特許第6354327号(P6354327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354327
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】超音波流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01F1/66 101
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-105931(P2014-105931)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-222188(P2015-222188A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 康弘
【審査官】 細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−161876(JP,A)
【文献】 特開平5−011013(JP,A)
【文献】 特開2011−058883(JP,A)
【文献】 特開2008−122323(JP,A)
【文献】 特開2000−346686(JP,A)
【文献】 米国特許第05804739(US,A)
【文献】 米国特許第8473246(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内を流れる流体の流量を超音波を用いて測定する超音波流量計であって、
当該超音波流量計の動作を制御する制御部と、
超音波を出力するための出力信号を送信する超音波送信部と、
受信した信号を増幅してA/D変換する超音波受信部と、
前記超音波送信部に接続されて超音波を発振し前記超音波受信部に接続されて超音波を受信するトランスデューサと、
前記超音波送信部または前記超音波受信部と前記トランスデューサを接続する接続ケーブルと、
を備え、
前記制御部は、
前記超音波送信部からパルス信号を発振し、
前記パルス信号が前記接続ケーブルの前記トランスデューサ側の終端で反射した反射信号を前記超音波受信部で受信し、
前記パルス信号の発振時間と前記反射信号の受信時間とを用いて前記接続ケーブルにおける信号の伝播時間を算出することを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
当該超音波流量計は、2つの前記トランスデューサを用いて超音波の送信と受信を交互に切り換えることにより伝搬時間差にもとづいて流速を算出する透過式の超音波流量計であって、
前記トランスデューサまでの信号の伝播時間を測定する場合には、1つの前記トランスデューサに前記超音波送信部と前記超音波受信部を両方とも接続するように切り換えることを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路内を流れる流体の流量を超音波を用いて測定する超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波が物質を透過して伝搬する性質を利用して、流体が流れる配管の外側から超音波を出力(入射)し、かかる流体の流速および流量を測定する超音波流量計が知られている。超音波流量計の原理としては、伝搬時間差法、ドップラ法(反射相関法とも称される)等さまざまな方法を用いたものがある。
【0003】
上記の超音波流量計としては、例えば特許文献1の超音波流量計を挙げることができる。特許文献1の超音波流量計では、配管の上流側および下流側に一対の送受信超音波振動子(以下、トランスデューサと称する)を配置している。かかる超音波流量計では、上流側から下流側に向かう超音波の伝播時間、および下流側から上流側へ向かう超音波の伝搬時間の時間差を求めることにより、伝搬時間差法を利用して配管中を流れる流体の流速ひいては流量を算出することができる。また特許文献1の超音波流量計では、一方のトランスデューサから入射した超音波が、配管内を流れる流体に含まれる超音波反射体に反射した反射波を同じトランスデューサで受信することにより、反射相関法による流体の流速および流量を算出することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−181268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体の流速の算出方法について、以下に伝搬時間差法を例示して説明する。伝搬時間差法において、上流から下流へ向かう超音波の伝搬時間tu(以下、上流側伝搬時間tuと称する)、および下流から上流へ向かう超音波の伝搬時間td(以下、下流側伝搬時間tdと称する)は、以下の式1および式2のように表される。なお、式1および式2において、Lは管内を伝搬する距離(以下、伝搬距離Lと称する)、Cは流体中の音速、Vは管内の流速、θは管内の流速と超音波の伝搬方向との角度である。τは、管材、ライニング材、接続ケーブルなどの伝搬時間である。
tu=L/(C−Vcosθ)+τ …式1
td=L/(C+Vcosθ)+τ …式2
【0006】
