料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20180702BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C09K11/08 B
   C09K11/64
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-104814(P2014-104814)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-218315(P2015-218315A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西尾 正幸
(72)【発明者】
【氏名】住澤 寛史
(72)【発明者】
【氏名】山縣 栄作
(72)【発明者】
【氏名】小田 浩
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−122068(JP,A)
【文献】 特開2009−057554(JP,A)
【文献】 特開2011−256340(JP,A)
【文献】 特開2003−336051(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0138992(US,A1)
【文献】 特開2005−162808(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0116244(US,A1)
【文献】 特開2005−036038(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0012075(US,A1)
【文献】 特開2005−336253(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0007494(US,A1)
【文献】 特開2015−218097(JP,A)
【文献】 特開2015−101493(JP,A)
【文献】 特開2014−094880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末の製造方法であり、
Ca源と、Al源と、Si源と、A源と、任意成分としてのSr源とを混合して混合粉末を調製し、該混合粉末を焼成する、窒化物蛍光体粉末の製造方法であって、
前記Al源が、イミド基および/またはアミド基を含有する非晶質のAl−N−H系化合物粉末であり、
前記Al−N−H系化合物粉末は、トリエチルアルミニウムをデカン溶媒中に溶解させて前記溶媒をアンモニアガスと反応させた後にデカンを分離することにより得られる粉末をアンモニア流通下で加熱することにより得られる、組成式Al(NH)で表される粉末であることを特徴とする窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記Si源が、含窒素シラン化合物粉末または非晶質Si−N(−H)系化合物粉末であることを特徴とする請求項1記載の窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記Si源がシリコンジイミド粉末であることを特徴とする請求項1記載の窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【請求項4】
前記AがEuであることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【請求項5】
前記混合粉末を焼成する際の温度が1100℃〜1400℃であることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の窒化物蛍光体粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物蛍光体粉末の製造方法を含む、顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が小さくても内部量子効率が高い窒化物蛍光体粉末の製造方法、粒径が特に小さくても内部量子効率が高い窒化物蛍光体粉末、および該窒化物蛍光体粉末からなる顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体粉末は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)等に幅広く用いられている。窒化物蛍光体の1つとして、Ca1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)が知られており、特に賦活元素AをEuとした赤色窒化物蛍光体であるCa1−xSrAlSiN:Euが広く用いられている。
【0003】
従来用いられてきた窒化物蛍光体粉末は粒径がミクロンサイズのものであるが、近年、粒径が1μmよりも小さい蛍光体粉末に関心が集まっている。
【0004】
例えば、特許文献1にあるように、蛍光体粉末を分散させた液状物をLEDチップ等に塗布する際、塗布液中で蛍光体粒子が沈殿すると、塗布される蛍光体の濃度が時間とともに変化するため、色むらの原因となることが知られている。ストークス式によれば沈殿速度は粒径の2乗に比例することから、沈殿抑制のためにより粒径の小さい蛍光体粉末が求められる。
【0005】
また、蛍光体粉末は顔料の用途も知られているが、顔料を溶媒中に分散させ平滑な薄膜を作製するうえでは、より粒径の小さい蛍光体粉末が求められる。
【0006】
非特許文献1には、市販のCaH、AlN、α−Si、Eu各粉末を混合し、窒素雰囲気中、1300℃で3時間焼成した後、生成した粉末を10%硝酸溶液で洗浄することにより得られる、粒径200〜400nmのCaAlSiN:Eu窒化物蛍光体粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−166886号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemistry Letters 39, 104−105(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1の製造手段では、比較的小さい粒径の蛍光体粉末は得られるものの、母体結晶であるCa1−xSrAlSiNの結晶化が抑制され、高い内部量子効率を有するCa1−xSrAlSiN系の窒化物蛍光体粉末は得られない。また、一般的なCa1−xSrAlSiN系の窒化物蛍光体粉末を粉砕することで、その粒径を数百nm程度にまで小さくすることは可能ではあるが、粉砕に伴って粒子表面の欠陥が増加し、また結晶性も低下して、蛍光体粉末の、内部量子効率を含む発光特性が悪化することが知られており、焼成後の粉砕によって粒径をサブミクロンサイズ以下に調整する手段では実用的な蛍光体粉末は得られない。さらに、Ca1−xSrAlSiN系の窒化物蛍光体粉末の製造工程に、強力な粉砕を行う工程が必要にもなり、製造コストが大きくなる。
【0010】
また、予め粉砕等の処理により微粒化した原料粉末を用いたとしても、高い内部量子効率を有するCa1−xSrAlSiN系の窒化物蛍光体粉末を得るためには反応温度を上げる必要があり、最終的に得られる窒化物蛍光体粉末の粒径は大きくなると考えられる。また、粉砕等の工程に伴う不純物混入により、内部量子効率を含む発光特性が悪化すると考えられる。さらに、粉砕等の工程追加により製造コストが増加する。
【0011】