下記の式3に示すように、上流側伝搬時間tuから下流側伝搬時間tdを減算することにより、伝搬時間差Δtが算出される。そして、算出した伝搬時間差を用いて式4により流体の流速を求め、求めた流速に配管の断面積を乗算することにより流量が求められる。なお、伝搬距離L、音速Cおよび角度θは既知であるものとする。
Δt=tu−td …式3
V≒(C/2Lcosθ)・Δt …式4
【0007】
ここで、流体中の音速Cは温度の影響を受けるため、温度変化により値が変動しやすい。そこで、変動しやすいパラメータである音速Cを消去するため、式5によって静止流体に対する伝搬時間tを求め、式6に示すように、求めた伝搬時間tを式4に代入して流速を算出する。これにより、音速Cの影響による誤差が除外される。
=1/2(td+tu)=(L/C)+τ …式5
V≒(L/2(t−τ)cosθ)Δt …式6
【0008】
上記式1〜式6を参照して説明したように、流速Vを求める際には、管材、ライニング材、接続ケーブルなどの伝搬時間τが必要となる。ここで、管材およびライニング材は、設置前に既知となっている値である。しかしながら、超音波流量計において変換器とトランスデューサを接続する接続ケーブルについては、材質はわかっているものの、その長さは設置現場において異なる。このため、接続ケーブルの伝搬時間τについては、現場において超音波流量計を設置する際に接続ケーブルの長さを実測し、実測した長さに応じて接続ケーブルごとの変換係数(同軸ケーブルの場合、5〜6nsec/m程度)を用いてその都度設定することになる。
【0009】
上記のように現場ごとに接続ケーブルの長さを実測する方法であると、作業効率が著しく低下する。このため、現状では、あらかじめ数種類の長さの接続ケーブルを用意し、その現場に適した接続ケーブルを用い、用いた接続ケーブルの長さに応じた伝搬時間τを設定していた。しかし、このような方法であると、使用しない接続ケーブルまでも運搬しなくてはならず、装置重量の増加を招いてしまう。
【0010】
また用いた接続ケーブルごとにそれに応じた伝搬時間τを設定しているものの、かかる伝搬時間τは実測値ではなく代表値であるため、必ずしも現場に即した値であるとは限らない。更に、接続ケーブルの長さを実測する場合、および数種類の長さの接続ケーブルのうち適した接続ケーブルを用いる場合のいずれにおいても、測定ミスや選択ミス等が生じると測定精度に影響を及ぼす可能性がある。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、ケーブル長の実測を行うことなく、現場に即した接続ケーブルの伝搬時間τを容易に設定することが可能な超音波流量計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる超音波流量計の代表的な構成は、管路内を流れる流体の流量を超音波を用いて測定する超音波流量計であって、当該超音波流量計の動作を制御する制御部と、超音波を出力するための出力信号を送信する超音波送信部と、受信した信号を増幅してA/D変換する超音波受信部と、 超音波送信部に接続されて超音波を発振し前記超音波受信部に接続されて超音波を受信するトランスデューサと、超音波送信部または超音波受信部とトランスデューサを接続する接続ケーブルと、を備え、制御部は、超音波送信部からパルス信号を発振し、パルス信号が接続ケーブルのトランスデューサ側の終端で反射した反射信号を超音波受信部で受信し、パルス信号の発振時間と反射信号の受信時間とを用いて接続ケーブルにおける信号の伝播時間を算出することを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、超音波送信部からパルス信号を発振し、かかるパルス信号が接続ケーブルの終端で反射した反射信号を受信するまでの時間により、接続ケーブルにおける信号の伝搬時間を算出することができる。したがって、ケーブル長の実測を行うことなく、接続ケーブルの伝搬時間を容易に設定することが可能である。また実際に使用される接続ケーブルを用いてその伝搬時間を算出するため、現場に即した接続ケーブルの伝搬時間τを設定することができる。
【0014】
当該超音波流量計は、2つのトランスデューサを用いて超音波の送信と受信を交互に切り換えることにより伝搬時間差にもとづいて流速を算出する透過式の超音波流量計であって、トランスデューサまでの信号の伝播時間を測定する場合には、1つのトランスデューサに超音波送信部と超音波受信部を両方とも接続するように切り換えるとよい。かかる構成によれば、伝搬時間差法によって流量測定を行う際に上述した利点を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ケーブル長の実測を行うことなく、現場に即した接続ケーブルの伝搬時間τを容易に設定することが可能な超音波流量計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態にかかる超音波流量計を例示する図である。
図2】本実施形態の超音波流量計における接続ケーブルの伝搬時間τの測定を説明する図である。
図3】超音波受信部において受信した信号の波形を例示する図である。
図4】超音波流量計の他の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる超音波流量計を例示する図である。本実施形態にかかる超音波流量計100は、一対となる上流側トランスデューサ110aと下流側トランスデューサ110bを用いて管路102の内部を流れる流体の流量を測定する。図1に示すように、本実施形態の超音波流量計100は、上流側トランスデューサ110a、下流側トランスデューサ110bおよび変換器120を含んで構成される。
【0019】
上流側トランスデューサ110aは、配管102内を流れる流体の流れ方向の上流側に取り付けられ、下流側トランスデューサ110bは、配管102内を流れる流体の流れ方向の下流側に取り付けられる。これらの上流側トランスデューサ110aおよび下流側トランスデューサ110bは、同軸ケーブルである接続ケーブル114a・114bによってそれぞれ変換器120(厳密には、変換器に収容されている超音波送信部126または超音波受信部128)に接続されている。
【0020】
変換器120は、制御部122、演算部124、超音波送信部126、超音波受信部128および切換部130を含んで構成される。制御部122は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により超音波流量計100の動作を管理および制御する。演算部124は、後述するように、パルス信号の発振時間と反射信号の受信時間とを用いて接続ケーブル114a・114bにおける信号の伝播時間を算出する。
【0021】
超音波送信部126は、上流側トランスデューサ110aまたは下流側トランスデューサ110bのうち、超音波の送信側となるトランスデューサに、超音波を出力するための信号である超音波入力信号(送信電圧)を送信する、すなわちパルサー(パルスジェネレーター)である。超音波受信部128は、上流側トランスデューサ110aまたは下流側トランスデューサ110bのうち、超音波またはその反射波を受信したトランスデューサの信号(受信信号)を増幅し、アナログ信号としての受信信号をデジタル信号に変換する(A/D変換する)。
【0022】
切換部130は、制御部122による制御に基づき、超音波送信部126および超音波受信部128と、上流側トランスデューサ110aおよび下流側トランスデューサ110bとの接続を切り換える。詳細には、切換部130は、上流側送信スイッチ132a、下流側送信スイッチ132b、上流側受信スイッチ134aおよび下流側受信スイッチ134bを含んで構成される。
【0023】
切換部130において、超音波送信部126と上流側送信スイッチ132aが接続されることにより、超音波送信部126からの超音波入力信号は上流側トランスデューサ110aに送信される。これにより、上流側トランスデューサ110aが超音波を送信する側のトランスデューサとして機能する(上流側トランスデューサ110aから超音波が発振される)。一方、切換部130において、超音波送信部126と下流側送信スイッチ132bが接続されることにより、超音波送信部126からの超音波入力信号が下流側トランスデューサ110bに送信される。これにより、下流側トランスデューサ110bが超音波を送信する側のトランスデューサとして機能する(下流側トランスデューサ110bから超音波が発振される)。
【0024】
また切換部130において、超音波受信部128と上流側受信スイッチ134aが接続されることにより、上流側トランスデューサ110aにおいて受信された超音波または反射波の受信信号が超音波受信部128に送信される(上流側トランスデューサ110aが受信側のトランスデューサとして機能する)。一方、切換部130において、超音波受信部128と下流側受信スイッチ134bが接続されることにより、下流側トランスデューサ110bにおいて受信された超音波または反射波の受信信号が超音波受信部128に送信される(下流側トランスデューサ110bが受信側のトランスデューサとして機能する)。
【0025】
超音波流量計100によって流体の流量および流速を測定する際には、まず制御部122は、切換部130のスイッチング(スイッチの切換)を制御し、超音波送信部126と上流側送信スイッチ132a、超音波受信部128と下流側受信スイッチ134bを接続する。これにより、上流側送信スイッチ132aおよび下流側受信スイッチ134bがONの状態となり、上流側トランスデューサ110aが送信側トランスデューサとして、下流側トランスデューサ110bが受信側トランスデューサとして機能する。
【0026】
そして、制御部122は、超音波送信部126によって上流側トランスデューサ110aに超音波入力信号を送信することにより上流側トランスデューサ110aから超音波を出力する。その後、制御部122は、配管102内の流体を通過して下流側トランスデューサ110bで受信された超音波の受信信号を超音波受信部128において増幅およびA/D変換することにより、上流から下流へ伝搬した超音波の伝搬時間tuを算出する。
【0027】
上流から下流へ伝搬した超音波の伝搬時間tuを算出したら、制御部122は切換部130を制御し、スイッチの切換を行う。具体的には、制御部122は、超音波送信部126と下流側送信スイッチ132b、超音波受信部128と上流側受信スイッチ134aを接続する。これにより、下流側送信スイッチ132bおよび上流側受信スイッチ134aがONの状態となり、下流側トランスデューサ110bが送信側トランスデューサとして、上流側トランスデューサ110aが受信側トランスデューサとして機能する。