そこで本発明は、粒径が小さいにも関わらず内部量子効率が高いCa1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、原料の粉砕や焼成後の粉砕を必要としない低コストな、粒径が小さい前記Ca1−xSrAlSiN:Aで表される窒化物蛍光体粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、粒径が小さいにも関わらず内部量子効率が高いCaAlSiN:Eu(但し、Euは賦活元素である)で表される窒化物蛍光体粉末、ならびに前記窒化物蛍光体粉末からなる顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題に鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、Al源として、特定のAl−N−H系化合物粉末を用いることによって、低温の焼成で、内部量子効率が高いCa1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末を合成できることを見出し、さらに、前記窒化物蛍光体粉末が、粒径が小さいにもかかわらず、内部量子効率が高いことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、Ca1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末の製造方法であり、Ca源と、Al源と、Si源と、A源と、任意成分としてのSr源とを混合して混合粉末を調製し、該混合粉末を焼成する、窒化物蛍光体粉末の製造方法であって、前記Al源が、イミド基および/またはアミド基を含有するAl−N−H系化合物粉末であることを特徴とする窒化物蛍光体粉末の製造方法に関する。
【0015】
また本発明は、前記Si源が、含窒素シラン化合物粉末または非晶質Si−N(−H)系化合物粉末であることを特徴とする前記窒化物蛍光体粉末の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、前記Si源がシリコンジイミド粉末であることを特徴とする前記窒化物蛍光体粉末の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、前記賦活元素AがEuであることを特徴とする前記窒化物蛍光体粉末の製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、前記混合粉末を焼成する際の温度が1100℃〜1400℃であることを特徴とする前記窒化物蛍光体粉末の製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、CaAlSiN:Eu(但し、Euは賦活元素である)で表される窒化物蛍光体粉末であって、BET法によって測定された比表面積から換算される球相当径DBETが0.15μm〜0.4μmであり、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が635nm〜690nmの波長域にある蛍光を発し、その際の内部量子効率が45%以上であることを特徴とする窒化物蛍光体粉末に関する。
【0020】
また本発明は、前記窒化物蛍光体粉末を含有する顔料に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粒径が小さいにも関わらず内部量子効率が高いCa1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末の製造方法を提供することができる。また、粒径が小さいにも関わらず内部量子効率が高いCaAlSiN:Eu(但し、Euは賦活元素である)で表される窒化物蛍光体粉末、ならびに前記窒化物蛍光体粉末からなる顔料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1に係る窒化物蛍光体粉末のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
図2】比較例7に係る窒化物蛍光体粉末のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法に係る窒化物蛍光体粉末は、Ca1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末である。
【0024】
はじめに、本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法を説明する。
【0025】
本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法は、Ca1−xSrAlSiN:A(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦0.8である)で表される窒化物蛍光体粉末の製造方法であり、Ca源と、Al源と、Si源と、A源と、任意成分としてのSr源とを混合して混合粉末を調製し、該混合粉末を焼成する、窒化物蛍光体粉末の製造方法であって、前記Al源として、イミド基および/またはアミド基を含有するAl−N−H系化合物粉末を用いることを特徴とする。ここで、Ca1−xSrAlSiN:Aとの表記は、「:」の前の化学式が蛍光体の母体結晶を表し、「:」の後の元素が蛍光体の発光中心になる賦活元素を表す。賦活元素のAは、Srと同様に、CaAlSiNのCaサイトを置換するので、例えばAがEuである場合、蛍光体の組成比を反映した化学式は、蛍光体1モルあたりに賦活されるAのモル数をzとすると、EuCa1−x−zSrAlSiNで表されるものである。またAがCe、Pr、NdおよびSmから選ばれる一種以上の元素を含む場合は、電荷補償のためのLiやO等の元素が含まれていても良い。
【0026】
本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法に係る窒化物蛍光体は、Ca1−xSrAlSiN:Aにおけるxの範囲が0≦x≦0.8であることが好ましく、0≦x≦0.5であることがより好ましく、0≦x≦0.3であることがさらに好ましい。
【0027】
Ca源としては、金属Ca、あるいはCa元素を含む各種化合物を使用可能であるが、窒化カルシウム又は水素化カルシウムを用いることが好ましい。
【0028】
Al源としては、イミド基および/またはアミド基を含有するAl−N−H系化合物粉末を用いる。本発明に用いるAl−N−H系化合物粉末は、Al元素、N元素、H元素からなり、イミド基(−NH)および/またはアミド基(−NH)を含有し、これらの置換基が、アルミニウム原子に一つ以上結合している化合物からなる粉末である。前記Al−N−H系化合物粉末は、得られる窒化物蛍光体粉末の発光特性に影響を与えない範囲で微量の不純物を含有していても良いが、前記Al−N−H系化合物粉末中の炭素含有量は質量基準で5%以下であることが好ましく、2%以下であることが特に好ましい。Al−N−H系化合物粉末中の炭素含有量が質量基準で5%以下であれば、焼成して得られる窒化物蛍光体粉末に残留する炭素の量が少なくなるため、窒化物蛍光体粉末が黒味を帯びたりせず、特に良好な発光特性の窒化物蛍光体粉末が得られる。
【0029】
前記Al−N−H系化合物粉末としては、組成式Al(NH)で表されるAl−N−H系化合物粉末が特に好ましい。組成式Al(NH)で表されるAl−N−H系化合物粉末は、例えばトリエチルアルミニウムをデカン溶媒中に溶解させ、溶媒を加熱還流させながらアンモニアガスと反応させた後、デカンを留去することにより得られる粉末を、アンモニア流通下で210〜290℃に加熱することにより得られる。この方法により得られる、組成式Al(NH)で表されるAl−N−H系化合物粉末は、特に炭素含有量が少なく、質量基準で通常2%以下である。
【0030】
前記Al−N−H系化合物粉末中の酸素含有量は、質量基準で2%以下であることが好ましい。原料中の酸素含有量が質量基準で2%以下であれば、焼成して得られる窒化物蛍光体粉末に残留する酸素の量が少なくなり、特に良好な発光特性の窒化物蛍光体粉末が得られる。
【0031】
本発明に係るAl−N−H系化合物粉末をAl源として用いると、従来より低温で焼成しても、高い内部量子効率を有する窒化物蛍光体粉末が合成できるのは、次のような理由によると考えられる。前記Al−N−H系化合物粉末は高い反応性を有する非晶質の粉末である。これを原料に用いると、他の原料と低温で反応し、非晶質ではあるが組成上はCaAlSiNに準ずるような化合物が生成すると考えられる。焼成時に、低温の段階でこのような前駆体に相当する化合物が形成されることから、焼成温度を低くしてもCaAlSiNの結晶化が進行し、実用的な内部量子効率を有する窒化物蛍光体粉末を得ることができる。また、低温の焼成で実用的な内部量子効率を有する窒化物蛍光体粉末が合成できるため、粒子成長を抑制することができ、微粒の窒化物蛍光体粉末を得ることが出来る。
【0032】
Al源として、前記Al−N−H系化合物粉末以外の、一般的なAl源、例えば窒化アルミニウム粉末等を併用することも可能であるが、Al源の全量を前記Al−N−H系化合物粉末とすることが好ましい。
【0033】
前記窒化物蛍光体粉末の製造方法におけるSi源としては、金属SiあるいはSi元素を含む各種化合物、例えば窒化珪素を使用可能であるが、含窒素シラン化合物粉末または非晶質Si−N(−H)系化合物粉末を用いることが好ましく、含窒素シラン化合物粉末の一種であるシリコンジイミド粉末を用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明における含窒素シラン化合物粉末とは、以下の組成式(1)で表される化合物からなる粉末のことであり、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等からなる粉末のことをいう。本発明においては、便宜的に、以下の組成式(1)においてy=8〜12で表される含窒素シラン化合物をシリコンジイミドと表記し、このシリコンジイミドからなる粉末をシリコンジイミド粉末という。
Si(NH)(NH24−2y・・・・(1)
(ただし、式中y=0〜12であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む。)
【0035】
これらは、公知方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法等によって製造される。
【0036】
本発明における非晶質Si−N(−H)系化合物粉末とは、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンクロルイミド等の含窒素シラン化合物の一部又は全てを加熱分解して得られるSi、N及びHの各元素を含む非晶質のSi−N−H系化合物粉末、または、Si及びNを含む非晶質窒化珪素粉末のことであり、以下の組成式(2)で表される。なお、本発明においては、非晶質Si−N(−H)系化合物は、以下の組成式(2)において、x=0.5で表されるSi(NH)10.5からx=4で表される非晶質Si(非晶質窒化珪素)までの一連の化合物を総て包含しており、x=3で表されるSi(NH)はシリコンニトロゲンイミドと呼ばれている。
Si2x(NH)12−3x・・・・(2)
(ただし、式中x=0.5〜4であり、組成式には明記しないが、不純物としてハロゲンを含有する化合物を含む。)
【0037】
また、本発明における非晶質Si−N(−H)系化合物粉末としては、公知方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に1200℃以下の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素等のハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法等によって製造されたものが用いられる。
【0038】
A源(但し、Aは賦活元素であり、Eu、Ce、Pr、Nd、Sm、およびYbから選ばれる1種以上の元素である)となる物質としては、金属A、あるいはA元素を含む各種化合物を使用可能であるが、Aの窒化物又はAの酸化物を用いることが好ましい。Aの窒化物は、金属Aの直接窒化により得ることができる。
【0039】
Aとしては、蛍光特性が良好な赤色蛍光体であるCa1−xSrAlSiN:Euを構成できるので、Euであることが好ましい。
【0040】
AがEuの場合、Eu源としては、金属EuあるいはEu元素を含む各種化合物を使用可能であるが、窒化ユウロピウム又は酸化ユウロピウムを用いることが好ましい。窒化ユウロピウムは、金属Euの直接窒化により得ることができる。
【0041】
得られる窒化物蛍光体粉末が、Ca1−xSrAlSiN:Aにおいて、xが0より大きい場合は、上述した原料に、さらにSr源を加えて混合して混合粉末を調製する。Sr源としては、金属SrあるいはSr元素を含む各種化合物を使用可能であるが、窒化ストロンチウムを用いることが好ましい。窒化ストロンチウムは、金属Srの直接窒化により得ることができる。
【0042】
ただし、混合粉末を焼成する際の雰囲気が窒素含有雰囲気でない場合は、前記混合粉末には、所望の組成の窒化物蛍光体粉末が得られるに十分なN原子が含まれている必要があり、Al−N−H系化合物粉末の、Alに対するNのモル比N/Alが3未満の場合は、Al−N−H系化合物粉末以外の原料のうち、少なくとも一つの原料が、窒素を含む化合物である必要がある。
【0043】
Ca源と、Al源と、Si源と、A源と、任意成分としてのSr源とを混合して混合粉末を調製する方法については、特に制約は無く、公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と反応しない溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。
【0044】
ただし、前記Al−N−H系化合物粉末は、空気中の酸素や水分に対して非常に不安定である。空気との接触による劣化を防ぐため、窒素ガス、アルゴンガス等の乾燥した不活性ガス雰囲気中で混合粉末の調製を行うことが好ましい。
【0045】
得られた混合粉末を焼成することで、本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法に係る窒化物蛍光体粉末を得ることができる。混合粉末を焼成する際の温度条件は、Ca1−xSrAlSiNの結晶が生成する温度条件であれば特に制限されない。前記Al−N−H系化合物粉末は、窒化物蛍光体粉末製造用のAl源として一般的に用いられる窒化アルミニウム粉末等に比べて反応性が高いため、Al−N−H系化合物粉末を用いた場合には1100℃〜1200℃程度の比較的低温で焼成してもCa1−xSrAlSiNの結晶化が進行し、Ca1−xSrAlSiN:Aで表される窒化物蛍光体として実用的な内部量子効率を示す。焼成温度が低いほど、得られる窒化物蛍光体粉末の粒径、具体的にはBET法によって測定された比表面積から換算される球相当径DBETを小さくできるので、その観点からは、焼成温度を1100℃〜1400℃とすることが好ましい。また、DBETを小さい範囲に保ちながら内部量子効率を高くするには、焼成温度を1150℃〜1350℃とすることが好ましい。