【0028】
続いて制御部122は、超音波送信部126によって下流側トランスデューサ110bに超音波入力信号を送信することにより下流側トランスデューサ110bから超音波を出力する。そして、制御部122は、配管102内の流体を通過して上流側トランスデューサ110aで受信された超音波の受信信号を超音波受信部128において増幅およびA/D変換することにより、下流から上流へ伝搬した超音波の伝搬時間tdを算出する。
【0029】
伝搬時間tuおよび伝搬時間tdのデータを取得したら、制御部122は、演算部124において、伝搬時間tuから伝搬時間tdを減算して伝搬時間差Δtを算出し、かかる伝搬時間差Δtを用いて流体の流速および流量を演算する。すなわち本実施形態の超音波流量計100は、2つのトランスデューサ(上流側トランスデューサ110a・下流側トランスデューサ110b)を用いて超音波の送信と受信を交互に切り換えることにより伝搬時間差にもとづいて流速を算出する透過式の超音波流量計である。そして、制御部122は、切換部130を切り替えて上流側トランスデューサ110aと下流側トランスデューサ110bで交互に超音波の送信と受信を行うことにより伝搬時間差にもとづいて流速を算出している。
【0030】
ここで、流速Vを求める際には、管材、ライニング材、接続ケーブルなどの伝搬時間τが必要となるが、管材およびライニング材の伝搬時間τはあらかじめわかっているため、超音波流量計100に設定可能である。しかし、接続ケーブル114a・114bの伝搬時間τは現場において使用されるケーブル長によって異なる。そこで本実施形態では、現場においてケーブル長を実測することなく接続ケーブル114a・114bの伝搬時間τを設定可能とする。
【0031】
図2は、本実施形態の超音波流量計100における接続ケーブルの伝搬時間τの測定を説明する図である。なお、図2では、接続ケーブル114aの伝搬時間τを測定する場合を例示して説明する。接続ケーブル114aにおける信号の伝搬時間τを測定する際には、まず制御部122は、切換部130において、超音波送信部126と上流側送信スイッチ132a、超音波受信部128と上流側受信スイッチ134aを接続する。すなわち、制御部122は、図2(a)に示すように、伝搬時間τを測定する接続ケーブル114aが接続されている上流側トランスデューサ110aに、超音波送信部126および超音波受信部128の両方を接続する。
【0032】
続いて制御部122は、超音波送信部126に測定開始信号を送信し、それを受け、超音波送信部126はパルス信号を発振する。かかるパルス信号は、例えば50nsec程度幅の1パルス(10MHz程度相当の矩形波)とすることができる。発振されたパルス信号は、接続ケーブル114aを通り、上流側トランスデューサ110aに到達する。
【0033】
ここで、トランスデューサ(上流側トランスデューサ110a)は圧電素子112を含んで構成され、回路的には単なる容量(一般に数nF程度)と等価であり、かかるトランスデューサと超音波送信部126や超音波受信部128を接続する接続ケーブル114aには、一般に同軸ケーブル(例えばインピーダンス50Ω)が使用される。このため、接続ケーブル114aの上流側トランスデューサ110aを接続されている箇所、すなわち接続ケーブル114aのトランスデューサ側の終端はインピーダンスが不整合状態となっている。
【0034】
上記のように接続ケーブル114aのトランスデューサ側の終端がインピーダンス不整合状態であることにより、超音波送信部126から発振されたパルス信号はトランスデューサ側の終端において反射し、反射信号が生じる。制御部122は、この反射信号を超音波受信部128において受信する。そして、制御部122は、演算部124において、パルス信号の発振時間と反射信号の受信時間とを用いて接続ケーブル114aにおける信号の伝播時間を算出する。
【0035】
図2(b)は、超音波受信部128において受信した信号の波形を模式的に例示している。超音波送信部126から発振されたパルス信号は、接続ケーブル114aを通じて上流側トランスデューサ110aに向かうだけでなく、図2(b)に示すように超音波受信部128においても受信される。この超音波受信部128において受信されたパルス信号の起点を発振時間としてもよい。また制御部122は、超音波送信部126に測定開始信号を送信する際に、かかる測定開始信号を超音波受信部128にも送信し、超音波受信部128が測定開始信号を受信した時間を発振時間としてもよい。ただし、この場合、伝搬時間τの算出において、超音波送信部126が測定開始信号を受信してから超音波を発振するまでの回路的な遅延時間を考慮する必要がある。
【0036】
図3は、超音波受信部128において受信した信号の波形を例示する図である。上述したように、接続ケーブル114aの終端で反射した反射信号は超音波受信部128で受信され、増幅およびAD変換される。このとき、超音波受信部128のサンプリング周波数が例えば50MHzであると、サンプリング間隔は20nsecとなる。
【0037】
図3(a)では、20nsec間隔で6タイミング(A〜F)サンプリングした場合の測定点a〜fを図示している。また超音波受信部128が実際に反射信号が到達したタイミングを受信点xとしている。測定点a〜fのうち、測定点bを立ち上がり伝搬時間と判断してしまうと、実際の受信点xとの誤差が生じる。すなわち、サンプリング周波数が例えば50MHzであると、最大20nsecの誤差が生じる可能性がある。これを長さに変換すると、例えば接続ケーブル114aが変換係数5nsec/mの同軸ケーブルであった場合、4m程度の誤差が生じてしまう。
【0038】
上述した誤差を低減するためには、反射信号の受信時間の推定を行うことが好ましい。ここで、接続ケーブル114aの負荷と上流側トランスデューサ110aの圧電素子112は基本的に容量負荷であるため、電圧波形形状は、図3(a)に破線にて示すような一般的なCR波形となる。したがって、図3(a)の測定点a〜cのように3点程度を測定すれば、三角近似により実際の反射信号の受信点xを推定することができる。この推定方法によれば、サンプリング周波数の半分、すなわち10nsec程度まで誤差を低減することができる。
【0039】
図3(b)および図3(c)は、接続ケーブル114aの伝搬時間τの測定範囲について説明する図であり、一般的な50Ω同軸ケーブルの場合の信号の受信波形を例示している。50Ω同軸ケーブルでは、伝搬時間は1mあたりおおよそ5nsec/mであり、ケーブル長が例えば10mの場合、ケーブルの往復の伝搬時間は100nsecとなる。このような場合、図3(b)に示すように、超音波受信部128では、超音波送信部126から発振されたパルス信号(50nsec)と、ケーブルの終端で反射した反射信号の受信波形(受信タイミング)は重ならない。したがって、反射信号の受信時間を推定することができ、伝搬時間τを算出することが可能である。
【0040】
一方、ケーブル長が短くなると、反射信号の受信タイミングも当然にして早くなるため、図3(c)に示すように、パルス信号および反射信号の受信波形は重なってしまう。すると、反射信号の受信時間を推定することができず、伝搬時間τを算出することができなくなってしまう。これらのことから、一般的な50Ω同軸ケーブルであれば、実用的には、ケーブル長が10m以上の場合に伝搬時間τを算出可能であることがわかる。なお、実際には、超音波流量計の接続ケーブルは10m以下であることはほぼないため、大部分の現場において伝搬時間τを算出することができると考えられる。
【0041】
上記説明したように、本実施形態の超音波流量計100によれば、超音波送信部126から発振されるパルス信号の発振時間、およびパルス信号が接続ケーブル114aの終端で反射した反射信号の受信時間を測定することにより、ケーブル長の実測を行うことなく、接続ケーブル114aにおける信号の伝搬時間を容易に算出することができる。したがって、伝搬時間の算出を自動化することができ、現場における伝搬時間測定作業が不要となるため、作業効率の向上を図ることが可能となる。またケーブル長により伝搬時間τを設定していたときのような設定ミスを防止することも可能である。
【0042】
更に、実際に使用される接続ケーブルを用いてその伝搬時間を算出するため、ケーブルの種類や経年劣化による影響が除外された、すなわち現場に即した精度の高い接続ケーブルの伝搬時間τを得ることが可能である。また装置に対する部品の追加が必要ないため、コストの増大を招くことがない。なお、上記説明した実施形態では、接続ケーブル114aにおける伝搬時間τを測定する場合を例示したが、接続ケーブル114bの伝搬時間τを測定する際には、切換部130において、超音波送信部126と下流側送信スイッチ132b、超音波受信部128と下流側受信スイッチ134bを接続し、上記と同様の処理を行えばよい。
【0043】
(他の実施形態)
図4は、超音波流量計100の他の実施形態を説明する図であり、上記説明した超音波流量計100と重複する構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。図4に示す超音波流量計100aは、透過・反射型超音波流量計であり、2つの超音波送信部および2つの超音波受信部を備えている。図4に示す超音波流量計100aでは、第1超音波送信部126aおよび第1超音波受信部128aが同一の信号ライン上にあり、第2超音波送信部126bおよび第2超音波受信部128bも同一の信号ライン上にある。したがって、超音波流量計100aによれば、切換部130のスイッチング処理を行うことなく、接続ケーブル114a・114bの伝搬時間τを測定することが可能である。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、管路内を流れる流体の流量を超音波を用いて測定する超音波流量計に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
100…超音波流量計、100a…超音波流量計、102…管路、110a…上流側トランスデューサ、110b…下流側トランスデューサ、112…圧電素子、114a…接続ケーブル、114b…接続ケーブル、120…変換器、122…制御部、124…演算部、126…超音波送信部、126a…第1超音波送信部、126b…第2超音波送信部、128…超音波受信部、128a…第1超音波受信部、128b…第2超音波受信部、130…切換部、132a…上流側送信スイッチ、132b…下流側送信スイッチ、134a…上流側受信スイッチ、134b…下流側受信スイッチ
図1
図2
図3
図4