【0046】
前記混合粉末を焼成する際の、最高温度で保持する時間は、通常0.5時間〜30時間程度であり、1時間〜15時間程度であることがより好ましい。保持時間が短すぎると、Ca1−xSrAlSiNの結晶化が十分に進行せず、窒化物蛍光体としての内部量子効率が低下する可能性がある。
【0047】
前記混合粉末を焼成する際の雰囲気ガスは、原料や生成物と反応しないものであれば特に制限されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素やアンモニア等の還元性ガス等を用いることができるが、工業上の経済性を考慮すれば、窒素ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0048】
前記混合粉末を焼成する際の、雰囲気圧力に制限はなく、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でも選択することが出来るが、工業的な見地からは、経済的な常圧であることが好ましい。前記Al−N−H系化合物粉末は、窒化物蛍光体粉末製造用のAl源として一般的に用いられる窒化アルミニウム粉末等に比べて反応性が高いため、常圧条件下でもCa1−xSrAlSiNの結晶化が進行しやすい。
【0049】
前記混合粉末の焼成に用いる加熱炉としては、以上の温度条件および雰囲気に調整できる加熱炉であれば特に制約はなく、例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャー式電気炉などを用いることができる。また、焼成時に前記混合粉末を収容するルツボの材質としては、窒化ホウ素製、アルミナ製、モリブデン製などを用いることができる。
【0050】
以上の方法により、焼成後の粉砕を行うことなく、粒径が小さいにも関わらず内部量子効率が高い窒化物蛍光体粉末を得ることができる。
【0051】
次に、本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法によって得られる、特に好ましい窒化物蛍光体粉末(以下、本発明の窒化物蛍光体粉末と記す)について説明する。
【0052】
本発明の窒化物蛍光体粉末は、CaAlSiN:Eu(但し、Euは賦活元素である。)で表される窒化物蛍光体粉末であって、BET法によって測定された比表面積から換算される球相当径DBETが0.15μm〜0.4μmであり、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が635nm〜690nmの波長域にある蛍光を発し、その際の内部量子効率が45%以上であることを特徴とする。
【0053】
本発明の窒化物蛍光体粉末において、Eu元素の含有量としては、CaAlSiN:Eu(但し、Euは賦活元素である)を一般式EuCa1−zAlSiNで表した場合、0<z≦0.2であることが好ましく、0.005≦z≦0.05であることがより好ましい。発光中心になるEu元素の含有量がこの範囲であれば、Eu元素の含有量が少ないことに起因する励起光の吸収効率低下も、Eu元素の含有量が多いことに起因する濃度消光も生じず、本発明の窒化物蛍光体粉末は、特に高い発光効率を有することができる。
【0054】
本発明の窒化物蛍光体粉末の球相当径DBETは、0.15μm〜0.4μmである。DBETを0.15μm〜0.4μmにまで低減することで、可視光の散乱抑制による光のロスの低減、塗布液中の蛍光体粒子の沈殿抑制による色むらの防止、ならびに平滑な薄膜の形成が可能となる。また、DBETは0.15μm〜0.35μmであることが特に好ましい。
【0055】
ここで球相当径DBETは、式(3)によって定義されるものとする。
BET(μm)=6/真密度(g/cm)/比表面積(m/g)・・・(3)
【0056】
本発明の窒化物蛍光体粉末は、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が635nm〜690nmの波長域にある蛍光を発し、その際の内部量子効率が45%以上である。本発明の窒化物蛍光体粉末は、DBETが0.15μm〜0.4μmの、CaAlSiN:Euで表される窒化物蛍光体粉末としては、従来にない高い内部量子効率を有する新規な蛍光体粉末である。
【0057】
前記窒化物蛍光体粉末は、炭素含有量が質量基準で0.2%以下であることが好ましい。炭素含有量が多いと、窒化物蛍光体粉末が黒味を帯びるなどし、性能低下の原因となる。
【0058】
前記窒化物蛍光体粉末は、酸素含有量が質量基準で3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。酸素含有量が多いと、蛍光体の性能低下の原因となる。
【0059】
前記窒化物蛍光体粉末は、Ca、Al、Si、Eu以外の金属不純物含有量が質量基準で1%以下であることが好ましい。金属不純物も蛍光体の性能低下の原因となる。
【0060】
本発明の窒化物蛍光体粉末は、上述した、本発明に係る窒化物蛍光体粉末の製造方法において、A源をEuとしてCa1−xSrAlSiN:AのAをEuとし、Sr源を原料に用いずに混合粉末を調製し焼成してxを0とすることによって得ることができる。
【0061】
本発明の窒化物蛍光体粉末は顔料としても有用である。本発明の窒化物蛍光体粉末は、太陽光等の白色光、あるいは紫外光の照射下で発色が良く、安定な無機化合物であるため発色の経時変化が少なく、また、粒子径が小さい。したがって、本発明の窒化物蛍光体粉末を含有する顔料は、発色が良く、耐久性が良く、また、薄く平滑な顔料層を構成できる。本発明の窒化物蛍光体粉末は、色を調整する目的などで他の顔料等と混合して使用しても良いし、それのみで橙色〜赤色の顔料として使用しても良い。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0063】
<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の酸素含有量、窒素含有量の測定方法>
窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の酸素含有量、窒素含有量は、粉末試料をスズカプセルに投入し、これをニッケルバスケットに入れたものを、LECO製酸素・窒素・水素分析装置(TCH600型)により測定した。酸素含有量は不活性ガス雰囲気高温溶融−赤外線吸収測定法、窒素含有量は不活性ガス雰囲気高温溶融−熱伝導度測定法で、それぞれ検出した。
【0064】
<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の炭素含有量の測定方法>
窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の炭素含有量は、LECO製炭素分析装置(IR−412型)を用い、高周波燃焼−赤外線吸収法により測定した。
【0065】
<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の比表面積の測定方法>
窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の比表面積は、島津製流動式比表面積自動測定装置(フローソーブIII2310型)を用い、BET1点法により測定した。
【0066】
<窒化物蛍光体粉末の不純物金属含有量の測定方法>
窒化物蛍光体粉末の不純物金属含有量は、リガク製走査型蛍光X線分析装置(ZSX Primus型)を用い、FP法により測定した。
【0067】
<窒化物蛍光体粉末の真密度の測定方法>
窒化物蛍光体粉末の真密度は、Quantachrome製ウルトラピクノメーター(UPY−2型)を用い、ヘリウムガスによるガス置換法で測定した。
【0068】
<窒化物蛍光体粉末の発光特性の測定方法>
日本分光製分光蛍光光度計(FP−6500型)を用い、150Wキセノンランプによる波長450nmの青色光を窒化物蛍光体粉末に照射し、窒化物蛍光体粉末の内部量子効率を測定した。
【0069】
<参考例1>
ガラス製三口フラスコに、ガス導入用三方コック、温度計用さや管、留分を受ける二つ口ナスフラスコと組み合わせた分留管を設置した。これらの器具は130℃のオーブンで事前に充分乾燥し、更に組み立てた後に真空下でホットブラスターにより加熱して、内壁表面に付着した水分を除去した。こうして乾燥し、内部をNガス雰囲気に保持して密閉した装置を同じくN雰囲気のグローブボックスに入れた。グローブボックス出口ガスの酸素濃度と露点を測定し、酸素と水分が少ない雰囲気であることを確認した後、トリエチルアルミニウムへキサン溶液(和光純薬製、1mol/L)およびデカン(水分10ppm以下)を前記の三口フラスコに導入した。充分に混合した後、ガラス装置全体を密閉状態に保持してグローブボックスから取り出した。
【0070】
ガラス製三口フラスコをオイルバスによって加熱し、内部液をマグネチックスターラーで攪拌しながら内部のトリエチルアルミニウム溶液中にアンモニアガスをバブリングした。まず、オイルバス温度を120℃に保ち、反応混合物中のヘキサンを留去して、分留管に接続した二つ口ナスフラスコに受けた。ヘキサンの留去が終了した後、オイルバス温度を180℃に上げると、白色沈殿が析出し始め、反応の進行が確認された。こうしてアンモニアガスを継続して供給しながらオイルバス温度180℃(フラスコ内のスラリー液温度170℃)で4時間反応を行った。
【0071】
次にオイルバス温度を200℃に上げ、生成した白色沈殿を含有するスラリーからデカンを留去した。デカンの留去操作においても、アンモニアガスは継続して供給した。次いでアンモニアガスの供給を止め、装置全体を密閉状態としてグローブボックスに入れ、主として(C)Al(NH)からなる白色固体を回収した。
【0072】
グローブボックス内にて、上記白色固体を両末端に三方コックを設置したガラス管に充填した。この三方コック及びガラス管は、前記の有機アルミニウム化合物溶液とアンモニアの反応に用いたガラス器具と同様の方法で乾燥したものである。このガラス管にヒーターを取り付け、下部側コックよりアンモニアガスを供給しながら白色固体充填層を加熱した。加熱においては、ヒーター温度を230℃に保ち2時間加熱した後、ヒーター温度を270℃に上げてさらに2時間加熱した。加熱終了後、グローブボックス内にて組成式Al(NH)で表される白色粉末(以下、この白色粉末を「Al(NH)粉末」と称することがある。)を回収した。得られたAl(NH)粉末について、酸素含有量は1.7質量%、窒素含有量は38.7質量%(理論値:42.4質量%)、炭素含有量は0.37質量%であり、またCyDTA-亜鉛逆滴定法(JIS R1675:2007準拠)により測定したAl含有量は55.8質量%(理論値:54.5質量%)であったことから、得られた粉末の組成がAl(NH)に相当すると確認した。BET1点法で測定した比表面積は849m/gであった。
【0073】
以下の実施例、比較例に示す窒化物蛍光体粉末の合成に用いた原料は下記の通りである。
【0074】
Al(NH)粉末:参考例1により合成したAl(NH)粉末
窒化アルミニウム粉末:トクヤマ製、Eグレード
窒化珪素粉末:宇部興産製、SN−E10
シリコンジイミド粉末:特開平9−156912号公報の実施例1に記載の方法により合成したシリコンジイミド粉末
窒化カルシウム粉末:Alfa Aesar製、純度99%
水素化カルシウム粉末:Aldrich製、純度99.99%
窒化ユウロピウム粉末:国際公開2006/080535号の実施例1に記載の方法により合成した窒化ユウロピウム粉末
酸化ユウロピウム粉末:Aldrich製、純度99.5%
窒化ストロンチウム粉末:金属Sr(高純度化学研究所製、塊状)を鑢で削って得られた平均粒子径350μm以下の粉末を、カーボン製ルツボに仕込み、常圧の窒素雰囲気中、800℃で6時間焼成して窒化した後、平均粒子径150μm以下になるまで粉砕して得られた窒化ストロンチウム粉末
【0075】
<実施例1>
Ca源として窒化カルシウム粉末、Al源としてAl(NH)粉末、Si源として窒化珪素粉末、Eu源として窒化ユウロピウム粉末を用い、これらの粉末を窒素雰囲気中でCa:Al:Si:Eu=0.98:1:1:0.02のモル比で秤量し、PTFE製ボール(ボール径12.7mm)とともにステンレス製容器に入れ、レッチェ製ミキサーミル(MM400型)により、15Hzの振動数で30分間混合し、混合粉末を得た。
【0076】
得られた混合粉末を窒素雰囲気中で窒化ホウ素製ルツボに仕込み、焼成を行った。焼成は、窒素流通量1L/分(常温、常圧基準)の、常圧の窒素雰囲気中、5℃/分の昇温速度で加熱し、1250℃で6時間保持して行った。焼成後、生成した窒化物蛍光体粉末を回収した。
【0077】
得られた窒化物蛍光体粉末について、リガク製X線回折装置(Ultima IV Protectus)を用いたX線回折分析によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0078】
得られた窒化物蛍光体粉末について、<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の酸素含有量、窒素含有量の測定方法>にて説明した方法による酸素含有量および窒素含有量の測定、<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の炭素含有量の測定方法>にて説明した方法による炭素含有量の測定、<窒化物蛍光体粉末の不純物金属含有量の測定方法>にて説明した方法による不純物金属含有量の測定を行った。また、得られた窒化物蛍光体粉末について、<窒化物蛍光体粉末およびAl(NH)粉末の比表面積の測定方法>と<窒化物蛍光体粉末の真密度の測定方法>にて説明した方法で比表面積と真密度を測定し、これらの値を用いて球相当径DBETを求めた。また、<窒化物蛍光体粉末の発光特性の測定方法>にて説明した方法で、得られた窒化物蛍光体粉末の内部量子効率を測定した。また、その際に得られた発光スペクトルから蛍光ピーク波長を求めた。
【0079】
得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.5質量%、窒素含有量は29.0質量%(理論値:30.6質量%)であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末の比表面積は5.49m/g、真密度は3.10g/cmであり、これらの測定値から換算された球相当径DBETは0.35μmであった。またこの粉末の、JEOL製走査電子顕微鏡(JSM−6510型)により撮影されたSEM写真を図1に示す。走査電子顕微鏡により観察された粒子のサイズはDBETの値に整合していることが確認された。
【0080】
得られた窒化物蛍光体粉末の、450nmの青色光で励起した場合の発光スペクトルのピーク波長は670.0nmで、内部量子効率は60%であった。実施例1の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0081】
また、得られた窒化物蛍光体粉末の炭素含有量は0.11質量%、蛍光X線分析により検出されたCa、Al、Si、Eu以外の不純物金属はSr(0.05質量%)のみであった。
【0082】
<実施例2>
Si源としてシリコンジイミド粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例2の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0083】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.8質量%、窒素含有量は28.8質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.32μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は668.5nmで、内部量子効率は66%であった。実施例2の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0084】
<比較例1>
Al源を窒化アルミニウム粉末に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例1の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0085】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.2質量%、窒素含有量は29.5質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.58μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は664.5nmで、内部量子効率は51%であった。Al源として窒化アルミニウム粉末を用いた比較例1の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用いた実施例1の窒化物蛍光体粉末、さらにAl源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例2の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0086】
<比較例2>
比較例1で用いたものと同じ窒化アルミニウム粉末(DBET:0.59μm)を、窒化珪素製ボール(ボール径5mm)とともにPTFE製容器に入れ、実施例1で用いたミキサーミルにより30Hzの振動数で60分振動させて粉砕し、DBETが0.26μmの窒化アルミニウム粉末を得た。Al源として、粉砕して得られた、この窒化アルミニウム粉末を用いたこと以外は比較例1と同様の方法により、比較例2の窒化物蛍光体粉末を製造した。
【0087】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.0質量%、窒素含有量は29.0質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.58μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は661.0nmで、内部量子効率は50%であった。Al源にDBETが小さい原料を用いても、得られる窒化物蛍光体粉末のDBETは、比較例1の窒化物蛍光体粉末と比べても小さくならなかった。また、Al源としてAl(NH)粉末を用いた実施例1の窒化物蛍光体粉末、さらにAl源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例2の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0088】
<実施例3>
Ca源を水素化カルシウム粉末に変更したことと、混合粉末を1150℃で12時間保持して焼成したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例3の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0089】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.8質量%、窒素含有量は29.2質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.21μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は661.5nmで、内部量子効率は33%であった。実施例3では、1150℃という、CaAlSiN蛍光体としては非常に低い温度で焼成したにも関わらず、CaAlSiN結晶相が生成し、Euの賦活に由来する発光が認められ、CaAlSiN:Euで表される蛍光体の生成が確認された。また、実施例3の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、蛍光体として実用に値する内部量子効率を示した。
【0090】
<比較例3>
Al源を窒化アルミニウム粉末に変更したこと以外は実施例3と同様の方法により、比較例3の窒化物蛍光体粉末を製造した。
【0091】
得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりDBETを求め、実施例1と同じ方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末のDBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.39μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は644.5nmで、内部量子効率は2%と非常に低く、実質的に蛍光を発しなかった。Al源としてAl(NH)粉末を用いた実施例3とは異なり、実質的な蛍光体は得られなかった。
【0092】
<実施例4>
Si源をシリコンジイミド粉末に変更したことと、混合粉末を1350℃で6時間保持して焼成したこと以外は実施例3と同様の方法により、実施例4の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0093】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は0.8質量%、窒素含有量は29.7質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.67μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は663.5nmで、内部量子効率は71%であった。実施例4の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μmよりは大きいものの、サブミクロンサイズの粒径を持ち、特に高い内部量子効率を示した。
【0094】
<比較例4>
Al源を窒化アルミニウム粉末、Si源を窒化珪素粉末に変更したこと以外は実施例4と同様の方法により、比較例4の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0095】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は0.7質量%、窒素含有量は29.5質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.87μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は664.0nmで、内部量子効率は61%であった。比較例4の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例4の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0096】
<実施例5>
Eu源を酸化ユウロピウムに変更したことと、混合粉末を1250℃で3時間保持して焼成したこと以外は実施例2と同様の方法により、実施例5の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0097】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.8質量%、窒素含有量は28.7質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.31μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は662.5nmで、内部量子効率は62%であった。実施例5の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0098】
<比較例5>
Al源を窒化アルミニウム粉末、Si源を窒化珪素粉末に変更したこと以外は実施例5と同様の方法により、窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0099】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.2質量%、窒素含有量は29.7質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.56μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は661.0nmで、内部量子効率は49%であった。比較例5の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例5の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0100】
<実施例6>
混合粉末を1200℃で6時間保持して焼成したこと以外は実施例2と同様の方法により、実施例6の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0101】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.8質量%、窒素含有量は28.0質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.27μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は662.5nmで、内部量子効率は61%であった。実施例6の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0102】
<比較例6>
Al源を窒化アルミニウム粉末に変更したこと以外は実施例6と同様の方法により、比較例6の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0103】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.5質量%、窒素含有量は29.1質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.55μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は657.0nmで、内部量子効率は25%であった。比較例6の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例6の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0104】
<実施例7>
Eu源を酸化ユウロピウム粉末に変更したことと、混合粉末を1300℃で3時間保持して焼成したこと以外は実施例4と同様の方法により、実施例7の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。
【0105】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.8質量%、窒素含有量は28.9質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.33μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は668.5nmで、内部量子効率は66%であった。実施例7の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0106】
<比較例7>
Al源を窒化アルミニウム粉末、Si源を窒化珪素粉末に変更したこと以外は実施例7と同様の方法により、比較例7の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりCaAlSiNの結晶相が生成していることを確認した。なお、比較例7の窒化物蛍光体粉末は、非特許文献1に具体的に開示されている製造方法と同様の方法により得られた窒化物蛍光体粉末である。
【0107】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により走査電子顕微鏡観察を行い、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の、走査電子顕微鏡により撮影されたSEM写真を図2に示す。得られた窒化物蛍光体粉末は、図2によれば広い粒度分布を持つ粉末のようであり、粒子径が400nm以下の粒子が確認される一方で、1μm程度の比較的大きな粒子が多く確認された。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.6質量%、窒素含有量は29.0質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.59μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は664.5nmで、内部量子効率は57%であった。比較例7の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用い、Si源としてシリコンジイミド粉末を用いた実施例7の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。低い焼成温度では、Al源に従来のAl源を用いても、Al源にAl(NH)粉末を用いた場合のようには母体結晶の結晶化が進まなかったためと考えられる。
【0108】
<比較例8>
比較例7で得られた窒化物蛍光体粉末を、窒化珪素製ボール(ボール径5mm)とともにPTFE製容器に入れ、実施例1で用いたミキサーミルにより30Hzの振動数で30分振動させて粉砕し、比較例8の窒化物蛍光体粉末を製造した。
【0109】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は3.0質量%、窒素含有量は27.9質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.28μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は664.0nmで、内部量子効率は39%であった。比較例8の窒化物蛍光体粉末は、比較例7の窒化物蛍光体粉末を粉砕することで、DBETを0.4μm以下にすることはできたが、内部量子効率は著しく低下した。粉砕に伴って、酸素含有量が増加していることが確認された。
【0110】
<比較例9>
原料のモル比をCa:Al:Si:Eu=0.992:1:1:0.008として、窒化カルシウム粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化珪素粉末、および窒化ユウロピウム粉末を秤量し混合したことと、得られた混合粉末を1700℃で6時間保持して焼成したことと、焼成時の雰囲気を0.8MPaの窒素雰囲気としたこと以外は比較例1と同様の方法により窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末を、窒化珪素製ボール(ボール径5mm)とともにPTFE製容器に入れ、実施例1で用いたミキサーミルにより30Hzの振動数で75分振動させて粉砕し、比較例9の窒化物蛍光体粉末を製造した。
【0111】
また、得られた粉砕前後の窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表1に示す。
【0112】
BETは、粉砕前の窒化物蛍光体粉末が4.5μmであり、粉砕後の窒化物蛍光体粉末が0.48μmであった。450nmの青色光で励起した場合の、内部量子効率は、粉砕前の窒化物蛍光体粉末が84%であり、粉砕後の窒化物蛍光体粉末が21%であった。高温で焼成して得られた、DBETが大きく高い内部量子効率を示す窒化物蛍光体粉末を粉砕すると、DBETは小さくなるものの、著しく内部量子効率が低下することが確認された。また、実施例1と同様の方法により測定した、粉砕後の窒化物蛍光体粉末の炭素含有量は0.35質量%と大きく、粉砕の影響と推察された。
【0113】
以上の通り、Al源に特定のAl−N−H系化合物粉末を用いる、本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法によって、低温の焼成で、粉砕を要さずに、実用的な発光特性を示す、小さなDBETのCaAlSiN:Euで表される窒化物蛍光体粉末を製造できることが確認できた。Al源に特定のAl−N−H系化合物粉末を用いることによって、低温で蛍光体を合成できたため、粒子成長が抑制されながら、小さなDBETを持つ窒化物蛍光体粉末を合成できたものと推察される。また、本発明の窒化物蛍光体粉末の製造方法によって、DBETが0.15μm〜0.4μmと特に小さいながらも、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が635nm〜690nmの波長域にある蛍光を発し、その際の内部量子効率が45%〜70%を示す、従来にない、CaAlSiN:Euで表される窒化物蛍光体粉末が得られることが確認された。
【0114】
<実施例8>
原料のモル比をCa:Sr:Al:Si:Eu=0.78:0.20:1:1:0.02として、水素化カルシウム粉末、窒化ストロンチウム粉末、Al(NH)粉末、窒化珪素粉末、および酸化ユウロピウム粉末を秤量し混合したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例8の窒化物蛍光体粉末を製造した。
【0115】
得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりX線回折分析を行ったところ、CaAlSiN((Ca,Sr)AlSiN)に相当する回折ピークが確認され、CaAlSiN((Ca,Sr)AlSiN)以外に、Srを含む化合物の生成を示す回折線は確認されなかった。また得られた窒化物蛍光体粉末について、<窒化物蛍光体粉末の不純物金属含有量の測定方法>にて示した装置を用いて蛍光X線分析を行ったところ、19質量%のSrが検出された。これらの結果から、得られた窒化物蛍光体粉末は、CaAlSiN:Euの結晶格子中のCaが一部Srに置換されたCa0.8Sr0.2AlSiN:Euであることを確認した。また、焼成前の粉末質量に対する焼成後の粉末質量の割合は96.3%であり、理論値96.1%に良く一致した。
【0116】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表2に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.9質量%、窒素含有量は27.7質量%(理論値:28.2質量%)であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.26μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は666.0nmで、内部量子効率は48%であった。実施例8の窒化物蛍光体粉末は、DBETで0.4μm以下の、特に小さな粒径を持ちながらも、高い内部量子効率を示した。
【0117】
<比較例10>
Al源を窒化アルミニウム粉末に変更したこと以外は実施例8と同様の方法により、比較例10の窒化物蛍光体粉末を製造した。得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例1と同様の方法によりX線回折分析を行ったところ、CaAlSiN((Ca,Sr)AlSiN)に相当する回折ピークが確認され、CaAlSiN((Ca,Sr)AlSiN)以外に、Srを含む化合物の生成を示す回折線は確認されなかった。また得られた窒化物蛍光体粉末について、実施例8と同様の方法により蛍光X線分析を行ったところ、16質量%のSrが検出された。これらの結果から、得られた窒化物蛍光体粉末は、CaAlSiN:Euの結晶格子中のCaが一部Srに置換されたCa0.8Sr0.2AlSiN:Euであることを確認した。
【0118】
また、実施例1と同様の方法により、酸素含有量、窒素含有量およびDBETを求め、実施例1と同様の方法により発光特性を測定した。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量、窒素含有量、DBET、および、波長450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長と内部量子効率を表2に示す。得られた窒化物蛍光体粉末の酸素含有量は1.4質量%、窒素含有量は27.8質量%であった。また、得られた窒化物蛍光体粉末のDBETは0.69μmであり、450nmの青色光で励起した場合の蛍光ピーク波長は669.0nmで、内部量子効率は39%であった。比較例10の窒化物蛍光体粉末は、Al源としてAl(NH)粉末を用いた実施例8の窒化物蛍光体粉末と比較して、粒径が大きいにも関わらず、低い内部量子効率を示した。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
図1
図2